Coolier - 新生・東方創想話

第2話 命蓮寺、経済改革編

2020/04/09 21:02:35
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「なに?寺の経営立て直しだと?何でワシが?」
「お願いしますよ、両さん。」
 団子を食ってる両津にペコペコして頼み込んでいるのは寅丸星。毘沙門天代理という噂だが、もしホントに毘沙門天がこんなポンコツに代理を任せてるのだとしたら、彼もまたポンコツだろう。
 星が言うところによると、命蓮寺は、設立当初は人妖問わぬ信仰方針が大衆受けして盛り上がりを見せたらしい。しかし幻想郷住民は基本的に信仰心は皆無、単に派手好き新し物好きなところがある。現在は政治演説巧みな道教一派、派手な催しをする守矢一派に客層を奪われておりジリ貧となっていた。
 なお、霊夢はライバルカウントされてもいない。
「現世に詳しい方に聞きました。両さんは中小企業の立て直しもやってらっしゃったとか。」
「まぁな。」
「だから是非!我が寺もお願いします!」
「うーーーーん」
 両津は腕を組む。やるかどうか迷っている。しかし、この男が迷った後に『やらない』を選択したことは一度もない。
「ま、とりあえず見せてみろ」
「助かります、両さん!」
 かくして両津はバリバリ勤務中に寺に行くことになった。勤務など今更だが。

「こりゃひでーな。」
 命蓮寺は掃除こそ綺麗にされていたものの、あちこちの瓦が崩れ、壁にヒビも見られた。
「最近財政難でして。」
「財政難だか何だか知らんが、見栄えをよくしなきゃ来てる客も遠のくぞ。」
「はい。」
 なお、信者のことを客と言ってはばからないのは、両者に共通していた。幻想郷の宗教組織は、紆余曲折を経て最終的にイベント会社になる。
「で、最近の催しものは?」
「えー、4月に写経の会。5月に盆栽の品評会。6月に連歌の……」
「いい!眠い!こんなもんに江戸っ子が来るか!?」
 両津が手を払う。幻想郷はいつから江戸になったのであろうか?
「隣の道教見てみろ。教主自らが落語やってるぞ。」
「え、あれ、落語なんですか?」
「落語のパクリだ。」
 教主とは豊聡耳神子のことだ。神子も最初は説法や経典読みをしていたが人が集まらなかった。そんななか、何かの拍子に落語の話をしたところ、得意の話術で爆笑をかっさらった。以後は落語の題材を神子なりにアレンジして話すのが通例になっていた。もちろん、浅草で子守唄代わりに落語を聞いて育った両津にしてみれば、質が非常に低い。
 とはいえ、娯楽の少ない幻想郷ではその程度でもなんとかなるのだ。やりようはいくらでもある。
「境内(寺の敷地のこと)は広いな。ライブなんてできないのか。」
「それが……聖が、うるさくて寺の品位に反すると反対で。」
「寺の一部が飛行船に変形するんだってな。遊覧事業はできないのか?」
「それも聖が、宝具を安易に使うものではありません、と。」
「賭場はどうだ?寺といったら治外法権賭場がつきものだろう?」
「やってませんけど聖は……」
「ふむふむふむ……」
 悉く案を否定されている両津だったが、気を悪くした様子なし。むしろ笑顔。ただし悪人特有の笑顔だ。
「つまり、だ。聖が知らなければいいってことだな……」
「はい?」
「ふふふ、ワシに任せておけ?ちょっと話をつけてくる。」



 その一週間後。両津は再び寺にやってきた。聖白蓮と面談しにだ。そして1人ではなかった。
「こいつはワシの飲み仲間で、伊吹萃香ってやつだ。」
「よろしくー、お寺の皆さんー」
「は、はい、よろしく……」
 流石の白蓮も焦った。両津が来ることも初めてだが、その同伴が幻想郷屈指の実力者、伊吹の鬼なのだ。白蓮の背後で星も(どういうこと!?)と目で問うてくるが、両津も伊吹も答える気はない。
「コイツ、大工の頭領でな。ちょいと、お宅の寺を増築しよう、て考えてるんだ?」
「増築?改築ではなく?」
 白蓮も首を傾げる。
「ああ、そこはワシから説明する。」
 両津は資料を渡した。両津の悪筆で、小難しい数式が並んでる資料だ。白蓮は瞬時に読む気をなくした。
「まぁ資料のは参考程度だ。ここの寺の経営について相談されてな。最初は破損個所の修繕も考えたんだが、それじゃ客は増えん。修理もいいが、まずは客を増やすことを始めんと、借金が増えるだけだ。」
「客って……信者のことですか?」
 白蓮は少し眉を顰める。白蓮は星や両津ほど幻想郷の常識には染まっていなかった。
「でだ。ワシらが考えたのは、分かりやすく客を集めるモニュメントを考えたわけだ。題して、八重の塔だ!」
 両津が絵を出す。さっきの悪筆の数式とはうって変わって、綺麗な一枚絵だ。
「八重……八階建て?」
「ああ、仏教で縁起のいい数字は358。だけど、五重塔はありふれてる。だからワシらは8階建てを目指す。」
「はぁ」
 白蓮は呆然としたが、すぐに真面目な顔つきになる。
「しかし……お恥ずかしい話、そういう建築物になると費用の方が」
「あー、はいはい、そこは問題ないよ」
 萃香が割って入る。
「実はね。八重の塔といいつつ、7階と8階しか部屋は作らないつもりなんだ。」
「7階と8階?え?」
「そう、中は空っぽ。真面目に全部作ろうとしたら金かかるけどね。8階はアンタの居室。7階は応接間。つまり、見掛け倒しってことだよ。」
「はぁ……」
「地上から7階は空飛んで移動してもらう。階段作る金もケチるから。儲かってから作ればいいよ。」
「え、あの……私が住まなきゃいけないんですか?」
 白蓮の当然の疑問に、両津が最もらしく答える。
「ああ。宗教は見せかけが肝心だ。尊い聖は最上階で暮らし、7階を展望台兼応接間にする。アンタは聖人らしく振舞ってもらう。」
「はぁ……」
「費用はざっとこれくらいだが、今回はこっちでこれだけ持たせてもらう。」
「え、こんな安くていいんですか!?」
 財政に疎い聖でも、流石に安すぎると思った。
「ああ、出世払いならぬ、儲け払いだ。外の世界では投資って言ってな。まぁワシらに任せればいい。」
「で、では……お任せします。」
 よくわからぬ資料に加え、破格に安い金額を提示され、聖に断る理由はなかった。
 聖は気づかなかった。両津の笑みは正に悪人特有のものだということを。そして鬼は基本的に嘘はつかないが、酒のためなら平気で嘘をつくということを……。


「ちょ、ちょっと両さん!」
 聖の居室から出た後、両津を星が呼び止めた。
「あの、いいんですか?こんなの大赤字じゃ……」
「ん?八重の塔か?あれは嘘だ。」
「え、嘘!?」
 驚く星に、またまた完全に鬼の笑みを浮かべた萃香が答える。
「星くーん?塔の中身が空っぽなわけないじゃないかー。見たまえ。これが私と両さんが考えた幻想郷、真のパラダイス!アンダー・ユートピア(地底の楽園)だ!!」
 萃香が出した絵は先ほどと同じ八重の塔。しかし、1階があり、地下に続く階段。そして地下には居酒屋、バー、カジノ。ライブハウスやホストクラブまであった。
「な、な、な、何ですか、これ!?こんなの聖にバレたら!」
「だから聖ちゃんを8階に隔離したんじゃないかー。7階は交代で見張り部屋ね。」
「み、見張り?」
 仰天する星に両津が肩をガッチリつかむ。
「さぁ、寺の皆々を集めるんだ。作るぞ、われらの理想郷。」



 両津に呼び出された命蓮寺メンバー(白蓮除く)だったが、一様に反対した。しかし、両津には勝算があった。
「何もワシらは儲けだけのことを気にしてるわけじゃないんだ。WinWinだよ。ところで一輪君?」
「へ、私?」
「聞けば君、結構イケる口なんじゃないか。でもずっと酒を断ってたわけだろー?」
「いえ、それはまぁ、でも聖が。」
 
 ドンっ!

 萃香が床に一升瓶をおく。蓋を開けると、ほのかなエタノールの香り。それだけで一輪はよだれがでた。
「もちろん君は飲むわけにはいけないなぁ。酔っぱらったところを聖にあったらたまったものではないからな。しかし、アンダー・ユートピアがあれば、こう!」
 両津は酒をあおる。瓶に口をつけて、ではない。口を上に大きく開け、そして瓶を豪快にさかさま。滝のように流れる酒が両津の体温で部屋中にアルコール臭を解き放った。
「あ、あ、あう、、、」
 一輪は堕ちた。完全に堕ちた。
「次は寅丸君。ベジタリアンなタイガーとは、健康的じゃないか。しかしな。」
 今度は両津が胸ポケットから取り出す。出てきたのは極太のビーフジャーキー。ブチっとわざとらしく音をたてて噛み切った。そしてまた酒を呷る。
「くー、肉の脂肪と塩味が酒とベストマッチ!」
 よだれを垂らしたのは星だけではない。ナズーリン、村紗。そして寺の戒律に縛られているわけではないが、マミゾウとぬえも欲望に目が染まった。そして村紗がおずおずと手を上げる。
「そ、その、カレー屋さんは作れるかな?ビーフカレー。」
「ちょっと村紗!」
「ん、いいんだいいんだ。カレーもチーズも、漫画みたいな肉のバーベキューも。皆、思いのままだ。」
 両津たちの悪魔の囁きに、命蓮寺面々はあっさり堕ちた。



 3か月後。恐ろしいピッチで工事が行われ、八重の塔は完成。そして参拝客は10倍以上に増えた。
 もちろん、それは裏の魅力につられてだった。参拝客は日中に参拝し、おみくじを引く。そのおみくじこそがアンダーグランドへの入場券。夜な夜な、幻想郷住民は塔の地下室に訪れた。
 ご禁制の肉・酒は序の口。鳥獣戯楽のバンドに、ホストクラブ、カジノ、風俗街と。もはや完全に無法地帯だった。
 両津が招いたのは人里だけではなかった。地下を手堀りで掘り進み、地底の旧地獄街へのルートを確立。萃香は鬼のツボを心得ており、地底の鬼たちは命蓮寺の虜になっていた。
 地底というやり放題の場所を得た両津はエスカレート。深秘録異変の原因となったオカルトボールを独自に解析し、外の世界と幻想郷を強引に連結した。そして例大祭にて東方マニアたちに地下限定の入場チケットを高額で売り付けて行った。また同じく地底のやりたい放題担当の古明地こいしの買収に成功。こいしちゃんとの一夜カジノデート券は一回100万円と高額だったが、3か月先まで予約待ちとなった。
 地底王、両津の名は、アンダーグランド界で鳴り響いた。



「うーん、最近は妙な音がするんですよね?」
「へ、え、え!?ひ、聖、どうしました?」
 地下賭博開場ししばらくした後。白蓮がこぼす。ここは八重の塔の7階。既に地上に階段が連結していた。命蓮寺のメンバーは護衛という名目で、交代で7階で見張るシステムを作っていた。白蓮が夜中に地上に向かう時は地底にいるメンバーに警告をだすのだ。今日の見張りは星だった。
「星。気のせいだと思うのですが。音楽の音が。」
「お、お、音楽ですか?」
 星は冷や汗を垂らす。命蓮寺が儲かり出してから、更に万全を期すため、空洞の2階から6階に防音装置を施していた。それでも微かに聞き取る聖白蓮、おそるべし。
「あと、何かが揺れる感じがするんですよ。」
「そ、それは高い建物ですからね。それにほら、今何も聞こえませんよ。」
「そうねー。」
 白蓮は納得する。部屋で寝ている時は微かに音がするが、それは地下の騒音による振動を塔から骨振動にて聞いているためだ。枕から耳を話すと逆に聞こえなくなった。白蓮は納得して就寝しなおすが、星は気づいていた。星は塔より境内を見下ろす。境内全体が周りより低くなっていた。両津が無計画に掘り進み拡張していったため、地盤沈下を起こしているのだ。


「何!?これ以上掘るなだと?」
 ここは地下のバー。星の警告に両津と萃香は反対の声を上げる。二人とも高そうなソファーに腰かけ、ブランデーを飲んでいた。
「はい、ここ最近聖が気づき始めてるんですよ。防音装置を取り付けてもそれ以上に人が入ってますから。」
「馬鹿言っちゃいけないよ。私はここを鬼の理想郷にするって決めたんだ。」
「理想郷って、もう十分じゃないですか。今やここ、地下30階建てですよ!!」
 そう、人が増え、金が増え。更に儲けようとする両津の野心の元、塔は今や地底地獄を貫通して更に掘り進まれていった。
「うーん、仕方ないか。」
「ちょっと両さん!」
 両津の発言に萃香が抗議を上げるが、両津は制止する。
「分かった。これ以上深く掘り進めるのは止めよう。」
「ありがとうございます。」
 星は去っていく。萃香は不満顔だ。
「両さん。アンタはこのくらいで満足してるのかい。アンタはもっと大きな……」
「何を言ってるんだ、萃香。まだまだ大きくするに決まってるだろ。」
「……嘘ついたのかい?」
「いーや、ワシはこれ以上『深く』掘り進めることはない。そう言った。」
 両津の発言に萃香もニヤニヤする。
「で、どうするんだい?」
「ちょっとついてこい。」


 しばらくして両津は地下3階くらいの場所についた。窓のようなノゾキアナから直径30cmくらいの配管が見える。
「ここはな。人里の雨水の排水に使われてるらしい。どうだ?外の世界では近年、大雨で被害が多発してるらしいからな。『親切な我々が配管を拡張』してやろうではないか。」
「そうだねぇ。4m幅くらいまで拡張しよう。人里の平和のためだ。ぐふふふふ。」

 かくして、両津らは地下領域を命蓮寺の外へも拡張。人里地下をアリの巣のように掘り進み、拡張していった。
 しかし両津は気づかなかった。地盤沈下は現在進行形であったことを。作られた人里の排水通路は全て傾斜を持ち、最下点は命蓮寺に集中していたことを。
 更に……。茨木華扇が新しい龍を育てるために、幻想郷最大の大嵐が迫っていたことに。


 深夜。最初に異変に気付いたのは村紗だった。その日は村紗が白蓮の見張り役をしていたのだ。彼女は水の満ちる気配を感じ、外を見て……。
「げ、げ、げ!まずい!こちら水蜜!地下スタッフ!地下スタッフ!応答せよ!」
「はい、こちらナズーリン。どうしたのだ?」
 電話越しにナズーリンが応答する。その時は偶然、他の命蓮寺メンバーと両津が集結していた。
「大変なことになった。外は大雨で私は塔の上から見てるんだけど……人里中の雨水が命蓮寺に集結してる……」
 電話越しに村紗の知らせを聞いて、一同青ざめる。実は正にその問題について論じていたのだ。いつか大雨が来たら大変なことになるんじゃないかと。だが、雨の方が早かった。
「ど、どんな調子……なのだ?」
「……もう命蓮寺は巨大な湖みたいになってる。境内は全て沈んでる……。」
 それを聞いて更に青ざめる。その中でも一番動揺したのは泳げない寅丸星だった。
「大変!すぐに脱出しないと!」
「馬鹿!今開けるな!!」
 動揺して入り口を開ける星を両津は制止したが遅かった!貯まった雨水は鉄砲水となり地下に襲い掛かる!ちょうど満杯の風呂から栓を抜くようなもの。もちろん地下は栓の奥側の方だ。
「うわぁぁぁあ!?」
「ひぃいいいい!!」
 客と共に流される両津たち!そこに更に悲劇が襲った。
 それは地下3階。人里の排水パイプ改造通路との接続部。両津たちがちょうどそこまで流されたタイミングでパイプからも鉄砲水が襲った!!
「ぐわぁああああ!」
「両さん!大変だ!!」
 流される両津に声をかけたのが萃香。こっちはパイプから流されてきたのだ。
「両さん!パイプの壁が破壊されて、人里の川の水もこっち来てる!」
「何!?」
「もう幻想郷中の水がここに集結してるんだ!」
「うわぁぁああああ!!」
 悲鳴を上げる両津だったが、客諸共、地底地獄まで流されていく。


「これは何ごと!?」
「あ、聖……」
 ここは地上。八重の塔の上。聖は飛び起きた。何せ塔全体が傾いてるのだから!!
 塔は鉄砲水の影響で、地面が液状化。ピザの斜塔以上に傾き始めた。否、崩れ始めた。
「村紗……これはどういうこと!?」
「それは……ごめんなさーーーーい!げふっ!!」
 塔が倒れるのと、村紗が謝るの。そして白蓮のグーパンが飛んでくるのは全て同時だった。





「こんばんは。幻想郷ニュースです。昨日の大雨で倒壊した命蓮寺八重の塔。そしてその地下に密かに作られた遊戯スペースが水没しました。無計画に張り巡らされた地下網と地盤沈下が主な原因であり、設計責任者である両津氏を警察は緊急逮捕致しましたが、氏は『私は人間ではなく蟻の化身。生物の本能に従っただけ』と意味不明な供述を繰り返しており……」

ピッ……

 テレビを消す音。そのリモコンを持つ四季映姫は、一口だけ茶をすすり……

「二度と帰ってくるんじゃあない……!」
こち亀の作者、秋本 治先生が紫綬褒章を受章されたことを記念して書き始めました。私は遅筆で、既に半年もかかってしまいました。

最後に。例えこの作品がクソでも、こち亀は神作です。
こち亀は神作
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コメント



0.10簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
ここは連載作品投稿所じゃない
単作の、完結済み作品の投稿所だ
弁えろ
2.90南条削除
面白かったです
1行目からトチ狂っていて笑いました
蟻の化身とかいう意味不明な供述もよかったです
4.100終身削除
こち亀と言ったらやっぱりこれ!って感じで幕開けからオチまで突き抜けていくような気持ち良さがあったと思います 両津の供述がそれっぽさも持ち合わせながら一味足されてる感じでよかったと思います
5.100とらねこ削除
王道の金もうけネタ待ってました。最後の意味不明の言い訳も最高!