雪が降り積もる夜。
暗闇に包まれた魔法の森の中に、営みの灯が灯っている。
その一軒家は煉瓦造りのそこそこの大きさのある家で、
庭の部分は除雪され、広い円形のスペースが作られている。
暖かなランプと暖炉の灯に照らされる、アリス・マーガトロイド邸は、
夜遅いこの時間にもまだ家の主が何かをしていることが伺えた。
「ふんふふ~ん♪ふ~んふふ~ん♪」
アリスは鼻歌を歌いながら、針と布を手に裁縫をしていた。
作っているものは、彼女が頻繁に作る人形用の服ではなく、
明らかにヒトの大きさのものだった。
「小さな人形がひとつふた~つ、鈴蘭の丘に連れられて~♪」
上機嫌に歌を口ずさみながらもアリスは的確に手を動かす。
その手さばきは紅魔館のメイド長も舌を巻くほどにスムーズで素早く、無駄の無いものだった。
物心ついた時から人形達の服を拵えているアリスの経験が為せる業である。
「気付いた時には立ち上がり~、楽しく踊りだしたとさ~コンパロ~♪」
歌詞がなにやら滅茶苦茶だが本人が楽しそうなので良しとしよう。
そうこうしている間に、裁縫が終了したらしい。
最後に糸を玉留めし、短く鋏でカットして完成。
「……うん、我ながらいい出来だわ」
出来上がった衣装を目の前にかざし、満足げな笑みを浮かべる。
分厚く柔らかい生地の殆どは赤色で、襟元や袖口など部分部分に白があしらわれている。
ケープとタートルネックとロングスカートの3つで構成されており、
おまけに三角の帽子もある。こちらも柔らかく、頭に被ると先端部分が垂れるような造りだ。
赤い帽子と、赤い服。
それはスカートであるということを除けば、
紛れも無くサンタクロースの衣装そのものであった。
アリスのメリークリスマス!
-二日前-
とりあえず、ありとあらゆる下準備はあらかた終了。
今出来上がったばかりのサンタ服を手早くたたみ、ソファの上に置いておく。
ああ、それにしても肩と首が疲れたわ。
ついつい夢中になって長い間作業してたし、仕方ないけど。
うーん、と唸りつつ首を大きく回すと、ばきばきと盛大な音が鳴った。
なんだかおばさん臭いわね。
あの隙間妖怪なんかは起き出す度にこんなことやってそうだけど。
おっと、迂闊に喋っちゃどこで聞いてるかわかったもんじゃないわね。
疲れた身を背もたれに預けて座っていると、キッチンからいい匂いがしてくるのに気が付いた。
あれはきっと上海が何かしてるわね。この匂いは……クッキーに違いない。
案の定、トレイにクッキーと紅茶を載せて上海が飛んできた。
身体よりも運んでるトレイのほうが大分大きいのだけれど、
やっぱり常日頃の働きのせいか全然不安定な感じがしない。
それにしても気が利くわね。我ながら良く出来た子、とついつい笑みがこぼれる。
「ありがと、上海」
御礼を言ってトレイからお茶とクッキーを手に取ると、上海は嬉しそうににっこり笑ってお辞儀をしてくれた。
……うーん、なんて可愛いのかしら。いいえ、これは単なる親バカじゃないはず。
そっと手を伸ばして、優しく抱き寄せてみる。
この子もリラックスしてるもので、素直に私に身体を預けてくる。
そのまま膝の上に乗せ、左手で軽く抱いたまま、右手にお茶のカップを取る。
うーん、いい香り。昔より断然お茶淹れが上手になったわ。
ああん、もうっ。本当に良く出来た子。
左手で頭をなでてやると、猫のようにくーっと首を伸ばして甘えてきた。
……よし、決めた。
この子には猫耳カチューシャを作ってあげよう。似合う。絶対に似合う。
……あら?
キッチンでまた物音がする。
またどの子かがお茶でも淹れてるのかしら?
それに今度は、クッキーのように甘い匂いではなく、何か穀物を煮込むような匂いがする。
えーと、この匂いは何だっけ?というかキッチンを使ってるのは誰かしら。
しばらくしてキッチンからトレイを持って出てきたのは、蓬莱だった。
上海より少し不安定な飛び方で、スプーンがカチャカチャ音を立てている。
元々この子には調理や家事をあまり教えてないから、上海のように上手くは出来ないのは仕方が無い。
トレイに乗って運ばれてきたのは、ミルクティとオートミールだった。
ああ、さっきの匂いはこれね。オートミールは消化がいいから夜食として作ってくれたのかしら。
でも、上海がもうお茶を淹れてたことくらいは知ってるはずなのに、どうしてかしら?
とりあえず、トレイに乗っているお茶とオートミールを手にとる。
「ありがと、蓬莱」
お礼を言うと、嬉しそうににっこり笑ってぺこりとお辞儀をする蓬莱。
……上海にそっくり。というか
どうみても真似事です。
本当にありがとうございました。
……って私は誰に言ってるのかしら。
とりあえず、蓬莱も優しく抱き寄せて上海の隣にくるよう膝の上に乗せてやる。
すると、特になでてやってもいないのに、それこそごろにゃ~んと言うかのように甘えてくる蓬莱。
……ああ、そういうこと。
私が上海を可愛がってたのを見てヤキモチ妬いてたのね。
うふふ、素直じゃない子ね。
上海と蓬莱を一緒に両手に抱え、ぎゅっと抱きしめる。
「本当に、ありがとう二人とも。大好きよ」
私がそういうと、上海も蓬莱も顔を赤くしてもじもじする。
ああ、なんて愛しいのかしら。
今夜はこの子達も一緒にベッドで寝ることにしましょう。
蓬莱が持ってきてくれたミルクティは若干渋かったけど、
オートミールのほうはアクセントにコンソメが使ってあり美味しかった。
慣れないながらもここまで作ってくれたことは本当に有難い。
実はこの子、炊事の才能あるのかしら?
明日の食事は上海と一緒に作らせてみようかしらね。
そういえば、一緒に寝るなんてことは初めてね。
―――もっと早くやっておけばよかったかな?
* * *
入浴を終えて居間に戻ると、先ほど使ったティーカップや皿は既に片付けられていた。
それどころか、テーブルの隅に置きっぱなしだった裁縫道具も綺麗に整理されている。
おまけに配置は私が一番使いやすいように並べられてて文句無し。
流石に2人で同時に仕事をすると早いわね。
テーブルの上には上海と蓬莱が並んでちょこんと座っている。
少し屈んで、優しく抱え上げる。
パジャマ越しに二人の感触を感じる。
やはり人形なので硬く、表面は冷たい。
しかし、物理的なものではない不思議な温もりがある。
それは、まるで生命のような。
勿論私は生命を作り出すこともできないし、完全に独立した意思を持つ人形も作れない。
しかしこの二人には、確かに命の流れを感じ、生きていることを感じ取れる。
これは、私が作り出したものだけではない。
長い時を共に過ごし、共に歩んできたこの子達は、実際にはそうでなくとも―――
確かに生きている。
それは私の愛着のせい?作り出した子らへの親心のせい?
それは判らない。判らないけど……
今はただ、この温もりがひたすらに愛しかった。
「さ、そろそろ寝ようか」
そういうと、私の腕の中で二人はこくこくと頷いた。
二人を抱きかかえたまま、私は寝室に入った。
外は雪が止んでおり、澄んだ空気の中に浮かぶ月の明かりが雪に反射して、
部屋をひやりとした青い光で照らす。
気温的にも見た目的にも寒いわね。部屋の中でも氷が出来そうだわ。
早いうちに魔理沙がやったみたいに床暖房にすべきだったのかも。
まあ今更言っても仕方ないかしら。
とりあえずスリッパを脱いでベッドに潜り込む。
うう、布団までよく冷えてるわ。すぐに暖まるからいいんだけど。
ちゃんとベットに横になってから、腕に抱えたままの上海と蓬莱を
それぞれ私の左右に寝かせてやる。
ああ、凄い乙女チックな光景だわ。
あの天狗記者なんかに見られたらどういうゴシップ記事になるものかしら。
上海と蓬莱の二人は、少しもぞもぞと動いて
自分の休みやすい形になるとそのまま静かになった。
この子達は眠るときはそれこそスイッチを切ったようにパタリと眠る。
元が式によるものだから、そのあたりの区別はONかOFFかしか作ってないからだ。
……私は眠れなかった。
先ほど上海と蓬莱が淹れてくれた紅茶のせいかもしれない。
しばらく目を瞑っても眠気は起きない。逆に目は冴える一方だ。
うーん、これじゃあしばらく眠れないわ。
仕方ない、眠くなるまでもう一度計画を復習しよう。
私が今回考えている計画は、サンタクロースになって
幻想郷中のみんなにプレゼントを配ること。
……なんだかこれだけ聞くとイタい人に見えるわね。
でも、皆に喜んでもらえるのは確実だわ。
ここ約一ヶ月を通じて幻想郷中の人妖の好きな物や今欲しい物を徹底的に調べ上げたし。
人形達に監視させたり、時には自分からこっそり覗きに……
……ああっ!やっぱりイタい子じゃない!
違う、違うわ。私はどこぞの子鬼のようにストーカーでもないしプロファイリング癖も無い!
そうよ、これはあくまで下調べ。別にやましいことは何もしてないし……いや本当。
―――まぁ、それはいいとして。
この計画を考え付いてから二週間でよくプレゼントを集めきったものだわ。
自分で自分を誉めてあげたいくらい。
なにせ、配るのは私が知ってる限りの人妖たち全て。
その量はかなりの広さがある地下倉庫にすら入りきれず、廊下にまで置かれている。
湖の大妖精や紅魔館図書館の小悪魔だけでなく、今この季節にいるかすらわからない
あの春の妖精の分まで完璧に揃えている。
あれだけの量をたった一日で配り終えられるかが心配だけど、やるしかないわね。
タイムリミットは24時間。24日の0時に出発して、25日の0時が終了時間。
どのルートで行けば最短コースになるか、もう一度考えておかないと。
* * *
布団が温まってくるにつれ、少しずつ眠気が襲ってきた。
思わず、両脇にいる上海と蓬莱を抱きしめる。
まるで眠るのが惜しいように。
「上海、蓬莱、二日後は頑張ろうね」
既に眠ってしまった二人には聞こえないだろうけど、小声で呟く。
ああ、今日も疲れたわ。
眠るのが惜しいけど、ちゃんと寝て体力を温存しておかないとね。
二日後は思いっきり、それこそ疲れきって動けなくなるくらいまで幻想郷中を飛び回るんだから。
―――――その日が、私がこの世界に存在できる最期の日なのだから。
翌日へ続く
暗闇に包まれた魔法の森の中に、営みの灯が灯っている。
その一軒家は煉瓦造りのそこそこの大きさのある家で、
庭の部分は除雪され、広い円形のスペースが作られている。
暖かなランプと暖炉の灯に照らされる、アリス・マーガトロイド邸は、
夜遅いこの時間にもまだ家の主が何かをしていることが伺えた。
「ふんふふ~ん♪ふ~んふふ~ん♪」
アリスは鼻歌を歌いながら、針と布を手に裁縫をしていた。
作っているものは、彼女が頻繁に作る人形用の服ではなく、
明らかにヒトの大きさのものだった。
「小さな人形がひとつふた~つ、鈴蘭の丘に連れられて~♪」
上機嫌に歌を口ずさみながらもアリスは的確に手を動かす。
その手さばきは紅魔館のメイド長も舌を巻くほどにスムーズで素早く、無駄の無いものだった。
物心ついた時から人形達の服を拵えているアリスの経験が為せる業である。
「気付いた時には立ち上がり~、楽しく踊りだしたとさ~コンパロ~♪」
歌詞がなにやら滅茶苦茶だが本人が楽しそうなので良しとしよう。
そうこうしている間に、裁縫が終了したらしい。
最後に糸を玉留めし、短く鋏でカットして完成。
「……うん、我ながらいい出来だわ」
出来上がった衣装を目の前にかざし、満足げな笑みを浮かべる。
分厚く柔らかい生地の殆どは赤色で、襟元や袖口など部分部分に白があしらわれている。
ケープとタートルネックとロングスカートの3つで構成されており、
おまけに三角の帽子もある。こちらも柔らかく、頭に被ると先端部分が垂れるような造りだ。
赤い帽子と、赤い服。
それはスカートであるということを除けば、
紛れも無くサンタクロースの衣装そのものであった。
アリスのメリークリスマス!
-二日前-
とりあえず、ありとあらゆる下準備はあらかた終了。
今出来上がったばかりのサンタ服を手早くたたみ、ソファの上に置いておく。
ああ、それにしても肩と首が疲れたわ。
ついつい夢中になって長い間作業してたし、仕方ないけど。
うーん、と唸りつつ首を大きく回すと、ばきばきと盛大な音が鳴った。
なんだかおばさん臭いわね。
あの隙間妖怪なんかは起き出す度にこんなことやってそうだけど。
おっと、迂闊に喋っちゃどこで聞いてるかわかったもんじゃないわね。
疲れた身を背もたれに預けて座っていると、キッチンからいい匂いがしてくるのに気が付いた。
あれはきっと上海が何かしてるわね。この匂いは……クッキーに違いない。
案の定、トレイにクッキーと紅茶を載せて上海が飛んできた。
身体よりも運んでるトレイのほうが大分大きいのだけれど、
やっぱり常日頃の働きのせいか全然不安定な感じがしない。
それにしても気が利くわね。我ながら良く出来た子、とついつい笑みがこぼれる。
「ありがと、上海」
御礼を言ってトレイからお茶とクッキーを手に取ると、上海は嬉しそうににっこり笑ってお辞儀をしてくれた。
……うーん、なんて可愛いのかしら。いいえ、これは単なる親バカじゃないはず。
そっと手を伸ばして、優しく抱き寄せてみる。
この子もリラックスしてるもので、素直に私に身体を預けてくる。
そのまま膝の上に乗せ、左手で軽く抱いたまま、右手にお茶のカップを取る。
うーん、いい香り。昔より断然お茶淹れが上手になったわ。
ああん、もうっ。本当に良く出来た子。
左手で頭をなでてやると、猫のようにくーっと首を伸ばして甘えてきた。
……よし、決めた。
この子には猫耳カチューシャを作ってあげよう。似合う。絶対に似合う。
……あら?
キッチンでまた物音がする。
またどの子かがお茶でも淹れてるのかしら?
それに今度は、クッキーのように甘い匂いではなく、何か穀物を煮込むような匂いがする。
えーと、この匂いは何だっけ?というかキッチンを使ってるのは誰かしら。
しばらくしてキッチンからトレイを持って出てきたのは、蓬莱だった。
上海より少し不安定な飛び方で、スプーンがカチャカチャ音を立てている。
元々この子には調理や家事をあまり教えてないから、上海のように上手くは出来ないのは仕方が無い。
トレイに乗って運ばれてきたのは、ミルクティとオートミールだった。
ああ、さっきの匂いはこれね。オートミールは消化がいいから夜食として作ってくれたのかしら。
でも、上海がもうお茶を淹れてたことくらいは知ってるはずなのに、どうしてかしら?
とりあえず、トレイに乗っているお茶とオートミールを手にとる。
「ありがと、蓬莱」
お礼を言うと、嬉しそうににっこり笑ってぺこりとお辞儀をする蓬莱。
……上海にそっくり。というか
どうみても真似事です。
本当にありがとうございました。
……って私は誰に言ってるのかしら。
とりあえず、蓬莱も優しく抱き寄せて上海の隣にくるよう膝の上に乗せてやる。
すると、特になでてやってもいないのに、それこそごろにゃ~んと言うかのように甘えてくる蓬莱。
……ああ、そういうこと。
私が上海を可愛がってたのを見てヤキモチ妬いてたのね。
うふふ、素直じゃない子ね。
上海と蓬莱を一緒に両手に抱え、ぎゅっと抱きしめる。
「本当に、ありがとう二人とも。大好きよ」
私がそういうと、上海も蓬莱も顔を赤くしてもじもじする。
ああ、なんて愛しいのかしら。
今夜はこの子達も一緒にベッドで寝ることにしましょう。
蓬莱が持ってきてくれたミルクティは若干渋かったけど、
オートミールのほうはアクセントにコンソメが使ってあり美味しかった。
慣れないながらもここまで作ってくれたことは本当に有難い。
実はこの子、炊事の才能あるのかしら?
明日の食事は上海と一緒に作らせてみようかしらね。
そういえば、一緒に寝るなんてことは初めてね。
―――もっと早くやっておけばよかったかな?
* * *
入浴を終えて居間に戻ると、先ほど使ったティーカップや皿は既に片付けられていた。
それどころか、テーブルの隅に置きっぱなしだった裁縫道具も綺麗に整理されている。
おまけに配置は私が一番使いやすいように並べられてて文句無し。
流石に2人で同時に仕事をすると早いわね。
テーブルの上には上海と蓬莱が並んでちょこんと座っている。
少し屈んで、優しく抱え上げる。
パジャマ越しに二人の感触を感じる。
やはり人形なので硬く、表面は冷たい。
しかし、物理的なものではない不思議な温もりがある。
それは、まるで生命のような。
勿論私は生命を作り出すこともできないし、完全に独立した意思を持つ人形も作れない。
しかしこの二人には、確かに命の流れを感じ、生きていることを感じ取れる。
これは、私が作り出したものだけではない。
長い時を共に過ごし、共に歩んできたこの子達は、実際にはそうでなくとも―――
確かに生きている。
それは私の愛着のせい?作り出した子らへの親心のせい?
それは判らない。判らないけど……
今はただ、この温もりがひたすらに愛しかった。
「さ、そろそろ寝ようか」
そういうと、私の腕の中で二人はこくこくと頷いた。
二人を抱きかかえたまま、私は寝室に入った。
外は雪が止んでおり、澄んだ空気の中に浮かぶ月の明かりが雪に反射して、
部屋をひやりとした青い光で照らす。
気温的にも見た目的にも寒いわね。部屋の中でも氷が出来そうだわ。
早いうちに魔理沙がやったみたいに床暖房にすべきだったのかも。
まあ今更言っても仕方ないかしら。
とりあえずスリッパを脱いでベッドに潜り込む。
うう、布団までよく冷えてるわ。すぐに暖まるからいいんだけど。
ちゃんとベットに横になってから、腕に抱えたままの上海と蓬莱を
それぞれ私の左右に寝かせてやる。
ああ、凄い乙女チックな光景だわ。
あの天狗記者なんかに見られたらどういうゴシップ記事になるものかしら。
上海と蓬莱の二人は、少しもぞもぞと動いて
自分の休みやすい形になるとそのまま静かになった。
この子達は眠るときはそれこそスイッチを切ったようにパタリと眠る。
元が式によるものだから、そのあたりの区別はONかOFFかしか作ってないからだ。
……私は眠れなかった。
先ほど上海と蓬莱が淹れてくれた紅茶のせいかもしれない。
しばらく目を瞑っても眠気は起きない。逆に目は冴える一方だ。
うーん、これじゃあしばらく眠れないわ。
仕方ない、眠くなるまでもう一度計画を復習しよう。
私が今回考えている計画は、サンタクロースになって
幻想郷中のみんなにプレゼントを配ること。
……なんだかこれだけ聞くとイタい人に見えるわね。
でも、皆に喜んでもらえるのは確実だわ。
ここ約一ヶ月を通じて幻想郷中の人妖の好きな物や今欲しい物を徹底的に調べ上げたし。
人形達に監視させたり、時には自分からこっそり覗きに……
……ああっ!やっぱりイタい子じゃない!
違う、違うわ。私はどこぞの子鬼のようにストーカーでもないしプロファイリング癖も無い!
そうよ、これはあくまで下調べ。別にやましいことは何もしてないし……いや本当。
―――まぁ、それはいいとして。
この計画を考え付いてから二週間でよくプレゼントを集めきったものだわ。
自分で自分を誉めてあげたいくらい。
なにせ、配るのは私が知ってる限りの人妖たち全て。
その量はかなりの広さがある地下倉庫にすら入りきれず、廊下にまで置かれている。
湖の大妖精や紅魔館図書館の小悪魔だけでなく、今この季節にいるかすらわからない
あの春の妖精の分まで完璧に揃えている。
あれだけの量をたった一日で配り終えられるかが心配だけど、やるしかないわね。
タイムリミットは24時間。24日の0時に出発して、25日の0時が終了時間。
どのルートで行けば最短コースになるか、もう一度考えておかないと。
* * *
布団が温まってくるにつれ、少しずつ眠気が襲ってきた。
思わず、両脇にいる上海と蓬莱を抱きしめる。
まるで眠るのが惜しいように。
「上海、蓬莱、二日後は頑張ろうね」
既に眠ってしまった二人には聞こえないだろうけど、小声で呟く。
ああ、今日も疲れたわ。
眠るのが惜しいけど、ちゃんと寝て体力を温存しておかないとね。
二日後は思いっきり、それこそ疲れきって動けなくなるくらいまで幻想郷中を飛び回るんだから。
―――――その日が、私がこの世界に存在できる最期の日なのだから。
翌日へ続く
頑張って下せぇ。
わくてかしつつ続きをお待ちしています。
ワクワク