※若干ながら大小へにょへにょの設定が踏襲されてますが、あちらを読まなくても問題ないと思います。
颯爽と地に降り立つ。
前に広がるは広大な大地。
二百由旬はあると噂される白玉楼の庭園です。
申し遅れました。
私、射命丸 文です。
幻想郷唯一のマスコミにして同時に絶大な人気を誇るアイドル!
迅速正確な報道をモットーとした文々。新聞は幻想郷の知を深めるための重要なファクターとして位置づけられ、幅広く皆様に受け入れられているのです!
………だったらいいんですけどね。
実際は、
「今更こんな情報書かれても。もう知ってることだし」
「ちょっと!本当に取材したのか!?捏造もいいとこだ!」
「墨が載ってるせいで鼻はおろか尻を拭く紙にすらなりゃしない。資源の無駄遣い」
などなど、素敵な人気っぷりでございます。
このままではマスコミとしての沽券にかかる問題です!
何とかして皆様の心をゲットし、部数の拡大をしなければならないのです。
でも、拡販は使えないのです。
なぜなら
「おまけは無いの?お酒の引換券3か月分くれるなら1ヶ月だけ読んであげるわよ」
なーんてことを言う人ばかりなんですよ?
3か月分の多大な出費をして1ヶ月だけ読んでもらうとか、どう考えても大赤字です。本当にありがとうございました。
とにかく、マスコミは記事の内容で勝負!
そんなこともありまして、このたび「特選!これを食べなきゃ人生大損!」なる特集を組むことにしたのです。
早い話がグルメ記事ですね。
「食」ってのは生物にとっての基本行動、まして知能を持った者ならよりよい食事を求めるのは自然の摂理なのです。
ならば、グルメガイドブックの需要は確実にあるはずです。
それもかなりの需要が。
需要と供給が成り立ってこその経済活動です。
皆さんはよい食事を知ることが出来る、お店の方は宣伝が出来る、私は知的好奇心と懐が満足すると、うぃんうぃんの関係が築かれる素晴らしい案なのですよ。
ところで、うぃんうぃんって何でしょうかね。
魔理沙さんが持っていた変なきのこから出てた音が確かそんな感じだったんですが。
マジックアイテムのことでしょうか。
ともあれ、「食」と言えば幽々子さんです。
幻想郷の数多の食を網羅してるであろう彼女に取材をすれば、目ぼしいところがかなり絞られるはずです。
おお、さすが私!
効率と言う観点から考えるとぱーふぇくとな論理展開ですね!
マスコミのたしなみとして、ちゃんと事前に連絡も取っていますし、準備万端!
さぁ、私の輝かしい未来のためにもGOです!
「こんにちは!文々。新聞です!以前お伝えしました件について取材にやってきました!」
「わーい!あややだー、あややー」
「ちょ!幽々子様待ってください!」
パタパタと言う軽快な足音と共に今日のゲストが現れ………え。
「か」
「か?」
「可愛いぃいいいい!!!!!」
~輝かしい未来~
取り乱して申し訳ないです。
改めて状況を。
目の前におられるのは妖夢さん。
何か疲れたような諦めたようなそんな表情です。
幼いながら二刀を繰り、主を守る忠実な従者さん。
守るだけじゃなく実質全ての世話を取り持っているようで、色々疲れてるんでしょうかねー。
そして、今日のゲストの幽々子さん。
妖夢さんの主にして食の大御所。
ありとあらゆる食に精通したグルメさん。
そのせいかどうかは知らないのですけど、BQBのメリハリの利いたボディラインが妬まし…いや、素敵なお姉さん………のはずなのですが。
「どうしてまたちっちゃくなってるんですか?前の事件解決したときに元に戻ったのでは?」
そう。
今の幽々子さんは妖夢さんの胸の辺りまでしかない子供の姿でした。
説明が必要ですか?
>はい
必要
そうですか、必要ですね。
では、私こと射命丸文が懇切丁寧にお教えしましょう!
いらないなんて声は聞こえませんから。
------------------------------------------
先日ここ幻想郷ではちょっとしたアクシデントがあったんですよ。
いや、影響を考えるとちょっとしたなんてレベルじゃなかったですけど。
発端は八雲紫さん。
事件の影にはやっぱり紫とか何とか言われてるような言われてないような、ともかく何かと問題を起こす方なのですよ。
先日も退屈していたのかどうなのかわからないですけど、「子供と大人の境界」をいじって幽々子さんを子供に、妖夢さんを大人にしてしまったのです。
これだけなら当人達は別として、幻想郷としてはたいした事ではないのですけど、問題は同時に「正気と狂気の境界」をいじったことなんですよね。
それも結構大規模に。
おかげで、あちらこちらで阿鼻叫喚の地獄絵図。
お二人も散々な目に合われたようです。
主に妖夢さんが。
かく言う私もたまたま取材に行っていた魔理沙さんの家で変わったきのこで………いやいやいや!
アレは無かったことになってるんですねそういえば。
………慧音さんったら、「私の力で扱える範囲を超えている。全ての歴史を修正することは出来ない」ですって。
ええ、しっかり覚えてますよ、ぐすん。
アレはもうバイオハザード並の悲劇でしたよ。
………うーん、生物的災害と言う点で見るとアレはバイオハザードそのものでしたね。
ともかく、悔しかったので事件のあらましと紫さんをボロクソに書いた新聞を発行したんですよ。
彼女への復讐も兼ねて。
そうしたら、「忘れたいのにわざわざ思い出させるような記事を書くな!」ってけんもほろろにトホホな展開が待っていたわけでして。
紫さんに至っては「私の武勇伝をわざわざみんなに広めてくれるなんて、あなた案外いい人なのね」ですって。
結局全部裏目ですよ。
あの日は久々に枕を濡らした夜でした。
結局あの件でひとつ学んだことがあります。
紫さんはアレですねアレ。
構ってチャン。
なので、何が起ころうと徹底無視ってのがきっと一番堪えるはずです。
ただ、あの人なまじ力と能力が強いから、無視するなら相当な覚悟を持っておかないと、相手をせざるを得ない状況になるんですよね。
その辺を呼びかけるような記事を書いたら部数上がるんでしょうか?
っと、横に逸れましたけど、結局妖夢さんがラストワードでもって紫さんを屈服させ(すごいなぁ)事件は解決、お二人も元に戻ったはずなんですが…。
目の前の幽々子さん、どう見ても子供なんですよね。
この姿で数多の猛者たちを骨抜きにしたと聞いてますけど、なるほど納得。
------------------------------------------
「幽々子様、この姿が気に入ったのかまた紫様に頼んで変えてもらったんですよ」
「はー、なるほどー」
自身の魅力を最大限に引き出す術を知り、実行できるとは、流石です。
私もいつかそれを探し出したいですねー。
あ、でも。
「こうなっちゃうと取材は出来そうに無いですね…」
うーん、残念。
でも、ここでへこたれるほどやわな根性してません。
当初の予定とは違いますがここは思考をシフトして、子供幽々子さんの魅力についての記事を…。
部数は上がりそうですけどなんかものすごく危険な予感がします。
これは却下ですね。
またまた残念。
「あ、大丈夫だと思います。この姿になってもちゃんと記憶自体は引き継がれてるようなので。考え方が子供っぽくなりますけど」
おお!
それはナイスな設定です!
これで無駄足にならずにすみそうですよ。
そうと決まれば迅速に行動するのみ!
早速質問メモを取り出
「よーむー」
「はいはい、なんですか?」
「ねむいのー」
してちょっと待ってください!
やっとお膳立てがそろったところで、いきなりちゃぶ台返しのごとき台詞ですそれは!
「ゆ、幽々子様!文殿が待ってますよ!寝るのはその後にしてください」
お、妖夢さん素敵です!
その調子で頑張ってー。
「やだ。ねるのー」
「う、そう言われましても……」
先生!早くも雲行きが怪しいです!
まぁ、主従の関係にある上に今の幽々子さん相手じゃ分が悪いでしょうね。
別に急が無きゃならないわけでもないですし、この状態でまともな返答が返ってくるとも思えませんから、ここはひとつたっぷりと生理的欲求を満たしてもらってその後に、と 言うことにしましょう。
あ、折角だから写メ写メ。
「ちょっと!何で写真なんか撮ってるんですか!」
「いや、滅多に無いチャンスじゃないですか」
「もう………幽々子様、お布団用意してきますからちょっと待っていてくださ………なんですか?」
幽々子さん、妖夢さんのももの辺りをぽんぽん叩いてますね。
「ここがいいわ」
「ここって?」
「ひざまくらー」
花が咲いたような笑顔で殺し文句を。
この人………出来る!!
「あ、う………えーっと、幽々子様?」
「よーむのひざまくらがいいわー」
妖夢さん、照れちゃって可愛いです。
これはシャッターチャンスです!
「わ、わかりました……また撮ってる!」
「素敵な表情ですね!いいですよー」
「や、やめて下さいよ!」
------------------------------------------
「はー、可愛いですねー、幽々子さん」
「可愛いんですけど手がかかってしょうがないですよ」
妖夢さん。
口元に笑み浮かべて頭なでながら言っても説得力0ですから!
ちょっと羨ましいとか思っちゃいますよ。
「でも、なぜ幽々子様はこの姿が好きなのだろうか。大人の姿のほうができることは多そうなのに」
「童心に帰りたいんじゃないんでしょうか?好きなように振舞えるわけですし」
「大人であっても好きなように振舞われている気がするんだけど…」
「でも程度が違うでしょう。それに妖夢さんの存在もありますからね」
「私の?私が何か?」
ここら辺は予想だけど、多分間違ってないと思います。
「妖夢さんがいる限り主従の関係は崩せず、また幽々子さんが保護者的な立場であると言うこともしばらくの間は変わらないでしょうね」
「む………それは私が幽々子様の重荷になっているということですか?」
「そう言うわけじゃないでしょうけど、その枠を取っ払った付き合い方もしたいんじゃないかと思いますよ。子供の姿なら素直に甘えることができるわけですし」
幽々子さん、生前は甘えることなんてほとんど無かったって聞いたことあります。
妖忌さんがいたとは言え、死んだ後もあまりそう言うことが無いまま大人になったんじゃないでしょうか。その頃の穴を妖夢さんに求めてるような気がします。
「そういう…ものなのだろうか………」
「大人だって誰かに甘えたい時はあるでしょう。でも、主従であり親子にも近い貴方に甘えを求めるのはなかなか難しいんじゃないでしょうか」
「だから姿を変えて一時的にその関係を崩す、と」
「レミリアさんも同じようなことやってるみたいですからねー」
まぁ、だから幽々子さんもそうなのでは、と思ったんですけどね。
「幽々子様………」
あー、それにしても絵になる光景です。
幽々子さんの寝顔も、それを見守る妖夢さんもいい感じです。
記録記録っと。
「………折角いい話をしてたと思ったのに、ふと気が付くとそれですか」
「マスコミたるもの、チャンスを逃しちゃいけないのですよ!」
「ってことは、これ記事にするの?」
「それはわかりませんけど、とりあえずMyめもりあるのーと(はぁと)にはきっちりと収録を」
「なんか、見るのが怖そうなノートね………」
そんな事無いと思いますけどねー。
幻想郷の女の子たちの色々な一面が盛りだくさんの素敵ノートなのに。
それにしても。
「そうしてると、普段と逆に妖夢さんがお母さんみたいですねー」
あ、ものすごーく微妙な顔をされてしまいました。
「せめて姉妹と表現して欲しかったです。それ以上に私たちって普段から親子に見えてたんですか?」
「えーっとですね、見た目はとりあえず置いといて。一生懸命頑張る娘を見守る母親ってイメージなんですよね。幽々子さんと妖夢さん」
これは悪い意味でもなんでもなく本当にそう思ってます。
「やはり、私は幽々子様にとって役に立たない足手まといなんだろうか…」
落ち込んじゃいました。
真面目なのはいいんですけど、真面目すぎるのも問題ですね。
「ただの主従関係ではなく、家族的なつながりもあるって素晴らしいじゃないですか。単なる主従関係なら、役立たずは首ちょんぱですよ。あ、後ですね、妖夢さんが役立たずって言うのは幽々子さんに失礼ですよ」
「でも、私は幽々子様から常々「妖夢はしょうがないわね」と言われつづけているのだけど…」
「食意地の張った幽々子さんを見て妖夢さんはどう思います?」
「それはもちろん、しょうがない方だなーと………あ」
「まぁ、そう言うのと同じなんですよ結局。心からダメだと思ってるわけじゃない。幽々子さんのそれはやっぱり母親のそれに近いものがあるんじゃないかって思いますよ」
「………」
「何より、本当にダメだって思ってるなら子供になってまで甘えようなんてするわけ無いじゃないですか。本来の自分に比べて無防備になるわけですし。信頼できない相手にそんな事するとは思えませんよ」
「………そうなのかな」
「そうですよ。というか端から見たら羨ましいくらい素敵な関係なのに、その当事者がそれに気づいてないなんてずるいですよ!」
ほんとそうですよ。
あれだけ信頼しあえる相手がいるって羨ましいです。
まぁ、自由奔放がモットーな私には、そう言う相手がいないって事は別にマイナスではないんですけどね。
「だからもっと自信持ったらいいんですよ。変に増長するのは困りますけど、妖夢さんならそう言うことはなさそうですし」
「文殿………本当にありがとう」
あー、あー。
面と向かってお礼言われるのはやっぱり恥ずかしいですね。
というか、何で私は人生相談なんかしてたんでしょう。
あんまり柄じゃないですよね。
よし、本来の私らしく。
「うん、やっぱ妖夢さんはいいお母さんになれると思いますよ。本当にお母さんになった妖夢さん見てみたいなー」
「な!だからからかうのはやめて下さいよ!」
「あ、ごめんなさい。幽々子さん相手だとお嫁さんにはなれてもお母さんは無理でしたね」
お、効果覿面です。
真っ赤な茹ダコ一丁上がりー。
今日はタコをつまみに晩酌しましょうか。
「な、ななななななにを言ってるんですか!!私と幽々子様がそそそそのようなことになるわけ無いでしょう!」
「しー!幽々子さん起きちゃいますよ?」
「はぅ………」
レミリアさんと咲夜さんとか、藍さんと橙さんとか、永琳さんと鈴仙さんとか、主従でラブラブやってる例はいくらでもあると思うんですけどねー。
まぁ、二人がどうなるかは神のみぞ知るってことで、私は私の仕事を。
「だ、だから撮らないで下さい!」
「こんな可愛い二人を撮らないなんて、神だって許しませんよ」
「幽々子さんの寝顔のアップ写真ゲットー」
「ず、ずるい!」
なーんて暴れてるように見えますけど、幽々子さんを起こさないように割と小声でやり取りしてるんですけどね。
端から見ると凄く間抜けかも。
------------------------------------------
それにしても、寝顔可愛いなぁ。
どんな悪魔にも天使の顔を見せる時があるって言うことありますけど、それって寝顔のことらしいんですよね。
確かに、寝てるときは悪さなんかできないし、基本的に穏やかな顔してますからねー。
しかし………。
こうして見つめてるとどうしてもムラムラと衝動が湧きあがってくるのですよ。
もう我慢できません!
実行あるのみ。
ぷに
「ちょ!何してるんですか!」
「見たまんまですよ」
「な、なんて失礼なことを!」
「何を言ってるんですか!こんな柔らかそうなほっぺを前にして突っつかないなんて、そっちの方がずっと失礼ですよ!」
「だからといって寝こみを襲うような…」
「妖夢さんもやってみればいいんです。そうすればこれが如何に素敵なことか身に染みてわかるはずです」
「そ、そんな恐れ多い…」
「大丈夫大丈夫!全然怖くないですから!さぁ、れっつGO!」
恐る恐る手を伸ばす妖夢さん。
今だ!そこだ!行け!!
ぷに
「っっ!!!!!!!」
あ、震えてる。
ええ、そりゃそうでしょうとも!
この感動を味わったらもう抜け出せませんよ!
「どうです?素晴らしいでしょう?」
「こ、魂魄妖夢は修行不足でした。このような世界があったとは………不覚!」
「反省だけなら猿でも出来ます。今はただその反省を活かし新たな世界へ切り込むのみです!」
「文殿………私も頑張ってみます!」
ぷに
ぷに
ぷに
ぷに
「はぅ!!!」
「はぁ………なんて幸せなんでしょう」
何も知らない人が見たらドン引き間違い無しの光景ですが、そんなこと関係ありません。
もう、幽々子さんのほっぺったら究極のほっぺですよ。
レミリアさんも至高のほっぺを持ってるらしいですが、果たしてどっちが上なんでしょうか。
ま、どうでもいいです。
今がよければいいんですよ。
--------------------------------------------------------------
「ところで妖夢さん、折り入ってお願いがあるのですが」
「なに?」
「私にも膝枕させてもらえません?」
これだけ幸せそうな顔されてるとちょっと試してみたくなるってのが人情でしょう。
よく幸せの重みとかそう言う言い方もしますからね。
「いくらなんでもそれはダメです!」
「別に取って食うわけじゃないんですし、少しくらいいいじゃないですか」
「幽々子様は私のものです!!………あ」
「あれー、なかなか素敵に過激な発言ですね」
「あう………」
本音ゲットー!
まぁ、それはそれ、これはこれとしてこちらも引く気はありませんけど。
「ほっぺの世界を教えてあげたじゃないですか。それくらいのお礼は貰っても罰が当たらないと思いません?」
「し、しかし…」
「幽々子さんの寝顔の写真、焼き増し欲しくないですか?」
「今すぐにこの場所を明け渡します」
瞬殺ですか!
本当はまだ2,3枚カードを用意してたんですけど。
まぁ、安くすんだってことで儲けものです。
起きないようにそっと頭を乗せる。
寝顔を眺める。
ただそれだけのことなのに、なんかこう、じわじわと湧き上がってくるものがあります。
ああ、これが幸せの重みですか。
たったこれだけのことで幸せになれるなんて、なんと言うお手軽で安上がりなんでしょう。
うん、これは記事に使えるかもしれませんね。
早速メモメモ。
「ん………」
ありゃりゃ?
幽々子さんお目覚めですか。
うーん、あまり堪能できなかったです。
残念。
「………?」
不思議そうにこちらを見る幽々子さん。
まぁ、そりゃそうでしょうね。
妖夢さんの膝で寝てたはずなのに起き上がるとそこにいるのは私。
寝起きの頭、且つ子供の思考なら状況の認識が上手く出来ないのも当然。
が、突如満面の笑顔でこちらを見つめる。
「あややだー」
その目を見た瞬間。
私の頭の中何かがはじけた…かぷっ…気がします。
同時に脊髄を駆け上がる不思議な感覚。
それは瞬く間に私の意識を包み込んでいきます。
ああ、もしかして。
これが恋?
いやいやいやいや。
私はロリコンじゃないですよ!
それに、さっき幽々子さんの目を見て感じたものはそんな素敵なものじゃなかったような。
意識を満たすこの感覚も、甘酸っぱいようなものではなく、もっと、こう、なんと言うかネガティブな属性が似合うと言うか…………って
「痛い痛い痛い痛い痛いいたーい!!!!!!!!」
「ゆ、幽々子様!噛んじゃダメです!それ食べ物じゃないです!!!」
よく見ると私の右手に幽々子さんの顔が覆い被さってますよ!!!
な、なんですかこの状況は!
「かぷっ」だなんて、思わず♪がつきそうな音に騙されましたよ!
というか痛いから離して!!!!
「す、すみません!文殿!幽々子様寝惚けてるみたいで!」
いや。
違う。
寝惚けてるわけじゃないです。
さっき目があったときの感覚………わかりました。
「よーむー」
あれは………
「今日のごはんはー」
圧倒的な捕食者を前にした………
「とりにくよー」
哀れな獲物の感覚。
どひー!!!!!!
じょ、冗談じゃありません!!!
確かにグルメの特集を組むつもりでしたが、私自身がグルメにされるなんてそんな展開は却下です大却下!!!!
第一そんなことしたら新聞発行出来ないじゃないですか!!
いや、それ以前に死んじゃいますって私!!!
「あややー、かたあしだけでいいからたべさせてー」
「だっ!だだだダメダメダメダメダメ絶対ダメです!!!!」
「えー、かたあしくらいいいでしょー?」
「幽々子様!ダメです!!それだけはダメです!!」
「よーむもあややもケチんぼー」
「あんなの不味いに決まってます!お腹壊しますよ!!!」
うぅ。
酷い言われようです。
ほっぺを通じて友情を確かめ合った仲なのに。
呪いの視線で睨んじゃいますよ!
「(何やってるんですか!早く逃げてください!)」
「!!!」
前言撤回。
何とかして時間を稼いでくれていたんですね!
やっぱり妖夢さんは素敵な人です。
今度べた褒めの記事書きますから!!
しっかりと幽々子さんを抑えてもらってる今のうちなら………天狗の俊足で持って逃げ切れる!
思考をまとめると同時に地を蹴る!!
始めの一歩でトップスピードの私に追いつけるものは、この幻想郷において存在しないのです。
ホラ御覧なさい。
見る見るうちに小さくなっていく妖夢さん。
………妖夢さんだけ?
「とっりにっくだー」
な、なななじぇぇ!!?
ほぼピッタリと言える速度………いや、むしろこちらをも上回る速度で肉薄する幽々子さん!!!
まずい。
まずいまずいまずい!
このままでは真剣に不味いですよ!!!!
「ひきしまったももにくー」
ええ、この脚は私の自慢ですから。
ですからいつでもミニスカート!
昨今は自分の長所をアッピールするのが大事とか何とからしいので、常に自己主張を忘れないようにしているのですよ。
見せない技術がなんとやら、と言うものを使えば見られなくてすむそうですし。
って、そんなこと考えてる場合じゃないですよ!!
「ひきしまったむねにくー」
ええ、ええ、どうせそうでしょうとも。
私は貴方のようにぼいんぼいんのたゆんたゆんじゃありませんよ!
最も、今の貴方は私よりもはるかに劣るまな板っぷりですけどね!
今に見てるがいいです!
いつか私も素敵に無敵な桃饅を標準装備してあげますから!
…………これを脱することが出来たらの話ですけど。
「からっとなんこつからあげで、いっぱいぐびっとやるのよー」
確かにお酒に軟骨からあげは定番ですねー。
あのコリコリ感がもう、お酒の勢いを進めちゃって………ダメですよ!
いくらなんでもそんな小さい子供がお酒はご法度です!
もうちょっと大きくなってからああああああああ混乱してます!
私混乱してますよ!!!
「しんせんな、ればーがいかすわー」
生き胆が欲しいなら、蓬莱人の方に頼めばいいじゃないですか!!
どうせ再生するんだからいくらでも食べさせてくれるでしょうし、ついでに不死になるおまけつきですよ!!!
あ、幽々子さんもう死んでるんだっけ。
こりゃ、うっかりですね。
文さんももう少ししっかりしないといけませんね!
「ふっらいっどちっきーん」
現実逃避してもそれ以上の速度で迫る現実に対処するにはどうしたらいいんでしょう。
と言うか、私は烏じゃないですし、まして鶏とは270度ほど違う位置にいるんですよ!
そもそも私は天狗であって鳥じゃないです!!!!
揚げたところでフライドチキンじゃないですから!残念!!
何でこんなことになってるんですか!?
今回の取材は私の輝かしい未来への華麗なる一歩だったんじゃないですか?
それがなんですか?
いきなり足元に大きな穴があいたと思ったら、中に待っていたのは大口開けた幽霊、と。
一体どこで道を間違えたんでしょう。
いや、道を間違えたところで、私の脚なら全てぶっちぎって行けた筈なのに!
どんな運命も私を捕らえることは出来な
「あややー」
なるほどー。
初めて知りましたよ。
どんな脚をもってしても。
「つっかまえたー」
逃げられないものってあるんですねー。
かぷっ♪
あ、今度は♪つきなんですね。
颯爽と地に降り立つ。
前に広がるは広大な大地。
二百由旬はあると噂される白玉楼の庭園です。
申し遅れました。
私、射命丸 文です。
幻想郷唯一のマスコミにして同時に絶大な人気を誇るアイドル!
迅速正確な報道をモットーとした文々。新聞は幻想郷の知を深めるための重要なファクターとして位置づけられ、幅広く皆様に受け入れられているのです!
………だったらいいんですけどね。
実際は、
「今更こんな情報書かれても。もう知ってることだし」
「ちょっと!本当に取材したのか!?捏造もいいとこだ!」
「墨が載ってるせいで鼻はおろか尻を拭く紙にすらなりゃしない。資源の無駄遣い」
などなど、素敵な人気っぷりでございます。
このままではマスコミとしての沽券にかかる問題です!
何とかして皆様の心をゲットし、部数の拡大をしなければならないのです。
でも、拡販は使えないのです。
なぜなら
「おまけは無いの?お酒の引換券3か月分くれるなら1ヶ月だけ読んであげるわよ」
なーんてことを言う人ばかりなんですよ?
3か月分の多大な出費をして1ヶ月だけ読んでもらうとか、どう考えても大赤字です。本当にありがとうございました。
とにかく、マスコミは記事の内容で勝負!
そんなこともありまして、このたび「特選!これを食べなきゃ人生大損!」なる特集を組むことにしたのです。
早い話がグルメ記事ですね。
「食」ってのは生物にとっての基本行動、まして知能を持った者ならよりよい食事を求めるのは自然の摂理なのです。
ならば、グルメガイドブックの需要は確実にあるはずです。
それもかなりの需要が。
需要と供給が成り立ってこその経済活動です。
皆さんはよい食事を知ることが出来る、お店の方は宣伝が出来る、私は知的好奇心と懐が満足すると、うぃんうぃんの関係が築かれる素晴らしい案なのですよ。
ところで、うぃんうぃんって何でしょうかね。
魔理沙さんが持っていた変なきのこから出てた音が確かそんな感じだったんですが。
マジックアイテムのことでしょうか。
ともあれ、「食」と言えば幽々子さんです。
幻想郷の数多の食を網羅してるであろう彼女に取材をすれば、目ぼしいところがかなり絞られるはずです。
おお、さすが私!
効率と言う観点から考えるとぱーふぇくとな論理展開ですね!
マスコミのたしなみとして、ちゃんと事前に連絡も取っていますし、準備万端!
さぁ、私の輝かしい未来のためにもGOです!
「こんにちは!文々。新聞です!以前お伝えしました件について取材にやってきました!」
「わーい!あややだー、あややー」
「ちょ!幽々子様待ってください!」
パタパタと言う軽快な足音と共に今日のゲストが現れ………え。
「か」
「か?」
「可愛いぃいいいい!!!!!」
~輝かしい未来~
取り乱して申し訳ないです。
改めて状況を。
目の前におられるのは妖夢さん。
何か疲れたような諦めたようなそんな表情です。
幼いながら二刀を繰り、主を守る忠実な従者さん。
守るだけじゃなく実質全ての世話を取り持っているようで、色々疲れてるんでしょうかねー。
そして、今日のゲストの幽々子さん。
妖夢さんの主にして食の大御所。
ありとあらゆる食に精通したグルメさん。
そのせいかどうかは知らないのですけど、BQBのメリハリの利いたボディラインが妬まし…いや、素敵なお姉さん………のはずなのですが。
「どうしてまたちっちゃくなってるんですか?前の事件解決したときに元に戻ったのでは?」
そう。
今の幽々子さんは妖夢さんの胸の辺りまでしかない子供の姿でした。
説明が必要ですか?
>はい
必要
そうですか、必要ですね。
では、私こと射命丸文が懇切丁寧にお教えしましょう!
いらないなんて声は聞こえませんから。
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先日ここ幻想郷ではちょっとしたアクシデントがあったんですよ。
いや、影響を考えるとちょっとしたなんてレベルじゃなかったですけど。
発端は八雲紫さん。
事件の影にはやっぱり紫とか何とか言われてるような言われてないような、ともかく何かと問題を起こす方なのですよ。
先日も退屈していたのかどうなのかわからないですけど、「子供と大人の境界」をいじって幽々子さんを子供に、妖夢さんを大人にしてしまったのです。
これだけなら当人達は別として、幻想郷としてはたいした事ではないのですけど、問題は同時に「正気と狂気の境界」をいじったことなんですよね。
それも結構大規模に。
おかげで、あちらこちらで阿鼻叫喚の地獄絵図。
お二人も散々な目に合われたようです。
主に妖夢さんが。
かく言う私もたまたま取材に行っていた魔理沙さんの家で変わったきのこで………いやいやいや!
アレは無かったことになってるんですねそういえば。
………慧音さんったら、「私の力で扱える範囲を超えている。全ての歴史を修正することは出来ない」ですって。
ええ、しっかり覚えてますよ、ぐすん。
アレはもうバイオハザード並の悲劇でしたよ。
………うーん、生物的災害と言う点で見るとアレはバイオハザードそのものでしたね。
ともかく、悔しかったので事件のあらましと紫さんをボロクソに書いた新聞を発行したんですよ。
彼女への復讐も兼ねて。
そうしたら、「忘れたいのにわざわざ思い出させるような記事を書くな!」ってけんもほろろにトホホな展開が待っていたわけでして。
紫さんに至っては「私の武勇伝をわざわざみんなに広めてくれるなんて、あなた案外いい人なのね」ですって。
結局全部裏目ですよ。
あの日は久々に枕を濡らした夜でした。
結局あの件でひとつ学んだことがあります。
紫さんはアレですねアレ。
構ってチャン。
なので、何が起ころうと徹底無視ってのがきっと一番堪えるはずです。
ただ、あの人なまじ力と能力が強いから、無視するなら相当な覚悟を持っておかないと、相手をせざるを得ない状況になるんですよね。
その辺を呼びかけるような記事を書いたら部数上がるんでしょうか?
っと、横に逸れましたけど、結局妖夢さんがラストワードでもって紫さんを屈服させ(すごいなぁ)事件は解決、お二人も元に戻ったはずなんですが…。
目の前の幽々子さん、どう見ても子供なんですよね。
この姿で数多の猛者たちを骨抜きにしたと聞いてますけど、なるほど納得。
------------------------------------------
「幽々子様、この姿が気に入ったのかまた紫様に頼んで変えてもらったんですよ」
「はー、なるほどー」
自身の魅力を最大限に引き出す術を知り、実行できるとは、流石です。
私もいつかそれを探し出したいですねー。
あ、でも。
「こうなっちゃうと取材は出来そうに無いですね…」
うーん、残念。
でも、ここでへこたれるほどやわな根性してません。
当初の予定とは違いますがここは思考をシフトして、子供幽々子さんの魅力についての記事を…。
部数は上がりそうですけどなんかものすごく危険な予感がします。
これは却下ですね。
またまた残念。
「あ、大丈夫だと思います。この姿になってもちゃんと記憶自体は引き継がれてるようなので。考え方が子供っぽくなりますけど」
おお!
それはナイスな設定です!
これで無駄足にならずにすみそうですよ。
そうと決まれば迅速に行動するのみ!
早速質問メモを取り出
「よーむー」
「はいはい、なんですか?」
「ねむいのー」
してちょっと待ってください!
やっとお膳立てがそろったところで、いきなりちゃぶ台返しのごとき台詞ですそれは!
「ゆ、幽々子様!文殿が待ってますよ!寝るのはその後にしてください」
お、妖夢さん素敵です!
その調子で頑張ってー。
「やだ。ねるのー」
「う、そう言われましても……」
先生!早くも雲行きが怪しいです!
まぁ、主従の関係にある上に今の幽々子さん相手じゃ分が悪いでしょうね。
別に急が無きゃならないわけでもないですし、この状態でまともな返答が返ってくるとも思えませんから、ここはひとつたっぷりと生理的欲求を満たしてもらってその後に、と 言うことにしましょう。
あ、折角だから写メ写メ。
「ちょっと!何で写真なんか撮ってるんですか!」
「いや、滅多に無いチャンスじゃないですか」
「もう………幽々子様、お布団用意してきますからちょっと待っていてくださ………なんですか?」
幽々子さん、妖夢さんのももの辺りをぽんぽん叩いてますね。
「ここがいいわ」
「ここって?」
「ひざまくらー」
花が咲いたような笑顔で殺し文句を。
この人………出来る!!
「あ、う………えーっと、幽々子様?」
「よーむのひざまくらがいいわー」
妖夢さん、照れちゃって可愛いです。
これはシャッターチャンスです!
「わ、わかりました……また撮ってる!」
「素敵な表情ですね!いいですよー」
「や、やめて下さいよ!」
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「はー、可愛いですねー、幽々子さん」
「可愛いんですけど手がかかってしょうがないですよ」
妖夢さん。
口元に笑み浮かべて頭なでながら言っても説得力0ですから!
ちょっと羨ましいとか思っちゃいますよ。
「でも、なぜ幽々子様はこの姿が好きなのだろうか。大人の姿のほうができることは多そうなのに」
「童心に帰りたいんじゃないんでしょうか?好きなように振舞えるわけですし」
「大人であっても好きなように振舞われている気がするんだけど…」
「でも程度が違うでしょう。それに妖夢さんの存在もありますからね」
「私の?私が何か?」
ここら辺は予想だけど、多分間違ってないと思います。
「妖夢さんがいる限り主従の関係は崩せず、また幽々子さんが保護者的な立場であると言うこともしばらくの間は変わらないでしょうね」
「む………それは私が幽々子様の重荷になっているということですか?」
「そう言うわけじゃないでしょうけど、その枠を取っ払った付き合い方もしたいんじゃないかと思いますよ。子供の姿なら素直に甘えることができるわけですし」
幽々子さん、生前は甘えることなんてほとんど無かったって聞いたことあります。
妖忌さんがいたとは言え、死んだ後もあまりそう言うことが無いまま大人になったんじゃないでしょうか。その頃の穴を妖夢さんに求めてるような気がします。
「そういう…ものなのだろうか………」
「大人だって誰かに甘えたい時はあるでしょう。でも、主従であり親子にも近い貴方に甘えを求めるのはなかなか難しいんじゃないでしょうか」
「だから姿を変えて一時的にその関係を崩す、と」
「レミリアさんも同じようなことやってるみたいですからねー」
まぁ、だから幽々子さんもそうなのでは、と思ったんですけどね。
「幽々子様………」
あー、それにしても絵になる光景です。
幽々子さんの寝顔も、それを見守る妖夢さんもいい感じです。
記録記録っと。
「………折角いい話をしてたと思ったのに、ふと気が付くとそれですか」
「マスコミたるもの、チャンスを逃しちゃいけないのですよ!」
「ってことは、これ記事にするの?」
「それはわかりませんけど、とりあえずMyめもりあるのーと(はぁと)にはきっちりと収録を」
「なんか、見るのが怖そうなノートね………」
そんな事無いと思いますけどねー。
幻想郷の女の子たちの色々な一面が盛りだくさんの素敵ノートなのに。
それにしても。
「そうしてると、普段と逆に妖夢さんがお母さんみたいですねー」
あ、ものすごーく微妙な顔をされてしまいました。
「せめて姉妹と表現して欲しかったです。それ以上に私たちって普段から親子に見えてたんですか?」
「えーっとですね、見た目はとりあえず置いといて。一生懸命頑張る娘を見守る母親ってイメージなんですよね。幽々子さんと妖夢さん」
これは悪い意味でもなんでもなく本当にそう思ってます。
「やはり、私は幽々子様にとって役に立たない足手まといなんだろうか…」
落ち込んじゃいました。
真面目なのはいいんですけど、真面目すぎるのも問題ですね。
「ただの主従関係ではなく、家族的なつながりもあるって素晴らしいじゃないですか。単なる主従関係なら、役立たずは首ちょんぱですよ。あ、後ですね、妖夢さんが役立たずって言うのは幽々子さんに失礼ですよ」
「でも、私は幽々子様から常々「妖夢はしょうがないわね」と言われつづけているのだけど…」
「食意地の張った幽々子さんを見て妖夢さんはどう思います?」
「それはもちろん、しょうがない方だなーと………あ」
「まぁ、そう言うのと同じなんですよ結局。心からダメだと思ってるわけじゃない。幽々子さんのそれはやっぱり母親のそれに近いものがあるんじゃないかって思いますよ」
「………」
「何より、本当にダメだって思ってるなら子供になってまで甘えようなんてするわけ無いじゃないですか。本来の自分に比べて無防備になるわけですし。信頼できない相手にそんな事するとは思えませんよ」
「………そうなのかな」
「そうですよ。というか端から見たら羨ましいくらい素敵な関係なのに、その当事者がそれに気づいてないなんてずるいですよ!」
ほんとそうですよ。
あれだけ信頼しあえる相手がいるって羨ましいです。
まぁ、自由奔放がモットーな私には、そう言う相手がいないって事は別にマイナスではないんですけどね。
「だからもっと自信持ったらいいんですよ。変に増長するのは困りますけど、妖夢さんならそう言うことはなさそうですし」
「文殿………本当にありがとう」
あー、あー。
面と向かってお礼言われるのはやっぱり恥ずかしいですね。
というか、何で私は人生相談なんかしてたんでしょう。
あんまり柄じゃないですよね。
よし、本来の私らしく。
「うん、やっぱ妖夢さんはいいお母さんになれると思いますよ。本当にお母さんになった妖夢さん見てみたいなー」
「な!だからからかうのはやめて下さいよ!」
「あ、ごめんなさい。幽々子さん相手だとお嫁さんにはなれてもお母さんは無理でしたね」
お、効果覿面です。
真っ赤な茹ダコ一丁上がりー。
今日はタコをつまみに晩酌しましょうか。
「な、ななななななにを言ってるんですか!!私と幽々子様がそそそそのようなことになるわけ無いでしょう!」
「しー!幽々子さん起きちゃいますよ?」
「はぅ………」
レミリアさんと咲夜さんとか、藍さんと橙さんとか、永琳さんと鈴仙さんとか、主従でラブラブやってる例はいくらでもあると思うんですけどねー。
まぁ、二人がどうなるかは神のみぞ知るってことで、私は私の仕事を。
「だ、だから撮らないで下さい!」
「こんな可愛い二人を撮らないなんて、神だって許しませんよ」
「幽々子さんの寝顔のアップ写真ゲットー」
「ず、ずるい!」
なーんて暴れてるように見えますけど、幽々子さんを起こさないように割と小声でやり取りしてるんですけどね。
端から見ると凄く間抜けかも。
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それにしても、寝顔可愛いなぁ。
どんな悪魔にも天使の顔を見せる時があるって言うことありますけど、それって寝顔のことらしいんですよね。
確かに、寝てるときは悪さなんかできないし、基本的に穏やかな顔してますからねー。
しかし………。
こうして見つめてるとどうしてもムラムラと衝動が湧きあがってくるのですよ。
もう我慢できません!
実行あるのみ。
ぷに
「ちょ!何してるんですか!」
「見たまんまですよ」
「な、なんて失礼なことを!」
「何を言ってるんですか!こんな柔らかそうなほっぺを前にして突っつかないなんて、そっちの方がずっと失礼ですよ!」
「だからといって寝こみを襲うような…」
「妖夢さんもやってみればいいんです。そうすればこれが如何に素敵なことか身に染みてわかるはずです」
「そ、そんな恐れ多い…」
「大丈夫大丈夫!全然怖くないですから!さぁ、れっつGO!」
恐る恐る手を伸ばす妖夢さん。
今だ!そこだ!行け!!
ぷに
「っっ!!!!!!!」
あ、震えてる。
ええ、そりゃそうでしょうとも!
この感動を味わったらもう抜け出せませんよ!
「どうです?素晴らしいでしょう?」
「こ、魂魄妖夢は修行不足でした。このような世界があったとは………不覚!」
「反省だけなら猿でも出来ます。今はただその反省を活かし新たな世界へ切り込むのみです!」
「文殿………私も頑張ってみます!」
ぷに
ぷに
ぷに
ぷに
「はぅ!!!」
「はぁ………なんて幸せなんでしょう」
何も知らない人が見たらドン引き間違い無しの光景ですが、そんなこと関係ありません。
もう、幽々子さんのほっぺったら究極のほっぺですよ。
レミリアさんも至高のほっぺを持ってるらしいですが、果たしてどっちが上なんでしょうか。
ま、どうでもいいです。
今がよければいいんですよ。
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「ところで妖夢さん、折り入ってお願いがあるのですが」
「なに?」
「私にも膝枕させてもらえません?」
これだけ幸せそうな顔されてるとちょっと試してみたくなるってのが人情でしょう。
よく幸せの重みとかそう言う言い方もしますからね。
「いくらなんでもそれはダメです!」
「別に取って食うわけじゃないんですし、少しくらいいいじゃないですか」
「幽々子様は私のものです!!………あ」
「あれー、なかなか素敵に過激な発言ですね」
「あう………」
本音ゲットー!
まぁ、それはそれ、これはこれとしてこちらも引く気はありませんけど。
「ほっぺの世界を教えてあげたじゃないですか。それくらいのお礼は貰っても罰が当たらないと思いません?」
「し、しかし…」
「幽々子さんの寝顔の写真、焼き増し欲しくないですか?」
「今すぐにこの場所を明け渡します」
瞬殺ですか!
本当はまだ2,3枚カードを用意してたんですけど。
まぁ、安くすんだってことで儲けものです。
起きないようにそっと頭を乗せる。
寝顔を眺める。
ただそれだけのことなのに、なんかこう、じわじわと湧き上がってくるものがあります。
ああ、これが幸せの重みですか。
たったこれだけのことで幸せになれるなんて、なんと言うお手軽で安上がりなんでしょう。
うん、これは記事に使えるかもしれませんね。
早速メモメモ。
「ん………」
ありゃりゃ?
幽々子さんお目覚めですか。
うーん、あまり堪能できなかったです。
残念。
「………?」
不思議そうにこちらを見る幽々子さん。
まぁ、そりゃそうでしょうね。
妖夢さんの膝で寝てたはずなのに起き上がるとそこにいるのは私。
寝起きの頭、且つ子供の思考なら状況の認識が上手く出来ないのも当然。
が、突如満面の笑顔でこちらを見つめる。
「あややだー」
その目を見た瞬間。
私の頭の中何かがはじけた…かぷっ…気がします。
同時に脊髄を駆け上がる不思議な感覚。
それは瞬く間に私の意識を包み込んでいきます。
ああ、もしかして。
これが恋?
いやいやいやいや。
私はロリコンじゃないですよ!
それに、さっき幽々子さんの目を見て感じたものはそんな素敵なものじゃなかったような。
意識を満たすこの感覚も、甘酸っぱいようなものではなく、もっと、こう、なんと言うかネガティブな属性が似合うと言うか…………って
「痛い痛い痛い痛い痛いいたーい!!!!!!!!」
「ゆ、幽々子様!噛んじゃダメです!それ食べ物じゃないです!!!」
よく見ると私の右手に幽々子さんの顔が覆い被さってますよ!!!
な、なんですかこの状況は!
「かぷっ」だなんて、思わず♪がつきそうな音に騙されましたよ!
というか痛いから離して!!!!
「す、すみません!文殿!幽々子様寝惚けてるみたいで!」
いや。
違う。
寝惚けてるわけじゃないです。
さっき目があったときの感覚………わかりました。
「よーむー」
あれは………
「今日のごはんはー」
圧倒的な捕食者を前にした………
「とりにくよー」
哀れな獲物の感覚。
どひー!!!!!!
じょ、冗談じゃありません!!!
確かにグルメの特集を組むつもりでしたが、私自身がグルメにされるなんてそんな展開は却下です大却下!!!!
第一そんなことしたら新聞発行出来ないじゃないですか!!
いや、それ以前に死んじゃいますって私!!!
「あややー、かたあしだけでいいからたべさせてー」
「だっ!だだだダメダメダメダメダメ絶対ダメです!!!!」
「えー、かたあしくらいいいでしょー?」
「幽々子様!ダメです!!それだけはダメです!!」
「よーむもあややもケチんぼー」
「あんなの不味いに決まってます!お腹壊しますよ!!!」
うぅ。
酷い言われようです。
ほっぺを通じて友情を確かめ合った仲なのに。
呪いの視線で睨んじゃいますよ!
「(何やってるんですか!早く逃げてください!)」
「!!!」
前言撤回。
何とかして時間を稼いでくれていたんですね!
やっぱり妖夢さんは素敵な人です。
今度べた褒めの記事書きますから!!
しっかりと幽々子さんを抑えてもらってる今のうちなら………天狗の俊足で持って逃げ切れる!
思考をまとめると同時に地を蹴る!!
始めの一歩でトップスピードの私に追いつけるものは、この幻想郷において存在しないのです。
ホラ御覧なさい。
見る見るうちに小さくなっていく妖夢さん。
………妖夢さんだけ?
「とっりにっくだー」
な、なななじぇぇ!!?
ほぼピッタリと言える速度………いや、むしろこちらをも上回る速度で肉薄する幽々子さん!!!
まずい。
まずいまずいまずい!
このままでは真剣に不味いですよ!!!!
「ひきしまったももにくー」
ええ、この脚は私の自慢ですから。
ですからいつでもミニスカート!
昨今は自分の長所をアッピールするのが大事とか何とからしいので、常に自己主張を忘れないようにしているのですよ。
見せない技術がなんとやら、と言うものを使えば見られなくてすむそうですし。
って、そんなこと考えてる場合じゃないですよ!!
「ひきしまったむねにくー」
ええ、ええ、どうせそうでしょうとも。
私は貴方のようにぼいんぼいんのたゆんたゆんじゃありませんよ!
最も、今の貴方は私よりもはるかに劣るまな板っぷりですけどね!
今に見てるがいいです!
いつか私も素敵に無敵な桃饅を標準装備してあげますから!
…………これを脱することが出来たらの話ですけど。
「からっとなんこつからあげで、いっぱいぐびっとやるのよー」
確かにお酒に軟骨からあげは定番ですねー。
あのコリコリ感がもう、お酒の勢いを進めちゃって………ダメですよ!
いくらなんでもそんな小さい子供がお酒はご法度です!
もうちょっと大きくなってからああああああああ混乱してます!
私混乱してますよ!!!
「しんせんな、ればーがいかすわー」
生き胆が欲しいなら、蓬莱人の方に頼めばいいじゃないですか!!
どうせ再生するんだからいくらでも食べさせてくれるでしょうし、ついでに不死になるおまけつきですよ!!!
あ、幽々子さんもう死んでるんだっけ。
こりゃ、うっかりですね。
文さんももう少ししっかりしないといけませんね!
「ふっらいっどちっきーん」
現実逃避してもそれ以上の速度で迫る現実に対処するにはどうしたらいいんでしょう。
と言うか、私は烏じゃないですし、まして鶏とは270度ほど違う位置にいるんですよ!
そもそも私は天狗であって鳥じゃないです!!!!
揚げたところでフライドチキンじゃないですから!残念!!
何でこんなことになってるんですか!?
今回の取材は私の輝かしい未来への華麗なる一歩だったんじゃないですか?
それがなんですか?
いきなり足元に大きな穴があいたと思ったら、中に待っていたのは大口開けた幽霊、と。
一体どこで道を間違えたんでしょう。
いや、道を間違えたところで、私の脚なら全てぶっちぎって行けた筈なのに!
どんな運命も私を捕らえることは出来な
「あややー」
なるほどー。
初めて知りましたよ。
どんな脚をもってしても。
「つっかまえたー」
逃げられないものってあるんですねー。
かぷっ♪
あ、今度は♪つきなんですね。