・・・ちゅん、ちゅんちゅん・・・
晴れ晴れとした昼下がり。僕、森近 霖之助はいつもの店ではなく珍しくも博麗神社の縁側でお茶を飲んでいた。
「・・・ふぅ~。・・・たまには外でお茶を飲むというのもまたいいものだね」
誰にでもなくそう言う。すると後ろからまだ幼い感じが残る女性の声がその言葉に答える。
「ね、そうでしょ。あんなガラクタだらけの店の中よりよっぽど健康的だと思うわ」
そう答えるやいなや紅白の服を着た少女は僕と同じく縁側に腰を下ろし、手に持っていた自分専用の湯飲みに口をつける。
彼女は僕を(半ば強制的に)ここに連れてきた張本人で、僕が趣味でやっている店・香霖堂の数少ない常連客であり、
数少ない略奪行為を繰り返している女の子の1人だ。
見た目から観れば10代のちょうど真中ぐらい、といったところか。紅いリボンが良く似合う、可愛らしい少女だ。
「ガラクタだらけって・・・、そのガラクタをいつもツケとか何とか言って持ち出しているのは誰なんだか・・・。
ん、そういえば霊夢、今日はまだ魔理沙は来ていないようだね」
そう言うと紅白の服を着た少女、博麗 霊夢は目の前にあるお茶を啜りながら答える。
「う~ん、なんだか今、手が離せない用事があるんですって。用事が終わった次第、来るとは言っていたけれど・・・」
「そうか・・・」
「・・・霖之助さん、魔理沙に何か用でもあるの?」
「いや、別にこれと言って用は無いよ。ただ、なんとなくね」
「ふ~ん・・・」
僕はそう答えつつ、空を見上げる。
霧雨 魔理沙、彼女の事は昔からよく知っている。彼女も僕の事をよく知っている、いわば腐れ縁みたいな関係だ。
彼女のことを簡単に言っておくと、魔理沙も霊夢と同じ見た目からで言うと10代半ば、魔女の服装が印象的な女の子で
目の前でお茶を啜っている少女と同じ、香霖堂の数少ない常連客であり、店の物資を適当な言い分をつけて強奪していく少女だ。
しかも、彼女に対して僕は頭が上がらない。もともと店にある品物の一部は元は魔理沙のものだ。
彼女が極度の片付けが出来ない奴とは知っていた。彼女が小さかった頃からずっと見てきたからな。
どんな物でも捨てず、ろくに整頓もしない。
だから家の片付けと称して僕が魔理沙から商品(本人はガラクタと思っているだろうが)を安い価格で買い取っているのだ。
片付けとはいえ、物をもらっているも同然なのは事実なものだから今でも彼女には少し逆らえない部分がある。
・・・小さい頃はあんなに可愛かったんだが、今では昔の面影すら見えない。いったいいつからああなってしまったのか・・・。
と、話が逸れた。・・・その魔理沙がいないことに対しては寂しさを覚えるが、正直言うとありがたかった。
別に魔理沙が嫌いとかそう言うわけではない。逆に、今この場に魔理沙が居ないと落ち着かないくらいだ。
じゃあ、何故ありがたいのか。・・・それはいつものこと、霊夢と魔理沙が揃うと何故か知らないが
最終的には僕にも被害が及ぶというところだ。これは今まで彼女達と付き合っていて嫌と言うぐらい思い知らされている。
まあ、どちらか一方でもそれなりに被害を被っているのだが・・・。
というより今回の事でもこの事が相変わらず僕の意思に関係なく適用された。
それは今朝の事・・・
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今朝、僕がいつものように本を読んでいる時だ。霊夢の略奪行為がおこなわれているのを
いつもどおり僕は半ば諦めた感じで見守っていると、
「今日はこんな所じゃなくて何処か外でお茶をしましょう」
「は?」
と、いきなり霊夢は普段は絶対に言わない言葉を口にした。
悪い予感がする。何故だか知らないがそう僕の直感がそう告げている。
「いきなり何を言い出すんだい、突然」
「そうねぇ・・・、ここら辺で行くとしたら・・・、やっぱり神社かしら。あそこが一番落ち着くし・・・」
「いや、まてまてッ!僕はまだ行くとは・・・」
そういうと霊夢はまたとんでもないことを言い出し始めた。
「来ないならいいわよ?あの事、みんなに言い触らすから」
「はぁ?何を言っているんだ、君は。それにあの事っていったい何の話だ?」
「昨日、霖之助さんにここ(香霖堂)で色々されたという話」
予感は見事的中した。が、しかし全然嬉しくともなんとも無い。
しかも霖之助さんという所が特に強調されているような気がするのは気のせいだろうか。
・・・今日の霊夢は明らかにおかしい。何か企んでいるとしか思えない。
「な、何を言っているんだッ!確か君は昨日、いつものように突然現れたと思ったらお茶を飲みに来て、
お茶を飲み終えたあとは色々と物を物色した挙句、「じゃあ、今回もツケといてね。」と言ってそそくさと帰ったじゃないか!」
「そんなの誰も信用しないわよ。確かに霖之助さんがそう言えばみんな信じるかもしれないけど、私が泣いてこの事言ったら・・・。
みんな、私の言葉と霖之助さんの言葉、どちらを信用するかしらねぇ~」
などと今度はなんだか無茶苦茶な事を言ってきた。
本当に彼女はあの博麗神社の巫女だろうか?と疑いたくなる。
・・・しょうがない、こうなれば覚悟を決めるか。店の評判と共に僕の評価が下げられ、さらには変なレッテルまで貼られた日には
僕は此処で生活できなくなってしまう。それだけは困る。
「・・・ふぅ、わかったよ」
「じゃあ、決まりね。・・・そうと決まればさっそく行きましょう」
「今すぐにかい」
「こういうのは早い方がいいのよ。さ、行きましょ」
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という半ば脅しと取れる行為(もうここまでくれば恐喝行為だ・・・)でここまで来させられた。
何故彼女が此処に連れて来た理由が解からない。何かあるのだろか?
気になるが・・・、今此処で聞いて厄介事だったら嫌だし・・・。
「あ、そういえば霖之助さん、今夜は暇?予定とかないわよね?」
「う~ん・・・・・」
「霖之助さん?」
「え?な、なんだい」
「もうッ!ちゃんと聞いてよね。今夜もいつもみたいにやることなんてないんでしょ?」
「相変わらず率直に言うなぁ、君は。まぁ、日頃から客が来ないからね。暇っていったら暇だが・・・、なにかあるのかい?」
「ええ。今夜、ここでみんなを呼んで宴会をやろうと言うことになって。ほら、前の宴会で会った人達ね。
霖之助さんにはいつもお世話になっているし、今までのツケ代わりに、ね?」
みんなと言うのは以前起きた連続宴会事件のときのメンバーの事だろう。そのとき関わっていた者達について、多少は知っている。
新聞にもそのことについて載っていたし、何より(一応だが)面識もある。
事件解決後、一度事件に関わった者達と会ったことがあるからだ。というか無理やり会わされたというほうが正しいか。
しかし問題はそこではなく・・・
「そんなんじゃ無くならないほど君にはたっぷりとツケが溜まっているんだけどねぇ」
「いいじゃない、いつか払うっていつもいってるでしょ!・・・で、返事は?」
「そうだな・・・、まあ、暇だし別に・・・」
「じゃあ、決まりね!それじゃあ、もうそろそろ準備しなきゃいけないし、霖之助さん、準備よろしくね!」
彼女が喜ぶ姿を見て、僕は苦笑する。
まったく、困った子だ。まだ、返事の途中だというのに・・・。
まあ、根は良い子ではあるし、思ったこともズバズバ言う。そこは彼女の良い所ではあるが。
それにしても結局は上手く利用されてしまうのか。
はぁ~、もう少しゆっくりしたかったがそうもいかないか。
そんなことを思いながら僕は再びお茶の入った湯飲みに口をつける。
「霖之助さん」
「ん、・・・なんだい?」
一旦湯飲みから口を離し霊夢を見る。
「宴会、楽しみね!」
「・・・そうだな」
・・・・・できれば、普通に終わってほしいが、そうもいかないだろう。
そう思ったりする自分がなんだか悲しかったりするのだが・・・。
夜になり、宴会も始まったわけだが・・・、やはり無事には終わらないようだ。
その訳はいたって単純。集まったメンバーが『いつもの』メンバーだからだ。
・・・なぜ霊夢や魔理沙と知り合う者たちはこうも騒ぎ好きなんだろうか?
勢いよく騒ぐ者、冷静でいるがいつしか騒ぎの一部になっている者など実に様々だ。よく毎回こんなにも騒げるなと思う。
しかし、一つだけ言える事がある。
それはここにいる人たち同様、不本意ながら僕も、心から楽しんでいるみたいだ・・・。
宴会もなんだかんだでいつの間にか終了し、お開きとなった。
そしていまさらながら僕が呼ばれた理由がやっとわかった。僕はどうやら宴会の準備および後片付け係らしい。
なんとも面倒な役回りだ。
そう思いつつみんなが散らかしたゴミを適当に片付ける。こういう仕事は真面目にやるとただ疲れるだけだ。
それにこれ以上体力を消耗すると明日の商売に支障がでる。・・・まあ、客自体来ないからもう商売に支障がでているのだが・・・。
縁側では霊夢も魔理沙もよく眠っている。相当疲れたのだろう、すやすやと眠っていた。
可愛らしい寝顔だが、普段からはとてもじゃないが想像できないな、と思ったら二人は怒るだろうか。
二人に毛布を掛け、不意に昼間と同じように、黒く塗りつぶされた空を見上げる。
黒く染められた空にある月を見て今日も平和だなと実感する。
さて・・・、帰りはどうするかな。もう少し此処にいるか。どっちにしろ、このまま歩いて帰るわけにも行かない。
帰りは魔理沙にでも頼んで送ってもらうとしよう。文句は言ってくると思うが、まあ、大丈夫だろう。
そんなことを思いながら夜は否応なしに更けようとしていた・・・。
~END~
あと、ツケのことを勢いでごまかそうとしてる霊夢モエス。
鱸様、コメント有難う御座います!!こんな駄文に真剣に答えてくださって、とても嬉しいかぎりです。
あと得点をつけてくださった方も有難う御座います!これからも日々精進しようと思いますので暖かく見守ってくださると嬉しいです。
また、書く機会があったときにお会いしましょう。
それでは。