燦燦と陽光が幻想の地に降り注ぐ様な、思わず妖精も浮かれ出す様な天気のいいある日。
フランドールは、今日も暗い地下室で一人蹲っていた。
ここ―――紅魔館の地下は、一辺の陽光さえ入らない、陰鬱とした場所であった。
そんな暗い冥い場所で何をする訳でもなく蹲り、じっとしているフランドール。
彼女は退屈していた。お姉様のレミリアに言えばメイドを遊び道具として寄越すだろうが、もうそのメイドで遊ぶのにも飽きてしまった。
紅白の巫女や黒白の魔法使いが遊びに来てくれた時は楽しかったが、彼女達もずーっと居てくれる訳ではない。
自分から会いに行こうと館から出ようとすれば、パチュリーに全力で止められる。
パチュリーとの本気の弾幕ごっこは楽しいが、それが終わった後のパチュリーの喘息でぜえぜえと非常に辛そう(そして死にそう)な様子を見るのも忍びない。
と、言う訳で何もする事がなく、こんな場所(とは言っても495年間ずーっとここで育ってきたのだが)で否応為しにじっとしているのだ。
何を考える訳でもなく、じっと―――。
「ははぁ、こんな陰気な場所にずっと居ればそりゃ気も触れるよねぇ。って、生まれつきだっけ?」
ふと、誰も入って来れないはずの場所に突然声がする。
フランドールはばっと飛び起き、右手に魔力を集め…炎の剣レーヴァテインを作り出すと、そのまま声のした方へと振り下ろす。
が、声の主はにやりと笑ってそれを両手で受け止めると…
「―――はっ!」
…何と気合一閃、掻き消してしまった。
「突然攻撃とは穏やかじゃないね。閉じ込められてるから元気があり余ってるのかな?」
声の主はそう言ってにっ、と笑う。
「…貴方、誰?今のは何?ここにどうやって入ってきたの?」
「私?私は伊吹萃香。鬼よ。今のも、ここに入ってくるのにも私の能力をちょーっと使っただけよ。(受け止めたのは身体一つでだけど)」
「そう…で、何をしに来たの?遊んでくれるのかしら?」
「そうね…あんたと遊ぶのも悪くはないけど、あんたにお外を見せに来たの。」
「私に…外を?どうして?」
そうフランドールが問い掛けると萃香はまたも笑って
「…こんな所にずーっと閉じ込められてるのを見て、ちょっと可哀想になってね」
と答えた。続けて彼女はこう言う。
「私の能力を出せばあんたのお姉様にも、五月蝿いメイドにも本の虫にも見つからずに外に行けるよ。どうする?」
「…いいわ。貴方には些か色々な疑問が残るけど、連れてって頂戴、お外に。」
そうフランドールが答えた瞬間、彼女の身体は霧に包まれ―――。
気が付けばあの地下室とは違う、草の生い茂る木の陰に居た。
「…ここが、お外…?」
木の陰の外に手を伸ばしてみると…
「――痛ッ」
じゅっと手が陽光に焼かれ、痛みが走る。
「ああこらこら、無闇やたらにお日様に当たるんじゃない。あんたは吸血鬼なんだから。」
そう声を掛けられ、振り向くと萃香が立っていた。
「お日…様…?」
「そう。お日様。あんたの天敵ね」
「これが…お日様…。」
呟き、自らの手をじっと見つめるフランドール。先程焼かれた部分はもう治っていた。
「さ、こんな所でじっとしててもつまらないよ。もっと色々な所を見に行こう。」
そう言うと萃香はフランドールに日傘を手渡す。
「…うん!」
それを受け取るとフランドールは笑顔で、そう答えた。
それから二人は様々な場所を見て周った。
神社に行って、お茶を飲んでいる紅白の巫女を見たり。(こっちをふと見た巫女は何故かとても吃驚しお茶を噴出していたが)
魔法の森に行って、人形師の家に勝手に入り、勝手にくつろいで、勝手に物を持っていく黒白の魔を見たり。(人形師は口の上では怒っていたが、何故か満更でもない様子だった)
湖に行って、無邪気に飛び回る氷精に喧嘩を売られてみたり。(もちろん返り討ちにした)
雲の上では、非常に心地の良い演奏も聴けた。(弾幕を避けながらの大変忙しない物だったが)
結界を抜けた妙に長い階段が続く場所では、焼きたてのお菓子を庭師からご馳走になった。
次に行った竹林では少し迷ってしまったが、萃香が何処かの兎を捕まえて少し脅すと何故か道があっという間に開けた。
その先にあった館では妙な眼をした兎に会ったり、ぐにょぐにょ曲がる廊下があったり(心なしか自分が曲がっていた気がする)
銀髪の女の人に薬をもらったりした。
そうしてあちこち巡っている内に日は落ち…月が見える時刻になっていた。
最後に萃香が連れてきてくれた場所は、良く月が見える秘境だった。
「…わあ…。」
満遍なく幻想の地を照らす月を見て、フランドールは思わず声を洩らす。
「どうかしら?お日様もいいけど…ってあんたにとっちゃ良くないか…。とにかく、月もいいモンでしょ?」
「ええ、凄く綺麗…。」
フランドールが月に見惚れている間に、萃香は何処からか杯を取り出し、瓢箪から酒を注ぐ。
「…何それ、お酒?」
「おや、お酒は知ってるの?」
「ええ、うちでも良くワインが出るもの。」
「あんたの家のワインはお酒とはちょーっと違う様な気がするなぁ…。」
そう言うと萃香はフランドールに杯を渡す。
「…さ、飲んでみ?ここで月を見ながら飲む酒は格別だよ。」
杯を手渡されこくっ、と一口飲むフランドール。
「うちのワインとはまた違った美味しさね。」
「それは気に入ってもらえたって事でいいのかな?幾らでも出てくるからガンガン飲んでいいわよ。」
そう告げると萃香はもう一つ杯を取り出し、酒を注いで飲み始めた。
―――月見酒を楽しみ始めて、幾許かの時が立った頃。
「…ねえ、萃香?」
酒を飲み干し、萃香の方に向き直るフランドール。
「…ん?」
「外って、とっても楽しいのね…。」
「―――ああ。そして、誰かと一緒に飲む酒もとてもいい物でしょう?」
そう萃香が問い掛けると、フランドールはにっこりと微笑んだ。
その後、また少しだけ月見酒を楽しんだ後に紅魔館の近くに帰ってきた。
「さて、そろそろいい子はお家に帰らなきゃね。今日一日…楽しかったかしら?」
「楽しかったわ。…有難う。」
「お安い御用よ。またいつか…こっそり連れ出してあげるわ。勿論お姉様には内緒でね。」
それを聞いてフランドールは少しだけ頬を赤らめながらこう言った。
「…ねえ萃香、お酒も…また一緒に飲もうね。」
それを聞いた萃香は満面の笑みを浮かべ
「ええ、勿論よ!」
と、答えた。そして、またフランドールの身体が霧に包まれ―――。
気が付けば、あの薄暗い地下室に居た。
「…あ、一つ大事な事を聞き忘れていたわ。」
何かに気が付いたのかの様に一人で呟くフランドール。
私をお外に連れ出した本当の理由―――。それを聞くのを、忘れてしまっていた。
が、そんな繊細な事はすぐにどうでもよくなった。
きっと彼女は…一緒に酒を飲む相手が欲しかっただけなのだろう。
外に出ての何よりの収穫は、この薄暗い陰鬱とした地下室がどういう訳か…少し明るく見える様になった事だ。
フランドールは、笑顔を浮かべてベッドに転がると目を閉じて今日の色々な出来事を思い返し始めた。
―――キィ、とドアの開く音がする。
誰かがかつ、かつと足音を立てながら部屋に入ってくる。
「…フラン、いい子にしてたかしら?」
この館の主かつ、フランドールの姉のレミリアだった。
不意に足がベッドの前で止まる。
「―――あら。」
ベッドの上で寝息をすぅすぅと立てるフランドールを見て、レミリアはくすっと微笑む。
「寝てしまっていたのね…それにしても…」
フランドールの寝顔を見て、レミリアはこう呟いた。
「…何か、いい事でもあったのかしら?天使の様な寝顔だわ…。」
フランドールは、今日も暗い地下室で一人蹲っていた。
ここ―――紅魔館の地下は、一辺の陽光さえ入らない、陰鬱とした場所であった。
そんな暗い冥い場所で何をする訳でもなく蹲り、じっとしているフランドール。
彼女は退屈していた。お姉様のレミリアに言えばメイドを遊び道具として寄越すだろうが、もうそのメイドで遊ぶのにも飽きてしまった。
紅白の巫女や黒白の魔法使いが遊びに来てくれた時は楽しかったが、彼女達もずーっと居てくれる訳ではない。
自分から会いに行こうと館から出ようとすれば、パチュリーに全力で止められる。
パチュリーとの本気の弾幕ごっこは楽しいが、それが終わった後のパチュリーの喘息でぜえぜえと非常に辛そう(そして死にそう)な様子を見るのも忍びない。
と、言う訳で何もする事がなく、こんな場所(とは言っても495年間ずーっとここで育ってきたのだが)で否応為しにじっとしているのだ。
何を考える訳でもなく、じっと―――。
「ははぁ、こんな陰気な場所にずっと居ればそりゃ気も触れるよねぇ。って、生まれつきだっけ?」
ふと、誰も入って来れないはずの場所に突然声がする。
フランドールはばっと飛び起き、右手に魔力を集め…炎の剣レーヴァテインを作り出すと、そのまま声のした方へと振り下ろす。
が、声の主はにやりと笑ってそれを両手で受け止めると…
「―――はっ!」
…何と気合一閃、掻き消してしまった。
「突然攻撃とは穏やかじゃないね。閉じ込められてるから元気があり余ってるのかな?」
声の主はそう言ってにっ、と笑う。
「…貴方、誰?今のは何?ここにどうやって入ってきたの?」
「私?私は伊吹萃香。鬼よ。今のも、ここに入ってくるのにも私の能力をちょーっと使っただけよ。(受け止めたのは身体一つでだけど)」
「そう…で、何をしに来たの?遊んでくれるのかしら?」
「そうね…あんたと遊ぶのも悪くはないけど、あんたにお外を見せに来たの。」
「私に…外を?どうして?」
そうフランドールが問い掛けると萃香はまたも笑って
「…こんな所にずーっと閉じ込められてるのを見て、ちょっと可哀想になってね」
と答えた。続けて彼女はこう言う。
「私の能力を出せばあんたのお姉様にも、五月蝿いメイドにも本の虫にも見つからずに外に行けるよ。どうする?」
「…いいわ。貴方には些か色々な疑問が残るけど、連れてって頂戴、お外に。」
そうフランドールが答えた瞬間、彼女の身体は霧に包まれ―――。
気が付けばあの地下室とは違う、草の生い茂る木の陰に居た。
「…ここが、お外…?」
木の陰の外に手を伸ばしてみると…
「――痛ッ」
じゅっと手が陽光に焼かれ、痛みが走る。
「ああこらこら、無闇やたらにお日様に当たるんじゃない。あんたは吸血鬼なんだから。」
そう声を掛けられ、振り向くと萃香が立っていた。
「お日…様…?」
「そう。お日様。あんたの天敵ね」
「これが…お日様…。」
呟き、自らの手をじっと見つめるフランドール。先程焼かれた部分はもう治っていた。
「さ、こんな所でじっとしててもつまらないよ。もっと色々な所を見に行こう。」
そう言うと萃香はフランドールに日傘を手渡す。
「…うん!」
それを受け取るとフランドールは笑顔で、そう答えた。
それから二人は様々な場所を見て周った。
神社に行って、お茶を飲んでいる紅白の巫女を見たり。(こっちをふと見た巫女は何故かとても吃驚しお茶を噴出していたが)
魔法の森に行って、人形師の家に勝手に入り、勝手にくつろいで、勝手に物を持っていく黒白の魔を見たり。(人形師は口の上では怒っていたが、何故か満更でもない様子だった)
湖に行って、無邪気に飛び回る氷精に喧嘩を売られてみたり。(もちろん返り討ちにした)
雲の上では、非常に心地の良い演奏も聴けた。(弾幕を避けながらの大変忙しない物だったが)
結界を抜けた妙に長い階段が続く場所では、焼きたてのお菓子を庭師からご馳走になった。
次に行った竹林では少し迷ってしまったが、萃香が何処かの兎を捕まえて少し脅すと何故か道があっという間に開けた。
その先にあった館では妙な眼をした兎に会ったり、ぐにょぐにょ曲がる廊下があったり(心なしか自分が曲がっていた気がする)
銀髪の女の人に薬をもらったりした。
そうしてあちこち巡っている内に日は落ち…月が見える時刻になっていた。
最後に萃香が連れてきてくれた場所は、良く月が見える秘境だった。
「…わあ…。」
満遍なく幻想の地を照らす月を見て、フランドールは思わず声を洩らす。
「どうかしら?お日様もいいけど…ってあんたにとっちゃ良くないか…。とにかく、月もいいモンでしょ?」
「ええ、凄く綺麗…。」
フランドールが月に見惚れている間に、萃香は何処からか杯を取り出し、瓢箪から酒を注ぐ。
「…何それ、お酒?」
「おや、お酒は知ってるの?」
「ええ、うちでも良くワインが出るもの。」
「あんたの家のワインはお酒とはちょーっと違う様な気がするなぁ…。」
そう言うと萃香はフランドールに杯を渡す。
「…さ、飲んでみ?ここで月を見ながら飲む酒は格別だよ。」
杯を手渡されこくっ、と一口飲むフランドール。
「うちのワインとはまた違った美味しさね。」
「それは気に入ってもらえたって事でいいのかな?幾らでも出てくるからガンガン飲んでいいわよ。」
そう告げると萃香はもう一つ杯を取り出し、酒を注いで飲み始めた。
―――月見酒を楽しみ始めて、幾許かの時が立った頃。
「…ねえ、萃香?」
酒を飲み干し、萃香の方に向き直るフランドール。
「…ん?」
「外って、とっても楽しいのね…。」
「―――ああ。そして、誰かと一緒に飲む酒もとてもいい物でしょう?」
そう萃香が問い掛けると、フランドールはにっこりと微笑んだ。
その後、また少しだけ月見酒を楽しんだ後に紅魔館の近くに帰ってきた。
「さて、そろそろいい子はお家に帰らなきゃね。今日一日…楽しかったかしら?」
「楽しかったわ。…有難う。」
「お安い御用よ。またいつか…こっそり連れ出してあげるわ。勿論お姉様には内緒でね。」
それを聞いてフランドールは少しだけ頬を赤らめながらこう言った。
「…ねえ萃香、お酒も…また一緒に飲もうね。」
それを聞いた萃香は満面の笑みを浮かべ
「ええ、勿論よ!」
と、答えた。そして、またフランドールの身体が霧に包まれ―――。
気が付けば、あの薄暗い地下室に居た。
「…あ、一つ大事な事を聞き忘れていたわ。」
何かに気が付いたのかの様に一人で呟くフランドール。
私をお外に連れ出した本当の理由―――。それを聞くのを、忘れてしまっていた。
が、そんな繊細な事はすぐにどうでもよくなった。
きっと彼女は…一緒に酒を飲む相手が欲しかっただけなのだろう。
外に出ての何よりの収穫は、この薄暗い陰鬱とした地下室がどういう訳か…少し明るく見える様になった事だ。
フランドールは、笑顔を浮かべてベッドに転がると目を閉じて今日の色々な出来事を思い返し始めた。
―――キィ、とドアの開く音がする。
誰かがかつ、かつと足音を立てながら部屋に入ってくる。
「…フラン、いい子にしてたかしら?」
この館の主かつ、フランドールの姉のレミリアだった。
不意に足がベッドの前で止まる。
「―――あら。」
ベッドの上で寝息をすぅすぅと立てるフランドールを見て、レミリアはくすっと微笑む。
「寝てしまっていたのね…それにしても…」
フランドールの寝顔を見て、レミリアはこう呟いた。
「…何か、いい事でもあったのかしら?天使の様な寝顔だわ…。」
もう少し話しの尺を長めに取って、霊夢達の反応を詳しく見たかったです。
二人の月見酒のシーンが見事綺麗にはまっていただけに悔やまれます。
ただ皆さんも仰ってますが、もうちょっと膨らませて下されば、
なお良かったと思いました。
妖夢・永琳は優しいなぁ。
もうちょっと読みたかった。