抜け殻のようだった身体に、『私』が戻ってくる。
考えることをやめていた頭が、『私』が戻ったことで再び動き始める。
まずは状況の確認から始めよう。首をめぐらせて見る。
真っ青な顔をしているアリス、おろおろしている美鈴、いつもと変わらないレミィ、すでに平静を取り戻している咲夜。
私は……きっと酷い顔をしているに違いない。
だって――
◇
「魔理沙……そうだわ……早く魔理沙を探さなきゃ」
重苦しい静寂を破ったのはパチュリーだった。
が、様子が明らかにおかしい。愛用の魔道書をめくってはいるものの、焦点の合わない目はどこも見ておらず、手はページをめくっては止め、違うページを開いてはまた同じページをめくっている。
「どうして? この本に載っていないことなんてないはずなのに、どうして見つからないの……?」
それは当たり前だ。彼女の手はさっきから全く同じページしかめくっていないのだから。彼女も目はどこも見ていないのだから。
だが、当人はそんなことにすら気づかず、壊れた機械のように何度も何度も同じ行動を繰り返す。
異常としか表現できないその行動に、誰もが口を出せないでいた――たった一人を除いて。
「やめなさい、パチェ」
レミリアだ。彼女はパチュリーの前に進み出てたしなめるように言う。パチュリーは一度小さく身体を震わせたが、手を止めることはなかった。
それを見たレミリアの表情が険しくなる。
「パチェ!」
「――大丈夫よ!!」
普段の彼女からは想像もできないほどの大声。今度はレミリアが身体を震わせる番だった。
「そうよ、大丈夫、大丈夫に決まってるじゃない。だって貴方の力を借りて咲夜にも力を貸してもらってアリスにだって協力してもらって魔方陣は完璧に書き上げたしどんなことが起こったっていいように人も集めたし失敗なんて……失敗なんてするはずがないじゃない!」
ダン、と床に拳を叩きつけてレミリアを睨みつける。鬼気迫るその表情は、しかし、触れば壊れてしまいそうなほど脆い。
「それとも何? これも、この結果も運命だったって言うの? これも全部運命だから仕方がないって、貴方はそう言うの!?」
「パチュリー様! それは……」
「――咲夜!」
「も、申し訳ありません」
一喝して咲夜を黙らせる。咲夜は納得のいかない、という顔をしながらも素直に引き下がる。もう口出しをする気はないらしい。
それを見越して、レミリアはパチュリーと真正面から向き合う。
パチュリーの顔色はいつにもまして悪い。本来大きな声を出したりできない身体で、あれだけ声を荒げて喋ったのだから当然の結果だ。
息も荒い。すぐにでも気を失ってしまいそうなほど苦しいはず。
だが、パチュリーは喋ることをやめようとしない。堪えきれなくなった涙を流しながら問いかける。
「それなら私のしたことは何? 私はどうするべきだったの? 答えて……答えてよ……」
うつむいて、ぽろぽろと涙を流し続けるパチュリーの肩を、レミリアはそっと抱きしめる。
嗚咽は次第に泣き声に変わっていった。レミリアも咲夜も何も言わない。
ただ、パチュリーの泣き声だけが響く……。
◇
「……どう? 少しは落ち着いたかしら?」
答える代わりに、パチュリーは首を縦に振った。
「そう」レミリアは手を離して立ち上がる。その小さな体を、パチュリーの両腕が抱き止めた。
「パチェ?」
「お願いだから答えて……私は、どうすればいいの?」
掠れてしまった、懇願するような声。それはあまりに弱々しい。
絶対の自信を持って実験を行った、魔法使いパチュリー・ノーレッジとしての誇り。霧雨魔理沙という少女を、自分の手で命に関わる危険にさらしてしまったこと。そして、何もできない自分。
過信、傲慢、失敗……無力。
そういったものに責め、苛まれたパチュリーの心が内側から崩れていく。百年余の人生で築き上げてきた魔女としての経験全てが否定され、壊されていくように。
砂上の楼閣。脆くも崩れ去るパチュリーの心は、そう表現するにふさわしかった。
今まで培ってきた知識は何のためにあった? ……何のため? 何のためでもない、ただ、そこにあるだけでよかった。知っているだけでよかった。
それを私は自分のために使おうとした。誰のものでもない、ただあるだけの知識を自分のために使おうとした。
知識を自分のために使う? ……驕りだ、それは驕り以外のなにものでもない。私はもっと分を弁えるべきだったんだ。それにあの鬼にも言われたじゃないか。「知識があっても実践できないようじゃ……」って。
知識があっても実践できない? ……そうだ。私は所詮そんなものだったんだ。
偉そうなことを言ってみたところで、何一つできやしない。覚えていることは立派でも、それを何にも活かせない。
そのくせ自分の力を過信して……結果がこれだ。
「……そう、もう遅いのね。は、はは……あはは……」
レミリアの沈黙をどう取ったのか。涙を流しながら、能面に笑い顔だけを貼り付けたようにパチュリーは笑う。……尋常な笑い方ではなく、心が壊れてしまったように。
証拠に、パチュリーの身体からは生きる気力とも呼べるものがどんどん流れ出していく。これが尽きてしまえば、どんな生き物も抜け殻と同じになってしまう。
それだけではない。動くことをやめ、考えることをやめれば、誰しも最後には生きることさえやめてしまうだろう。
レミリアは舌打ちをした。いつもいつも悪巧みに人を巻き込む友人にきついお灸を据えてやるつもりが、とんでもないことになったと。
「お、お嬢様! パチュリー様の様子が!」
慌てふためく咲夜。
悪いことは続くものだ。咲夜にはこれが見えていない。目だけで物を見ようとするからだ。レミリアは己の従者の不甲斐なさを呪った。
咲夜に時を止めてもらえれば時間も稼げたのだが、この状況で悠長に説明などしている暇はない。
「――まったく、世話の焼ける……!」
がっくりと項垂れているパチェの頭を、両手で挟んで正面を向かせる。
息が掛かるほどに顔を近づけて、光を失いつつあるパチュリーの目を覗き込む。
「パチェ! 私の目を見て!」
「……」
返事はない。代わりにのろのろと動く瞳がレミリアの瞳を見る。
目と目が合った瞬間。レミリアの瞳が燃えるように紅く輝く。
魔眼。悪魔が持つ、一種の魔法。
今レミリアが使ったものは、目を合わせた相手を強制的に隷属させるというものだ。
パチュリーのように高い魔力(あるいは霊力)を持つ相手には効きが悪いのが難点だが……。
「……ふぅ。どうやら成功したみたいね」
パチュリーの瞳の奥に紅い光が見えたことを確認して、レミリアは胸に手を当て安堵の息を吐いた。まったく心臓に悪い。寿命が五年は縮んだと思う……ま、その程度縮んだところでどうってことはないけれど。
魔眼の効果で、しばらくの間パチュリーはレミリアの忠実な僕になる。今の彼女に自分の生死を決める権利はなく、主であるレミリアが死ねと言わないかぎり生き続けなければならない。
これで一安心だ。そもそも生きるための気力なんてものは内側から湧いてくるもの。放っておけば回復していくだろう。
さて。
「パチェ。私が事の成否について貴方に聞かれたとき、どう答えたか覚えているかしら?」
「はい。『安心なさい。大丈夫よ、きっと』。そうお嬢様は仰いました」
機械のように正確に、体温を感じさせない声で、一字一句間違いなく答えるパチュリー。その様子に、レミリアは微かに――咲夜はよりはっきりと――表情を曇らせた。
パチュリーは口数が少なく、感情の波も小さい。そのせいで冷たいと思われがちだが、本当は違うことを二人は知っている。一見平坦に見える言葉や仕草に、時に驚くほど大きな感情の波が隠れていることを知っている。
だからこそ、二人の受けた衝撃は計り知れない。例えそうなるとわかっていたとしても。
――すぐにでも魔眼を解いてしまおうか。……こんなパチェは見ていたくない。
そんな考えがレミリアの頭をよぎる。
いいや駄目だ。今、魔眼を解いたら同じことになる。次も成功するなんて保障はどこにもない。
自分をそう納得させ、全てを投げ出してしまいたい衝動を噛み殺して、口を開く。
「……そのとおりよ。だから、貴方は私の言うことを信じていればいいの。――いいわね?」
「はい」
やれやれだ、もうこんなことはこれっきりにしよう。こういうことは私には向いてないみたいだ。
小さく頷くパチュリーを見て、レミリアは一つため息をついた。
◆
レミリアは咲夜と二人、長い廊下を歩く。会話などは一切ない。
ついでに言えば、歩いているのが二人だけで実際には四人いる。咲夜はアリスを背負い、レミリアは身長の関係で美鈴の足を掴んで引きずりながら歩いている。パチュリーは「いつも通りにしていろ」というレミリアの命令に従って魔法図書館に残っている。
「あの……お嬢様」
「何かしら?」
いまひとつ見えてこない事態の真相を把握しておこうと、咲夜は言った。
聞くことはいくつかあるのだが――
「パチュリー様はあのままでよろしいのですか?」
『あのまま』とは、もちろん魔眼をかけたまま、ということだ。
咲夜にはそもそもなぜ魔眼をかける必要があったのかさえ、はっきりとわかっていない。いろいろと考えはしたのだが、どれもしっくり来なかった。……理由が理由だけに、仕方がないとも言えるが。
「もちろんよ」
「それはどうしてですか?」
「そうね。まずは目で見えないものも見えるようになりなさい。それができないことには説明しても意味がないわ」
「……はぁ」
質問をしたはずなのに課題を一つ出されてしまった。
理不尽だ。……でもまぁ、理不尽ではあるがそれも私のためなのだろう。
咲夜はとりあえず前向きに考えることにした。
「あの……」
「なに? まだあるの?」
面倒臭そうな顔をしてレミリアは言う。従者として少しの罪悪感を抱きながら咲夜は続けた。
「この二人はどうして……」
「――咲夜。貴方はいつからそんな退屈なことを言うようになったのかしら?」
冷たい声に身体が強張る。「死んだ」と、咲夜は思った。しばらくして苦しくなるまで、息をすることさえ忘れていた。本当に死んだつもりだった。言葉だけで人を殺せるなら、正にこれがそうだろう。
恐る恐る視線をずらすと、レミリアは、呆れを通り越して愛想が尽きたような顔をしていた。愛想を尽かす、ということは『いらない』ということ。この館でレミリアが『いらない』ものに存在する価値は認められていない。
しかし。
もしレミリアが本気で咲夜を『いらない』と思ったなら、何も言わずに咲夜の命を刈り取っていただろう。それをしなかったということは、レミリアはまだ咲夜を必要としているということだ。
――まだ、自分は必要とされている。
そのことに、咲夜は恐怖よりはるかに大きな安堵を感じていた。
主のわずかばかりの期待を裏切るまいと、咲夜は考えを巡らせる。
あの時、咲夜はレミリアに「何かあったらアリスと美鈴を気絶させろ」と命令された。
これだけの人員を集めておいて失敗などあるものか。そう思ってはいたが、主の命令に意見するわけにもいかず、その場は頷いておいた。
ところが実際に――それがレミリアの指したものかどうかはわからないが――『何か』は起きた。実験の最中に魔理沙が、こともあろうにあの厄介なスペルカードを使いながら乱入してきたのだ。
当然のように、迎撃用の魔道書など時間稼ぎにすらならない。弾かれ、焼かれ、次々に落ちていく。
そして魔理沙はスペルを暴走させた挙句、閉じている途中の魔方陣に突っ込んで消えてしまった。
転送用に作られた魔方陣の中で魔法を使うなんて自殺行為もいいところ。再びここに帰ってくる確率はおろか、生きていられる確率さえほとんどゼロに近い。しばらく呆然としながらそんなことを考えていた。
それから真っ青な顔をしているアリスの首筋に手刀を叩き込み、おろおろしていて隙だらけの美鈴を締め落として、そのすぐ後に……
ああ、そういうことか。咲夜は思った。
何のことはない。レミリアは友人のあんな姿を他の誰にも見せたくなかったのだ。
「……ようやくわかったみたいね」
「はい。申し訳ありません」
「別にいいわ。貴方のそういうところ、今に始まったことじゃないし。それなら……わかるわね?」
「はい。私は何も見ていませんし、聞いてもいません」
「よろしい」
咲夜の答えにレミリアは少しだけ機嫌を直したようだった。
「お嬢様。最後に一つだけ、よろしいですか?」
「構わないけど。聞くことなんてまだあったの?」
「はい。……お嬢様は、『誰の運命』を操ったのですか?」
そう。咲夜が一番聞きたかったことはこれだ。
普通に考えれば、実験を行うパチュリーの運命を操って、彼女の望む方向に事を運ぶ必要があったはず。
しかし、実際にはどうだろうか? 実験は失敗しパチュリーはあの通り。レミリアの助けがなかったら、廃人同様になっていたかもしれない。
これはつまり、レミリアは彼女の運命を操らなかったということになる。それはアリスと美鈴も同じこと。
咲夜には自分で『何かあったらアリスと美鈴を気絶させろ』と指示を出していた。これも除外していいだろう。
となると、残るは一人しかいない。だがその理由は……?
「そうよ咲夜。今度からはそういう質問をなさい。少し考えればわかるようなことを、私の従者ともあろうものが、軽々しく人に尋ねたりするものではないわ」
得意顔で言うレミリア。機嫌が悪くなるのも早いが、良くなるのもまた早いらしい。
「『誰か』なんて言う必要はないわね? ……貴方は気づかなかったかしら? いつもいつも貴方の監視の目を潜って入り込む輩を抜きにしてこの実験を行うこと自体、無理があるって」
「――ぁ」
言われてみれば当たり前のことだ。
通常の警備体制でさえ、魔理沙は易々と魔法図書館に侵入してくる。今回はそれに加えて内と外と主力を欠いた状態。これでは自由に通って構わないと言っているようではないか。そして、彼女なら魔法の実験とわかれば必ず首を突っ込みに来る。それを見落としていた時点で、すでに計画は破綻していたと言えよう。
「……確かに。パチュリー様のことですから、きっと何か考えがあってのこととばかり……」
「それについて責めはしないわ。初めは私もそう思っていたもの」
珍しく、素直に自分の落ち度を認めるレミリア。
「実験は成功するでしょう。必要なものは全て揃っているのだから、成功しないほうがおかしいわ。……ただ、問題はその先」
「先、ですか?」
「そう。その魔理沙の“糸”がね、ぷっつりと切れたの」
よくわからない。咲夜は言葉の意味がわからずレミリアを見た。
「『運命の紅い糸』って言うでしょ」
「……あ、なるほど」
納得。
で、納得してふと思う。
「……お嬢様。つかぬ事をお伺いしますが、その糸が切れるとどうなるのでしょうか?」
頭の中には最悪の――それも、おそらくは正しい――イメージがある。が、それでも聞かずにはいられなかった。
「運命の糸が切れるということは、その先に運命はないということよ」
レミリアは、顔を背けてぽつりと言った。
「……え?」
――魔理沙が、死んだ?
ガンと殴られたような衝撃に咲夜はよろけた。踏ん張ろうとするが足元がおぼつかない。まるで、自分の周りの床だけがぐにゃぐにゃと揺れ動いているよう。これ以上は立っていられそうにない。
一応、アリスにも気を使いながら床に座り込む。不思議なことに、床の揺れはすぐに治まった。
原因はすぐにわかった。恐怖で足が震えていたのだ。
予想していたことなのに、わかっていたことなのに、怖かった。
自分と同じくらい強い人間でさえ、こうも呆気なく、簡単に死んでしまうのだと認めることが。
それは自分も例外ではなく――
「嘘よ」
「――っ!」
弾かれたように顔を上げると、そこにはにんまりと笑うレミリアがいて。咲夜は全身の血液が沸騰したように熱くなって、目の前が真っ赤になって……手が、勝手に動いた。
――廊下に乾いた音が響く。
片側の頬を赤く腫らしたレミリアと、手を振りぬいたまま荒い息をつく咲夜と。レミリアは呆然と咲夜を見、咲夜は明らかに怒りの篭った視線でそれを見返した。
二、三度瞬きをして、レミリアは言った。
「……咲夜。貴方、自分が何をしたのかわかっているの?」
「いくらお嬢様でも、言って良いことと悪いことがあります……!」
「私に意見するどころか手をあげるなんて、ずいぶんと偉くなったのね?」
にっこりと微笑むが、真紅に輝く目は少しも笑っていない。合わせるだけで気が触れてしまいそうなその目を、咲夜は真正面から睨み返す。
だが、それだけで精一杯だった。喉を締め付けられたように息ができず、声を出すこともできない。
「私がなにより怖いのは、貴方の隣にいられなくなることなのに」。たったこれだけのことが喋れない。
咲夜の目に何を見たのか。ため息をついて、レミリアは目を逸らした。そして、寂しそうに笑う。
「本当はね、今の貴方みたいにパチェを怒らせたかったの。そうすれば気づくでしょう? 「貴方のやったことはそういうこと。大切なものも、大切な人も――自分さえも失いかねないことなんだ」って。……まぁ、薬が効きすぎたのは予想外だったけれど」
「……それじゃあ、魔理沙は……?」
「生きてるわよ。切れた糸は繋ぎ合わせればいいんだもの」
いつの間にか手放していた美鈴の足をつかんでレミリアは歩き出す。
魔理沙が生きているという事実に、咲夜はほっと胸を撫で下ろしていたが、
「咲夜……いい加減、この廊下を元に戻してくれないかしら? これじゃいつまで経っても部屋に戻れそうにないわ」
「は、はい!」
呆れ返ったレミリアの声に我に返ると、脇に寝かせていたアリスを背負って主の下へ駆け出した。
実のところ、レミリアに話を聞くにはこの廊下は短すぎたのだ。
それで空間を操って廊下を先へ先へと伸ばしていたのだが――当の本人がそのことをすっかり忘れてしまっていた。
操っていた空間を元に戻す。すると、二人は廊下の中ほどに立っていた。振り返ると、まだ魔法図書館から十メートル程度しか歩いていない。
しかし、ついでに時間の調整を誤ったのか、窓から見る空はすでに白み始めていた。
「貴方って、やっぱりどこか抜けてるわね」
「……申し訳ありません」
謝るついでにレミリアの顔を見た咲夜は、その頬が赤く腫れていることに気づいて、自分がどれほど恐れ多いことをしたのかを思い出した。
「あ、あの……お嬢様」
「何かしら?」
「その、先ほどは……」
「ああ、これのこと?」
赤くなった頬を指すと、恐縮している咲夜は「はい」と消え入るような声で小さく言った。が、レミリアは大して気にした風もなく。
「――気にしなくていいわ。……むしろ謝るのは私のほうよ。貴方には嫌な思いをさせたわね……ごめんなさい」
「い、いえ! あの、そんな、謝るのは私のほうでお嬢様はぜんぜん悪くないというか、手をあげたのは私のほうですし――あ、それより!」
主に頭を下げられるというのは、従者として精神衛生上よくないらしい。普段ならまずしない身振り手振りを交えた説得を試みた後、とにかく話を変えようと必要以上に大きな声を出していた。
「なに?」
「魔理沙は戻ってくるのですか?」
「ええ。近いうちに、必ず」
「……そうですか。それは――?」
二人はほとんど同時に振り向いた。目は魔法図書館のドア――その奥に向けられている。
レミリアは自分の領地に侵入した何者かに、咲夜は自分の操っている空間に開かれた門に気づいたからだ。
魔眼をかけられているパチュリーが一人で門を開くとは考えられない。自然、『何者かがこの幻想郷の外側から入り込もうとしている』という結論に至る。
わずかに汗ばんだ手を握り締め、咲夜は険しい目つきでドアの奥に現れたであろうそれを睨みつけた。
「お嬢様、これは……?」
「ずいぶんと早かったわね」
しかし、返ってきたのは緊張の欠片もない普段どおりの声。わけがわからずレミリアを見ると、彼女は美鈴を引きずって歩き出していた。
どうやら危険はないらしい。そう判断した咲夜は、急いでレミリアの横に並ぶ。と、レミリアは欠伸をしていた。
「……眠いわ。咲夜、ベッドの用意をしておいて頂戴。私はゆっくり歩いていくから、これとアリスを先に片付けておきなさい」
「はい。それでは、失礼します」
美鈴を受け取って、一礼してから咲夜は姿を消した。
咲夜の姿が見えなくなった途端、急にレミリアの足取りがおぼつかなくなる。眠い、というより極度の疲労で倒れそう、といった感じだ。
「あー疲れた。……こんなに力を使ったのは初めてかしらね」
本来死ぬべき定めの運命に介入したことがないわけではない。膨大な力を使うから滅多にやらないが。
しかし、今回はそれに加えてパチュリーに魔眼をかけ、魔理沙が帰ってくることを見届けようと、力加減を誤るように咲夜にも魔眼をかけた。(本人は最後まで気づいていないようだったが)
おかげで力はほとんど空に近い。しかも太陽まで昇ってきたものだから余計に力が落ちる。
まったく、なんだこれは。たまに人助けをしたかと思えば、幻想郷はずいぶん私に冷たいじゃないか。
寝ているのか起きているのかわからない顔で廊下をふらふらと歩く。
「……んー?」
ところが歩けど歩けど体が進まない。仕方ないので誰かに部屋へ連れて行かせようと思ったが、呼べども呼べどもメイドたちが現れる気配はなかった。
役立たず共め。咲夜とは大違いだ。
毒づいて、初めて自分が床に倒れていることに気がついた。
起き上がろうとするが腕に力が入らない。というより寝転がったら力が抜けた。
絨毯は意外にふかふかしていた。掃除が行き届いているから埃もそんなに落ちていない。
少し汚れるけど、まぁいいか。帽子を取って頭の下に置くと、レミリアは目を瞑った。
意識が闇の中にすっと落ちていく。その間際、友人を縛っていた鎖を最後の力で引き千切った。
――パチェ、後はうまくやりなさい……。
――魔理沙……この幸せ者め。今度パチェを泣かせたらただじゃおかないからな。
この後、廊下の真ん中ですやすやと眠るレミリアを発見した咲夜が、職務怠慢なメイドたちを粛正しに走ったとか。
◆
身体は椅子に座り、手は本のページをめくり、目はそこに記された文字を一つ一つ追っている。
けれど、それは私の意思ではない。私はその光景を少し離れたところから見ているのだ。
私の体は私の意思とは別に、これからは動くのだろう。私が今まで暮らしてきたとおり、その歴史をなぞって。私の体が寿命を迎える日まで。
――レミィはどうしてこんなことをしたんだろう。……私はもうどこにもいたくなかったのに。消えてしまいたかったのに。
彼女にとって友人の行動は不可解なものだった。突き放したと思いきや、魔眼で体の自由を奪ってまで助ける。まったくもって理解しがたい。
でも、不思議と腹は立たなかった。レミリアの、あの必死な顔を見たパチュリーには、彼女に他意があるとは思えなかった。レミリアはただ、壊れていく自分を助けたかったのだと思った。
だから今しばらくの間は生きていようと決めた。レミリアのために。例え体の自由はなくても。
「……少し眠ろうかしら」
今日はいろいろあった。何より精神的に疲れた。
だから少し休もう。
目を閉じると、眠りはすぐに訪れた。
――何らかの兆しを感じて動物たちが騒ぐように、魔力の波を感じた書物たちがざわめき出す。
彼らに意思があるかと問われれば、おそらくは否だろう。それぞれの書物に宿った魔力が、別の魔力に干渉して何らかの反応を起こしているに過ぎない。
しかしそのざわめきは、眠っていたパチュリーにはまるで“彼ら”が自分を呼んでいるように聞こえた。
蒐集し、保管し――母親が小さな子供を可愛がるように大切に扱ってきた“彼ら”が、自分に呼びかけているように。
……うるさい。
初めはそう思った。
私は疲れている。私は眠りたい。私は何もできない。私は……何もしたくない。
無理矢理、眠りの淵にしがみつく。刺激に反応して浮上しようとする意識を力で繋ぎとめる。
しばらくすればこのざわめきも収まるだろう。そうすれば、私はまた眠っていられる。
生きていようと決めはしたが、元のように生活しようとは思えなかった。
魔女としての誇りも、新しい友人も……失ってしまったものがあまりに大きすぎる。
「だからもういいじゃない……。私に構わないで。私を独りにして……――!?」
なんだか目元が冷たい――冷たい?
驚いて目を開けると濡れた袖が見えた。それも遠くから見ているのではなく、ずっと近い。
それだけではない。ぺたぺたと顔を触って確かめてみる。身体の自由が戻っていた。
「どうして……」
魔眼とは厄介なもので、一度かかってしまうと自力で解くことはなかなか難しい。
強い精神力で撥ね退けることは可能だが、生きる気力さえ失いかけていた自分がどうやって解いたというのか。
だとすれば、答えは一つだ。
「レミィが……?」
レミリアが魔眼を解いた、そう考えるのが一番自然だ。
でも、なぜ? ……私が煩わしくなったの?
いけない。パチュリーは頭を振って嫌な考えを頭から追い払った。気を抜くと考えが悪いほう、悪いほうへと転がっていく。
パン、と音が出るほど強く両手で頬を叩いた。頬がひりひりする代わりに眠気が飛んで、頭の中が少しずつ冴えてくる。
――それを待っていたかのように、魔道書たちがより強くざわめいた。
その様はまるで、小さな子供たちが一斉にはしゃいでいるよう。
うるさい。
でも不思議と耳に心地良い。
どうして?
喜んでいるから。
喜んでいる?
そう、“彼ら”が喜んでいるから。
――まさか!
はっとなって振り向く。床に描かれた魔方陣から光の柱が立ち上り、閉じたはずの『門』が開いていた。
そのことに気づかなかったのはパチュリーただ一人。
だって、それはあまりに自分の魔力に似ていたから――いや、“同じ”だったからだ。
「……」
パチュリーは無意識に立ち上がっていた。
もしかしたら。そんな小さな可能性に希望を見出そうとしている自分がいた。
もしかしたら、魔理沙は別の幻想郷にたどり着けたのかもしれない。
もしかしたら、そこで別の私に会ったのかも知れない。
もしかしたら、私に協力してもらえたのかもしれない。
もしかしたら――魔理沙は帰ってくるのかもしれない。
足が前に出る。理性はそれを否定している。力ずくで引きとめようとしている。
これでもし魔理沙が帰ってこなければ、今度こそ本当に壊れてしまうぞ、と。
それでもいい。壊れてしまっても構わない。目を閉ざして逃げるよりずっといい――!
パチュリーは心の中で叫ぶ。理性はもう何も言わなかった。
一歩一歩、魔方陣に近づいていく。緊張のためか、心臓の鼓動がいつもより速く、大きい。
息苦しささえ覚えるなか、パチュリーは魔方陣の前にたどり着いた。
二つの幻想郷を結ぶ『門』――光の柱は、役目を終えて徐々に閉じようとしている。
術式が違うのか、それとも魔力の濃さの違いか、光の柱の中を見通すことはできなかった。けれど、そこに誰かがいるのはわかった。
心臓の鼓動がよりいっそう速くなる。
そのうちに門が閉じて、光が消える。
そこに立っていた誰かを両手でつかまえて――ぷつりと、糸が切れるように、パチュリーの意識は途絶えた。
◇
「よお」
目を覚ますと、パチュリーは自分の部屋のベッドの上にいた。横には魔理沙がいて、椅子に座ってリンゴを剥いている。
状況がつかめないまま、器用に皮を剥いていく彼女の手元を眺めていると、
「なんだ欲しいのか?」
勘違いされてしまった。
一切れ差し出されたのでとりあえず受け取って齧る。とても甘くておいしかった。
で、おいしかったついでに変なことに気づいた。その、『変なこと』というより『変な格好』に。
目を擦ってみるが変化はない。黒白改めピンクの魔法少女がそこにいた。
「なんだよ?」
じっと見ていると怪訝な顔をされた。
「……それ、私の服」
考えた末にパチュリーの口から出た言葉はそれだけだった。
魔理沙は「そうだな」と答えてリンゴを齧っている。
「どうして着ているの?」
「誰かさんが抱きついて泣いたせいで、私の服がびしょ濡れになったからだな」
「……」
そういえばそんなことがあったような気もする。思い出すうちに――魔理沙は気づいていないようだけど――顔がどんどん熱くなっているのがわかった。
急いで掛け布団を顔まで引き上げて隠れた。
魔理沙はなにも言ってこない。しゃりしゃりとリンゴを齧る音だけが聞こえてくる。
やがてそれも聞こえなくなると、部屋の中はとても静かになった。時折ぱたぱたと廊下を駆けていくメイドの足音が聞こえる以外、音らしい音もない。
呼吸や心臓の音がやけに大きく聞こえる。少し動いただけで大きな音が立ちそうで、パチュリーは身じろぎ一つできずにいた。
動けなくなるとその分いろいろと考え事をしてしまうもので。どうしても布団越しにいる魔理沙のことを考えてしまう。
貴方が何を見ているのか。
貴方が何を聞いているのか。
貴方が何を考えているのか。
――私はそれを知りたい。
頬が紅潮していくのがわかる。まるで恋をした少女のようだと、パチュリーは照れ笑いを浮かべた。
布団を持つ手にわずかに力がこもった。
――でも、もし、魔理沙が怒っていたら?
頭から血の気が引いていくのがわかった。
そうだ。何を浮かれているのか。魔理沙は私のせいで命に関わるほど危険な目にあった。……だから、きっと怒っているに違いない。
途端に手から力が抜けた。怖くて、魔理沙の顔を見ようという気にもなれなかった。
◆
「……じゃあ、そろそろ帰るな」
パチュリーは布団から顔を出そうとはしない。仕方なく魔理沙は立ち上がった。
箒を担ぎ上げ、持ってきた荷物を持とうとして……止める。
……洗濯してもらっている洋服はまた今度取りに来ればいいか。ま、入れてもらえたらの話だけどな。
声は出さず、自嘲気味に笑ってドアの方へと歩いていく。
もっと遠くてもいいはずなのに。そこまではたった数歩の距離しかなかった。ゆっくり進んでもすぐに着いてしまう。
ドアノブに手をかけて、魔理沙は最後に一度だけ後ろを振り返った。
――布団はかけられたまま。その真ん中辺りが人の形に膨らんでいる。
別に何を期待をしてたわけではなかった。
ただ、「そうだったらいいな」と、少しだけ。心の隅で願っていた。
でも、駄目だった。願いは叶わなかった。
「……はは、なかなか思い通りにはいかないか」
目を逸らし、自分にも聞こえるかどうかという声で呟いて、ドアノブを回す――。
◆
魔理沙の気配がベッドから遠ざかっていく。
ドアノブに手をかける音がして、気配はそこで立ち止まった。
気のせいかもしれなかったが、パチュリーは魔理沙に見つめられているような気がした。
怒っている様子はない。じっと、何かを堪えているような、そんな視線を感じた。
息が止まる。ここで声をかけなければ、きっと魔理沙は行ってしまう。
でも、怖い。声をかけて、もし魔理沙が振り返らなかったら?
想像するだけで胸が痛む。手は石のように固まって、動いてくれない。
ガチャリ。
ドアノブの回る音がして、
「――待って!」
今度は考えるより先に身体が動いていた。
布団をはねのけて起き上がる。魔理沙の背中がびくりと震えた。
「……なんだよ」
返ってきたのはぶっきらぼうな一言だけ。体は相変わらずドアを向いたままだ。
パチュリーはそこに二人の距離を感じて、一瞬、言葉をつまらせた。
手をぐっと握り締めて、言葉をつむぎだす。
「……ごめんなさい。貴方を危険な目に合わせて、本当にごめんなさい。……私が言いたかったのはそれだけよ」
自分は嫌われたんだと思う。それでもいい。会えなくなるその前に、聞いて欲しかった。
パチュリーは魔理沙に背を向けて窓の外を眺める。もうその背中を見ていることさえできなかった。
魔理沙は何も言わない。動く気配もない。
――いや、もしかしたら自分が気づいていないだけで、とっくにこの部屋を出ているのかもしれない。私に声をかける必要なんてないんだろう。
頭の中で悪い考えばかりがぐるぐる回る。
そんな自分に嫌気が差して、パチュリーは陰鬱なため息をついた。
その次の息を吸うまでの、ほんのわずかな静寂。
「……なんで」
本当に小さな声が聞こえた。
「なんでパチェが謝るんだよ……。悪いのは私じゃないか。実験の邪魔して、迷惑掛けて……悪いのは私なのに、なんで謝るんだよ……」
「……」
ぐすぐすと鼻をすする音がする。
パチュリーは半ば真っ白になった頭で、魔理沙は泣いているんだなと思った。けれど、自分も泣いていることには気がつかなかった。
しばらくして。
パチュリーは背中に重みを感じた。軽く寄りかかる、そんな程度の。
触れ合っているだけなのに、暖かくて、心が安らぐ。向こうも同じなんだろうか? ……きっとそうに違いない。
試しにこちらからも身体を預けてみる。嫌がるような気配はなく、背中でしっかりと支えてくれた。
無言の時間が流れる。
「――初めは嫌われたと思ったぜ」
唐突に、向こうからそんな言葉が投げかけられた。
「だって、なかなか口利いてくれないし。すぐに布団にもぐって出てこないし……」
「それは……私も同じよ。貴方を危ない目に合わせたからきっと怒ってるって。そう思ったら顔を見るのも怖くて……」
「……うん。私も、実験を台無しにされたって、絶対に怒ってるって思ってた」
「二人して勘違いしていたわけね」
「ああ、勘違いだな」
「私はね、健康な身体になりたかったの」
「……」
「自由に空を飛んで、好きなだけ外に出られて、そうしたら……」
ふと我に返る。
――そうしたら、貴方と一緒にいられるでしょ?
これから自分が言おうとしていたことを頭の中で反芻して、パチュリーは真っ赤になった。背中合わせだったことが幸いして、顔は見られずにすんだが。
「……そうしたら?」
繰り返すように、魔理沙。途中で切れた言葉の続きを聞きたいらしい。
「そ、そうしたら、いろいろな研究や実験ができるでしょう?」
「……まぁ、確かに」
やや歯切れの悪い答えが返ってくる。取ってつけたような答えだったから仕方のないことだ。
どうやって切り抜ける――もとい誤魔化すか、パチュリーは必死に考えた。
「でもな……あー、その、なんだ。私は今のパチェが好きだぜ」
だからだろう。
魔理沙の一言は、パチュリーにとって不意打ち以外のなにものでもなかった。
「まあその、元気に外で動き回るのもいいけど……それじゃ私がパチェに会いに来る理由がなくなるじゃないか」
「……そうね。ありがとう、魔理沙。……私も、貴方が好きよ」
不意打ちだったから。パチュリーも素直に自分の気持ちを口にすることができた。
トクン。
トクン。
背中越しに伝わる鼓動が強く、速くなる。たぶんそれは自分も同じだろう。
恥ずかしかったけど、それ以上に、魔理沙の好意が嬉しかった。
それに。
――ああ、そうか。私は不安だったんだ。
魔理沙が私をどう思っているのか、それを確かめるのが怖かったんだ。だから外見を取り繕おうとした。
だけど、魔理沙は今の私が好きだと、はっきりと言ってくれた。
それが、とても嬉しい。
「ふわぁ……」
一人考えにふけっていたパチュリーは、そんな声で現実に引き戻された。
「ほっとしたら眠くなってきたぜ。パチェ、今日は泊まっていってもいいか?」
「……別に構わないけど」
「そっか。じゃあ、隣の部屋でも借りるな」
「――待って」
気がつくと、立ち上がりかけた魔理沙の袖を引っ張っていた。
眠たげな目を擦りながら、魔理沙が顔を向ける。
「……このベッドは少し大きいから、二人でも寝られると思う……わ」
自分は何を言っているのか。もしかしてとんでもないことを言っていないだろうか? 冗談だ、とでも言ってしまうべきだろうか?
しかし、葛藤するパチュリーを他所に、
「んじゃお邪魔するぜ」
魔理沙は靴を脱いで布団の中にもぐりこんだ。
「? パチェは寝ないのか?」
おまけにそんなことまで言ってくる始末だ。
ぽんぽんと布団を叩いて促されるままに、パチュリーは布団の中にもぐりこむ。
すぐそばに魔理沙の顔があった。もうほとんど夢の世界に入り込んでいるようだった。
「……なあ、パチェ」
「なに?」
「……今日はさ、本当はパチェに会いに来たんだ」
「……」
「今まで借りてた本も……持ってきたんだぜ」
「そう」
「まだまだ話したいことがいっぱいあるけど……また、明日な」
「ええ。お休みなさい、魔理沙」
「……お休み、パチェ……」
◆
コンコン、とノックの音。
少し間をおいてドアが開く。
「パチュリー様、夕食の――あら?」
部屋の中に入った咲夜は、ベッドの上に眠る二人の少女に目を留めた。
音を立てないように静かに歩み寄る。
ベッドの上では同じ服を着た魔理沙とパチュリーが身を寄せ合って眠っていた。
「……いつの間にか、ずいぶん仲が良くなったのね」
それともやっと、と言うべきかしら?
そんなことを考えながらめくれている布団をかけなおす。もともと背格好の似ている二人が同じ服を着ると、姉妹のようだと思った。
「では、ゆっくりとお休みなさいませ」
一礼して、咲夜は退室する。
月明かりに照らされて眠る、二人の少女を残して――。
パチュマリgjお疲れさま。