時刻は午後六時を少し回ったところだった。
いったいどういう手管を使ったのか、弱小サークルたる『秘封倶楽部』に用意された部室に、私と蓮子は居座っていた。季節柄この時間になると外は真っ暗で、街灯のかすかな灯りが窓から差し込み、暗い部室を照らしていた。本当なら空調を回したいところだが、ぜいたくは言えない。私は、羽織ったカーディガンを気持ち引き寄せる。
蓮子は私のとなりで机につっぷしていた。やることのない時の蓮子はだいたいこうで、硬いパイプイスに硬い折りたたみ机という劣悪な環境にもめげず、惰眠をむさぼっている。ある意味、まっとうな大学生の象徴と言えるだろう。私からすればそんな無防備な姿でぼけーっとしているのがそこはかとなく業腹だが、それも蓮子らしさと言える。
私はと言うと、先日骨董市で見かけた旧式のラジオに向かい合っていた。図体がでかく、取っ手が畳めて、アンテナが伸びて、CDという情報媒体がセットできるやつだ。コンセントを差さないと動かないという信じられない融通の利かなさだが、逆にこの古い部室にはちょうどよく感じられる。CDとやらもついでに売っていたので、有線のイヤホンを差し、暗闇にまぎれ、静かに音楽鑑賞としゃれこんでいるのだった。
流れているのは……、たぶん、ポップスだろう。今の私の基準からすれば懐かしのメロディというレベルだが、電子音を基調に生楽器が入るその曲はむしろ新鮮だ。それに、なんだか聴いているだけで……、「不思議」な気分になる。四拍子かと思ったら急に三拍子になったり、いや、いまこれは、八分の七拍子? すぐに元に戻るが、基本のリズムから、予期せぬ時にふらふらと揺れる。特徴のない女性ボーカルが甲高いファルセットを出したと思えば、いつの間にかヴァイオリンの音になっている。激しいグリッサンドが鳴ったと思えば、今度はベースのどぅるどぅる言う音が急に耳に残り始め、気になってボーカルに集中できない。ドラムが立てるシンバルの音がどんどん大きくなってきて、その音が妙に鋭くて自分の心臓もばくばくしてくる。女が何かを叫んでいる。ギターが、ベースが、キーボードが、ドラムが。いろんな音が混ざり合って重なり合って私はこんなに遠くにいるのにその距離を飛び越えて周りから一気に音が迫って来て、
不意に、蓮子の肩がぴくっと動き、うにゃうにゃとうめき声をあげた。私は、努めて冷静さを装いながら、イヤホンを外した。
「んぁ……、あ……、ぇ、いまなんじ……?」
「……七時」
端末を確認して、明かりに目を細めつつ、手短に答えた。すると、蓮子は器用に首だけを机から上げ、私の方を向いた。
「もうそんな時間か……。んぁー、こんなことなら、やっぱりカンテラぐらいは部室に用意しておくべきだったな」
「この前の活動で使ってたのは?」
「家に置いてきた」
そこまで言って、ようやっと体を起こし、蓮子は大きく伸びをした。そして、腕で目をこすりながらこう言った。
「ねえメリー、停電、いつ直るかな」
いったいどういう手管を使ったのか、弱小サークルたる『秘封倶楽部』に用意された部室に、私と蓮子は居座っていた。季節柄この時間になると外は真っ暗で、街灯のかすかな灯りが窓から差し込み、暗い部室を照らしていた。本当なら空調を回したいところだが、ぜいたくは言えない。私は、羽織ったカーディガンを気持ち引き寄せる。
蓮子は私のとなりで机につっぷしていた。やることのない時の蓮子はだいたいこうで、硬いパイプイスに硬い折りたたみ机という劣悪な環境にもめげず、惰眠をむさぼっている。ある意味、まっとうな大学生の象徴と言えるだろう。私からすればそんな無防備な姿でぼけーっとしているのがそこはかとなく業腹だが、それも蓮子らしさと言える。
私はと言うと、先日骨董市で見かけた旧式のラジオに向かい合っていた。図体がでかく、取っ手が畳めて、アンテナが伸びて、CDという情報媒体がセットできるやつだ。コンセントを差さないと動かないという信じられない融通の利かなさだが、逆にこの古い部室にはちょうどよく感じられる。CDとやらもついでに売っていたので、有線のイヤホンを差し、暗闇にまぎれ、静かに音楽鑑賞としゃれこんでいるのだった。
流れているのは……、たぶん、ポップスだろう。今の私の基準からすれば懐かしのメロディというレベルだが、電子音を基調に生楽器が入るその曲はむしろ新鮮だ。それに、なんだか聴いているだけで……、「不思議」な気分になる。四拍子かと思ったら急に三拍子になったり、いや、いまこれは、八分の七拍子? すぐに元に戻るが、基本のリズムから、予期せぬ時にふらふらと揺れる。特徴のない女性ボーカルが甲高いファルセットを出したと思えば、いつの間にかヴァイオリンの音になっている。激しいグリッサンドが鳴ったと思えば、今度はベースのどぅるどぅる言う音が急に耳に残り始め、気になってボーカルに集中できない。ドラムが立てるシンバルの音がどんどん大きくなってきて、その音が妙に鋭くて自分の心臓もばくばくしてくる。女が何かを叫んでいる。ギターが、ベースが、キーボードが、ドラムが。いろんな音が混ざり合って重なり合って私はこんなに遠くにいるのにその距離を飛び越えて周りから一気に音が迫って来て、
不意に、蓮子の肩がぴくっと動き、うにゃうにゃとうめき声をあげた。私は、努めて冷静さを装いながら、イヤホンを外した。
「んぁ……、あ……、ぇ、いまなんじ……?」
「……七時」
端末を確認して、明かりに目を細めつつ、手短に答えた。すると、蓮子は器用に首だけを机から上げ、私の方を向いた。
「もうそんな時間か……。んぁー、こんなことなら、やっぱりカンテラぐらいは部室に用意しておくべきだったな」
「この前の活動で使ってたのは?」
「家に置いてきた」
そこまで言って、ようやっと体を起こし、蓮子は大きく伸びをした。そして、腕で目をこすりながらこう言った。
「ねえメリー、停電、いつ直るかな」
ラジオの表現がとても良かったです。
何が怖いって、これで「ありふれた一日」とか言われちゃうところですかね
メリーの音楽に対する感覚というか感じたことの表現のしかたにもメリーらしさがあるように思えました