あるところに、とてもとても厳しい閻魔様がおりました。
閻魔様に嘘は通じません。とてもごうしゃな椅子に座りながら、閻魔様は魂たちを裁いていきます。
ある魂は、とても大きく揺らめいていました。
閻魔様は魂をのぞきこみます。
魂は、とても大きい商店を営んでいました。たくさんの客にたくさんのものを売り、たくさんの富を築き、しあわせに死にました。
魂は、とても善行を積んでいるように見えます。ですが、閻魔様はさらに魂をのぞきこみます。
魂は、店の者たちに怒鳴り、拳を奮い、足蹴にしていました。使用人たちの顔は、魂の記憶にはとても暗くうつっています。
閻魔様は、魂に地獄行きを告げました。
ある魂は、揺れることはせず、ただそこに佇んでいました。
閻魔様は魂をのぞきこみます。
魂は、ただただ刀の道を生きていました。
幼いころから刀に憧れ、刀を振り、いつしか自身の道になっていました。
閻魔様は、さらに目を凝らします。
魂は、同じような者たちと命のやり取りをしていました。
一人目を切り捨てた時、魂は打ち震えていました。
七人目で魂は切り伏せられました。魂は、しぬその瞬間まで、己の道に満足していました。
同族の命を奪うこと。閻魔様は、その悲しみを教えようとして、口を閉じました。
魂は、やはり揺れ動きません。閻魔様は、魂に地獄行きを告げました。
ある魂は、見てわかるほどに擦り切れ、ぼろぼろになっていました。
閻魔様は、すこしだけためらってから、魂をのぞきこみます。
魂は、ただただ疲れ果てていました
子供の頃は親の暴力と寒さに苦しみました。
歳を重ね、魂は妻を娶ります。ですが、飢えに苦しみ、何人もの子を失いました。
魂は更に歳を重ねます。いよいよからだは動かなくなり、妻は先立ちました。子供たちは戦に取られ、男はただ布団で己の動かぬからだに涙しました。
畑を耕すこともできず、だんだんと食糧が無くなっていきます。
魂は、ある時に盗みを働きました。大根を三本。ただそれだけのはずだったのです。
盗みを働いた先の家には、若い夫婦が住んでいました。
魂は大根を盗んだところを見られてしまいました。激しく打ち据えられ、それでもほうほうのていで大根を一本だけ懐に忍ばせたのです。
魂は家路につく途中で、近くにあった尖った石で喉を貫いてしにました。
魂は、耐えられませんでした。どうしてこんなにみじめなのか。痛いのか、苦しいのか。
魂は楽になれるかと思い石で喉を貫きましたが、ただの石なのです。魂はさんざんと苦しんで、泣きながらしにました。
誰も幸せではありませんでした。
閻魔様は言葉を出そうとして、喉のおくがつかえました。
魂は、いきたがっていました。ですが、その果てに積み上げたものに耐えきれずにしにました。
誰が悪かったのでしょうか。魂でしょうか。それとも魂を打ち据えた家族でしょうか。はたまた世界が狂っていて悪いのでしょうか。ですがそうなると閻魔様も悪いのではないのでしょうか。
とてもとてもながい思考の時間。それはたったの数秒でした。
閻魔様は魂に地獄行きを告げました。
魂を見終わって、閻魔様は溶けた鉛を喉のおくに流し込みました。
とても悲しいのです。泣きたくなるのです。
それでも、口を動かさなくてはいけないのです。
そのために、閻魔様は鉛を飲み込むのです。
閻魔様の椅子の下には、たくさんの魂たちの成れの果てがうずもれているのです。
閻魔様は嘘をつけないのです。だから閻魔様は口を止めるわけにはいかないのです。
誰も知りません。閻魔様は泣いているのを我慢しているのです。
口から喉へ広がる痛みが、ただ閻魔様の償いなのです。
誰も閻魔様の哀しみを知りません。
罪を雪いだ魂たちが、地獄の赤黒い大地を進んでいきます。魂たちは、しかるべきところで新しく生を受けるのでしょう。
閻魔様は、しらずに泣いていました。ただその景色だけで、閻魔様は救われるのです。
閻魔様は、今日も椅子に腰かけ、魂たちをのぞきこみます。
とても悲しいことを知りながら、その果ての幸せを見るために。
閻魔様に嘘は通じません。とてもごうしゃな椅子に座りながら、閻魔様は魂たちを裁いていきます。
ある魂は、とても大きく揺らめいていました。
閻魔様は魂をのぞきこみます。
魂は、とても大きい商店を営んでいました。たくさんの客にたくさんのものを売り、たくさんの富を築き、しあわせに死にました。
魂は、とても善行を積んでいるように見えます。ですが、閻魔様はさらに魂をのぞきこみます。
魂は、店の者たちに怒鳴り、拳を奮い、足蹴にしていました。使用人たちの顔は、魂の記憶にはとても暗くうつっています。
閻魔様は、魂に地獄行きを告げました。
ある魂は、揺れることはせず、ただそこに佇んでいました。
閻魔様は魂をのぞきこみます。
魂は、ただただ刀の道を生きていました。
幼いころから刀に憧れ、刀を振り、いつしか自身の道になっていました。
閻魔様は、さらに目を凝らします。
魂は、同じような者たちと命のやり取りをしていました。
一人目を切り捨てた時、魂は打ち震えていました。
七人目で魂は切り伏せられました。魂は、しぬその瞬間まで、己の道に満足していました。
同族の命を奪うこと。閻魔様は、その悲しみを教えようとして、口を閉じました。
魂は、やはり揺れ動きません。閻魔様は、魂に地獄行きを告げました。
ある魂は、見てわかるほどに擦り切れ、ぼろぼろになっていました。
閻魔様は、すこしだけためらってから、魂をのぞきこみます。
魂は、ただただ疲れ果てていました
子供の頃は親の暴力と寒さに苦しみました。
歳を重ね、魂は妻を娶ります。ですが、飢えに苦しみ、何人もの子を失いました。
魂は更に歳を重ねます。いよいよからだは動かなくなり、妻は先立ちました。子供たちは戦に取られ、男はただ布団で己の動かぬからだに涙しました。
畑を耕すこともできず、だんだんと食糧が無くなっていきます。
魂は、ある時に盗みを働きました。大根を三本。ただそれだけのはずだったのです。
盗みを働いた先の家には、若い夫婦が住んでいました。
魂は大根を盗んだところを見られてしまいました。激しく打ち据えられ、それでもほうほうのていで大根を一本だけ懐に忍ばせたのです。
魂は家路につく途中で、近くにあった尖った石で喉を貫いてしにました。
魂は、耐えられませんでした。どうしてこんなにみじめなのか。痛いのか、苦しいのか。
魂は楽になれるかと思い石で喉を貫きましたが、ただの石なのです。魂はさんざんと苦しんで、泣きながらしにました。
誰も幸せではありませんでした。
閻魔様は言葉を出そうとして、喉のおくがつかえました。
魂は、いきたがっていました。ですが、その果てに積み上げたものに耐えきれずにしにました。
誰が悪かったのでしょうか。魂でしょうか。それとも魂を打ち据えた家族でしょうか。はたまた世界が狂っていて悪いのでしょうか。ですがそうなると閻魔様も悪いのではないのでしょうか。
とてもとてもながい思考の時間。それはたったの数秒でした。
閻魔様は魂に地獄行きを告げました。
魂を見終わって、閻魔様は溶けた鉛を喉のおくに流し込みました。
とても悲しいのです。泣きたくなるのです。
それでも、口を動かさなくてはいけないのです。
そのために、閻魔様は鉛を飲み込むのです。
閻魔様の椅子の下には、たくさんの魂たちの成れの果てがうずもれているのです。
閻魔様は嘘をつけないのです。だから閻魔様は口を止めるわけにはいかないのです。
誰も知りません。閻魔様は泣いているのを我慢しているのです。
口から喉へ広がる痛みが、ただ閻魔様の償いなのです。
誰も閻魔様の哀しみを知りません。
罪を雪いだ魂たちが、地獄の赤黒い大地を進んでいきます。魂たちは、しかるべきところで新しく生を受けるのでしょう。
閻魔様は、しらずに泣いていました。ただその景色だけで、閻魔様は救われるのです。
閻魔様は、今日も椅子に腰かけ、魂たちをのぞきこみます。
とても悲しいことを知りながら、その果ての幸せを見るために。
とても良かったです。
苦しみながらも役目に徹する閻魔に誠意と優しさを感じました
ただ、幻想郷は戦争を経験していないような気がします。