弾幕を終えて地に降り立つと、彼女は涙を流していた。
「どうしたの?」
「よく、分からないのです」
私の問いに、彼女は涙を拭うこともなく、困惑するように首を傾げた。
「貴方の弾幕を見た瞬間から、何故だか懐かしさと悲しさが溢れて止まらないのです」
私は首を傾げた。胎児の夢は、そういうものではなかった筈だが、と。
「ねえ、貴方……」
「……伯封」
ぽつり、と呟かれた言葉に、私は思わず動きを止めた。
はくほう、という単語に聞き覚えがあったわけではない。けれど、その言葉に乗せられた感情が、嘆きである、ということだけは朧げながら理解できてしまったのだ。
「……どうしたのですか?」
またも首を傾げる彼女に、私は思わず問いかけた。
「今、口走ったのは、なに?」
「なんのことでしょうか」
「いや、今、はくほうって」
「はくほう。誰かの名前ですか?」
ああ、と私は思わず呻いた。そういうことか、と。
「……や、何でもないや」
奇妙なものでも見るような彼女の視線を誤魔化した。
恐らくあの言葉は、彼女の失われた過去に関わる言葉なのだろう。それも、嘆くように紡がれたということは、失われたものか、ひとか、或いは場所か。
どちらにしろ、たぶん、思い出しても不幸になるだけだ。あれはきっと、悲しみから逃れるために削り取られた記憶なのだ。偶然忘れたのではない、己で忘れんとしたのだ。私にはそれが、何となく想像できた。だから、これはこれ以上、掘り下げるべきではないことだ。
暫く待つと、彼女の涙もどうやら途切れたようだった。「心配させてしまいましたね」と言った彼女に、気にしてないと手を振った。
「忘れていましたが、貴方が死の香りを持たない理由が分かりましたよ」と彼女は言った。
「どうしてだったの?」
「先の弾幕の中で、貴方は繰り返し、死に至る程の死の香りを纏っては、その全てを妖弾へと注ぎ込んでいました」
「え、そんなことしてたんだ」
「ええ、恐らく自覚はないと思っていました。恐らく、別の何かを流し込む過程で吸われていったのでしょう」
へえ、と私は声を漏らした。よく分からないが、不思議なこともあるものだ、と。
「ともかく……貴方のそれは一過性のものではないということです。穢れを溜め込み過ぎた者には私のことは見えないのですが、貴方ならそのようなことは起こり得ないでしょう」
そう言った彼女は、何処か嬉しそうな様子だった。
「つまり?」
「きっと、そのうちに再び貴方と会うことはあるでしょう、ということです」
促すと、そのようなことを彼女は言った。
それは、とても素敵なことだな、と私は思った。
「どうしたの?」
「よく、分からないのです」
私の問いに、彼女は涙を拭うこともなく、困惑するように首を傾げた。
「貴方の弾幕を見た瞬間から、何故だか懐かしさと悲しさが溢れて止まらないのです」
私は首を傾げた。胎児の夢は、そういうものではなかった筈だが、と。
「ねえ、貴方……」
「……伯封」
ぽつり、と呟かれた言葉に、私は思わず動きを止めた。
はくほう、という単語に聞き覚えがあったわけではない。けれど、その言葉に乗せられた感情が、嘆きである、ということだけは朧げながら理解できてしまったのだ。
「……どうしたのですか?」
またも首を傾げる彼女に、私は思わず問いかけた。
「今、口走ったのは、なに?」
「なんのことでしょうか」
「いや、今、はくほうって」
「はくほう。誰かの名前ですか?」
ああ、と私は思わず呻いた。そういうことか、と。
「……や、何でもないや」
奇妙なものでも見るような彼女の視線を誤魔化した。
恐らくあの言葉は、彼女の失われた過去に関わる言葉なのだろう。それも、嘆くように紡がれたということは、失われたものか、ひとか、或いは場所か。
どちらにしろ、たぶん、思い出しても不幸になるだけだ。あれはきっと、悲しみから逃れるために削り取られた記憶なのだ。偶然忘れたのではない、己で忘れんとしたのだ。私にはそれが、何となく想像できた。だから、これはこれ以上、掘り下げるべきではないことだ。
暫く待つと、彼女の涙もどうやら途切れたようだった。「心配させてしまいましたね」と言った彼女に、気にしてないと手を振った。
「忘れていましたが、貴方が死の香りを持たない理由が分かりましたよ」と彼女は言った。
「どうしてだったの?」
「先の弾幕の中で、貴方は繰り返し、死に至る程の死の香りを纏っては、その全てを妖弾へと注ぎ込んでいました」
「え、そんなことしてたんだ」
「ええ、恐らく自覚はないと思っていました。恐らく、別の何かを流し込む過程で吸われていったのでしょう」
へえ、と私は声を漏らした。よく分からないが、不思議なこともあるものだ、と。
「ともかく……貴方のそれは一過性のものではないということです。穢れを溜め込み過ぎた者には私のことは見えないのですが、貴方ならそのようなことは起こり得ないでしょう」
そう言った彼女は、何処か嬉しそうな様子だった。
「つまり?」
「きっと、そのうちに再び貴方と会うことはあるでしょう、ということです」
促すと、そのようなことを彼女は言った。
それは、とても素敵なことだな、と私は思った。
悲しくも温かい話でした。
解釈が素敵でしたし、自分が褒められているかのように喜ぶこいしちゃんが可愛かったです。面白かったです。
スペルカードはただの物理的な玉ではないのですね
面白かったです。
母の胎内で見ているスバラシイ大悪夢、そんなもの見たらタダでは済まなそうですね
作者様の解釈はとても素晴らしいと思います。
素敵な作品をありがとうございました。
いいよね純狐
個人的な解釈としては、こいしちゃんは思考できるような自意識も記憶も持ち合わせていないかなと思うのですが、このような解釈のこいしちゃんも良いですね。
純狐さんとの関係も大変綺麗に描けていると思います。有難う御座いました。