Coolier - 新生・東方創想話

『文々。新聞 ~Interview with Yamaxanadu~』

2005/12/21 06:14:15
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『閻魔に賄賂疑惑!?

 先日まで続いた花騒動において、東奔西走していた四季映姫・ヤマザナドゥに賄賂の疑いが持たれている。
 これは花騒動後に閻魔の元に送られた幽霊の一部が、碌に裁判も行われないまま地獄送りにされた為、裁判を待つ他の幽霊から不公平との意見が続出。一部裏で内密に天国送りとなった幽霊がおり、その穴埋めとして地獄に落とされたのではないかとの噂を呼び、上記の疑惑に繋がったものと思われる。
 もともと一方的に説教を行い、碌に言い分を聞かぬままに地獄逝きを宣告する事の多かった彼女に対する不満は根深いものがあり、今回の疑惑に対し世論はそれを真実と捉えている風潮がある。

 取材段階において、四季映姫に弾幕裁判を受けた事のある数人に話を聞いてみた。

R「私はちゃんと仕事をしているわ。あいつは私がさぼっていると言うけれど酷い言い掛かりよね」
M「私は嘘なんかついていないぜ。まぁ、隠し事がないとは言わないが」
S「あら、私は誰に対しても優しく接しておりますよ? 相手に合わせて応対しているだけですわ」

 上記の証言はほんの一例に過ぎないが、四季映姫の行う説教がてんで的外れに過ぎないと言うのが一般的な認識である。その上で先の賄賂疑惑についても質問したところ

                          「「「地獄の沙汰も金次第」」」

 異口同音、同じ答えが返ってきた。これで疑惑は益々深まったというべきであろう。
 しかし痩せても枯れても新聞記者たるこの私、世論に流され真実を歪ませるような事があってはならない。そこで次号は疑惑の真実について、渦中の人物である四季映姫・ヤマザナドゥに体当たりインタビューを行い、今回の疑惑に文字通り白黒付け報告させて頂く事にする。


              次回、ドキドキインタビュー 新聞記者は見た! 乞うご期待☆

                                                   第○○○号 文々。新聞 
                                                        射命丸 文 』





















「と、いう訳で取材に来ました」
「帰れ」

























                        『文々。新聞 ~Interview with Yamaxanadu~』 












「……と、それよりも、どうして貴女が此処にいるのですか?」

 此処は閻魔の住処、厳かに霊木で組まれた裁判所。厳粛な空気が堆積し、そこに存在する者に無言の威圧感を与えるべく存在する場所。嘘も軽口も容易に言の葉に乗せる事を禁ずる、神聖結界のような雰囲気。それは裁く者と裁かれる者の絶対的な一方通行を意味するもの。
 その中心に置かれた黒檀の大きな机には、背中を丸め両肘を置き疲れたような顔をした閻魔の姿。
 その姿からは普段の厳かさは薄れているとはいえ、常人であれば未だ漂う厳粛な空気に呑まれ、声を発する事も出来ぬであろう。

「あははー死神さんに頼んだら、日本酒一本で案内してくれましたよー」
「……後でお仕置きですね」

 そんな雰囲気など物ともせず気楽に笑う天狗。
 対して閻魔は、三途の川のほとりで酒をかっくらって寝っ転がっているであろう死神に対し、呪詛のような視線を飛ばしていた。その時――死神がくしゃみをしたかどうかは定かではない。

「さて、では改めて突撃インタビューです! この記事に書いてある事は真実なのでしょうか!
 はっきりすっぱりさっぱりと、明確で読者の喜ぶような回答をお願いします!」
「……この記事を書いたのは、貴女でしょうに」

 閻魔はほぅと溜息をついて、やれやれと首を振る。

「実際どうなんです? 私が調査したところ『地獄の沙汰も金次第』というのが共通の認識でしたし、三途の川を渡る際に金品を巻き上げているのも事実。ではやはりお金次第で裁きが変わるというのもあながち間違いとは言えないのでは?」

 天狗は目をきらきらと輝かせて閻魔に詰め寄る。地獄の閻魔に突撃インタビュー、しかも賄賂疑惑というスキャンダル。二重の意味で前代未聞のこのネタを、好奇心旺盛な天狗が見逃す筈もない。

「ノーコメントです。お引取り下さい」
「そこを何とか」
「お引取り下さ……」
「そこを何とか」
「お……」
「そこを何とか」

 天狗は黒檀の机に手、どころか膝まで付いて一言毎に閻魔に詰め寄り、閻魔はそれから逃れるように椅子を後ろに傾ける。だが3度の打ち込みにより椅子は限界まで傾き退路は失われ、現在では鼻と鼻がぶつからんばかり。ここでどちらかが目を閉じたならば繚乱たる百合の花も咲き誇ろうが、残念ながら二人の間にそのような典雅なものはない。
 
 天狗はわくわくと子供のような瞳で閻魔を見つめ、
 閻魔はいやいやと心底迷惑そうに天狗を見つめた。

 結局、この根競べに負けたのは閻魔の方。
 あと一歩詰め寄られたら物理的に顔面が接触するか、一瞬の浮遊感を味わった後に後頭部が地面と接触するであろう。



「判りました。判りましたから、少し離れて下さい」



 天狗の顔に満面の笑みが浮かんでちゅっと閻魔のほっぺに口付けをし、動揺して結局受身も取れずに椅子ごと後ろに倒れこみ、後頭部をしこたまぶつけ火花を飛び散らせた閻魔が怒りの勺を振り回すのをへらへらひょいひょいと天狗が避わし、調子に乗った天狗が舌を出した瞬間に閻魔が投げ付けた笏が天狗の顔面にばちぃーんと当たってふらふらと倒れこみ、挙句倒れた拍子に黒檀の机の角で頭をしこたまぶつけて悶絶する。

……それはわずか10秒間の出来事であった。










「さて、では改めてお聞きします。真実は何処!?」
「……真実なんて、それこそ幻想の中にしかありませんよ」
「哲学な話なんてどうでも良いのです。ぶっちゃけて言えば、読者に受ければそれが真実です!」
「貴女には記事を書くという事、事実を捻じ曲げる事についての説教をしたのですけど……」
「それは兎も角」

 はぁーと再び閻魔は溜息をつく。がっくりと肩を落とした姿が、まるで雨に濡れた子犬のようで中々に嗜虐心を刺激する。天狗は思わず涎が垂れそうになるのを、おっとっとと言いながら袖で拭った。どうやら天狗の嗜好は常人には図り難い模様である。中々業が深い。

「……確かに三途の川を渡る際に、その者が持つ財産は全て没収します。
 ですがそれはあくまでも 預かっているだけの事。その者が六道を巡り再び現世に戻った暁には、祝福と形を変えて返却しております。
 私が持つ閻魔帳は、生前の罪を記すだけでなくその出納帳でもあるのですよ。ですからその明細については全てきちんと記録しております。
 不正など行っておりません」

 閻魔はぴしゃりと言い切った。

「ふむ……では賄賂の件は全くのガセだと?」
「当然です」
「その閻魔帳を見せて頂けます?」
「お断りします」
「見せなければ疑いは晴れませんよ?」
「構いません」

 ふーむ、と天狗は腕を組み、右手を顎の下に付けて考え込む。目を閉じて考える様は何処ぞの彫刻のようであったが、その可愛らしい顔付きで『苦悩』と名付られるには、あと千年程修行が足りない。
 実際、天狗は閻魔の頑なさを身を持って知っている。
 彼女が例え疑われたままでも構わないと言うならば、すでに覚悟は完了しているという事。今更どう言い募ったところで気を変えさせる事は不可能であろう。しかしそのまま閻魔は黒であると記事にする訳にはいかない。確かに読者の興味は惹けようが、天狗とて真実を伝える者としての矜持がある。

 閻魔から受けた説教はそれなりに天狗の中に残っている。
 真実でも記事にした途端にそれは虚構となり、歪んだ情報は歪んだ真実として人々に伝わっていく。
 その罪深さは記者として必ず持たねばならぬ責務のようなもの。だからこそ天狗は、せめて自分が真実と感じた事しか記事にはせぬと決めていた。自分でも信じられぬ真実で、どうして人の心を動かせようか。

 その目と、足と、翼を持って真実を追い掛けるのが天狗の誇り。
 己で確かめもせず、真実かどうかも見極めずに記事を書くならば小説家にでもなれば良い。

 誇りというのは自身に向かって誓うもの。決して他人に対し振りかざすものなどではない。
 己の内に突き立てた、一本の揺るぎない剣。
 その剣は他人を傷つけるものではなく、己を曲げようとした時にその身を切り刻むもの。
 だから誇りを持つ者は、真っ直ぐに立てるのだ。

 この閻魔のように。
 この天狗のように。


「しかし困りましたねぇ……これでは記事は書けませんよ」
「私の身の潔白は、私自身が知っています。それで十分でしょう」
「だけどそれじゃ面白くないし」

(おっと閻魔がジト目で睨んでいる。くわばらくわばら……っとこれは雷様用対抗呪言であったか)

「ですが、実際に裁きに対し不平を持つ魂がいるのも事実。公正明大な裁きであれば、このような不満など生じないのでは?」
「では、貴女がその罪により地獄逝きと宣言されたなら、貴女はそれに大人しく従いますか?」
「無理ですね」
「では、そういう事です」

 ふーむ、と再び天狗は腕を組んで考える。確かに己が罪人であるなどとはこれっぽっちも思っていないが、それは他の者も同じであろう。地獄逝きを宣告されたならば、例え罪の自覚があろうとなかろうと反発するのが当然というもの。ならば今回の件は……やはりガセだったか。

「ふむ、判りました。今回の件は噂に過ぎなかったようです。
 次回の新聞には正式に謝罪文と真実を掲載させて頂きます。誠に申し訳ありませんでした」

 そう言って天狗はぺこりと頭を下げる。
 頭を下げる事は己を曲げる事ではない。己を曲げぬために頭を下げるのだ。


「……お待ちなさい。謝罪文など書く必要はありません」
「へ?」

 閻魔の意外な言葉に、天狗は思わず間の抜けた声を出してしまった。

「閻魔は賄賂によって罪の裁量を覆す、そう改めて記事にして下さいな」
「え、と……仰る意味が良く判らないのですが」

 不思議そうな顔をして尋ねる天狗。
 
 それに対し閻魔は

 ――優しく
 ――妖しく
 ――童のように
 ――悪魔のように




「その方が……罪人を見極めるのが楽でしょう?」






 そう言って――














                               にやりと笑った。



























「さーて、どうしたものかな」

 天狗は自室の机に足を乗せ、椅子をぎしぎしと軋ませながら身体を傾けている。
 窓の外はとうに暗く、室内を照らすは橙色のランプの明かりのみ。
 手にしたペンをくるくると弄び、天井をぼーっと見ている。

 机の前には真っ白な原稿用紙。先程から一行たりと進んでいない。

「特定の陣営に肩入れするのは、公正明大を信条とする文々。新聞の名に反しますしねぇ」

 昼間に見た閻魔の笑顔を思い出す。
 本気を出せば幻想郷最強とも言われる天狗に、言葉を失せ背筋を震わせたあの笑顔を。

 ぶるり、と再び身を震わせる。

「……怖い、怖い」

 表情を先程から一切変えぬまま、天狗はそう呟く。
 目は天井に向けたまま、くるくるとペンを回して弄ぶ。

 くるくるとペンが回る。
 くるくると
 くるくると

 ゆらゆらと思考が揺れる。
 ゆらゆらと
 ゆらゆらと


 だから天狗は


 弄んでいたペンを



「やーめた」



 ――空に放り投げた。
























『氷精、三度大蝦蟇に呑まれるか!?

 先日、沼で蛙を凍らせて遊んでいた氷精が沼の主である大蝦蟇に呑まれた事件を報道したが、その後リベンジと称して再び大蝦蟇に挑み、あえなく返り討ちにあった件は記憶に新しいかと思われる。そして三度目の正直と意気込み、氷精が大蝦蟇に挑もうと秘密特訓をしているという噂を聞きつけ本誌記者が取材に当たった。以下はそのインタビューの一部である(一部、原文からの修正あり)


「今回、三度あの大蝦蟇に挑むと伺ったのですが」
「当たり前でしょ。あんなのにいつまでも負けてらんないわよ!」
「しかし無謀とは思いませんか? 二回とも為す術もなくあっさり負けたのでしょう?」
「そんな事ないわ! あれは紙一重だったのよ」
「はぁ、貴女が紙一重なのは承知しておりますが」
「む、何か馬鹿にされたような気がする……」
「いえいえ、そのような事はありませんよ」
「むーまぁいいわ。見てなさいよ! 次こそこてんぱんにやっつけてやるんだから!」
「えぇ、最前列で拝見させて頂きますね(わくわく)」


 おそらく結果は読者の皆様が思い描く通りであろうが、その折には改めて詳細な報告を行わせて頂く。現在氷精は特訓と称してパーフェクトフリーズ千本ノックを行っているが、どうみても無駄に体力を消耗させているだけである。
 ちなみに今回、賭場も同時に開催されており、詳細については永遠亭の因幡てゐまで、各自お問い合わせの事。現在オッズは1対9。大穴がくれば三日分の宴会費用くらいにはなると思われる。結果については次号にて発表させて頂く予定。



                     次回、ドキドキ観戦記 新聞記者は見た! 乞うご期待☆



〈追記〉

 先日の閻魔賄賂疑惑において、不適切な表現があった事をお詫び申し上げます。





                                                    第○○○号 文々。新聞 
                                                         射命丸 文 』












 
                                   ~終~
こんばんは、床間たろひです。

最初は、映姫様の可愛らしさを余すところなく表現しようと書きはじめたのに
あれ? 何か違う方向に……

でも、まぁあれだ。

映姫可愛いよ映姫



PS.河瀬 圭様。「そこを何とか」×3の使用許可を頂き、誠にありがとうございました。今後も事ある毎に使用させて頂くかとは思いますので、宜しくお願いしますw
床間たろひ
[email protected]
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コメント



0.4140簡易評価
3.70bernerd削除
これは上手い。さっくり読めてそれでいて面白い。
きっと9・5弾もまさにこんな感じなんでしょうか。
こんなノリで他のキャラも実に見たくなりますね。

そこを何とか吹きましたw 河瀬様は偉大ですね。
9.80はむすた削除
閻魔も文もやたら可愛く面白いっす。
そして最後は、いっぱいいっぱいなチルノかわいいよチルノ。
10.70銀の夢削除
やはり 河瀬さんは エロい な 。

閑話休題。
そうきたか……恐ろしいかな映姫さん。
もっとこう……文が無理矢理(以下検閲削除)するようなノリかと思ったらまさかこうこられるとは……メディアを利用する辺りさすが公権力は違うぜ。
20.70おやつ削除
四季様をもうんざりさせる悪人もいるのでしょう。
それでも見捨てるなんて出来ないんでしょうね、この閻魔様は。
カッコいいと思います。そういうのも。
31.60沙門削除
わはー、そうなのかー。
裁判長様は怖いねい。と思いながら面白かったです。
自分も頭がいっぱいいっぱいなので、こんな感想しか書けません。次も楽しみにしています。
38.80まんぼう削除
む、むむむ。
取りあえず唸ってみた所で感想をば。
確かに閻魔って良く考えると恨まれるのが当然の存在なんですよね。絶対者という位置づけにされていて、一方的に罪人を裁く。それが本人が自覚していない罪だとしても。
賄賂ネタを上手に使った作品。お見事でした
41.70豆蔵削除
相変わらず構成が上手いッス。
原作っぽい映姫様と萌映姫様が見事にフュージョン。ほっ。
文と2人のわたわたした10秒に激しく悶えました。
ありがとうございます。
42.無評価霜台削除
>まんぼうさん
閻魔は死者を裁き地獄に送る事は自分の罪として
日に3度焼けた鉄板の上に寝かされ
溶けた銅を口に注がれ内臓が焼かれるという罰を自らに与えています。
楽園のサイバンチョがそれを課しているかは語られてませんが
閻魔は決して無自覚で人を裁いている訳ではありませんよというお話でした
44.無評価床間たろひ削除
読んで下さった皆様、ほんとうにありがとうございます。

>bernerdさん 本当に河瀬さんは偉大ですw できれば河瀬さんに咲夜
 バージョンを書いて頂きたいw

>はむすたさん チルノも可愛いですよね。しかし映姫も可愛いのですよ!

>銀の夢さん 「白い咎」では映姫の厳しさと優しさを、今回は映姫の
 可愛いさと怖さを表現したかったんですよ。伝わったなら嬉しいですw

>おやつさん 誰も見捨てる事などしない閻魔さま。それでも……疲れる
 時はあるでしょう。そんな時に今回の話のような目を、するのかもしれ
 ません。閻魔に見捨てられる事のないようにしないといけませんねw

>沙門さん 復帰おめでとうございます! これからも格好可愛い八雲一家
 を魅せてくださいねー
 そして、面白いの一言が何よりも嬉しいのですよ!

>まんぼうさん 閻魔という役回りは非常に損だと思います。だけどそれでも
 頑張る映姫に何よりも萌えるのですよw

豆蔵さん>いつも感想下さってありがとうございます! あのシーンの映姫
 と文、可愛いっしょw 気に入って下さり嬉しいです!

霜台さん>閻魔が日に三度自分に罰を与えるのは知っていましたが、まさか
 そこまで苛酷だとは! えーと……流石にそれは映姫が可哀想なので、己
 の背中を勺で打つくらいにしても良いですか。今、別の映姫SS考えてる
 中で、自身への罰ってのが結構重要なファクターなんで。焼けた銅飲んだ
 ら流石に映姫も死んじゃうからw

感想をくれた皆様、読んでくれた皆様。改めてありがとうございました!
48.80コイクチ削除
文らしいオチでにやけながら読ませてもらいました。
53.90にし削除
文が映姫のほっぺにー!

萌えるとともに、色々と考えさせるその手腕。
お見事です!
96.100名前が無い程度の能力削除
四季様、これを狙って…?
ひぇぇ
97.70名前が無い程度の能力削除
そうきたかー
101.90名前が無い程度の能力削除
とてもよかった
でも公正明大じゃなくて公明正大じゃないかと