今日は宇佐見蓮子の様子がおかしい。自分から「ショッピングモールに買い物に行こう」と誘っておいて何かを買う様子もなく、私のことを着せ替え人形かのように様々な服を着せようとしてくる。
「どうかしら?」
マエリベリー・ハーンは試着室のカーテンを開け、蓮子が選んできた服を着て見せる。
普段は身に着けていない変わったデザインの眼鏡をかけた蓮子はその姿を見て講評する。
「やっぱり良く似合っててかわいいわ。やっぱりお人形さんみたいにスタイルがいいからなのしら」
そう言って次の服を物色しに店内を歩き出す。
私は試着室のカーテンを閉め、元の服に着替え始める。
蓮子はたしかに私のことを見ている。しかし別なものにも注意を向けているような気がする。
着替え終わり、試着室を出ると次の服を持たない蓮子が待っていた。
「もうお人形さんごっこは終わりかしら」
皮肉っぽく言うと短い謝罪と肯定の後に「お腹すいちゃったからどこかで食事にしましょう」と言って店を出た。
平日の夕方、すっかり日は落ち、すっかり暗くなっている。
ショッピングモール内は人の往来はあるものの混雑している様子はない。地下1階のレストランフロアに降りると仕事終わりの人々が多く混雑していた。
2人はフロアを一回りしてみようとなり、適当に歩いていると蓮子があそこに入りましょうと私の手を引っ張ってとある店に入った。
その店はフロア内で大きな存在感を放っており、ランタンを模した照明器具によって少し暗めの明るさになっている雰囲気あるレストランだった。
2人掛けの席に通され、店員に渡されたメニューを見る。そこには大学生には少し高すぎる値段が並んでいた。
私は蓮子にだけ聞こえるくらいの音量で話しかける。
「ちょっと高すぎない?別な店にした方がいいんじゃない」
蓮子もメニューを見るとその値段に少し驚いた様子を見せる。
「少し高いけど大丈夫よ。今日は私がおごるから気にしないで」
私は悪いからと断るがいいからと押し切られてしまった。
蓮子は実家からの支援が手厚いのかしらと疑問に思いながらグラタンとパンのオニオンスープセットを注文した。蓮子はミートソーススパゲティを注文したようだ。
料理を食べ終え、食後のティーブレイクを楽しんでいるときに気が付いた。蓮子はたしかに私と会話をしているが、私の後ろを見ているような気がする。しかもたまに眼鏡の位置が悪いのか調整するようにいじっている。後ろに何かあるのだろうか。
「私の後ろに何かあるの?」
そう聞くとピタリと眼鏡をいじる手を止めた。
「よく気づいたわね。さっきから店の外の廊下に変な恰好をしている人がいるのよ。それが気になってね」
蓮子はそう言ってちょうど私の後ろの方を指さす。
私は懐疑的な視線を送りつつもさされたほうを振り返るが、そこにはそんな人はおらず何人かの往来があるだけだった。
そんな人いないじゃないと向き直ると、蓮子は席を立っていた。
「そろそろ行きましょうか。会計してくるから先に店の外で待ってて」
蓮子はそう言うとさっさと行ってしまった。
蓮子がマイペースなのはいつものことだ。いい加減慣れなければと思いながら店の外に出た。
ショッピングモールでの用が済んだらしい蓮子と共に繁華街に出ていた。食後に夜の散歩でもしようとのことだった。散歩なら静かな道のほうが好きなのだが、蓮子の提案でたまには違う道をと少々騒がしい道を歩いているのだ。
やっぱり今日の蓮子は変だ。私と会う以外に何か目的があるような。一体何をしているのかしら?
私がじっと見ているとそれに気が付いて蓮子が話を切り出した。
「そういえば、メリーってよく夢の話をするじゃない。あれって実は本当に体験したことなんじゃないの?」
蓮子が投げかけてきた質問に首をかしげていると補足で説明してくれた。
「メリーの夢の話ってその時の感覚や考えてたことが妙に具体的なのよね。私なんかは夢を見たとしても曖昧にしか覚えてないからさ」
「気にしたことなかったけど普通はそういうものなの?私はいつからか覚えてはいないけどこれが普通だったのよね」
力が関係しているのかしらと自分の目を指さしてみる。
「かもしれないわね。私の仮説だけど、メリーは気づかないうちに境界を越えているのかもしれないわね。肉体は寝ているのだけど精神だけが覚醒状態で動き回っているのかも」
それでと先を話そうとしたとき蓮子の目がすっと何かを追うように動き、速足に歩いたところで路地へ入った。
私もそれを追うように路地に入ると蓮子が行く手を遮るようにどんと壁に腕を突き立てた。それに驚いた私は思わず蓮子のほうを見た。すると蓮子の顔を少しずつ近づいてくる。
『これはまさかそういうことなの?』という考えに至ると顔がほてり、思考がショートする。
『前はその気はないとか言ってたのにやっぱりそういう人だったの?これから私は何をされるの?』
思考が焼け付いた私は思わず目を閉じる。次の瞬間に来るであろう感覚に備えるために。しかししばらく経っても何もない。恐る恐る目を開けると片方の空いているほうの手でガッツポーズをしながらよそ見をする蓮子がいた。
それを見た私は一気に頭まで血が上り、蓮子のことを突き飛ばす。
「信じられない!私の気持ち返してよ!」
そう言って蓮子の元を1秒でも早く離れるべく駆け出した。
次の日に無事に仲直りを果たしたのはまた別なお話である。
「どうかしら?」
マエリベリー・ハーンは試着室のカーテンを開け、蓮子が選んできた服を着て見せる。
普段は身に着けていない変わったデザインの眼鏡をかけた蓮子はその姿を見て講評する。
「やっぱり良く似合っててかわいいわ。やっぱりお人形さんみたいにスタイルがいいからなのしら」
そう言って次の服を物色しに店内を歩き出す。
私は試着室のカーテンを閉め、元の服に着替え始める。
蓮子はたしかに私のことを見ている。しかし別なものにも注意を向けているような気がする。
着替え終わり、試着室を出ると次の服を持たない蓮子が待っていた。
「もうお人形さんごっこは終わりかしら」
皮肉っぽく言うと短い謝罪と肯定の後に「お腹すいちゃったからどこかで食事にしましょう」と言って店を出た。
平日の夕方、すっかり日は落ち、すっかり暗くなっている。
ショッピングモール内は人の往来はあるものの混雑している様子はない。地下1階のレストランフロアに降りると仕事終わりの人々が多く混雑していた。
2人はフロアを一回りしてみようとなり、適当に歩いていると蓮子があそこに入りましょうと私の手を引っ張ってとある店に入った。
その店はフロア内で大きな存在感を放っており、ランタンを模した照明器具によって少し暗めの明るさになっている雰囲気あるレストランだった。
2人掛けの席に通され、店員に渡されたメニューを見る。そこには大学生には少し高すぎる値段が並んでいた。
私は蓮子にだけ聞こえるくらいの音量で話しかける。
「ちょっと高すぎない?別な店にした方がいいんじゃない」
蓮子もメニューを見るとその値段に少し驚いた様子を見せる。
「少し高いけど大丈夫よ。今日は私がおごるから気にしないで」
私は悪いからと断るがいいからと押し切られてしまった。
蓮子は実家からの支援が手厚いのかしらと疑問に思いながらグラタンとパンのオニオンスープセットを注文した。蓮子はミートソーススパゲティを注文したようだ。
料理を食べ終え、食後のティーブレイクを楽しんでいるときに気が付いた。蓮子はたしかに私と会話をしているが、私の後ろを見ているような気がする。しかもたまに眼鏡の位置が悪いのか調整するようにいじっている。後ろに何かあるのだろうか。
「私の後ろに何かあるの?」
そう聞くとピタリと眼鏡をいじる手を止めた。
「よく気づいたわね。さっきから店の外の廊下に変な恰好をしている人がいるのよ。それが気になってね」
蓮子はそう言ってちょうど私の後ろの方を指さす。
私は懐疑的な視線を送りつつもさされたほうを振り返るが、そこにはそんな人はおらず何人かの往来があるだけだった。
そんな人いないじゃないと向き直ると、蓮子は席を立っていた。
「そろそろ行きましょうか。会計してくるから先に店の外で待ってて」
蓮子はそう言うとさっさと行ってしまった。
蓮子がマイペースなのはいつものことだ。いい加減慣れなければと思いながら店の外に出た。
ショッピングモールでの用が済んだらしい蓮子と共に繁華街に出ていた。食後に夜の散歩でもしようとのことだった。散歩なら静かな道のほうが好きなのだが、蓮子の提案でたまには違う道をと少々騒がしい道を歩いているのだ。
やっぱり今日の蓮子は変だ。私と会う以外に何か目的があるような。一体何をしているのかしら?
私がじっと見ているとそれに気が付いて蓮子が話を切り出した。
「そういえば、メリーってよく夢の話をするじゃない。あれって実は本当に体験したことなんじゃないの?」
蓮子が投げかけてきた質問に首をかしげていると補足で説明してくれた。
「メリーの夢の話ってその時の感覚や考えてたことが妙に具体的なのよね。私なんかは夢を見たとしても曖昧にしか覚えてないからさ」
「気にしたことなかったけど普通はそういうものなの?私はいつからか覚えてはいないけどこれが普通だったのよね」
力が関係しているのかしらと自分の目を指さしてみる。
「かもしれないわね。私の仮説だけど、メリーは気づかないうちに境界を越えているのかもしれないわね。肉体は寝ているのだけど精神だけが覚醒状態で動き回っているのかも」
それでと先を話そうとしたとき蓮子の目がすっと何かを追うように動き、速足に歩いたところで路地へ入った。
私もそれを追うように路地に入ると蓮子が行く手を遮るようにどんと壁に腕を突き立てた。それに驚いた私は思わず蓮子のほうを見た。すると蓮子の顔を少しずつ近づいてくる。
『これはまさかそういうことなの?』という考えに至ると顔がほてり、思考がショートする。
『前はその気はないとか言ってたのにやっぱりそういう人だったの?これから私は何をされるの?』
思考が焼け付いた私は思わず目を閉じる。次の瞬間に来るであろう感覚に備えるために。しかししばらく経っても何もない。恐る恐る目を開けると片方の空いているほうの手でガッツポーズをしながらよそ見をする蓮子がいた。
それを見た私は一気に頭まで血が上り、蓮子のことを突き飛ばす。
「信じられない!私の気持ち返してよ!」
そう言って蓮子の元を1秒でも早く離れるべく駆け出した。
次の日に無事に仲直りを果たしたのはまた別なお話である。
蓮子の幻覚でもキメてるみたいな行動の理由は次回で明らかになるんでしょうか