「ウドンゲ、今日はサグメが来るから、なんかいいお茶菓子でも買ってきて頂戴」
私の師匠、八意様は兎使いが荒い。私限定で。
というより今日は元玉兎らで飲み会の予定だったんだけど。
「今日はオフの予定だったのですが……」
「まあまあ、ちょっとね?パパっと、お願い!」
「ええまあいいですけどぉ」
「ついでに今日来る患者の対応や、お茶出しも頼みたいんだけど……」
ああやっぱり。パパっとでは終わらなそうな一日になりそうだな。
なによりも、私は師匠の頼みは断れないのだ。
というのも。
「えー……」
「……無理なの?」
「うぐっ」
師匠は断ろうみたいな態度を出すと、即座に殺意が見える。
断らせない交渉術の一つなのだろうか、怖い。そりゃやるわけないのもわかってる、怖いです。
でも、なにかがまかり通って兎鍋にもされたくない、承る一択である。
(……鈴瑚?悪いけど、今日はいけなくなった)
(……あー了解、まあしょうがないよねえ。またの機会に)
(ごめんね)
(気にしなさんな)
というわけで予定はキャンセル、本日もいつも通り永遠亭の看板兎をやっていこう。
小さくため息を吐いて空元気に返す。
「了解です、なんでもやったりましょう!」
「ありがとう、いつもいつも助かるわ」
心からの感謝の波長を感じる。
感謝の波長を見るのは、嫌いじゃない。気持ちが安らぐ。
「サグメが来るのはお昼過ぎ、それまでに用意してね」
「わかりました……えーと一ついいですか」
「なにかしら?」
「サグメ様が今日来られるの、知らなかったのですが」
「……言っとくの忘れちゃった」
「……」
なんなんだもう。師匠はとんでもなく兎使いが荒い。
__
私は鈴仙・優曇華院・イナバ。地上の兎兼八意様の弓矢の矢。使う弾幕は銃弾だけど。
師匠ってば、本当に兎使いが雑。ちょっと腹立つくらいに。
自由に動かせて命令も聞いてくれそうなのが私くらいしかいないのもわかるけど、恩人ゆえに断り辛いのも理解されてるし。
大体、師匠は頭はいいのに変なところが抜けている。わかっているのが当然というか、説明する気がないというか。
この前の月絡みの異変もそうだ!穢れを拒むという、怪しすぎる薬を飲んでから行きなさいって、飲むわけないでしょう。帰って報告するときにこっぴどく怒られたけども。常識で考えてほしい、私は少なくともモルモットじゃない。
常識外れといったらあのときの弾幕もそうだ、あそこまで熾烈だなんてわかっていたら……
説明不足のままで出撃させられたから黒幕の存在も現場で知ったし、割と月が悪いのも帰ってからやっとわかった。
信頼されてないとは思ってないけど、もししているならもう少し教えてくれてもいいのでは?と常々思う。
そんなことを考えているうちに、人里に……
「大丈夫か?鈴仙ちゃん」
「ひとり言、口に出てるわよイナバ」
「うおわあ、妹紅に姫様……姫様!?」
「あらあら」
「はは、お前、部下にいるだけで驚かれてるな」
「そうね、悲しいわ」
わざとらしくしょぼくれる姫様とけらけら笑ってる妹紅……いやいやなんで姫様がいんの。
「笑えないし驚くわよ、そりゃ。どうしてここにいるんですかね」
「いては駄目?」
「駄目というか……心臓止まるかと思いましたよ、突然いたもんで」
「それは悪かったわ、暇だったから着いてってみようかなーって、まあ散歩よ」
「趣味の悪い散歩だな」
妹紅が悪態を突く、シンプルな罵倒ながら同感してしまった。
「師匠には」
「もちろん黙ってよ」
あーあーあー、師匠に怒られる、私が。
「悪いやつだな、ちゃんと説明しろよ?永琳に」
「どうせバレるし、そうするつもりよ、ちゃんとごめんなさいするわ」
「過保護だよなあアイツも」
「多少は仕方ないのよ」
……もしかしたら怒られないかも?
「えっと……いつから着いてきてたんですか」
「最初からよ」
「私は途中から、コイツもいたし、なんか鈴仙ちゃんもブツブツ言ってて異様だったからな」
「えっ、そんなに?」
「ああ、オオカミ女もビビってたぞ」
げー。もしかして、ひとり言聞かれちゃった?
だとしたらめっちゃ恥ずかしいんだけど。
「……聞こえるくらい大きかった?」
「えー、あー……」
「大体聞こえt「馬鹿野郎!」
ゴッ と鈍い衝撃音が竹林に鳴り響く。
……コイツ姫様殴りやがった。そしてすかさずヘッドロック。
(……なにすんのよ)
(馬鹿、こういうのは聞こえてないって言ってやるのが定石だ)
(ふーん、わかったわ、殴る必要は?)
(ないが)
ロック仕掛けているはずの妹紅がレーザーで消し飛ばされた。そしてリザレクション。
この人たちなんなのわけわかんない。
「ま、いきなり殴った私が悪いな」
「イナバはいきなり人を殴る様な兎になっちゃ駄目よ?」
「は、はあ」
「で、ひとり言なんだけど、聞こえてなかったわ」
「ああ、全くな」
……相手が蓬莱人といえど、流石にわかる。波長が嘘だ。
「ならいいんですが……」
私は姫様と妹紅の優しさを飲み込むことにする。
優しさという名の苦すぎる薬を。
「さあ、早くお菓子を買いに行くわよ、時間がもったいないわ」
「お前が時間を語るか」
「ふふ……面白いでしょ?」
「少しはな」
私には全く伝わらない不死ジョーク、まあさっさと行ったほうがいいのは確かなので賛成します。
さて人里。もちろん微妙に変装して入ってる。今日は耳を隠すくらいでいいかな。
姫様はまともに顔を見られるとロクなことが起きないので、私が顔周りの空気をぼかして見え難くしておく。
「なーににしようかな……」
「私はアポロってチョコを食べてみたいわ」
「たけのこの里」
「そうっすね」
この人たちの言うことをまともに聞いてたら駄目みたいだ、だいたいそんなもんスキマ妖怪や狸に頼まないとありません。
なにがいいか考えていると、知り合いの兎が視界に入ってきた。
「あ、清蘭」
「あー鈴仙じゃない、飲みの約束キャンセルしてなにしてんの?」
地に堕ちた玉兎その一、清蘭。ノリで幻想郷に住み着き上手いことやってる器用な兎だ。
「あーいやちょっと、買い出しに」
「なんの?」
「サグメ様が来るから使いっぱ、でしょ?」
「よくわかったわね鈴瑚」
そしてその二、先ほどもテレパシーを使って会話した鈴瑚。打算で幻想郷に住み着きしたたかにやってるたくましい兎。
まあ丁度よく出くわしたなと思いながら疑問を投げかける。
「なんで来ることを知ってるのかしら」
「え、サグメ様地上に来るの!?」
「いやね、玉兎の間でもサグメ様が八意様の所に出かけるのは噂になっててね。まあ兎の言うことなんて半信半疑だけど、今日の貴方のドタキャンで流石に確信を持てたんだ」
「これは由々しき事態ね!」
なかなか筋の通った推理だ、パパラッチにも遭ってるし、いつかはバレるものだとは思ってたけど。
「わかってるなら話も早いわ、お茶菓子の買い物を任されててね、アンタたちの団子でもいいんだけど」
「お目が高い!……って言いたいところだけど」
「ふっかけるつもり?」
「ええ、もちろん。サグメ様が来ていることを言いふらされたくなくば……「なに言ってんのよ鈴瑚!」
「清蘭?」
「団子なんかいくらでもくれてやるわ。その代わり、私たちもサグメ様に会って話してみたいわ!」
「あ、それ面白そう、考えつかなかった」
「えええ……」
なんだかとんでもないことをふっかけられている。
ぶっちゃけ割高に団子買わされるほうが(私の精神的に)楽だけど。
いつのまにやら購入したぜんざいを食べながら、姫様も入ってきた。
「ふーん、兎たちを永琳たちにぶつけるの、面白そうねえ」
「姫様まで……」
あーあーあー
運命はどうしようもないほうに転がり止められなくなった。
姫様がそう言ったらもう無理だ、個人的にはサグメ様の能力くらいに運命の流れを決定付ける。
「ははは!こりゃ大変そうだなあ、鈴仙ちゃん」
「ま、少しは私からも説得してみようかしらね」
「同じ兎としてこの状況、少し同情できるわ」
「そうと決まれば永遠亭行くわよ!」
各々勝手なことを言っている。はあ。つかれた。
もう知らん。ええい、どうにでもなれい。帰るか……
__
永遠亭玄関前、大量の団子と無駄にでかい四つのお土産を持って、帰還。
開けるのに気乗りが全くしない玄関扉に手をかけて、気合い入れて開く。
「ただいま帰りましたあ」
「おかえりなさい、ウド……」
師匠は絶句してしまった。そりゃそうなる。
「……ウドンゲ、お使いに頼んだものはお茶菓子だけよ」
「とんだ大荷物になってしまいましたねえ」
他人事のように返す。
「まあまあ、永琳」
「輝夜……貴女も出かけてたの……」
「ふふ、勝手に出かけたからイナバは怒らないであげてね」
「ああ、はい……」
目に見えて不服そうだが、師匠は飲み込んで受け入れてくれた。
この一件については。
「……で、これはなんなの?」
「ああ、これですか」
「『これ』ってなによ」
清蘭がぼそりとツッコむ。
「これらは団子はいくらでも寄こすから、サグメ様と話してみたい玉兎らしいです」
「は?駄目よ、帰ってもらいなさい」
「えー!?言いふらしちゃうよ?サグメ様がこっそり来てるの」
「勝手にすれば?」
清蘭は交渉しようとするも、そんなもんで動くわけない師匠にはどこ吹く風のようだ。
「まあまあ、私らが会話に少しくらい交ざっても、問題ないと思いますが。下手なこと聞かないし、答えられないでしょ?サグメ様だし」
鈴瑚はうまいこと師匠を取り込もうとするように交渉している。
少し考えて師匠は答えた。
「それでも駄目よ」
「どうして?」
「密会だから」
「師匠、密は駄目ですよ。このご時世」
まあ、師匠の気持ちは簡単には動かせない。交渉は硬直状態になった。
……と思ったら最強のカードが割り込んできた。
「いいじゃない、面白そうだわ」
「か、輝夜……」
「私は見てみたいね、兎とサグメが話しているところ。どうせ今日は大した話もないでしょ?」
「はぁ……わかりました」
師匠もなんだかんだ姫様の言うことに逆らい難い。
一応教育係だったみたいだけど、過去に色々あったらしいから、あんまり口を出し辛いらしい。
……たまに私に飛び火する。
「よし、交渉成立」
「やったね鈴瑚」
なんか喜んでる、よかったよかった。
師匠はとても微妙な、渋柿を食べた様な顔をしてる。
「適当に着いてきてみたが、面白いもん見れそうだな」
「そうね、とっても愉快なもの、見れそう」
人の気持ちがわからない不死者たちが適当なことを言ってる。
師匠は頭を搔いてから腕を組み、困ったような顔を一瞬。その後ちょっとだけ笑って、私に向かって、
「ウドンゲ、今日は頑張ってもらうわよ」
もう十分頑張りました。なんて言えない。
師匠が大変そうにしてるなら弟子は助けるのみ。
「……頑張ります!」
「じゃ、今日も色々お願いね」
ああ、師匠は兎使いが荒い。
__
「それでお師匠様、その面白そうな会合は結局どんな感じだったんですかい?」
「何事もなく終わったわよ」
「えー?本当ですかぁ、混ざりたかったなあ」
「そういえばてゐ、貴方どこ行ってたの」
「いや、ただちょっと寝ちゃってたたんすよ。前日夜更かししたの、痛いなあ」
「ああ、そう」
「それで、本当に何事もなかったんですか?」
「ええ、清蘭って兎は何聞くかと思ったら好きな団子や好みの団子の弾力……団子についてしか聞いてないし。鈴瑚のほうは立場を弁えてるのか、地上生活の現状報告しかしてなかったわ」
「へえ」
「もしも禁忌に触れるような質問をしたら……とは考えたんだけどね、思い過ごしだったわ」
「ま、兎なんてそんなもんですよ」
「ウドンゲもコキ使っちゃって、悪いことしたわ」
「あー、鈴仙……」
「?」
「いや、ちょっと、鈴仙の扱いが雑なの、自覚してたんすねって……」
「ふふ、貴方にそのこと指摘されるなんてね」
「……わかってるならもうちょい、優しくしてやってもいいんじゃないすか?」
「うーん、それは難しいわね。第一にあの子、とっても優秀なのよ」
「ええ、それはそうですねえ」
「ついつい頼っちゃうのよね。」
「ふむ」
「それに……あの子も断らないのよね。私たちに負い目があるからか、恩を報いたいのか……もう遠い過去のことだし、気にしないでいいのに」
「……」
「ちょっとした親心かもね。輝夜ほどだと困るけど、少しは反発して、自由に……自立してもらいたいのよあの子には」
「ウドンゲはもう……地上の兎だもの」
「なるほどねえ」
(それはまだちょっと難しいかな、なぜならアイツは今の状態に満足してるから)
(夢の鈴仙を見ればもちろんある程度溜めているのもわかるけど、楽しんでいる、酔っている。コキ使われ、こなしている自分に……八意様との思いが噛み合うまで、時間がかかりそうねえ)
「……ま、アイツの幸運を祈るわ」
私の師匠、八意様は兎使いが荒い。私限定で。
というより今日は元玉兎らで飲み会の予定だったんだけど。
「今日はオフの予定だったのですが……」
「まあまあ、ちょっとね?パパっと、お願い!」
「ええまあいいですけどぉ」
「ついでに今日来る患者の対応や、お茶出しも頼みたいんだけど……」
ああやっぱり。パパっとでは終わらなそうな一日になりそうだな。
なによりも、私は師匠の頼みは断れないのだ。
というのも。
「えー……」
「……無理なの?」
「うぐっ」
師匠は断ろうみたいな態度を出すと、即座に殺意が見える。
断らせない交渉術の一つなのだろうか、怖い。そりゃやるわけないのもわかってる、怖いです。
でも、なにかがまかり通って兎鍋にもされたくない、承る一択である。
(……鈴瑚?悪いけど、今日はいけなくなった)
(……あー了解、まあしょうがないよねえ。またの機会に)
(ごめんね)
(気にしなさんな)
というわけで予定はキャンセル、本日もいつも通り永遠亭の看板兎をやっていこう。
小さくため息を吐いて空元気に返す。
「了解です、なんでもやったりましょう!」
「ありがとう、いつもいつも助かるわ」
心からの感謝の波長を感じる。
感謝の波長を見るのは、嫌いじゃない。気持ちが安らぐ。
「サグメが来るのはお昼過ぎ、それまでに用意してね」
「わかりました……えーと一ついいですか」
「なにかしら?」
「サグメ様が今日来られるの、知らなかったのですが」
「……言っとくの忘れちゃった」
「……」
なんなんだもう。師匠はとんでもなく兎使いが荒い。
__
私は鈴仙・優曇華院・イナバ。地上の兎兼八意様の弓矢の矢。使う弾幕は銃弾だけど。
師匠ってば、本当に兎使いが雑。ちょっと腹立つくらいに。
自由に動かせて命令も聞いてくれそうなのが私くらいしかいないのもわかるけど、恩人ゆえに断り辛いのも理解されてるし。
大体、師匠は頭はいいのに変なところが抜けている。わかっているのが当然というか、説明する気がないというか。
この前の月絡みの異変もそうだ!穢れを拒むという、怪しすぎる薬を飲んでから行きなさいって、飲むわけないでしょう。帰って報告するときにこっぴどく怒られたけども。常識で考えてほしい、私は少なくともモルモットじゃない。
常識外れといったらあのときの弾幕もそうだ、あそこまで熾烈だなんてわかっていたら……
説明不足のままで出撃させられたから黒幕の存在も現場で知ったし、割と月が悪いのも帰ってからやっとわかった。
信頼されてないとは思ってないけど、もししているならもう少し教えてくれてもいいのでは?と常々思う。
そんなことを考えているうちに、人里に……
「大丈夫か?鈴仙ちゃん」
「ひとり言、口に出てるわよイナバ」
「うおわあ、妹紅に姫様……姫様!?」
「あらあら」
「はは、お前、部下にいるだけで驚かれてるな」
「そうね、悲しいわ」
わざとらしくしょぼくれる姫様とけらけら笑ってる妹紅……いやいやなんで姫様がいんの。
「笑えないし驚くわよ、そりゃ。どうしてここにいるんですかね」
「いては駄目?」
「駄目というか……心臓止まるかと思いましたよ、突然いたもんで」
「それは悪かったわ、暇だったから着いてってみようかなーって、まあ散歩よ」
「趣味の悪い散歩だな」
妹紅が悪態を突く、シンプルな罵倒ながら同感してしまった。
「師匠には」
「もちろん黙ってよ」
あーあーあー、師匠に怒られる、私が。
「悪いやつだな、ちゃんと説明しろよ?永琳に」
「どうせバレるし、そうするつもりよ、ちゃんとごめんなさいするわ」
「過保護だよなあアイツも」
「多少は仕方ないのよ」
……もしかしたら怒られないかも?
「えっと……いつから着いてきてたんですか」
「最初からよ」
「私は途中から、コイツもいたし、なんか鈴仙ちゃんもブツブツ言ってて異様だったからな」
「えっ、そんなに?」
「ああ、オオカミ女もビビってたぞ」
げー。もしかして、ひとり言聞かれちゃった?
だとしたらめっちゃ恥ずかしいんだけど。
「……聞こえるくらい大きかった?」
「えー、あー……」
「大体聞こえt「馬鹿野郎!」
ゴッ と鈍い衝撃音が竹林に鳴り響く。
……コイツ姫様殴りやがった。そしてすかさずヘッドロック。
(……なにすんのよ)
(馬鹿、こういうのは聞こえてないって言ってやるのが定石だ)
(ふーん、わかったわ、殴る必要は?)
(ないが)
ロック仕掛けているはずの妹紅がレーザーで消し飛ばされた。そしてリザレクション。
この人たちなんなのわけわかんない。
「ま、いきなり殴った私が悪いな」
「イナバはいきなり人を殴る様な兎になっちゃ駄目よ?」
「は、はあ」
「で、ひとり言なんだけど、聞こえてなかったわ」
「ああ、全くな」
……相手が蓬莱人といえど、流石にわかる。波長が嘘だ。
「ならいいんですが……」
私は姫様と妹紅の優しさを飲み込むことにする。
優しさという名の苦すぎる薬を。
「さあ、早くお菓子を買いに行くわよ、時間がもったいないわ」
「お前が時間を語るか」
「ふふ……面白いでしょ?」
「少しはな」
私には全く伝わらない不死ジョーク、まあさっさと行ったほうがいいのは確かなので賛成します。
さて人里。もちろん微妙に変装して入ってる。今日は耳を隠すくらいでいいかな。
姫様はまともに顔を見られるとロクなことが起きないので、私が顔周りの空気をぼかして見え難くしておく。
「なーににしようかな……」
「私はアポロってチョコを食べてみたいわ」
「たけのこの里」
「そうっすね」
この人たちの言うことをまともに聞いてたら駄目みたいだ、だいたいそんなもんスキマ妖怪や狸に頼まないとありません。
なにがいいか考えていると、知り合いの兎が視界に入ってきた。
「あ、清蘭」
「あー鈴仙じゃない、飲みの約束キャンセルしてなにしてんの?」
地に堕ちた玉兎その一、清蘭。ノリで幻想郷に住み着き上手いことやってる器用な兎だ。
「あーいやちょっと、買い出しに」
「なんの?」
「サグメ様が来るから使いっぱ、でしょ?」
「よくわかったわね鈴瑚」
そしてその二、先ほどもテレパシーを使って会話した鈴瑚。打算で幻想郷に住み着きしたたかにやってるたくましい兎。
まあ丁度よく出くわしたなと思いながら疑問を投げかける。
「なんで来ることを知ってるのかしら」
「え、サグメ様地上に来るの!?」
「いやね、玉兎の間でもサグメ様が八意様の所に出かけるのは噂になっててね。まあ兎の言うことなんて半信半疑だけど、今日の貴方のドタキャンで流石に確信を持てたんだ」
「これは由々しき事態ね!」
なかなか筋の通った推理だ、パパラッチにも遭ってるし、いつかはバレるものだとは思ってたけど。
「わかってるなら話も早いわ、お茶菓子の買い物を任されててね、アンタたちの団子でもいいんだけど」
「お目が高い!……って言いたいところだけど」
「ふっかけるつもり?」
「ええ、もちろん。サグメ様が来ていることを言いふらされたくなくば……「なに言ってんのよ鈴瑚!」
「清蘭?」
「団子なんかいくらでもくれてやるわ。その代わり、私たちもサグメ様に会って話してみたいわ!」
「あ、それ面白そう、考えつかなかった」
「えええ……」
なんだかとんでもないことをふっかけられている。
ぶっちゃけ割高に団子買わされるほうが(私の精神的に)楽だけど。
いつのまにやら購入したぜんざいを食べながら、姫様も入ってきた。
「ふーん、兎たちを永琳たちにぶつけるの、面白そうねえ」
「姫様まで……」
あーあーあー
運命はどうしようもないほうに転がり止められなくなった。
姫様がそう言ったらもう無理だ、個人的にはサグメ様の能力くらいに運命の流れを決定付ける。
「ははは!こりゃ大変そうだなあ、鈴仙ちゃん」
「ま、少しは私からも説得してみようかしらね」
「同じ兎としてこの状況、少し同情できるわ」
「そうと決まれば永遠亭行くわよ!」
各々勝手なことを言っている。はあ。つかれた。
もう知らん。ええい、どうにでもなれい。帰るか……
__
永遠亭玄関前、大量の団子と無駄にでかい四つのお土産を持って、帰還。
開けるのに気乗りが全くしない玄関扉に手をかけて、気合い入れて開く。
「ただいま帰りましたあ」
「おかえりなさい、ウド……」
師匠は絶句してしまった。そりゃそうなる。
「……ウドンゲ、お使いに頼んだものはお茶菓子だけよ」
「とんだ大荷物になってしまいましたねえ」
他人事のように返す。
「まあまあ、永琳」
「輝夜……貴女も出かけてたの……」
「ふふ、勝手に出かけたからイナバは怒らないであげてね」
「ああ、はい……」
目に見えて不服そうだが、師匠は飲み込んで受け入れてくれた。
この一件については。
「……で、これはなんなの?」
「ああ、これですか」
「『これ』ってなによ」
清蘭がぼそりとツッコむ。
「これらは団子はいくらでも寄こすから、サグメ様と話してみたい玉兎らしいです」
「は?駄目よ、帰ってもらいなさい」
「えー!?言いふらしちゃうよ?サグメ様がこっそり来てるの」
「勝手にすれば?」
清蘭は交渉しようとするも、そんなもんで動くわけない師匠にはどこ吹く風のようだ。
「まあまあ、私らが会話に少しくらい交ざっても、問題ないと思いますが。下手なこと聞かないし、答えられないでしょ?サグメ様だし」
鈴瑚はうまいこと師匠を取り込もうとするように交渉している。
少し考えて師匠は答えた。
「それでも駄目よ」
「どうして?」
「密会だから」
「師匠、密は駄目ですよ。このご時世」
まあ、師匠の気持ちは簡単には動かせない。交渉は硬直状態になった。
……と思ったら最強のカードが割り込んできた。
「いいじゃない、面白そうだわ」
「か、輝夜……」
「私は見てみたいね、兎とサグメが話しているところ。どうせ今日は大した話もないでしょ?」
「はぁ……わかりました」
師匠もなんだかんだ姫様の言うことに逆らい難い。
一応教育係だったみたいだけど、過去に色々あったらしいから、あんまり口を出し辛いらしい。
……たまに私に飛び火する。
「よし、交渉成立」
「やったね鈴瑚」
なんか喜んでる、よかったよかった。
師匠はとても微妙な、渋柿を食べた様な顔をしてる。
「適当に着いてきてみたが、面白いもん見れそうだな」
「そうね、とっても愉快なもの、見れそう」
人の気持ちがわからない不死者たちが適当なことを言ってる。
師匠は頭を搔いてから腕を組み、困ったような顔を一瞬。その後ちょっとだけ笑って、私に向かって、
「ウドンゲ、今日は頑張ってもらうわよ」
もう十分頑張りました。なんて言えない。
師匠が大変そうにしてるなら弟子は助けるのみ。
「……頑張ります!」
「じゃ、今日も色々お願いね」
ああ、師匠は兎使いが荒い。
__
「それでお師匠様、その面白そうな会合は結局どんな感じだったんですかい?」
「何事もなく終わったわよ」
「えー?本当ですかぁ、混ざりたかったなあ」
「そういえばてゐ、貴方どこ行ってたの」
「いや、ただちょっと寝ちゃってたたんすよ。前日夜更かししたの、痛いなあ」
「ああ、そう」
「それで、本当に何事もなかったんですか?」
「ええ、清蘭って兎は何聞くかと思ったら好きな団子や好みの団子の弾力……団子についてしか聞いてないし。鈴瑚のほうは立場を弁えてるのか、地上生活の現状報告しかしてなかったわ」
「へえ」
「もしも禁忌に触れるような質問をしたら……とは考えたんだけどね、思い過ごしだったわ」
「ま、兎なんてそんなもんですよ」
「ウドンゲもコキ使っちゃって、悪いことしたわ」
「あー、鈴仙……」
「?」
「いや、ちょっと、鈴仙の扱いが雑なの、自覚してたんすねって……」
「ふふ、貴方にそのこと指摘されるなんてね」
「……わかってるならもうちょい、優しくしてやってもいいんじゃないすか?」
「うーん、それは難しいわね。第一にあの子、とっても優秀なのよ」
「ええ、それはそうですねえ」
「ついつい頼っちゃうのよね。」
「ふむ」
「それに……あの子も断らないのよね。私たちに負い目があるからか、恩を報いたいのか……もう遠い過去のことだし、気にしないでいいのに」
「……」
「ちょっとした親心かもね。輝夜ほどだと困るけど、少しは反発して、自由に……自立してもらいたいのよあの子には」
「ウドンゲはもう……地上の兎だもの」
「なるほどねえ」
(それはまだちょっと難しいかな、なぜならアイツは今の状態に満足してるから)
(夢の鈴仙を見ればもちろんある程度溜めているのもわかるけど、楽しんでいる、酔っている。コキ使われ、こなしている自分に……八意様との思いが噛み合うまで、時間がかかりそうねえ)
「……ま、アイツの幸運を祈るわ」
可哀そうに……強く生きて……
あおりんごの勢いで生きてる感じ好き
良いと思います
この人たちなんなのわけわかんない。←ここめっちゃ好き
わちゃわちゃしててとても面白かったです!
彼女の人望が成せる技なんだと思うよ
面白かったです