こんにちは。
ふふっ。そう警戒しなくてもいいわ。私も、貴方と同じニンゲンデナイモノなのだから。その出しっぱなしのみっともない足をしまって頂戴。
あら、不思議かしら? 貴方、さっきまで展望台にいたはずなのにね。それが今は辺り一面自然の緑。京都に、外にもう残っていないはずの自然。とっても素敵でしょ?
それにしても……絡新婦にとってなかなか生き辛い世になったものね。同情するわ。同性愛に無性愛、性同一性という価値観の薄れ……。現代の人々は性という概念そのものが希薄になった。結婚するのが男と女なんて考え方そのものが旧世代的となり、人は簡単な男女という括り、枠組みを超えて自分だけの最適なパートナーを見つけるようになった。分かりやすいステレオタイプな美男美女、男性、女性の理想像という概念そのものも失われつつある。
そんな今、貴方のような『美女に化けて男をかどわかし、取って喰らう』妖怪にとってはさぞ生き辛いことでしょう。誰もが振り向く美女、一目で男を虜にしてしまう美女。そんなものはもう旧世代的な概念でしかないのだから。もう消えつつあるのだから。
ええ、よく分かるわ。だって私もそうだから。
だから『パートナーに化けて成り変わる』というのは時代に合った変質と言えるでしょうね。この科学世紀においては、パートナーこそが唯一無二の存在なのだから、相手を篭絡するのにこれほどぴったりな人はいないでしょうし、美女にだって化けられるのなら誰かそっくりに化けることもきっと容易なのでしょうね。それに、最愛のパートナーに成りすまして本来得られるはずのないパートナーからの寵愛を受けられる。なんて素敵で趣味の悪い。
ええ、別に気に病むことはないわ。貴方が人を騙して喰らったとしても私は構わないわ。妖怪とはそういうものだし、貴方は妖怪として人を喰い生きるための戦略の一つを選択しただけ。……ドッペルゲンガーなどという誤った噂が流れなければ、だけど。
妖怪はただ人を喰うだけでは生きられない。存在を認識され、恐れられ、噂され、畏怖される。それで初めて、妖怪として確立出来る。今の貴方がやっていることは、自分の存在、絡新婦といいう存在をドッペルゲンガーという異なる怪異で上書きするという、ともすれば緩やかな自殺とも取れる行為。
だから貴方は焦ったのでしょう? やり方を変え、そのまま元の人格を再現するのではなく『女』の理想を演じようとした。自分が相手をかどわかす美女の怪異であることを認知させるために。
でも、貴方は失敗した。その理由はたった一つ。あの子に手を出した、ただそれだけなの。私があれを連れてこなければ、あなたはあの子を喰い殺していたでしょう? まあ、あなたがぼろを出してくれたから、こうして誘うことが出来たのだけど。……あなたにとっては引き摺り込まれたという方が近いかもしれないけどね。
あの子の体に傷を付けた事、私は許さない。本当なら、私が貴方を喰ってしまいたいところだけれど、それでもここは全てを受け入れる場所。だから歓迎するわ。
ここは、今の京都とは違う場所。前時代的な価値観だって残ってる。ルールさえ犯さなければ、男をかどわかそうが喰らおうが構わないわ。
大丈夫よ。
こちらに来れば、貴方は貴方のままでいられるから。
さあおいで、『最愛の人はドッペルゲンガー』さん。
メリーさん腹黒こわー……なかなか良かったですね。お見事でした。
あと怪異側にも救いがあってよかったです…!
幻想郷にヤマメちゃんの仲間が増えた!
まともに怪異に対峙する秘封は何気に珍しい気がして盛り上がりました
絡新婦も新天地に行けたようでよかったです
よかったのかな。