夜半過ぎにはよく賑わっていた夜雀の屋台も、夜明けが近いこの時刻には、もう既に客の一人もいなかった。
屋台の女将、ミスティア・ローレライは、満足そうに、鼻歌交じりに屋台の片づけを進めていた。
実際、彼女は満足していた。その日はとっておきの肉を仕入れることができたのだ。
おかげで客も多かったし、売れ行きも普段の倍はあった。万々歳というところだ。
炭に水をかけ、まな板を洗い、タレ壺に蓋をしてひもで縛る。
それから、余ってしまった肉を袋に詰めていたところで、物陰の方から声がかかった。
「ねえ、ミスティア。それ、どうするの」
「なにルーミア、まだいたの? 言っとくけど今日はもう店じまいだからね」
ちらりと、樹の陰に金髪の揺れたのが見えた。
「別にいいよ。私はもうお腹いっぱいだし」
ルーミアはそう言って、それより、と続けた。
「その、袋に詰めてる余りの肉は、どうするの」
「どうする、ねえ」
ミスティアは首を傾げた。あのものぐさ幼女がそんなことをわざわざ訊くとは、と意外に思ったのだ。
「とりあえず、三分の一ぐらいは私の今日の朝食かしら。のこりは腐るといけないし、干したり、燻したり、そのあたりね」
「ふーん」
自分から訊いといてなんだその雑な反応は、とミスティアは文句を言いかけたが、ぐっと堪えた。
ルーミアがそういうやつであることは、前々からよく知っていたからだ。
そうして、ミスティアはルーミアのことを意識から外した。まだ片付けるものは幾つもあるのだ。
どうでもいい問答は流して、早く屋台を片付けて、帰って、朝食を食べて、それからぐっすり眠りたい。
それが、ミスティアの偽らざる本音だった。
「じゃあ、全部残さず食べ切るんだ」
だから、ルーミアがぽつりと漏らした言葉を、ミスティアは聞き逃したのだ。
「……? ルーミア、いま何か言った?」
「いや。彼女はきっと幸せだろうな、って」
そう言い残すと、ルーミアはふわりと浮かんで去っていった。
「……」
何の話だよ。そもそも彼女って誰だよ。
そうミスティアは思ったが、追いかけるのもルーミアに訊くのも面倒だった。そもそも彼女は早く眠りたかった。
そういうわけで、ミスティアはその話についてはもう、考えることを止めにした。
みすちーのお肉の仕入れ先はルーミアなのでしょうか。よく判らなかったです。