Coolier - 新生・東方創想話

宇佐見探偵「魔法」

2020/05/17 02:03:49
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 時は十月、大学生の夏休みが終わりを迎え堕落した生活リズムを整えるのに一苦労する季節だ。しかし宇佐見蓮子はその例外だった。
 朝から晩までマエリベリー・ハーンを監視しているうちにいつの間にか彼女の健康的と言える生活リズムに矯正されていたおかげで何の苦も無く大学へと足を運ぶことができた。
同じ学科の友人たちは起きれなかったからと一限目のノートを写させてほしいと頼まれた。
 一限、二限と無事に講義が終わり食堂に昼食を食べにいつもの食堂に向かうといつもの場所にマエリベリー・ハーンがいた。
彼女は周りに距離を置いているもしくは置かれているのか一人でいることが多い。入学当初に比べたら同じ学科に友人できたようではあるが、それでも昼食はいつも決まって一人で食べている。まるで何かを待っているかのようだ。
 蓮子はいつものように格安の日替わり定職を注文し、鶏の唐揚げ定食が乗せられたお盆を持って彼女の対面の席に座る。
「今日も一人なのね?私以外に友達はいないの?」
 蓮子はいたずらっ子のように彼女に問いかける。
「その言葉そのまま返すわ。たしか私のためにそうしているのだっけ?」
 蓮子はその言葉を否定するように人差し指を横に振る
「私のためよ。メリーとこうして昼食を食べているのが一番しっくりくるもの」
 もちろん監視のためというのもあるがそれを口に出すことはできない。
「それはとても嬉しいことね。一人じゃ退屈してしまうもの。今日はどんな話をしてくれのかしら?」
「今日はね、メリーをお茶会に誘いに来たのよ」
 蓮子はそう言って唐揚げ一口かじり、白米を食べる。
「わざわざ『会(party)』をつけるということはほかの人も来るのね。誰が来るの?」
 蓮子は肯定の言葉を口にしながら会話を続ける。
「私がよく行く商店の主人に呼ばれたのよ。その人の友人も来るそうよ。どうせなら友達もどうかってね」
「面白そうね。あなたからの誘いなら断る理由はないわ」
「さすがメリー、話が速いわ。それじゃあ日時は追って連絡するから」
 この話の後も二人はたわいもない話を続け、次の講義のためにその場で別れた。
 なぜ蓮子が彼女をお茶会に誘ったのか、それは数日前の夏休み最終日へとさかのぼることになる。

 夏休み最終日、蓮子は稗田阿礼からもらった『幻想郷縁起』を持って閉店間際の霧雨雑貨店に来ていた。
 彼女はここ数日、マエリベリーの監視の片手間でこの本の解読に挑んでいた。文字は綺麗なのだが、如何せんインクを付けた筆のようなもので書いた本を古そうな印刷技術を用いて印刷しているものだからところどころ文字がかすれたりしていて読みにくい部分が多々あったり、経年劣化によるものなのかページが破損している部分もあった。
 解読している最中に目を引いたのは『幻想郷』と呼ばれる場所で実際に起こったとされる異変と呼ばれる出来事に関しての記述だ。そこには七月に霧雨魔理沙がアリス・マーガトロイドの人形に合わせて語っていた『永夜異変』とほとんど同じ内容が記述されていたのだ。
 阿礼の「これからも彼女と共にこういうことをするのであれば、きっと役に立つはずです」と「私は元々こちら側の人間なのです」という二つの発言、そしてなぜ彼女がこれを持っていたのか、永夜異変のことを詳細に知っていた魔理沙さんならその答えを持っているかもしれない。
 そう考えた蓮子は急遽、霧雨雑貨店へ足を運ぶことにした。
 閉店作業を終えた魔理沙が店の奥のカウンターで退屈そうにくつろいでいた。そして蓮子に気が付くと声をかけてきた。
「やあ、こんな時間に珍しいじゃないか。もうじき閉店時間だから買い物するならさっさとしていってくれ」
 それに対して今日は買い物じゃないんですよと言いながら幻想郷縁起を魔理沙に見せる。
 それを見た魔理沙はありえないものをみたような様子で言葉を返す。
「それをどこで手に入れたんだ。ごまかしは無しだぜ。それはそんな簡単に手に入るものじゃない」
 魔理沙の雰囲気から自分の考えが正しかったことを悟る。
彼女はいったい何を知っているのだろうか?
興味がわいてきた。
「ごまかしなんてしませんよ。稗田さんにいただきました」
「稗田と言えば阿求……、いや今はもう別人か。そいつがお前にそれを渡したのか。どういう経緯でもらったのか聞いてもいいか」
長くなりますよと言うと彼女は大丈夫だ。夜はまだこれからだと笑って見せた。
店の閉店後、奥に存在する居住空間である居間に通され紅茶を飲みながら阿礼を追ってメリーと境界を超えた話をする。
「これは驚いたぜ。まさかお前の友達にそんな人間離れしたやつがいるとわな」
彼女はそう言いつつ紅茶を飲み、一泊置いてから話を続けた。
「わかりやすく説明すると、その本はこっちの人間たちが言うところの境界の向こう側と呼んでいる幻想郷という土地についてまとめた本だ。お前の持っているその本を最後に編纂したのは九代目当主の稗田阿求というやつだ、稗田家はその本を代々編纂している家計で阿礼は10代目の跡取りだったんだろうな」
「随分と詳しいですね。もしかして魔理沙さんも幻想郷の出身なんですか?」
 彼女はもちろんと答え話を続けた。
「自慢じゃないが、私はその本に掲載されている異変のほとんどにかかわっているぜ。私の話に出てくる白黒の魔法使いっていうのは若いころの私自身だからな」
 それを聞いた蓮子は勢いよくテーブルに手をつき、身を乗り出す。
「ということは魔法とか使えるんですか?やって見せてくださいよ!」
 彼女は一旦落ち着けと蓮子を制す。
「こっちじゃまともに魔法が使えないんだ。時が来たら見せてやるよ。アリスなら少しだけ使えるかもな」
 蓮子はそうなんですかと残念そうに席に戻る。
「とりあえず、今の私に話せるのはここまでだ」
 彼女はそう言うと一気に紅茶を飲み干す。
「今度、その友達も呼んででもお茶会でもしようぜ。興味がわいてきたんだ」

 お茶会当日、閉店後の霧雨雑貨店に参加者だけが残り居間で紅茶の香りを漂わせていた。
 お茶会の参加者は蓮子、マエリベリー、魔理沙、アリスの四人。
 四人はそれぞれ自己紹介を終えるとマエリベリーはアリスに人形を実際に動かして見せてもらっていた。
「すごいです。本物の操り人形って初めて見たんですけど腕や足の関節部分までしっかり動くんですね」
 マエリベリーはかわいらしいデザインの人形たちが動くさまを見て、子供のように目を輝かせていた。
 それを見ている魔理沙がこっそりと蓮子に耳打ちをする。
「あれがアリスのこっちでも少しだけ使える魔法だぜ。目に見える糸以外に素質があるやつか魔法が使えるやつくらいにしか見えない糸が仕込まれていてそれで細かい部分を動かしているんだ」
 蓮子はへえと言いながら動いている人形と糸の位置関係を観察する。たしかに関節部などの細かい部分に何か仕掛けがあるようには見えない。
「なんか魔法って言うより手品みたいですね」
 魔理沙はそうかもなと紅茶を一口飲んだ。
 マエリベリーがアリスの演技を一通り見て満足したところでアリスが話題を切り替えた。
「そういえば、スラムのほうで新興宗教が流行っているみたいね。こっちに来ることはないかもしれないけど用心したほうがいいかもね」
それを聞いた魔理沙が反応する。
「私には縁のない話だな。神様っていう連中は私たちの思った通りになんて助けてくれないんだ」
 すみませんとマエリベリーは手を挙げて発言する。
「スラムって貧民街のことですよね。日本にもそんな場所あるんですか?」
「メリーは日本のスラムのことを知らないのね。スラムって言うのはあくまでスラングで正式名称はたしか選民特別区よ」
 科学世紀において発展した選民思想は過激なものではない。選ばれなかったから国民ではないというわけではなく、国民のなかでランク付けがされているのだ。そのランクは中学校までの義務教育期間に出した結果に応じて決定される。そして選民特別区で生活しているのは義務教育期間で目立った結果を出すことができなかったいわゆる中卒の人々だ。そのような人々は選ばれた国民比べれば基本的には収入も生活のレベルも劣るし、公的な機関を利用する際も優先順位が下がってしまっているのが現状だ。しかし、逆転のチャンスは残されている。いつの世も後咲きの人物は存在しており、個人の研究や一大事業を成功させて社会に大きく貢献したと政府に判断されたものはランクを上げることができたりもするがこれはごく一部の人物だけの話だ。
 マエリベリーは説明を聞いて日本は世知辛いのねと感想を漏らしているよそで蓮子はとある疑問を抱いた。
 魔理沙は幻想郷の出身だと言っていた。アリスも魔理沙と長い付き合いがあるらしいから同じだと考えられるだろう。だとしたら彼女らのランク付けはどうなっているのだ?この二人はこの国で義務教育を受けていない。だとしたら当然、最底辺のランクに指定されるはずだ。だが、彼女らは日本の首都に住んでいる。ということは少なくとも特別区に住むことを強要されない程度であるということになる。これはどういうことなのだろうか?
 蓮子が考えていると三人は神様についての話をしていた。
「魔理沙さんは神様とか信じてるんですか?」
「そうだな、信じてる信じてないじゃなくて、神様は確実に存在する。でもあいつらは私たちが望んだ通りには助けちゃくれないんだ」
「そうなんですか?でもそんな人間臭い神様も素敵じゃないですか。完璧じゃないほうが愛嬌あっていいと思います」
「ごめんね、ハーンさん。魔理沙はちょっと変わった場所で育ってきたから少し感覚がずれているのよ。話半分に聞いてちょうだい」
 アリスはそう言って半ば強制的に会話を終了させる。
 魔理沙はアリスに反論しようとするが、口の中にクッキーを押し込まれて黙らされた。
 こんな調子でお茶会は進み、二十二時を過ぎたところでお開きとなろうとしていた。
 四人で片付けをしている最中にマエリベリーがお手洗い借りようと残りの三人に背を向けるとその背中に服の上から扉が開いた。それを偶然目撃した蓮子から何あれと素っ頓狂な声が漏れた。それに気が付いたほかの二人もマエリベリーのそれに気が付き、魔理沙は目を丸くした。
 魔理沙はそれを見て何かを言いかけるがそれを聞き終える前に何かに吸い込まれる感覚と共に蓮子の視界が暗転した。

 蓮子は気が付くと森の中に倒れていた。
 周囲を確認する前にいつもの癖で夜空を見上げる。木々の隙間から見えた月を星から場所を読み取ることはできなかったが二十二時三十分二十三秒と言う時間を読み取ることはできた。次に携帯端末の位置情報を調べるが当然と言うべきか知ることができず、マエリベリーの位置情報を掴むもできなかった。
「ようやくお目覚めか。まああんなことがあったんじゃ仕方ないか」
 そう言って近くの木に背を預けて座っていた魔理沙が立ち上がった。
 蓮子も立ち上がりつつ、言葉を返す。
「ここがどこかわかりますか?」
「もちろんだ。ここは幻想郷の魔法の森だ。ついでに言っておくと私が目覚めた時にはアリスは近くいなかった。きっとバラバラに飛ばされたんだろうな」
 あいつなら何とかなるだろうと言いながら蓮子が持っていたはずのペンライトで足元を照らしながら歩き出した。
 蓮子も速足で彼女に追いつき、会話を続ける。
「これからどうします?アリスさんとメリーを探しますか?」
 魔理沙は顎に手を当てつつ言葉を返す。
「探すのもいいが、それよりも確実な手段があるからそっちを取ろう。それにこっちで活動するなら準備が必要だしな」
 蓮子は準備ってなんです?と聞くと何に襲われてもいいように戦う準備だと返した。
 しばらく歩くと開けた場所に出た。そこには平屋の小さな家が建っていた。
「あったあった。あれは元私の家だ。もうだいぶボロボロになってるけどまだ健在だな」
 少し待っててくれというと彼女は一人で家の中へ入った。
 しばらくすると、家から白黒のエプロンドレスに魔女が持っていそうな箒と薄汚れたリュックを背負った見知らぬ金髪の少女が出てきた。
「さあ、準備はできたから早速行こうぜ、蓮子」
 目の前の少女はたしかに見覚えがないが、特徴的な話し方とさっき家に入っていった女性の面影が残っているように見える。
「まさか、魔理沙さんですか?」
「そのまさかだ。驚いただろ。若返りの薬、と言っても肉体活性化の魔法の一種なんだが。それ残っていたから全盛期の私の姿に戻ったわけだぜ」
「疑っていたわけじゃないですけど、魔理沙さんが魔法使いって本当だったんですね」
 種族は人間だけどなといいながら得意げな表情をする。
「さて、これから行くところは幻想郷の内と外の境目にある博麗神社って場所に向かう。きっとアリスも準備を整えて、そこに向かうはずだ。そこでいったん合流してからマエリベリーを探そう」
「依存はありませんが、もしその間にメリーが何かに襲われでもしたら……」
「たしかにそれはあるが、今はある程度のリスクを負わないといけない状況ってことだ。それに彼女、よくこういう場所に迷い込んでるんだろ?ならこういう時どうするべきか一番分かってるんじゃないか?」
 蓮子は自分を安心させるために彼女の言葉を飲み込む。
「さて、出発したいところだが、早速お客さんだぜ」
 そう言って彼女は森のほうへ目を向ける。
 蓮子も同じようにそちらへ目を向けるとそこにいたのは巨大な猪だった。
 猪は本来、田畑を荒らしたりはするが積極的に人を襲うような生物ではない。しかし目の前のものは違う。不自然に体躯が発達し、目は不自然に赤く光っている。
 蓮子の眼には間違えなく、化け物に映っていた。
「さすがにあれはまずくないですか?早く逃げないと」
そう言いながら彼女の背後に隠れる。
「大丈夫だ。あれは人の穢れを受けて中途半端になっちまったやつだな。大したことない。でも念のためにそうしていてくれ」
 彼女はそう言って指を鳴らすと彼女の周囲に熱量を持った光の玉が複数出現する。
「ちょうどいい。すこしだけ魔法についてレクチャーしてやる。魔法って言うのは人間の中にある魔力と呼ばれる生命エネルギーを用いて自然界の物質に干渉及び現象を引き起こす術のことだ。だがそれもあくまで自然界存在する物理法則などに乗っ取った内容に限るがな。今の私は周囲の光と熱を圧縮して玉にしている」
 彼女がのんびりと魔法の解説をしてくると猪が二人に向かって駆け出し、猛スピードで距離を詰める。
「この光の玉自体がかなりの熱量を持っている。こいつだけでもそれなりに危険な代物だが、こんな感じに細長く成形して発射することで武器として使うことができるんだ」
 彼女がそう言うと複数の光の玉から短いレーザーを発射された。それは猪の足を確実にとらえ、派手に転んで動きを止めた。
 猪が動きを止めると無意味な殺生は好かんが言いながら蓮子の腕を振りほどき、箒にまたがって空中に飛び上がった。
 彼女は八角形のものを取り出し、猪に向けて構える。そして八角形の中心に光の玉が集まり、一つの大きな光の柱となって猪に向かって一気に解き放たれた。
 猪は肉が焼ける臭いと地面をえぐる大きな破壊音と共に光に飲み込まれ、光が収束するころには赤く血がにじむ黒く焦げた死体となっていた。
 蓮子は一瞬のうちに起こったあまりの出来事に呆然としていると満足そうに魔理沙が空から降りてきた。
「魔法がここまでとは……、現代兵器も顔負けの威力ですね」
「弾幕に最も必要なものは力だからな。これくらいは普通だな。さあ、私の後ろに乗ってひとっとびだぜ」
 彼女はそう言って蓮子を箒にまたがらせると、箒ごと宙に浮き、謎の推進力で空を進み始めた。
 
 マエリベリーは急に霧雨雑貨店で一人になっていた。どうやら今回はどこかに迷い込んだというより、みんなが突然いなくなってしまったようだ。
 状況にうろたえていると、背中から声が聞こえた。
「お前がマエリベリー・ハーンだな。こうしてお前のもとに後戸を作るまでの力を取り戻すのに随分と時間がかかったぞ」
 誰なのと恐る恐る声をかける。
「よくぞ聞いてくれた。私の名は摩多羅隠岐奈。能楽の神であり星の神であり、被差別民の神とありとあらゆる神格を備えた秘神である。そして今一度、楽園を復興するものだ。お前も興味があるのではないか?お前のような力を持っている者にとっての楽園にな」
 彼女は生唾を飲む。
「それは確かに面白そうな場所ね。でも今はそんなことよりほかの三人をどこにやったかのほうが重要よ。あなたがやったんでしょ?」
「その通りだ。あいつらは今頃、境界の向こう側だ。さあ邪魔者はいなくなった。ゆっくりと話そうじゃないか」
 彼女はよかったとホッとする。
「今回は私が取り残される側なのね。経験がないから新鮮だわ。そのお話はまた今度でいいかしら秘神様。今は蓮子たちのところに行かないと。それにこんな無理やりなやり方は私の趣味ではないわ」
 そう言うと今に置いてある姿見に背中を映し、その目で自身の背中に発生している扉のようになっている大きな境界の裂け目を視認する。そして姿見に映る扉に向かって飛び込んだ。
 次の瞬間、景色が変わり見覚えのない家の中にいた。その家は誰も住んでいないようでとても埃っぽい。
 マエリベリーは咳をしながら目についた棚を見ると異国情緒漂う金髪にメイド服を着せられた操り人形が収納されていた。その人形はつい数時間前にアリスに見せてもらっていたいたそれにそっくりだった。
「せっかく二人だけで話せる状況になったのに、これじゃあいつ邪魔が入るかわからないじゃないか」
 隠岐奈の声は境界を超えても彼女の耳に聞こえている。
「さすが秘神様ね。境界を超えても話せるなんて。その話なら私も興味があるからそのうち聞いてあげるから今は三人と合流するほうが先よ」
「あの者たちならそこまで心配しなくても大丈夫なはずなんだがな。少し献身的じゃないか?」
「ほかの人ならともかく、相手は蓮子だもの。仕方ないわ」
 隠岐奈は何も知らないのに気楽な奴だとため息をついた。
 埃っぽい家を出ると空から人影が降り立った。その影の正体は紅白の巫女服を着た見覚えのある少女だった。
「なんか気になる気配があるから見に来たらまたあんたなの?それに今回はこないだのとは別なおまけつきだし」
 彼女はそう言うとずんずんとマエリベリーとの距離を詰め、腕をつかむ。
「久しぶりね、竹林の時以来かしら?」
 マエリベリーは特に警戒した様子を見せることなく言葉を返す。それに対して紅白の巫女は濁すように返事をする。
「それよりも背中を見せてみなさい。何かが憑いているわ」
 そう言って背中に開かれた後戸を見ると変なものを見たような表情をし、躊躇なくお札を使って隠岐奈のものだと思われる短い悲鳴と共に閉めた。
「これでしばらくは大丈夫ね。あんたってこういうのを集めやすい体質なのかもね。元の世界に返してあげるから、さっさとついてきなさいって言いたいところだけど、もう何人か一緒に来ているみたいなのよね」
 彼女はそう言ってため息をつく。
「一人一人連行するのは面倒だし、まとめようかしら」
 彼女はマエリベリーに朱色の隅で博麗神社と言う文字と何やら陰陽玉のような模様が書かれたお札を何枚か渡してきた。
「これを持っていればとりあえず襲われないはずだから、私が戻るまでここで待っていなさい。全員捕まえてきたら元の世界に戻してあげる」
 マエリベリーはお札を受け取り、物珍しそうに眺めると言葉を返した。
「もしかして、こないだは私たちを元の世界に戻そうとしてくれたの?」
「その通りよ。妹紅のやつに邪魔されちゃったけど。まあ結果的にあんたたちは元の世界に戻ったんだから問題ないわね」
「あの、阿礼さんはその後どうしたかしたか知っていますか?一緒に帰らなかったんです」
「阿礼なら人里で妹紅のやつと暮らしているみたい。何とか生活できてるみたいだしこっちも問題ないでしょ」
 一通り、世間話を終えるとある方角から何かを破壊する音が聞こえた。
 紅白の巫女はその方角を見るとこの方角はと呟いて宙に浮きあがった。
「絶対そこから動いちゃだめよ。わかったわね!」
 そう言うと全速力その方角に飛び去った。
 さて、ここから動くなと言われてもそれではここに来た目的が果たせないと首をひねっていると木の陰に隠れていた人影が現れた。その正体はアリスだった。
「あの子まだあんなこと続けてるのね」
 そうつぶやきつつ、彼女はマエリベリーに近づき、話しかけた。
「あなたが無事でよかったわ。魔理沙たちと合流するために移動しましょう」
「でもさっき、巫女さんにここから動くなって」
「それは気にしないで。どうせここから出ていくのだから大して変わらないわ。さあ家に入りましょう。ちょうどあなたのいるところに建っている家は私のものなのよ」
 彼女はそう言うと家に入っていき、マエリベリーはそれに続いた。

 魔理沙と蓮子は一定の速度を維持しつつ、木々の少し上を飛んでいた。
 初体験の飛行にも慣れ、少し余裕が戻ってきた蓮子は彼女に話しかけた。
「幻想郷出身の人たちはみんな魔法が使えたり、空を飛べたりするんですか?」
 それを聞いた彼女はおかしそうに笑う。
「みんなではないがそれなりにいたな。もっともほとんどは魔法以外の固有能力みたいなものだけどな」
「例えばどんなことができる人がいたんですか?」
「そうだな、インパクトがあるやつだと奇跡を起こしたり、時間を止めたりするやつがいたっけな。それとこれをできるのは人間じゃないが境界を操れるやつもいたぜ」
 その言葉に蓮子が反応する。メリーに類似した能力だ。
「それって八雲紫のことですか?よくメリーが間違えられるそうです」
 それを聞いた彼女はなるほどと妙に納得した様子で会話を続けた。
「たしかにあいつによく似ているな。見た目もそうだがそれ以上に境界に干渉する力っていうのも関係があるのかもしれない」
「紫さんってどんな人物なんですか?妹紅さんは胡散臭いって言ってたんですけど」
「それは一度あいつを見れば誰もが抱く感想だろうな。それに付け加えるなら何を考えているのかよくわからなくて、その能力のせいもあって神出鬼没だ。あいつが姿を見せるときはだいたい何かがあった時だ」
 それでと話を続けようとするが後ろから接近してくる人影に気が付いた蓮子は彼女にそれを報告した。
 彼女はその影のほうに方向転換し、向かい撃つ形を取った。
 人影は月明かりに照らされ、視認できる位置で止まった。それはいつかの竹林で出会った紅白の巫女だった。
「あんたの家のところのなりかけの死体を見て来たわ。まさかその姿になってるとはね。若返りの薬はうまく使えたみたいね」
 あれは若返りの薬なんかじゃないだがなと言いながら、やれやれといった様子で首を振る。
「お前になんど原理を説明してもわからないだろうからそれでいいや。それで一体何の用だ?」
「何の用って一つしかないでしょ。その後ろに乗せている白黒を渡しなさい。そいつを捕まえればアリスの家にいたやつと合わせて増えた仕事が片付くんだから」
 それを聞いた魔理沙はにやりと笑う。
「それは良いことを聞いたぜ。あいつはアリスの家にいるんだな。なら問題ないな。そして尚更、お前にこいつを渡す理由がなくなったぜ。あとは私がやっとくからさっさと帰りな」
 彼女はしっしと追い払うようなしぐさをする。
「残念ながらそう言うわけにもいかないのよ。あんたがそう言うなら力づくよ。あんたと勝負するのもいつぶりかわからないわね。そのお荷物下ろすまで待っててあげるから早くしなさい」
 紅白の巫女はそういうと手に持っているお祓い棒を魔理沙に突きつける。
 魔理沙は仕方ないなと言いながら何かを呟きながら蓮子の体に触れる。すると蓮子の体の内から異常なほどに力が湧いてくるような感覚を得る。
「今、お前に肉体強化の魔法をかけた。これでちょっとやそっとじゃ何とかなるだろう。それじゃあお前はこの箒を降りたらあそこに見える霧のかかった湖までまっすぐ向かうんだ。頼んだぜ」
 彼女はそう言うとドンと蓮子のことを箒から突き落とした。
「さあ、これで準備はできたぜ。久しぶりに暴れてやるぜ」

 三、四メートルの高さから落ちたのに何ともない不思議な感覚に得ながら木々の隙間から夜空を見上げるとそこには二人の少女が色とりどりの星の形をした光の塊やレーザー、お札、針などの弾幕を撃ち合う様子が展開されていた。そして少女たちはそれらすれすれのところで交し合っている。その姿は恐ろしくも美しい少女たちと光による演技にも見えた。
 しばらく見とれていると足元に流れ弾の針が刺さり、我に返った。
 もしかしてここにいたら流れ弾に当たって無事では済まないのではないかという思考が頭をよぎる。
 蓮子は魔理沙に言われた言葉の意味を理解し、湖に向かって走り出した。
 時間の経過と共に上空の戦いは激しくなり、地上に多くの流れ弾が飛んでくるようになる。蓮子は転びそうになりながらも必死の思いでそれらをやり過ごしながら走り続け、ようやく湖にたどり着いた。
 そのころ上空では魔理沙が放った光の柱と紅白の巫女が張った巨大な結界がぶつかり合い、大きな爆発を起こしていた。
 それを眺めていると魔理沙が爆発を逃れ、とてつもない勢いで蓮子に突っ込み、右腕で抱えるようにして湖の霧の中へと入っていき、湖の中心である最も霧が深いと思われる場所で止まった。
「ここまでは想定通りだ。さっきの爆発であいつは私のことを見失っているはずだ。だからチャンスはこの一回だけだ」
 彼女はそんなことを呟くと八角形ものを取り出し、角度と方角を確認し始めた。
 魔理沙の腕から逃れ、何とか箒に這い上がった蓮子は何をしているのか質問した。
「ああ、これからこいつの最大出力で目的地まで一気に吹っ飛ぶからその調整だぜ」
 何を言っているのかわからないが、きっととんでもないことが起こる。それだけは理解できた。
「でもそんなことしていいんですか?彼女との勝負を投げるようなことして」
 それを聞いた彼女は得意げに笑って見せる。
「逃げるが勝ちだぜ。このままじゃ埒が明かないからな。さあ来るぞ、正面からだ!しっかりつかまってろよ。それこそ死ぬ気でな!」
 そう言ってあいているほうの腕を大きく上に持ち上げると水面から水の塊がまるで切り離されたかのように持ち上がり、前方へとその形を保ったまま投げ飛ばされるのと同時に蓮子は魔理沙のお腹にしがみついた。
 水の塊は避けようとした巫女の前ではじけ、その体にまとわりつくように水がかかり、体制を崩す。
「こんなことしても無意味よ!時間稼ぎにしかならないわ」
 彼女はそう言って水を振り払う。
「いや、時間は十分稼がせてもらったぜ。じゃあまたどっかで会おうぜ!恋符マスタースパーク!」
 彼女はそう叫ぶと八角形の中央から先ほどの大きさを優に超える極大の光の柱が放たれ、その衝撃をもろに受けた水面からはとんでもない量の水柱が上がり、それに巻き込まれた巫女は湖に沈んでいく。
大きな水柱を隠れ蓑にマスタースパークで得た力で一気に加速し、湖を最高速度で離脱した。

 アリスと合流したマエリベリーは巫女に見つからないようにするために徒歩で博麗神社に向かうことにした。
 アリスは危険だからと少し前を歩き、マエリベリーはその様子を背後から観察していた。
彼女の周囲には家の中で見つけた人形たちが小さな槍や剣などの武器を持って浮遊している。その人形たちは彼女がしている銀の指輪から伸びている虹色の糸に繋がれているようだ。その糸は霧雨雑貨店で演技を見せてもらったときに関節部から伸びていたものと同じものであるとマエリベリーは感じた。
「霧雨雑貨店で見せてもらっときにも見えたんですけど、指輪から伸びてる虹色の糸で人形たちを操っているんですね」
 彼女は足を止め、マエリベリーのほうに向きなおった。
「あなた、この糸が見えるのね。これは魔法の糸なんだけど普通の人間に見えるなんて驚いたわ。普段からこういうものが見えているのね。違うかしら?」
「その通りです。昔から見えたくないものまで見えてしまうんです。そのせいか幼いころから変なところに迷い込みやすくて」
「なるほどね。だから今回もそのせいだって言いたいのね」
 マエリベリーは萎縮し、ごめんなさいと小声で謝る。
「気を悪くしたなら謝るわ。たしかに面倒ではあるけど、こっちに置いてきちゃったこの子たちを回収することができたしね。謝らないで頂戴」
 彼女はそう言ってマエリベリーに優しく微笑みかけると再び歩き出した。
 マエリベリーはその後ろを追いながら、お礼を言う。
「ハーンさんには私の糸以外に何が見えるの?あっちでそんな人間に会ったのは初めてだから興味があるわ。さぞ強力な力を持っているんでしょうね」
 マエリベリーは一瞬話すのを躊躇したが、彼女なら同じ力を持つ者同士大丈夫だろうと話すことにした。
「私のなんて大したことありません。アリスさんの糸のような普通の人には見えないものや存在が見えたり、境界のほころびが見える程度です。境界のほころびに関してはそれに触れると向こう側に渡ってしまうんですけどね」
 彼女は唸るような声を上げ、本当にそれだけなのかと聞き返してくる。しかしマエリベリーにはこれ以上の検討がつかず肯定の言葉を返す。
「あっちでそこまでできるならそれだけのはずがないのだけど、今のところはわからないのね」
 マエリベリーは何か知っているんですかと聞くが、彼女は首を振る。
「残念だけど、私じゃわからないわ。でもね、あっち側では魔法のような存在が否定されてたいわば幻想の力とでも言うべきものは制限されているみたいなのよ。だから私もあっちじゃ出せる糸の数が大きく限られているの。でもあなたの場合は制限されているのにも関わらずそれだけのことができるなら、本当はそれ以上の何かができるじゃないかって考えただけ」
 マエリベリーは適当に相槌を打ちながら想像してしまう。自分の力がこれ以上強くなってしまい今のままではいられなくなってしまうこと。もしそうなったら人間の世界にはいれなくなってしまうのではないか。その時私はどうすればいいのだろうか。
 マエリベリーはひそかに恐怖した。
「あなた、自分の力についてどう思ってるの?率直な感想を聞きたいわ」
 マエリベリーは心を見透かされたかのような質問にびくりと体が撥ねる。
「そ、そうですね。私は自分の力が疎ましく思います。こんなものがなければもっと楽だったと思います。正直、怖いです」
 マエリベリーが言い終えるとアリスが再びこちらを向き、変え指を動かす。すると一体の人形が目の前まで近づいてきて、眼前に槍を突き付けた。
「あなたの力はまだ見える程度にとどまっている。だったらその目を潰してしまうのが一番手っ取り早いわ」
 彼女の冷ややかな目と声に背筋が凍る。彼女は本気だ。このままお願いすればためらうことなくこの目を潰すだろう。もしここで目を潰してもらえるならもう何も見なくて済むのだろうか?
「迷っているようね。疎ましいのなら迷う必要はないでしょう?それでも何か理由があるのかしら」
 マエリベリーは彼女の言葉にはっとする。この目がなくなったら蓮子との関係はどうなってしまうのだろうか?もしこの目がなくなったら蓮子は私に構う理由がなくなってしまうのではないのか。
「それはできません。今の蓮子との関係を壊したくないから。そのためにはこの目が必要だから……」
 それを聞いた彼女は元の優しい雰囲気に戻る。
「なら、自分の力と向き合いなさい。そのための相談なら乗ってあげるから」
 彼女はそう言うと人形を配置に戻し、再び歩き出した。

 しばらく歩いていると森を抜け、人の手が入った痕跡のある道に出た。そしてまたしばらくすると上り坂に作られた石段が見えてきた。その先を見ると鳥居が建っていて、この先に神社があることがうかがえる。
「この先には神社があるんですか?」
「そうよ。博麗神社と言ってこっち側とあっち側を隔てる境界に建っている神社よ。その参道をまっすぐ歩いて抜ければ超えられるはず」
 二人はそうして石段を登り始めた。
 鳥居の前辺りまで来た辺りで背後から轟音が聞こえ、思わず振り返った。そこには湖から大きな水柱が立っており、こちらに向かって高速飛来する物体が目に映った。
 二人は反射的にその場に伏せ、博麗神社の境内にその物体がつっこんでいくのを感じた。

 蓮子と魔理沙は体にかかる異常な重力を感じながら、博麗神社に向けて吹き飛ばされていた。蓮子からしてみればこれほどまでの負担を受けているのにいまだ意識をしっかりと保てているのかが不思議で仕方がない。
 蓮子の目にもう少しすれば確実に衝突してしまう山肌が迫っていた。
「このままじゃ山肌にぶつかって死んじゃいますよ!どうするんですか!」
 魔理沙は分かってるぜと言うと速度に抵抗するように力を加え、速度を落としつつ高さを調整する。しかしそれでもとてもじゃないが止まる様子はない。
 蓮子は彼女にこの後のプランを聞くと妙に説得力を感じる予想通りの台詞が返ってきた。
「最悪の展開は避けた。あとは博麗神社の境内に不時着するだけだ。何のための身体強化だと思ってるんだ。私を信じろ」
 彼女は楽しそうに笑った。
 その数秒後、神社の境内に不時着し二人して転がり、賽銭箱にぶつかることでようやく止まることができた。
 魔理沙は箒に体重を預けながらよろよろと立ち上がる。
「なんとか博麗神社にたどり着けたぜ。意外となんとかなるもんだな」
 蓮子も賽銭箱を支えにしつつ、ゆっくりと立ち上がりながら言葉を返す。
「本当に死ぬかと思いましたよ。こんなのは二度度とごめんです」
 人間は死にかけることで生を実感することができると聞いたことがあるが、この体験がまさしくその通りなのだろうと痛感した。
 二人は互いのボロボロになった姿を見て声を出して笑い合う。
 そこに聞き覚えのある声が鳥居のほうから聞こえる。それはマエリベリーのものだった。
「さっき飛んできたのは蓮子だったのね。ボロボロだけど大きなけがはしてないみたいね」
 マエリベリーは魔理沙のほうを見てこちらの方はと聞いてくるので事実をそのまま伝えてやった。するとさすがの彼女も驚いた様子でお茶会での会話内容を聞き出してどうにか納得した様子だった。
 あとから様子を伺いつつマエリベリーの後についてきたアリスが彼女に話しかける。
「その姿は久しぶりね。まだあの薬使えたのね」
「まあ何とかな。あっちでは使えないだろうけどあと一本は残ってるぜ」
「思わぬ収穫ね。使いどころがあるかわからないけど」
 彼女は全くだと肩をすくめる。
「さて、これからどうするかだけどとりあえず裏手にある参道を抜けてこの土地を出るわ。さっさと移動すれば朝には携帯端末がつかえる場所に出られるはずだわ。そうすれば誰かに迎えに来てもらいましょう」
 マエリベリーはそれに対して疑問を口にする。
「携帯端末が使える場所に出たとして、こんな異世界に人が来れるの?やっぱり巫女さんに助けてもらったほうがいいんじゃ」
 マエリベリーが続きを言おうとするがそれを遮るように魔理沙が話し出す。
「その心配は無用だ。ここは日本の山奥に隔離された土地なんだからな。携帯端末が使える場所に出れば詳しい場所もわかるはずだぜ」
 その話を聞いてマエリベリーが驚きの声を上げようとしたとき、どこからともなく隠岐奈の声が聞こえてきた。
「私としてはこの土地の詳しい位置が公になるのは困るのだ。霧雨魔理沙」
 魔理沙はまだ生きてたのかと言葉を吐き捨てる。
「生憎と外の世界には私の信者になりえる者たちがいたのでな。実に運が良かった」
 さっさと本題に入ろうと隠岐奈は話題を切り替える。
「お前らは外の世界に帰りたいのだろう?私の力を使えば容易いことだ。帰してやろう」
「ほお、お前みたいな傲慢不遜なやつが一体どんな風の吹き回しだ?」
「秘神に対して失礼な物言いだが、寛大な私は許してやろう」
 彼女はそれにと言うと、気恥ずかしさがあるのか小声になる。
「マエリベリーと二人で話すためだけにほかの者を追いやったのは反省している。だからここでお前らを待ち伏せていたというわけだ」
「秘神様も反省しているみたいですし、ここは言う通りにしませんか?悪い人ではなさそうですし」
 アリスも仕方ないとマエリベリーの呼びかけに同意する。魔理沙も多少機嫌を損ねながらも同じのようだ。
「あとはお前だけだ、宇佐見蓮子よ。お前はどうする?」
 蓮子も同意して問題ないだろうと考えている。しかしなぜ、彼女はメリーが一人でいるときを狙わなかったのだろうか?二人で話したいだけならその方が理にかなっている。なら、彼女には真の狙いがあるはずなのだ。だが、相手は得体のしれない力を持っている存在だ。普通に聞いたって教えてはくれないだろう。
「なら一つだけ、質問させてください。あなたの真の狙いはメリーにこの土地の存在を認識させることだったんじゃないですか?」
 この土地に飛ばされてから蓮子はいくつもの初体験をした。そのすべてにこの土地特有の技術だと思われる魔法が関わっている。アリスと一緒にいたメリーもその一端を垣間見た可能性は十分に考えられる。そしてメリーは自分と同じ特別な能力を行使する人間と触れ合ったら蓮子にしたのと同じように心を許すかもしれない。そんなものに溢れた世界が存在するならそれはメリーにとっての楽園になりえるのでは。
 隠岐奈の愉快そうな笑い声が境内に響く。
「面白いことを言うではないか!ただの人間にしては見事な発想力、人間のままにしておくには惜しいくらいだ!」
 彼女が言い終えると最初と同じようにマエリベリーの背に貼られているお札が引きちぎれ、戸が出現する。そしてそこに吸い込まれるような感覚を得る。
「またどこかで会おう。宇佐見蓮子、そして紫の忘れ形見よ!」
 その言葉を聞いた後に意識を手放した。

 四人は気が付くと霧雨雑貨店で朝を迎えていた。
 最初に目を覚ましたのは蓮子のようで、ほかの三人はまだ机にうつぶせになって眠っていた。
蓮子はこの状態であったことから夢だったのではないかと考えたが、自らのボロボロになった姿を見てあの出来事が現実であったのだと確信する。
 あんな体験をしたというのに思考は妙に冷静で最初に浮かんだのは今日が休日で良かったということだ。
今日が休日だとわかるとどっと疲れが出てきた。三人には悪いが書置きでも置いて一足早く帰らせてもらおう。職務放棄に当たるかもしれないが、どうせこれからもこんなことが続くかもしれないのだ。一日ぐらいなら罰も当たらないだろう。
蓮子は自分を納得させつつ、帰路へとついたのだった。
お久しぶりです。
本日開催のエア例大祭の宣伝も兼ねて投稿しました。
本の内容は創想話にて更新している宇佐見探偵をまとめた内容となりますが、書籍限定のエピソードが付く予定です。
booth
https://gekkatei06-14.booth.pm/
是非、お手に取ってください。
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コメント



0.簡易評価なし
1.90奇声を発する程度の能力削除
面白くて良かったです
2.100終身削除
仕事で付き添っているようなフシのある蓮子に対してメリーが目を無くすこと自体じゃなくて自分を散々恐ろしい目に遭わせてきた目と蓮子との友情を天秤にかけて葛藤に苦しんでいるのが心苦しかったです 蓮子とメリーの関係がどう進展していくのか気になります
3.100ゆっくりmiyaさん 「とあみやさん」削除
待ってました!