注:とりあえず魔理沙×香霖。
「無い!」
ガサガサガサ。
「無い!」
ガサガサガサガサ。
「何処にも無い!!」
僕は今必死になって財布を捜している。
この冬を乗り切る為、店でコツコツ蓄えた財産を全て突っ込んでおいた、僕の大切な財布である。
『無くすなら金庫に入れておけ』という突っ込みが聞こえるが、いかなる封印を施そうともこの幻想郷に置いては無意味。返って盗まれる可能性が高いのだ。
「くそっ、一体何処に行ったんだ・・・・・・!」
あれが無くなれば冬は越せない。
暖房費に食費に店の維持に・・・・・・ああ、冬どころか人生存続の危機じゃないか!
落ち着け、落ち着くんだ森近霖之助。クールになるんだクールに。Be Cool、Be Cool・・・・・・。
よし、平常心OK。
こういう時は落ち着いてお茶でも飲むのが良いな。
確かこの辺に隠しておいた特級茶葉が・・・・・・。
『バタン』
「おーっす、香霖元気かー!」
・・・・・・そういえば先日持って行かれたんだった。
「・・・・・・魔理沙。今日は忙しいから、君の相手をしている暇は無いよ」
「何だ、出会い頭に冷たいぜ」
くう。
一番厄介な人物が来てしまった。
今、店の物を持って行かれるのは大きな痛手だ。
今日の所は、何かされる前に御引取願おう・・・・・・。
いや待て。
「?顔色が悪いぜ香霖。何かあったのか?」
「っ!・・・・・・何でも無いよ。ちょっと年末大掃除中なんだ」
「ふーん、そーなのか」
・・・・・・何を考えているんだ霖之助。魔理沙が盗む訳無いじゃないか。
確かに彼女は蒐集癖があり、何でも勝手に持ち出すけど、”金”そのものを持ち出すような子じゃない。
「掃除中って事は、何か面白い物が発掘されたりとかしないか?」
「魔理沙の家じゃあるまいし、自分の家にある物くらい把握してるさ」
・・・・・・少し嘘だが。
「じゃあ手伝ってやろうか?今日はヒマなんでな」
「『今日は』じゃ無いだろう」
「酷いぜ。私は霊夢と違って日頃研究に開発に追われてるんだ」
「ほう、例えば?」
「スペシャル箒。置いておけば勝手に動いて掃除をしてくれる」
「・・・・・・研究テーマに変化が無い様だね」
ああ、駄目だ。
魔理沙と居ると話し込んでしまう。
彼女と一緒に居ると不思議と和み、気持が楽になる。
財布の事など忘れてしまいそうだ・・・・・・
そうだ、財布!
・・・・・・この際話してしまうか。
「くう、実はそれどころじゃないんだよ」
「んん?」
「財布が無くなったんだ」
「さ、財布ぅ?」
「この家の全財産が突っ込んである財布だ。店の儲けから何から何まで全て突っ込んである」
「それで大掃除してたのか?」
「そうさ。あれが無くなったら冬は越せない・・・・・・」
・・・・・・屈辱だ。
魔理沙に知られると、何故か激しい屈辱感を覚える。
『財布を無くすなんて、馬鹿のする事だぜ』とか言われるに違いない。
「そりゃ大変じゃないか。私も探すぜ」
「・・・・・・頼む、魔理沙」
「任しとけって」
前言撤回。
何だかんだ言って、やっぱり魔理沙は優しいな。
さっきは疑ってすまなかった・・・・・・。
「ふっふ、見つかったら一割くれよ香霖」
「・・・・・・お年玉には早過ぎるよ」
「じゃあクリスマスプレゼントだぜ」
「夢の無いプレゼントになるから、遠慮しようとは思わないのかい?」
「はっはっはー、私は心が広いんだ」
「じゃあ無料奉仕だね」
「そりゃ無いぜ」
「雑煮くらいなら奢るよ」
「へいへい」
かくして共同戦線で財布の発掘に挑むこととなった。
◇
「お、これは何だ。ふむふむ・・・・・・」
「魔理沙。さっきからアイテムの品定めばかりしてるように見えるけど」
「目の錯覚だぜ。暗示でも掛けられたんじゃないのか?」
「僕は普通の人間だよ」
「知り合いに居るんだ。人を狂わす目を持った兎が」
こうして小一時間が経過したが、一向に財布が出てくる気配は無い。
そして魔理沙はというと、何か珍しい物が出てくる度に手を止めている。
・・・・・・これでは何時もと変わらない光景じゃないか。
「魔理沙~、財布は見つかったかい?」
「あ、ああいや見つからん」
「そうか・・・・・・」
厳しい現実が其処にはあった。
・・・・・・どうやら腹を括るしか無さそうだ。
今年の冬は、凍死餓死覚悟でのサバイバル越冬となる。
やってやろうじゃないかこうなったら!
幾ら冬は客足が遠のくとはいえ、少々貯金するくらいの余裕は・・・・・・無いか。
兎に角、今日から一日儲けた金で、その日を凌ぐという行き当たりばったりな生活となる。
それが何だ霖之助。
この程度でくたばってたまるか!
「・・・・・・」
「元気出せよ香霖」
「・・・・・・?」
予想外の声。
魔理沙が同情してくれた。
その声に、嫌味は無かった。
「・・・・・・まあどうにかなるさ。寒かろうと少々飯抜きになろうと」
「でも今年の冬はめっぽう寒いらしいぜ」
「え」
「天狗の新聞に書いてあったんだ。今年は寒さが厳しいとか何とか」
「・・・・・・」
・・・・・・そういえば、そんな記事を目にした気がする。
あの新聞には役に立たない情報ばかり書かれていた。
故に、僕は完全な娯楽雑誌扱いしていたのだが・・・・・・。
「来年、厄年なのかな」
「あー・・・・・・」
魔理沙はぽりぽり頬を掻く。
掛ける言葉も無いか。いよいよ切羽詰ってきた・・・・・・。
「じゃあ、私が泊り込みで面倒看てやるよ」
「・・・・・・え?」
「私が香霖の大黒柱になってやるって言ったんだ」
「ま、魔理沙だけどそれは」
「一冬くらいなら問題無いだろ。お互い一人身だし」
「いやそういうことじゃなくて・・・・・・!」
な・・・・・・
何だかとんでもない話になっている。
つ、つまりが魔理沙と同居するということなのか!?
落ち着け、落ち着くんだ森近霖之助。クールに、クールに・・・・・・。
なれる筈が無い!
「・・・・・・それとも迷惑か?嫌なら勿論引き下がるぜ」
「いいいいや、そんな事は無い。断じて無い」
「本当か?」
「ホントウダヨ」
「片言だぜ」
「本当だよ」
ああ、今の僕には魔理沙が翼を生やした天使に見える。
しかしその天使の頭には角が生えており、服装は真っ黒。
一歩間違えば悪魔にもなる魅惑の使い。
「で、でも無料奉仕の筈が無いな。何か下心があるんじゃないのかい?」
「ふっふっふ」
やはり。
「なーに、少しばかり店の手伝いをさせてくれればそれで良いぜ」
「え?」
「此処には幻想郷中の珍品が集まるからな」
「・・・・・・売り物を取られたら、儲けが無くなるよ」
「ちょっと触らせて貰うだけだぜ。それならOKだろ?」
「むう」
そうだった。
蒐集癖のある魔理沙は、モノに囲まれていることで満足なんだ。
別に金銭的な見返りなど求めない。
此処に居れば、蒐集魂を擽る魅惑の品々といち早く出会える──────
それが、魔理沙の求める報酬か。
「わかった、背に腹は代えられない。それで手を打とう」
「よっしゃ決まりだぜ。そうと決まれば善は急げだ」
魔理沙は箒で肩をトントン叩きながら店を出る。
「2,3時間で戻るぜ。部屋を空けといてくれよ」
「使ってない部屋が一つあるんだ。でもそんなに広くないから、あれこれ持って来られても置き場が無いよ」
「わかったわかった」
そうして魔理沙は地を蹴り、視界から消えていった。
「・・・・・・とんでもない契約を結んでしまったな」
森近霖之助は戸惑いながらも、何処か心躍らせていた。
◇
場所は変わって魔法の森。
魔理沙はこの場所が気に入っている。
しかし今年の冬は、此処でない場所で過ごす事となる。
「お?」
そんな森の中で魔理沙は、自宅の前を徘徊する種族・魔法使いの少女が目に留まった。
「・・・・・・なーにやってんだあいつは」
そろりそろりと気配を殺しながら、彼女、アリス・マーガトロイドに魔理沙は接近する。
そして──────
「撃つと動く!」
「きゃあっ!?」
「・・・・・・隙だらけだぜアリス」
奇襲成功。
普段捻くれているアリスから、女らしい叫び声が聞けて魔理沙は満足気な表情。
「な、何すんのよ魔理沙!心臓が飛び出るかと思ったわ!!」
「私の家の前で何してるんだお前は」
接近戦が苦手な魔法使いでありながら、此処まで接近を許すなどどうかしている。
と、魔理沙は思ったのだ。
先程のアリスは何処か上の空で、心此処に在らずといった様子だった。
「べ、べべべべ別にあんたに会いたくて来た訳じゃないわ!」
「ほほう。じゃあお帰り願おうか」
魔理沙は右手でしっしっ、と追い払いつつ、すたすたと自宅に入ろうとする。
「ま、待ちなさい魔理沙!あんたさっきから失礼よ!!」
「誰がだ。自宅の前でうろうろ徘徊されたら、誰だって怪しむぜ」
「~~~~~っ!!もう、魔理沙なんか大っっっ嫌いなんだから!!!」
「そーかい、そりゃ手間が省けたぜ。私は暫く此処から離れるんでな。ちょいと後で挨拶に行こうかと思ってたんだ」
「ふん、それこそ願ったり叶ったりよ。これでこの森も静かになるわ」
「ま、今日までご近所付き合いありがとよ」
「虫唾が走る挨拶ね」
魔理沙はそう言い残し自宅へ入って行った。
「って今何て言ったの魔理沙ーーーーーー!!!???」
◇
「本はかさばるし、いざとなればパチュリーんとこから”借りれば”良いか」
魔理沙は大きな鞄に服やら怪しげな実験器具やらを、次々と投げ入れている。
実験器具などは本来必要無いのだが、一冬過ごすとなると話は別。本業を蔑ろにしない為にも。
「うーん、中々引越しっていうのも面倒だぜ・・・・・・っと、こんなもんか」
香霖の言う通り、必要最低限な物だけを持っていく事にした。
まあ後は現地調達だ。食料は倉にたんまりあるし、必要な時だけ帰って来れば良い。
「よし、これで準備完了。しかし、重いな」
魔理沙は細腕でよいしょ、と鞄を持ち上げ、愛用の箒に引っ掛けた。
「じゃ、行ってくるぜ」
愛する我が家に暫しの別れを告げ、魔理沙は再び香霖堂へと足を向けた。
・・・・・・その時魔理沙は後方に視線を感じたが、殺気は感じ取れなかった為、気に留めることは無かった。
◇
「おーっす、香霖元気かー!!」
「お帰り魔理沙」
魔理沙は大きな鞄を抱えて帰ってきた。
・・・・・・もう覚悟は決まっている。
前途多難になりそうだが、これで何とか今年の冬は乗り切れそうだ。
「奥に入って左側の部屋が魔理沙の部屋だからね。掃除はしておいたから綺麗な筈さ」
「サンキュー」
魔理沙は重そうな鞄を両手で抱えつつ、口笛を吹きながら暢気に奥の部屋へと入って行った。
「さてさてどうしたものか」
と、いよいよ新生活の幕開けを迎えようとした矢先。
『ガラッ』
「こんにちはー、文々。新聞でーす!」
突然の来客あり。
まあ、店を開いている以上客が来なければ困る。
・・・・・・もっとも、彼女は客では無いのだが。
「何時もご苦労さん。でも、まだ集金には早い気がするけど・・・・・・」
「いえいえ、本日は来年以降の契約について色々と」
「む」
・・・・・・そういえば新聞代っていうのが馬鹿にならない。
彼女には悪いけど、此処は一つ解約しておくべきか──────。
「お、珍しい顔だぜ」
彼女、射命丸文の声に反応したのか、奥から帽子を脱いでリラックスした魔理沙が顔を出した。
「おや、これは泥棒さんじゃないですか。珍しい所で会いますね」
「いや、だから私は泥棒じゃないって」
「的を得ているな」
「二人して酷いぜ」
何気ない日常の風景。
この時点で、危機を感じ取れなかったのは誤算だった。
「いやいや、それにしても何故貴方が此処に?」
ピーン。
文のブン屋魂に火が灯る。
文は普段と違う香霖堂の空気を感じ取ったのだ。
魔理沙が此処に居ること自体はそう珍しく無い。
しかし奥からまるで”住人のように”姿を現したことに対し、微かな違和感を覚えたのだ。
(・・・・・・しまった)
時既に遅し。
ブン屋として火のついた文は止め様が無い。
こうなればどんな手を使ってでも、ネタを探し出すだろう。
此処は一つ魔理沙と帳尻を合わせて──────。
「いや、別に暫く此処に暮らす事になっただけだが?」
言っちゃった。
「・・・・・・」
プライベートスクウェア。
時が止まる。文の表情と僕の表情が固まる。
『ガラガラガラ・・・・・・』
文は何も言わず我々に背を向け、戸に手を掛けた。
何もせずに帰るかと思いきや。
『パシャパシャパシャパシャ!』
突如振り向いた文の手から光が放たれる。四連射。
閃光で眩んだ目の先には、彼女愛用のカメラがあった。
「こ、ここここここれは大スクープですっ!」
「ま、待つんだ文!それだけはいけない!!」
「文々。新聞始まって以来の、大スクープを手にしてしまいました!ほら、写真もバッチリ!!」
ぺらっ。
新型カメラから放出された写真。
其処には間抜けな顔をした僕と、きょとんとした顔付きの魔理沙が並んで写っていた。
「や、止めてくれー!」
「大丈夫です!貴方達の真実は、この私が責任を持って皆さんに伝えます!そう、文々。新聞特別号外で!!」
「来年も契約結びますので、どうかそれだけはご勘弁を!」
「むむ、天狗仲間が呼んでいる!アディオス・アミーゴ!!」
『ばびゅーん☆』
・・・・・・という擬音が付きそうな勢いで、文は飛び去ってしまった。
「なーんだあいつは」
「・・・・・・」
・・・・・・終わった。魔理沙は勘付いていない様だが終わった。
これでもう幻想郷中に、僕達の同居の事実が知れ渡る事となる。
森近霖之助の、今日まで築き上げてきたイメージは間も無く崩壊する。
・・・・・・いや、諦めるのは早い。号外とはいえ、今すぐ発行という訳には行かないだろう。
ここは一つ魔理沙の手を借りて
「号外だよ~!幻想郷の確かな真実の泉、『文々。新聞』の特別号外だよー!!」
「早すぎるわあああああっ!!」
天狗のスピードを侮ったか。
あの様子では、既に至る所に新聞をばら撒いた後だ。
「号外らしいぜ香霖。貰って来るか?」
「だ、駄目だ魔理沙!」
「じゃあ貰って来るぜ」
もう動き出した歯車は止まらない。
僕には魔理沙の足を止めることが出来なかった。
そうして手にした新聞の見出しには──────。
『香霖堂店主・森近霖之助氏が霧雨魔理沙と同棲!?』
・・・・・・眩暈がした。
ブラックアウト。目の前が真っ暗になった。
「な」
漸く魔理沙は事の大きさに気付いた様子だった。
彼女の顔色は段々と赤くなり、遂には茹蛸の様になってしまった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
言葉が見つからない。
身から出た錆とはいえ、あまりに重すぎる十字架だ。
「あー・・・・・・」
「う・・・・・・」
兎に角喋らなければ。
鵜呑みにしていると思われたら、それこそ一巻の終わりだ。
「ま、魔理沙」
「・・・・・・」
「気に留める必要は無いさ。皆タチの悪い天狗の悪戯だと思うよ」
「・・・・・・か」
「え?」
「そう・・・なのか?」
「ま、魔理沙?」
「香霖は、嫌なのか?」
──────。
疲れているらしい。魔理沙の声が上手く聞き取れなかった。
「今、何て・・・・・・」
「香霖は、私と一緒に居ると書かれた事が嫌なのか?」
思考が停止する。
今何かとんでもない事を魔理沙は口にした。
体が硬直して動かなくなる。
しかし僕の意思と反して、脳は勝手に口を動かした。
「そんな訳は、無いだろう」
血迷っている。
何を言うのか霖之助。
「・・・・・・」
魔理沙は何時の間にか新聞を折り畳み、両手で抱えていた。
彼女は今この瞬間、一人の少女として其処に存在していたのだ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
限界だ。
思い切り叫び、店の外に飛び出したくなる衝動に駆られる。
──────そんな衝動を僕の代わりに果たしたのか、その時猛烈な勢いで店に突進して来る”誰か”が居た。
「魔理沙ーーーーーーっ!!!」
「「!!??」」
『ドカバタパリンgりgじおprfぺふじこ○×☆ミ!?』
僕は真っ暗闇の世界で、突如前方からやって来た”誰か”に突き飛ばされた。
──────そうして僕は気を失った。
暫くこの世界から離れられる事に、少し安堵しながら・・・・・・。
to be continued?
コインいっこいれる?
「無い!」
ガサガサガサ。
「無い!」
ガサガサガサガサ。
「何処にも無い!!」
僕は今必死になって財布を捜している。
この冬を乗り切る為、店でコツコツ蓄えた財産を全て突っ込んでおいた、僕の大切な財布である。
『無くすなら金庫に入れておけ』という突っ込みが聞こえるが、いかなる封印を施そうともこの幻想郷に置いては無意味。返って盗まれる可能性が高いのだ。
「くそっ、一体何処に行ったんだ・・・・・・!」
あれが無くなれば冬は越せない。
暖房費に食費に店の維持に・・・・・・ああ、冬どころか人生存続の危機じゃないか!
落ち着け、落ち着くんだ森近霖之助。クールになるんだクールに。Be Cool、Be Cool・・・・・・。
よし、平常心OK。
こういう時は落ち着いてお茶でも飲むのが良いな。
確かこの辺に隠しておいた特級茶葉が・・・・・・。
『バタン』
「おーっす、香霖元気かー!」
・・・・・・そういえば先日持って行かれたんだった。
「・・・・・・魔理沙。今日は忙しいから、君の相手をしている暇は無いよ」
「何だ、出会い頭に冷たいぜ」
くう。
一番厄介な人物が来てしまった。
今、店の物を持って行かれるのは大きな痛手だ。
今日の所は、何かされる前に御引取願おう・・・・・・。
いや待て。
「?顔色が悪いぜ香霖。何かあったのか?」
「っ!・・・・・・何でも無いよ。ちょっと年末大掃除中なんだ」
「ふーん、そーなのか」
・・・・・・何を考えているんだ霖之助。魔理沙が盗む訳無いじゃないか。
確かに彼女は蒐集癖があり、何でも勝手に持ち出すけど、”金”そのものを持ち出すような子じゃない。
「掃除中って事は、何か面白い物が発掘されたりとかしないか?」
「魔理沙の家じゃあるまいし、自分の家にある物くらい把握してるさ」
・・・・・・少し嘘だが。
「じゃあ手伝ってやろうか?今日はヒマなんでな」
「『今日は』じゃ無いだろう」
「酷いぜ。私は霊夢と違って日頃研究に開発に追われてるんだ」
「ほう、例えば?」
「スペシャル箒。置いておけば勝手に動いて掃除をしてくれる」
「・・・・・・研究テーマに変化が無い様だね」
ああ、駄目だ。
魔理沙と居ると話し込んでしまう。
彼女と一緒に居ると不思議と和み、気持が楽になる。
財布の事など忘れてしまいそうだ・・・・・・
そうだ、財布!
・・・・・・この際話してしまうか。
「くう、実はそれどころじゃないんだよ」
「んん?」
「財布が無くなったんだ」
「さ、財布ぅ?」
「この家の全財産が突っ込んである財布だ。店の儲けから何から何まで全て突っ込んである」
「それで大掃除してたのか?」
「そうさ。あれが無くなったら冬は越せない・・・・・・」
・・・・・・屈辱だ。
魔理沙に知られると、何故か激しい屈辱感を覚える。
『財布を無くすなんて、馬鹿のする事だぜ』とか言われるに違いない。
「そりゃ大変じゃないか。私も探すぜ」
「・・・・・・頼む、魔理沙」
「任しとけって」
前言撤回。
何だかんだ言って、やっぱり魔理沙は優しいな。
さっきは疑ってすまなかった・・・・・・。
「ふっふ、見つかったら一割くれよ香霖」
「・・・・・・お年玉には早過ぎるよ」
「じゃあクリスマスプレゼントだぜ」
「夢の無いプレゼントになるから、遠慮しようとは思わないのかい?」
「はっはっはー、私は心が広いんだ」
「じゃあ無料奉仕だね」
「そりゃ無いぜ」
「雑煮くらいなら奢るよ」
「へいへい」
かくして共同戦線で財布の発掘に挑むこととなった。
◇
「お、これは何だ。ふむふむ・・・・・・」
「魔理沙。さっきからアイテムの品定めばかりしてるように見えるけど」
「目の錯覚だぜ。暗示でも掛けられたんじゃないのか?」
「僕は普通の人間だよ」
「知り合いに居るんだ。人を狂わす目を持った兎が」
こうして小一時間が経過したが、一向に財布が出てくる気配は無い。
そして魔理沙はというと、何か珍しい物が出てくる度に手を止めている。
・・・・・・これでは何時もと変わらない光景じゃないか。
「魔理沙~、財布は見つかったかい?」
「あ、ああいや見つからん」
「そうか・・・・・・」
厳しい現実が其処にはあった。
・・・・・・どうやら腹を括るしか無さそうだ。
今年の冬は、凍死餓死覚悟でのサバイバル越冬となる。
やってやろうじゃないかこうなったら!
幾ら冬は客足が遠のくとはいえ、少々貯金するくらいの余裕は・・・・・・無いか。
兎に角、今日から一日儲けた金で、その日を凌ぐという行き当たりばったりな生活となる。
それが何だ霖之助。
この程度でくたばってたまるか!
「・・・・・・」
「元気出せよ香霖」
「・・・・・・?」
予想外の声。
魔理沙が同情してくれた。
その声に、嫌味は無かった。
「・・・・・・まあどうにかなるさ。寒かろうと少々飯抜きになろうと」
「でも今年の冬はめっぽう寒いらしいぜ」
「え」
「天狗の新聞に書いてあったんだ。今年は寒さが厳しいとか何とか」
「・・・・・・」
・・・・・・そういえば、そんな記事を目にした気がする。
あの新聞には役に立たない情報ばかり書かれていた。
故に、僕は完全な娯楽雑誌扱いしていたのだが・・・・・・。
「来年、厄年なのかな」
「あー・・・・・・」
魔理沙はぽりぽり頬を掻く。
掛ける言葉も無いか。いよいよ切羽詰ってきた・・・・・・。
「じゃあ、私が泊り込みで面倒看てやるよ」
「・・・・・・え?」
「私が香霖の大黒柱になってやるって言ったんだ」
「ま、魔理沙だけどそれは」
「一冬くらいなら問題無いだろ。お互い一人身だし」
「いやそういうことじゃなくて・・・・・・!」
な・・・・・・
何だかとんでもない話になっている。
つ、つまりが魔理沙と同居するということなのか!?
落ち着け、落ち着くんだ森近霖之助。クールに、クールに・・・・・・。
なれる筈が無い!
「・・・・・・それとも迷惑か?嫌なら勿論引き下がるぜ」
「いいいいや、そんな事は無い。断じて無い」
「本当か?」
「ホントウダヨ」
「片言だぜ」
「本当だよ」
ああ、今の僕には魔理沙が翼を生やした天使に見える。
しかしその天使の頭には角が生えており、服装は真っ黒。
一歩間違えば悪魔にもなる魅惑の使い。
「で、でも無料奉仕の筈が無いな。何か下心があるんじゃないのかい?」
「ふっふっふ」
やはり。
「なーに、少しばかり店の手伝いをさせてくれればそれで良いぜ」
「え?」
「此処には幻想郷中の珍品が集まるからな」
「・・・・・・売り物を取られたら、儲けが無くなるよ」
「ちょっと触らせて貰うだけだぜ。それならOKだろ?」
「むう」
そうだった。
蒐集癖のある魔理沙は、モノに囲まれていることで満足なんだ。
別に金銭的な見返りなど求めない。
此処に居れば、蒐集魂を擽る魅惑の品々といち早く出会える──────
それが、魔理沙の求める報酬か。
「わかった、背に腹は代えられない。それで手を打とう」
「よっしゃ決まりだぜ。そうと決まれば善は急げだ」
魔理沙は箒で肩をトントン叩きながら店を出る。
「2,3時間で戻るぜ。部屋を空けといてくれよ」
「使ってない部屋が一つあるんだ。でもそんなに広くないから、あれこれ持って来られても置き場が無いよ」
「わかったわかった」
そうして魔理沙は地を蹴り、視界から消えていった。
「・・・・・・とんでもない契約を結んでしまったな」
森近霖之助は戸惑いながらも、何処か心躍らせていた。
◇
場所は変わって魔法の森。
魔理沙はこの場所が気に入っている。
しかし今年の冬は、此処でない場所で過ごす事となる。
「お?」
そんな森の中で魔理沙は、自宅の前を徘徊する種族・魔法使いの少女が目に留まった。
「・・・・・・なーにやってんだあいつは」
そろりそろりと気配を殺しながら、彼女、アリス・マーガトロイドに魔理沙は接近する。
そして──────
「撃つと動く!」
「きゃあっ!?」
「・・・・・・隙だらけだぜアリス」
奇襲成功。
普段捻くれているアリスから、女らしい叫び声が聞けて魔理沙は満足気な表情。
「な、何すんのよ魔理沙!心臓が飛び出るかと思ったわ!!」
「私の家の前で何してるんだお前は」
接近戦が苦手な魔法使いでありながら、此処まで接近を許すなどどうかしている。
と、魔理沙は思ったのだ。
先程のアリスは何処か上の空で、心此処に在らずといった様子だった。
「べ、べべべべ別にあんたに会いたくて来た訳じゃないわ!」
「ほほう。じゃあお帰り願おうか」
魔理沙は右手でしっしっ、と追い払いつつ、すたすたと自宅に入ろうとする。
「ま、待ちなさい魔理沙!あんたさっきから失礼よ!!」
「誰がだ。自宅の前でうろうろ徘徊されたら、誰だって怪しむぜ」
「~~~~~っ!!もう、魔理沙なんか大っっっ嫌いなんだから!!!」
「そーかい、そりゃ手間が省けたぜ。私は暫く此処から離れるんでな。ちょいと後で挨拶に行こうかと思ってたんだ」
「ふん、それこそ願ったり叶ったりよ。これでこの森も静かになるわ」
「ま、今日までご近所付き合いありがとよ」
「虫唾が走る挨拶ね」
魔理沙はそう言い残し自宅へ入って行った。
「って今何て言ったの魔理沙ーーーーーー!!!???」
◇
「本はかさばるし、いざとなればパチュリーんとこから”借りれば”良いか」
魔理沙は大きな鞄に服やら怪しげな実験器具やらを、次々と投げ入れている。
実験器具などは本来必要無いのだが、一冬過ごすとなると話は別。本業を蔑ろにしない為にも。
「うーん、中々引越しっていうのも面倒だぜ・・・・・・っと、こんなもんか」
香霖の言う通り、必要最低限な物だけを持っていく事にした。
まあ後は現地調達だ。食料は倉にたんまりあるし、必要な時だけ帰って来れば良い。
「よし、これで準備完了。しかし、重いな」
魔理沙は細腕でよいしょ、と鞄を持ち上げ、愛用の箒に引っ掛けた。
「じゃ、行ってくるぜ」
愛する我が家に暫しの別れを告げ、魔理沙は再び香霖堂へと足を向けた。
・・・・・・その時魔理沙は後方に視線を感じたが、殺気は感じ取れなかった為、気に留めることは無かった。
◇
「おーっす、香霖元気かー!!」
「お帰り魔理沙」
魔理沙は大きな鞄を抱えて帰ってきた。
・・・・・・もう覚悟は決まっている。
前途多難になりそうだが、これで何とか今年の冬は乗り切れそうだ。
「奥に入って左側の部屋が魔理沙の部屋だからね。掃除はしておいたから綺麗な筈さ」
「サンキュー」
魔理沙は重そうな鞄を両手で抱えつつ、口笛を吹きながら暢気に奥の部屋へと入って行った。
「さてさてどうしたものか」
と、いよいよ新生活の幕開けを迎えようとした矢先。
『ガラッ』
「こんにちはー、文々。新聞でーす!」
突然の来客あり。
まあ、店を開いている以上客が来なければ困る。
・・・・・・もっとも、彼女は客では無いのだが。
「何時もご苦労さん。でも、まだ集金には早い気がするけど・・・・・・」
「いえいえ、本日は来年以降の契約について色々と」
「む」
・・・・・・そういえば新聞代っていうのが馬鹿にならない。
彼女には悪いけど、此処は一つ解約しておくべきか──────。
「お、珍しい顔だぜ」
彼女、射命丸文の声に反応したのか、奥から帽子を脱いでリラックスした魔理沙が顔を出した。
「おや、これは泥棒さんじゃないですか。珍しい所で会いますね」
「いや、だから私は泥棒じゃないって」
「的を得ているな」
「二人して酷いぜ」
何気ない日常の風景。
この時点で、危機を感じ取れなかったのは誤算だった。
「いやいや、それにしても何故貴方が此処に?」
ピーン。
文のブン屋魂に火が灯る。
文は普段と違う香霖堂の空気を感じ取ったのだ。
魔理沙が此処に居ること自体はそう珍しく無い。
しかし奥からまるで”住人のように”姿を現したことに対し、微かな違和感を覚えたのだ。
(・・・・・・しまった)
時既に遅し。
ブン屋として火のついた文は止め様が無い。
こうなればどんな手を使ってでも、ネタを探し出すだろう。
此処は一つ魔理沙と帳尻を合わせて──────。
「いや、別に暫く此処に暮らす事になっただけだが?」
言っちゃった。
「・・・・・・」
プライベートスクウェア。
時が止まる。文の表情と僕の表情が固まる。
『ガラガラガラ・・・・・・』
文は何も言わず我々に背を向け、戸に手を掛けた。
何もせずに帰るかと思いきや。
『パシャパシャパシャパシャ!』
突如振り向いた文の手から光が放たれる。四連射。
閃光で眩んだ目の先には、彼女愛用のカメラがあった。
「こ、ここここここれは大スクープですっ!」
「ま、待つんだ文!それだけはいけない!!」
「文々。新聞始まって以来の、大スクープを手にしてしまいました!ほら、写真もバッチリ!!」
ぺらっ。
新型カメラから放出された写真。
其処には間抜けな顔をした僕と、きょとんとした顔付きの魔理沙が並んで写っていた。
「や、止めてくれー!」
「大丈夫です!貴方達の真実は、この私が責任を持って皆さんに伝えます!そう、文々。新聞特別号外で!!」
「来年も契約結びますので、どうかそれだけはご勘弁を!」
「むむ、天狗仲間が呼んでいる!アディオス・アミーゴ!!」
『ばびゅーん☆』
・・・・・・という擬音が付きそうな勢いで、文は飛び去ってしまった。
「なーんだあいつは」
「・・・・・・」
・・・・・・終わった。魔理沙は勘付いていない様だが終わった。
これでもう幻想郷中に、僕達の同居の事実が知れ渡る事となる。
森近霖之助の、今日まで築き上げてきたイメージは間も無く崩壊する。
・・・・・・いや、諦めるのは早い。号外とはいえ、今すぐ発行という訳には行かないだろう。
ここは一つ魔理沙の手を借りて
「号外だよ~!幻想郷の確かな真実の泉、『文々。新聞』の特別号外だよー!!」
「早すぎるわあああああっ!!」
天狗のスピードを侮ったか。
あの様子では、既に至る所に新聞をばら撒いた後だ。
「号外らしいぜ香霖。貰って来るか?」
「だ、駄目だ魔理沙!」
「じゃあ貰って来るぜ」
もう動き出した歯車は止まらない。
僕には魔理沙の足を止めることが出来なかった。
そうして手にした新聞の見出しには──────。
『香霖堂店主・森近霖之助氏が霧雨魔理沙と同棲!?』
・・・・・・眩暈がした。
ブラックアウト。目の前が真っ暗になった。
「な」
漸く魔理沙は事の大きさに気付いた様子だった。
彼女の顔色は段々と赤くなり、遂には茹蛸の様になってしまった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
言葉が見つからない。
身から出た錆とはいえ、あまりに重すぎる十字架だ。
「あー・・・・・・」
「う・・・・・・」
兎に角喋らなければ。
鵜呑みにしていると思われたら、それこそ一巻の終わりだ。
「ま、魔理沙」
「・・・・・・」
「気に留める必要は無いさ。皆タチの悪い天狗の悪戯だと思うよ」
「・・・・・・か」
「え?」
「そう・・・なのか?」
「ま、魔理沙?」
「香霖は、嫌なのか?」
──────。
疲れているらしい。魔理沙の声が上手く聞き取れなかった。
「今、何て・・・・・・」
「香霖は、私と一緒に居ると書かれた事が嫌なのか?」
思考が停止する。
今何かとんでもない事を魔理沙は口にした。
体が硬直して動かなくなる。
しかし僕の意思と反して、脳は勝手に口を動かした。
「そんな訳は、無いだろう」
血迷っている。
何を言うのか霖之助。
「・・・・・・」
魔理沙は何時の間にか新聞を折り畳み、両手で抱えていた。
彼女は今この瞬間、一人の少女として其処に存在していたのだ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
限界だ。
思い切り叫び、店の外に飛び出したくなる衝動に駆られる。
──────そんな衝動を僕の代わりに果たしたのか、その時猛烈な勢いで店に突進して来る”誰か”が居た。
「魔理沙ーーーーーーっ!!!」
「「!!??」」
『ドカバタパリンgりgじおprfぺふじこ○×☆ミ!?』
僕は真っ暗闇の世界で、突如前方からやって来た”誰か”に突き飛ばされた。
──────そうして僕は気を失った。
暫くこの世界から離れられる事に、少し安堵しながら・・・・・・。
to be continued?
コインいっこいれる?
こーりんいい味出してる気がします。
まあ前にあんな作品を書いておいて何なんですが、魔理沙の反応が唐突過ぎる気がしてならないのがちょっと残念。
もうちょっと細部まで気を遣ってきっちりとまとめたほうが良いと思います
この後の展開が気になってしかたないです、続きがある事を願って……
震えて待ちます。
後半…というより最後で躓いたかな、という感じです。