Coolier - 新生・東方創想話

愛さえあれば、LOVE IS OK!?(中編)

2005/12/28 17:01:40
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 さて、ここは地獄の一丁目、紅魔館の厨房。三人の料理は着々と完成に向かっているようだ。

「オムレツって……卵で作るのよね。どうやって作るんだっけ……?」

 どうやら、アリスはオムレツの作り方を知らないようである。が、何を思ったか、でかい鍋を用意し、その中に大量の油を注ぎこむ。何をする気かと思いきや、なんと火にかけた油入りの鍋の中にかき混ぜた卵を投入しだしたではないか!!まさか、オムレツは卵を揚げて作るとでも思ったのか!?

「あちっ、あちっ、もうっ、油が服についちゃうじゃない」

 当然である。煮えた油に卵をぶち込んで、油が跳ねないとでも思ったのであろうか?おっかなびっくり、アリスは油に浮いた卵をすくっていく。無論ぐちゃぐちゃ。それを体裁よく整え、見た目はとりあえず、オムレツっぽく仕上げた。スープも頃合いよく煮え、皿に盛り付けるが、コンソメスープ特有の色合いではなく、真っ黒。

「よしっ、完璧だわ」

 満足げに料理を見るアリス。やり遂げた、と言う会心の笑みを浮かべる。



 一方。

「あれー、何よ、これ?スープがなくなっちゃった」

 ようやくスープを盛り付けようと、鍋のふたを開けたフランドールが言った第一声。いや、だから自業自得だっつーの。

「しょうがないなあ、まだ水を入れればいいか」

 水差しの水を投入するフランドール。鍋の中はこげが浮いて、得体の知れない何かが誕生しようとしている。そして、その中に、生の野菜を目いっぱい投入。にんじん、キャベツ、たまねぎ、その他もろもろどばどば。それを相変わらず最高火力で煮詰める。しかも、彼女はどこで止めるかの加減を知らないものだから、また、鍋の中は真っ黒こげ。エンドレス。

「あー、もう!いいや、適当に水入れて、野菜入れればスープでしょ?」

 ついにかんしゃくを起こしてスープ作りを放棄した。水を焦げ焦げの鍋に足し、切った生の野菜を適当に放り込んで完成……って本気ですか!?

「あ、そうだ、味付けしなくちゃいけないんだっけ。えーと、塩はこれかな?」

 フランが手にしたのは、塩ではなく、パンなどを膨らませるときに使うベーキングパウダーである。
 知ってる人は知ってるかもしれないが、これをうかつに料理の中にぶち込むとどうなるか……



「アリスも妹様も、どうやらわたしの敵ではなかったようね。ふふふ」

 パチュリーのほうはと言うと、スープになにやら液体を入れている。ツーンと来る特有の刺激臭。そう、お酢である。

「ふふふ、魔理沙の健康管理にまで気を使わないと、パートナーとしてはふさわしくないわよね」

 スープはますます異臭を放ち、危険極まりない状態となりつつある。ちなみに彼女、スープに具を入れてません。
 オムレツも火加減が弱すぎるせいで、半熟と言うより、ちょっと固まった生卵という状態である。

「これで魔理沙のハートはわたしのものね、うふ、うふふふふふふふふふふふふ」



「できたわ!」
「できたー!!」
「できたわよ」
「できちまったか……」

 三人の声が唱和する。魔理沙は覚悟を決める。運命のときがやってきたのだ。



「そ、それじゃ、順番に試食といこうか。さ、最初は誰からだ?」
「…………」
「ふっ、トップは譲ってあげるわ」
「ほえ面かくんじゃないわよ……」

 前に進み出たのはアリス。自分なりに一生懸命作った初めての料理をテーブルに並べる。

「うわー……」
「な、何これ……」

 ぐずぐずに崩れたオムレツと、真っ黒のスープ。
 妹紅と幽々子は露骨にいやそうな顔をする。ほんとは魔理沙も声を出して引きかけたが、さすがにそれはひどいだろうと思いとどまった。しゅんとなるアリス。

「ま、まあ、見た目はともかく、味はいいかもしれないじゃないか」
「そ、そうね、じゃ、じゃあ、わたしが一口……」
(勇気あるぜ、幽々子……)

 心の中で拍手する魔理沙。幽々子はスプーンを手に取り、まずはオムレツを一気に口に!

「…………」
「ど、どうだ、うまいか?」

 幽々子の顔が見る見る変わっていく。額に汗がにじみ、髪が張り付く。目にはうっすらと涙さえ浮かんでる。妹紅がその様子を見ながら、味を想像して気分が悪くなっていく。どれほど長い間そうしていただろう。幽々子は、ごくり、と喉を鳴らした。用意された水をひったくり、普段のおっとりした雰囲気から想像できないくらい、ぐいっ、と一気にコップの水を飲み干す。

「はー、はー、はあー……」
「ど、どうだ……」
「どうだもこうだもないわよ……」

 恨みがましい声で幽々子がつぶやく。

「脂っこくて、食感が気持ち悪くて。飲み込むのも一苦労だったわよ……」
「あ、味はどうだった……?」
「言わせる気?」
「い、いや、なんとなくわかったからいい……」
「ふ、ふん、所詮、大食いの幽霊には、味なんてわからないのよ」
「なんですって……?」
「じゃあ、次はわたしがいくわよ……」
「お、おお、がんばれよ」
「いざ!!」

 ぱくり。

「うぐっ……」

 妹紅の体が震える。顔色真っ青。口を必死に抑えて出さないように、出さないようにこらえてる。ばたばた足を動かして、少しでも味をごまかそうとしている。

「む、無理か?」
「んーっ、んんーっ!!」

 やがて。
 妹紅は顎をしゃくりあげる。どうやら、我慢して飲み込んだようだ。深呼吸して少しの口の中に残るきつい後味を忘れようとする。

「なんなのよ、これ……」
「そ、そんなにすごいのか……?」
「すごいなんてもんじゃないわよ。何でオムレツがこんなに油ギトギトなのよ……ありえないわよ、こんなこと……」
「すごいでしょ、これ……」
「う、うん、ほんとものすごい味がする……」
「ちょっと、はっきりしないわね。味はどうなのよ?」
「わかったよ……そんなに聞きたいならはっきり言ってやるよ」
「じゃあ、いっせーのでいくわよ。いっせーの……」
『まずい!!』

 二人の罵倒が見事に重なった。

「嘘!そんなはずないわ!魔理沙ならきっと全部食べてくれるわよ!!」
「え……?」
「そーねえ、やっぱり、主催者の魔理沙が、お手本を見せてくれないとねえ……」

 魔理沙は全部食べてくれるよね、涙目で訴えるアリス。
 ここぞとばかりに、妹紅が冷たい視線を向ける。幽々子も白い目でにらむ。にらまれ、涙目で見つめられ、魔理沙は改めて覚悟をきめる。深呼吸する。一回、二回、三回。

「よし、見てろよ、い、一気に行くぜ」
「いいわ、見ててあげるから」

 魔理沙は皿を持ち、口の中にオムレツを滑り込ませる!

「…………」

 口中で油の匂いが漂う。卵の甘み、旨みが全部飛んでるのがよくわかる。下の上に載った卵の食感は、まるで口の中でナメクジが這い回る感じ。胃がぎゅっと縮まる。喉がきゅっと閉まって、全力で飲み込むことを拒否している。魔理沙は脳に飲み込め、と指令を送る。全力で拒む身体と、精神の戦い。そう、これはまさに己との戦いである。強く飲み込めと念じて、喉をこじ開ける。胃袋を開く。飲み込んだ。
 気が抜けて、ちょっと意識が遠くなった。

(す、すごいわ……!)
(お、漢らしい、負けたわ……)

 幽々子と妹紅は心の中で賞賛を送った。ちょっと感動で目が潤んでる。

「ど、どうだった……?」

 ちょっと潤んだ目で味を聞くアリス。やっぱり涙を浮かべた顔で、魔理沙は慎重に言葉を選んで……

「ど、努力は認めるぜ……こ、今度はがんばれよ」
(すごい、悲しませないように言葉を選んでる!!)
(褒め称えるところがどこにもないこの料理を、認めてる!)

 幽々子と妹紅は、感動の拍手を送った。

「じゃ、じゃあ、まだスープが残ってるから、スープも飲んで!」
(忘れてたー!!)

 三人の悪夢、再び。

「こ、ここは、誰が行くべきだろうか……」
「隊長、自分が行って参ります!」

 敬礼ポーズをとって宣言する妹紅。

「も、妹紅、いいのか!?」
「ふ、食うも地獄、食わぬも地獄、どうせ死ぬなら前のめりに死にたいわ」
「お、漢だぜ、妹紅!」
「よして、貴方の漢気に感服したまでのことよ!!」
「もこたああああああああああああああん!!」
「まりさあああああああああああああああ!!」

 がしいっ。
 二人は抱きしめあい、内にちょっと芽生えた何かを確かめ合った。

「じゃ、いただきまーす」

 ずずず……

 びくん、びくん。
 妹紅の身体が痙攣する。首を横に振って、これは飲み込めないと必死のアピール。見かねた咲夜が、妹紅の肩を抱いて食堂外へと連れ出していった。おそらく口の中のものを吐き出せる場所、近場のトイレへ案内していったに違いない。
 戻ってきた妹紅は口を手でぬぐい、咲夜が用意してくれた水を一気飲みする。

「ちょ、ちょっと、いくらなんでもひどすぎだと思うわよ!」
「ひどいもんか……」
「ど、どんな味が飛び出して来るんだよ……?」
「あのね、まず、甘いのよ。かと思ったらなんか土臭くて、スープなのになんか、口の中がぬるぬるして気持ち悪くって、もう、胃酸が喉まで上ってきたもの……」
「うわー……」
「しかも、変にコクがあるから、なおさら性質が悪いわよ……」

 妹紅の表現は、試食メンバー二人だけでなく、咲夜や、フラン、パチュリーも引かせていた。

「嘘よ、そんなの!!ねえ、魔理沙!?」
「よ、よし、じゃあ、わたしも行ってみるぜ。骨は拾ってくれよ……」
「気をつけてよ、本当にすごいから」
「い、いくぜ、突貫!!」

 ずるる……

「~~~~~~~~~~~~!!」

 首をシェイクシェイク。七転八倒。あらゆる表現方法でまずさを表現する。もう、なりふり構っていられない。起き上がった魔理沙は全速力で近場のトイレに直行する。勝手知ったるなんとやら。最短距離でトイレへ向かう。さすがにその様子はショックだったのか、アリスはがっくりと肩を落としていた。
 戻ってきた魔理沙に、なじるような視線を向ける。

「ひどい、ひどいよお……」
「すまん、これは無理だった……」
「ね、ね、すごいでしょ?」
「いや、ほんとやばいぜ、これ……お前の言うとおり、甘くて、土臭くて、ぬるぬるで……しかも野菜がでかすぎて煮えてないし。とにかく、これは飲んじゃいけないと脳内で警告が出るんだよ!!」
「せっかく、魔理沙のために作ったのに……」
「いや、愛を込めて作ったのはわかるがな、無理なものは無理だぜ……」

 うんうん、妹紅が頷く。

「そんな……」
「そんなに言うなら、一口飲んでみたら?そうすれば、はっきりするかもしれないわよ」

 パチュリーが意地悪そうに言う。

「ふ、ふん、言われなくてもそうしてやるわよ!!何よ、これくらい……」
「お、おい、よせ!」

 アリスがスープをすくう。必死で止める魔理沙だが、一足遅く、アリスは口にスープを含んだ。

「…………!!」

 アリスは口を押さえ、食堂から消えていった。やっぱりな、と見守る妹紅と魔理沙。ざまあみろ、と言う顔のパチュリー。
 戻ってきたアリスは土気色な顔色をしていた。

「ごめん、こんなはずじゃなかったのに……」
「ま、まあ、今回が駄目でも、次に成功すればいいんだからな」
「うん、うん、ありがとう、魔理沙……」
「ふ、ふん、今回は譲ってあげるわよ……」

 いい感じの二人を見てパチュリーはむくれる。ちょっと置いてけぼりにされてる試食組。

「ねえ、アリスの試食は終わったんでしょ?次はわたしの料理でいいかな?」

 フランが、あの焦げだらけの料理を差し出す。青くなる三人。そう、まだ一人目の試食が終わっただけ。彼女たちの地獄の試食はまだまだ続くのだ……

ごめんなさい、前編後編の予定でしたが、予想以上に長くなってしまって、間にもう一編挟むことになりました。
文章での料理の味の表現はどうでしたか?あんまり描写が上手くないので、ひょっとしたら伝わりきってないかもしれませんが、少しでも彼女たちの料理のすさまじさが窺えたら嬉しいです。
後編は残り二人の試食から始まりますが、三人の身体は持つんかいな、これ……
奈々氏の妖怪
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コメント



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10.80削除
誤字>そう、まだ独り目の試食が終わっただけ。

不味い料理を作る上で一番大切な「決して味見をしてはならない」を3人ともしっかり守っているようですね。先生嬉しいです。先生ってなんだ。
味の表現は、これ以上無いって程に。想像して気分悪くなったのは秘密。
生きてないのと死なないのは精神が折れなければ大丈夫。きっと。不死殺しのハルペーみたいな料理が出なければ。
魔理沙は・・・冥界に行ってしまった魔理沙を以下略って魔理沙スレでやるのはどうで(ドラゴンメテオ
12.70名前が無い程度の能力削除
最初はこんな物ですよ、きっと。。
いずれはうまく作れる、頑張れ!
他の料理もある意味楽しみです♪