Coolier - 新生・東方創想話

第9話 運命と予知編

2020/04/09 21:41:38
最終更新
サイズ
31.57KB
ページ数
1
閲覧数
1385
評価数
1/1
POINT
100
Rate
12.50

分類タグ

 暖かな日差しの中。湖のほとりを両津たちは歩いていた。両津、小町、そして四季映姫の3人だ。今日は紅魔館のパーティーに招かれていた。
「素晴らしい天気です。パーティーが室内なのが勿体ないくらいの。」
 機嫌よく四季映姫が言う。小言が多い性格が災いし、こういうお招きがあるのは本当に貴重なのだ。
「そうですねー……」
 やる気なく相槌を打つのが両津。本来、こういうタダ飯の機会があれば最もはしゃぐ人間である。しかし場所が紅魔館なのが問題。正確には、ある一人の人物なのだが。
 事情を知っている小町が両津の背中をポンポン叩く。
「まぁまぁ両さん。”あの子”も悪気があるわけじゃないんだ。」
「だから始末に悪いんだが。」
「ん?”あの子”とは?」
 映姫の質問に小町は答えなかった。それはその答えがすぐ目の前だったからだ。
 3人は紅魔館の門前に到着。出迎えたのは門番の紅美鈴……ではなかった。正確には美鈴もいたのだが。
「お待ちしてましたわ、両様!」
「ごふっ!」
 紫色のミサイルが両津の鳩尾に突撃する。崩れ落ちる両津。しかし、その紫色は止まることなくマシンガントークを展開した。
「両様、来てくれて嬉しゅうございます!私、お手紙を送らせて頂いてから毎日眠れぬ日々を……。今宵は思う存分お楽しみください。あれ、両様どうしまして?まさか、お腹が痛いのですか!?小悪魔ー!すぐに救急車、いやドクターヘリを!え、いらない?そんな、お無理なさらずに!!」
 あまりにアクティブに動く、動かない大図書館。笑いをこらえる小町と美鈴。そして映姫はドン引きしていた。
(ちょっと小町!これ、どういうことなんですか?)
(四季様。事情がありましてね、ククク。)


 回想開始。
 これは魔理沙が両津に捕まってすぐの話だった。魔法の森にある魔理沙の家にて両津の怒鳴り声が木霊する。
「おい貴様!何だ、この本の量は!?まさか、これがこのリストに書いてある”盗んだ本”か!?」
「盗んでない、借りてるだけだよ……死ぬまでな。」
「ったく、今すぐ返せ。」
「はぁ!?無理だろ、この量。」
「貴様が持ってきたんだろうが!!」
「だから言ってるだろ。向こうが取りに来るんだったら返してやるって。私からは返さないね……イテッ!殴りやがったな!?」
「この馬鹿もんが!」
「痛いッ!また!」
「もうワシがやる!ワシが全部返してきてやる!次盗んだらタダじゃ置かんからな!首輪つけて引きづり回してでも返させてやるから覚悟しろよ!!」
回想終了。


(で、両さんが台車に全部の本を詰めて、一人で紅魔館に返しに行ったわけですよ。その時のパチュリーさんの感謝っぷりといったらもう。それ以来、両様両様と慕ってるんですが。その慕い方がどうもズレてて。)
(ズレる、とは?)
(見てたら分かりますよ。)
 映姫と小町が会話してる頃には両津は回復していた。
「とにかく、ワシは無事だ。だから一人で……」
「小悪魔ー!お茶セット用意させてー!さ、さ、両様こちらです。」
「聞いてくれ……」
 半ば拉致されるように図書館に連れ去られる両津。取り残された映姫と小町。そこに美鈴が気まずそうに尋ねた。
「ははは、パチュリー様、朝から気合入ってましたからね。どうします?パーティーは17時からの予定で、開始まではラウンジでおくつろぎ頂くことになってますが。」
「お気遣い感謝いたします。しかし……ウチの両津をこのまま放置しておくのも不安なので、図書館に案内して頂けますか?」
「かしこまりました。こちらです。」
 美鈴の案内で図書館に向かった。


 既に図書館に到着した両津は最初の難題に直面していた。
 アンティークのテーブルとソファ。そして上には紅魔館最高級のケーキと紅茶だった。
 ”紅魔館”最高級である。
「パチュリー様、生き血入りケーキをお持ちしました。採血後、12時間でございます。」
「さぁさぁ両様、召し上がって。」
「……この血、誰の?」
「小悪魔ー、誰の?」
「人里の吉田健三郎さん、32歳です。」
「ですって。」
「……」
 これである。吸血鬼や魔女の食生活と人間とでは大きく違う。唯一の人間の咲夜もパチュリーが世話を焼きすぎるので出番はない。両津はずっと悪魔・魔女向けの接待を受け続けているのだ。ちなみに前回はカエルの姿焼きとコオロギの酒蒸しが出た。
(食べなさい。それが貴方が積める善行です。)
 遅れて図書館に到着した映姫が小声で両津に言う。
(食べたくないですよ、裁判長ー。)
(ですが!このまま食べなかったら彼女、傷つくじゃないですか。)
(でも……人の生き血ですよ、これ。)
(重ねて言います。食べなさい。)
 映姫が両津の背中をぎゅーっとつねる。舌をも引っこ抜く閻魔の握力で。
(イテテッ!?くっそーーー、ナムサン!)
 両津、覚悟を決めてケーキを一口で頬張った。実際、血の味などほとんどしない。だが、生き血入りと聞けば気持ち悪いのは確かだ。
 が、それで終わるようなパチュリーではない。
「小悪魔-、おかわり持ってきて!」
(……!?)
 両津、吐き出しそうになる。隣の映姫はヤバッて顔だ。ほどなく持ってこられたケーキ2倍サイズが両津の前に鎮座した。
(裁判長ー、これも食べろっていうんですか?)
(え、ええ。それが貴方の積める善行です。)
(嫌ですよ!今度は裁判長が食べてくださいよ!)
(私が!?あ、いえ。私、ちょっとダイエットしてて……)
(ズルいですよ!これについては完全に裁判長のせいで出てきたんですから!)
(いやいやいや、これは絶対無理、ごめんなさい、無理。)
(そう言わずに一口っ!!)
(ちょっと、そんなに暴れないで……あ。)
 陰で戦う両津と映姫。そんな中、映姫の足がケーキの皿にかかってしまい、テコの原理でケーキが空中に舞う。そしてそれは、パチュリーの頭に降りかかった。
「「げぇっ!!」」
 異口同音にヤバイっという表情の両津と映姫。流石に怒られると覚悟する二人。しかし、パチュリーは……笑った。
「すみません、私ったら。ご上司の映姫様の分も用意しないと、両様も食べづらいですわね。」
「ッ!!?い、いえ!全っっっく、お構いなくっ!!」
「小悪魔ー!ケーキ、ワンホール持ってきて!」
「ワンホールって、残り丸ごと!?」
「遠慮なさらず召し上がってくださいね。」
 程なくして、ワンホールの半分ずつのケーキを置かれた両津と映姫。二人は顔を見合わせ、
「「……頂きます。」」
 覚悟を決めた。その時の映姫の顔は、地獄行きを告げられた霊に似ていた。



「小町!てめえ、逃げてやがったな!」
「ははは、四季様もわざわざ魔女の釜に入るような真似しなくても。」
「うぅー、あの魔女が死んだら地獄に落としてやる……」
 両津らが解放されたのは、パーティ開始を告げるメイドが来た後だった。小町はそれまでずっと廊下で待機していた。パチュリーとは別れた。主催者側として準備もあるらしい。
「そういえば今日、レミリアから何かお披露目があるらしいですよ。」
「ああ、そうだったな。パーティーは人集めか。」
 両津らは会場に入る。立食パーティー形式らしく、テーブルには数々の料理(ちゃんと人間向け)と酒。また幻想郷の有力者らが既に歓談していた。そして部屋の隅には何やら布で覆われたもの。それが今回のお披露目だろう。
「小町。レミリアってどういう奴なんだ?」
「見た目も子供、言動も子供。だけどね、何かをやろうとするエネルギーは凄まじい。以前、ロケットを作って月に行ったしね。不思議とついて行きたくなるような、そんな奴だね。」
「私も同感です。彼女は、行動だけにフォーカスを向ければ白でもあり、黒でもあります。しかし、どんな戦いをしても、勝ち負けに関わらず彼女が得をするようになってます。紅魔館が動けば幻想郷が動く。それくらいの影響力はある人物です。」
「ほうほう。」
 意外なべた褒めに面食らう。両津もレミリアに会ったことはあるが、とてもそういう風に見えなかった。しかし小町はとにかく、四季映姫にここまで言わせるのだから、大人物ではあるだろう。小っちゃいけど。
「ん、あれは……珍しい。」
 映姫が見つけたのは紫紙のショートカット。そしてギョロっと向く第三の目。古明地さとりだ。こういう場があっても、滅多に地底から出ない人物なのだが。
 そう思ってると彼女から近づいてきた。
「こんばんは。皆様。」
 さとりの挨拶に合わせて返事をしようとする両津。しかし、その隙すら与えず、さとり節がさく裂した。
「ええ、こいしの姉のさとりですよ、両津さん。心読めます。そして小町さん、ちゃんと食べてます。顔色が悪いのは生まれつきと、久しぶりに地上に出たから。何故来たかったって?呼ばれたからですよ。呼ばれたら来ますよ、私も。行きたいときは。」
 心の目で、相手の質問を先読みするさとり。しかし映姫の前でピタっと止まった。
「映姫様。少し、よろしいでしょうか。」
 さとりが手でジェスチャーをする。人払いだ。
「……小町、両津。ちょっと二人で回ってもらえますか?」
「あ、はい、分かりました。」
 そうして映姫とさとりはパーティー会場から出る。
「何なんだ、いったい。」
「さぁ?さとりさんは旧地獄の管理者。だから仕事で秘密の話があるんだろうよ。アタイらには関係ないさ。」
 肩をすくめる小町。後に小町はこの時を後悔することになるのだが。


 所が変わって会場の裏の控室。美鈴と咲夜が棺桶を運んでいた。それを見守るパチュリーとレミリア。美鈴と咲夜が準備をしてる中、レミリアは満足そうだ。
「波動はどう?パチェ?」
「良好よ。やはりこの者は周期的に目覚める。ピンポイントで最覚醒日は特定できないけど。今の状態なら魔力のブーストで十分目覚めさせられるわ。」
「ふふふ、現世最強の吸血鬼よ。」
 ”これ”を手に入れるのには苦労した。レミリアは約20年前からこれの存在は認識していた。しかし、非常に断続的。1日覚醒したらそこから2年以上も眠りに入ってしまうらしい。何度も何度も探知魔法を駆使し、最近になってついに特定したのだ。なお、この棺桶は外の世界のゴミ埋め立て地に埋められていた。それが未覚醒の内に幻想入りさせ、そして今日の日まで覚醒させる条件を調べていたのだ。
「でもレミィ。今の調子だったら、もっと待てば覚醒条件が整うと思うんだけど。」
「だめよ。もしここから睡眠の方にシフトしてしまったら、また何年も待たなきゃいけないわ。覚醒できる条件が整っているなら多少強引でも覚醒させないと。」
 そうこうしている間に準備が整ったらしい。棺桶は移動式の魔法陣の上に置かれ、周囲にはカエルやコオロギなど、不気味な生贄がささげられていた。
「さて、ギャラリーが驚く顔が目に浮かぶわね。パチェ、術式はどう?」
「ん、あれ?何かしら、この波動?」
 パチュリーは訝しむ。棺桶の中の住人が夢を見てるらしいのだ。その情報が微弱ながら受信された。
「……ぴく……つ。んー何のことかしらね?雑音が多すぎて分からないわ。」
「そんなのどうでもよくない?覚醒させればはっきりするでしょう。」
 レミリアは興味がなさそうだ。パチュリーは肩をすくめて会場に向かった。




 レミリアたちが会場に入った時、ギャラリーは流石にざわざわした。注目はもちろん棺桶だ。追加の魔法陣がパチュリーによって描かれる中、レミリアは講演を始めた。
「お集まりの紳士淑女の皆様。ごきげんよう。今回、皆様にお披露目するのは現世に最後に残る吸血鬼です。」
「吸血鬼?」
 両津も首を傾げる。小町を見ると、小町もさぁという表情だ。
「私が彼の存在を感知したのは、約20年前よ。私はその頃はまだ外の世界のルーマニア(欧州の国。吸血鬼伝説発祥の地)にいたわ。遥か遠くから吸血鬼特有の強大な能力の発現を検知したの。その時は気にしなかったのだけど。そして幻想入りした後。西暦2004年だったかしら。再び検知したの。

 彼の特徴は、覚醒は僅か1日。しかも周期は3~5年と推測されるわ。私たち吸血鬼の睡眠時間より格段に長い。その代わりに力も強大。私の運命を操る力の上位互換のような能力を使っているわ。」
 レミリアの発言でギャラリーが再びざわつく。
(小町、周りは何で騒いでるんだ?)
(レミリアは幻想郷屈指の実力者でプライドが高い。そんな奴が自分より上位だっていうんだから、相当な力なんだろうよ。しかし……そんな化け物を起こして大丈夫なのか。)
 レミリアの講演は続く。

「その後は断続的に弱い力を検出したわ。おそらく何者かに起こされたのか。1年の睡眠では1年分の力。2年では2年分。そして彼にとってベストは約4年周期ではと我が親友パチュリーの計算で導かれたわ。とはいえ、つい最近までは私たちも彼を特定するのを諦めかけていた。睡眠時に彼を探す方法がなかったから。けれどつい最近の月の異変で、ドレミィという女と知り合ったわ。夢を食べるバグの妖怪ね。彼女の助言を元についにパチュリーが開発したのがこの棺桶型検出装置。これが開発されたら後は簡単だったわ。日本で最も夢を長く見ている人間を特定する。彼は何年間も寝続けてるわけだから、ものの一週間で特定できたわ。そしてこの棺桶内に召喚したわけ。
 そして、今日に至るまで彼は眠ったままよ。今、ちょうどよい時期に入ったから、この場で起こすっていうわけ。え、何、パチェ?もうちょっと時間かかる?あ、皆さん、もうちょっと待っててね。」
 レミリアは壇上から降りると、何やら指示を飛ばしている。その合間に小町と両津に近づく人間がいた。古明地さとりだ。
「こんばんは、皆様。映姫様ですが、先に帰られました。気分が優れないと。」
「え、四季様が?」
「ええ、しかしご心配なく。皆様は予定通りパーティーを楽しまれてください。」
「はぁ……ま、四季様がそういうなら。」
 小町は釈然としない表情で引き下がる。今までこんなことは起きたことはなかったのだが。
「そんなことよりですが……”アレ”は本当に吸血鬼なのでしょうか?どう思います、両津さん?」
「ん、ワシ?ワシに聞かれてもな。」
「私は彼女の演説中、心を見ていました。でもどうやら、波動が似てるから吸血鬼だと決めつけているようで。実際に棺桶も開けたことすらないと。」
「ほぉ、でもスゴイ奴なんだろう?」
「ええ。心を見ますと。彼は予知能力をよく用いるようです。最終居住地は東京都葛飾区。」
「か、葛飾ッ!?まさか、亀有じゃないだろうな!?」
 両津、素っ頓狂な声を上げる。
「亀有?いえ、そこまではレミリアさんの心の中にはないですが……」
 両津の記憶が急速に呼び起こされる。数年に一度しか目覚めない、超能力者、予知能力、亀有……。そして、そういえば今年は東京オリンピック2020だ。
「おい、まさか。だとしたら……ダメだ、今起こしたら!」
「え、え、両さん?ちょっと!壇上に上がったらまずいよ。」
 両津、小町の制止を振り切り、壇上に駆け上がり、棺桶の前に仁王立ち。
「おい、レミリア!ダメだ、コイツを今起こしたら。まだオリンピックが終わってない!」
「はぁ?オリンピック?何を言ってるの?」
「日暮はオリンピックが終わった後じゃないと暴れだすんだ!」
 両津、必死の説得。そう、両津の推測が正しければ、この棺桶の中は日暮熟睡男(ひぐらし ねるお)だ。


 こち亀読者じゃない方に解説しよう。日暮熟睡男とは4年に1度だけ登場するキャラだ。マンガ時間での4年に1回ではなく、リアル時間で4年に1回だ。オリンピックの後に起こされるので、オリンピック男とあだ名されている。こち亀での初めての登場は1980年。以後、2016年までの36年間に10回+α(スペシャルや映画では度々登場)出演している。
 あれだけ不祥事を起こしている両津がクビにならないのは、4年に1度しか勤務しない日暮がいるからだと言われている。しかし、日暮がクビにならないのも理由がある。初登場の単行本21巻ではインスタントカメラ(1980年代にあった高級カメラ。撮影後、カメラ上部から現像された写真が出てくる。)を用いて予知を行う。そこには今から起きる銀行強盗や事故の数々が写されており、警察はそれを先回りすることで事件を未然に防げるのだ。
 と、初登場では予知能力だけだった。しかし次の登場の49巻では超能力設定が付加された。寝起きの不機嫌に任せ、念力を用いて周囲を破壊するという厄介な能力者となった。この設定は映画やスペシャルのオチに最適であり、日暮の超能力を利用して悪役を倒す両津が、結局騙されて起こされたと気づいた日暮に成敗されるというお決まりパターンが生まれる。なので、極端に登場回数が少ないにも関わらず、ファンの人気は結構高い。Wikipediaにわざわざ彼のページができてるくらい人気なので、もっと知りたい方はそれを参考にしてほしい。


 と、まぁこんな感じのキャラである。今年は2020年。東京オリンピックの年だ。だから起こしていいかというとそういうわけではない。日暮は睡眠時間にシビアで、4年も寝てるくせに、少し早く起こされただけで不機嫌になる。況してやこんな訳の分からないパーティー会場の見世物。どう考えてもまずい事態になる。

 が……。

「あ、ごめんなさい、両様。もう覚醒魔法使っちゃいましたわ。もう目覚めます。」
「なにぃ!?げ……」
 開き始める棺桶。そして両津は気づいた。目覚めた日暮が一番最初に見るのは両津。これはどう考えても両津が起こしたと思うだろう。
 棺桶から出てきたのはやっぱり日暮だった。ガリガリの痩躯に、縞のパジャマ。ボサボサの髪と髭。落ちくぼんだ目。いつもと変わらない日暮だ。
「ふぁあああ、両さん……もう起きる時間なの?」
「い、いや、今回は間違いだ!寝てろ、日暮!」
「出てきたわ、最強の吸血鬼!こんばんは、日暮さんでしたっけ?私はレミリア・スカーレット!貴方を幻想郷に召喚したものよ!」
「ば、馬鹿!やめろ!日暮、気にするな、寝ろ!」
「んー……両さん、何か……隠してる?」
 いつの間にか3つ巴の争い。日暮のことをよく知らないギャラリーは楽しくなってる。が、この争い、レミリアが一歩リードしてしまった。
「この子、誰?両さんの子供?」
 日暮が棺桶から出る。
「おい!普段は起きろって言っても寝る癖に、何でこういう時に限って起きるんだ!?」
「まぁまぁ……君、今、何年?」
「えーと、外の世界の西暦なら2020年かしら?」
「んー、じゃあ起きる時間か。どっこいしょ。」
 日暮、完全に起きてしまう。両津、冷や汗ダラダラだ。もうこうなったら寝るまでごまかしきるしかない!
「あれー、両さん。ここはどこ?部長さんは?麗子さんは?」
「ええとな、ここは亀有じゃないんだ……幻想郷っていうところでな。なんて言えばいいのか。」
 両津、説明に困る。その隙にもレミリアの攻勢が続く。
「貴方の力、超能力を見せてもらえるかしら?私を運命を操る能力よりも上位に位置する能力を検知したわ。」
「んー、えー、予知のことかな?」
 ギャラリーがおおっとどよめく。時間を操る能力者すらいる幻想郷でも、未来を予知する能力者はいない。確かに上位互換だ。
「それにはカメラがないと……」
「カメラね。えーと、ギャラリーの方でカメラ持ってる人ー!」
「あやややや、カメラと言えばこの射命丸文にお任せをー!」
 射命丸文がカメラを差し出す。それは……最新式の一眼レフのデジカメだった。
「あれ……このカメラ、フィルムでないよ。」
「だから、お前の時代のカメラはもうないんだ!」
「うっそだー、一々昨日まであったじゃん。」
「お前の一々昨日は12年前で、その時も既に骨董品だ!」
 言い争いをする両津と日暮。レミリアが焦れてる。
「えーと、つまり、もう超能力は使えないわけ?」
「カメラがないと……」
「……」
 レミリア、見る見る内に不機嫌になる。最強の吸血鬼として期待して召喚したものが、全く面白みがない(ついでに言えば吸血鬼でもない)。ギャラリーの白けている雰囲気も後押しし、近くにいた美鈴に当たり散らす。が……
「あ、予知できたみたい。」
「え?」
 にわかに驚くレミリア達。デジカメのフィルムには未来の日付で写真ができていた。手のひらをねじ切る勢いで返したレミリアはマイクを持って叫ぶ。
「皆さんご覧ください!これが日暮さんの予知能力です!早速1枚目を見てきましょう!一枚目はーーーー、こちらッ!」
 プロジェクタ(外の世界より購入)ーで大きく写される写真。だがそれは……
「え?これ、私ですか?死んでる?」
 咲夜が動揺する。画面の中央には老婆。それを囲むように紅魔館の面々(見た目ほとんど変わらず。)。おそらくは、この老婆は咲夜だろう。日付は約50年後だった。ちなみに周りに子供はいなさそうだ。
「あっれー、僕の予知。そんな未来は見えないはずなんだけどなー。」
「おそらくは1980年代のインスタントカメラから最新のデジカメに変わったことで未来の幅も変わったんだろう。」
 両津はそう分析する。
「気、気を取り直して2枚目の写真に行きまーす。こちらです!……ん?」
 今度の写真は緑髪の40代くらいの女。顔立ちからして、恐らくは30年後の東風谷早苗だろう。書類を書いていた。そこには”離婚届”……。
「……」
 非常に気まずい空気が流れた。当の早苗もどういう表情をしていいか分からない。
「つ、つ、次よ!次、次!」
 レミリア焦って進行し、どんどん写真をめくる。ハローワークで落ち込むチルノ、ごみ屋敷の中で引きこもってる鈴仙、ホームレスになってる寅丸星……めくってもめくっても、ロクな写真がなかった。レミリアの表情がどんどん引きつっていく。
「……未来過ぎない?てか、何で皆落ちぶれてるわけ?」
「ワシの派出所では、今から起きる事件の写真が出てたが。どうやらこのデジカメで予知すると落ちぶれた奴の未来が出てくるらしいな。ま、今からの努力で未来は変えられるから安心しろ。ワシらはこれで事件を未然に防いでいたわけだしな。」
 会場の空気がとてつもなく悪くなる。レミリアもいつになく焦り始める。
「う、う~~~~、じゃ、じゃあいいわ!私!この私の未来を予知してみなさい!」
 宣言するレミリア。
「いけません、お嬢様!ロクでもない未来が出てきますよ!」
「やってごらんなさい!私の能力は運命を操る能力!どんな未来が出てきても書き換えてやるわ!」
 おお!とどよめく一同。確かにレミリアだったら書き換えられるかもしれない。ギャラリー(特に先ほど写真で写された人たち)からは期待の目で見つめられる。
「いいよーーー、ほい。」
 映し出される写真。それは大荷物を背負うレミリアに背後に紅魔館の門。そこには差し押さえの札が貼ってあった。が、そこはレミリアもある程度は予期していたこと。
「ふ、ふん。じゃあ今から私が能力を開放するわ。その後、もう一回予知してみなさい!」
「おお……これは……どうなるんだ?」
 両津も初めてのケースで興味津々だ。
「ギャラリーの皆!とくと見なさい!私たち、紅魔館の絆!ケチな予知能力など蹴散らしてやるわ!」
 宣言するレミリアに拍手する一同。日暮は、何かよく分からないという顔だが、とりあえず予知に専念することにした。

「ほい。」
 予知する日暮。
 スクリーンに映し出される写真。PCの画面の前で突っ伏すレミリア。画面には株のフローチャート。大暴落していた。

「ふん!」
 能力を発動するレミリア。
「ほい。」
 予知する日暮。
 スクリーンには、紅魔館の金庫とレミリア。金庫は空っぽでレミリアはPCに熱中。

「ふん!」
 能力を発動するレミリア。
「ほい。」
 予知する日暮。
 スクリーンには、警察に逮捕連行されるパチュリー。警察が持ってる書類には横領と記載されていた。

「ふん!」
 能力を発動するレミリア。
「ほい。」
 予知する日暮。
 スクリーンには、先ほどの咲夜ご臨終の写真だ。

「……」
 ちょっと涙が出てくるレミリア。
「どうやら、順調に過去を遡ってるようだな。たぶん、咲夜が死んで。知恵袋がいなくなって。そこにパチュリーの横領が発覚。金がないから株で一発逆転を狙ったレミリアだが、見事玉砕。紅魔館を差し押さえられたってとこか。どうするレミリア?まだやるか?」
「止めて!お嬢様とパチュリー様のHPはもうゼロよ!く……私に寿命があるばかりに!やはり私がいないと紅魔館はダメなんですね!」
 さりげなく自分を上げる咲夜。ただ自分も、臨終の時に子供がいないことが気になっていた。紅魔館にいると独身で終わるのか。もっと出会いのあるところに転職しようかな……。
「ら、らすと、一回……」
 レミリアが指を上げて言う。
「いいのー?ボクが言うのもなんだけど、もうやめた方が……。」
「紅魔館のレミリア・スカーレットの辞書に退却の2文字はないのよ!」
「失敗の2文字はありそうだがな。ワシが見る限り。」
「分かったー。行くよー……ほい。」
 また映し出される写真。が、今度のはテイストが違った。顔を赤らめたパチュリーが高額の金額が記載された怪しい書類にサインしていた。そのパチュリーの肩に腕を回しているのは……両津だった。
「げぇえっ!?ワシ~~!?」
 飛び上がる両津。そんな両津を敵を見るような目で見る紅魔館一同。パチュリーまでもが白い目だ。
「い、いやいや待て!ワシは何もしてないぞ!」
「今は、ね。でも悪の芽は摘むべきかしら。」
 赤い槍を構えるレミリア。
「待て!レミリア、お前、運命を操るんじゃなかったのか!予知なんて蹴散らすんだろ!」
「……未来は変えられるらしいわね。私の努力で。」
「それがワシを殺すことかー!?」
「ボクが信頼のできる情報(公式)によると、両さんの借金は総額1663兆円らしいよ」
「今のタイミングで余計なこと言うな!あ、そうだ、待て!おかしいだろ!咲夜がしわくちゃの老婆になってるのに、ワシの顔は今のままだぞ!これはあり得ん!」
「でも、連載から40年(リアルのこち亀の連載年数。1976→2016年まで一度も休載なく週刊少年ジャンプに連載される)たっても、年齢変わってないよ?」
「そういうことも言うなーッ!!お前もだろうが!」



「とりあえず、一旦落ち着こうか。」
 先ほどから30分後。両津は椅子に腰を下ろす。紅魔館メンバーに囲まれて。
「ワシが思うにな。要するにそういう未来を避けられるということを実証すればいいんだろ。」
「そうね。それで手を打ってもいいけど。あと30年待てとかそういうのは無しよ。」
「とりあえず他のカメラでやってみよう。さっきのカメラは射命丸のだろ。他人の不幸を撮ろうという邪念が混じったのかもしれん。」
「あやや、心外な!この清く正しい射命丸が……え、何です、皆さん?」
 周囲からの白い目に気づく文。皆、さもありなんという顔だ。
 一方の日暮の方は日暮で囲まれてる。今は瞬間移動を見せていた。
(よくよく考えれば、オリンピックという言葉自体が幻想入りしとらん。バレる心配はないだろう。)
 両津はとりあえず日暮を1日働かせて眠らせようとけばよいだろうと考えた。もし、日暮がオリンピックが終わってないことを知れば(日暮が本来起きるタイミングはオリンピック終了後。)、大変なことになる。
「ありましたよー、ポロライトカメラ!香霖堂から買ってきましたー!」
 射命丸の快活な声が響く。幻想郷最速のスピードで買いに行って戻ってきたらしい。
「よくやったわ。領収書だけ頂戴。……クソ眼鏡、随分ぼったくりやがって。」
 レミリアが悪態をつくが、しばらくして諦めたらしく、カメラを手に取った。
「日暮さん、じゃお願いね。予知して。」
「あーこれこれ。む、むむむ!」
 日暮が気合を入れる。いつものカメラなので、気合の入り方が違う。
「はっはっ!!」
 2枚の写真が映し出された。
「まずは1枚目だけど……え、紅魔館が爆発してる!!今から30分後に!」
 えーー、という声が会場に響く。
「に、2枚目は……こ、これは!時限爆弾の写真よ!」
「何!?」
 両津が飛び上がる。レミリアは日暮をゆする。
「場所は!?場所はどこ!?」
「分かんない……」
「ちょっと!!」
「いいんだ、レミリア。日暮のはそういう能力だ。場所を探すのはワシの役目だ。今から探して解体に行くぞ。美鈴ッ!会場の人たちの避難誘導を頼む。咲夜ッ!パチュリー!!この場所に心当たりは!?」
 両津の指示で美鈴は動く。咲夜とパチュリーも真剣に写真を見ている。それを見てレミリアは少しジェラシー。
「本があるから、パチュリー様の図書館じゃないですか?」
「んー、そうかしら?こんな色の本棚はなかったような……」
 パチュリーが首を傾げる。その間に両津は指示を出す。
「小悪魔はとりあえず図書館を見てこい!あと妖精メイドは全部屋をチェックだ!レミリア、お前は心当たりあるか?」
「……さぁ?似たようなものが沢山あるし。本と本棚と爆弾。これだけじゃね。」
 レミリアも首を振る。気づけば会場に人はいなくなっていた。日暮だけが取り残され、しかも居眠りをし始めた。
「日暮ッ!起きろ、こらッ!もう一回やれ!もっと情報が必要だ!」
「ふぁ……んー、あー、分かった。ほい……」
 写真がもう1枚出てくる。今度はラジオと段ボールだ。段ボールにはボーダー商事と記載されていた。それだけだ。
「これは……事件に関係ない写真なのでは?」
 咲夜が指摘するが、両津が首を振る。
「いや、このカメラで予知した場合、100%事件関係なんだ。他の事件という可能性もあるが。これも何らかの事件が起こる場所だ。日暮ッ!起きろっ!もっとだ!」
「もう……眠いのに……むむむむむ……はぁあああああ!!」
 日暮が気合を入れる!すると大量の写真が噴水のように噴出した。しかし、当の日暮は力尽きたらしく、そのまま眠ってしまった。
「これは……部屋の写真だな。皆集めろ。今回の事件だけとは限らないが。とりあえず爆弾が映ってる写真だけ分けろ。」
 4人で人海戦術で行っていく。まず声を上げたのはパチュリーだ。
「見てください、両様。別の角度からの爆弾です。この本棚は小さいですわ。たぶん図書館のじゃないです。」
 続いて咲夜も声を上げる。
「私も見つけました。ベッドです。どうやらベットの脇のサイドテーブルですね。そこに本が入ってたから本棚に見えた……」
 それを受けて、今度はレミリアが指示を出す。
「全小悪魔に告ぐ。図書館の探索は終了よ!妖精メイドは寝具付きの部屋を中心に見て!あ、あと倉庫の中にもベットがあるからそこも!」
 会場には誰もいないが、レミリアの何らかの能力により伝わったのだろう。咲夜もパチュリーも疑問を持っていない。両津も写真を見つけた。
「ここの隅に映ってるのは、よく見たら爆弾だな。部屋の隅にはラジオ。そしてカーペットか……みんな、このカーペットに見覚えは?」
「……さぁ?これくらいのカーペットでしたら屋敷中にございますので。でも倉庫ではなさそうですね。」
 咲夜が答える。そしてレミリアが続けた。
「不味いわ……妖精メイドから連絡。全部屋チェック終了って。予知が間違いだったのかしら?それとも……」
「あと10分です……」
 咲夜が言う。いくら時が止められるとは言え限度がある。全員が助かるには少なくとも5分前には脱出する必要がある。
「紅魔館の部屋ということは間違いないんだな?」
「ええ、内装やインテリアを見る限りは……。妖精メイドのチェック漏れなのでしょうか?」
 いずれにせよ、5分や10分でチェック漏れを見つけ出すことはできない。レミリアは決断を下した。
「全紅魔館職員、窓からでも扉からでもいいから避難しなさい。今すぐ。」
 レミリアの指令で紅魔館から気配が消えていく。おそらくは脱出したのだろう。が、そんな中、逆に会場に入ってくるものがいた。美鈴だ。
「皆さん、何で避難しないんですか!?もう時間ないですよ!」
「分かってるわ……うーん、あともう少しなのよ。この場所さえ分かれば……」
 レミリアがイライラして写真をテーブルに叩きつける。それを見て美鈴は、
「これ、妹様の部屋ですよ。」
「「「「え?」」」」
 全員、美鈴を見る。
「だってほら、このラジオとか妹様の私物で……皆さん、地下の妹様の部屋、調べました?」
 紅魔館メンバーに気まずい沈黙が流れる。素直に忘れてたのだ。一番最初に復活したのは咲夜だ。
「とにかく、妹様の部屋へ!今なら間に合うかもしれませんッ!」
「おう!!」
 掛け声を出す両津とそれに続く紅魔館メンバー。
「あ、ちょっと待って……行っちゃった。」
 そして取り残される美鈴と日暮。
「……とりあえず、私が担ぐんでしょうか。」
 美鈴は日暮を担いだ。



「フラーーーーン!」
 レミリアがドアを勢いよく開ける!
「わ、びっくりした。どうしたの、お姉さま?」
 中央のテレビの前にはフランと、そして遊びに来てたのか、古明地こいしがいた。
「どうもこうもないわよ!爆弾は!?」
「爆弾?」
「ありました、お嬢様!」
 咲夜が爆弾をわしづかみする。すると、爆弾のカウントが止まった。局所的に時を止めたらしい。
「私が時を止めている間は爆弾の時間は進みませんが、同時に動かせもしません。」
「つまり……ここで解体するしかないわけか。」
 両津がハサミを取り出す。巡査ではありえないことだが、過去に何個も爆弾を解体している両津。この中で一番知識がある。
「ワシが解体する。皆、近寄らないでくれ。」
「両津、任せるわよ。さ、フラン。離れなさい。」
「え?え?あの、どういうこと?」
 両津が基盤の部分を開ける。
「単純な回路だ。これなら行けるはず。」
 パチパチとハサミで線を切断する両津。
「咲夜、一旦時を進めてくれ。たぶん、タイマー表示は消えたはずだ。」
 咲夜が能力を解除する。タイマーのカウントが消えた。
「やったわ!これで……!」
「いや、まだだ。表示は消えても実際はどうだか分からん。もう少し解体してから運ぶぞ。」
 両津がまたハサミを持つ。よどみなく切っていくが、途中で止まる。
「くそ、テスター(電気回路で、配線が繋がってるかないかを判定する機械)がないから、ここからが分からん。」
「あの……電池を抜けばいいんじゃないですか?」
「爆弾の中には電池が切れた瞬間に爆発させるタイプもある。コンデンサに予めエネルギーをチャージさせておいてな。そこまで手のこんだ回路じゃないと思うが。しかし、それは最後の手段だ。安全なのはこの石(ICチップのこと)タイマーをカウントしてる部分をストップさせることだ。しかし……ここからが分からん。」
 理解が追い付かない紅魔館メンバー。テレビでは外の世界のニュースが流されていた。テレビの右上の時間の表示が流れていく。
「両津様……」
 咲夜が苦悶の表情で言う。
「もうそろそろ限界です。あと15秒以内にご決断ください。」
「分かった……」
 ハサミを構える両津。固唾を飲む紅魔館メンバー。フランのみが能天気に近づこうとしてるが、姉のレミリアに抑えられている。
 10秒、9秒、8秒、7秒。
 ここで両津のハサミが動く。
「これだ。」
 ハサミで切ったのは電池部分。さっきのダミー回路があるかもと言っていた場所だ。両津は回路を見て、ダミーなどないはずと見た。入れるスペースがない……はず。
「の、能力解除します!」
 咲夜が能力を解除する。すると爆弾は……止まった。
「や、やった、成功だーーー!!!爆弾解体したぞ!!」
 沸き立つ両津と紅魔館メンバー。両津はパチュリーとハイタッチする。が、そんな中で美鈴(と日暮)が到着して、そして言った。
「はぁはぁ、あの、それ……爆弾じゃありません。」
「「「「へ?」」」」」
 場が固まる。そして全員がフランを見た。
「うん、それ、ただのタイマー。時間が来ると音がなるだけ……あの、皆、本当にどうしたの?」
「ば、馬鹿な。」
 両津は写真を見る。それは紅魔館が爆発している写真だ。日時もある。正に今爆発しているのだが……。
 ここで”ピコーン”という音が鳴った。両津、ビクッとする。が、何のことはない。テレビからだった。
「なんだ、テレビか。」
 ニュースが出てくる。

『緊急速報です。本日、安倍首相と国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長とが電話で会談し、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、今夏の東京五輪・パラリンピックを1年程度延期で大筋合意と発表しました。官邸では……』

「ん、あれ、オリンピック?」
 両津、青ざめる。さっきまで眠っていたはずの日暮がその単語で目を覚ました。
「おい!そのニュース見せろ!」
 日暮が別人のように覚醒。ニュースを食い入るように見つめ、そして両津を見る。
「ち、ち、違うんだ、日暮!これは……」
「両津!貴様、私を!早く起こしたなーーー!」
 日暮の手から火の玉が出てくる。まさか、予知された爆発は、フランの部屋で日暮がキレるということか。
「両津ーーーーー!!!」
「ぎゃああああああ!!」



 時、同じく外。紅魔館の一部が爆発。その先端から火の玉となった両津が流星のように流れて行った。それを見て小町は……
「……うん、四季様の様子でも見に行くかね。」
 帰った。

 第9話、完。



 












 遡ること、2時間前。紅魔館の廊下。
「”白”です……。」
 さとりの報告に映姫は顔面蒼白になった。しかし……白か黒かと言われれば、白。
「そんなつまらない話をしに地上に来たのではありません。」
 さとりは必死に映姫に説得を試みる。
「貴方は誰かの言われたことに対し、白か黒か。それだけ。何故、自らで考えて行動を移そうとしないんですか。」
「しかし……彼女たちがやってることは……白なんです。」
「はっきり言います。伊吹萃香はもう手遅れになるかと。しかし両津さんだけは救えると思います。貴方、仮にも上司でしょう?部下が今から殺さされる。そういう時にもそんなものに縋ってるんですか?」
「でも……」
 映姫、苦悶の表情。映姫の能力の白黒つける能力。これは絶対的な基準を己に持つので迷うことはない。求聞史紀にはそう記されていた。が、それは間違いだ。2択以外の選択肢に対し、全くの無力。しかし能力に依存しすぎてしまっている映姫はそこから抜け出せない。部下である古明地さとりは、映姫の尻ぬぐいを旧地獄でずっとやっていた。
 とはいえ、限界だ。さとりは懐から書類を出す。
「この書類はコピーです。本物の方は私のペットが閻魔大王に提出に向かっています。私からの合図がなければそのまま提出することになっています。」
「……」
「映姫様。残念です。私は個人として貴方が好きだった。けれど、地底と貴方の友情とでは天秤にかけられません。」
「……身辺を整えておきます。」
 映姫は背中を向けた。紅魔館から帰るつもりのようだ。
「……分かってはいましたが……見損ないました。」
 さとりは映姫の背中にそう言って、パーティー会場に戻っていった。


 次回、最終回。
こち亀の作者、秋本 治先生が紫綬褒章を受章されたことを記念して書き始めました。私は遅筆で、既に半年もかかってしまいました。

最後に。例えこの作品がクソでも、こち亀は神作です。
こち亀は神作
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.簡易評価なし
1.100終身削除
いつか出るのかなぁと思っていたらラスト直前で日暮が来てくれたのでファンには嬉しいところだと思います
珍しくオチで湿っぽい雰囲気になってきたので徹底的にしぶとい両さんがどうやって運命に決着をつけるのか続きが気になりますね