この旧地獄には幻想郷に通じる穴と、外界に通じる穴があるから、地上よりも外界の情報が入ってくる。
そしてその情報をお燐が持って帰ってきてくれる。
だから私はこの書斎の椅子に座っているだけで外の情報を知ることができる。
さて、そんな折に私は興味深いことを耳にしたのである。
お燐の話曰く、我々幻想の存在に対して順位付けをするというものらしい。
しかもその基準が人気という、殊朧々たるものだ。
しかして、その結果が今日発表されたという。
私は古今東西永世不変の嫌われ者であるからしてこの世に存在するのも忌まわれる覚妖怪の最たるものであるから故に人気という物には関心がない(当然であるが、私のことを一方的に嫌ってくる愚昧な存在からの批難も関心ない)。
よって、このお燐がもたらした人気投票なるものも、端から聞くつもりもなかったものであるから、お燐の言を右から左に聞き流していた時である。
お燐の口から私の耳に残る言葉が飛び出したのである。
それは「古明地こいしが人気投票で3位であった」ということだ。
古明地こいしとは私の妹である。
私の妹であるということは、つまり覚妖怪である。
覚妖怪といっても心の読めない覚妖怪である。
つまるところ、私の妹であるということしか特徴のないちょっと精神が強いだけの妖怪である。
そんなこいしが、3位。
3位だ。
1、2、3位だ。
1人、2人、3人目だ。
投票に参加した人間は見る目がないのではないだろうか。
こいしは何を考えているかわからないような女だ。
それもそのはずである。本人が心を閉ざしてしまって何も考えていないからこちらも分からないのである。
それにしょっちゅう地上で死体を作ってはお燐に後片付けを放り投げるような奴だ。
この前なんかは「お姉ちゃんにも赤い血が流れているのか気になって」というくだらない理由によって首を切り落とされかけたものだ。その時はお空が気付いて止めに入ってくれたから何とか半分切られるだけで済んだが、もう少しで飛頭蛮になる所だった。
そしてこいしの何が酷いって、心がないものだから悪気を感じることすらないのである。謝罪の一言もなかったのだ。どういう神経をしているんだ。親の顔が見てみたい。
それにあれは万物に対して関心がないから記憶力が甚だ悪い。何度も何度も「お姉ちゃん、明日一緒に出かけよう」と自分から誘って来ておいて次の日になるとそのことをすっかり忘れてしまっているのである。何度私が慣れない化粧をして外着を選んでお燐にもチェックしてもらって、普段そのままにしている髪の毛も整えて、こいしのお気に入りだった桜の香水を振りかけて、待ち合わせの一時間前には居間で待っているにも関わらずすっぽかされたものか。
また、最近気が付いたことであるが、あれには大凡理性というものがない。単に本能で動いている動物のようなものである。だから最近は彼女に調教を施せばよいのではないかと思い調教方法を画策している最中だ。
して、何故私がそのことに気が付いたかということであるが、あれは忘れもしない2週間前のこと。私が仕事を終えて自分への労いをしようと食堂へ向かった時である。食堂の方から何やらカチャカチャと食器のぶつかり合う音が聞こえたのだ。最初はお燐が何か料理か洗い物をしているのだろうかと考えたのだが、直後にお燐には地上への使いを頼んだばかりであることを思い出し、ではお空がお腹をすかせて何か食料を漁っているのだろうと結論づけて食堂に入ったのである。私はすっかり食堂にはお空が居るものと信じていたため、大事に残していたエッグタルトを分けてやろうと考えて口を開いた時だ。私の目に入ってきたのは私のエッグタルトの最後の一欠片を口に放り込んで満足気に微笑む妹の姿であった。
考えられるだろうか。自分が大切に取っておいたデザートをだ、仕事終わりの疲れを癒やすために食べようと思っていたデザートをだ。悪びれる様子もなく本人に対して「美味しかったよ」と笑顔で報告する奴が居るだろうことを。ちゃんと丁寧に「さとり様の」と蓋に張り紙をしてあったにも関わらずだ(ペットが私のお菓子をつまみ食いする事案が多発したための対策法。ペットには「さとり様」の方が通りがいいためそのようにした。断じて私の自己肯定感を高めるために「様」を付けているわけではない)。
まあ、それだけならまだいい。こいしは私のエッグタルトを食べるだけでなく、今度は私の体に手を出してきたのである。つまり食欲の次は性欲を満たそうとしたのだ。本能の化身だ。私の服を引き破らんとする勢いで迫ってくる妹であったが、これに関しては私の必死の抵抗により何とか上着を剥ぎ取られるのみに済んだが、それでもやはり自分の妹に迫られるというのは、いくら覚妖怪といえどショックを覚えるものであった。
ただ、気になるのは、今回は手近なところに私という相手が居たからこのような事態になったと思うが、毎回都合よく私がいるわけでもないから、それ以外の時はどうしているのか心配である。手近にいる人間に迫ったりしていないだろうか。
さて、つまるところはだ、あれは先の通り本能に忠実であるからして恐らく多くの人間が想像しているような女ではないということである。
ここまで人気投票3位である古明地こいしについて姉である私の経験から長々と見てきたが、言いたいことは多くに理解、共感されるものであろう。
そう、彼女が3位であるのはおかしいのである。何かが間違えているとしか言いようがない。
何故こんなにも可愛らしいこいしが3位なのか。どう考えても1位であることは疑いようもないはずである。
誰だ。1位と2位に投票したぼんくらは。「うろおぼえの金閣寺」くらわせるぞ。
どう考えてもこんなにお茶目で溌剌として扇情的な我が妹が3位。
絶望である。このセンスのない世の中に絶望である。
滅んでしまえばいい。
こいしが1位を取らなくて誰が1位を取るのかという話だ。誰も不思議に思わないのだろうか。
そのようなことを衝動的にお燐にぶつけたら、お燐は複雑な表情を浮かべて「いやだってこいし様だからなぁ」なんて考えていた。ほら、やっぱりこいしが1位に相応しいと言っている。
よって私はこの人気投票なるものに対して意義を申し立てる。再投票だ。
……私が8位?
……3年連続?
……。
この人気投票というものは非常に素晴らしい企画であると私は思う。
特に「古明地さとり」に投票する人間は見る目があると言えよう。
恐らく「古明地さとり」に投票する者は深い知見と教養を有して、理性的な落ち着いた人物であるに違いない。
お燐、笑うな。クビにするぞ。
そもそもお前が先にそれを言わないからこんなにぐだぐだ考える羽目になったんだぞ。
は?
「8位なんかでいいんですか?」だ?
いいよ。十分だろう。
だって8位だぞ? しかも3年連続。
こんなにたくさん居る幻想郷の中で8位だぞ?
それを3年も連続で取れるなんて、安定しているにも程があるだろう。
私の人気、超安定。
つまり固定ファンがいるってことだ。増えも減りもせず。
それは、なんと幸せなことだろう。
こいしが3位なんて順当だ。順当。むしろ私より高いのだからそれでいいだろう。
しかも聞くところによると去年より順位上がってるんだろう?
もういいじゃないか。どうして同じ姉妹で見た目だってそっくりなのに私が8位なんだ? 姉妹なんだからちょっとくらい票を分けてくれてもいいじゃないか。私だってこいしに色々なものを分けてきたんだから、人気だって分けてくれたっていいのに。
人気になんて興味がないなんて嘘に決まってるじゃないか。
私にだって感情ってものがあるんだよ。
そりゃ嫌われてても嬉しいけど好かれている方が誘導したりだましたり心を読んで弄んだりしやすいから嬉しいんだもん。
「そんなんだから嫌われるんですよ」だって? うるさい! お燐には分かんないわよ! だってそれが覚妖怪なんだもの! 仕方ないじゃない!
あー! あーーー!! しーらーなーいー! 私は聞こえないーー!
もういい! 私寝るもん! 仕事ももうやる気無いもん! 明日まで起こさないでね! 分かった? お燐!
え? 感想? 知らないわよもう。
こいしおめでとう、今度は私にも人気分けてね。はい、終わり! おやすみ!
そしてその情報をお燐が持って帰ってきてくれる。
だから私はこの書斎の椅子に座っているだけで外の情報を知ることができる。
さて、そんな折に私は興味深いことを耳にしたのである。
お燐の話曰く、我々幻想の存在に対して順位付けをするというものらしい。
しかもその基準が人気という、殊朧々たるものだ。
しかして、その結果が今日発表されたという。
私は古今東西永世不変の嫌われ者であるからしてこの世に存在するのも忌まわれる覚妖怪の最たるものであるから故に人気という物には関心がない(当然であるが、私のことを一方的に嫌ってくる愚昧な存在からの批難も関心ない)。
よって、このお燐がもたらした人気投票なるものも、端から聞くつもりもなかったものであるから、お燐の言を右から左に聞き流していた時である。
お燐の口から私の耳に残る言葉が飛び出したのである。
それは「古明地こいしが人気投票で3位であった」ということだ。
古明地こいしとは私の妹である。
私の妹であるということは、つまり覚妖怪である。
覚妖怪といっても心の読めない覚妖怪である。
つまるところ、私の妹であるということしか特徴のないちょっと精神が強いだけの妖怪である。
そんなこいしが、3位。
3位だ。
1、2、3位だ。
1人、2人、3人目だ。
投票に参加した人間は見る目がないのではないだろうか。
こいしは何を考えているかわからないような女だ。
それもそのはずである。本人が心を閉ざしてしまって何も考えていないからこちらも分からないのである。
それにしょっちゅう地上で死体を作ってはお燐に後片付けを放り投げるような奴だ。
この前なんかは「お姉ちゃんにも赤い血が流れているのか気になって」というくだらない理由によって首を切り落とされかけたものだ。その時はお空が気付いて止めに入ってくれたから何とか半分切られるだけで済んだが、もう少しで飛頭蛮になる所だった。
そしてこいしの何が酷いって、心がないものだから悪気を感じることすらないのである。謝罪の一言もなかったのだ。どういう神経をしているんだ。親の顔が見てみたい。
それにあれは万物に対して関心がないから記憶力が甚だ悪い。何度も何度も「お姉ちゃん、明日一緒に出かけよう」と自分から誘って来ておいて次の日になるとそのことをすっかり忘れてしまっているのである。何度私が慣れない化粧をして外着を選んでお燐にもチェックしてもらって、普段そのままにしている髪の毛も整えて、こいしのお気に入りだった桜の香水を振りかけて、待ち合わせの一時間前には居間で待っているにも関わらずすっぽかされたものか。
また、最近気が付いたことであるが、あれには大凡理性というものがない。単に本能で動いている動物のようなものである。だから最近は彼女に調教を施せばよいのではないかと思い調教方法を画策している最中だ。
して、何故私がそのことに気が付いたかということであるが、あれは忘れもしない2週間前のこと。私が仕事を終えて自分への労いをしようと食堂へ向かった時である。食堂の方から何やらカチャカチャと食器のぶつかり合う音が聞こえたのだ。最初はお燐が何か料理か洗い物をしているのだろうかと考えたのだが、直後にお燐には地上への使いを頼んだばかりであることを思い出し、ではお空がお腹をすかせて何か食料を漁っているのだろうと結論づけて食堂に入ったのである。私はすっかり食堂にはお空が居るものと信じていたため、大事に残していたエッグタルトを分けてやろうと考えて口を開いた時だ。私の目に入ってきたのは私のエッグタルトの最後の一欠片を口に放り込んで満足気に微笑む妹の姿であった。
考えられるだろうか。自分が大切に取っておいたデザートをだ、仕事終わりの疲れを癒やすために食べようと思っていたデザートをだ。悪びれる様子もなく本人に対して「美味しかったよ」と笑顔で報告する奴が居るだろうことを。ちゃんと丁寧に「さとり様の」と蓋に張り紙をしてあったにも関わらずだ(ペットが私のお菓子をつまみ食いする事案が多発したための対策法。ペットには「さとり様」の方が通りがいいためそのようにした。断じて私の自己肯定感を高めるために「様」を付けているわけではない)。
まあ、それだけならまだいい。こいしは私のエッグタルトを食べるだけでなく、今度は私の体に手を出してきたのである。つまり食欲の次は性欲を満たそうとしたのだ。本能の化身だ。私の服を引き破らんとする勢いで迫ってくる妹であったが、これに関しては私の必死の抵抗により何とか上着を剥ぎ取られるのみに済んだが、それでもやはり自分の妹に迫られるというのは、いくら覚妖怪といえどショックを覚えるものであった。
ただ、気になるのは、今回は手近なところに私という相手が居たからこのような事態になったと思うが、毎回都合よく私がいるわけでもないから、それ以外の時はどうしているのか心配である。手近にいる人間に迫ったりしていないだろうか。
さて、つまるところはだ、あれは先の通り本能に忠実であるからして恐らく多くの人間が想像しているような女ではないということである。
ここまで人気投票3位である古明地こいしについて姉である私の経験から長々と見てきたが、言いたいことは多くに理解、共感されるものであろう。
そう、彼女が3位であるのはおかしいのである。何かが間違えているとしか言いようがない。
何故こんなにも可愛らしいこいしが3位なのか。どう考えても1位であることは疑いようもないはずである。
誰だ。1位と2位に投票したぼんくらは。「うろおぼえの金閣寺」くらわせるぞ。
どう考えてもこんなにお茶目で溌剌として扇情的な我が妹が3位。
絶望である。このセンスのない世の中に絶望である。
滅んでしまえばいい。
こいしが1位を取らなくて誰が1位を取るのかという話だ。誰も不思議に思わないのだろうか。
そのようなことを衝動的にお燐にぶつけたら、お燐は複雑な表情を浮かべて「いやだってこいし様だからなぁ」なんて考えていた。ほら、やっぱりこいしが1位に相応しいと言っている。
よって私はこの人気投票なるものに対して意義を申し立てる。再投票だ。
……私が8位?
……3年連続?
……。
この人気投票というものは非常に素晴らしい企画であると私は思う。
特に「古明地さとり」に投票する人間は見る目があると言えよう。
恐らく「古明地さとり」に投票する者は深い知見と教養を有して、理性的な落ち着いた人物であるに違いない。
お燐、笑うな。クビにするぞ。
そもそもお前が先にそれを言わないからこんなにぐだぐだ考える羽目になったんだぞ。
は?
「8位なんかでいいんですか?」だ?
いいよ。十分だろう。
だって8位だぞ? しかも3年連続。
こんなにたくさん居る幻想郷の中で8位だぞ?
それを3年も連続で取れるなんて、安定しているにも程があるだろう。
私の人気、超安定。
つまり固定ファンがいるってことだ。増えも減りもせず。
それは、なんと幸せなことだろう。
こいしが3位なんて順当だ。順当。むしろ私より高いのだからそれでいいだろう。
しかも聞くところによると去年より順位上がってるんだろう?
もういいじゃないか。どうして同じ姉妹で見た目だってそっくりなのに私が8位なんだ? 姉妹なんだからちょっとくらい票を分けてくれてもいいじゃないか。私だってこいしに色々なものを分けてきたんだから、人気だって分けてくれたっていいのに。
人気になんて興味がないなんて嘘に決まってるじゃないか。
私にだって感情ってものがあるんだよ。
そりゃ嫌われてても嬉しいけど好かれている方が誘導したりだましたり心を読んで弄んだりしやすいから嬉しいんだもん。
「そんなんだから嫌われるんですよ」だって? うるさい! お燐には分かんないわよ! だってそれが覚妖怪なんだもの! 仕方ないじゃない!
あー! あーーー!! しーらーなーいー! 私は聞こえないーー!
もういい! 私寝るもん! 仕事ももうやる気無いもん! 明日まで起こさないでね! 分かった? お燐!
え? 感想? 知らないわよもう。
こいしおめでとう、今度は私にも人気分けてね。はい、終わり! おやすみ!
5年です。5年連続8位です。
しかしこいしちゃんも通常運転で吹きますね……
面白かったです!
お燐かわいい
寝て忘れましょう、おやすみ!
話が進むにつれてテンションが上がっていくさとりが愉快でした
自分が8位と知ってからの手のひら返しっぷりが素晴らしかったです