神奈子が巨大化した。
何を言っているのかと思うだろうが、とにかく神奈子が巨大化したのだ。
念の為説明すると、神奈子とは守矢神社に立つ三本柱の一柱、風神・八坂神奈子その人である。
妖怪の山に神社ごと引っ越すという荒業を遂げた後、風祝の東風谷早苗を中心に熱心な布教活動を行ってきた。
信仰とは別に、無許可かつ強引な手段ではあったが、旧地獄を利用して幻想郷にエネルギー革命をもたらした事は守矢の偉業と言っていいだろう。
さらに河童のエンジニア達の協力を得た神奈子らは、妖怪の山と人里を結ぶ索道(ロープウェイ)まで完成させた。
博麗神社と比べると唯一の弱みであった『危険すぎて妖怪かそれを上回る強さの者しか通えない』という点を克服し、もはや守矢神社の信仰は盤石のものとなった……はずだったのだが。
『何か最近さあ、私達の影が薄くなってない?』
暢気に池の蛙と戯れていた守矢神社の秘密兵器、祟神・洩矢諏訪子がケロケロと漏らした一言が嵐を巻き起こす原因となる。
実際、八坂神奈子は焦りを感じ始めていた。
自分が目立っていたのは最初だけではないだろうか。
早苗が妖怪退治に出掛けるのは良い。守矢神社の顔として頑張ってもらいたいし。
しかし諏訪子は何だ。こっそり巨大ロボなんか作った挙げ句ちゃっかり弾幕格闘対戦の一員に混じっている。私は早苗に呼ばれて帰るだけだというのに。
そして後の心綺楼異変。宗教戦争だというのに守矢一家は背景と化す始末で、それ以降のオカルト異変も出る幕無しだ。
ついでに神奈子は知ってしまった。早苗がオプションとしても諏訪子の方がお気に入りだという事も。
『だってほら、諏訪子様のボムだとグレイズがいっぱい稼げますし、神奈子様のオプションって強いんですけど微妙に残念と言いますか……』
霊夢や魔理沙とのガールズトークがつい気になってしまったのが運の尽きだ。諏訪子に声を掛けられるまで、彼女は柱の陰にずっとしがみついていた。
一応だが、神奈子以下の不遇な神などごまんといる。彼女の悩みなど非常に贅沢な事は言うまでもない。されど山の頂に君臨する神の誇りにかけて、中途半端な目立ち方など良しとしなかったのだ。
神奈子は決心した。
目立とう。
何でもいい。炎上してもいい。悪評など後から消せばいい。どうせ時が経てば皆忘れるのだ。目立った者勝ちだ。勝てば官軍だ。
そうと決めたらどうしようか。三人仲良くちゃぶ台を囲んで考えた。凡人でも三人寄れば文殊の知恵、神が三人ならば宇宙の真理にすら辿り着ける。
『奈良の大仏宜しく、神奈子様自身が大きくなって観光名所になるというのはどうでしょうか!?』
常識に因われてはいけないと言いつつ想定内の非常識に収まってしまっている、実に早苗らしい案であった。
先ほどは炎上覚悟と言ったものの、信仰を失っては本末転倒なのでとりあえずそれが採用された。
神奈子ほどの神ともなれば巨大化する事自体は造作もない。
サイズを維持するとなれば消耗の問題も出てくるがそこにも抜かりはない。彼女には『予備電源』があったのだ。
それが、また別の騒動を生み出す羽目になるのだが。
◇
キーボードが飛び、トランペットが回り、バイオリンが独りでに弦を引く。
ポルターガイストの能力を生かした特殊な演奏方法がこのライブの特徴だ。
ある者は沸き上がり、またある者は感極まって嗚咽する。
躁と鬱。相反する二つの感情を観客から引き出す、彼女達ならではの特別なメロディー。
幽霊楽団・プリズムリバーのライブは今日も絶好調であった。
「皆様、本日は我々のライブにお越しいただきありがとうございました」
「今夜も最高でしたー! 私たち三姉妹とー、新リーダーに盛大な拍手をお願いしまーす!!」
「オファーはいつでも受け付けてるよ。次回もよろしく~!」
上から順にルナサ・メルラン・リリカ。それぞれがそれぞれらしい締めの言葉をお客に送る。
そして新リーダーのドラマー、堀川雷鼓も終わりを惜しむ観客に向けて手を振った。
「ありがとなー! 次もゴキゲンなパッションをお届けするから待っててくれよー!」
雷鼓は輝針城異変の折に打ち出の小槌の力で生まれた太鼓の付喪神だ。
メロディーに打楽器の足りなかったプリズムリバー楽団と、打楽器のリズムしかない雷鼓。両者がコラボすることはまさにウィン・ウィンの関係であった。
意気投合した彼女らはその後も四人で活動を続けている。
ただし、雷鼓と三姉妹の間で未解決の問題がまだ一つだけ残っていた。
「みんな、お疲れ様。記憶が新しい内に反省会をしましょうか」
「私は反省より今の幸せな気持ちの余韻に浸りたいわ。反省は落ち着いてからでもいいじゃない」
「私もメル姉さんに賛成~。そういうのはお酒を呑みながらゆっくりやろうよー」
舞台裏に引っ込んだ三姉妹はそれぞれにライブや今後の事を考える。
鬱の音担当の長女ルナサ、躁の音担当の次女メルラン、そして凸凹な姉二人のバランサーとなる三女リリカ。
個性豊かな姉妹が故に、三人揃った時の魅力は三に留まらない無限大だ。
「姉妹ってのはいいねえ。私も九十九のとこみたいに義理でいいから誰かと結んでおけば良かったかなあ」
雷鼓は気のおけない会話を繰り広げる三姉妹を羨ましそうに眺めていた。
彼女らとは音楽を愛する者同士としてはしっかり結びついている。だがそれはあくまで音楽という趣味上での繋がりだ。
姉妹という血縁は消そうと思って消せるものではないし、親がいない彼女は新たに増える事もない。付喪神にとって、親やきょうだいと呼べる存在がいる事は滅多にない幸運の一つなのだ。
「……お、雷鼓ったら寂しくなっちゃった? 甘えたくなったらリリカ姉さんに甘えてもいいんだよ~?」
様子に気付いたリリカがにやけた顔で雷鼓の首筋にしがみついた。確かに、生まれてからの年数で言えば圧倒的にリリカの方が上ではあるのだが。
「わっぷ! そんなのじゃないって。それに私の方がどう見てもお姉さんっぽいよ!」
「なぁんですって~?」
熱気と汗でしっとり湿った雷鼓の赤髪がぐしゃぐしゃにかき乱された。
「リリカったら、すっかり雷鼓と打ち解けたわね」
「ずっと姉さん姉さん言う立場だったからね~。きっと自分の事を姉さんって呼んでくれる存在に飢えてたんだわ」
実は、リリカも姉さんと呼ばれる時期ならあったがもう遠い昔だ。
それにこれは今回の話には何ら関わりのないことである。
──にゃーん!
唐突に響いたのは間違いなく猫の声だった。
関係者以外は舞台裏に立入禁止だが、それは猫には通用しない。四人の知らぬ間に狭い隙間からでも入り込んだのだろう。
ただし、ただの猫とは呼び難い二つの特徴をその猫は有していた。
「猫と……カラス?」
「どっちも姉さんカラーね。いえ、ちょっとリリカも混じってるわ」
鴨が葱を背負ってという言葉があるが、ルナサの服と同じ黒をベースに赤毛も混じった猫はカラスを乗せてやって来た。不吉の象徴が一度に二つだ。
「いやいや、それよりこの猫ちゃん二股だよ。もしかしてこの子、博麗神社でたまに見かけるあの猫じゃない?」
目ざといリリカはしっかりと尾っぽの方に目を向けていた。
二股の妖猫、幻想郷で名が知られているのは現在で二個体だ。プリズムリバー三姉妹と縁があるのはどちらかといえば橙の方だろう。幻想郷を管理する大妖怪、八雲紫の式の式である黒猫だ
しかしこの猫には赤毛も混じっているし、それにカラスとのコンビである。となればこの猫の名前は一つしか考えられなかった。
猫は再び、にゃーんと声を上げる。
周辺の空気がぐにゃぐにゃと歪み、靄がかかったその身体は人の形へと。
猫耳、赤毛のおさげ髪、緑がかった黒いドレス、そして二股の尻尾。
旧地獄の地霊殿に住む火車の妖怪、火焔猫燐。通称お燐がその正体であった。一方カラスの方はそのまま頭の上で眠っている。
「こんばんは! ホリズムリバーの雷鼓さんですよね!」
ところがこのお燐が的確に地雷を踏み抜いてきたのである。
『プリズムリバーウィズH!』
バラバラ三姉妹の台詞が綺麗に揃う。
「ホリズムリバー!」
雷鼓が孤軍奮闘する。
そう、四人は今でも楽団名で揉めていた。
自分達の名字プラス堀川のイニシャル派の三姉妹と、ホリカワと混ぜる派の雷鼓。意見は平行線のままであった。
「いいじゃんホリズムリバー! 堀川と虹川でこんなにピッタリな名前ってないよ」
「良くない! 逆に雷鼓は今までホリカワだったのに急にプリカワにされて許せるの!?」
「Hだとホリカワでもハクレイでもホウライサンでもオーケーじゃないか。もっと私の名前を印象に残してよ!」
リリカと雷鼓の間でバチバチと火花が起きる。太鼓だけに。
どちらかが引けばいいのだが、バンドマンとは本質的に頑固な子供でこだわりが強いのだ。
「あー……なんかごめんねぇ。あたいが悪い感じ?」
頭を掻いて苦笑いを浮かべるお燐にルナサとメルランが詰め寄る。
「貴方は悪くない。それより何をしに来たの? ここは関係者以外立ち入り禁止よ」
「ファンは大歓迎だけど、ラインは守ってもらわないとねー。他のお客さんに不公平になっちゃうわ」
わざわざ来たからにはそれなりの熱意があるに違いないが、ファンと名乗れば何でも許されるわけではない。ましてプリズムリバーといえば人間のファンも多い屈指の人気楽団である。
「それなら安心して! あたいは別にお姉さん達のファンってわけじゃないからさ!」
「え、あ……そうなの……」
露骨に落胆するルナサ。クールが売りではあるが打たれ強いわけではないらしい。
「いや、ごめんごめん! 演奏はとっても良かったよ! でも幽霊にはそんなに興味無くてさー。ほらあたいって火車だし。死体じゃないとねー」
「うーん、心は燃えても物理的に燃えるのは勘弁ね~」
ほんわかしたメルランがお燐に合わせてあげるがそういう問題でもない。
「……ファンでも、ファンじゃなくても立入禁止。さっさと飼い主の所に帰りなさい」
ルナサの手がしっしと追い払いにくるが、お燐だってわざわざ地底くんだりから飛んできたのである。ここで引き下がるわけにもいかない。
「そんな冷たい事言わないでくれよぅ。あんた達って住所不定だから探し出すの大変なんだって。私はそこの太鼓のお姉さんにどうしても頼みたい事があるんだよ。お願いできるかな?」
「私に頼み? コラボかい?」
バチを水平にクルクル回して格好付けながら聞き返す。雷鼓がそう思うのは当然だ。彼女に出来るのはリズムを奏でる事くらいである。他にも雷を起こしたり太鼓をロケットのように飛ばすくらいは出来るが、そのようなパワープレイだって旧地獄ならば雷鬼の一人や二人いるだろう。
と思っていたら、お燐が急に合掌して頭を下げたのだ。
「八坂神奈子を懲らしめてやってほしいんだ!」
そして何を言うかと思えばとんでもないバチ当たり行為ときたから場が騒然となったのである。
「……いろいろ言いたい事はあるけど、とりあえず何で私なの?」
「よくぞ聞いてくれました! これにはね、山より高く地獄より深い訳があるんだよぅ……」
一から話せとは一言も言っていないのだがお燐は正座をして勝手に喋りだした。こうなってしまっては何となく話を聞かざるを得ない雰囲気だ。
お燐の事情はこうであった。
まず、神奈子が巨大化した事は何の冗談でもなく先に述べた通りである。
神奈子は十倍ほどのサイズに巨大化し、観光名所となるべく湖のほとりに鎮座して微笑んでいた。
信徒からは神々しさが増したと中々に好評であり、他にも大きくなった神奈子様に踏まれたいだの握られたいだのといった極一部のフェチズムを持った紳士的な参拝客も増えたらしい。
しかし、身長が十倍になるという事は体積は千倍になるのである。凝り性の守矢らしく、神奈子の場合も決して見た目だけのハッタリで巨大化したのではない。だのにいつもの神奈子の千人分のエネルギーを一体どうやって賄っているのか。
その答えこそが今お燐の頭の上で気持ち良さそうにうとうとしているカラスだったのだ。
「神奈子の奴、お空からエネルギーを奪い取って巨大化してるんだよ!」
お空が頭上でカァと鳴く。
お空とは、旧地獄の地霊殿に住む地獄烏の霊烏路空の事だ。お燐と同じく古明地さとりのペットの一体である。
何を隠そう、彼女を八咫烏と融合させて『核融合を操る程度の能力』を与えた者こそが、件の守矢神社の神々なのだ。
人工太陽を生み出せるほどの膨大なエネルギーを内包するお空は神奈子にとって都合のいい貯金箱だった。
「八咫烏のエネルギーを取られちゃったお空はこんな姿に……嗚呼、なんて可哀想なお空……!」
「こんな姿に~……って、人からカラスに戻っただけじゃない。何か問題があるの?」
「大アリだよ!」
遠慮無しに突っ込むリリカにお燐のフシューっという吐息がかかる。
「さとり様の手が届かない細々とした仕事は大体がお空とあたいの担当なのさ。八咫烏パワーを失ったお空は人の姿にもなれないし、知能が、まあその……とにかくあたいの仕事が倍になるじゃないか!」
お空の命にこそ別状は無いのだが、いくら自分で与えた力とはいえそれを勝手に回収していく横暴さにお燐はご立腹だ。それに最近はさとりが片手間に始めた探偵稼業の助手として外回りが増えている。貸せる猫の手も全然足りない状況なのだ。
「……それで、もう一度聞くけど何で私?」
「あーそうだったねぇ。いや、私も最初は守矢神社に文句を言いに行ったんだけどあそこの巫女に追い払われちゃって……だから博麗神社を頼ったんだよ。でもさぁ……」
博麗神社の巫女、霊夢は無理だと言ったのだ。それも勝てる勝てないとかそういう話ではない。
『お客さんを取られたのは悔しいけど、退治する理由が無いのよねぇ……』
それが妖怪退治の専門家の答えだった。
繰り返し言うが、神奈子はただ大きくなっただけである。その後も自宅の庭で座っているだけだ。
霊夢だって命蓮寺から見越し入道を借りて巨大展示物にした事もある手前、神奈子にケチを付ければ次は守矢神社から博麗神社に営業妨害の正当性を与える事になる。
いくら商売敵でも直接被害を与えないのが宗教家同士のルールだ。寺に火を付ける道教徒などもいるが極一部の狂人がやった事と無視してほしい。
被害を受けているのはお空一人、それも与えられた分を取り返されているだけ。
はたから見れば守矢神社が元凶の異変であった馬鹿烏の責任を取っているだけなのである。
いくら妖怪神社と悪評が立っていようが霊夢は人間の味方だ。妖怪の力を取り戻す手助けなどするはずがない。
「だからさ、代わりに霊夢は助言をくれたんだよ。風神のあいつと対になる力をぶつけてやればいいって!」
ただし、神奈子を襲う動機がある者には喜んで知恵を貸す。直接がダメなら間接的に営業妨害すればいいのだ。霊夢は金の為なら巫女に、主人公にもあるまじき卑劣な手段も割と取る。
風神の対。即ちそれは──。
「私ってことか!?」
「そう! お願いだよ~。神奈子を痛い目に遭わせてやっておくれよ~」
雷太鼓の付喪神。雷神をモチーフにした見た目。スペルカードにも雷神と名付けている物がある。他に思い当たる者など居なかった。
「いやいやいや、いくら何でも無茶だって! 所詮私は付喪神でモノホンの神とは格が違うんだよ。それに今のそいつはでっかくパワーアップしてるんだろ?」
「大丈夫だって! 大きくなったって事は弾幕勝負になればただの的だよ! あんた達に断られたらもうどうすればいいんだよぅ、ねぇ~……」
お燐は猫特有のなで声で雷鼓にすがり付いてきた。振りほどこうにも爪をしっかり服に食い込ませているので剥がせない。
「ちょっと待ちなさい」
「あんた『達』ってもしかしてだけど……」
「私達も頭数に入ってるわけ?」
三姉妹の問い掛けにお燐は不思議そうな顔をする。
「……? 当たり前じゃん。バンドメンバーが戦ってるのに一緒に行かないの?」
「まず私が行く前提で話をしない!」
「……そう」
甘えた顔をするお燐の方向から微かな舌打ちの音が鳴った。中々に表情筋の器用な猫である。
「地霊殿に保管してる古い楽器」
お燐の呟きに三姉妹の眉がぴくりと動く。
お燐だってタダで相手を動かせるだなんて思っちゃいない。当然ながら交渉材料を用意していたのだ。
「地霊殿はデカいからねぇ。楽器だって結構置いてあるんだけど、さとり様も多忙で演奏する余裕なんかありゃしない。協力してくれたら好きなのを持っていっていいよ」
「どういうのが有るの?」
「どれくらい古いの?」
「本当にくれるの?」
「ちょ、ちょっとちょっとあんた達……!」
三姉妹には抜群の効き目があったようだ。
怨霊漂う地霊殿に放置された楽器。騒霊とはさぞかし相性が良いに違いない。
「グランドピアノとかオルガンとか、あの楽器達、たまにガタガタ動くんだよねえ。きっと付喪神になってるのもいくつかあるはずだよ~? 地獄が移転する前からの年代物もあるよ~?」
「う、むっ……!」
雷鼓の心もかなり揺らいでいた。
仲間を増やして彼らの理想郷を作りたいのは全付喪神の夢だからだ。地獄で怨念をたっぷり浴びた付喪神、きっと物凄い戦力となるに違いない。
あともう一押しと、お燐は最後の切り札を取り出した。
「古明地印の旧地獄温泉フリーパス。四人分あるよ」
「受けましょう」
「受けよう?」
「受けちゃいなよ~」
三姉妹は完全に陥落した。残る雷鼓に四人と一羽の圧が降り注ぐ。
むぐぐぐ、と苦悶の表情を浮かべること数秒。しかしここでやらなきゃロックの魂が廃るというものだ。
「……負けても、私は何の責任も取らないからな!」
雷鼓も覚悟をキメた。
そうと決まれば今日の宴会は予定を変更し、打ち上げも兼ねた作戦会議。そして計画は次のように定まった。
決行は明日の正午。守矢神社に正面から乗り込んで堂々とカチコミ決戦だ。
最悪、神奈子に勝てなくてもお空に八咫烏の力を返せばこちらが勝ちの勝負。勝ち目はある。秘策もある。
明日の勝利を信じて雷鼓と愉快な仲間たちは美酒に酔いしれるのであった。
景気付けのために、それはもうとことんと──。
◇
翌日、守矢神社の鳥居前。そこで参拝客がざわめいていた。
かの人気楽団プリズムリバーが演奏も無しにこのような神社に参拝に来るのは珍しい事だからだ。もっとも、彼らをざわつかせている主因はあまりにも情けない顔と立ち振る舞いによるものだ。
彼女らのコンディションは最悪。そう、二日酔いである。
どうして大事な日の前に飲み明かしてしまうのかと言われても、明日の事を気にして飲むなんてロックじゃない。我慢する音楽家に芸術的なメロディーなど到底生み出せないのだから。
「……おぅっぷ。よ、よーし! 雷鼓、プリズムリバーのみんな! 今日の戦いは絶対に勝つからね!」
『お、お~……』
『カァー……』
四人と一羽の覇気に欠けた返事がお燐に続く。
「声が小さぁーい! 気合が足りないと神には勝てな……ぁ待って、なんか毛玉吐きそぅ……」
「汚いなあ……その辺でいいからペッてしてきなよ」
お燐は雷鼓の指差す茂みにガサガサと分け入って隠れた。そこから流れるは猫の愛らしさとは全く無縁、乙女から出てはいけない渾沌、音楽家も調律しようがない不協和音。
「……お待たせ! さあ、元気出して行こうね!」
それどころではない。あまりにもあんまりな音を聞かされた四人も吐き気を誘発させられていた。
決行は正午という話であったが一時間遅れで始まる事になる。
一時間の間に何があったのかは……推して知るべし。
「やれやれ、また来たのかい。そんな烏が元に戻ったところで間欠泉地下センターは困りゃしないってのに」
参拝客をかき分け、ホリズムリバーウィズUR(一分で決まった空・燐とのコラボ名)が神奈子の下に現れた。
そうは言っても与えた力を急に取り上げられたお空が怒る事は守矢側だって承知の上だ。
守矢神社が最も困るのは何か。それは人間側である守矢が妖怪とがっつり癒着していたとバレる事だ。
お空に力を与えて始めた旧地獄の原子炉。河童に作らせた索道。天狗に人を脅させ、それを神奈子の威光で守っているという八百長。
これが明らかにされれば信仰には確実にひびが入る。そして目の前にいるのは守矢産業革命の始まりであり全てを知ってしまっている燐と空。何としても彼女らの口だけは封じなければならない。
「八坂神奈子! ここで会ったが百年目ぇ! お空に力を返してもらうよ!」
『カァ!』
お燐とお空の号令一下、ホリズムリバーは陣形を組んで自身より遥かに大きな神奈子に対陣する。
雷鼓を先頭に魚鱗の陣。右翼にルナサ、左翼にメルラン、そして後方にリリカ。雷鼓の力を存分に活かす為のフォーメーションだ。
「守矢神社の祭神よ」
「貴方に恨みはないけれど!」
「私利私欲でお仕置きだ!」
「さあ、我が雷を喰らいなさい!」
ホリズムリバーの前口上が決まった。先ほどまで吐瀉物に悩まされていたなどと誰が信じるだろうか。これぞプロ根性である。
「参拝者の皆さん! 今からここは弾幕勝負の戦場となります! 危険です! ただちに避難してくださーい!!」
早苗が声を張り上げた。とにかくお燐が余計な事を言う前に参拝客を遠ざける必要があったからだ。
ついでにこのサイズの神奈子が戦えば人的被害も確実だ。そうなれば最早取り返しが付かない。
「まあなんだね。邪魔の入らない環境で、じっくり『話し合い』をしようじゃないか!」
参拝客が逃げたのを確認すると、次は諏訪子が力を発動した。
坤を想像する程度の能力を持つ守矢神社の真の神、諏訪子の力が大地を揺らし、水柱が天を付く
戦闘態勢に入った神妖を囲うように大地が円形に盛り上がり、舞い上がる湖の水がカーテンのように、天から伸びる壁となった。
逃げる気はない。
逃がす気もない。
戦う者達だけを閉じ込めるコロシアムの完成だ。
座ったまま臨戦態勢に入る神奈子の身体からは蒸気が吹き出していた。八咫烏の核エネルギーが彼女の身体を発熱させたのだ。
スモッグの演出だなんて何と気の利く神だろうか。ホリズムリバーのボルテージも最高潮に達する。
今、決戦のライブステージが幕を開けた。
「余裕なんて見せていられる相手じゃないからね。最初からフルスロットルで行くよ!」
先手必勝、乾坤一擲。この戦いは長引けば長引くほど不利になる。神代を戦い抜いた戦神と、生まれて僅かの付喪神。総合力では天地の差、覆すには奇襲に掛ける他はない。
雷鼓は自慢のドラムセットに飛び乗り、踵を豪快に大太鼓に叩きつける。途端に赤髪が逆立つ程の強い電場が彼女を取り巻いた。言葉通りのスタートダッシュだ。
他のメンバーも遅れじとそれぞれの得意技を繰り出す。三姉妹の楽器が舞い、お燐の身体からはおどろおどろしい霊魂が溢れ出る。
プリズムリバーが奏でる音色は人の心に強く作用し、お燐が使役する怨霊は雷と相性抜群だ。二つの能力を合わせて雷鼓を強化し、破壊力に特化した雷の規模を極限まで高める。
"一撃必殺!"
それが皆で出した結論だった。
──八鼓「雷神の怒り・大怨霊アンサンブル!!」
目の前を真っ白に染め上げる強烈な閃光、そして耳をつんざく轟音!
先に諏訪子が水を巻き上げていた事も味方した。空を飛び散る水滴が雷雲の成長を強烈に進めたのだ。これは嬉しい誤算であった。
動くこと雷霆の如しとは、諏訪の地を治めた大名も用いた孫氏の一節だが、それ程に雷の動きは激しく予想し難いのだ。
弾幕ごっこには間違いなく使えない、大人げない真似をした神を懲らしめる為の、視界全てを埋め尽くす超反則技だ。
如何に百戦錬磨の神奈子とて、一度放たれてしまった雷光を躱す事など不可能──!
「……と、思ったのかい?」
最大の誤算は神の知恵を甘く見た事だった。
雷という自然現象も物理科学で説明できる以上は法則に従って動く。即ち『電気は抵抗の低い方に流れる』のだ。
雷が空をジグザグに進む理由は、絶縁体の空気中で少しでも流れやすい場所を選んで落ちてくる為である。
周囲には諏訪子の巻き上げた水がある。空気と水なら圧倒的に水に電気が通る。
さらに彼女の周囲を取り巻く御柱、これも己の弱点を把握しているからこそ避雷針も兼ねて立てていたのだ。
そして最大の要因は神奈子が『帯電』していた事だ。そもそも雷鼓を連れてきた時点で腹積もりなどお見通しである。核エネルギーを電気に変換して溜め込み、雷と反発させた。
二重、三重に対策をしていた雷を、ホリズムリバーはまんまと決戦の切り札として選んでしまったのだ。
「ふうー……流石にちょっとピリっときたねえ。それで、次は何を見せてくれるんだい?」
神奈子の服の肩がちょびっとだけ焦げていた。本当に、それだけだった。
「うっそぉ……」
「ノーダメージだなんて……」
お燐と雷鼓の表情が絶望の色に染まる。倒すのは無理だとしても、いくら何でもこれで少しは弱ると期待していたのに完全な予想外だ。
「駄目ね……」
「強すぎる~……」
「ちゃんちゃ~ん……」
トライアングルがチンと鳴る。
三姉妹の演奏もお間抜けなメロディーに変わってしまった。むしろこの状況でも演奏を止めない事を褒めるべきか。
元々お燐に請われて仕方なく戦いに来ただけのメンバーである。唯一の望みが消え失せたら後は烏合の衆でしかない。
神奈子も三姉妹はバックミュージック担当と見なして戦意を向けていなかった。
とにかく今は自分達と雷鼓が優先だ。そう判断してからのお燐は素早かった。
「に、逃げるが勝ちぃー!」
『カ、カァー!?』
体制を立て直して出直そう。お空を抱えたお燐は脱兎の如く後ろに走り出した。
周囲を閉ざされてしまっているが、妖怪その気になれば壁ぐらい何のそのだ。ネズミだって猫を噛むのだから、猫が追い詰められれば不可能は無い。
「……だなんて、させると思ったのかい!」
しかし諏訪子に回り込まれてしまった。
非常に厄介な相手だ。火と怨霊使いのお燐にとって水の祟神たる諏訪子は極めて相性が悪い。
諏訪子は不敵な笑顔で宙に浮いてはいるはスペルカードを発動させる構えには入っていない。この戦いの主役はあくまで神奈子という事なのだろうが、こちらから手出しをすればその限りではないはずだ。
前門の蛙、後門の蛇。正面突破はまず不可能だが後ろの圧も常軌を逸している。脱するには相当の奇策かゴリ押しが必要であった。
「お燐、乗れ!」
雷鼓が和太鼓の一つを指差した。お燐はその手があったとお空を懐にしまい、素早く打面に飛び乗る。
彼女の太鼓にはロケットブーストが付いているのだ。前も後ろも駄目なら上に飛べばいい。
逃がすものかと神奈子の巨大な手が迫りくるが間一髪、指の隙間をかい潜って空へと猛進する。
脱出、成功だ!
「……へっへーん、甘いですよ!」
ところが守矢神社は三人組だ。前と後ろで一人ずつ。だがあと一人、ある意味で一番恐ろしい相手が残っていた。
──大奇跡「八坂の神風」
雲が渦を巻き、烈風が巻き起こる。早苗の大技はさながら扇風機のように太鼓ロケットの乗客を吹き飛ばしたのだ。
「ふぎゃっ!」
お燐達は再び地上に散った。
最後の望みも断たれ、絶体絶命。
それ以外、この場に相応しい言葉は無かった。
「まったく、大人しく地底に籠もっていれば良かったんだよ。さあ、この状況でお前に何ができるのかね?」
技らしい技を出してこなかった神奈子がついにその膨れ上がった力を使う。
無数の御柱が空を埋め尽くし、地表から光を奪う。その全てはお燐に矛先を向けていた。
神奈子がお燐に対して要求する答えはたった一つ。素直にもう逆らわないと言えば良し、そうでなければ──。
「これで……勝ったと思うんじゃないよ?」
それがお輪の返事だった。誰がどう聞いても負け惜しみだが、この状況でも不遜な台詞を言えるのは死をも恐れぬ地獄の住民らしさか。
所詮は畜生、本気で脅して調教すれば二度と逆らう気も起きるまいと思っていたのに。
「しかたのない猫だねえ……」
神奈子が腕を天に向けた。
地霊殿と完全に敵対するのはデメリットの方が大きい。ゆえに殺めたりはしないが骨が砕けるぐらいは覚悟してもらう。
あとは、手を振り下ろすだけで決着が付くのだ。
「アンタ……一つ勘違いしてるんじゃないかい?」
ところがその一言が神奈子の手を止めた。
「へえ……何を?」
地面に叩きつけられた衝撃で起き上がれてもいないのに、まだ減らず口を叩けるものか。呆れを通り越して感心する。
しかしながら、お燐が取った手段には神奈子自身も僅かに違和感を覚えていたのである。
いくら畜生でも今の自分を相手に本気で力押しを選ぶだろうか。あの曲者揃いの旧地獄ですら恐れる地霊殿の長がバックに付いていながら、こんな正面から?
実は疑念が浮上した時には既に手遅れだったのだ。
ドクン、ドクンと心臓が早鐘を打つ。自分の精神とは無関係に。
「私の目的は最初っから、アンタの中にいる八咫烏を引っぺがす事なんだよ! それはもう目覚めてしまったのさ!」
完全にお燐の術中に嵌っていたのを自覚してしまった神奈子は最早動けなかった。
「……神奈子?」
諏訪子もその異常に気が付いたようだ。
神奈子の神気に乱れが生じている。御柱を操る手が震えている。口を真一文字に結んだ表情は、内から溢れ出る何かを抑えるのに必死のようだった。
「私の一撃は……布石でしかなかったのさ!」
リリカの手を取って立ち上がった雷鼓の言葉だ。お燐とお空も残る姉妹の手を借りて起き上がる。
そう、プリズムリバー三姉妹だ。
敵も味方も応援団として扱っていた三姉妹こそが実はこの作戦の肝だった。
騒霊の楽器は手を使わずに鳴り響く。それは最初からずっと演奏を続けていた。
露骨に影響力があっては途中で潰されてしまうだろう。だから今回奏でていたのは『心が自分に正直になるメロディー』だ。
この曲は元々戦いで闘争本能がむき出しになっている彼女らにはあまり効果が無い。だからこそ意識されなかったのだ。
「貴方の雷すら凌ぐ防御力は見事だったわ」
「でも音楽の力はそれを上回る無限大なのよ!」
「電気には抵抗できても音には抵抗できたかな~?」
雷鼓の雷は幻想郷の全土を揺らす暴威だった。人は何故雷を畏れるのか、その理由は光以上に音にある。
稲光に遅れてやってくるそれは、心を鷲掴み、身体を凍り付かせる。『神鳴』と書かれるのも納得の、まさに神の怒号。
神奈子の中に眠っていた八咫烏の意識を外に向ける。これこそが真の狙いだったのだ。
『カァ! カァー!!』
八咫烏ははっきりと認識していた。
お空が呼んでいる。ずっと一緒に過ごしていたあの子が近くに居る。
「さあ、八咫烏よ! 神奈子か、お空か! アンタはどっちに宿るんだい!?」
今、八咫烏は自分に正直になった。迷いは無い。自分の居場所はここではない!
抜けていく。神奈子の身体からエネルギーが漏れ出していく。
「八咫烏! 私ではなくその烏を選ぶというのか!?」
神奈子から灼熱のマグマを思わせる赤銅色の光が溢れ出て、それはお空の身体を取り巻いている。これこそが八咫烏のエネルギーだ。
「何故だ! いったいどうして!」
納得いかない神奈子の胸から最後、鳥の形をした赤い光がポンと飛び出した。
お空と神奈子を交互に見比べて、その光は言ったのだ。
『いやボク、お空ちゃんの方が好みのタイプなんで……』
そもそも神奈子は蛇神だ。カラスと蛇、八咫烏がどちらを選ぶかなど考えるまでも無いのであった。
「や、八咫烏ぅぅうううう…………!」
神奈子の身体が縮んでいく。巨体を維持する気力もエネルギー源も尽きてしまった。
いろいろな意味で、神奈子の敗北が決定した。
◇
「カラスに負けた……カラスに……」
神奈子は正座して地面に手を付いていた。
上手い事してやられた上に、カラスに魅力で負けたショックからはしばらく立ち直れそうにない。
「負ーけちゃったねえ。ま、楽しめたし良しとしてやるよ」
諏訪子が能天気にケロケロ笑う。かつては土地の支配を巡って争った仲の彼女は、神奈子が負けてもそれはそれで愉快らしい。
戦いが終わってライブステージも用済みだ。諏訪子が築いた円形の土壁と水のカーテンは、彼女の合掌を合図に元あった場所へと還っていった。
「神奈子様に人の心が残っていたのが敗因だったのね……やっぱり巨大神奈子様ロボの完成を急ぐべきかしら……!?」
早苗は早苗でこの有様だ。同じ三人組でも姉妹と違って見ている先がバラバラなのも敗因である。
「ありがとうお燐~! 力がみなぎってくるよ~!」
人の形に戻ったお空は猫まっしぐらにお燐に抱きついた。
「はいはい、あたいはほとんど何もやってないよ。お礼ならこっちのお姉さん達に言っておくれ」
「それを言うなら私達だっていつものように演奏をしていただけで大した事ないよ。引く手数多の人気バンドを守矢神社に誘致したお燐が頑張ったのさ。ホリズムリバーウィズURの初ライブは大成功ってところだね」
差し出された雷鼓の右掌に、お燐が軽快なハイタッチ音で応えた。
「大した事、あったわよね」
「私も巻き添え受けたわ。まだちょっとビリビリとするもの!」
「これはお礼も弾んでもらわないと割に合わないな~?」
雷鼓は粋に済ませるつもりでも、経験豊富なプリズムリバーはとてもちゃっかりしていた。
ファンは大事にしても極度に甘い顔をしないのが上手い付き合いのコツである。安請け合いしてくれるのが当たり前だと思われると人気者としては困るのだ。
「わーかってるって! 地霊殿の料理番が腕をふるったご馳走もサービスしてあげるからさ~。幽霊向けの料理もちゃんと有るから安心してよね」
つまりはまた宴会だ。戦う前にも宴会、後にも宴会。しかしそれが幻想郷らしさでもある。三姉妹も拳を握ったのを見るにそれで満足らしかった。
「さ~て、後はこい……この人か」
お燐の視線の先にはまだうなだれている神奈子がいた。流石に『こいつ』呼ばわりは野生の本能で避けたようだ。
「……私はいつもこうだ。大戦には勝てても諏訪子への信仰心を上回る事はできず……時代の流れに負けて幻想郷に来ても博麗神社の二番手に甘んじ……今また選ばれなくて……私は……私はぁ……」
「おいたわしや、神奈子様……」
「あーうー、こうなった神奈子はめんどくさいんだよねえ」
賢者の土下座のポーズで愚痴る神奈子。その後ろで二人が憐れみの目を向けている。
完全に神奈子の変なスイッチが入ってしまっていた。守矢一家の大黒柱としての重責に耐えきれなくなったのか、あるいはルナサの鬱メロディーが効いたのか、はたまた核エネルギーを使いすぎて脳に異常が出たのかもしれない。
この中で一番無縁かつ神奈子の逆鱗に触れないであろう人物、雷鼓が腰を下ろして視線を彼女に合わせる。
「ねえ神様。私さ、プリズムリバーと一緒にバンドやってたら、あの子らがどうして人気なのか分かったんだよ」
神奈子は何も言わず、恨めしげに顔を上げた。とりあえず話は聞いてくれるようだ。
「あの子達はちゃんとファンの一人ひとりを見てるのさ。確かにこっちから見たら大勢のファンだけど、ファン個人から見たら私達は唯一無二の存在なんだ。だから自分達を好きだと言ってくれる人にはこちらも一対一で答える。ファンが増えすぎて追いきれない事もあるけど、それでもね。ほら、あっちを見てみなよ」
雷鼓が促した視線の先には心配そうに神奈子を見つめる参拝客の姿があった。中が見えなかったとはいえ雷が落ちた後に元の大きさに戻ってうずくまっているのだ。相当に痛めつけられたと思われて当然である。
「あの信者達はこんな情けない格好の神様でもちゃんと心配してくれてるじゃないか。大丈夫だよ、あんたの活動は決して間違ってない。だからまずはあの人達の心を今以上にガッチリ掴んでみたらどうだい。ファンっていうのはファンからも広がっていくってあの子らも言ってたよ。友人が好きなものは何となく自分も好きになるだろ?」
三姉妹も恥ずかしそうに微笑んだ。確かに言ったが酒の席での事だ。身内から言われると流石にむず痒かった。
「……付喪神、いや、雷鼓だったね。お前……私を誰だと思っているんだい」
今までの事など無かったかのように神奈子は立ち上がる。
「言われなくても信徒を大事にするのは当然だ。私の存在は彼らによって支えられているのだからね。ファンが居なくても存在自体が揺らいだりしないお前達よりも、よっぽど」
巨大化の反動で疲労は溜まっているはずだが、毅然とした姿で信者の下へと歩み寄っていく。いつもは遠くからしか見られなかった八坂の神様を、こんな手を伸ばせば触れられる程の間近で拝めるのは信者達にとって初めてだったのだ。神奈子は歓声をもって出迎えられた。
「くっくっく。神奈子の奴、あんな事言っちゃってるけど実は効果覿面みたいだよ。感謝するよ、太鼓の付喪神」
神と人の間には明確な差がある。それ故に神奈子は常に一線を引いた付き合い方をしていたのだが、時代の流れで失った信仰を求めて幻想郷にやってきた以上は崇められ方も時代に合わせるべきだったのだ。なにより幻想郷に居る神様の姿は普通の人間でもその目で見られるのだから。
そんな神奈子の様子を楽しそうに眺めつつ、諏訪子はどっかりと地面に座り込んで地平線に目を馳せた。
「しかし何だねえ。この間メル友のマー君から聞いたんだけど、外じゃ疫病が流行ってるせいで"あの"アマビエちゃんが凄い持て囃されてるらしいじゃない。出雲の定例会でも最後尾の常連だったアマビエちゃんが。やっぱり今の時代は畏れより需要に沿った御利益が求められてんだねえ……」
「ところで、今更で申し訳ないのだが地霊殿のペット達……何という名前だったかな」
旧地獄に手を出したのはいつの話だったろうか、本当に今更だ。だが神奈子の問いに対し、空と燐は顔を見合わせて頷いた。
「霊烏路空! お空って呼んでいいよ」
「火炎猫燐さ。 同じくお燐でいいよ」
友好の第一歩は名前を知るところから始まる。神奈子の姿勢を見直し、二人は受け入れる方を選択した。
「お空にお燐よ。地の底からここまで来ておいて手土産の一つも無しでは割りに合わないだろう。我らに勝った褒美でも一つ進呈すると言ったら、お前達は何を望む?」
口には出せないがお詫び、友好の証、ボスに勝った報酬、そしてあまり自分を情けなく言いふらさないでねという口止め。そのような物である。
「へえ、気前がいいじゃないかい。どうしようかねえ、今まで好き勝手やってくれた迷惑料も込みで……」
「温泉街に来てもらう!」
思案するお燐にお空の声が割り込んだ。予想外過ぎたか神奈子も目を丸くする。
「温泉……?」
「ちょっとお空、勝手に……」
「旧地獄には良い所がいっぱいあるのに、いっつもセンターの様子だけ見て帰っちゃうんだもの! 一回観光においでよ、みんなも喜ぶから!」
これが今回唯一の被害者の意見なのだから恐れ入る。お燐が欲しかったのは死体だが、くれと言われて素直に出す者などごく一部しかいない。ならばお空の意見を尊重すべきかと苦笑しつつ、しばし考えた。
「……ま、お空らしいよ。じゃあこういうのはどうだい? 守矢神社と行く、地獄温泉団体ツアー! ってのは」
「行くって……誰とだい?」
「そんなのあんたの信者達とに決まってるじゃん。たまにはそういうファンサービスでもしたってバチは当たらないと思うよ?」
「私を何だと思っている。そういうのはアイドルとかがやるものでだな……」
(どこで得た知識なんですかね、それって……)
(一時期は切羽詰まってアイドルデビューとか考えてた事があったんだよ。その時の研究じゃないかねえ……)
早苗と諏訪子のひそひそ話は聞こえないフリをした。触れては自爆するだけだ。
「え~、畜生界じゃあ埴輪のアイドルで信仰を稼いでる神がいるって噂だよ?」
「馬鹿な、そのような神がいるはずが……」
あった。心当たりが。神奈子の家系を上に辿っていくと、最初の人物から産まれ出た神の中にそれが。
「……あの方か」
どうやら降臨した環境にしっかりと適応しているらしい。そうなると神奈子も強くは言い返せなかった。
「まぁまぁ、良いんじゃないかい。深く考えなくてもみんなと温泉に行くだけさ」
「はーい! 私も行きたいでーす!」
身内から賛成が二票入ってしまったら多数決で神奈子の負けだ。
「むう……お前達がそういうのならば、前向きに検討させていただく……」
ツアー計画はともかく、遅かれ早かれ温泉に浸かる三人の姿が見られる事だろう。
「そうそう、旧地獄は妖怪の中でもはみ出し者ばっかりだからねえ。安全の確保にはそれなりの……コレが必要になるんだけど、もちろんその辺りも弾んでいただけますよねぇ?」
お燐が指で輪っかを作る。安全の為にコストを要求している訳だが、八坂・洩矢の二大神に囲まれ、地霊殿のペットが引率する集団など旧地獄でも襲う妖怪はおらず、つまりは全くの無駄金だ。そこは今回迷惑をかけた分を上乗せしろという事である。
「……ふふ。神を相手に吹っ掛けるか。たかが畜生と侮った時点で私の負けは決まっていたのかもしれないね」
「驕った強者が知恵と勇気を持った弱者に負ける、ですか。私達、まさに王道の展開で負けてしまったのですね……」
「私は楽しめれば何でも良いさ。面白い見世物だったよ」
ついでに言えば毎回ヒーローにやられる悪役というのは三人組が多いものだ。守矢神社はきっと今後も懲りもせずに騒動を起こすに違いない。
「それで、そっちはホリズムリバーだったね?」
『違います』
三姉妹の声が綺麗にシンクロした。ホリズムリバーウィズURは妥協したが、ここだけはどうあっても譲りたくないらしい。
「ええと、それはともかくだね。せっかくここまで来たのだ。嵐が過ぎて空は晴れ渡り、人だってこんなに居る。もう帰るなんて勿体ないと思わないか?」
「……なーるほど。私に異存はないけど三人はどうなの?」
ちゃっかりしているのは神奈子もだった。あの人気楽団がわざわざ神社に来ているのだ。客寄せに使わない手はなかった。
「ゲリラライブなんて久しぶり」
「まだまだ元気は余ってる!」
「勝利の余韻をお裾分け~」
三姉妹もやる気のようだ。そうと決まれば守矢神社の行動は素早い。
「よし、早苗は人里まで降りてライブの開催を知らせてくるように」
「はい、神奈子様!」
風祝が風を纏い、妖怪天狗も何のそのと人外魔境の山を飛び越えていく。早苗はこの手のノリを最も得意とする人物だ。きっと想像の斜め上の結果をもたらしてくれるだろう。
「んで、私は?」
諏訪子が蛙座りの気ままな姿勢で尋ねる。
「決まっているだろう。最前列で私と一緒に演奏を聴くんだよ」
「ほいほい、付き合ってあげるさ」
密集する観客に紛れるなどこれまでの神奈子だったら絶対に言わなかった事だ。仕方なしな言い方とは裏腹に、諏訪子の顔は輝いていた。
◇
演奏が盛り上がる中、雷鼓が演奏を止めていきなり大声を出す。
「さーて! それではここで趣向を変えまして、今回この場所を提供していただきました、八坂神奈子様をゲストに迎えたいと思います!」
「……え、私は聞いてないよ?」
しかし予定にない事をするのがライブ感というものだ。諏訪子に背中を押された神奈子が雷鼓の隣に登ると、守矢信者でもある観客からは大歓声が上がる。
「神奈子様、一曲歌っていってはいかがでしょうか!?」
「え? わ、私がかい!?」
薄々そのような予感はしていたが本当に言われると流石に面食らう。
「好きな曲を言ってください! 外の曲のレコードもこまめにチェックしてますから、だいたい対応できるので!」
「す、諏訪子、私はどうすれば……」
慌てふためく神奈子がよっぽど面白かったのか、諏訪子が目に涙を浮かべて笑っている。
「いいじゃん、歌っちゃいなよー。そもそも目立ちたくて始めた巨大化なんだしさあ、歌うぐらい今更恥ずかしがることないだろ~?」
「私、神奈子様の歌を聞くのなんて始めてです!」
「はーい、あたいも聞いてみたいでーす!」
「私もー!」
みんなが諏訪子に同調する。観客達も熱い眼差しを神奈子に向けている。ここで断って逃げるだなんて神の威信に関わる状況だった。
「~~~ッ……! い、一曲だけだぞ!? 曲は……」
ホリズムリバーの演奏に神奈子の声が乗り、観客の熱気は最高潮に達する。演奏を楽しむ満面の笑顔は、彼女達が先ほどまで力を巡って争っていたとは誰も信じさせないものであった。
なお、肝心の神奈子の歌声であるが、『とても一生懸命で可愛かった』とは一人の信者の談だそうな。
何を言っているのかと思うだろうが、とにかく神奈子が巨大化したのだ。
念の為説明すると、神奈子とは守矢神社に立つ三本柱の一柱、風神・八坂神奈子その人である。
妖怪の山に神社ごと引っ越すという荒業を遂げた後、風祝の東風谷早苗を中心に熱心な布教活動を行ってきた。
信仰とは別に、無許可かつ強引な手段ではあったが、旧地獄を利用して幻想郷にエネルギー革命をもたらした事は守矢の偉業と言っていいだろう。
さらに河童のエンジニア達の協力を得た神奈子らは、妖怪の山と人里を結ぶ索道(ロープウェイ)まで完成させた。
博麗神社と比べると唯一の弱みであった『危険すぎて妖怪かそれを上回る強さの者しか通えない』という点を克服し、もはや守矢神社の信仰は盤石のものとなった……はずだったのだが。
『何か最近さあ、私達の影が薄くなってない?』
暢気に池の蛙と戯れていた守矢神社の秘密兵器、祟神・洩矢諏訪子がケロケロと漏らした一言が嵐を巻き起こす原因となる。
実際、八坂神奈子は焦りを感じ始めていた。
自分が目立っていたのは最初だけではないだろうか。
早苗が妖怪退治に出掛けるのは良い。守矢神社の顔として頑張ってもらいたいし。
しかし諏訪子は何だ。こっそり巨大ロボなんか作った挙げ句ちゃっかり弾幕格闘対戦の一員に混じっている。私は早苗に呼ばれて帰るだけだというのに。
そして後の心綺楼異変。宗教戦争だというのに守矢一家は背景と化す始末で、それ以降のオカルト異変も出る幕無しだ。
ついでに神奈子は知ってしまった。早苗がオプションとしても諏訪子の方がお気に入りだという事も。
『だってほら、諏訪子様のボムだとグレイズがいっぱい稼げますし、神奈子様のオプションって強いんですけど微妙に残念と言いますか……』
霊夢や魔理沙とのガールズトークがつい気になってしまったのが運の尽きだ。諏訪子に声を掛けられるまで、彼女は柱の陰にずっとしがみついていた。
一応だが、神奈子以下の不遇な神などごまんといる。彼女の悩みなど非常に贅沢な事は言うまでもない。されど山の頂に君臨する神の誇りにかけて、中途半端な目立ち方など良しとしなかったのだ。
神奈子は決心した。
目立とう。
何でもいい。炎上してもいい。悪評など後から消せばいい。どうせ時が経てば皆忘れるのだ。目立った者勝ちだ。勝てば官軍だ。
そうと決めたらどうしようか。三人仲良くちゃぶ台を囲んで考えた。凡人でも三人寄れば文殊の知恵、神が三人ならば宇宙の真理にすら辿り着ける。
『奈良の大仏宜しく、神奈子様自身が大きくなって観光名所になるというのはどうでしょうか!?』
常識に因われてはいけないと言いつつ想定内の非常識に収まってしまっている、実に早苗らしい案であった。
先ほどは炎上覚悟と言ったものの、信仰を失っては本末転倒なのでとりあえずそれが採用された。
神奈子ほどの神ともなれば巨大化する事自体は造作もない。
サイズを維持するとなれば消耗の問題も出てくるがそこにも抜かりはない。彼女には『予備電源』があったのだ。
それが、また別の騒動を生み出す羽目になるのだが。
◇
キーボードが飛び、トランペットが回り、バイオリンが独りでに弦を引く。
ポルターガイストの能力を生かした特殊な演奏方法がこのライブの特徴だ。
ある者は沸き上がり、またある者は感極まって嗚咽する。
躁と鬱。相反する二つの感情を観客から引き出す、彼女達ならではの特別なメロディー。
幽霊楽団・プリズムリバーのライブは今日も絶好調であった。
「皆様、本日は我々のライブにお越しいただきありがとうございました」
「今夜も最高でしたー! 私たち三姉妹とー、新リーダーに盛大な拍手をお願いしまーす!!」
「オファーはいつでも受け付けてるよ。次回もよろしく~!」
上から順にルナサ・メルラン・リリカ。それぞれがそれぞれらしい締めの言葉をお客に送る。
そして新リーダーのドラマー、堀川雷鼓も終わりを惜しむ観客に向けて手を振った。
「ありがとなー! 次もゴキゲンなパッションをお届けするから待っててくれよー!」
雷鼓は輝針城異変の折に打ち出の小槌の力で生まれた太鼓の付喪神だ。
メロディーに打楽器の足りなかったプリズムリバー楽団と、打楽器のリズムしかない雷鼓。両者がコラボすることはまさにウィン・ウィンの関係であった。
意気投合した彼女らはその後も四人で活動を続けている。
ただし、雷鼓と三姉妹の間で未解決の問題がまだ一つだけ残っていた。
「みんな、お疲れ様。記憶が新しい内に反省会をしましょうか」
「私は反省より今の幸せな気持ちの余韻に浸りたいわ。反省は落ち着いてからでもいいじゃない」
「私もメル姉さんに賛成~。そういうのはお酒を呑みながらゆっくりやろうよー」
舞台裏に引っ込んだ三姉妹はそれぞれにライブや今後の事を考える。
鬱の音担当の長女ルナサ、躁の音担当の次女メルラン、そして凸凹な姉二人のバランサーとなる三女リリカ。
個性豊かな姉妹が故に、三人揃った時の魅力は三に留まらない無限大だ。
「姉妹ってのはいいねえ。私も九十九のとこみたいに義理でいいから誰かと結んでおけば良かったかなあ」
雷鼓は気のおけない会話を繰り広げる三姉妹を羨ましそうに眺めていた。
彼女らとは音楽を愛する者同士としてはしっかり結びついている。だがそれはあくまで音楽という趣味上での繋がりだ。
姉妹という血縁は消そうと思って消せるものではないし、親がいない彼女は新たに増える事もない。付喪神にとって、親やきょうだいと呼べる存在がいる事は滅多にない幸運の一つなのだ。
「……お、雷鼓ったら寂しくなっちゃった? 甘えたくなったらリリカ姉さんに甘えてもいいんだよ~?」
様子に気付いたリリカがにやけた顔で雷鼓の首筋にしがみついた。確かに、生まれてからの年数で言えば圧倒的にリリカの方が上ではあるのだが。
「わっぷ! そんなのじゃないって。それに私の方がどう見てもお姉さんっぽいよ!」
「なぁんですって~?」
熱気と汗でしっとり湿った雷鼓の赤髪がぐしゃぐしゃにかき乱された。
「リリカったら、すっかり雷鼓と打ち解けたわね」
「ずっと姉さん姉さん言う立場だったからね~。きっと自分の事を姉さんって呼んでくれる存在に飢えてたんだわ」
実は、リリカも姉さんと呼ばれる時期ならあったがもう遠い昔だ。
それにこれは今回の話には何ら関わりのないことである。
──にゃーん!
唐突に響いたのは間違いなく猫の声だった。
関係者以外は舞台裏に立入禁止だが、それは猫には通用しない。四人の知らぬ間に狭い隙間からでも入り込んだのだろう。
ただし、ただの猫とは呼び難い二つの特徴をその猫は有していた。
「猫と……カラス?」
「どっちも姉さんカラーね。いえ、ちょっとリリカも混じってるわ」
鴨が葱を背負ってという言葉があるが、ルナサの服と同じ黒をベースに赤毛も混じった猫はカラスを乗せてやって来た。不吉の象徴が一度に二つだ。
「いやいや、それよりこの猫ちゃん二股だよ。もしかしてこの子、博麗神社でたまに見かけるあの猫じゃない?」
目ざといリリカはしっかりと尾っぽの方に目を向けていた。
二股の妖猫、幻想郷で名が知られているのは現在で二個体だ。プリズムリバー三姉妹と縁があるのはどちらかといえば橙の方だろう。幻想郷を管理する大妖怪、八雲紫の式の式である黒猫だ
しかしこの猫には赤毛も混じっているし、それにカラスとのコンビである。となればこの猫の名前は一つしか考えられなかった。
猫は再び、にゃーんと声を上げる。
周辺の空気がぐにゃぐにゃと歪み、靄がかかったその身体は人の形へと。
猫耳、赤毛のおさげ髪、緑がかった黒いドレス、そして二股の尻尾。
旧地獄の地霊殿に住む火車の妖怪、火焔猫燐。通称お燐がその正体であった。一方カラスの方はそのまま頭の上で眠っている。
「こんばんは! ホリズムリバーの雷鼓さんですよね!」
ところがこのお燐が的確に地雷を踏み抜いてきたのである。
『プリズムリバーウィズH!』
バラバラ三姉妹の台詞が綺麗に揃う。
「ホリズムリバー!」
雷鼓が孤軍奮闘する。
そう、四人は今でも楽団名で揉めていた。
自分達の名字プラス堀川のイニシャル派の三姉妹と、ホリカワと混ぜる派の雷鼓。意見は平行線のままであった。
「いいじゃんホリズムリバー! 堀川と虹川でこんなにピッタリな名前ってないよ」
「良くない! 逆に雷鼓は今までホリカワだったのに急にプリカワにされて許せるの!?」
「Hだとホリカワでもハクレイでもホウライサンでもオーケーじゃないか。もっと私の名前を印象に残してよ!」
リリカと雷鼓の間でバチバチと火花が起きる。太鼓だけに。
どちらかが引けばいいのだが、バンドマンとは本質的に頑固な子供でこだわりが強いのだ。
「あー……なんかごめんねぇ。あたいが悪い感じ?」
頭を掻いて苦笑いを浮かべるお燐にルナサとメルランが詰め寄る。
「貴方は悪くない。それより何をしに来たの? ここは関係者以外立ち入り禁止よ」
「ファンは大歓迎だけど、ラインは守ってもらわないとねー。他のお客さんに不公平になっちゃうわ」
わざわざ来たからにはそれなりの熱意があるに違いないが、ファンと名乗れば何でも許されるわけではない。ましてプリズムリバーといえば人間のファンも多い屈指の人気楽団である。
「それなら安心して! あたいは別にお姉さん達のファンってわけじゃないからさ!」
「え、あ……そうなの……」
露骨に落胆するルナサ。クールが売りではあるが打たれ強いわけではないらしい。
「いや、ごめんごめん! 演奏はとっても良かったよ! でも幽霊にはそんなに興味無くてさー。ほらあたいって火車だし。死体じゃないとねー」
「うーん、心は燃えても物理的に燃えるのは勘弁ね~」
ほんわかしたメルランがお燐に合わせてあげるがそういう問題でもない。
「……ファンでも、ファンじゃなくても立入禁止。さっさと飼い主の所に帰りなさい」
ルナサの手がしっしと追い払いにくるが、お燐だってわざわざ地底くんだりから飛んできたのである。ここで引き下がるわけにもいかない。
「そんな冷たい事言わないでくれよぅ。あんた達って住所不定だから探し出すの大変なんだって。私はそこの太鼓のお姉さんにどうしても頼みたい事があるんだよ。お願いできるかな?」
「私に頼み? コラボかい?」
バチを水平にクルクル回して格好付けながら聞き返す。雷鼓がそう思うのは当然だ。彼女に出来るのはリズムを奏でる事くらいである。他にも雷を起こしたり太鼓をロケットのように飛ばすくらいは出来るが、そのようなパワープレイだって旧地獄ならば雷鬼の一人や二人いるだろう。
と思っていたら、お燐が急に合掌して頭を下げたのだ。
「八坂神奈子を懲らしめてやってほしいんだ!」
そして何を言うかと思えばとんでもないバチ当たり行為ときたから場が騒然となったのである。
「……いろいろ言いたい事はあるけど、とりあえず何で私なの?」
「よくぞ聞いてくれました! これにはね、山より高く地獄より深い訳があるんだよぅ……」
一から話せとは一言も言っていないのだがお燐は正座をして勝手に喋りだした。こうなってしまっては何となく話を聞かざるを得ない雰囲気だ。
お燐の事情はこうであった。
まず、神奈子が巨大化した事は何の冗談でもなく先に述べた通りである。
神奈子は十倍ほどのサイズに巨大化し、観光名所となるべく湖のほとりに鎮座して微笑んでいた。
信徒からは神々しさが増したと中々に好評であり、他にも大きくなった神奈子様に踏まれたいだの握られたいだのといった極一部のフェチズムを持った紳士的な参拝客も増えたらしい。
しかし、身長が十倍になるという事は体積は千倍になるのである。凝り性の守矢らしく、神奈子の場合も決して見た目だけのハッタリで巨大化したのではない。だのにいつもの神奈子の千人分のエネルギーを一体どうやって賄っているのか。
その答えこそが今お燐の頭の上で気持ち良さそうにうとうとしているカラスだったのだ。
「神奈子の奴、お空からエネルギーを奪い取って巨大化してるんだよ!」
お空が頭上でカァと鳴く。
お空とは、旧地獄の地霊殿に住む地獄烏の霊烏路空の事だ。お燐と同じく古明地さとりのペットの一体である。
何を隠そう、彼女を八咫烏と融合させて『核融合を操る程度の能力』を与えた者こそが、件の守矢神社の神々なのだ。
人工太陽を生み出せるほどの膨大なエネルギーを内包するお空は神奈子にとって都合のいい貯金箱だった。
「八咫烏のエネルギーを取られちゃったお空はこんな姿に……嗚呼、なんて可哀想なお空……!」
「こんな姿に~……って、人からカラスに戻っただけじゃない。何か問題があるの?」
「大アリだよ!」
遠慮無しに突っ込むリリカにお燐のフシューっという吐息がかかる。
「さとり様の手が届かない細々とした仕事は大体がお空とあたいの担当なのさ。八咫烏パワーを失ったお空は人の姿にもなれないし、知能が、まあその……とにかくあたいの仕事が倍になるじゃないか!」
お空の命にこそ別状は無いのだが、いくら自分で与えた力とはいえそれを勝手に回収していく横暴さにお燐はご立腹だ。それに最近はさとりが片手間に始めた探偵稼業の助手として外回りが増えている。貸せる猫の手も全然足りない状況なのだ。
「……それで、もう一度聞くけど何で私?」
「あーそうだったねぇ。いや、私も最初は守矢神社に文句を言いに行ったんだけどあそこの巫女に追い払われちゃって……だから博麗神社を頼ったんだよ。でもさぁ……」
博麗神社の巫女、霊夢は無理だと言ったのだ。それも勝てる勝てないとかそういう話ではない。
『お客さんを取られたのは悔しいけど、退治する理由が無いのよねぇ……』
それが妖怪退治の専門家の答えだった。
繰り返し言うが、神奈子はただ大きくなっただけである。その後も自宅の庭で座っているだけだ。
霊夢だって命蓮寺から見越し入道を借りて巨大展示物にした事もある手前、神奈子にケチを付ければ次は守矢神社から博麗神社に営業妨害の正当性を与える事になる。
いくら商売敵でも直接被害を与えないのが宗教家同士のルールだ。寺に火を付ける道教徒などもいるが極一部の狂人がやった事と無視してほしい。
被害を受けているのはお空一人、それも与えられた分を取り返されているだけ。
はたから見れば守矢神社が元凶の異変であった馬鹿烏の責任を取っているだけなのである。
いくら妖怪神社と悪評が立っていようが霊夢は人間の味方だ。妖怪の力を取り戻す手助けなどするはずがない。
「だからさ、代わりに霊夢は助言をくれたんだよ。風神のあいつと対になる力をぶつけてやればいいって!」
ただし、神奈子を襲う動機がある者には喜んで知恵を貸す。直接がダメなら間接的に営業妨害すればいいのだ。霊夢は金の為なら巫女に、主人公にもあるまじき卑劣な手段も割と取る。
風神の対。即ちそれは──。
「私ってことか!?」
「そう! お願いだよ~。神奈子を痛い目に遭わせてやっておくれよ~」
雷太鼓の付喪神。雷神をモチーフにした見た目。スペルカードにも雷神と名付けている物がある。他に思い当たる者など居なかった。
「いやいやいや、いくら何でも無茶だって! 所詮私は付喪神でモノホンの神とは格が違うんだよ。それに今のそいつはでっかくパワーアップしてるんだろ?」
「大丈夫だって! 大きくなったって事は弾幕勝負になればただの的だよ! あんた達に断られたらもうどうすればいいんだよぅ、ねぇ~……」
お燐は猫特有のなで声で雷鼓にすがり付いてきた。振りほどこうにも爪をしっかり服に食い込ませているので剥がせない。
「ちょっと待ちなさい」
「あんた『達』ってもしかしてだけど……」
「私達も頭数に入ってるわけ?」
三姉妹の問い掛けにお燐は不思議そうな顔をする。
「……? 当たり前じゃん。バンドメンバーが戦ってるのに一緒に行かないの?」
「まず私が行く前提で話をしない!」
「……そう」
甘えた顔をするお燐の方向から微かな舌打ちの音が鳴った。中々に表情筋の器用な猫である。
「地霊殿に保管してる古い楽器」
お燐の呟きに三姉妹の眉がぴくりと動く。
お燐だってタダで相手を動かせるだなんて思っちゃいない。当然ながら交渉材料を用意していたのだ。
「地霊殿はデカいからねぇ。楽器だって結構置いてあるんだけど、さとり様も多忙で演奏する余裕なんかありゃしない。協力してくれたら好きなのを持っていっていいよ」
「どういうのが有るの?」
「どれくらい古いの?」
「本当にくれるの?」
「ちょ、ちょっとちょっとあんた達……!」
三姉妹には抜群の効き目があったようだ。
怨霊漂う地霊殿に放置された楽器。騒霊とはさぞかし相性が良いに違いない。
「グランドピアノとかオルガンとか、あの楽器達、たまにガタガタ動くんだよねえ。きっと付喪神になってるのもいくつかあるはずだよ~? 地獄が移転する前からの年代物もあるよ~?」
「う、むっ……!」
雷鼓の心もかなり揺らいでいた。
仲間を増やして彼らの理想郷を作りたいのは全付喪神の夢だからだ。地獄で怨念をたっぷり浴びた付喪神、きっと物凄い戦力となるに違いない。
あともう一押しと、お燐は最後の切り札を取り出した。
「古明地印の旧地獄温泉フリーパス。四人分あるよ」
「受けましょう」
「受けよう?」
「受けちゃいなよ~」
三姉妹は完全に陥落した。残る雷鼓に四人と一羽の圧が降り注ぐ。
むぐぐぐ、と苦悶の表情を浮かべること数秒。しかしここでやらなきゃロックの魂が廃るというものだ。
「……負けても、私は何の責任も取らないからな!」
雷鼓も覚悟をキメた。
そうと決まれば今日の宴会は予定を変更し、打ち上げも兼ねた作戦会議。そして計画は次のように定まった。
決行は明日の正午。守矢神社に正面から乗り込んで堂々とカチコミ決戦だ。
最悪、神奈子に勝てなくてもお空に八咫烏の力を返せばこちらが勝ちの勝負。勝ち目はある。秘策もある。
明日の勝利を信じて雷鼓と愉快な仲間たちは美酒に酔いしれるのであった。
景気付けのために、それはもうとことんと──。
◇
翌日、守矢神社の鳥居前。そこで参拝客がざわめいていた。
かの人気楽団プリズムリバーが演奏も無しにこのような神社に参拝に来るのは珍しい事だからだ。もっとも、彼らをざわつかせている主因はあまりにも情けない顔と立ち振る舞いによるものだ。
彼女らのコンディションは最悪。そう、二日酔いである。
どうして大事な日の前に飲み明かしてしまうのかと言われても、明日の事を気にして飲むなんてロックじゃない。我慢する音楽家に芸術的なメロディーなど到底生み出せないのだから。
「……おぅっぷ。よ、よーし! 雷鼓、プリズムリバーのみんな! 今日の戦いは絶対に勝つからね!」
『お、お~……』
『カァー……』
四人と一羽の覇気に欠けた返事がお燐に続く。
「声が小さぁーい! 気合が足りないと神には勝てな……ぁ待って、なんか毛玉吐きそぅ……」
「汚いなあ……その辺でいいからペッてしてきなよ」
お燐は雷鼓の指差す茂みにガサガサと分け入って隠れた。そこから流れるは猫の愛らしさとは全く無縁、乙女から出てはいけない渾沌、音楽家も調律しようがない不協和音。
「……お待たせ! さあ、元気出して行こうね!」
それどころではない。あまりにもあんまりな音を聞かされた四人も吐き気を誘発させられていた。
決行は正午という話であったが一時間遅れで始まる事になる。
一時間の間に何があったのかは……推して知るべし。
「やれやれ、また来たのかい。そんな烏が元に戻ったところで間欠泉地下センターは困りゃしないってのに」
参拝客をかき分け、ホリズムリバーウィズUR(一分で決まった空・燐とのコラボ名)が神奈子の下に現れた。
そうは言っても与えた力を急に取り上げられたお空が怒る事は守矢側だって承知の上だ。
守矢神社が最も困るのは何か。それは人間側である守矢が妖怪とがっつり癒着していたとバレる事だ。
お空に力を与えて始めた旧地獄の原子炉。河童に作らせた索道。天狗に人を脅させ、それを神奈子の威光で守っているという八百長。
これが明らかにされれば信仰には確実にひびが入る。そして目の前にいるのは守矢産業革命の始まりであり全てを知ってしまっている燐と空。何としても彼女らの口だけは封じなければならない。
「八坂神奈子! ここで会ったが百年目ぇ! お空に力を返してもらうよ!」
『カァ!』
お燐とお空の号令一下、ホリズムリバーは陣形を組んで自身より遥かに大きな神奈子に対陣する。
雷鼓を先頭に魚鱗の陣。右翼にルナサ、左翼にメルラン、そして後方にリリカ。雷鼓の力を存分に活かす為のフォーメーションだ。
「守矢神社の祭神よ」
「貴方に恨みはないけれど!」
「私利私欲でお仕置きだ!」
「さあ、我が雷を喰らいなさい!」
ホリズムリバーの前口上が決まった。先ほどまで吐瀉物に悩まされていたなどと誰が信じるだろうか。これぞプロ根性である。
「参拝者の皆さん! 今からここは弾幕勝負の戦場となります! 危険です! ただちに避難してくださーい!!」
早苗が声を張り上げた。とにかくお燐が余計な事を言う前に参拝客を遠ざける必要があったからだ。
ついでにこのサイズの神奈子が戦えば人的被害も確実だ。そうなれば最早取り返しが付かない。
「まあなんだね。邪魔の入らない環境で、じっくり『話し合い』をしようじゃないか!」
参拝客が逃げたのを確認すると、次は諏訪子が力を発動した。
坤を想像する程度の能力を持つ守矢神社の真の神、諏訪子の力が大地を揺らし、水柱が天を付く
戦闘態勢に入った神妖を囲うように大地が円形に盛り上がり、舞い上がる湖の水がカーテンのように、天から伸びる壁となった。
逃げる気はない。
逃がす気もない。
戦う者達だけを閉じ込めるコロシアムの完成だ。
座ったまま臨戦態勢に入る神奈子の身体からは蒸気が吹き出していた。八咫烏の核エネルギーが彼女の身体を発熱させたのだ。
スモッグの演出だなんて何と気の利く神だろうか。ホリズムリバーのボルテージも最高潮に達する。
今、決戦のライブステージが幕を開けた。
「余裕なんて見せていられる相手じゃないからね。最初からフルスロットルで行くよ!」
先手必勝、乾坤一擲。この戦いは長引けば長引くほど不利になる。神代を戦い抜いた戦神と、生まれて僅かの付喪神。総合力では天地の差、覆すには奇襲に掛ける他はない。
雷鼓は自慢のドラムセットに飛び乗り、踵を豪快に大太鼓に叩きつける。途端に赤髪が逆立つ程の強い電場が彼女を取り巻いた。言葉通りのスタートダッシュだ。
他のメンバーも遅れじとそれぞれの得意技を繰り出す。三姉妹の楽器が舞い、お燐の身体からはおどろおどろしい霊魂が溢れ出る。
プリズムリバーが奏でる音色は人の心に強く作用し、お燐が使役する怨霊は雷と相性抜群だ。二つの能力を合わせて雷鼓を強化し、破壊力に特化した雷の規模を極限まで高める。
"一撃必殺!"
それが皆で出した結論だった。
──八鼓「雷神の怒り・大怨霊アンサンブル!!」
目の前を真っ白に染め上げる強烈な閃光、そして耳をつんざく轟音!
先に諏訪子が水を巻き上げていた事も味方した。空を飛び散る水滴が雷雲の成長を強烈に進めたのだ。これは嬉しい誤算であった。
動くこと雷霆の如しとは、諏訪の地を治めた大名も用いた孫氏の一節だが、それ程に雷の動きは激しく予想し難いのだ。
弾幕ごっこには間違いなく使えない、大人げない真似をした神を懲らしめる為の、視界全てを埋め尽くす超反則技だ。
如何に百戦錬磨の神奈子とて、一度放たれてしまった雷光を躱す事など不可能──!
「……と、思ったのかい?」
最大の誤算は神の知恵を甘く見た事だった。
雷という自然現象も物理科学で説明できる以上は法則に従って動く。即ち『電気は抵抗の低い方に流れる』のだ。
雷が空をジグザグに進む理由は、絶縁体の空気中で少しでも流れやすい場所を選んで落ちてくる為である。
周囲には諏訪子の巻き上げた水がある。空気と水なら圧倒的に水に電気が通る。
さらに彼女の周囲を取り巻く御柱、これも己の弱点を把握しているからこそ避雷針も兼ねて立てていたのだ。
そして最大の要因は神奈子が『帯電』していた事だ。そもそも雷鼓を連れてきた時点で腹積もりなどお見通しである。核エネルギーを電気に変換して溜め込み、雷と反発させた。
二重、三重に対策をしていた雷を、ホリズムリバーはまんまと決戦の切り札として選んでしまったのだ。
「ふうー……流石にちょっとピリっときたねえ。それで、次は何を見せてくれるんだい?」
神奈子の服の肩がちょびっとだけ焦げていた。本当に、それだけだった。
「うっそぉ……」
「ノーダメージだなんて……」
お燐と雷鼓の表情が絶望の色に染まる。倒すのは無理だとしても、いくら何でもこれで少しは弱ると期待していたのに完全な予想外だ。
「駄目ね……」
「強すぎる~……」
「ちゃんちゃ~ん……」
トライアングルがチンと鳴る。
三姉妹の演奏もお間抜けなメロディーに変わってしまった。むしろこの状況でも演奏を止めない事を褒めるべきか。
元々お燐に請われて仕方なく戦いに来ただけのメンバーである。唯一の望みが消え失せたら後は烏合の衆でしかない。
神奈子も三姉妹はバックミュージック担当と見なして戦意を向けていなかった。
とにかく今は自分達と雷鼓が優先だ。そう判断してからのお燐は素早かった。
「に、逃げるが勝ちぃー!」
『カ、カァー!?』
体制を立て直して出直そう。お空を抱えたお燐は脱兎の如く後ろに走り出した。
周囲を閉ざされてしまっているが、妖怪その気になれば壁ぐらい何のそのだ。ネズミだって猫を噛むのだから、猫が追い詰められれば不可能は無い。
「……だなんて、させると思ったのかい!」
しかし諏訪子に回り込まれてしまった。
非常に厄介な相手だ。火と怨霊使いのお燐にとって水の祟神たる諏訪子は極めて相性が悪い。
諏訪子は不敵な笑顔で宙に浮いてはいるはスペルカードを発動させる構えには入っていない。この戦いの主役はあくまで神奈子という事なのだろうが、こちらから手出しをすればその限りではないはずだ。
前門の蛙、後門の蛇。正面突破はまず不可能だが後ろの圧も常軌を逸している。脱するには相当の奇策かゴリ押しが必要であった。
「お燐、乗れ!」
雷鼓が和太鼓の一つを指差した。お燐はその手があったとお空を懐にしまい、素早く打面に飛び乗る。
彼女の太鼓にはロケットブーストが付いているのだ。前も後ろも駄目なら上に飛べばいい。
逃がすものかと神奈子の巨大な手が迫りくるが間一髪、指の隙間をかい潜って空へと猛進する。
脱出、成功だ!
「……へっへーん、甘いですよ!」
ところが守矢神社は三人組だ。前と後ろで一人ずつ。だがあと一人、ある意味で一番恐ろしい相手が残っていた。
──大奇跡「八坂の神風」
雲が渦を巻き、烈風が巻き起こる。早苗の大技はさながら扇風機のように太鼓ロケットの乗客を吹き飛ばしたのだ。
「ふぎゃっ!」
お燐達は再び地上に散った。
最後の望みも断たれ、絶体絶命。
それ以外、この場に相応しい言葉は無かった。
「まったく、大人しく地底に籠もっていれば良かったんだよ。さあ、この状況でお前に何ができるのかね?」
技らしい技を出してこなかった神奈子がついにその膨れ上がった力を使う。
無数の御柱が空を埋め尽くし、地表から光を奪う。その全てはお燐に矛先を向けていた。
神奈子がお燐に対して要求する答えはたった一つ。素直にもう逆らわないと言えば良し、そうでなければ──。
「これで……勝ったと思うんじゃないよ?」
それがお輪の返事だった。誰がどう聞いても負け惜しみだが、この状況でも不遜な台詞を言えるのは死をも恐れぬ地獄の住民らしさか。
所詮は畜生、本気で脅して調教すれば二度と逆らう気も起きるまいと思っていたのに。
「しかたのない猫だねえ……」
神奈子が腕を天に向けた。
地霊殿と完全に敵対するのはデメリットの方が大きい。ゆえに殺めたりはしないが骨が砕けるぐらいは覚悟してもらう。
あとは、手を振り下ろすだけで決着が付くのだ。
「アンタ……一つ勘違いしてるんじゃないかい?」
ところがその一言が神奈子の手を止めた。
「へえ……何を?」
地面に叩きつけられた衝撃で起き上がれてもいないのに、まだ減らず口を叩けるものか。呆れを通り越して感心する。
しかしながら、お燐が取った手段には神奈子自身も僅かに違和感を覚えていたのである。
いくら畜生でも今の自分を相手に本気で力押しを選ぶだろうか。あの曲者揃いの旧地獄ですら恐れる地霊殿の長がバックに付いていながら、こんな正面から?
実は疑念が浮上した時には既に手遅れだったのだ。
ドクン、ドクンと心臓が早鐘を打つ。自分の精神とは無関係に。
「私の目的は最初っから、アンタの中にいる八咫烏を引っぺがす事なんだよ! それはもう目覚めてしまったのさ!」
完全にお燐の術中に嵌っていたのを自覚してしまった神奈子は最早動けなかった。
「……神奈子?」
諏訪子もその異常に気が付いたようだ。
神奈子の神気に乱れが生じている。御柱を操る手が震えている。口を真一文字に結んだ表情は、内から溢れ出る何かを抑えるのに必死のようだった。
「私の一撃は……布石でしかなかったのさ!」
リリカの手を取って立ち上がった雷鼓の言葉だ。お燐とお空も残る姉妹の手を借りて起き上がる。
そう、プリズムリバー三姉妹だ。
敵も味方も応援団として扱っていた三姉妹こそが実はこの作戦の肝だった。
騒霊の楽器は手を使わずに鳴り響く。それは最初からずっと演奏を続けていた。
露骨に影響力があっては途中で潰されてしまうだろう。だから今回奏でていたのは『心が自分に正直になるメロディー』だ。
この曲は元々戦いで闘争本能がむき出しになっている彼女らにはあまり効果が無い。だからこそ意識されなかったのだ。
「貴方の雷すら凌ぐ防御力は見事だったわ」
「でも音楽の力はそれを上回る無限大なのよ!」
「電気には抵抗できても音には抵抗できたかな~?」
雷鼓の雷は幻想郷の全土を揺らす暴威だった。人は何故雷を畏れるのか、その理由は光以上に音にある。
稲光に遅れてやってくるそれは、心を鷲掴み、身体を凍り付かせる。『神鳴』と書かれるのも納得の、まさに神の怒号。
神奈子の中に眠っていた八咫烏の意識を外に向ける。これこそが真の狙いだったのだ。
『カァ! カァー!!』
八咫烏ははっきりと認識していた。
お空が呼んでいる。ずっと一緒に過ごしていたあの子が近くに居る。
「さあ、八咫烏よ! 神奈子か、お空か! アンタはどっちに宿るんだい!?」
今、八咫烏は自分に正直になった。迷いは無い。自分の居場所はここではない!
抜けていく。神奈子の身体からエネルギーが漏れ出していく。
「八咫烏! 私ではなくその烏を選ぶというのか!?」
神奈子から灼熱のマグマを思わせる赤銅色の光が溢れ出て、それはお空の身体を取り巻いている。これこそが八咫烏のエネルギーだ。
「何故だ! いったいどうして!」
納得いかない神奈子の胸から最後、鳥の形をした赤い光がポンと飛び出した。
お空と神奈子を交互に見比べて、その光は言ったのだ。
『いやボク、お空ちゃんの方が好みのタイプなんで……』
そもそも神奈子は蛇神だ。カラスと蛇、八咫烏がどちらを選ぶかなど考えるまでも無いのであった。
「や、八咫烏ぅぅうううう…………!」
神奈子の身体が縮んでいく。巨体を維持する気力もエネルギー源も尽きてしまった。
いろいろな意味で、神奈子の敗北が決定した。
◇
「カラスに負けた……カラスに……」
神奈子は正座して地面に手を付いていた。
上手い事してやられた上に、カラスに魅力で負けたショックからはしばらく立ち直れそうにない。
「負ーけちゃったねえ。ま、楽しめたし良しとしてやるよ」
諏訪子が能天気にケロケロ笑う。かつては土地の支配を巡って争った仲の彼女は、神奈子が負けてもそれはそれで愉快らしい。
戦いが終わってライブステージも用済みだ。諏訪子が築いた円形の土壁と水のカーテンは、彼女の合掌を合図に元あった場所へと還っていった。
「神奈子様に人の心が残っていたのが敗因だったのね……やっぱり巨大神奈子様ロボの完成を急ぐべきかしら……!?」
早苗は早苗でこの有様だ。同じ三人組でも姉妹と違って見ている先がバラバラなのも敗因である。
「ありがとうお燐~! 力がみなぎってくるよ~!」
人の形に戻ったお空は猫まっしぐらにお燐に抱きついた。
「はいはい、あたいはほとんど何もやってないよ。お礼ならこっちのお姉さん達に言っておくれ」
「それを言うなら私達だっていつものように演奏をしていただけで大した事ないよ。引く手数多の人気バンドを守矢神社に誘致したお燐が頑張ったのさ。ホリズムリバーウィズURの初ライブは大成功ってところだね」
差し出された雷鼓の右掌に、お燐が軽快なハイタッチ音で応えた。
「大した事、あったわよね」
「私も巻き添え受けたわ。まだちょっとビリビリとするもの!」
「これはお礼も弾んでもらわないと割に合わないな~?」
雷鼓は粋に済ませるつもりでも、経験豊富なプリズムリバーはとてもちゃっかりしていた。
ファンは大事にしても極度に甘い顔をしないのが上手い付き合いのコツである。安請け合いしてくれるのが当たり前だと思われると人気者としては困るのだ。
「わーかってるって! 地霊殿の料理番が腕をふるったご馳走もサービスしてあげるからさ~。幽霊向けの料理もちゃんと有るから安心してよね」
つまりはまた宴会だ。戦う前にも宴会、後にも宴会。しかしそれが幻想郷らしさでもある。三姉妹も拳を握ったのを見るにそれで満足らしかった。
「さ~て、後はこい……この人か」
お燐の視線の先にはまだうなだれている神奈子がいた。流石に『こいつ』呼ばわりは野生の本能で避けたようだ。
「……私はいつもこうだ。大戦には勝てても諏訪子への信仰心を上回る事はできず……時代の流れに負けて幻想郷に来ても博麗神社の二番手に甘んじ……今また選ばれなくて……私は……私はぁ……」
「おいたわしや、神奈子様……」
「あーうー、こうなった神奈子はめんどくさいんだよねえ」
賢者の土下座のポーズで愚痴る神奈子。その後ろで二人が憐れみの目を向けている。
完全に神奈子の変なスイッチが入ってしまっていた。守矢一家の大黒柱としての重責に耐えきれなくなったのか、あるいはルナサの鬱メロディーが効いたのか、はたまた核エネルギーを使いすぎて脳に異常が出たのかもしれない。
この中で一番無縁かつ神奈子の逆鱗に触れないであろう人物、雷鼓が腰を下ろして視線を彼女に合わせる。
「ねえ神様。私さ、プリズムリバーと一緒にバンドやってたら、あの子らがどうして人気なのか分かったんだよ」
神奈子は何も言わず、恨めしげに顔を上げた。とりあえず話は聞いてくれるようだ。
「あの子達はちゃんとファンの一人ひとりを見てるのさ。確かにこっちから見たら大勢のファンだけど、ファン個人から見たら私達は唯一無二の存在なんだ。だから自分達を好きだと言ってくれる人にはこちらも一対一で答える。ファンが増えすぎて追いきれない事もあるけど、それでもね。ほら、あっちを見てみなよ」
雷鼓が促した視線の先には心配そうに神奈子を見つめる参拝客の姿があった。中が見えなかったとはいえ雷が落ちた後に元の大きさに戻ってうずくまっているのだ。相当に痛めつけられたと思われて当然である。
「あの信者達はこんな情けない格好の神様でもちゃんと心配してくれてるじゃないか。大丈夫だよ、あんたの活動は決して間違ってない。だからまずはあの人達の心を今以上にガッチリ掴んでみたらどうだい。ファンっていうのはファンからも広がっていくってあの子らも言ってたよ。友人が好きなものは何となく自分も好きになるだろ?」
三姉妹も恥ずかしそうに微笑んだ。確かに言ったが酒の席での事だ。身内から言われると流石にむず痒かった。
「……付喪神、いや、雷鼓だったね。お前……私を誰だと思っているんだい」
今までの事など無かったかのように神奈子は立ち上がる。
「言われなくても信徒を大事にするのは当然だ。私の存在は彼らによって支えられているのだからね。ファンが居なくても存在自体が揺らいだりしないお前達よりも、よっぽど」
巨大化の反動で疲労は溜まっているはずだが、毅然とした姿で信者の下へと歩み寄っていく。いつもは遠くからしか見られなかった八坂の神様を、こんな手を伸ばせば触れられる程の間近で拝めるのは信者達にとって初めてだったのだ。神奈子は歓声をもって出迎えられた。
「くっくっく。神奈子の奴、あんな事言っちゃってるけど実は効果覿面みたいだよ。感謝するよ、太鼓の付喪神」
神と人の間には明確な差がある。それ故に神奈子は常に一線を引いた付き合い方をしていたのだが、時代の流れで失った信仰を求めて幻想郷にやってきた以上は崇められ方も時代に合わせるべきだったのだ。なにより幻想郷に居る神様の姿は普通の人間でもその目で見られるのだから。
そんな神奈子の様子を楽しそうに眺めつつ、諏訪子はどっかりと地面に座り込んで地平線に目を馳せた。
「しかし何だねえ。この間メル友のマー君から聞いたんだけど、外じゃ疫病が流行ってるせいで"あの"アマビエちゃんが凄い持て囃されてるらしいじゃない。出雲の定例会でも最後尾の常連だったアマビエちゃんが。やっぱり今の時代は畏れより需要に沿った御利益が求められてんだねえ……」
「ところで、今更で申し訳ないのだが地霊殿のペット達……何という名前だったかな」
旧地獄に手を出したのはいつの話だったろうか、本当に今更だ。だが神奈子の問いに対し、空と燐は顔を見合わせて頷いた。
「霊烏路空! お空って呼んでいいよ」
「火炎猫燐さ。 同じくお燐でいいよ」
友好の第一歩は名前を知るところから始まる。神奈子の姿勢を見直し、二人は受け入れる方を選択した。
「お空にお燐よ。地の底からここまで来ておいて手土産の一つも無しでは割りに合わないだろう。我らに勝った褒美でも一つ進呈すると言ったら、お前達は何を望む?」
口には出せないがお詫び、友好の証、ボスに勝った報酬、そしてあまり自分を情けなく言いふらさないでねという口止め。そのような物である。
「へえ、気前がいいじゃないかい。どうしようかねえ、今まで好き勝手やってくれた迷惑料も込みで……」
「温泉街に来てもらう!」
思案するお燐にお空の声が割り込んだ。予想外過ぎたか神奈子も目を丸くする。
「温泉……?」
「ちょっとお空、勝手に……」
「旧地獄には良い所がいっぱいあるのに、いっつもセンターの様子だけ見て帰っちゃうんだもの! 一回観光においでよ、みんなも喜ぶから!」
これが今回唯一の被害者の意見なのだから恐れ入る。お燐が欲しかったのは死体だが、くれと言われて素直に出す者などごく一部しかいない。ならばお空の意見を尊重すべきかと苦笑しつつ、しばし考えた。
「……ま、お空らしいよ。じゃあこういうのはどうだい? 守矢神社と行く、地獄温泉団体ツアー! ってのは」
「行くって……誰とだい?」
「そんなのあんたの信者達とに決まってるじゃん。たまにはそういうファンサービスでもしたってバチは当たらないと思うよ?」
「私を何だと思っている。そういうのはアイドルとかがやるものでだな……」
(どこで得た知識なんですかね、それって……)
(一時期は切羽詰まってアイドルデビューとか考えてた事があったんだよ。その時の研究じゃないかねえ……)
早苗と諏訪子のひそひそ話は聞こえないフリをした。触れては自爆するだけだ。
「え~、畜生界じゃあ埴輪のアイドルで信仰を稼いでる神がいるって噂だよ?」
「馬鹿な、そのような神がいるはずが……」
あった。心当たりが。神奈子の家系を上に辿っていくと、最初の人物から産まれ出た神の中にそれが。
「……あの方か」
どうやら降臨した環境にしっかりと適応しているらしい。そうなると神奈子も強くは言い返せなかった。
「まぁまぁ、良いんじゃないかい。深く考えなくてもみんなと温泉に行くだけさ」
「はーい! 私も行きたいでーす!」
身内から賛成が二票入ってしまったら多数決で神奈子の負けだ。
「むう……お前達がそういうのならば、前向きに検討させていただく……」
ツアー計画はともかく、遅かれ早かれ温泉に浸かる三人の姿が見られる事だろう。
「そうそう、旧地獄は妖怪の中でもはみ出し者ばっかりだからねえ。安全の確保にはそれなりの……コレが必要になるんだけど、もちろんその辺りも弾んでいただけますよねぇ?」
お燐が指で輪っかを作る。安全の為にコストを要求している訳だが、八坂・洩矢の二大神に囲まれ、地霊殿のペットが引率する集団など旧地獄でも襲う妖怪はおらず、つまりは全くの無駄金だ。そこは今回迷惑をかけた分を上乗せしろという事である。
「……ふふ。神を相手に吹っ掛けるか。たかが畜生と侮った時点で私の負けは決まっていたのかもしれないね」
「驕った強者が知恵と勇気を持った弱者に負ける、ですか。私達、まさに王道の展開で負けてしまったのですね……」
「私は楽しめれば何でも良いさ。面白い見世物だったよ」
ついでに言えば毎回ヒーローにやられる悪役というのは三人組が多いものだ。守矢神社はきっと今後も懲りもせずに騒動を起こすに違いない。
「それで、そっちはホリズムリバーだったね?」
『違います』
三姉妹の声が綺麗にシンクロした。ホリズムリバーウィズURは妥協したが、ここだけはどうあっても譲りたくないらしい。
「ええと、それはともかくだね。せっかくここまで来たのだ。嵐が過ぎて空は晴れ渡り、人だってこんなに居る。もう帰るなんて勿体ないと思わないか?」
「……なーるほど。私に異存はないけど三人はどうなの?」
ちゃっかりしているのは神奈子もだった。あの人気楽団がわざわざ神社に来ているのだ。客寄せに使わない手はなかった。
「ゲリラライブなんて久しぶり」
「まだまだ元気は余ってる!」
「勝利の余韻をお裾分け~」
三姉妹もやる気のようだ。そうと決まれば守矢神社の行動は素早い。
「よし、早苗は人里まで降りてライブの開催を知らせてくるように」
「はい、神奈子様!」
風祝が風を纏い、妖怪天狗も何のそのと人外魔境の山を飛び越えていく。早苗はこの手のノリを最も得意とする人物だ。きっと想像の斜め上の結果をもたらしてくれるだろう。
「んで、私は?」
諏訪子が蛙座りの気ままな姿勢で尋ねる。
「決まっているだろう。最前列で私と一緒に演奏を聴くんだよ」
「ほいほい、付き合ってあげるさ」
密集する観客に紛れるなどこれまでの神奈子だったら絶対に言わなかった事だ。仕方なしな言い方とは裏腹に、諏訪子の顔は輝いていた。
◇
演奏が盛り上がる中、雷鼓が演奏を止めていきなり大声を出す。
「さーて! それではここで趣向を変えまして、今回この場所を提供していただきました、八坂神奈子様をゲストに迎えたいと思います!」
「……え、私は聞いてないよ?」
しかし予定にない事をするのがライブ感というものだ。諏訪子に背中を押された神奈子が雷鼓の隣に登ると、守矢信者でもある観客からは大歓声が上がる。
「神奈子様、一曲歌っていってはいかがでしょうか!?」
「え? わ、私がかい!?」
薄々そのような予感はしていたが本当に言われると流石に面食らう。
「好きな曲を言ってください! 外の曲のレコードもこまめにチェックしてますから、だいたい対応できるので!」
「す、諏訪子、私はどうすれば……」
慌てふためく神奈子がよっぽど面白かったのか、諏訪子が目に涙を浮かべて笑っている。
「いいじゃん、歌っちゃいなよー。そもそも目立ちたくて始めた巨大化なんだしさあ、歌うぐらい今更恥ずかしがることないだろ~?」
「私、神奈子様の歌を聞くのなんて始めてです!」
「はーい、あたいも聞いてみたいでーす!」
「私もー!」
みんなが諏訪子に同調する。観客達も熱い眼差しを神奈子に向けている。ここで断って逃げるだなんて神の威信に関わる状況だった。
「~~~ッ……! い、一曲だけだぞ!? 曲は……」
ホリズムリバーの演奏に神奈子の声が乗り、観客の熱気は最高潮に達する。演奏を楽しむ満面の笑顔は、彼女達が先ほどまで力を巡って争っていたとは誰も信じさせないものであった。
なお、肝心の神奈子の歌声であるが、『とても一生懸命で可愛かった』とは一人の信者の談だそうな。
とんでもないお題やね
神奈子が巨大化したことにもお燐が戦うことにも雷鼓たちが協力することにも、それぞれちゃんとした理由があって素晴らしいと思いました