幽々子さまは本当にいつも突然、突拍子もないことを聞いてくる。
「妖夢、どうして桜はこんな薄い桃色をしていると思う?」
そんなこと、わかるわけがない。
だからこう返す。
「さあ……わかりませんよ、そんなこと」
「あら、妖夢ったら、そんなことも知らないの」
聞いといてその反応はないだろう。幽々子さまは大体答えを持って聞いてくるからタチが悪い。
そして私もいつもこう返す。
「じゃあ幽々子さまはわかるんですか……」
「そりゃあモチのロンよ」
「そうですかモチですか」
「餅もいいけど、今はお煎餅が食べたいわ」
はいはい持ってきますよ、と答えようとしたところで幽々子さまの着物の懐から透明な袋に包まれた煎餅が出てきた。
さらだせんべいというものらしい、紫さまに外の世界で買ってきてもらってるみたい。
……なんかズレてきてる。
「で、なんだっけ?ポテトチップスはのりしおが一番って話だっけ」
「うすしおです」
「ふぅんうすしお派なのね」
「じゃなくて……多分桜はどうして桃色なのか、ですよ」
「そうそう」
「……」
幽々子さまと会話していると話の中身がどこかへ飛び去ってしまうことがよくある。
死者と半死半生者だと話の焦点が合わないのかな、たまに霊夢や魔理沙とも話が合わなくなってくることもあるし。
私の頭が少しよくないこともあるのかも、映姫さまや紫さまみたいな頭のいい人たちのお話も、幽々子さまとの会話みたいにいつの間にかふっ飛んでることもあるなあ。
これでもせめて幽々子さまとのお話は噛み合わそうとしてるし、言ってることもなるだけ理解しようとしているのだけど。難しい。
「考えすぎよ、妖夢」
「えっ」
「顔がちょっと可愛くなかったわ。ま、そんな悩まなくてもいいわよ」
不覚、思考を見透かされてしまった、まだまだ未熟だな。
「会話中に深く考えるのは悪手、ある程度は感覚でいいのよ」
「は、はい」
思考を完全に読まれた上でアドバイスまでされちゃった、やっぱり幽々子さまには適わないなあ。
「善処します」
「ちなみにね、妖夢、桜が桃色なのは、桜がそうでありたいと願うからよ」
「え、そうなんですか」
「ええ、そうよ」
「よくわかりませんね。どういう意味ですか」
「妖夢ねえ、すぐ聞かないの、ちょっとは考えなさい」
「……はい」
なんなんだこの人。
考えるなと言ったり、考えろと言ったり。相変わらず幽々子さまとの会話は難しい。
----
「桜が薄い桃色なのは、人の血を吸ってるから……よね?幽々子」
「それは間違いよ、紫」
「?」
「肉も養分よ」
「ええそうね、なんでもいいわ、それよりも……」
「妖夢のことかしら」
「そうよ、あの子、大丈夫なの?」
「なにがかしら」
「……鋭く尖りすぎてるわ、あの子は。」
「……」
「もう少し、色々教えてやってもいいんじゃない?経験や能力に対して知識がなさすぎるように見えるのだけれど」
「妖夢を買い被りすぎよ」
「いいえ、妖夢には十分な実力があるわ、それこそあの歳でかつての妖忌に追い付きつつあるくらいには」
「ジジイねえ、それより、なんでそんな口うるさく?」
「貴方の身の回りには常に気をつけているのよ」
「ふぅん、ま、これでいいのよ妖夢には」
「それもそうね、あまり他人の教育方針に口出ししないほうがいいわ」
「ジジイにも頼まれちゃったわけだしねえ、『自由に育ててやってくれ』って」
(もしかして、その言葉を「自分の好きなように育てろ」と解釈したのかしら……?口下手爺……)
「ジジイが悪いわ、ジジイが」
「……そうみたいねえ」
しかし妖忌さん、もう少しちゃんと話しておこうよ。面白かったです。
読みやすい
幽々子なりに妖夢を育てようとしているところに幽々子の愛を感じました
でもあんまりよくわかってない妖夢もかわいらしかったです