Coolier - 新生・東方創想話

〝プロフェッショナル〟

2020/05/29 22:00:36
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 秦こころはテレビを見ていた。居間で、正座をして眺めている。丸いテーブルには煎餅を乗せた皿があり、煎餅は、徐々にその枚数を減らしていく。傍にはお茶があった。道観に人はおらず、こころは自分で茶を淹れた。淹れたとはいえ、それはポットの熱湯でティーパックを湯掻いた簡易的な粗茶である。しかしながら、こころはその一杯を大切に呑んでいた。
 詫びしい和室のしじまを縫うようにして、テレビから訥々と声がする。画面の中では或る為政者の日常が営まれており、カメラクルーはその一日に密着する形で、為政者の一挙手一投足に注視し、質問をくり出した。為政者の誰もが解せぬ二つ飛びの返答に、クルーは人類共通のツボを見出しては、無理くりな解釈でもって説得力の増強を図っていた。
 煎餅が割れる。昼下がり、画面上部の再放送の文字が妙に気だるい。ずっと探していた理想の自分がどうとか、ぼくの歩いてきた道のりがああだとか、そんなエンディングテーマに大団円を迎える番組が雀の一声で白々しく流れていった。こころの表情といえば正面からも斜めからも読み取れない例のそれであり、はたから見た限りではじっとりとした目つきでもって画面を眺めつつ茶を啜っている。ふ、と一息をついて、こころは口を開いた。
「あほらし」
 CMに入るやいなや廊下からはドタドタと二、三の足音が鳴り、観賞会を終えたものたちが居間へと流れ込んだ。取り巻きは件の為政者を褒めそやし、当人は至極満更でもなさそうに誇らしげな笑みでもって満足気をやっている。しかし真に興奮していたのは物部布都だった。瞳には爛々と輝きを称え、さも興奮冷めやらぬといった風情にふんふんと鼻で息をしていた。大勢の弟子たちを交えた観賞会を前哨戦とするのなら、いまの物部布都はまさに後の祭りと云えよう。なんとはない嫌な予感をあからさまに醸していた蘇我屠自古は今にも飛び出してゆきそうな布都を静止せんと言葉を練るも、布都は一にも二にも目をくれず溌剌とした行ってくるでもって道観を飛び出して行ってしまった。弟子たちが各々の帰途へ散り散りになった頃、居間にはなんの気なしに煎餅を齧るこころと、気難しげに、はたまた不安気に頭を悩ませる屠自古と、腕を組み、いつもの誇らしげな表情でもってどこかを見据える為政者が残された。屠自古はいつも通りにいつもの調子の為政者に自身の不安の正体――すなわち布都の行方、それから動向。――を打ち明けたが、為政者は然と高笑いに紋切り型の台詞を吐いて、また笑った。こころは煎餅を齧り、また砕いた。

 やはり〝ぷろ〟たるもの、みなの規範になるべく努めなければならない。と、それが布都の主張の全てだった。白昼にこじんまりの居酒屋でもって生臭に徹していた雲居一輪からすれば、なんのこっちゃというところである。つまりはどういう話かと一輪が問えば、布都は自信満々にしどろもどろをやり、また冒頭の主張を繰り言にするのみでいた。つらい修行の日々から逃れるべくたまの酒を楽しんでいるところ、ようわからん主張に故障を入れられてしまっては、せっかくの息抜きも息の詰まる時間に変わってしまう。一輪にとって布都は有り体に言えば同業他社の者であるからして、布都の乱入は少なくとも快いものではなかったし、なによりも、軸のない論点や主張でもって出所不明の叱責を受けるというのが、一輪には絶望的な苦痛に思えた。

「そんなこと言われても。わたし、アマだし」

 布都はハッとして道観と吹っ飛んでいった。

 息を切らして帰ってきた布都は居間で自身のうちに起こった革命について喋りまくった。いまひとつ要領を得ない説明にやきもきしたのは屠自古のみで、他の者といえばテレビを眺めつつ煎餅を齧り、もうひとりなら例の表情でまたどこかを見据えていた。――実際のところ、このひとはなにも見ていないのではないだろうか?――そんな疑問が鎌首をもたげ胃の痛み始めた屠自古は、思い切って布都のようわからん話の要点をまとめるよう為政者に促した。すると、さすが為政者は耳の十個ある故に、誰にでも解せるよう布都の話をかいつまんでまとめてみせた。
 要するに、我々はプロであるからして、ああいった寺の生臭たちと差別化するべく、お誂えの肩書きを考えるべきではなかろうか。と、それが布都の言わんとするところだった。そういうことであれば、とこころを除く全員が腕を組み頭を捻る。小一時間ほどううむと唸り、意見を出し合い、却下しては改善を繰り返すうちに、為政者の内に革命が起こった。
「プロフェッショナルたる我々が名乗る肩書きはこれ以外には存在しないぞ。みんな、心して聞くがよい」

 そうして誕生した新語を却下できるものはその場におらず、なし崩し的に道観の者全員が背負う肩書きが決定した。布都は大いに喜び、屠自古は煩悶した。いつのまにやらいたゾンビはよくわからないですを口元に称え、同じくいつのまにやら居合わせた邪なる者は柔和に微笑んだ。

 曰く、プロ仙人ャー。

 こころはまた、煎餅を齧った。
海人
島人
罪人
こだい
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コメント



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1.100サク_ウマ削除
草生えたので負けでいいよこんなん
2.100名前が無い程度の能力削除
最高でした
3.80ares320削除
せんにゃー
4.100ヘンプ削除
もう最後が面白すぎました……負けでいい……w
5.100南条削除
面白かったです
人間には発音できない肩書に笑いました
6.100Actadust削除
笑ってしまいました。
7.80名前が無い程度の能力削除
いいと思いました
8.100こしょ削除
こころさんの煎餅食ってるのと後ろのストーリーが面白かった
9.100終身削除
ここりが煎餅を齧るのに集中して周りをシャットアウトするみたいななさりげなく置いてあるみたいなのにオチのキレがすごいと思いました 小ネタが出てくるのに不意打ちじみた緩急があってやられました 変な笑いが出てくるのやばいなと思いました
10.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
11.80稲光削除
平和そうで何より