Coolier - 新生・東方創想話

アリスのメリークリスマス!

2005/12/27 08:52:39
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/* 今回クソ長い上にいろいろ壊れてる人たちがいるので、気が長い方だけお茶と仮眠用の布団を用意してご覧ください。 */
/* 前章「アリスのメリークリスマス!-二日前-」「アリスのメリークリスマス!-回想~前日-」からの続きになります。 */
/* 一応、クリスマスイブのお話です。 */
/* それではお楽しみください。 */















12月24日、クリスマス・イヴの0時。
魔法の森の上空は、かなりの冷え込みを見せた。
寒さ対策に、暖かい服をかなり重ね着したにも関わらず、キンキンと寒さが染入ってくる。
マフラーを頬あたりにまで上げ、手袋越しに手をこすり合わせながらソリを進める。
さて、まずは魔法の森から一番近い場所へ行こう。
既にルートは決めてある。ポケットからそれを記したメモを取り出して確認する。

最初の行き先は、香霖堂ね。



 * * *



1時15分。
途中、向かい風が強まりソリの速度を落とさざるを得なかったため、多少時間がかかった。
まあこの程度のロスであれば然程問題ではないので良い。

香霖堂の近くにソリを降ろす。
……まだ明かりがついてる。起きてるみたいね。
あら?中で何か……



「どうもー!香霖堂でーす!!フォーーーーーー!!!」



カクカクと人間にあるまじきスピードで腰を振るシルエット。
股間にはためく布はどうみても褌です。本当にありがたくありません。

……………。
ど。
どうしよう。
とってもとっても中に入りたくありません!
誰がこのカオス空間の中に喜んで入るというの!?

一瞬、脳裏に黒レザーにサングラスのやけにセクスィーな衣装の男が浮かんだけど光速で削除する。

そうよ、自分に素直に生きると決めたの私は!
だからここは自分に素直に脱出すべきじゃ……
いやでもでも、それは逃げてるだけ。戦わなきゃ現実と。
戦わなきゃ、戦わなきゃ……!

―――意を決して、ドアに手をかける。
いい、3つ数えたらオープンザドアよ。
もう後には退けないわ。



1……



2………



3!!!


ガチャリ


「メ、メリークリスマー……って、あれ?」
「おや、君は……アリスだったか。どうしたんだい?こんな夜中にそんな格好で」

え?あれれ?
それまで明らかに中ではフィーバータイムだったはずなのに、
なんでドアを開けると普通にカウンターに霖之助さんが座って本読んでるの?
なんだか、ぞっとする……。
けど、あの空間に飛び込むよりはよっぽとマシだったかも。

「見ての通りサンタクロースよ。メリークリスマス!霖之助さん」
「それはまた……それにまだ今日はクリスマスイヴの、それも早朝だよ。
 普通サンタはイヴの夜に現れるんだそうだが」
「細かいこと気にしないで。ほら、ちゃんとプレゼントもあるんだし」

えーと、霖之助さんのプレゼントは……2番の袋の上のほうだったわね。
一番上に入れておいたので、すぐに取り出せる。

「はいっ」
「ふむ?なんだい、これ」
「気になるなら今開けてもいいわよ」
「ほう、では早速」

霖之助さんは静かに包装紙のテープを外して、丁寧にリボンを解く。
こういう包みの開け方に性格が現れるらしいけど、実際その通りみたいね。

「おや、これは……」

包みに入ってたのは、黒の着流し。
普段も着物だけど、着流しも似合うと思って探してきたもの。

「へぇ、なかなか良いな……少し着てみてもいいかな?」
「えっ?」

着てみるって……ま、まさかこの場で即時脱衣(クロスアウトモーション)!?
……窓に映っていた(と思われる)シルエットが一瞬脳をよぎる。
や……やばいかも……。

「……何か問題でもあるのかい?」
「うぇえっ、い、いや特に何も……」
「……まあいいか。じゃあ少し時間をとらせてもらうよ」

そう言って、着流し片手に店の奥に入っていく霖之助さん。
ああよかった、やっぱりこの人はノーマルだった。
やっぱり私が見たのは幻に決まってるわ。
幻想郷一の常識人があんなことを―――――

「テンコー!!!!」

……違う違う違う!
あんな幻を見た後だから変なイメージがついてるだけ!
そうよ、これは幻聴!思い込みが生み出した単なる幻聴に決まってるわ!
そうでしょ!?ねぇ、まだ!?まだ着替え終わらないの!?出てきてノーマルだって証明してよ、ねぇーっ!

「すまない、待たせてしまったね」

ほっ。
ほら、やっぱり幻聴じゃない。
奥から出てきた霖之助さんは、細身の体に似合う黒の着流しを身にまとっていた。
鼻緒が赤い下駄も履いている。どこかで見たこと有るような組み合わせ……

「……この世には、不思議なことなど何も無いのだよ。マーガトロイド君」
「なにそれ?」
「何となく言ってみたかっただけだ」

霖之助さんは『わからないことは気にしない』ようにしてるらしいから、私もそれに見習うとしよう。

「うん。気に入ったよ。しかしこの着物は探すのに苦労しなかったかい?」
「いいえ。私の人形達の一斉探索さえあればそれ一つくらいすぐ探し出せるわ」
「それは頼もしいね」

言って、霖之助さんは静かに笑った。

「ありがとう。大切にするよ」
「ええ、どうぞ大切にしてね」

私はそれを着るような季節にはいられないのだから。
と、心の中で付け足して、香霖堂を後にすることにした。

「アリス、メリークリスマス」
「ええ、ありがとう霖之助さん。じゃあね!」

さぁ、次の目的地へ行きましょう。
今は2時15分。向かい風が強いのが厳しいけど、なんとかなりそう。
香霖堂の外に出て、ソリに乗り込む。
もう一度、窓を見る。……うん、やっぱり私の見間違いだわ。
さぁ、次に向かうとしますか。







……アリスが去った後、霖之助は椅子にどっかり座り込んで、ふぅ、と大きく一息吐いた。

「ふふふ……まさか外の世界から入ってきた本に記された技がこんなところに役に立つとは。
 この術さえ極めてしまえば、フィーバー中に不意に客が来ようと”時を止めて”対処できるッ!!
 最高にハイってやつだッ!!フフフフ、ハハハハハハハハ!」

ゴゴゴゴゴゴゴ……と背景に効果音が出そうな濃い顔で不適に笑う霖之助。
背後には、一般人には見えない背後霊のようなものが浮かんでいた。

その手の中には、一冊の本が握られていた。



「ジョ○ョの奇妙な冒険 第三部」



第○○話
「FUNDOSHIの世界」 完
to be continued...



 * * *



1時50分。
霖之助さんのところに寄ったお陰か知らないけど、緊張していた心持が大分軽くなった。
それにしても、寒い。
ホワイトクリスマスというとロマンチックだけど……吹雪じゃ面倒なだけね。
視界が悪い。流石にこんな吹雪の夜を飛ぶ妖怪なんてあまりいないだろうから
ぶつかる心配なんかはないだろうけど……。

地図を広げ、方位磁針を見ながらなんとか目的地の方角を割り出す。
方角としては東南東。次は紅魔館の傍の湖ね。
それも、湖のほとりの魔法の森との境にある、ある妖怪の家。
方角を確認すると、まっすぐ進行方向がずれないようにソリを走らせた。
かなりのスローペースでしか進めない。これで間に合うのか少し不安になってきた。



 * * *



3時40分。
魔法の森を抜ける頃には、吹雪も大分収まってきた。
これなら予定通りのペースで回れそう。

……おっと、あったあった。
魔法の森が途切れるかといったところ、氷精の住む湖のほとりに家が一軒。
……って私の家より豪華じゃない?これ。
豪華というか、広い。大きい。作りも堅固なのが伺える。
おまけに軒先には大きな木をそのまま一本使った豪華なクリスマスツリーまで。

こんな広々とした家に住んでるのが―――

「あら、また貴方?」

半月前にも会った冬の妖怪、レティ・ホワイトロック。
一面ボスの雪見大福がなんでこんなリッチな生活してんだちくしょう。

「何か今、凄く失礼なこと考えなかったかしら?」

す、鋭い。
って、寒気を身にまとうのはやめて。怖いから。
てか寒い!本当に寒い!ごめん悪かったごめんなさい許してください。

「な、何も!何も考えてないから!寒いから!凍死しちゃう!やめてー!」
「……静かに、みんな起きちゃうじゃない」

え?みんな?
誰か来てるのかしら。

「中に誰が居るの?」
「んー、チルノと、お友達の大妖精さんと、それにミスティア、リグル、あとなんでか知らないけど……
 よりにもよって春の妖精が白黒二人組で来てるわ。チルノと仲良くなっちゃったみたいでね。
 クリスマスパーティの下準備って言って、昨日からみんな張り切ってるのよ」

それはなんとも楽しそう。
……というかそのメンツが揃ってるなんて大ラッキーだわ。
元々別々に配っていく予定だったのが一ヶ所で終えられるなんて!
数時間は間違いなく余裕が生まれるわね。

「ところで。」
「何?」
「貴方のその格好はサンタクロースとでも言うつもりかしら?」
「大正解」
「……一日早いと思うけど、まあいいわ。
 丁度あの子達はみんな眠ってるから、プレゼントを置いてくるなら今のうちよ」

そう言うと、ドアを開けてくれた。
……いいのかしら?何も警戒せず中に入れてくれるなんて。
もしこの袋の中に毒薬を詰めてたりしたらどうなると思うのよ。

「いいの?そんな無用心で」
「無用心も何も……貴方に対して警戒心を抱く必要も無いしね。
 まあ、傍から見たら不審者間違いなしでしょうけど」
「不審者ってのもまた厳しいわね。でも、入れてくれるなら遠慮なく入らせてもらうわ」
「どうぞ。みんな居間で寝てるから、起こさないように注意してね」
「うん、わざわざありがとう」

さて。
偶然にも、この中に泊り込んでるメンツのプレゼントは全て同じ袋に纏めてあったので、
私はその一袋だけを担いで、静かに家に入った。

……なんか、外から見たら”頑丈な家”だけど、中は間違いなく”豪邸”ね…。
一年のうちに冬しか外に現れないからこそ、なのかもしれない。
玄関は大理石で、高級そうな木棚や装飾品。
壁には大きな振り子時計まで。
……うん、見なかったことにしよう。畜生。ぐすん。

静かに居間のドアを開けると、暖炉の火の前でミスティア、リグル、大妖精、
それにリリーホワイト・ブラックが毛布に包まって眠りについていた。
チルノはやはり暖炉の火の近くは苦手のようで、ソファの影にぴったり張り付いてすやすやと眠っていた。

「……む~、ふにゅ~……」

うひゃあ!可愛い!!!
普段はちょっかいばかり出してくる⑨だとしか思ってなかったけど、寝顔はこんなにも可愛いなんて!
思わず連れ帰ってイロイロ着せ替えなんかさせてみたくなるけど、ここは我慢。落ち着けアリス。
……ふう。

さて、早いとこプレゼントを置いていきましょうか。
朝目覚めるとみんなの枕元にはプレゼントが。
大急ぎで包みを破いて、中から出てきたものを見て喜びの声を上げ、みんなと見せ合う光景が目に浮かぶ。
喜んでくれると嬉しいな。

チルノには、まるで氷のように透き通った美しいガラス細工。
大妖精には、氷の花を模した髪飾り。
リグルには、ホタルブクロの形をした魔法のライト。
ミスティアには、様々な音色を奏でるオルゴール。
リリー二人には、お揃いのリボンを。
そっと、暖炉の火だけを頼りに居間を歩いて周り、一つずつ枕元に静かに置いてやる。

家具に足をぶつけないようにそっと歩きながら、居間の出口までやってきた。
最後に振り返り、起こさないように小声で、

「メリークリスマス―――」

とだけ言い残して、私は家から出た。




静かに玄関を閉めると、レティが歩み寄ってきた。
どう見ても寝着一枚では寒いのだけれど、冬大好きな彼女はこれくらいが丁度いいのだろう。


「プレゼントを置いてきたわ」
「お疲れ様。何が入ってるかは明日の朝にみんなと確認させてもらうわ」
「是非ともそうして頂戴。ところで、貴方にもプレゼントを用意してあるの」
「あらあら、いい子にしてたご褒美かしら?」
「いい”子”なんていう年じゃないでしょ……」

また寒気に襲われるかなーと少し思ったけど、特に何もなかった。
その事は自覚してるらしい。
とはいえ、オバサンという年じゃなくお姉さんといったほうが良い年齢であり、
おまけにスタイルも抜群なので悪い意味などないのだけれど。
あの胸のふくらみを火の魔法で溶かして移植できないかなーとも思ったけど
多分やる前に氷漬けにされそうなのでやめておいた。

袋の中を少しの間探り、それを見つけた。

「はい、どうぞ」
「あら、これは……ヴィネットね」
「ええ、貴方の好きな雪景色を作ったわ。樹氷の表現に苦労したけど、どうかしら?」

ちなみにヴィネットとは小型のジオラマのことで、置物などとして置いておける小物のこと。
この冬妖怪は、冬以外の季節はこの家の窓を完全に閉鎖して引きこもってしまうと聞いていたので、
せめて置物で冬に想いを馳せるということができても良さそうだと思って彫ったものだ。
『好きなもの:冬』と聞いたときはどうすれば良いのか悩んだけど、結果的に満足行くものになった。

「ええ、素晴らしい出来ね。今まで夏なんかになると苦しくてしょうがなかったんだけど、
 これを見ながらならあの暑さも乗り越えられそうだわ」

随分気に入ってくれたみたい。
流石にそこまで誉められると作り手としても照れるけど……やっぱり嬉しいわね。

「有難う、玄関に飾ると丁度良さそうだわ。大切に飾らせてもらうわね」
「どういたしまして。ああ、確かにあそこには似合いそうだわ」

先ほど家に入ったときの光景を思い出す。
大理石に床。玄関の正面に位置する高級な木製棚。
その上に私の作ったヴィネットが飾られている……うん、なんだかとても良さそう。
きっと彼女なら大切に保存してくれるだろう。それが作った者としてもなによりも有難い。

「さて、じゃあ私はそろそろ行くわね」

袋を再度ソリに積み込み、私も乗り込もうとしたとき、

「―――アリス。ちょっと待って」

不意にレティが話し掛けてきた。
その顔は―――無表情に近かったけども、どこか暗い雰囲気を宿していた。



「アリス。これが貴方の―――”最期にやりたいこと”なのかしら」



―――――驚いた。
やはり、彼女は鋭い。
私の突飛とも言える行動、そして半月前に話し掛けた内容を直結して考えていたとは。
……そこまで判っているのなら、誤魔化す必要も無い。

「そう。これが私のやりたかったこと。素直に笑って、そしてみんなにも笑ってもらいたかったから」

真っ直ぐに見つめ返し、私ははっきりと言った。
この答えに迷いは無い。それこそ、意地も何もかも取り払った私の素直な気持ちだから。

「………そう。それなら私は何も言うことは無いわ」

半分感心、半分呆れた、というような表情を浮かべ、彼女は一息ついた。

「メリークリスマス、アリス」
「メリークリスマス、レティ」

最後にお互いその言葉を言い残し、私は再びソリに乗って上空に舞い上がった。



 * * *



4時50分。
意外と時間をくっていたらしい。
居間での行動と、レティと話していた時間は思いのほか長かったみたい。
でも、元々各所に別々に向かおうとしてたチルノ達が居たのは幸運だった。
あのお陰で、3時間以上は間違いなく短縮できたはず。
おまけに吹雪も既に止んで、辺りは僅かな風が通り抜けていく音しか聞こえない。

さ、次はこの湖の丁度対岸にある紅魔館。
湖は広大で、反対側は水平線が見えるほどに大きい。
とはいえ、空を飛んで向かうのであれば大した時間はかからないはず。
実際に測ったことは無いけど、おそらく10分か20分で大丈夫。
雪の中の紅い館を目指して、私はソリのスピードを上げた。



 * * *

5時5分。
やはり大して時間はかからなかった。
何しろ飛び始めて5分ちょっと程で紅魔館の姿が確認できたほど。
とても順調なペース。暗くて判りづらいけど、雪雲も晴れてきたみたいだしいい状況ね。

眼前に広がる紅魔館。
もちろん私は正面から堂々と入ることにする。
門番は―――いたいた。こんな寒い中、雪の中で準備運動をしている。
今仕事についたばかりなのかしら。
……よーし、少し驚かせてあげましょ。

正門のすぐ前の地点目指して、一気にソリを加速させる。
それこそ私が一人で思い切り飛ぶときと同じくらい、とにかく思いっきり早く!

「ふぇ……!?」

猛スピードで自分のほうに突っ込んでくるソリという非現実的な光景を前に、
門番―――紅美鈴さんはあっけに取られた表情を浮かべた。

「メリィーーーーークリスマーーーーーーーース!!!」
「きゃあああああああああああ!!!!!????」

キキィィィーーーーーー………がしゃーん。

とはならず、きちんと寸前で止まった。計算ピッタリ流石私!

「な、何奴!?」

思わず臨戦体制をとる美鈴さん。まあ仕方ないわね…。

「私よ、美鈴さん」
「って、ぇえ!?アリスさん?しかもその格好はまさか……」
「イェスッ!アイアムサンタクロース!」
「( ゚Д゚)」

ビッ、と親指を立てて見る。
美鈴さんはぽかーんと口を開けて固まってしまった。

「まぁ、それは置いといて。」
「は、はい」

とりあえず元の空気に戻そう。

さて、彼女にも当然プレゼントを用意してある。
何より、彼女の一言がこの計画の発端となったのだから、
特に力をいれてプレゼントを用意してみた。
勿論他が手抜きというわけではないけれど。

「貴方にクリスマスプレゼントを持ってきたわよ」
「ほ、本当ですか?」
「もちろん。はい、開けてみて」

彼女への包みはやや大きめだ。
それもそのはず、複数のものを一つの包みに入れてるのだから。

「わぁ……これは……」

中から出てきたのは、ブラウンのコート。暖かな皮手袋。それに私の手編みマフラーの3つだ。
いつも見る度、どう考えてもこの気温の中で薄着をしている彼女。
いくらジャケットを羽織っているとしても、この雪の中でそれ一枚だけじゃあ寒いでしょうに。
寒くないのかと尋ねても、「寒くなんかないですよ~」とだけ言うものの、全身が震えてるのが目に見えている。
だから、暖かな防寒装備を用意した。
コートは柔らかく、軽くて動きやすく、尚且つ暖かな生地のものを選び、
手袋は厚手ながらも手にぴったりフィットして動かしやすいという優れもの。
マフラーは私の手作り。作りはバッチリできたはず。
出来るだけ毛糸のチクチク感を抑えるように工夫してみた。

「これ、今着てみてもいいですか?」
「もちろんよ。きっと似合うと思うわ」

早速、着ていたジャケットを脱いでコートに袖を通す。
手袋も一緒にはめ、最後にマフラーをくるりと首に巻いた。

「あ、凄い……。なんかこのコート、暖かいのに凄く軽いです」
「いいものが見つかってよかったわ。ちなみにマフラーは私の手作りよ。どうかしら」
「凄くあったかいですよ!巻き心地もいいし!」

軽く興奮して喜ぶなんて、そんなに嬉しかったのかしら。
思わずこちらの表情も緩む。

「いいんですか?こんないいもの貰っちゃって……」

不意に、申し訳なさそうな声で尋ねてくる。
そんなの、良いに決まってるじゃない。

「これはサンタさんからのプレゼントよ。プレゼントを否定する理由なんてないでしょう?」
「……あっ、ありがとうございます!」

深々と頭を下げられてしまった。うーん、なんだか恥ずかしいなぁ。
でも喜んでくれたし良しとしよう。これからの冬仕事はあの服装になるのかしら。

さて、次は咲夜さんに、レミリアお嬢様に、パチュリーと小悪魔さん、それにフランちゃんとみんなの分。
というわけで、中に通してもらうことにしましょう。

「館のみんなにもプレゼントがあるの。中に入れてもらっていいかしら?」
「もちろんですよ!みんな喜ぶと思います!さ、どうぞ中へ」

正面入り口である大きな鉄扉を開けてもらい、さっそく中へ入ることにした。
美鈴さんは門番である以上、持ち場を離れることはできないみたい。

……あー、忘れちゃならないことがあったわね。
また別のプレゼント袋に手を伸ばして中を探る。
えーと……うん、こっちだったわね。

「そうそう、美鈴さんこれ」
「? なんですかこれ?」
「門番隊の人たちへのクッキーよ。みんなで分けて」

つい昨日作ったばかりのクッキー。門番隊33人分となると結構な量になる。
それを大きな袋にまとめて渡すと、彼女は随分と驚いた声を上げた。

「ぇぇええ!!これ、門番隊の子たち全員分ですか!?」
「もちろん。ちゃんとメイドの人たち全員にも作ってあるわよ」
「ぜ、全員に!?す、凄い……」

凄いだなんて。確かに作るのは随分と骨が折れたけどね。

「ありがとうございます!みんな絶対喜びますよ!」

再度深々と頭を下げられる。
凄く喜んでくれたのは嬉しいけど、やっぱり人に頭を下げられるのはなかなか慣れないわねぇ。
まあ、いいか。とりあえず中に入るとしよう。






紅魔館の廊下は何時見ても広い。
ここに来たときはいつもメイドが掃除してるのを見るけど、ひょっとして一日中掃除してるんじゃないかしら。
それくらいに思うほど、廊下だけでも果てしなく広い紅魔館。

その廊下の遠くに、一人のメイドが見える。
……いや、あれは正確に言うとメイド、じゃないわね。
何しろその人影は―――

「あら、こんな早朝に何の用……って、その格好を見れば判るわね」

メイド”長”の十六夜咲夜さん。歩く動作一つとっても無駄がない。
高い背丈に細く整ったスタイル、すらりと長い足、きめ細かな肌に整った顔立ち、見るものを魅了する銀髪。
さすが”完全で瀟洒な従者”と言うだけあるわね……。スキがないわ。

「サンタさんは夜に来るものじゃないかしら?」
「この館にとっては、今が就寝時間くらいじゃない?」
「まあ、お嬢様と妹様はそうだけど。館は24時間年中無休よ」

そうなのか。紅魔館はハードな職場と聞いていたけど
それは確かに大変かもしれない。

「それで、お嬢様やパチュリー様にプレゼントってわけ?」
「……いいえ。この館の全員にプレゼントよ」

え、と小さく驚く。
普段のメイド気質のせいかしら。主にプレゼントはあっても
自分やメイド達には無いと思ってたのかもしれない。

「……一応聞くけど、プレゼントが弾幕なんてことはないでしょうね?」
「私を何だと思ってるのよ……ちゃんとしたプレゼントだから安心して」

とりあえず背負っていたプレゼント袋を床に下ろし、袋の中を探る。
えーと、咲夜さんのプレゼントは……あ、あった。うふふふふふ………

「メリー……クリスマスッ!!」
「ぐほぁあ!?」

私が取り出したものを見るや否や、鼻血吹いたんじゃないかと思うほど激しく噴出し、仰け反る瀟洒な従者。
さっきまでの冷静っぷりが嘘のような取り乱し様。流石にコレは予想以上の反応ね……。

「そ、それはぁぁ!!」

私が取り出したのは……なんとも…いや、ニャンとも愛らしい猫のぬいぐるみ(LLサイズ)。
人形達の報告で『好きなもの:可愛いぬいぐるみ』と知ったときは今までのイメージが一瞬にして崩れたわ……。
というか現実、今私の目の前で咲夜さん思いっきり興奮してるんだけど。
とりあえずその獲物を狙う肉食獣の如き目はやめてください。怖いから。いろんな意味で。ちゃんとあげるから。

「は、はいっ。これ咲夜さんのプレゼント。気に入ってもらえたかしら?」
「気に入るも何も―――――」

がしっ!
正に時を止めたんじゃないかと思うほどのスピードで手を握られる。
そして思いっきりブンブンと振られる……痛い痛い!指がちぎれるって!

「最っっっ高よ貴方ッ!何度お礼をしても足りないくらいにッ!ありがとうありがとうありがとうありがとうっ!」

先生!助けてください!
喜んでもらえるのは嬉しいけど、興奮しすぎです!
というか冷静になってください咲夜さん!こんなののドコが”完全で瀟洒”なんですかっ!



「咲夜、落ち着きなさい」

突然の背後からの声。
咲夜さんがびくっ!と一瞬震え、嘘のように静かになる。

「ひっ!?お、お嬢様!?いつからそこに―――」
「猫が出たあたりからかな」
「あうぅぅ……」

かぁぁーっと顔を赤くする咲夜さん。なにこの乙女ちっくモード。

……まあとにかく。
レミリアお嬢様まで来たのなら話が早いわ。
もちろんプレゼントも用意してある。
……これを渡したときの反応は、どれほどのものだろう。ちょっとドキドキ。

「それで、この館にプレゼントを運んできたって?
 それなら随分と有難いことだけど……。勿論私にもあるんでしょうね?」
「勿論。……ふふふ、とくと悶えるが良いわっ!」

楽しみ半分、怖いもの見たさ半分でプレゼント袋の中を漁る。
……あった。ゆっくり、ゆっくり袋から出す。

「何よ、もったいぶらずに早く出しなさ……………」

言葉が途中で途切れる。
わざと一瞬見えるように取り出したのだから、間違いなく見えたでしょう。

「そ、れ、は……」

ぎぎぎぎ、と音がしそうな動きで私を、いや私が持ってるプレゼントを指差す。

「メリークリスマス……レミリアお嬢様っ!!」

ばっ!

私が取り出したのは……そう。人形師としての腕を思う存分発揮した、”霊夢ちゃん人形(1/3サイズ)”だ!



「 ガ ハ ァ ! ! 」



―――その鼻血が描き出した美しいアーチは
        まるで紅い虹のようだった――――

                     (十六夜咲夜の手記より抜粋)







レミリアがダウンしてしまったので、とりあえず私は咲夜さんにメイド達へのクッキーを手渡し
残るプレゼントを配ることにした。
―――あとはパチュリーに小悪魔さんに、妹様のフランちゃんだけね。

図書館よりフランちゃんの部屋が近いので、先にそちらに寄ることにしよう。
彼女の部屋は、魔理沙と戦って敗れた後、レミリアが考えを改めて自室の隣に移動させたという。
私は以前の彼女の部屋―――地下室とも聞いたが―――を見たこと無いのだけれど、
魔理沙曰く『あんなところに幽閉されたら数日で気が狂ってしまう』と言いたくなるほど冷たく孤独な部屋だったそうだ。
……私が以前、彼女に会ったときはとてもそんな部屋に495年も幽閉されていたとは思えないほど無邪気で明るい少女だったけど。
強い子なんだな、と私は思った。実際は私のほうが年下だけどね。

5時40分。
もう夜明けが近いこの時間、吸血鬼はとっくに就寝時間となっている。
間違いなくフランちゃんはお休み中。起こさないように慎重に行動したい。
部屋の入り口は、吸血鬼が好むバロック的な装飾は無いけど、巨大な木製の扉はそれだけで見る者を圧倒する。
……音を立てないように、静かに静かにドアを押す。
割と新しく出来た部屋のためか、ドアが大きく軋むようなこともなく、無事に部屋に入ることができた。

当然ながら室内は真っ暗。一寸先は闇とは正にこのこと。
元々、昼に太陽光が入らないようにするため吸血鬼の部屋には窓も無い。
明かりそのものに敏感なため、部屋にはロクに照明器具すらない場合もあるらしい。
さて、問題なのはその『明かりそのものに敏感』という点で、この場でどんなに小さくとも
明かりを灯してしまうと、起こしてしまうかもしれない。

……というわけで、今回のために持ってきた秘密兵器の出番ね。
かなり以前に、香霖堂で仕入れた不思議アイテム。
”暗視スコープ”だとかいう眼鏡の類で、暗闇の中でも明るく見えるものらしい。
元は外の世界で闇夜の中弾幕するときに使うものだとか。
霖之助さんは使い方が判らなかったみたいだけど、私は暫く弄っている間に使い方が判ったので問題無い。
さて、早速装着……うん、バッチリね。
それでも暗いことに変わりは無いけど、何も見えない状況よりずっといいわ。

さて、部屋に入る前にプレゼントは袋から出してきたし、あとは置いてくるだけ。
フランちゃんへのプレゼントは、お姉様であるレミリアが愛用しているものと同じタイプの日傘。
地下室に閉じ込められることは無くなったとはいえ、相変わらず情緒不安定の気があるので
外出は禁じられているそうだ。
いつか、この日傘を差して姉妹で一緒に外を歩いてもらいたい。
そういう願いを込めて、静かに日傘を枕元に置く。

―――フランちゃんの寝顔を見る。
あどけない少女の顔。この子が実の姉からも恐れられた破壊者であるなど到底信じきれない。
あら、よく見ると人形を抱いて眠っている。
―――あ、これは私が以前作ってあげた人形。
魔理沙が私にフランちゃんを紹介してきたとき、随分楽しそうに遊んだことを思い出す。
その時、人形が欲しいと言ってきたので、リクエスト通りにその場で作ってあげたら大喜びしてたっけ。
よかった。ちゃんと大事にしてくれてる。
私がいなくなっても、ずっと大事にしてくれるかな。

「……元気でね、フランちゃん」

最後にそっと、優しく髪を撫でる。
さらさらの綺麗な髪。日に当たっていないせいか、痛みというものが全く無い。
この子はずっと、こんな綺麗な髪で永遠を生きるのか。
少し、嫉妬を覚える。
でもやっぱり私は不老不死は勘弁かな。

「メリークリスマス」

最後にそっと告げ、私は部屋を出た。








―――――――暗視スコープを付けたままで。







「へあぁ~!目が、目がぁ~~~~!!!!!」





※注意
暗視スコープを付けた状態で明るい物を見るのは大変危険です。失明の可能性があります。
絶対に真似しないでください。








結局フランちゃんを起こしてしまった。
そこは悪かったが、プレゼントを見て大喜びしていたのでついつい顔が綻んでしまう。
素敵な笑顔で送り出された私は、最後に図書館に行くことにした。

紅魔館図書館は、元々暗い紅魔館の中でも一際暗い。
本来図書館は本を読む場所だから明かりが無ければ駄目なはずなのに。
パチュリーは何故そんなに明かりをつけるのを嫌がるのかしら?

「パチュリー様は日光は嫌いだけど蝋燭やランプの明かりは普通に使いますよ。
ただそれも最低限しか点けないからちょっと困り者ですね」

私の問いに答えてくれたのは、図書館司書の小悪魔さん。
”小”悪魔とはいうけど、私やパチュリーより年上のようにも見える。
まあ、悪魔としては小さい部類に入るんだろう。
というより、随分優しく気が利いて、主人想いで仕事熱心なので
悪魔という言葉のイメージにはおおよそ当てはまらないと思う。

「いつか絶対目を悪くするわよね~。眼鏡姿のパチュリーも見てみたくはあるけど」
「ふふふ~、見てみますか?」

え、見れるの?
無理矢理かけさせるとかそういうことかしら。

「違いますよ~。実はパチュリー様、お客様がいないときは眼鏡をかけてらっしゃるんです。
 でも他の人に見られるのが嫌だとか恥ずかしいとかで、来客時にだけは外してるんですよ」

そ、そうだったのか。
でも眼鏡が恥ずかしいなんて……以外と可愛いトコあるわね。うふふ。

「あ、この先は静かにしてください。あの方、お客様がいると判ったら凄い勢いで眼鏡片付けちゃいますから」

そんなに嫌なのか……似合わないのかな?
私のイメージとしては、これ以上ピッタリな組み合わせもないと思うんだけど……。

(ほら、そこの本棚の先です。気付かれないようにそーっと覗いてください)

ごくり。
唾を飲み込む音もはっきり聞こえそうなほどに静かだ。
どくん どくん
やけに心臓の鼓動が激しい。
ただ眼鏡姿のパチュリーを見るだけなのに、なんでこんなドキドキしなきゃならないんだろう。
……ええい、考えてばかりじゃ仕方ない。
よし、思い切って……どうだっ!





―――――似合わないなんてものじゃなかった。



まるで、当然のように、そこにあることが自然かのように。

この世にこれ以上眼鏡が似合う人がいるかと言われれば、私は即座にNOと答えるだろう。

それはもはや芸術の域にまで達していると言っても過言ではなかった。

ビバ、眼鏡っ娘。

「パチュリー様、お客様がお見えになられましたよー」

突然、私の背後で小悪魔さんがそう言った。
びくっ、と身を震わせ、大急ぎで読んでいる本を机に置き、
そのまま流れるような全く無駄の無い動きで眼鏡を外し、ケースに入れ、机の引出しに置いて、鍵をかける。
ここまでの所要時間、1.12秒。
なんでそこまで”メガネを片付けること”が上手いのよパチュリー……。そんなに嫌なのかな?

「い、いいわよ。通して頂戴。」

声が上ずってるわよ。
でも、もうちょっと眼鏡姿見てみたかったわ。
まあいいか、とりあえず本棚の影から出よう。

「メリークリスマス、パチュリー」
「あらアリス。そういえば今日はクリスマスだったわね。プレゼントでもくれるのかしら?」
「勿論よ。図書館魔女の貴方にピッタリのものを持ってきたわ」
「……本当にくれるの?ちょっと驚きね」

いやサンタ服でプレゼント袋持ってる状態で『プレゼントは無い!』なんてまさに外道。
パチュリーへのプレゼントは……そうそう、これね。
他のプレゼントとはまた違った『大事に』持ってきたもの。

「はい、これよ」
「これ……って、グリモワールじゃない!あなた、こんな貴重な書を渡しちゃっていいの!?」

そう、私が渡したのは、家にあった数多くの書の中でもたった1冊だけしか手に入らなかった魔導書。
これだけ広大な図書館であっても、おそらくこの中には20冊そこそこしか存在しない。
魔導書とは例え一冊だけであろうとも、その価値は普通の書の数百、いや数千倍に匹敵する。
そんな貴重なものをタダで他人に、しかも魔法使いに渡す者など普通いるはずもない。

でも、私が持っていてももう使えない。
管理の行き届かない魔導書は自分自身で活動し、何をしでかすかわかったものではない。
もう私には必要のないものだから、だからこそ大切にしてくれるであろうパチュリーに手渡すことにする。

「いいのよ。折角のクリスマスだし。貴方が大事にしてくれれば私はそれで構わない」
「クリスマスだからどうこう言う問題じゃないわよ……。本当に貴方はそれでいいの?」
「気にしないでよ。それに私はサンタクロース。貴方はサンタにプレゼントを貰った、それでいいじゃない」

パチュリーも小悪魔さんも、ぽかんと口を開けている。
まあ、それが普通の反応でしょうね。私だっていきなり魔導書をポンと渡されたら同じことを言うだろうし。



たっぷり20分ほど経って、ようやくパチュリーも納得したのか観念したのか、素直に受け取ってくれた。
私としてもほっとする。肩の荷が一つ下りた気分。

そのまま椅子に座っていると、小悪魔さんがいつの間にか紅茶とシュークリームを差し出してくれた。
丁度良かった、小悪魔さんにもプレゼントがあるんだったわ。

「え、私にですか?」
「はい、これよ」

私が袋から取り出したのは、柔らかなクッション材に包まれた小さな箱。
小悪魔さんは小さく首を傾げると、周囲のクッション材を取り外し、静かに箱を開けた。

「あ、これって……」

箱の中には、綺麗な文様のティーカップと、大きさの違う皿が数枚。
いわゆるティーセットというものだ。

「いつもここに来たとき、貴方だけ客用カップを使ってたでしょう?
 折角図書館の住人なんだから、私用のカップがあってもいいと思ってね」
「ありがとうございます!じゃあ早速使わせていただきますね!」

早速ポットからそのカップにお茶を注ぐ小悪魔さん。
シュガースティックを1本、2本、3本。甘党なのかしら?



図書館での、しばしの休息。
これからの道のりも順調であることを願いながら
私は暖かい紅茶を飲み干した。





 * * *





7時。
最後に美鈴さんと門番隊のみなさんに見送られて、私は紅魔館を後にした。

既に日が昇り始めている。
東の空はぞっとするほど美しい朝焼けで、赤く燃えていた。
その光で湖も、森も、空も、元から紅い紅魔館は更に赤く染めあがる。

朝焼けの場合は、その後天気が崩れる予兆らしく、あまり歓迎されるものではないようだ。
しかしこの美しさは、後に雪が降ろうと気にもならないほどに美しかった。
私の見る最後の夜明けが、ここまで美しいものであるということに、心から感謝した。



さて、先にミスティアやリグルの分も配り終えてしまったから、次のルートは……

あの天狗記者の所、か。





 * * *





9時。
朝焼けに見惚れながらの飛行だったので、随分危なっかしい飛び方をしてしまった。
人形達がいてくれなかったら、ソリから荷物が落ちたことにも気付かないままだったかもしれない。
幸い、人形達が頑張ってくれて荷物が落ちるのは免れたけど。
主として面目ないわね。
ごめんね、とみんなに謝った。



さて、ここは紅魔館から東に位置する山奥。
確かあの天狗は、奥地の池の近くに住んでたはずだけど……。



「スクープ!!!サンタクロースは人形遣い!今宵貴方の家に藁人形が届く!?……で見出しは確定ですねっ!!」

……は!?
ちょっと、ちょっとー!どこから湧いて出たの!写真やめなさいよ!しかも四方八方から撮りまくらないで!
てか何よ藁人形って!ちゃんと私は皆が幸せになるようなプレゼント選んでるっての!
だー!いいからもう写真やめなさいよ!!

「こんな特ダネ逃がすわけにはいきません!フィルムが切れるまで撮影させていただきます!」

いやだから勝手に記事にするなよ!ってなんでローアングルからの写真が多いのよ!?

「このセクハラ天狗っ!いい加減にしないと―――」
「いやーいい写真が沢山撮れました!取材協力に感謝します!」
「協力してねぇ!それじゃ一方的な盗撮も同じじゃない!」
「それでは私はこれで!では!」

一瞬で飛び去っていく天狗。



………堪忍袋の緒が切れたわ。

「上海、蓬莱」

私の両脇に二人を待機させる。
3つの力を一つに合わせて撃つ、それは―――



「―――模倣『マスタースパーク』!!!!!!!!」



ずごぉぉぉ、と空気が震える。
放たれた光の束は、空中の黒い点を捉えて……

「えっ何、何っ!?い、いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………―――――」



ぼむっ。



――――死亡確認。



「し、死んでない……です………」

ばたり。





 * * *





9時30分。
普通にプレゼントを手渡すつもりだったのに、あんなんじゃしばらく目覚めないから
仕方無しに家に運んでやり、その枕元にプレゼントである万年筆を置いてきた。
ついでにメモとして『少しは軽率さを反省なさい。それが今の貴方に積める善行よ』と書いてきた。
はぁ。やれやれだわ、まったく。
……まあ、彼女らしいと言えばらしいんだけど、ね。





さて、次の目的地は……鈴蘭の丘。





 * * *





11時。
鈴蘭の丘は、すっかり花が枯れてしまっていた。
今は花ではなく、雪に覆われ辺り一面が白一色となっている。

その中心に、いた。
くるくると回りながら歌い、踊り、楽しそうに過ごす完全自立した人形。
彼女が両手を大きく広げる度に、雪の下の地面から紫の霧状のものが吹き上がる。
あれは鈴蘭の毒かしら。なるほど、花の咲かない厳寒期は地面に染みた毒を吸い上げるのね。

毒こそあるものの、私くらいの体にはほとんど影響のない濃度らしいので
そのままゆっくりとソリを下降させていく。

「あ、アリスー!どうしたのーそんな格好で」

メディスンが私に気付いて手を振ってきた。
寒さを感じない人形である彼女は、冬である今も初めて会った時と同じ半袖のブラウス姿だった。
見てるこっちが寒くなりそうね。

「メリークリスマス、メディ。あ、貴方はクリスマスは知ってるかしら?」
「知ってるよ、前見せてもらった本に載ってたから」

およそ半年前、魔理沙に連れられて私はメディスンと出会った。
自立した人形というものがどのような思考をしているかが非常に気になったが、
彼女は驚くほど”普通”の考えで、あらゆる人妖達と何ら変わるところがなかった。
そして私は、彼女に知識である本を与え、話を聞かせ、その見返りに観察させてもらうことにした。
最初は観察だったのが、いつの間にか友達になっていったのは、メディスンの陽気な性格のためだったと思う。

「じゃあ、いい子にしてたメディにはサンタからのプレゼントをあげる!」
「本当に?何、何をくれるの?」

ソリに身を乗り出してメディスンが尋ねてくる。
この子は何にでも好奇心旺盛で、興味が湧いたらもう止まらない。

「ちょ、ちょっと待ってメディ。焦らなくても大丈夫、ちゃんとあげるから」

とりあえずメディスンを落ち着かせて、私はプレゼントを探す。
ああ、あったあった。『あの子』だけは袋に入れずに置いておいたんだっけ。
そっと優しく手にとる。
それは、人形。

「わ、何その子。ちゃんと動くの?」

興味津々の目でメディスンが見つめてくる。

「ええ、もちろん。それに、ちゃんと自分で動くことが出来るわよ」

そう、この子はメディスンの観察から得た結果を元に、
なんとか自立して動けるレベルまで作ることが出来た人形。
ただし、『思考する』ことはできず、『状況に応じて判断する』という自動的な行動しかできず、
また自身で魔力の補給を行うこともできない。
だが、もしかしたら―――何の根拠もないけれど、
メディスンと同じように、鈴蘭の毒を浴びていれば、いつか完璧な自立型の人形になるかもしれない。
これは、未来のメディスンへ託す私の希望。
人形遣いとして、私が遺してあげられる最大の形。

メディスンはふわふわ飛んでいうその子に向かって、小さくお辞儀をした。
するとその子も、ちゃんとぺこりとお辞儀を返す。
うんうん、予想以上に可愛い仕草。上海もじーっと見つめている。

「私はメディスン。よろしくね」

喋れない代わりに、うんうんと大きく頷く。
そしてまた、ぺこりとお辞儀。『よろしく』の意味ね。

「あなたの名前は?」

そう聞かれると、一瞬固まったあと、オロオロしだした。
……あー、そうね、この子……

「メディ、実はまだ、この子には名前が無いの」
「え?そうなの?」

こくこくと頷く人形。
うーん、忙しくてこの子を完成させたらすぐ別のことをやってたから……。
あ、でもこれは見ようによってはいいことかもしれない。

「だからね、メディ。貴方がこの子に名前を付けてあげて。素敵な名前を、ね」
「名前……私が?」

うーん、と悩むメディスン。
まだ何かに名前を付けたことがないために、随分と悩んでいるようだ。
時折、あれでもないこれでもないとぶつぶつ言っているのが聞こえる。

5分ほどずっと同じ体勢で考え込んでた後、よし、と言ってメディスンが顔を上げた。
どうやら決まったようだ。さてさて、どういう名前を付けるのかしら?

「貴方の名前は、スズさん!スーさんからとったの、いい名前でしょ?」

鈴蘭のスズ、か。なかなか良いかも。
でもこの子の言うスーさんというのは未だに何かわからない。
いつも隣にいる小さな人形のことなのか、それとも鈴蘭そのものなのか判別できないからだ。
スーさん、スーさんと呼びかけるとき、メディスンの視線はどこかをぼんやりと見つめるようで
はっきりと焦点を合わせようとしない。
だから結局、今もスーさんとは何を指す名前なのかはわからなかった。
……折角だから聞いてみるか。

「ねぇメディ、前から気になってたんだけど、スーさんって誰のこと?」

すると、メディスンは目をくりくりさせて、ぽかんとした表情を浮かべた。

「スーさんはスーさんだよ?それ以外には何とも言えないわ」

……やっぱり最後までわからなかった。
まあ、それもいいのかもしれない。
そっちのほうが自分で考えることができて楽しいかもね。



12時。ついに一日の半分を回った。
そろそろ次にいかなくちゃ。
なんてったって次はあの無縁塚。三途の川の向こうに行くにはどうしようか悩むものだ。
少々時間をとられるのを見越して、早めに向かうことにする。

「じゃあね、メディ。私そろそろ行かないと」
「え?もう行っちゃうの?」

しばらくスズとやりとりをしていたメディスンは、驚いて振り向いた。
随分楽しそうにしてたけど、それも見れるのが最後になるのね。

この子は、私が教えた知識を持って成長していくのかしら。
その成長を見れないことが、とても悲しい。
友達ではなく、それこそ我が子と別れるような心境になり、涙が溢れそうになる。
いけない……ここで泣いちゃ駄目。まだまだ先にいかなきゃならないんだから。

「それじゃ、また来てね!その時までスズさんも一緒にアリスの本で一杯勉強しておくんだから!」
「―――――――!」

……メディスン、それは反則よ。
もう堪えきれなかった。涙腺が決壊し、涙がぽろり、とこぼれる。

「メディ……」
「んむ…………?」

小さな体を、ぎゅっと抱きしめる。
顔を胸にうずめているので、私の顔は見えない。

「メリークリスマス、メディ――――」

最後に、髪をさらりと撫で上げて、手を離す。
……泣き顔を見られたくなかったから、すぐに後ろに振り向いてソリに乗り込んだ。

「またねー、アリス!」
「……”また”ね、メディ」

ソリはぐんぐん上昇していく。
地上で手を振るメディスンの姿は、次第に小さいものになっていった。
それでも彼女は、ずっと笑顔で手を振っていた。

―――また会う約束、守れないわ。ごめんね……。





 * * *





12時15分。
私は無縁塚に向かってソリを進める。
……もう涙は止まったけど、目はおそらく真っ赤になっているはず。
傍目から見ても、ひどい顔と言われるに違いない。



……さっきのメディスンとの会話で、私の中で僅かにある考えが浮かんできた。



プレゼントを渡して、メリークリスマスと祝って、そして……消滅して。
そうなったとき、私のやったことは果たして正しいのだろうか。
散々、相手を喜ばせるだけ喜ばせて、気が付いたらこの世にはもう居ない。
それは単なる、自分の意志を相手に押し付けてるだけではないのか。
もう消えてしまうから、何をやっても構わないという自己中心的な考えではなかったか。
だとしたら……、私が消えてしまったら、それはメディスンやみんなへの裏切りに他ならない。

私は血の気が引いていくのを感じた。
そうだ、あの時―――レティとの別れ際に、彼女が半分呆れ顔でいたのはこのためだったのか。
言いたいことを言って、やりたいことをやって、他人に笑顔を押し付けて、消えていく。
一時は幸せにもなろう。だけど、その後は?
……大げさに言えば、私が消えて悲しむ人を増やすだけの結果に終わるのでは?

怖い。
自分のやっていることが、惨めで、薄汚い自己表現そのものにしか見えないことが。



結局私は―――――誰かに覚えてもらいたかっただけ。





「こら、自殺者は受け付けてないぞ。帰った帰った」

突然、前方から声をかけられて我に返る。
その先には、赤毛に巨大な曲がり鎌を持った死神が。

「というか自殺志願者にしてもまた変なカッコだなぁ。……あー、それはアレか、噂のサンタクロースってやつか?」

一人で勝手にぺらぺたと喋っている。
……ああ、ずっと考え事をしてる間にいつの間にか無縁塚に到着してたみたい。
―――でも、こんな表情でどうやって話せばいいのかしら。

「あらあら、サンタの真似事なんてどうしちゃったのかしら?泣き虫魔界人さん?」

……え。
この声は、まさか……。

「あ……貴方………」
「くすくす、思い出したかしら?お久しぶりね」

うわぁ……な、なんでよりによってこんな所にいるのよ。
幻想郷に来てからずっと見てなかったから、もういないものだと思ってたのに……。

「あー、こいつと知り合いか?だったら何とかしてくれないかなぁ、仕事の邪魔ばかりして困るんだ」
「あら、どうせ私がいなかったらサボるだけでしょう。貴方の仕事というのは休息のことかしら?」
「あ、あたいはサボってなんかいないってー。ただマイペースに仕事してるだけだし」

……なんか話に聞いてた通りの死神だわ。
それはマイペースという言葉の使い方が間違ってるわよ絶対。

「ほーら、そんなことばかり言ってると上司がまたお叱りに来るわよ~」
「いや、四季様は今日はデスクワークが忙しくて、あたいは四季様のためにわざとゆっくり……」
「こらっ!!またサボってるわね小町!!」

不意に中空に現れた黒い渦から飛び出した弾幕が見事に小町を直撃。
当たり所が悪かったのか、きゃん!と悲鳴を上げて前に倒れこんだ。
……なんかピクピク痙攣してるけどヤバくないかしら、アレ。

「あら、貴方はアリスさんね。それに―――幽香さん。貴方はちゃんと私の言いつけを守ってるかしら?」
「言いつけ?そんなもの守る必要も無いわ。なんで私が弱い相手の言葉を聞かなきゃならないのよ」

うわ、閻魔様相手にどういう挑発よそれ。
その一言だけで明らかに怒りのオーラが出てきてるんですが……。これは、怖い。

「ほう―――それでは貴方は、私が上であることを認めれば言いつけを守る、と解釈していいのね?」
「あら、やるつもりかしら?言っとくけど、死神も閻魔も神様も、私からすれば恐るに足らない存在よ」

……閻魔様、背後からどす黒い何かが湧き上がってくるのが見えるんですが……。

「……いいでしょう。思い上がった貴方を更正させるには、手荒なことをせざるを得ないようね」
「ふん、やってみなさいよ。私に勝てると思っている貴方こそ思い上がりを認めなさい!」

……あー、あーーーー。これはマズイ。
よりにもよってクリスマスに弾幕されるのはまっぴらよ。
しかもこの場にいるとほぼ間違いなく巻き込まれる。
こうなったらもう止めるしかない、わね……。

「はいはい、ストップストップ~」

丁度二人とも弾幕を張ろうとする直前でなんとか止まる。
今此処で発射されたら私は弾幕のサンドイッチになっちゃうわよ。

「えー、少なくとも弾幕目的でここに来たわけじゃないし、こういうのは控えてくれると助かるんだけど……」

……うう、二人の視線に射抜かれるのが辛い。
この膠着状況のど真ん中に飛び込むのははっきり言って無謀だったかも。
片や幻想郷で最強クラスの妖怪。
片や全てを見通す裁判長の閻魔様。
二人の間にいるだけでも空気がピリピリと肌を刺して痛い。

「あら、私は暇つぶしが目的だから、全然構わないんだけど?」
「―――いや、やはり止めておきましょう」

おお、さすがは閻魔様。
ちゃんと物事に白黒、いや判別つけることができる人で助かった。

「あら、逃げるのかしら?」

やっぱり挑発する幽香。あんた、血の気多すぎよ……。

閻魔様は、ふと私に目を合わせる。
……暫くの間、目が合ったまま固まる。
な、何?私の顔に何か付いてる?

しばらくして、突然閻魔様は幽香に向き直った。
先ほどとは違った、強烈な威圧感がある。

「―――仕事の邪魔です。今日は帰ってもらえないかしら」
「……仕事ねぇ、そうじゃないでしょ。その子にお説教するつもり満々じゃない」

え、私お説教くらうの?な、なんで。

「……判っているなら話は早いでしょう。帰ってください」

肯定されてるし。
やっぱり私、何か悪いことしたのかな……。

それで、今まで不適な笑いを浮かべていた幽香は、突然不愉快な表情になった。

「……あーあ、興が削がれたわ。仕方ない、適当にその辺のやつをいじめてくるとしますか」

幽香は傘を広げると、そのまま風に乗ってどこかに行ってしまった、
ああ、あの妖怪に誰も捕まりませんように、と祈るしかない。
いじめ、カッコ悪い。





「さて、アリスさん」

私は今、何故か閻魔様のオフィスに通され、机を挟んで向かい合った状態で座っている。
一体何を説教されるのかしら……。

「あなたは今、何かに挫折しかけている。そうね?」

……………えぇぇぇぇ。
なんで判ってるのかしら……。
もしかして、さっき見つめられていた時に記憶を覗かれでもしたの…?

「あの……」
「何で判ったか、と言いたいようね。勘です」

か、勘なの。

「長年この仕事をやってるとね、判るようになるんですよ。
 貴方は今、迷っている。一度踏み出した道に対して疑問を抱き始めている」

……勘ってここまで正確にわかるものなのか。
どっちにしろ、この人はまるっとお見通しらしい。

「……自分で正しいと思ってたことなのに、急に不安になったんです。
 私はもしかしたら、凄い身勝手をしてるんじゃないだろうか、って」

閻魔様はしばらく考えている。
というか、私の目的とかは知らないだろうけどちゃんと話が噛み合うのかしら。

「……ならば、一つだけ言っておきましょう」

真正面から見据えられる。
思わず緊張して、背筋がピンとなる。

「迷わずに進みなさい。あなたがくよくよしてると、みんなも嬉しくなんかないでしょう」

そう、はっきりと言ってくれた。
……なんだろう、ただそれだけなのに、肩の力がすっと抜ける。
なんで自分が迷ってたのかすらわからなくなるほど、晴やかな気分になる。
ああ、これが噂に聞いてた”白黒はっきりつける程度の能力”なのか。
迷っている者を導く閻魔様なんて……やっぱり凄い人だったのね。

「……わかりました。お陰で迷いが無くなりました。
 ―――私は、私の決断を信じます」

すると閻魔様はとても優しい笑顔で、

「頑張りなさい、サンタさん」

と言った。

………ああ。
自分がサンタの格好をしてるのも忘れてたわ。
この服を作っているとき、迷いなんてあったかしら。
……そう、ならば後はもう、自分を信じて進むだけ。
途中で頓挫するなんて、それこそ裏切り者だわ。

「ところで」

閻魔様はデスクに肘をついて組んだ両手の上に顔を乗せ、私をじっと見てきた。
……大体言いたいことは解る気がする。

「私にプレゼントは無いのかしら?」

……でもまさか睨むような威圧感を持って喋られるとは思わなかった。
この人、公私分別が極端すぎるよ……性格が変わってるし。

「ちゃ、ちゃんと持ってきましたよ」

『ならば良し!』と言いたげな表情を浮かべる閻魔様。
いや、今は閻魔ではなく四季映姫・ヤマザナドゥと言ったほうがいいのか。
霊夢とか魔理沙は山田とか言ってたけど………

「山田………?」

ピクピクッ!とこめかみに血管が浮き出る四季映姫。
………あ、貴方絶対心読んでるでしょぉー!!

「な、何も言ってない!何も考えてないからっ!!」

あーこわ。なんか下手したら舌抜かれそうな気がする。
さっさとプレゼント渡して去りたくなってきたわ……。
えーと、あったあった。これね。

「はいっ、どうぞ」

私が取り出したのは、ガラスの小瓶に乾燥した葉や根、種などが入ったもの。
いわゆるポプリという室内香だ。

「あら、いい香り」
「ラベンダーをベースにリラックスする香りを組み合わせてみたわ。
 仕事が忙しいらしいから、これで気分をリラックスさせてくれればと思って作ったの」

閻魔の仕事は基本的に休みが無い。
三途の川を渡ってきた死者を裁き、仕事内容をメモにとり、サボリ死神をお仕置きし、説教をして回る。
……後ろ二つは仕事かどうか怪しいけど。
とにかく、このポプリはその匂いを嗅ぐだけで気持ちを落ち着かせる効果がある。
忙しくて疲れた時などに特に良い効果を発揮できるはず。

「……ふぅ、確かに落ち着くわね。
 ありがとう、私にピッタリのプレゼントだわ」

とても穏やかな顔で微笑む彼女。
……うん、私から見てもピッタリだったと思う。いろんな意味で。

あと、例のサボリ死神にもプレゼントがあるんだけど……。
まださっきのお仕置から立ち直っておらず、ここの隣の部屋で寝込んでいる。
仕方ない。このプレゼントは上司の方に渡しておくとしよう。

「これ、あの死神さんへのプレゼント。よかったら貴方から渡してもらえないかしら」
「へぇ……この中身は?」
「懐中時計」

要するに、『サボってばかりいるなよ』というメッセージを込めたものなのだが。
それを解したのか、四季映姫は思わず笑った。

「あははは……これは小町にピッタリね。これ以上ないって言う程に」
「でしょ?」

ぷっ

あはははははは………



二人とも、大きく笑った。





 * * *





14時20分。
まさか話に捕まるとは思っていなかったので、かなりの時間がかかったものの
お陰で気分もすっきり晴れたし、張り切って次にいくとしよう。


ここから北西に向かってソリを進める。
次は……永遠亭。





 * * *





15時30分。
竹林を抜けて永遠亭に到着する。
あそこの竹林は迷いやすいので、かなり上空から近づいていくことにしたのが正解だった。
意外なほどにあっさりと発見できた。

入り口前にソリを停める。
さて、どうやって入ろうかしら?
ここに住んでいる薬師と月兎は鈴蘭の丘でよく会うので、
それに頼って入りたいところだけど……。

「あれ、あんた誰?」

あら、いつの間に。
正面入り口のところに、白いワンピースを来た兎がぴょこんと顔を出している。
あ、丁度いいかも。この子に永琳さんを呼んでもらう事にしよう。

「あの、良かったら永琳さんを呼んでもらえないかしら?」
「何、永琳さまに用?それにその格好……えーと、たしかサンタクロースっていうんだっけ?」
「うん、まあそう。あ、それとも貴方が許可してくれれば中に入れてもらえるのかしら」
「えー、できるけどやだよ。私が案内して中で暴れられでもしたら私の責任になるんだから」

暴れるって何よ。
まあ、『傍から見たら不審者』ってのは案外当たりかもしれない。悲しいけど。

「じゃあ仕方ないわ。やっぱり永琳さんを呼んでくれない?」

すると突然、その子はギロリとこっちを睨んで―――

「だが断る」
「ナニッ!」
「この因幡てゐの最も好きなことの一つは、自分を頼っている奴に”NO”と断ってやることだ……」

あ、悪趣味ーっ!
いくらなんでもそれはあんまりよ。折角ここまで来たっていうのに……。

「ねぇ、頼むから入れてくれないかしら」
「……人に物を頼むときには大事な言葉が必要だろう?『お願いします』が!?」

貴様聞いておればつけあがりおって!
だが今は四の五の言ってる状況ではない。

「……『お願いします』、中に入れてもらえないでしょうか、因幡てゐさん」
「OKOK、じゃあ中にいらっしゃい」

ふぅ、やっと入れるのね。
せっかくプレゼントまで用意してここで入れなかったらどうしようも―――



「みーんなーーー!!!サンタがプレゼントもってきてくれたぞーーー!!!!」



うわびっくりしたっ!
そんな叫ばなくともちゃんと姿を表す………って

「えーほんと!?」
「プレゼントは!?プレゼントは何!?」
「そのサンタクロースはオレノモノダー!!」
「性欲をもてあます」

がらっ!がらがらっ!ピシャッ!

一斉に屋敷の障子が開いていく。
………いやー、やっぱりうさぎ達が多いわね……ってあんたら、ちょっとたからないでよ!
あーこら!どさくさに紛れて帽子を取るな!袋を持っていこうとするなぁ!!
あー!服が脱げちゃう!引っ張らないで!
だ、だから飛びつくな……って、うわぶっ!?

「た……助けてぇ………」
「あー、ちょっとやりすぎたかな?ほらほらみんな離れる離れる」

てゐがぱんぱん、と手を叩くと、次第にみんな静かになって離れていく。
あー……助かったけど、服が乱れちゃったわ……。スカートもずりおちる直前で恥ずかしいったらもう……。

「はい、貴方達には厳選した人参をあげる。5本ずつね」

私がそこに人参の入った袋を開けると、その瞬間またうさぎ達が殺到してきて……。

「またかよー!!!!」

ホント勘弁してください……。

とりあえずドサクサに紛れてスカートを脱がそうとする性欲兎はドールズウォーで昇天させておいた。






部屋に通されて、いきなり驚いた。

「おや、アリスじゃないか。サンタに転職したとは私の歴史にも載っていないな」
「その袋の中には蓬莱人を調べるための怪しい道具を入れてたりするんじゃないでしょうね」

……あれ?なんで犬猿の仲のはずの妹紅と慧音が、てるよや永琳さんや鈴仙と一緒に鍋を囲んでるの?

「ちょっと待って!なんでウドンゲは名前で呼ぶのに私はてるよなのよ!」
「やーいてるよてるよー」
「てるよ言うなぁぁぁぁ!!」
「姫、落ち着きが無いからカリスマがないとかてるよとかチビとか言われるんですよ」
「ちょ、最後にさりげなく関係無しに酷いこと言わなかった!?」
「姫~、とりあえず興奮して私の耳を握り締めるのはやめてくれませんか、痛くて……」
「うるさいだまれ」

随分みんな仲良さそうなんだけど……。

「ねぇ慧音さん、輝夜と妹紅って仲が悪かったんじゃないの?」
「ん、まあ犬猿の仲というが―――丁度、お前と魔理沙の関係に似た感じだな」
「みんなツンデレなんだねぇ~」
「「「誰がツンデレだ!!」」」

とりあえず余計なことを口走ったてゐを三人で同時にノして黙らせておくことにする。

そろそろプレゼントタイムとしますか。
うさぎ達にはもう人参渡してきたし―――まだ庭のほうで争う声が聞こえるけど―――あとはここにいるメンツだけね。
しかし慧音や妹紅も一緒にいるなら、またもここで時間が省ける。
計算が狂う。嬉しい誤算だ。

「じゃあとりあえず、みんなにプレゼントを持ってきたから、今あげるわね」

がさごそ袋を漁る。
もう紅魔館のクッキーや、ここ永遠亭の人参という重い二袋が消えたお陰で
残すはこの一袋のみ。もう一息だ。頑張れ自分。

じゃあまずは、輝夜と妹紅に。

「はい、これは輝夜のね。で、こっちが妹紅の分」
「なんだか小さいわね。これだけなの?」
「やましいわよ輝夜。貰ったことに対して有難うも言えないのかしら?
 今開けてもいいの?これ」
「いいわよ、遠慮なく」

では、と早速びりびりと包装紙を破く輝夜。
妹紅は破らないように綺麗に紙を外していく。
……この二人、生まれる立場を間違った気がするような。

「あら、かんざし?」
「こ、これはいいものだーっ」

輝夜には、蓬莱の玉の枝を模したかんざしを。
妹紅には、琥珀で出来た櫛をプレゼントした。
常日頃思ってたのだけど、この二人は髪がとても綺麗なのだ。
艶やかで静的な輝夜の黒髪と、流水のように動的な妹紅の蒼銀の髪。
同性の私ですら魅力的に思える髪を彩るものは、きっと良いはず。
特に妹紅はあまり髪の手入れなんかしないそうだし、勿体無さ過ぎる。

「気に入ってもらえたかしら?」
「ええ、気が向いたときに付けさせてもらうわ」
「ありがとう、家の宝として大切にとっておくよ」

使わないんかい。てか売らないでね。



さて、次は鈴仙とてゐと、それに慧音の分ね。

「はい、これが鈴仙の分。これはてゐで、あとこれが慧音さんの」
「わぁ、ありがとう!」
「私にもちゃんとくれるのね。ありがとー」
「ああ、私もまさか誰かからプレゼントを頂けるとは思っていなかった。ありがとう」

三人とも笑顔で包みを開けていく。
永遠亭のプレゼントは全体的に小物が多い。

「あ!これ可愛い!」
「どれどれー、おー。これは髪飾り?」
「………リボン?」

鈴仙はウサギの顔がついたネクタイピン。
意外とこういう可愛い小物が好きとのことなので用意してみた。
てゐはニンジンの髪飾り。
イタズラっ子で嘘つきだけど、愛嬌はあるものだから
それを強調するようなものを考えてみた。
慧音のリボンは、もちろん……

「あ、それ変身したときのもう片方のツノ用に」

言った瞬間、何故かみんな固まる。
アレ……私何か悪いこと言った?
呆然としていると、てゐが凄い形相で私につかみかかってきた。

「な、何考えてるのよぅ!ただでさえ変身したらあんな外見なのに、あのキモさを強調することになるじゃない!」

キ、キモさってあなた……。

……あー、あなたの背後から凄いオーラをひしひしと感じるんだけど。
満月も出てないのにツノを生やし、ふしゅぅぅぅぅと怪しげな呼吸をする慧音。
その両のツノには、先ほど私がプレゼントしたリボンも一緒に……。

うん、てゐ、あなたの言ったことは正しかったわ。

でもね、それは口に出してはいけない言葉だったのよ―――――。



「掘る~~~~!!!!!!」
「きゃぁぁぁあぁあぁああぁぁぁぁあぁぁあああ!!!???」





再び降り始めた雪が、散っていったてゐを表しているようで、涙を誘った。





「永琳さん永琳さん、ちょいとこちらへ」
「ほほう、なんですかいな、アリスさんや」

とりあえず部屋の外に永琳さんを呼び出す。
彼女へのプレゼントだけはおおっぴらに渡すわけにはいかない。
なぜなら……。

「はい、これが貴方へのプレゼントです」
「………ええ、実によくわかってるわね。パーフェクトよアリス」
「感謝の極み」

私が手渡したのは、可愛らしい人形一つ。
しかし、ただの人形ではない。
……この人形、夜になると仄かに香りをだす。
その匂いを嗅ぐと、エッチな気分が昂ぶってしまうのだ!!

「ふふふ、これを鈴仙の部屋に置くなりなんなりして……」
「最高ね貴方。永遠の時を生きていく中でも、この恩は必ず忘れないわ」

言ってることは最上級の感謝だけど、ニヤァァと笑う顔が全てぶち壊し。
人形達からの報告が「好きなもの:ウドンゲの全て ウドンゲ愛してる ウドンゲ萌え 襲いたいハァハァ」
と謎の電波も受信してしまっていたのでついカッとなって作ってしまった。
人形遣いとしての道を踏み外してしまった気がするわ。
ちなみに反省は全くしていない。





永遠亭一同と妹紅と慧音のみんなに見送られながら、私はソリを上昇させる。
恐らく夜には一室から嬌声が聞こえてくるであろう屋敷を尻目にそそくさとその場を去った。
さらば、鈴仙。





 * * *





16時30分。
永遠亭ではきっちり一時間かかったようだ。
さて、私は今現在どんどん高度を上げている。
何しろ、次の目的地は雲の上。

そう―――白玉楼。





 * * *





雲を抜け、天上の冥界へソリを進める。
もう後部に積んであるプレゼントはあと一袋のみで、荷物の代わりに人形達が乗っている。
何しろ雲の上は、地上では考えられないほどに風が強い。
このソリの周囲には強風を防ぐ結界を構築してあるが、そこから少しでも外れると
あっという間に風にさらわれてしまうからだ。

白玉楼の階段についたところで、少し止まって振り返った。



―――――気付かなかった。

透き通るように、それでいてどこまでも深い、美しい夕焼け。

そうだ、ここは雲の上。視界を邪魔するものは何一つ無い。
山のように隆起した雲が白い荒野を形成し、地上と全く違う世界を生み出す。

ここは……正に天国だ。

17時20分。
夕日に包まれながら、私は冥界へと足を踏み入れた。





 * * *





「あれ?アリスさんいらっしゃい。クリスマスおめでとうございます」
「……妖夢、違うわ。そこはメリークリスマスって言うのよ」
「ぇえっ、そうなんですか?」

最初に私を迎えてくれたのは、庭師の妖夢。
いつもの格好にいつもの二本の刀。だけど、今日はちょっと違うところがあった。

「あの……その帽子、どうしたの?」

彼女の頭には、私と同じようなサンタクロースの帽子が。
まだ幼さの残る彼女にはやけに似合っている。

「幽々子様が、今日はクリスマスだからと言ってちんどん屋を呼んで演奏会をされてるんです。
 それで、私にはこれを被れ、と仰って」

ちんどん屋と言えばプリズムリバー三姉妹。
よかった、今日はなんて幸運なのかしら。
あの姉妹の住んでいる屋敷はまた少し離れたところにあったから困ってた。

「ところでアリスさんこそ、その格好……どうしたんですか?」

ああ、私もサンタの格好ね。
もちろん、プレゼントを配ってることを簡潔に説明する。

「貴方がサンタクロースに?うーん、蒐集家の貴方としては考えにくいですねぇ」
「やっぱりそう思うかしら?」

あはは、と笑い合う。
軽く談笑しながら、私は幽々子の元へ案内された。



「幽々子様、アリスさんがお見えになられましたよ」
「あら?いらっしゃい。丁度良かったわ、ちんどん屋もいることだし、貴方も人形劇でもしてみない?」

時間さえ許せば披露したいけど、そこまでの余裕は残念ながら無いので仕方無しに断る。

「やぁアリス。メリークリスマス」
「アリスちゃんだ~。わ、その格好似合ってるよ!」
「おっと、その袋の中身はもしかして!?」

音楽を演奏しているちんどん屋、プリズムリバー三姉妹。
私は過去に何度かここ、白玉楼に呼ばれて彼女達と共に
人形劇を披露したり、音楽に合わせて人形達を躍らせたりなどして
彼女達と共演したことも数回あるので割と面識がある。

「その通り!貴方達だけじゃなく、ちゃんと幽々子さんや妖夢にもプレゼントを用意してるわ」
「えっ、私にもですか!?」
「あらあら、私が貰えるとは思ってなかったわ」

早速袋の中身を取り出す。
全員分のプレゼントを外に出すと、もう袋に残っているものは僅かしかない。

「まずルナサ、メルラン、リリカの三人にはそれぞれこの子達をプレゼントするわ」
「ふむ、人形?」
「人形だ~」
「人形だねぇ」

私が取り出したのは、三人の衣装を真似て作った格好をした人形たち。
もちろん私が作るからには、ごく普通の人形であることは無い。

「この子たち、楽器の演奏に合わせて踊ったり、タンバリンやカスタネット程度の楽器なら鳴らすこともできるわ」

そう、この子達はいわば演奏のアシストや、雰囲気を盛り上げるための役を果たす。
私の代わりに、更に三人の演奏に華を添えられれば、と思って作ったものだ。

「あと幽々子さんと妖夢には、これを持ってきたわ」
「これは……巻物?いや、これは水墨画ね」
「あれ、私のだけクッション材につつまれてる?」
「ふふふ、開けてみて頂戴」

幽々子さんには一枚の水墨画。
私は画には詳しくないのだけど、見た瞬間に幽々子さんにはこれしかない!と即決したものだ。
そして、妖夢のはというと―――

「こ、これは…………御師様……?」

そう、妖夢の師匠であり祖父である、魂魄妖忌の彫像だ。
幽々子さんが描いていた肖像と、妖夢から聞いていた話を元に
四苦八苦しながら彫り上げた一品。
決して出来が良いとはいえないほど荒々しい出来だけど。

「あ、ありがとうございます!本当に凄いです!」

興奮して頭を下げる妖夢。
この子がこんなに興奮してるところ、初めて見たわ。

「よかった、似てなかったらどうしようかと思ったわ」
「いえ、凄くそっくりです!驚きました……」

よかったよかった。思わずほっと胸をなでおろす。
さて、幽々子さんのほうはどうかしら。

「あら、これは雲の上―――?」

その水墨画は、丁度さっき私が見てきた、雲の上の夕日をそのまま表したようなものだった。
色こそついていないが、あの景色の雄大さと美しさがよく表せているものだと思う。

「どうですか?気に入ってもらえました?」
「ええ、この上なく。有難く頂くわ」

ふっと私に微笑んでくる幽々子さん。
ああ、なんだか包み込まれそうに暖かくて、ほっとしてしまう。
時折、本当に幽霊なのか解らなくなるほど生に満ちた仕草に惹かれる。
もう死んでるから、生きていると言えるかわからないのだけど、
こんなに楽しそうに日々を謳歌する姿を見て、うらやましい、とすら思っていた。
もっと早く、自分に素直になっていれば、私もこのように笑えてたのかな。



「ところで……試しに弾いても良いかしら?」

人形を前にして、ルナサが私に尋ねてきた。
うーん、なるべくなら急ぎたいんだけど、でも折角だから聞いていきたいし。
この三姉妹の屋敷に行く時間が省けたから、少しの間は聞いていけそうだけど……。

「では一曲弾いてあげて。急いでいるようだから手短にね」

私が悩んでいるのを見て、ルナサに指示する幽々子さん。
やっぱりこの人の観察眼はすごいわ。
―――それとももしかして、私って考えが表に出やすいタイプ?

「では―――」

ルナサが人形に向かってお辞儀をすると、人形もぺこりとお辞儀を返す。

「かわいぃ~」

メルランが目をキラキラ輝かせて見つめる。
どうやら彼女の好みだったらしい。よかったよかった。



静かに、ヴァイオリンの音が流れ出すと、人形は静かにステップを踏み始める。
最初は静かな音色に合わせて、妖精が舞うようにひらり、ひらりと踊る。
少しずつメロディが高ぶってくると、ぴょんと跳ねたり大きく回ったりと、大胆に動き回る。
リズムとピッタリで、動きと音が完璧に一致している。
それは当然のことだ。
なぜならこの人形達は、三姉妹の波長を受けて動くようになっている。
つまり今、ルナサが頭の中に浮かべているメロディや音の強調などを敏感に感じ取り、
前後の曲の流れと合わせて自然な動作を模索し、それを実行する。
つまり、今踊っている人形は、演奏者であるルナサの一部でもある、というわけだ。

きゅん、と音がうねる。
同時に、くるんとその場で回転する人形。
音と同調し、溶け合って、一つの劇を生み出す。

曲が盛り上がりを見せたところで、メルランがトランペットを吹き鳴らす。
躁の音を操る彼女の曲に合わせて踊る人形は、やはりダイナミックな動きが多い。
高音が一つなるだけで、ぴょんと飛び跳ねる。
ぴょん。ぴょん。
地に足がついている時間のほうが短い。
やがて人形はふわりと宙に浮き、せわしなく飛び回りながらくるくると踊る。
そこへリリカのキーボード演奏が始まった。
ルナサとメルランのそれぞれのメロディを引き立てつつ、
それを更に一つの音楽として纏め上げる。
リリカの人形もそうだ。
地で比較的静かに舞う人形と、宙でせわしなく踊る人形の間に立ち、
それぞれを強調し、引き立て、完璧に一つのものとして統合する。

この瞬間、三姉妹も、音も、人形達も、全てが一体となっていた。

……なんだか、とても美しかった。
完璧な演奏と、狂いの無い舞。違和感無く混ざり合う全ての要素。
生の演奏でありながら、『生』を省いたその光景は、
正に幻想の宴、と言うに相応しい。

茜色に染まっていく空。
その中で舞う人形達。演奏する三姉妹。
逆光でシルエットとなった姿で、クライマックスを弾きつづける。
人形達は手を繋ぎ、宙で回る。
高らかに鳴るトランペット。思い切りかき鳴らされるヴァイオリン。最後まで一体感を崩さず鳴り続けるキーボード。

そして、曲が終わり。
私は生涯で一番の拍手を贈った。





 * * *





18時30分。
最後に幽々子さんが舞の代わり、と言って無数に呼び起こした、花びらのような
夥しい数の光の蝶と、幽々子さん、妖夢、三姉妹に見送られ、私は冥界を後にした。

既に日は沈み、西の空が僅かに赤い色を残している。
雲の下は既に真っ暗だろう。視界が悪いのは覚悟しなければならない。

さて、残りは3箇所。
次に向かうのは、博麗神社か、それともマヨヒガか。
距離的にはあまり変わらない。それならどちらへ行っても時間的には変わらないかも―――

―――神社に行こう。
あそこは、不思議と人妖が集まる場所。
もしかしたら……。





 * * *





19時10分。
博麗神社に到着。

……いる。
居間の方から賑やかな話し声が聞こえてくる。
間違いなく、あの隙間妖怪の一家がいるのはわかる。
でも、それ以外の気配がする。
誰だろう、もしかして魔理沙?
いや、違う。誰だろう?

「そこに誰かいるの?」

聞こえてきたのは霊夢の声。
流石と言うかなんと言うか、私の気配に即座に気付いたらしい。

障子が開く。
中から出てきたのは、いつもと変わらない博麗の腋巫女。

「今、腋って言われた気がするわ」
「気のせいよ。間違いない」

なんか皆に考えを読まれてる気がするけど、今回はまあ霊夢だし。
この一言で片付けられるのが霊夢の凄いとこだと思う。
それこそ「まあ勇次郎だし」と同じレベルで。ところで勇次郎って誰?

「どうしたの霊夢、寒いから早く閉めてよ」
「紫様、寒いからって炬燵に潜らないでくださいよ。私のスペースが…」
「うにゃーッ!舌が、舌やけどしたぁーっ!!」

居間の中からは、あのスキマ一家の声が。
あ、いい匂い。みんなで鍋を囲ってるみたい。いいなぁ。

「あー、文句も言われてることだし、用があるなら中に入る?」

後方を親指でくいくいと指す霊夢。
もちろん入れてくれるなら喜んで入らせていただきます。
雲の中を通ってきたばかりで寒くて仕方が無いの。


「ん~…?あら、人形遣いじゃない。ちゃんと鍋の具は持ってきたの~?」
「紫様、あの袋は食材ではないと思うのですが……」
「わー!それがサンタさんの衣装?私初めて本物見たよー」
「はむはむ」


服に付着した雪を払い落として、靴を脱いで上がらせてもらう。
部屋の中央には炬燵が一つ。
あまり大きくないその上には土鍋があり、それを皆で囲っている。
炬燵に潜り込んで丸くなってるスキマ、それに追われるように渋々体を引く九尾狐、鍋で舌を火傷して涙目の黒猫。
そして、もう一人いる。………なんでだろう、このメンツと関係無さそうなのに。

「あー、橙それいらないの?私にちょうだーい」
「ああー!駄目だよルーミアちゃん、熱いから冷ましてるだけだよ!」

明らかに一人だけ大きい器を持って、それに具を山盛りにしてガツガツ食べてるのは
白黒二色の食いしんぼルーミア。
うーん、どういう経緯でここにいるのかしら。
橙と友達だったりするのかな。
霊夢に聞いてみるとしよう。

「ああ、ルーミア?彼女、神社のすぐ裏手に住んでるのよ。普段からよく遊びにくるわ。
 鍋の匂いにつられてやってきたみたい」
「来て正解だったよー。珍しいトリ肉にありつけるなんて」

霊夢と友達だったのか。意外な交流関係もあるのね。

……って。

…………”珍しい”トリ肉?

「あ、あ、あああああ…………」

ルーミア、貴方が被ってるその帽子はもしかして………



「雀ってのも意外と美味しいんだねぇ」



いやぁぁぁぁぁぁミスティアーーッ!!!
夜中に見たときはあんなに安らかな寝顔だったのに、こんな、こんな形で再開するなんてー!?
つーか何やってたのよレティ!貴方、今日は家でみんなとパーティするんじゃなかったの!?
そ、それとももしかしてここのメンツが全員で攻め入ったとか……?

―――私の脳裏に浮かぶ、湖畔の血に染まった家の姿。
たった一羽の雀を残して、他の者達は、全て―――

「あぁぁぁぁンまりだァァァァァ~~~!!!!」
「うわっ!?どうしたのよアリス!!?」
「どうもこうもないわよこの鬼畜巫女っ!オニ!悪魔!腋露出狂!」
「何よそのいいがかりはっ!?説明くらいしなさいよ!あと腋言うな!」

ついカッとなって10分くらい口論を続けたのち、最後は紫のスキマパンチを両者くらってダブルKO。
寝付けないわ~、と不機嫌そうな顔を浮かべながら起き上がる姿がムショーに腹が立つ。

オノレ、いたいけな少女を攫ってきて鍋にぶち込むあんたたちなんて……

「うぅぅぅぅ~~~、はぐぅぅぅぅ~~~~……」
「……今度は泣き出したぞ」
「ら、藍さまぁ。この人どうしちゃったんですか?」
「んー、鍋食べる?おいしくて元気になるよー」

はい、と皿を差し出してくるルーミア。
その心遣いは有難いわ。でも、でもね………。
今はその行動は、私には追い討ちにしかならないのよ……。
皿から覗くトリ肉が、私にトドメを刺した。

「うわぁぁ~ん、ミスティアーっ!」
「うにゃ!?み、ミスティアがどうしたの?」
「えー……?あ、アリス。貴方もしかして、ミスティアを具にしたと思ってる?」
「……ふぇ?」

違うの?
だって珍しいトリ肉、雀、そしてルーミアが今も被ってる帽子……。
どう見ても食べられたあとです。本当にありがとうございました。

「あの鍋に入ってるのは普通の雀よ。橙が持ってきたの」
「……そうなの?」
「そうだよー。私が捕まえてきたんだ」

な、なんだ。普通の雀か。
でも、じゃああの帽子は一体何なのよ。
ミスティアが愛用してる、ヘルメットのような形のあの帽子。

「ああアレ?やっぱ鶏肉と言えばあの子かなーと思って、冗談で用意したのよ」
「わざわざ冗談で用意したの!?タチ悪すぎよ!やっぱあなた悪人だわ!」

本当にタチが悪い。悪すぎる。
タチというより縁起が悪い。
……ミスティア、貴方は立派よ。だから強く、強く生きなさい。
心の中で祈りを唱えて、私は一息つく。

やがて霊夢が、悪人で悪かったわね、と言いながら膨れっ面で皿を用意してくれた。
時間の余裕が生まれたので、折角なので鍋をいただいていくことにしましょう。




「ふー、鍋なんて久しぶりに食べたわ」

とりあえず食べれるだけ食べて、大きく息をついた。
霊夢とルーミアは未だに箸を勧めている。

「まああんたは洋食派だから普通食べないでしょうしねぇ。あ、紫。そこの豆腐とって」
「よく食べるわねぇ。そんなに食べると太るわよ」
「食べた栄養分を全部胸に集中させるから大丈夫よ」
「少なくともビタミンや鉄を多くとっても胸は大きくならないよ。健康にはなるが」
「ふにゃ~、こたつ、あったかい……」
「ふわ~、なんだか私も眠くなってきちゃった……」

大きくあくびをする橙とルーミア。
ああ、どうせなら眠ってしまう前にプレゼントを渡しちゃうか。
ごそごそと袋からプレゼントを出す。

「さっきから気になってたんだけど、やっぱりサンタの真似かしら?それ」

紫に尋ねられる。
真似じゃなくそのものだと思っていただきたいわ。

「中々似合ってますよ」

藍さんに誉められた。
あ、そう言えばこの服を誉められたのは今が初めてかも。

「どうも有難う。そのお礼というわけじゃないけど、みんなにプレゼントがあるの」
「え!私にもちょうだい!」
「えー私には?ねぇ、ねえー!」

わっ、びっくりした。
今まで半分寝ていた橙とルーミアが飛び起きてきた。
流石このあたりは典型的な子供の反応だわ。

「大丈夫大丈夫、ちゃんとルーミアの分もあるわよ」
「ほらほら二人とも、離れなさい。迷惑でしょう」

霊夢がそう言うと、二人とも素直にはーいと離れてくれた。
あら霊夢、以外と子供の扱いには慣れてるのかしら?
ルーミアとはよく会うみたいだから、その辺はよくわかってるのかも。

まずは、八雲一家の分から。
3つの包みを袋から出す。全てが同じ大きさで、表面に相手の名前が書かれている以外では
包みの外からどれが誰のものなのかを判別することはできない。

「これが紫、これが藍さん、そしてこれが橙の分よ」

順々に手渡していく。
包みは軽い。それでいてふわふわした感触のものであることが包み紙の上からでもわかる。

「ありがとー!開けてみようっ!」
「こらこら待ちなさい橙。こういうのはちゃんと相手に聞いてからじゃないと」
「ああ、結構よ。開けて構わないわ」
「そう?それじゃ早速……」

橙はビリビリと包み紙を破き、藍さんは丁寧に紙を剥がしていく。
紫はというと……小さなスキマに包みごと放り込んだ。
何をするだァーッ!と思ったけど、すぐに新たなスキマが2つ開いて
その中から、中身と綺麗に畳まれた包み紙がペッと吐き出された。
なにその便利機能。燃える。

「あら、マフラーね」
「マフラーですね」
「マフラーだね」

三人とも、全く同じデザインのマフラー。
しかし、当然全てが同じということはしない。
このマフラーは平行に帯状の線が入っている模様なのだけど、
その線の色がそれぞれ2色で、組み合わせが全員違うのだ。
紫は、藍色と橙色。
藍は、紫色と橙色。
橙は、紫色と藍色。

そう、自分以外の二人の色が編みこまれたマフラーなのだ。
八雲一家が互いを愛し、仲良く生きていけるように願いを込めて。
人形達の調べで出た好みが、
紫は「好きなもの:藍、橙」
藍さんは「好きなもの:紫様、橙」
橙は「好きなもの:藍さま、紫さま」
と、まあ何かのホームドラマのような結果だったから、すんなりと決まった。
家族愛って、いいわね。ほのぼのしてて、暖かくて。
というか見てるだけでこっちが照れちゃうくらい三人ともベタベタね。
愛いやつらじゃ、こやつめ。


「うふふ、三人揃って同じね。どう霊夢、似合うかしら?」
「ええ、もうこれ以上ないくらいにピッタリね」
「藍さまー、みんなお揃いだね!」
「ええ。今度これで皆で出かけようか。ありがとうアリス、最高のプレゼントよ」

まぁ最高だなんて。作った方としても照れちゃうわ。

……おっと、ルーミアが物欲しそうな目でじっと見てきてる。
そろそろ渡してあげることにしましょうか。

「ごめんねルーミア、待たせすぎちゃったわ。はい、これが貴方のよ」

袋から取り出したのは、黒い布……ではない、れっきとした服。

「おー。服だ、黒い服だ」

袖や裾にフリルがついている、いわゆるゴシックロリータ的な衣装。
宵闇の妖怪というだけあって、白く日焼けしていない肌と人形のような金髪には必ず映えるはず。

「わーこれ、早速着てみたい~!」
「是非とも着てみて。私も着てる姿を見たいわ」
「じゃあ奥の部屋で着替えてらっしゃい。寒いから早めにね」
「はーい、じゃあ着てくるねー」

襖を開け、奥の間へ入っていくルーミア。
その襖がピシャ、と閉められた瞬間、ふと思い出す。

「ねぇ霊夢」
「ん、なに?」
「萃香はどこに行ったの?」

そう、あの居候で飲んだくれの幼女、もとい腋、もとい小鬼が見当たらない。
またどこかに霧散してるのかしら?一応彼女にもプレゼントがあるんだけど。

「奥で寝てるわ」
「寝てる?なんで?」
「……二日酔いだって」
「二日酔いぃ!?」

あのアルコールを水の如く飲み干し常に酒気帯び状態のアル中鬼が二日酔い?
今ごろは布団の中でうーんうーんと唸ってるのかしら。
うー、それだけは想像つかないわ……。

「なんか昨日、魔理沙の家で呑んでたときに
 『水を美味くする粉があるぜ』とか言われて、それを入れた水を酒と一緒に呑んだんだって。
 そしたらもう朝からこの調子よ。勘弁してもらいたいわ」

また魔理沙が何か原因作ったのか……。
酒を美味しくする粉なんて聞いたこと無いけど、またあやしい薬品を作ったのかしら。

「それ、なんていう粉かわかる?」
「うーんと、香霖堂で手に入れた外の世界のものだって聞いたんだけど、たしか……」





「ポカ○スウェット、だったかな?」





※注意
酒類と一緒にスポーツ飲料を摂取するとアルコールの周りが早くなり危険です。
絶対に真似しないでください。





「霊夢、貴方にもプレゼントを用意してきたわ」
「ほんと?ありがと。この際もらえるならなんでもいいわ」

一応好みを調べておいたから、喜ばないことは無いはず、だけど……

「……最初に言っておくけど、怒らないでね」
「怒る?なんで」

だって。
貴方へのプレゼントは―――――

スッ。

「―――――――――」



現金だもの。




霊夢の調査結果。

「好きなもの:お賽銭お賽銭お賽銭お賽銭お賽銭お賽銭お賽銭誰か入れてよぉーひっくひっく」

……思わず涙せずにはいられなかったわ。



「アリス―――――」

びくっ、とした。
床に目を伏せてるので表情は見えない。
……怒ったかな?「そこまで貧乏じゃない!」と言われる気がする。

「あ――――――」
「あ?」





「ありがとう大好き愛してるーーーーーーーーっ!!!!!」
「きゃああぁぁ!!??」

全く反応できなかった……!
恐るべき速度で私に飛びつき、思いっきり抱きつかれて床に押し倒され……
ああぁぁ、そ、そんな霊夢、ちょっと待った、ちょっと待って!

「れれれれれれれ霊夢っ!ちょちょ、ちょっと落ち着――――」
「あぁーんもう大好き大好きっ!最高!」

あああああ、そ、そんな体を摺り寄せないでぇぇっ!
あぅぅ、わ、私なんだかドキドキしてきて……だ、だからちょっと離れてっ!

「アリスぅ~!」
「れ、霊……んむっ!?」

―――――突然のキス。

頭が真っ白になって何も考えられない………

「ぷはっ!れ、霊夢っ……ちょっと、いい加減に……」
「ふふふ、アリス、可愛い……もっともっと可愛がってあげたいっ!!」

い、いやー!ちょっと待ってってば!
そんな大胆な……ほ、ほら!紫も藍さんも橙も見てるし―――って全員もういない!?帰らないでー!

「やほー。着替えてき……」

奥の部屋からルーミアが着替えて出てきた。
……ああ、そんな目で見ないでぇ……。私は何も、何もしてないのよぉぉぉ……。

「ご……ごめんなさいっ」

いやぁぁ!ルーミア、貴方もなのぉ!?おいてかないでー!!

「アリスぅ、あなた、この服似合ってるわ……こんなに可愛いもの。大好きっ!」
「や、やめて霊夢っ!あなたお金貰ったから浮かれてるだけで―――あっ、そこ、ダメッ……」

マ、マズイ。
この状況は非常にまずい!
んっ……れ、霊夢の手が胸に……だ、だめっ!スカートは駄目っ!

「ふふ、アリス。今晩は私は貴方のもの。思う存分好きにして―――」
「いや貴方が攻めじゃない!ってそうじゃなくっ……ん、ああぁっ」

本格的にマズイ!
どうしよう、私もなんだかその気になってきそうで……い、いや頑張れアリス!
ここが勝負所!負けたら全てが台無しなのよ!

「す、萃香ーー!!!助けてぇー!!!」

……?
叫んだ瞬間、霊夢の動きが止まった。
助かっ―――た?

「……くすん」
「え、霊夢…?」
「酷いわアリス……私だって、プレゼントのお返しがしたかったのに……」
「え、いや、でもこれは……」
「アリスは私のこと、嫌い?」

……う。
涙目でこちらを見上げてくる霊夢。
……かっ、可愛い……!

「も、もちろん好きよ!嫌いなわけないじゃない!」



「ならば
 良し!」



その目は飢えた肉食獣と犯罪者の目を足して2を掛けたような目だった。



「よくないぃぃぃぃぃ!!!!!」

……。

………。

……………。



結局、服を脱がされるギリギリのところで萃香が助けてくれた。
酷い頭痛のところ起こしてゴメン。貴方は私のヒーローだわ。



「目が回るから寝るわ……」

そう言って萃香はすぐに寝床に戻ってしまった。
仕方が無い。今の炬燵の上にでも置いといてあげよう。

萃香へのプレゼントは、ある意味一番苦労して探し出した幻の大吟醸。
正直、誰もが喉から手が欲しがるほどの一品で、私も誘惑に負けて呑んでしまいたくなったが
そこはそこでなんとか我慢した。
配るプレゼントの中でも数少ない消耗品だけど、萃香が喜ぶものといえば
やっぱり物より酒だと思ったし。



「うーんアリスー、……よかったら、夜這だって構わないのよ?私は喜んで受け入れるわ……」

……萃香によって柱にぐるぐる巻きにして縛り付けられたまま、霊夢は頬を赤らめもじもじする。
なんて素敵な巫女さん。主に頭とか頭とか頭とか。

「気が向いたらそうさせてもらうわ。未来永劫無いでしょうけど」
「んもうアリスったら素直じゃないんだから!けど、嫌いじゃないわよそういうトコ……」

ぞくっ!!
ヤバイ、完璧に狙いを定められた。
霊夢の周りにだけ春度が萃まっていく……。
そのまま桜花結界発動して縄をぶっちぎっちゃうんじゃないかと思うほどにほわほわと。
ココはキケンダ。
DANGER DANGER DANGER
……さっさと退散することにしよう。

「じゃあね霊夢。メリークリスマス」
「うふふ、私のクリスマスはこれからよアリス……」

……ダメだ、目がトリップしてる。

私は障子を開けて外に出る。
わざと戸締りはしなかった。

さらば、楽園の素敵な頭の巫女。





 * * *





21時30分。
ついに、残すはあと一箇所。
ここは、最後に回ると決めていた。
もちろんそれは、魔理沙の家。

……でも、ちょっと待って。
魔理沙は仲がいい相手が沢山いる。
フランちゃんやパチュリーや、それにチルノや天狗記者とも。
博麗神社にはいなかったけど、もしかしたら他の場所でパーティをしてるのかもしれない。
紅魔館なら今ごろレミリアもフランちゃんも起きてるだろうし、それ以外でも夜のこの時間は
みんなパーティやっててもおかしくない時間帯。
あの魔理沙がこんなときに一人で家に閉じこもってるとは考えにくい。
……しまった。
そうなると、自宅に魔理沙がいる可能性は低いのではないか。
この時間から魔理沙を探すことになると、もう間に合わないかもしれない。

残る時間はあと2時間30分。
外出しているとすれば一番可能性があるであろう紅魔館でも、ここから飛んでいけば
2時間近くは確実にかかってしまう。
何故こんな基本的なことに気付かなかったんだろう……。
体中から血の気が引いていく。
計画が失敗することが怖いのか。いや違う。

……私は、最後に魔理沙に会いたかった。



……悩んでいてもしょうがない。
私はソリの方向を魔法の森に定め、魔理沙の家へ向かった。

―――雪は、吹雪になってきた。





 * * *





22時。
極度の不安を抱えながら、結界越しとはいえ吹雪に晒された私の体は、極端に冷え切っていた。

魔理沙……お願い、神様……魔理沙に会わせて―――――






……。

いた。

明かりが窓から漏れ、煙突からは煙が湧きあがっている。
窓から見えるシルエットは、間違いなく魔理沙だった。

よかった……。
不安が一気に消え去り、私は墜落するような勢いで家の前に降り立った。



コンコンとドアをノックする。
あいよー、という返事が小さく聞こえ、パタパタ走ってくる音が近づいてきた。

ドアが開く。
いつも通りの黒い服にエプロンドレスを身にまとって、魔理沙はぴょこんと顔を出した。

「魔理沙、メリークリスマス!」
「おおぅ、七色馬鹿がまた変なことやってるのか?」
「私は”七色の人形遣い”よ!どこから馬鹿が出てくるのよ!」
「あれ?そうだったか。まあいいや」

良くない良くない。

「その格好にその袋、私にプレゼントを持ってきてくれたのか?」
「そうよ、とても大事なものを持ってきたんだから」
「ほうほう、それは期待できなさそうだぜ。で、何を持ってきたんだ?」

―――私はプレゼント袋を地面に下ろすと。
胸の前で両手を組み合わせて、言った。



「プレゼントは―――わ・た・し」
「帰るぜ」

ばたん。
がちゃり。

「ああっ!魔理沙まって!冗談よ!冗談だからぁ!!」

中に入れてぇ!寒いよ寒いよ身も心も寒いよー!
どんどん、と両手でひたすらにドアを叩きまくる。
魔理沙ー!私が悪かった、悪かったから!

「わかったわかった、開けるからやめろ」

あぁよかった。
こんな状況でタチの悪いジョークは辞めておこう。
霊夢みたいにその辺の木にぐるぐる巻きにでもされたらたまったもんじゃないし。

「ほら、さっさと入れよ」
「あ、ありがとう…魔理沙……」

導かれるままに家に入る。
玄関から既に物だらけで、足の踏み場に困るほど。
通路まで物が溢れ返ってるとは当然、部屋の中はもっと物が多いということになる。
年末の大掃除なんて言葉は、おそらく魔理沙の頭には無いだろう。
掃除というか、香霖堂に押し付けに行くことならしてるみたいだけど。

「……アリス、お前なんか顔色悪いぞ?」

え?そう、かしら?
確かに外は、凄く、寒かった、けど……

「あ、おい……っ!アリス!?」

あ、れ?なんで、魔理沙、が、逆さまに写って……?







最初に感じたのは、何か暖かい感覚。
ばしゃり、という音がして、体がじんわり温まってくる。
あれ……?私どうなったんだっけ……。
魔理沙の家に着いて、家に入れてもらって……。

「お、気が付いたか」

あ、魔理沙の声。
うーん、なんでか解らないけど、瞼が重いわ……。
とりあえず、目を開け、て―――――



「ってなんで裸なのよーーーっ!!?」

な、なんで!?
私はいつの間にか綺麗に服を脱がされて湯船に浸からせられている。

「う、うるさいなぁ。風呂場で大声は響くんだが」

風呂場……?
――――ッ!ま、魔理沙も裸……!

「まままままま魔理沙、ここ、これはいいいい一体……」
「落ち着けよアリス。お前、家に入ったとたんに倒れたんだよ。
 凄く体が冷えてたから、風呂で湯に浸からせてやろうと思ったんだ」

……え?
私、倒れちゃったの……?

よくよく考えて見ると。
私は今日、0時に家を出発。
休み休みとはいえ、雪の幻想郷を一日中飛び回ったので疲労は相当溜まっている。
それに、ここに来る前の極度の不安もあり、精神的にも疲れていたらしい。
おまけに吹雪の中を来たため、体はこれでもかというほど冷え切っていた。
倒れても仕方ないことだったのかもしれない。

「……あ、ま、魔理沙!私が気を失ってからどれくらい時間が経ったの!?」

まずい、それが問題だ。
一時間以上も気を失ってたりしたら、もう残り時間が殆どない。

「あー?そうだなぁ、あの後荷物を置いてすぐ風呂場に運んで服脱がせて……10分くらいしか経ってないぜ」

よ、よかったぁ。
それならまだ十分に余裕がある。
じゃあ今は、魔理沙の好意に甘えて温まることにしよう。



「魔理沙……」
「ん?」
「……ごめんね」

魔理沙は何故か、少しの間固まった。

「……ぷっ」

……え。

「あはははは。アリスが私に謝るなんてどういう風の吹き回しだ?」
「な、何よ!どういう意味よそれ」
「それになアリス。そこは『ごめんなさい』じゃなくて『ありがとう』だろ?」

―――あ、そうか。
仮にも私を助けてくれたんだし。謝るところじゃないのね。

「あ、ありがと……」
「どういたしまして、っと」

ばしゃ、と体を流して、魔理沙が立ち上がる。

「さて、じゃあ私も一緒に入らせて貰うぜ」

――――はい?
私の隣に入ってくる魔理沙……ってえぇぇぇ!!!?

「ま、ま、まり、まりさ……」
「ほれ、もうちょっとつめてくれよ。私が入れないじゃないか」
「あ、う、うん……」

……口をぱくぱくさせたまま、私はおずおずと隅に身を寄せた。
って、足が!肩が!体が魔理沙と密着して……あ、あああぁぁぁぁ。

「ま、魔理沙っ、その、ちょ、ちょっと……」
「あー気持ちいい。いい湯だなー」

私の気持ちを知ってか知らずか、一人のほほんとしてる。
どうしよう、私なんか心臓ドキドキ顔が火照って熱くて……。
……でも、幸せ。





風呂から上がって、身体を拭いて気が付いた。

「私、着替え持ってきてない……」

元々私は、今日はもう入浴する暇も無いと思っていた。
魔理沙にギリギリでプレゼントを渡して、そして後は去るつもりでいたのだから。
でも思っていたより時間が余り、その上気を失うなんてハプニングもあったわけで、
今この状況は完全に想定外なのだ。

「あぁ、私の服が余ってるから貸してやるよ」

――――へ?
ちょ、ちょっと待って、魔理沙、今何て言ったの?

「ちょっと待ってろ、すぐ取ってくるから」

一人さっさと浴室を去っていく。
ま、魔理沙の服?サイズは合うの?もしかしてパンツも?
う、うそっ……。

「ほれ、持ってきたぜ」

ほ、ほんとに持ってきちゃった……。
魔理沙が手にもってるのは、ワイシャツにシンプルながらもフリルのついたパンティ、
それにだぼっとした黒いズボン。ジャージっぽいけど…。

「あー……ねぇ魔理沙、ほ、ほんとに使っていいの?」
「使いたくなかったら結構だぜ。ただお前が着てた服はもう大分汚れてるけどな」

……うん、それなら仕方が無い。
折角だし、使わせてもらうことにしよう……。
あ、ああ~でもなんかドキドキしちゃう。その、パンツを履くのもなんだか戸惑って……。

「アリス、着るならさっさと着てくれないか?」
「わわわ、わかってるわよっ……。す、すぐに着るから……」

とりあえずパンツを履いて、ワイシャツを着る……少し小さいみたい。胸が苦しい……。
スカートは、魔理沙が履けば地面近くまであるほど長いんだろうけど、
私が履くと膝より少し下あたりになる。

「ねぇ、このシャツ、ちょっと胸が苦しいんだけど……」
「……それは私へのあてつけか?だったら返せこんにゃろー!」
「わー!ごめんごめん!ごめんってばー!!」






居間に通される。
一応、ここは居間という扱いにはなってるけど、魔理沙の家の場合は
どの部屋も『物置』といえば通用する有様なので、本当に居間かすらも怪しい。

「ほら、紅茶だ」
「あ、ありがとう」

パジャマ姿の魔理沙が、ポット片手にお茶を入れてくれた。
若干薄く、風味も味もそこまで優れてはいない。
お茶の葉自体がそこまで良いものではないし、出が悪いときは
茶葉を無理矢理搾り出すこともやるんだとか。
でも、魔理沙らしいお茶だな、と思う。
この荒々しい味は、恐らくここでしか飲めない味だろう。

「全く、訪ねた相手に介抱されるサンタなんて聞いたこと無いぜ」
「ええ、不覚だったわ」

お陰で魔理沙にまた迷惑をかけてしまった。
こういうイザという時に詰めが甘かったりするのよねぇ。



―――さて。
お茶を飲み干したところで、魔理沙に最後のクリスマスプレゼントをあげよう。
本当の本当に、とっておきのプレゼント。
魔理沙は驚くかな。喜ぶかな?

「魔理沙、私からのプレゼント。受け取ってもらえるかしら」
「ああ、貰えるんなら是非とも頂くぜ」

よし。
袋の中に手を入れる。
……後は、これしか残っていない。これが最後だ。
それを、取り出す。

「―――メリークリスマス、魔理沙」
「………なっ………」

私が取り出したもの。それは――――

「お前……いいのか、それを……」

私がいつも持っていた、封印を施した魔法書。

中身は―――究極の魔法について記されたもの。

「いいの。この本は……魔理沙に勝つために私が使ったもの。
 いわば、貴方がいなかったら私はこの本に出会わなかったかもしれない。
 だからこれは、お返し。この本は貴方が私にくれたようなもの」
「いや、だからって、その―――――大事なもの、なんだろ?」

そう。とても大事なもの。
私がずっと大切にしてきた、一つの気持ちの具現。

「大事なものだからこそ。受け取って欲しいの。―――お願い」

幻想郷でみんなと出会うきっかけを作ってくれた、貴方への感謝の気持ちだから。

「……解ったぜ。大切にするよ。ずっとな」

……その言葉を聞いたとたん。
私の肩の荷が全て無くなった。
身も心も、すっと軽くなる。

……これで、もう悔いは無い。





「ところで魔理沙」

最初からずっと思っていた疑問がある。
それは、何故―――

「どうして今日、一人で家にいたの?」

その言葉を聞くと、うーん、と魔理沙は唸った。
悩んでいるような考えているような、奇妙な表情を浮かべる。

「……予感、かな」
「予感?」
「どことなく、もしかしたら今日こうなることを見越していた気がする」
「え―――――?」

私がやってくることに気付いていた―――?
この計画は誰にも話していないはず。人形達から漏れたとも思えない。

「なんか、アリスに会わなきゃいけない気がしたんだ。
 不思議と。根拠も何も無いのにな」

そう言って、照れ隠しのような苦笑を浮かべた。

……ああ、魔理沙は本当に予感だけで。

私が、今日が最期の日であることを、どこかで感じ取ってくれていたのだろうか。

「魔理沙……」
「……ん」
「ありがとう……本当に、ありがとう………」

それは、何度言っても伝えきれない、感謝の言葉。
初めて魔界で会ったときから、現在までずっと。
私が今の私であれたのは、魔理沙のお陰だったから―――

「ありがとう―――」
「…………どういたしまして」






23時40分。
―――私が消えるまで、あと20分。

「アリス、今夜は泊まっていくか?」

え?泊まっていく……?
いや、ちょっと待って。
私はもう、0時には消えてしまう。
……そう、明日の朝まで私はいることができない。
それなのに、魔理沙の家に泊まるなんてこと、出来るわけが―――

「ほら、外は寒いだろ?ただでさえ疲れてるみたいだから、ムリすると風邪ひくぞ」

……っなんで。
なんでこんなときに限って、魔理沙はこんなに優しいんだろう。

もう、無理だった。
最期の一時まで、このぬくもりを感じていたい。
魔理沙と一緒にいたい。
それだけしか、考えられなくなった。

「―――じゃあ、お言葉に甘えて」
「うし、じゃあさっさと寝るか」

ひょいとソファから立ち上がる魔理沙。
ランプの明かりをさっと消す。

「あ、魔理沙、ちょっと待って……」
「ん?どうした?」

ま、真っ暗で何も見えないわよ。
魔理沙は慣れてるからいいでしょうけど、私はこんなごちゃごちゃしたところに住み慣れてないのよ。
……っとと、注意して進まないと、転んじゃいそう――――



ガン!



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!

「おぉ?どうしたアリス?なんか鈍い音が聞こえたが」
「あ、足……っ。小指を机に……」
「あーもう、どんくさ……」

ゴン!

「……魔理沙?」
「あぁぁぁうぅうあぁぁ……わ、私も頭を……タンスに………」

ま、魔理沙、貴方。貴方も十分どんくさいわよ……

「あ、あはは」
「はは、ははは」

「「あははははははは………」」





寝室についた。
枕元のランプが微かな光をともし、柔らかな光で部屋を照らす。

……ベッドは一つしかない。
つまりこれって……

「まあ広さは十分だから、二人一緒でも大丈夫だろ」

……やっぱり一緒に寝るのね。
あぁぁ、もう胸がドキドキしてきた……。
魔理沙は、それが当然というようにさっさと寝る準備をしてるけど。

「ほらアリス、どうした?早く来いよ」
「わ、わかったわよ……っ」

布団に潜り込む。
ふわ、といい匂いがした。
魔理沙の匂いがする……。
隣を見ると、綺麗な金髪と、あどけない顔の魔理沙がすぐ近くにあった。
どきん。
胸が一際高まる。

「んじゃ、明かり消すぜ」

あ、もう消しちゃうの……。
ちょっと残念だけど、仕方ないか。

ランプの明かりが消され、部屋が闇に包まれる。
月は出ていない。光源が一切なく、本当に真っ暗になった。

不意に、不安になる。
もし私が消えてしまったら、その先に行き着くのは―――?
もし、こんな無間の闇だったとしたら……?
怖い。怖い。怖い!
これが、死を恐れる心か。
一人ではきっとこの孤独に耐え切れなかっただろう。

―――隣にいる、魔理沙の手を握った。
私の腕よりも細く、小さい。
こんな小さい腕で、どうして魔理沙はこんなにも力強く生きれるのか。
私は軽い嫉妬と、そしてとても愛しい気持ちを感じた。
そして同時に、不安な気持ちはどこかへ消えていった。
……大丈夫、怖くない。

「おやすみ、魔理沙」
「おやすみ、アリス」

……魔理沙は、すぐに寝入ってしまった。
私は―――眠れないと思っていたのに、どんどん睡魔が襲ってくるのを感じる。
今日一日の疲れと、それを終えた安心感がどっと押し寄せてきていた。
まだ、起きていたい。
この温もりと、暖かな魔理沙の手を感じていたい。
―――それでも、睡魔は容赦なく迫ってくる。
瞼が重い……。
体中の力が抜けて、軽い気だるさすらある。
頭がボーッとしてきた……。
暗さに慣れた眠い目で、壁の時計を見た。
辛うじて見えた針は、23時58分。
……もう、終わりは近い。





さようなら、魔理沙。





ありがとう、幻想郷。






いつでもいいから、アリス・マーガトロイドという魔法使いがいたことを、
よかったら思い出して―――










みんな、ありがとう。














 * * *





―――12月25日。朝。

「うにゃ……」

魔理沙は、窓から差し込む光で目を覚ました。

今日は久々に雲一つ無い晴れた日となりそうだ。

上体を起こし、ふと横を見る。

「アリス………?」





眠っていたアリスの姿は





そこには無かった。





 * * *





「全く……馬鹿な子」

暗い、どこかの空間。
現世ではない、それは現実の世界ではない。

「自分から消滅の道を選ぶなんて……何を考えてるのかしらね」

そこに立つ、赤い服を纏う魔界神、神綺。

神綺は、最後の最後までアリスが戻ってくることを信じていた。
どっちにしろ、幻想郷にはいられないのだから、
わざわざ自分から消滅を選ぶことなどしないと思うのは当然だろう。

だが、アリスの心は、結局最後まで変わることはなかった。
アリスは最後まで、幻想郷の魔法使い、アリス・マーガトロイドでありつづけようとしたのだ。

はぁ、と大きく溜息をつく神綺。
そして、振り返った。








「それで、何故戻ろうとしなかったのかしら?アリス」








神綺の視線の先には。



「私は、幻想郷が好きでした。だから最期まで、幻想郷の住人でありたかった」



アリスが立っていた。





「……理由は、それだけ?魔界が死ぬほど嫌いだとか、私のことが嫌いだとか、そういうのは無いの?」
「魔界は生まれた世界で、嫌いじゃないです。でも、戻りたいと思える場所ではない。
 それに私は神綺様を嫌いだと思ったことは一度もありません。
 たとえ横暴な選択を迫ってきたあの時でも、神綺様を嫌いだという気持ちは出てこなかった」
「―――貴方は、そんなに幻想郷が好きなのね。教えてくれないかしら?あの世界の魅力を」
「言葉で表すのは難しいですけど、そう、一言で言えば……」



「幻想郷は、正に”楽園”だと思います」



「楽園、ねぇ……」

神綺は、腕を組んで考え込む。
アリスの言う”楽園”が、どのようなものかは解らない。
何しろ魔界では、アリスが何かを望めば神綺はいくらでも分け与えることもできるのだ。
それなのに、不自由する幻想郷に住み、更にそこを”楽園”と称する気持ちがよくわからなかった。

ただ一つ、解ることがあるとすれば。

「貴方は、幻想郷のみんなが好きなのね。あの人間の魔法使いも。巫女も。あそこに住む者達全てが」
「―――はい。私は、みんなが大好きです」

強い意志で神綺を真正面から見据え、自分の気持ちをはっきりと述べるアリス。

なるほど。

これは、私の負けねー―――

「はぁ、わかったわ、アリス。私が間違っていたようね」
「え……?」

その言葉の指す意味は、つまり……。



「以前の話は撤回するわ。貴方はこれからも、幻想郷に住むことを許可します」



にっこりと微笑んで、アリスに告げる神綺。

アリスの顔が、華のような笑顔を浮かべた。

「本当に―――?本当にいいんですか神綺様!!」
「ええ、あんな幸せそうな寝顔の貴方を見て、帰って来いなんか言えないからね」

肩の力を抜いて、アリスに語りかける。
それは正直な神綺の気持ちだった。

「神綺様―――っ、ありがとうっ!!」
「きゃっ……!?ちょ、ちょっとアリス?」

満面の笑顔で抱きつくアリスに、神綺は思わずたじろいだ。

「ま、待ちなさいアリ……ん、むっ!!!??」
「ん~、神綺様ぁ…」

霊夢にアリスがされたような、唐突のキス。
笑顔で唇を重ねるアリスに対し、神綺は顔を真っ赤に染め、目が泳いでいた。

「ん、んぷっ……あ、あああアリス、あ、あなた何を……」
「んはっ……ふふふ、神綺様、大好き!」

ぼんっ!

「きゅ~……」

その瞬間、神綺は顔を隅々まで真っ赤に染め、頭から湯気を噴出してばったり倒れてしまった。





「本当はね、アリス。私が戻って来いと言ったのは―――私の我侭だったの」
「我侭?」
「ええ。貴方が幻想郷でとても楽しそうに笑っていたのを私はたまに見てたわ」
「み、見てたの!?」

くす、と笑う神綺。
母親のような優しい眼差しでアリスを見る。

「そう。そして思ったわ。貴方が魔界にいたとき、あんな顔をして笑ったことは無いのに、どうして、って。
 だから、私は必死で魔界を再生した。今度こそ貴方を笑わせてあげよう。笑ってもらいたいから、って」
「神綺様……」
「そして貴方を迎えにいった。あの時、貴方に断られて、私はやり場の無い怒りと悲しみに暮れた。
 貴方が帰ってきてくれない、ならばいっそ、私がこの手で消してやろうと思った」
「……。」
「でも、それじゃあ駄目だったのね。それは貴方のためではなく、私の思いを押し付けてるだけ。
 そこに気付かないまま、取り返しのつかないことをしようとしてしまった。許してちょうだい」
「神綺様、私は怒っていないわ。顔を上げて」

神綺は顔を上げると……ゆっくりとアリスを抱きしめた。

「あ……」
「アリス、貴方はもう自由よ。
 幻想郷で幸せに暮らしなさい。……貴方には、素敵な仲間達が沢山いるのだから―――」
「神綺、様……」

アリスは、静かに涙をこぼした。
神綺も瞳から涙が流れ落ちていく。
―――これが、子を送り出す親の心境かしら、ね。
そう、神綺は思って、愛するアリスをぎゅっと抱きしめた。



「さぁ、アリス。もう行きなさい。幻想郷はもう夜明けよ」
「え、行きなさいって……そういえばここは一体?」

周囲は何も見えない暗闇。
しかし、お互いの姿はくっきりと見えている。
……そういえば、なんだか体がふわふわするような奇妙な感覚。

「ここは貴方の夢の中。貴方の体は、まだあの子と一緒にベッドでお休み中よ」
「う……の、覗き見は辞めてよ……」

あはは、と笑って、神綺はパチンと指を鳴らした。
それと同時に、遠くからサッと光が差し込む。

「あれが現世への戻り口。あそこを潜れば、もう幻想郷に戻れるわ」
「はい、でも神綺様は?」
「私は魔界に帰るわ。しばらく会えないだろうけど、元気でねアリス」
「……はい、神綺様も、元気で」

そして、アリスは駆け出した。
光の門へ向かって、元気よく走っていく。

そして、門の手前でアリスは振り返った。
逆光によって表情は見えなかったが、アリスは大きく手を上げて、

「神綺様!」

きっと、太陽の光にも負けないくらいの、眩しい笑顔で、言った。

「またね!!」

「ええ、また会いましょう、アリス―――」

そして、アリスは門の中へ走っていった。



アリスがそこを潜ったとたん、あたりに元の静寂と闇が訪れる。
その中で一人、神綺は虚空を見上げ、呟いた。

「アリス、幸せになりなさい。
 ―――――貴方はこんなにも、皆に愛されているのだから―――――」





 * * *





……朝だ。
昨晩の吹雪がウソのような晴れ模様。
窓の外に目をやると、雪に太陽が反射して目を刺す。
晴れてるのは気持ちいいもんだが、こうなると飛ぶときに視界がキツイんだよなぁ。

ところでアリスはどこにいったんだ?
起きたらもうベッドからいなくなってた。
もしかしてさっさと帰っちまったんだろうか。

……あれ、でも暖房がついてるな。
勿論うちの暖房は薪ストーブや暖炉じゃなくてミニ八卦炉なんだが。

「おーい、アリスー?」

どこにいるかわからないので、とりあえず大声で呼びかけてみる。
するとキッチンのほうからパタパタと足音が聞こえた。

「おはよう魔理沙!今朝ご飯作ってるの、もうちょっとで出来るから待っててね!」

……おお?
なんかやけに元気だな。
昨日あんだけ顔色を真っ青にしてウチに来たとは思えないぜ。

ところで、ちょっと気になったんだが。

「なあ、その人形の頭についてるのは……何だ?」
「ああこれ?上海用に作ったネコミミ付きカチューシャよ。どう、この子にピッタリだと思わない?」
「あー……?」

似合うかな?と疑問だったけど、アリスが頭を撫でてやると、それこそごろにゃんと鳴くんじゃないかというような
猫じみた動作をとる上海人形。
あー、確かにこりゃピッタリだな。

「そうだな、似合うと思うぜ」
「やっぱり?よかったわね上海!」

嬉しいのか恥ずかしいのか、人形はもじもじした動作をとる。
相変わらず良くできてるなー。

「あ、お湯が沸いたみたい。魔理沙、もうご飯できるからテーブルで待っててね!」

そして、またキッチンの中に姿を消していく。
人形も少し遅れてアリスについていった。



なんだか、今朝のアリスは生き生きしてるなぁ。
いや、生き生きしてるというより、えらく幸せそうな顔だ。



―――――そんな顔してると、私もなんだか幸せだな、と思った。そんなクリスマスの朝。





「ねぇ、魔理沙」
「ん、なんだ?」










Merry Xmas...









fin
まず最初に。
ひろさと様、こーりんHGネタにインスパイヤされました。すいません。
クリスマスネタなのに二日遅れました。すいません。
長すぎましたね。すいません。

というわけで、三章構成SS”アリスのメリークリスマス!”いかがだったでしょうか。
人生初の東方SS、そして今まで完結させることが出来たSS二本目という未経験にもかかわらず
こんな長文を書くことになるとは、書き始めのころは思いもしませんでした。
もうちょっと計画的にやらないといけませんね。反省。

最初の紅魔館のシーンなんかはまだ勢いがあったのですが、
冥界あたりからのグダグダが非常に良くない。
特に、せっかくの幽々子様や妖夢、八雲一家の見せ場が殆ど無いのが反省点でした。

ちなみに、美鈴のシーン、四季様のシーンを書いてるとき、
ほとんど意識無いまま書いてました。
そこだけ拙さが特に凄いと感じた貴方は普通だぜ?

でもまあ、経験浅い自分がここまで書けたのも、
東方の魅力、アリスの魅力、そして前章、前々章を読んでくださった皆様のお陰です。
本当にありがとうございます。

第一章(二日前):8.5KB 所要時間4時間
第二章(回想~前日):22.4KB 所要時間6時間
第三章(本編):95.3KB 所要時間14時間
総容量126KB、字数にして6万3千文字。原稿用紙158枚分。
全て終了。
ここまで読んでくださった皆様に最大の感謝を込めて。
ありがとうございました。


さて次は新年SSか、それともネタSSでいくか……。
丼@二日遅れ
http://b2kobun.hp.infoseek.co.jp/
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コメント



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11.100名乗れる力もない程度の能力削除
( ゚∀゚)o彡゜アリス!サンタ!アリス!

楽しく読ませて頂きました。
プレゼントがいい感じに決まってますね
こーりん、とうとうザ・○ールドまで習得したか
咲夜さんかわゆぃよかわゆぃよ咲夜さん
師匠最高 ウドンゲ南無
ほのぼのした八雲家いいですね!
どう見ても春満開巫女です本当に(ry
アリマリ!アリマリ!しかしネコミミ上海を幻視して悶絶すr(シャンハーイ

ぐだぐだと書いてしまいましたがお疲れ様でした。
15.90翔菜削除
ここで去年の忘年会4000mlにも及ぶ酒と1000mlのアク○リアスを一緒に飲んだ僕が来ましたよ。
えぇ、その時は酔い覚ましになると思ってたんです。
でもまさか逆効果だったなんて……でも暴飲したメンバーの中では唯一吐きませんでした。なんでだ。

プレゼントが、アリスが、みんなが良い感じでした。
あと所々に散らばった小ネタ(?)も面白かったです。
アリスに乾杯! ネコミミ上海に完敗!
18.100名前が無い程度の能力削除
こーりんのところで、このノリかなーと思ったら、より良い方向に裏切られました。何はともあれGJです。
19.100名前が無い程度の能力削除
もう文句のいいようがないというか深々とツボにヒットしました。
みんなかがやいてます。
30.100ARB削除
要所にちりばめられた笑い所が
話しにとてもマッチしてて、良いテンポで読めました
惜しむらくはクリスマスにギリギリ間に合わなかった事ですか・・・
何はともあれ良い仕事です
32.100tera削除
完結編,待ってましたよー。
丼氏の幻想郷への愛を感じました

33.100no削除
お待ちしておりました。そして、待った甲斐がありました。
やはり当初香霖堂のところで壊れるか、と危惧していたのですが、
その後それぞれの暖かいエピソードと、そして笑いを見て、良い方向に
裏切られました。擬似マスタースパーク良いですね。
簡単なようで意外と難しい一人称視点もとてもうまく書かれており
アリスの気持ちが時には楽しく、時には苦しく、読み手側に伝わりました。
良い物を読ませていただきました。ありがとうございました。
34.100名前が無い程度の能力削除
いやぁ、ごちそうさまです
39.100人形使い削除
大変良いお話、ご馳走様でした。
咲夜さん&レミリアの鼻血っぷり、お見事。(そこかよ)
笑えて泣けてあったかい。完璧超人か!?
41.100浦葵洸削除
大変すばらしいお話をありがとうございました。なんかもー、すばらしくて言葉がないです。
48.100名前が無い程度の能力削除
すばらしい!
おつかれさま!
そしてありがとう!!
58.100名前が無い程度の能力削除
うはw最高ww
65.100名無し参拝客削除
カリスマ溢れる神騎さまを久々に見た気がしました

今晩は魅魔さまと一緒にわが子の成長を肴に涙酒ですね
67.100削除
誤字>いつか完璧な自立型の人形になるかもしれない。:この場合は「自律型」

まさか・・・香霖が入門してくるとはな・・・あの咲夜の「世界」に・・・
置いといて。
ウォルターアリスとアーカード永琳と露伴てゐは全力で幻視しました。コーヒーゼリー吹きました。
ところでいくら包めば腋巫女の春は全開になりますか? 0が5つくらいなら何とか。
71.100名前がありそうな程度の能力削除
この文章量にも関わらず一気に読めてしまいました。
日にちは間に合いませんでしたけれど、素敵クリスマスSSでした。

しかし、こーりんはHGネタで固定ですか。・・・哀れな。(/-;
73.無評価KEN削除
最高です、もう言うことはありません。アリスかわいいよ、アリス。
74.100KEN削除
すいません、↓の点数付け忘れました
80.無評価削除
Σ

なんだこの点数はぁ!?
とにかく返事してみようぜェ!

というわけで皆様この作品を読んでいただき有難うございます。
こんな大人数が僕のSSを評価してくれるとは……。
「最高」「素晴らしい」なんて賛辞、初めて貰いましたよ!ハァハァ。
しかもコメント付き評価の大多数が100点とは。
「あり得ない。何かの間違いではないのか?」
いやもうホントに。ありがとうございます。
次は5000点超えを目指して頑張るッス!

誤字の報告、有難うございます。
ちなみに誤字とか誤った表記が数箇所ありますが
あえてこっちでは直さず、自サイトの方に修正版をUPしておきました。
84.100名前ガの兎削除
アリスが消えたのクダリであばばばば と思ったが
ハッピーエーンドゥゥゥ!これはいいものだー!
負けました 完敗です 鼻血出しながら逆立ちしても興奮が収まりません
86.100名前が無い程度の能力削除
こーりんの世界に笑いカリスマのある神騎最高でした
87.100名無しな程度の名前削除
笑って、迷って、泣いて、鼻血を出して
色々な要素がふんだんに盛り込まれたこの作品
次を読むのが楽しくなるその様は、まさにプレゼント
もう文句なしです、楽しませていただきました!
88.90名前が無い程度の能力削除
いい話じゃないですか。うむ。
99.100蓬莱人削除
良いクリスマスプレゼントをありがとう
101.70名前が無い程度の能力削除
八雲一家の好きなものが真ん中に来ました……
102.無評価HBK削除
ハッピーエンドでよかったなあ。
でもこの後ハズい思いをしそうなのもまたアリス。
103.100500日削除
……お見事。何とも力強いストーリーでした。
瑣末な言葉は省いて、一言だけ『ありがとう』と言わせて下さい。
106.無評価削除
(;゚Д゚)6000超えた!?
なんだこれは!
へあぁ、涙で目が、目がぁー!

皆様ありがとうございます。
とりあえず感想を頂いた皆様に返事を書きました。
http://b2kobun.hp.infoseek.co.jp/ss_res.html
新しい感想に気付いたら更に増えるかもしれません。
107.90HK削除
一つ一つの会話がとても面白かったです。壊れも良い比率で。
……アリスのイメージが少し変わりました。もちろん良いほうに。
ありがとうございました。
109.100名前が無い程度の能力削除
さて、来年のクリスマスが大変だぞアリス!!
どのキャラも魅力的に書かれているのが凄いです
(こーりんの魅力は当然HG)
117.90rock削除
八雲家エピソードにクリティカル。GJです。
126.100ry削除
長いのに一気の読めました。
ここ最近で一番のHITでしたお( ^ω^)
所々笑わせて貰い、最後には感動しました。GJ!
127.100まだない削除
言うこと無しです。
129.90K-999削除
 イイ話でした。特に腋巫女。嘘です。八雲一家のプレゼントは上手いなーと思いましたね。たまには里帰りしてあげなさいよ。前回は「子の心、親知らず」と言う感じでしたが今回は逆でしたね。アホ毛様はこんなにも娘を愛していたのです。

>今は閻魔ではなく四季映姫・ヤマザナドゥと言ったほうがいいのか
 ヤマザナドゥとは意訳すると「幻想郷の閻魔」と言う意味です(多分)。つまり役職名なわけで。だから、「閻魔ではなく四季映姫と言ったほうが~」のほうがこの場合ふさわしいのではないかと。ああすいません蛇足でした。
132.100名前が無い程度の能力削除
すごいの一言。各キャラへのプレゼントがどれも暖かくて素敵ですね。
特に八雲一家へのはツボりました。いい家族だなぁ。
138.100Admiral削除
上手い!
全編通して結構な長さなのに、スイスイ読めてしまいました。
はっちゃけすぎですよ、霊夢さん。
八雲一家のプレゼントには思わずひざを打ちました。
しかし何よりも申し上げたいのはただ一つ。

>「きゅ~……」
神綺様かわいいよ
かわいいよ神綺様

    _   ∩
  ( ゚∀゚)彡 ちんき!ちんき!
  (  ⊂彡
152.80じゃん削除
グットエンドに見せかけておそらくほとんどの財産を手放して
この冬を越せそうにないアリス……
後、現金は賽銭箱入れたほうがよかった
さすがに手渡しだと生々しい
155.100名前が無い程度の能力削除
コレはいいクリスマスですね
たまらんとまらん!
168.100名前が無い程度の能力削除
最高だ
170.100紫音削除
様々なプレゼントの形、心の形、笑いの形まで。
全てが美しく調和した、素晴らしい作品です。本当に『最高』の一言に尽きます。
遅ればせながら、100点を進呈。今後も頑張ってくださいませ。
181.100名前が無い程度の能力削除
すばらしい
185.100名前が無い程度の能力削除
マジ最高です
186.100名前が無い程度の能力削除
な に こ の マ リ ア リ 桃 源 郷

俺にとってのジョキョニーナ発見。
しかし「きゅ~」なちんきに萌えたのは仕方ないじゃないか?

なにはともあれ 最高 だ
190.100名前が無い程度の能力削除
っ最高だ!!
191.100No.151削除
すばらしい作品ですね、最後まで飽きずに読めました
192.90名前が無い程度の能力削除
よかったです!
アリスはもちろんほかのキャラもNice
ちょっと空欄使い過ぎかと思いましたのでほんの少し…
99点は無いのか! 99点は!(;´Д`)
195.100名前が無い程度の能力削除
壊れ系ギャグとユーモアとほのぼののバランス&切り替えでだれることなく一気に読めました。すごい作品でした!
201.100名前が無い程度の能力削除
とてもいいアリスです。本当にすばらしい。
次に霊夢にあったときどうなるかが楽しみ(違

100点以上はないのかー
207.100名前が無い程度の能力削除
GJ これ以外の言葉が出ないw
208.90いらんこといい削除
ゆいかさんがプレゼントもらってないですね。
少しかわいそうです。
それ以外は最高です。
209.無評価いらんこといい削除
変換し忘れてるうえに名前が間違ってるーーー!!!
すみません。幽香が正解ですよね。
いらんこと言って、そのうえミスってるなんて・・・
次からは気をつけます。
最後に長文お疲れ様でした。
210.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい話をありがとうございます!
212.100名前が無い程度の能力削除
遅れたが全俺が泣いた

アリス可愛いよアリス
214.100bobu削除
アリス最高!!
215.100名前が無い程度の能力削除
評判を聞いて見に来ました。
幻想郷の住民の優しさに泣けました。アリスはかわいいなぁ
221.100幽霊が見える程度の能力削除
全日本人がアリスに泣いた。

222.100名前が無い程度の能力削除
どのプレゼントも本当に喜んでもらえそうなチョイスがナイスでした。

最後消えそうになるアリスをみんなが助ける展開を想像してたけど、
そうすると神崎様が完全に悪役になるのでいい意味で裏切られた。
229.100名前が無い程度の能力削除
 
235.100名前が無い程度の能力削除
感動をありがとう。
アリスに幸有れ
237.100名前が無い程度の能力削除
これはいいものをみつけた
243.100名前が無い程度の能力削除
何も言えない
249.100名前が無い程度の能力削除
心のおこたですな
257.100名前が無い程度の能力削除
良かったです。