Coolier - 新生・東方創想話

幻想聖誕祭

2005/12/26 09:04:56
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クリスマス。
12月25日に行う、キリストの聖誕祭。
近代の日本では、前夜の24日―クリスマス・イヴに家族や恋人と祝うのが一般的だろう。
しかし。
外界では幼児でも知っているクリスマスも、この幻想郷では知る者は少ない。
明治初期に博霊大結界により隔離された此処は、未だ純粋な和の世界のままである。
正月はある。雛祭りもある。七夕だってある。
だが、洋文化のクリスマスだけは無い。


霊夢も話くらいは聞いていたが、クリスマスなどには興味が無かった。
お祭り騒ぎはしばらく前の宴会で十分だと思ったし、
キリストだかなんだか知らないが、異教徒の神子をわざわざ祝ってやるつもりも無い。







そんな霊夢の無関心を知ってか知らずか、23日の昼下がりに彼女は言ったのだ。







「クリスマスやろうぜ、霊夢」







楽園の素敵な魔法使い、霧雨魔理沙。
霊夢にクリスマスの話をしたのも、彼女である。











………………………………
東方シリーズss

幻想聖誕祭。
………………………………











「却下。他を当たって頂戴」
魔理沙の提案を、霊夢はバッサリ切って捨てた。
お祭り好きな彼女の提案は予想していたが、そう何度も自分の家を会場にさせるつもりは無い。
賑やかなのも嫌いではないが、どちらかといえば静けさを好む霊夢である。
魔理沙の方も霊夢の反応は予想していたのか、珍しく神妙な顔で頭を下げた。
「……他に当ては無いんだよ。だからさ、頼む」
「当てが無い?」
以外な言葉である。
多少強引な所もあるが、陽気で社交的な魔理沙の交友は結構広い。
「紅魔館とか、いかにも洋風でいいんじゃないの?」
「レミリアは吸血鬼だぞ? キリストの聖誕祭なんてやらせてくれる訳ないだろ」
「確か言ってたわね。“キリストは全悪魔の敵だー! ”って」
レミリアだけでなく、西洋系の妖怪は大半がキリスト教を極端に嫌う。
キリスト教は妖魔狩りの強力な戦隊を保有しており、たえず妖魔を追い回しては殺していくのだとか。
「それじゃ、永遠亭にでも行ってきたら?」
「もう行ってきた。そしたら……」
いったん言葉を止めて、輝夜の声真似をしながら、
「“この私にあんな小心者の誕生を祝えですって? おもしろい冗談ね”…だとさ」
「……あいつ、キリストのこと知ってんの?」
「当時、月では地球の観測をしてたらしい。千年くらいで止めたそうだが」
「へえ……キリストって小心者なんだ」
「あいつらによると、キリストは魔法使いの卵だったそうだ。
強い素養を持っていて簡単な魔法が使えたが、師も仲間も無く、素人のままだったらしい。
魔法で人助けしているうちに人望が一人歩きして、取り返しがつかなくなったんだとさ」
本人は臆病者だった…って言ってたぜ。そう言って、魔理沙は肩をすくめた。
「ともかく、永遠亭もダメだった……と」
「そういうこと。後は此処しかないんだ。
冥界や魔界でメリークリスマスってのはどうかと思うし、人里に降りるのもどうかだし……」
「建物にこだわらなくてもいいじゃない。その辺の野原でやれば?」
「……本来のクリスマスは祭りなんだから、そっちが寧ろ正しいんだろうけどな。
私のやりたいのはイヴにやる日本式なんだ。なんていうか……この前の宴会に近いやつ」
とにかく、やりたいんだよーーと魔理沙は言った。
「なるほどねえ……」
なんとなくだけど、魔理沙の気持ちは伝わった。
魔理沙はどうにも昔から、ふれあいやつながり…そんなものを求めすぎるキライがある。
しかし、そういったものを妖怪に求めるのは間違っているし、求めること自体が魔法使いとして間違っている。
それを分かっていて、そんな自分を誤魔化すためにノリや勢いで動いてるフリをする。
他人の家によく押しかけてくるのも一端だ。
そういった魔理沙の在り様は霊夢にとって好ましいものだが、だからといって簡単に此処を会場にするのを認めてやる訳にもいかない。
「それじゃ、こうしましょう」
にっこり笑って、霊夢は実に幻想郷らしい提案をした。
「弾幕ごっこで、魔理沙が勝ったら此処でやらせてあげる。負けたら一日家事全部やってもらうわ」
「――乗った! よっし、さっそく始めようぜ!」
やる気満々で箒を掴む魔理沙。気力五割り増しといったところか。
手強い相手だが、こちらも負ける気は無い。絶対こき使ってやるんだと、霊夢も立ち上がった。


空に舞い上がる赤白と黒白。
激戦の末、ふらふらと落ちていったのは―――赤白の方だった。






                 *                      *





――24日、昼。


「……何やってんのよ、あんたら」
鳥居の前で、霊夢はあんぐり口を開けていた。
「見りゃ分かるだろ。メイクアップだよ」
言いながら、魔理沙はふさふさした緑の長い飾りを巻きつけていく。
鳥居はすでに蔦で覆われたみたいになっており、ところどころにリボンや人形、ベルなんかが踊っている。
「あんたらねえ……神聖なる神社をなんだと……」
「怒らない怒らない。今日一日だけなんだから」
とりなすように言うのは、ふわふわ浮きながら鳥居の上を弄っているアリス。
十分メルヘンになっているのに、まだまだデコレーションする気らしい。
「あんたが来るとは思わなかったわ。この前の宴会といい……実は以外とお祭り好き?」
「貴女たち二人としんみりしたかっただけよ。魔理沙には悪いけど、クリスマスならみんな集まらないだろうし」
「別に私はそれでもいいぜ。三人でしみじみ一年を振り返るのもいいもんだ」
ふうと息を吐いて、霊夢は石段に腰を降ろした。
「私も、出来れば小規模なほうが好ましいんだけど」
「あら、それじゃ私はお邪魔だったかしら」
柔かなアルトが耳に届く。
声のした方を向くと、メイド服の女性――咲夜が石段を上がってきていた。
手にはやや大きめのバスケットをさげている。
「貴女たちがよかったら、私も交ぜてほしいんだけど」
「構わないが……レミリアに後で絞られないか?」
「これくらいで怒るほど、うちのお嬢様は器量狭くないわ」
鳥居をくぐって、咲夜は霊夢の隣に座り、バスケットを開けて見せた。
「手土産もこの通り」
バスケットの中には、野菜や肉類の包み、ボトル等が詰っている。
四人でしみじみ祝うのなら、これだけで十分すぎるくらいだ。
「――咲夜、あんたはイイ人だとずっと思ってたわ」
感謝の気持ちをこめて、咲夜の手をぎゅっと握りしめる霊夢。
「今頃気付いたの? ふふ……ま、今日はよろしくね」
冗談めかした笑みで応じて、
「あ、そうそう……さっきの話だけど」
咲夜はふと思い出したように言った。
「アリスは集まらないなんて言ってたけど、みんな集まってくると思うわよ」
飾りつけの手を止めて、アリスが顔だけむけて疑問を挟む。
「紅魔館や永遠亭の連中は来ないし、他の面子はクリスマスやるってことすら知らないはずよ?」
「お嬢様は絶対来るわ。輝夜や永遠亭の連中も、他の妖怪たちもね。
なんだかんだ言ってみんな騒ぎが好きなのよ。此処でやるって情報は、天狗娘あたりが嬉々としてバラまくでしょうし」
「そう言われれば……そんな気がしてきたわ」
納得したように頷くアリス。魔理沙と霊夢も同様である。
秋の宴会だって、すいかが居なくともみんな集まっていたのではないだろうか。
「門の飾りは早々に終わらせて、中の飾りつけにかかった方がいいわね。
霊夢、みんな集まったら狭いだろうから……居間の空間を伸ばさせてもらっていい?」
「いいわ。はあ……結局は宴会になるのね」
後片付けの手間を思って、霊夢は大きな息を吐いた。











――夕方。
はたして、咲夜の予言通りにヒトは集まってきた。


「聖誕祭をやるのなら、私たちは必要不可欠でしょ」
「教会音楽はぐるぐるしないから嫌いなんだけどー」
「パイプオルガンは必須よね。でも、大きすぎて携帯できないから残念」

「えへへー、私が歌でいっぱい盛り上げてあげる♪」
「よくわかんないけど、冬のお祭りにあたいが参加しない訳にはいかないわ」
「たまには人間じゃなくて、人間の食べ物も食べてみたいなーって」

「クリスマスはよく知らないのだけど、宴会みたいなものなんでしょう?」
「飛び入り参加で失礼します。今回は私も、台所の方を手伝うから」


前回の宴会を上回る大人数である。
「こりゃあ部屋を伸ばしといて正解だったな……」
妖怪や妖精、幽霊その他でごったがえす部屋で、魔理沙は呆然と呟いた。
ふと目をやると、誘った時には断った奴らもちらほら見える。
「おい、輝夜。小心者の誕生日は祝わないんじゃなかったのか?」
その一人ーー輝夜を捕まえてジト目で問うと、輝夜はしれっと答えた。
「キリストなんて祝う気は無いわ。私はただ、交流を深めるつもりで来たのよ」
「だったらあの時断らなくてもよかっただろ」
「あの時は嫌だったけど、気が変わったの。それじゃあね」
するりと抜けてテーブルの方へ行く輝夜。
「あんにゃろ……自分ちを会場にされるのが嫌で逃げたな」
ちょっぴりムカッときた。あとでどうしてくれようか。
「よし、あの黒髪をレインボーに染めてやる……」
「――ダメ、ゼッタイ」
背後から急に声をかけられ、魔理沙は驚いて振り返った。
「うわっ……なんだ、うどんげか。脅かすなよ」
「ごめんごめん。でも、輝夜様にイタズラするのはやめてね」
後で憂さ晴らしされるのは私なんだからと、鈴仙は哀愁のこもった声で言う。
「お前、黙っていじめられてるのか? それこそダメだぜ、下克上だ下克上」
「輝夜様相手に下克上なんて……うう、考えただけでも恐ろしいわ」
怖い、怖いようとがくがく震えだす鈴仙。
その様子は実に萌え萌えで、魔理沙の母性をくすぐった。
「うどんげ……」
そっと鈴仙の背中に手を回して、優しく抱きしめる。
「困ったことがあったら私を呼んでくれ。絶対助けてやるからさ」
「魔理沙……うん、ありがとう」
魔理沙の腕の中で、柔かに鈴仙が微笑む。
ヒトと月の民。種族の垣根を越えて、深い絆が結ばれた瞬間であった。


一方、咲夜は主を前に戸惑っていた。
予想通り美鈴を連れてやって来たレミリアは、何故か肌のところどころが焦げている。
よく見れば美鈴も同様だ。不機嫌を主張するふたりの目はとっても怖かった。
「あ、あの……一体なにがあったのですか?」
「……訊きたい?」
「訊きたいような、訊きたくないような……」
冷や汗を流す咲夜に、レミリアはぼそりと告げる。
「魔理沙のことをメイドの一人から聞きつけて、フランが“私も行く!”って言い出したの」
戦闘能力だけならレミリアをも凌駕するフランドールである。
性格は多分に攻撃的、全てを破壊する程度の能力を持つ、紅魔館の最終兵器彼女である。
酒がはいって暴れだしたら、それはもうとんでもないことになる。
「止めたらやっぱり姉妹喧嘩になって。パチェが体調崩してたから、美鈴と二人掛りでようやく抑えたのよ」
なるほど、焦げ跡は傷の修復跡らしい。
「……よ、よく二人だけで抑えきれましたね。お嬢様も美鈴も、流石ですわ」
「誤魔化しても駄目よ咲夜……主人が大変な時に、貴女はどこにいたのかしら?」
座った目のまま、ジリジリ迫ってくる二人。
「咲夜さん、覚悟してくださいね……」
「め、美鈴、そんな怖い顔してたら美人が台無しよ……」
後ずさりする咲夜。だが、やがて小部屋の壁に背が当たる。
「……やっぱり、お仕置きですかぁ?」
「当然。幸いここは居間から離れてるし、声だけ遮れば存分に楽しめるわ」
咲夜を食べるのは久しぶりね。怪しい笑みを浮かべて、レミリアがにじみ寄る。
お仕置きというのはアレなお仕置きのことだ。
美鈴をサポートに、良い子のみんなが見ちゃいけないことをするのである。
「出来れば、優しくしてください……」
「それは出来ないわね。お仕置きにならないもの」
最後の嘆願を拒絶して、レミリアは咲夜のメイド服に手をかける。
これから始まる行為に身を震わせて、咲夜はきゅっと目を閉じた。



――こちらは台所。
霊夢と妖夢のふたりが、ただ今調理中である。
「洋食系は、あんまり知らないのよね……」
手際よく野菜を刻みながら、霊夢がぼやく。
「そういえば、クリスマスにはケーキがいるんじゃなかった?」
「大丈夫、ケーキは私が用意してきたから」
肉類の下ごしらえをやってる妖夢が、自分の持ってきた籠を指した。
「あんたといい咲夜といい、ほんと気がきくわねえ」
「その辺はまあ、従者務めのイロハだもの」
こともなげに答える妖夢は実に頼もしい。まさに一家に一台、魂魄妖夢である。
「ね、期間限定で私のとこに来ない?」
「遠慮しとくわ。巫女と幽霊が仲良く同じ家で暮らす訳にもいかないでしょ?」
冗談にもならないと、妖夢は肩をすくめた。

やがて、二組の足跡が近付いてくる。
「お、遅れてごめんなさい……すぐに私も手伝うわ」
「することあったら、私も何かやるぜ。…なさそうだけど」
やって来た咲夜と魔理沙の様子に、霊夢は怪訝そうな目を向けた。
「咲夜、なんか顔が赤いわよ。風邪でもひいてるんじゃない?」
「大丈夫、気にしないで……」
まさかさっきまでヤられてたとは言えない咲夜である。
「魔理沙、なんか妙に嬉しそうね?」
「いや、輝夜のとこのうどんげと友情を交わしてさ。心通いあうってのはいいもんだ」
さわやか笑顔の魔理沙に、妖夢が横から茶々をいれる。
「うどんげと友情ねえ……間違って愛情までいったりして」
「お前こそ、ご主人様とそんな関係じゃないのかよ」
「幽々子様と? ……恋愛は絶対無理。なんていうか、お母さんって感じだから」
生前の境遇を感じさせない、天真爛漫な幽々子。
一見ぼけぼけ娘だが、知識、力の共に強力な彼女に、妖夢は母親のイメージが重なるという。
「お母さん、か……あながち的外れでもないかも」
半分くらい天然っぽい、穏やかな性格。春の日差しのような、やわらかな微笑み。
エプロン着てシーツを干したりする様が、想像してみたら意外と似合う。…ぐるぐる三角巾はいただけないが。
「もしかしたら、お前の母さんだったりしてな」
「ははっ……なかなか面白い冗談ね」
苦笑いで返して、妖夢は作業に意識を戻した。
魔理沙の言葉は面白かったが、真実だとすれば、生前に幽々子は幽霊と交わり子を成したことになる。
記憶を取り戻した幽々子から、子を成したなどという話を妖夢は一度も聞いていないし、村の記録にも無い。
(だけど……もし……)
本当に幽霊との子を宿したならば、村人たちは記録になど残すまい。気味悪く思い、殺そうとするのではないか。
幽々子がそれを心配し、相手の幽霊に子を任せたとしたら? 今更自分に名乗り出ようとはしないだろう。
その相手は、ようき様だったりするのではないか? 思えば、師は随分と自分に優しかった気がする。
(馬鹿馬鹿しい……ずいぶんな妄想ね)
くだらない想像を、妖夢は頭を振って追い払った。
過労しているとは思わないが、疲れてるのかもしれない。今度、幽々子様に連休をせがんでみよう。



居間では、アリスや美鈴、幽々子、チルノにルーミアが部屋飾りの最中である。
「壁の飾りは落ちないようにしっかりとめてね。灯りに落ちたら火事になるから」
「はーい、しっかりとめまーす……あたっ!」
言ったそばから、ルーミアがピンで指を刺してしまう。
「なにやってんのよ、ドジねえ」
「だってえ……」
チルノにからかわれて、ちょっぴり涙目になるルーミア。
「ほら、指をみせて」
「うん……ひゃっ!」
差し出した指に冷気を吹き付けられ、思わず身じろぎする。
「ちょ、なにするのよ!」
「応急処置。冷気にはこういう使い方もあるのよ」
「あっ……」
刺してしまった指先を見てみれば、確かに血が止まっている。
「……ありがとう」
「べ、べつに感謝されるほどのことでもないわ」
改めて感謝されると、気恥ずかしくて照れてしまうチルノである。
そんなふたりを、作業の手を止めて見つめるアリスと美鈴。
「初々しいわねえ……」
「うんうん、とっても可愛い……」
微笑ましい光景に、思わず笑みが零れてしまう。
容姿はあまり似てなくても、ふたりがまるで姉妹のように見えた。
「人間みたいに、誰かと同じ屋根の下くらすのも悪くないかもしれないわね」
「ふふ、本当にいいものよ。……最近、お嬢様や咲夜さんがすこし冷たい気がするけど」
「……がんばれ、中国」
「中国じゃないもん! ううっ……貴女まで私をいじめるのね」
しくしくと泣き出す美鈴。あだ名の事は結構堪えていたようだ。
どう慰めようかと迷うアリスに、ツリーを抱えてきた幽々子が声をかけた。
「このツリーはどこに置くのー。重いから早く指示してほしいんだけどー」
「あ、ごめん。そのツリーはテーブルとテーブルの間に……」
手伝いにいこうとして、その前に美鈴の肩をぽんぽんと叩き、
「ほら。いきましょう、美鈴」
「……うん、頑張る」
小さく笑って、美鈴もアリスの後につづいた。



外では、プリズムリバー三姉妹とミスティアが聖歌の練習中。
三姉妹とミスティア、合同で演奏するのはこれが始めてである。
最初の方はなかなか歌と伴奏が合わなかったが、なんどもあわせているうちにピッタリ息の合った演奏になっていった。
「ふう……これくらいにしときましょう」
小さな息を吐いて、ルナサが楽器を置いた。
「やりすぎて、ミスティアの喉が痛んだら元も子もないしねぇ」
「それにストレスも溜まるわ。私、やっぱりクラシックは嫌い」
メルランとリリカも姉にならう。
「私なら大丈夫なんだけどなー」
不満気に言って、ミスティアも石壇に腰を降ろした。
辺りはすっかり暗くなっている。もう少しすれば、夜空に星が浮かんでくるだろう。
「……ね、やっぱり聖歌は止めにしない?」
唐突に、リリカがそう提案した。
「そんなにクラシックが嫌いなの?」
「嫌いっていうのもあるけど……ほら、レミリアあたりから苦情が来ると思って」
「あ、それは考えてなかったわ……」
沈黙する一同。
レミリア=スカーレットは、魔女狩りから逃れてきたヴァンパイア・ロードである。
聖歌などはもっとも聴きたくない歌のひとつだろう。
「……でも、今から他の歌を練習してる時間は無いわ」
「だけど、他人を不快にするような音楽は……」
悩みだす三姉妹に、ミスティアが不思議そうに言った。
「何で悩むの? 別にいいじゃない、聖歌で」
「でも、聖歌は……」
言いかけたルナサの言葉を遮って、
「レミリアが嫌いなのは歌じゃなくて、協会の人たちでしょ?
私たちが心を込めて演奏すれば、きっとレミリアにだって気持ちよく聴こえるんじゃないかな」
心のこもった音は、誰の心にだって届く。
ミスティアの言葉に、三人はしばし呆然としていたが、
「そっか……そうよね」
「私たちとしたことが、大事なことを忘れてたわ」
「ありがと、みずちー」
変な気遣いをするよりは、演奏に全力を傾けようと。
「えへへ、がんばろうねー」
にっこり笑って、ミスティアは腰を上げた。
そろそろパーティがはじまる頃だ。戻って準備をしないといけない。


四人が帰ろうとした、その時だった。
「あれ……?」
視界に小さな白い物を見つけて、ルナサはそれを手の平ですくってみた。
ふわふわしていて、ひんやり冷たい。これは…………
「もしかして……」
見上げると、空からいくつも白いふわふわが舞い降りてきていた。







――そう、雪が降っていた。








                   *                    *






窓から気付いて、家の中の皆も外へ出てきた。
「最近は見なかったわね……」
手のひらに雪の欠片をのせて、霊夢がしみじみと呟く。
「去年は嫌ってほど降ってたけどな」
去年の事件を思い出し、笑う魔理沙。
「春はちゃんとかえしたもの。私はもう無罪放免よ」
「あたいは最高に幸せだったんだけどねー」
澄ました幽々子の隣で、うっとりするチルノ。
氷の妖精にとっては、さぞかし天国だったことだろう。
「雪は、こんな牡丹雪のほうがいいわ。風情があるもの」
「私も、去年のような猛雪は御免ですね。こっちがいいです」
空を見上げて、呟く主従。
おそろいの銀色の髪は、雪降る景色によく似合う。
「――な、みんな」
思いついたように、魔理沙が言った。
「こうして外に集まったんだし、みんなで言ってみないか?」
唐突な言葉に、皆、きょとんとしていたが、
「何を……あ、なるほど」
「クリスマスだもんね。景気よく叫ばなきゃ」
「ま、仕方ないか。合図は魔理沙が出しなさいよ」
みんなが笑顔で、魔理沙の方に目を向ける。
「わかった。せーの、でいくぞ」
魔理沙も笑って、大きく息を吸い込んだ。



「……せーのっ」














「「「「「「「メリー・クリスマス!!」」」」」」」」


2日遅れのクリスマスssですが、きっと賞味期限は過ぎてないはず。
key
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コメント



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8.80削除
誤字>「レミリアが嫌いなのは歌じゃなくて、協会の人たちでしょ?

>妖魔狩りの強力な戦隊
英国国境騎士団とかヴァチカン第13課とか埋葬機関とかですね。恐いですね。
14.70まっぴー削除
英国国境騎士団は関係ないような……でもまあ退魔組織だし。

ぬふぅです。なんか暖かいクリスマスをありがとう。
21.60MIM.E削除
誰も彼もどこもかしこもふわふわしてて優しい気持ちになれました。
雪もきっとふわふわ。