「慧音、一緒に空を飛ばないか?」
夕方時、隣で歩く妹紅は唐突に言った。天界までは行かないからさ、などと言いながら笑う。
「どうしてだ?」
夜ご飯の食材の袋を抱えて私は答えた。妹紅が何かに誘う、そんなことはあんまり無いものだから、と疑問に思った。
「聞かれるとは思ってたけど……うーん、理由はないんだ。ただ二人で空を飛んでみたかっただけなんだよ」
呆れられたかな……と呟きながら妹紅は頭を掻く。私は妹紅より三歩手前まで歩いて顔を見る。
「何を勝手に諦めているんだ。私はまだ何も答えていないし、人の話は聞かないといけないだろう?」
わかったか、と言うように指をさしたかったが袋に阻まれてしまって出来なかった。
「ふふ……あっはは……やっぱり慧音は慧音だね。ふふ、ありがとう。それで一緒にきてくれる?」
「ええ、もちろん。エスコートしてくれるんだろう?」
妹紅は笑顔で私に頷いた。
***
空を二人で飛ぶ。並んで飛んで月の見える所まで。明るい月は星を隠すように輝いている。
月を背に私たちは空を漂う。妹紅は空気を踏むように足踏みをしながら歩く。まるで星を飛び越えるみたいに。
「ふふ、月が綺麗だね」
楽しそうに妹紅は笑う。
「ああそうだな……」
見慣れた月、忌々しいような月。妹紅に関係する月……なんの関係の無いことが頭を過ぎる。
「どうしたの慧音」
ぼうっとした私を心配してか覗き込んでくる妹紅。
「なんにもないさ。関係の無いことが思い浮かんだだけ」
「へえ。ならいいんだけど」
妹紅はまた月を見ている。そんな妹紅を覗くようなそんな気がしながらも隣を見る。月に照らされた体はとても軽そうで。白の髪は月の光を通して美しく。私は見とれる、幾度となく見たはずの妹紅に。
「ああ、そうだ……」
一つ咳払いをして告げた。
「慧音、私と一緒に踊ってはくれませんか」
右手を体に添え、左手を水平に伸ばし、右足を軽く後ろに引いて西洋の男性のお辞儀をする。その動作が一つ一つ決まっていて私は見惚れる。
「……慧音?」
「あっ、すまない。見惚れていた……そうだな、西洋の踊りは本でしか読んだことないのだけれど構わないのか?」
「失敗しても一緒に踊りたいな。慧音だからさ」
そう熱心に言われてしまうのなら。
「ええ、私でよければ喜んで」
左足を斜め後ろに引いて右膝を軽く曲げ、スカートをつまんで西洋の女性のお辞儀を返した。ふふふ、と妹紅の笑う声がした。
***
一、二、三。
空中で私たちは腕を組み、妹紅に引かれてステップを踏む。空に浮いているのでその例えもおかしいのかもしれないけれど。
二人で記憶を探りながらステップを踏んでいく。体が、足が合わさるような感覚。基本的なステップに簡単なターン。素人の二人にはそのくらいしか出来なくて。それでも二人が合わさるような感覚は消えない。
「慧音、綺麗だ」
一、二、三。カウントでターン。
「ありがとう、妹紅」
一、二、三。私たちは近づく。
夜空に光る小望月に見守られるように、ダンスを踊る。二人だけの世界、誰も邪魔をしない空間。一人の人間として、ただ目の前の人を見つめることが出来る。里のしがらみだとか、蓬莱人だとか。そんなものは何もなくて、ただの私と妹紅として見ることが出来た。
「愛しい人よ、もう少し私といてくれますか」
妹紅は真剣な顔つきで踊りながら問いかけてくる。
「大切な人、私がいつか潰えるまで貴女と一緒にいましょう」
いつか私が消えたとしても、貴女は生きていくから。傍にいられるその時まで私はずっといるのだろうか。
「永遠なんて信じたくないけどさ……」
一つ息を合わせてターン。二人で大きく体を回す。
「刹那だったとしても、貴女にとって幸せならいいな」
私は一つ笑った。貴女に幸いあれと。
夕方時、隣で歩く妹紅は唐突に言った。天界までは行かないからさ、などと言いながら笑う。
「どうしてだ?」
夜ご飯の食材の袋を抱えて私は答えた。妹紅が何かに誘う、そんなことはあんまり無いものだから、と疑問に思った。
「聞かれるとは思ってたけど……うーん、理由はないんだ。ただ二人で空を飛んでみたかっただけなんだよ」
呆れられたかな……と呟きながら妹紅は頭を掻く。私は妹紅より三歩手前まで歩いて顔を見る。
「何を勝手に諦めているんだ。私はまだ何も答えていないし、人の話は聞かないといけないだろう?」
わかったか、と言うように指をさしたかったが袋に阻まれてしまって出来なかった。
「ふふ……あっはは……やっぱり慧音は慧音だね。ふふ、ありがとう。それで一緒にきてくれる?」
「ええ、もちろん。エスコートしてくれるんだろう?」
妹紅は笑顔で私に頷いた。
***
空を二人で飛ぶ。並んで飛んで月の見える所まで。明るい月は星を隠すように輝いている。
月を背に私たちは空を漂う。妹紅は空気を踏むように足踏みをしながら歩く。まるで星を飛び越えるみたいに。
「ふふ、月が綺麗だね」
楽しそうに妹紅は笑う。
「ああそうだな……」
見慣れた月、忌々しいような月。妹紅に関係する月……なんの関係の無いことが頭を過ぎる。
「どうしたの慧音」
ぼうっとした私を心配してか覗き込んでくる妹紅。
「なんにもないさ。関係の無いことが思い浮かんだだけ」
「へえ。ならいいんだけど」
妹紅はまた月を見ている。そんな妹紅を覗くようなそんな気がしながらも隣を見る。月に照らされた体はとても軽そうで。白の髪は月の光を通して美しく。私は見とれる、幾度となく見たはずの妹紅に。
「ああ、そうだ……」
一つ咳払いをして告げた。
「慧音、私と一緒に踊ってはくれませんか」
右手を体に添え、左手を水平に伸ばし、右足を軽く後ろに引いて西洋の男性のお辞儀をする。その動作が一つ一つ決まっていて私は見惚れる。
「……慧音?」
「あっ、すまない。見惚れていた……そうだな、西洋の踊りは本でしか読んだことないのだけれど構わないのか?」
「失敗しても一緒に踊りたいな。慧音だからさ」
そう熱心に言われてしまうのなら。
「ええ、私でよければ喜んで」
左足を斜め後ろに引いて右膝を軽く曲げ、スカートをつまんで西洋の女性のお辞儀を返した。ふふふ、と妹紅の笑う声がした。
***
一、二、三。
空中で私たちは腕を組み、妹紅に引かれてステップを踏む。空に浮いているのでその例えもおかしいのかもしれないけれど。
二人で記憶を探りながらステップを踏んでいく。体が、足が合わさるような感覚。基本的なステップに簡単なターン。素人の二人にはそのくらいしか出来なくて。それでも二人が合わさるような感覚は消えない。
「慧音、綺麗だ」
一、二、三。カウントでターン。
「ありがとう、妹紅」
一、二、三。私たちは近づく。
夜空に光る小望月に見守られるように、ダンスを踊る。二人だけの世界、誰も邪魔をしない空間。一人の人間として、ただ目の前の人を見つめることが出来る。里のしがらみだとか、蓬莱人だとか。そんなものは何もなくて、ただの私と妹紅として見ることが出来た。
「愛しい人よ、もう少し私といてくれますか」
妹紅は真剣な顔つきで踊りながら問いかけてくる。
「大切な人、私がいつか潰えるまで貴女と一緒にいましょう」
いつか私が消えたとしても、貴女は生きていくから。傍にいられるその時まで私はずっといるのだろうか。
「永遠なんて信じたくないけどさ……」
一つ息を合わせてターン。二人で大きく体を回す。
「刹那だったとしても、貴女にとって幸せならいいな」
私は一つ笑った。貴女に幸いあれと。
しがらみも何もなく、誰でもない「妹紅」と「慧音」がただ踊りを、二人の時間を心から楽しんでいるのが印象的でした。
2人もこの瞬間をずっと覚えている事だろうというシャープな味がありました
「ああ、そうだ……」なんて言ってますが、こいつ絶対最初からそのつもりでしたよ。
間違いありません。