Coolier - 新生・東方創想話

Shattered Library

2005/12/28 11:36:35
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「じゃ小悪魔に勝てたらインタビューでも何でも受けてあげるわ」
 それが大魔法図書館の主、パチュリー・ノーレッジに文がインタビューを申し込んだ際の答えだった。
「ちょ、ちょっとパチュリー様! 無茶言わないでくださいよ! スペルも何も使えない私が文さんに勝てるわけないじゃないですか!!」
 小悪魔の意見も尤もだ。仮にも数百年生きてきた文に対し小悪魔ではあまりにも無力。
「わかってるわ。だからハンデ。小悪魔、私との共有魔力回路を開けておくから、私の魔力を好きに使っていいわ」
 使い魔とその主人というのは基本的に精神で繋がっている。意識すれば互いの見聞きした事を共有することが可能。そして、それは魔力も例外ではない。基本的には使い魔が非常時の貯蔵庫なのだが、パチュリークラスになれば予備の魔力プールはほぼ必要ない。今回は小悪魔側に回路を開くことで小悪魔はパチュリーの魔力をすべて使用することができる。
 ちなみに両者の魔力量を比較するならば、小悪魔は池、パチュリーは紅魔湖である。
「ええええ!! でもパチュリー様は大丈夫なんですか?」
「別に喘息と魔力には因果関係はないし、私の魔力はほぼ無尽蔵なのは知っているでしょう?」
 ソファーに座り、優しく諭すパチュリー。
「それと、スペルカードも1枚貸してあげる。だから絶対に勝ちなさい」
 手渡された1枚のスペルカード。そのスペル名を見て小悪魔は驚き、そして決心する。
「わかりました。どこまでいけるかわかりませんが、やってみます!」
「あなたもそれでいいわね?」
 文にも確認を取る。
「ええ、構いませんよ」
 この時、文は記者よりも弾幕ごっこを楽しむ幻想郷の住人としての好奇心のほうが上回っていた。明らかに格下もいいところの、あの小悪魔がいったい自分に対しどう戦うのか。パチュリーの魔力だとかスペカはどうでもいい。むしろ、魔力切れなんていうつまらない結末が無くなるのだから大歓迎だ。
「勝負はいつもの弾幕と一緒。相手を落とした方の勝ち。フィールドはこの図書館内全域。本棚には防護魔法がかかっているから存分に暴れてくれて構わないわ」

 パチュリーの説明が終わると同時に両者、宙に浮かぶ。
 小悪魔はスペルカードを胸ポケットにしまい、いつもは畳んでいる漆黒の蝙蝠翼を展開。
 文も葉団扇を取り出し、濡れ羽色の黒翼を広げる。

「それじゃ、――始め!」

 パチュリーの打ち上げた光弾が破裂すると同時に二人は戦闘を開始した。







 広いエントランスホ-ルでは不利と悟ったのか、小悪魔は開始と同時に本棚に移動。誘いに乗ったとばかりに文も後に続く。
 本棚と本棚の間を小悪魔を文が追う形で飛ぶ。
 着かず離れずの距離。文が光弾発射。小悪魔は振り向かずにロールで回避。二射目を放とうとした所で小悪魔が右にカーブ。目の前に本棚。急制動を書けて減速。右にターンし加速。再び小悪魔の後ろにつく。
 文は舌打ちする。
 この図書館の本棚の配置が異常すぎる。横に並んでいたかと思えば、縦になった本棚が急に現れる。どう考えても効率的ではない。そして各本棚が天井近くまでの高さがある。これでは迂闊にスピードを出せば本棚に激突してしまう。
 空中戦闘は背後を取った方が有利。しかし、こんな入り組んだ通路ではうまく照準を合わせることができない。仕方なく小悪魔の背後から着かず離れずの距離を維持する。
 再び小悪魔がカーブ。文もそれに合わせカーブしようと減速をかけた瞬間、正面の本棚に納められていた本が開きレーザー照射。
「……!」 
 すでに減速移動に入っていたので身体をロールさせ、レーザーを避ける。右へ曲がると同時に突風を魔道書に叩き付け撃墜。

 味な真似をしてくれる。伊達にここの司書をしているわけじゃないということか。
 前方の小悪魔が不可解な動き。小悪魔の体の陰から毛玉が迫ってくる。先ほどの動きは毛玉との衝突を回避する為のものか。特に弾を撃ってくるタイプの毛玉ではないと判断し、こちらも衝突を避けようと回避運動。文のすぐ横を通り過ぎる毛玉。すれちがう瞬間、文の視界に移るのは毛玉の背中に隠れるように配置されたクナイ弾。それは文のすぐ後ろで毛玉に到達。破裂。同時にバラ撒かれる毛玉弾幕。とっさに体を丸めて被弾面積を小さく。幸い直撃は無かったものの数箇所掠り傷ができる。
「芸が細かいですね」
 小悪魔は毛玉とすれ違いざまに弾を仕込んでいたのだ。しかも、文の近くで破裂するように計算して。
 弾幕に自ら体を掠らせる事をグレイズという。だが、掠らされたのは決してグレイズではない。文の口元が三日月のように歪む。それは本来の天狗としての闘争心を刺激されたからか、それとも嗜虐心からか。
 前方を行く小悪魔は右へ左へカーブを繰り返し、うまく照準を合わさせてくれない。牽制の光弾程度では軽く避けられる。
 そうして攻めあぐねている文の視界に図書館の入り口である巨大な門扉が写る。もう図書館内を一周してしまったようだ。同時にチャンスだと思う。エントランスホールの開けた空間ならば充分な加速域を取ることが出来る。その時に備え、翼に風を溜め込む。そして文の視界が開ける。
 翼の風を解放、急加速。前方の小悪魔の背中が大きくなる。手を伸ばせば足を掴もうかという距離。光弾を放とうと腕を伸ばした瞬間、小悪魔の姿が視界から消える。驚愕で文の時間が止まる。同時に背中に灼熱感。落下。地面ギリギリで体勢を立て直し着地すれば、小悪魔は再び本棚の中へ消えていくところだった。
「……やってくれますね」
 あの瞬間、小悪魔はローリングしつつ宙返り。そうして文の背中を真正面に捉えた瞬間にクナイ弾を放ったのだった。
 歯噛みする。まさか小悪魔がここまでやるとは。自分の中の小悪魔のランクを上方修正。じりじり痛めつけようと思っていたがそれも無し。次からは本気でいく。

「あらあら、随分と無様ね」

 パチュリーがソファーから声をかけてくる。頭に血が上りかけたが押さえつける。パチュリーを無言で睨みつけ本棚の方へ飛ぶ。
 それを眺めつつパチュリーは紅茶を一口啜るのだった。





 そして、再度小悪魔を文が追いかける構図。
 しかし、今度は違う。伊達に記者なんぞやっているわけではない。すでに順路は記憶済み。ならば、加速減速の差でこちらが勝つ。
 何度か魔道書が邪魔をしてくるものの、同じ手は食わぬとばかりに回避。そしてカーブする毎に小悪魔との距離を縮める。
 ここまでで、文はすでに小悪魔の性能を見抜いている。小悪魔の翼は決して大きいわけではない。が、面積は広いため揚力を得やすい。そしてあの頭の小さな羽根。あれは空力制御に使われているのだろう。よく見ればカーブ等の際に細かく動いているのが見て取れる。スピードよりも安定性。決して悪くはない。狭い図書館内ではそちらのほうが有効ではある。しかし。

「その程度の芸当では私は振り切れませんよ!!」

 風を操って浮力を得る。目の前には本棚。しかし、スピードは落とさない。むしろ加速する。本棚のに激突する寸前、体を回転させ脚を本棚に。脚が本棚に当たるよりも早く本棚を蹴って移動。向かうは対面の本棚。同様に本棚を蹴る。左右の本棚から本棚へ。その間にも加速を忘れない。それはまさに木から木へ飛び移るかのよう。
 ――八艘飛び。
 外の世界ではそう呼ばれている事を文も小悪魔も知らない。
 そしてついに小悪魔に並走。光弾とクナイ弾が交差する。互いの弾幕が床を、天井を、本棚を削っていく。
 位置を入れ替え高さを変え互いに弾幕を放ちながら徐々に図書館中央のホールへ向かっていく。
 突如文が加速。小悪魔を追い抜き前方へ。好機とばかりに小悪魔がクナイ弾を放つ。それを体を捻って回避すると同時に文は減速。前方の文が減速すればどうなるかは想像に難くない。そのまま小悪魔に激突。二人は絡みあったまま地面に激突。激しく地煙をあげ、中央のセントラルホールの真ん中で停止する。文の風の防御のおかげか、互いに服が破れ擦過傷は見当たるものの大したダメージは負っていない。

「んふふ、つ~かま~えた~」

 小悪魔に馬乗りの状態の文がニタリと笑う。小悪魔が打ち上げた拳がその笑顔にヒット。即座に文も小悪魔の右頬に拳をブチ込む。
 そして弾幕の代わりに交差する拳と拳。だだっ広い空間に響く少女二人の鈍い打撃音。
 小悪魔の右が文の頬を捉えれば、文の左が小悪魔の鼻に突き刺さる。
 すでに外面など関係ない。ふたりとも痣を作り、鼻血を流している。
 小悪魔の頭突きが文の顔に突き刺さった瞬間、腹筋の要領で両手で文を突き飛ばしマウントから脱出する小悪魔。
 4mの間をあけて対峙する。

「過程がちょっと狂っちゃいましたけど、なんとか予定通りですか」
「強がりはいけませんよ。この状態からなら私の勝ちです。スペルを詠唱する暇は与えませんよ」
「さて、それはどうでしょう」

 小悪魔が指を鳴らす。と、同時にセントラルホールの周囲の本棚が一斉に内側を向く。そして収められている魔道書全てが開き魔法陣展開。天井付近までの高さがある本棚ゆえに上空へのフォローも万全。

「本当は魔理沙さん用なんですけどね。負けそうなんで使っちゃいます。」

 本棚と本棚の隙間に飛び移り小悪魔は叫ぶ。

「血の濡れ羽色の羽根となりなさい、烏天狗!!」

 周囲360度全ての魔道書からレーザー照射。
 羽根を最小限に畳み、レーザーの合間を潜り抜けて上空へ向かう文。さすがに避けきれずに何本かのレーザーが肌を焼く。だが、そんな事を気にしてはいられない。全神経を集中させてレーザーを網を潜り天井へ向かう。
 文には考えがあった。この本棚を操っているのは小悪魔。ならば小悪魔を倒さなければこのレーザーの雨は止むことは無いだろう。だが、小悪魔は遥か下方。本棚の間。そこへ辿りつくための策。
 そして天井に到達。全てのレーザーが文に集中する。

「この瞬間この場所が正解! 天狗のスピードを舐めたあなたの負けです!」

 スペルカード発動。
 同時に天井を蹴り、下方に向かって急加速急降下。それは正に疾風。魔道書がこちらの動きを捉え、向きを変える前に小悪魔まで到達する。それが文の策。一歩間違えれば自らレーザーの集中砲火に飛び込むことになる。。文のやっていることは自機狙いの弾幕を避けるのに使う切り返しと同じ。だが、レーザー相手にそれをやろうと思うものは居ないだろう。だが文はやった。それ以外に勝機が無いから。
 レーザーの隙間と隙間のごく小さい穴を潜り抜けていく。見つめる先はただ一点。小悪魔のみ。
 射程距離に入っても弾幕は撃たない。この速度で撃てば自らの打った弾に当たってしまう。ならば自らの体を弾にしたカミカゼアタックだ。
 そして、ついにレーザーの網を抜ける。
 減速は無し。そのままぶち当たれとばかりに雄叫びをあげ突っ込む。小悪魔は制御に集中しているのか動かない。いや動けないのか。
 勝利を確信し、笑みを浮かべる文。だがふと違和感に捕らわれる。
 小悪魔に何か違和感があるのだ。何かはわからない。すごく嫌な予感。だが今更止められようもない。止めればレーザーの雨に晒されることになる。気のせいだと無視する。ここで迷ったら負けだ。一か八か。


 そうして小悪魔に突っ込んだ文の嫌な予感が的中する。文の拳が当たった瞬間、小悪魔が魔道書のページとなって雲散霧消。
 ――影武者!?

「残念でしたね。でも悪魔は人を騙すのが常道。後悔する必要はありませんよ」

 その声に上空を振り仰げば。
 レーザーの雨の中、両手を掲げる小悪魔。その先には巨大な火球。いったい誰が想像できるだろう。あのレーザーを隠れ蓑にし、その中での雨の中でスペル詠唱。普通はそんな事考えもしないだろう。

「大体文さんの行動は予想できましたからね。切り替えしする事も想定の範囲内です。予想できてるならレーザーの軌道もおのずとわかります。後は軌道のわかっているレーザーを避けながら詠唱するだけ。それでも何本かは当たっちゃいましたけどね」

 その言葉通り小悪魔の服は所々破け、焦げついている。そこから覗く火傷の跡が痛々しい。それでもにこやかに笑う小悪魔。文には笑顔が悪魔の微笑みに見えた。いや、小悪魔は悪魔なのだが。


「でも、このくらいしないと貴方には勝てない。パチュリー様から勝てと言われた以上私は負けるわけにはいかないんですよ!!」
「小悪魔ァァァ―――!!」
「これで……、終わりです!!」

 ――日符「ロイヤルフレア」

 パチュリー最大のスペル。全てを焼き尽くさんとする天上の極光。小悪魔が渡された1枚のスペルカードがそれ。自らの主人の最大最高のスペルを預けられる。そんな事をされては何が遭っても負けるわけにはいかない。
 そして、白光が図書館を包み込んだ。










「で、この有様ってわけか」
 いつものように図書館を訪れた魔理沙が見たのは、散らかり破壊されまくった本棚とそれを総出で掃除するメイドの姿であった。
「やれやれ、ブン屋も形無しだな」
「まったくです。まさか中ボスごときに負けるなんてー!!」
 じたばたする文。だが言葉とは裏腹に悔しそうな雰囲気はない。むしろすっきりした顔である。
「で、当の小悪魔はどうしたんだ?」
「まだ寝てますよ。幾らパチュリーさんの魔力を転用できるといっても、あれだけ一気に放出すればガタが来るのは当たり前です」
「で、パチュリーも付きっきりか。やれやれ、今日は帰るしかなさそうだな」
 帽子を被りなおし、箒に跨る魔理沙。
「そういや、この件はもちろん記事にしてくれるんだよな?」
「……うぐ」
 天狗が負けたなどと書けば、それこそ仲間達ひいては性質の悪い霊夢等にからかわれるのは火を見るより明らかだ。
 ニタニタと意地の悪い笑みの魔理沙に文は返す言葉を持っていなかった。。







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コメント



0.1300簡易評価
3.80床間たろひ削除
いや、見事なる空中戦堪能させて頂きました!
スピード感溢れる高機動バトル、文には似合いますねぇ

そしてそれを悪魔の知恵と、主人からの信頼で打ち破った小悪魔が見事!

いやぁ、良いもん魅せてもらいました!
4.80削除
誤字>「血の濡れ場色
初めて・・・だったんですか  ・・・うん  ってちゃうねん

空中戦って心躍りますなー
6.無評価名前が無い程度の能力削除
頭の翼はカナード翼。それって首の骨が折れそうな気が・・・
16.60所属不明削除
小悪魔=黄色の13
 文 =メビウス1

こうですか?わかりません!(><)
17.70銀の夢削除
私とは根本的に毛色の違うバトルシーン。某人が地上戦でのリアリティ溢れるバトルを描かれるとすれば、氏は空中戦でのそれを見事に描かれていると思います。小悪魔かっこいいぜ!
18.60おやつ削除
これが空中戦というものか……
かっこいいです。
それにロイヤルフレアがくるとは思いませんでした。がんばれ文。
大変なのはこれからだぞw
29.80kt-21削除
<<落ち着け魔導書、指揮を引き継げ>>