守矢神社の縁側で前髪をくるくると弄り、巫女服姿で寝転がった東風谷早苗が足をバタつかせる。
「諏訪子様ぁ、暇ですし面白い話してくださいよ」
「その話の振り方で何人が泣いた事だろうね」
ゆるりと着崩した和装に身を包む洩矢諏訪子は、長い舌を垂らして顔を顰めた。
遥か偉大な祖先に対しての敬意が足りていないのは今に始まった事でもないが。
「諏訪子様は一柱なのでノーカンですね」
「じゃあ新たに一柱を撃墜スコアに刻んでおくといいよ」
「やったぁ、これで通算三柱も撃墜しちゃったぞ」
「…早苗、早苗、神奈子はいいとして、もう一柱は一体誰だい?」
「地獄の女神ですよ、あの月の時に」
「あー…」
諏訪子は酷く濁った目で帽子を脱ぎ、台所より急須を持ってきて茶葉を入れ湯を注ぐ。
「あー…」
喉を濯ぎ、声を濯ぎ、軈て小さな小さな声で絞り出す様に声を紡いだ。
「子孫にこんな事言いたかないけどね、碌な死に方しないぞ」
「その時は閻魔様だって撃墜数に加えてやりますよ私は」
「やめときな本当に。…けど博麗も白黒魔女もその辺の妖ですら何かの異変の時に閻魔様を撃墜してるって言うんだから、ここじゃ笑い話にもなりゃしない」
「というか多分私、死んだらそっち行けない可能性が高いですけどね」
「あ、外ならわかりゃしないがここだと地獄に連れてかれるんじゃないかな、多分だけど」
「神道の巫女が仏教の地獄道行きとはこれ如何に」
「祖先崇拝をしない巫女がよく言うよ、神道の巫女として死にたいなら頑張って自分で黄泉比良坂を降りて行きなさい」
「だって諏訪子様、祖先崇拝するための霊璽、うちに無いじゃないですか」
そんな早苗の言葉に、やれやれと首を振る諏訪子。
「遷霊祭せずとも見え、形すら持つ霊魂がここに在るだろうに」
「荒御魂?」
「そりゃ早苗、お前だよ」
「なーんのことだか」
早苗が荒御魂で博麗が和御霊。
喩えとしては合っている様な気がする。
否、“違う”。
博麗は、“偏りが無い”と言うのが正しいだろうか。
そんな事を思っていれば、ふと早苗が自分の手を胸に当てる。
「諏訪子様、ふと気になったのですが、人は自分を信仰して神には成れないのですか?」
「そりゃ、自分を既に信仰していたらそこ止まりでしょうよ」
「…?」
早苗の隣に座った諏訪子は、童子の姿から更に幼く変化した。
「早苗は自分の事をなんだと思っている?」
「美少女巫女です☆」
「そうかい」
僅かな沈黙。
真顔の諏訪子に対し、早苗は滲む様に汗を垂らした。
「…現人神デス」
「そうだね。じゃあ早苗は自分は人では無いといつから思っていた?」
「え?私は人ですよ?」
「そう、早苗は人なんだよ」
キッパリと言い切った諏訪子に、早苗は首を傾げた。
「…あのー…傷付かない様に言葉を選んで申し上げるのですが、惚けました?」
「選んで無い選んで無い。選んでそれなら脳内辞書のページ数が児童書だ」
「そこまで言います!?」
嘘泣きをしながらチラチラ見てくる子孫を完全に無視して、諏訪子は続ける。
「信仰は、言ってしまえば信じる事だ。そこに居る、そこに在る、自然に働き、政に関わり、そして天運に関与している。そう信じる事が信仰だ」
「…信じるも何も、全部事実じゃないですか」
「けど、そう思わないのが外界だろう?」
「それは…そうですけど…」
暗い顔をした早苗の頭を撫で、微かに笑って諏訪子は茶を啜った。
「要するに、信仰とは個人が信じる事、そうで在ると一片の曇りすら無くそう思い通す事なんだよ」
「はい。で、それが自分が神になれないのとどう言う関係が?」
「人は、自分が人で在ると言う事に疑いを持つ事はない」
「…人は、“自分が人で在る”という信仰をしているという事ですか?」
「噛み砕いて言えばそういう事になるね。どれ程権力を持っていようが、どれ程驕ろうが、人で在る限り自分は人で在ると思ってしまう。そう信仰してしまっているのさ」
神は人に信仰されて無より神として顕現する。
美しい自然に人知及ばぬ何かが居ると疑い無く思われてこそ、神が産まれてくるのだ。
「けど、人から神になった人はいますよ?」
「そりゃあ元から神なのさ。自分の事を人間とはかけ離れた何かだと一片の曇りなく思ったってだけ」
「それも初めは人では?」
「いいや、違う。神は生まれた時より自分が人と違う何かである事を知っている。生まれた時点で神が自分を自分で信仰している最小単位での神が顕現している。人の胎で神が出来る事だって在るのだから」
「じゃあ人が”自分が人”だと信仰している限り、神には至れない…?」
「違うよ早苗、人で在る時点で何処まで行っても人なんだ」
人は生きている間、ずっと信仰している。
形而上信仰では無く、自分は人で在ると一片の曇り無く信じ、“信仰”している。
「面白いよね、自分が人だと信仰しているから人の形を保っているのであって、自分が人で在るかどうかの証拠だって一切無いのに」
諏訪子はカエルの鳴き声を喉で鳴らし、上機嫌に笑う。
「神は人拠り神成れど、人は人拠り人成らず。神と崇める人がどれほど集まっても、霊魂に最も近い自分自身が人で在ると信仰していりゃ人の儘」
パチパチと手を叩いて童女の姿へと戻り、諏訪子は立ち上がる。
「根底の人間信仰。人は人で在る限り人で在るかもしれないし、そもそも人が人で在ることすら確証は無い」
早苗はゆっくりと頷くと、畳へと寝転がり。
「成程。うんうん!話が長いですね!」
「話振っといてそういうところだぞ」
諏訪子は、大きなため息を吐き出した。
「諏訪子様ぁ、暇ですし面白い話してくださいよ」
「その話の振り方で何人が泣いた事だろうね」
ゆるりと着崩した和装に身を包む洩矢諏訪子は、長い舌を垂らして顔を顰めた。
遥か偉大な祖先に対しての敬意が足りていないのは今に始まった事でもないが。
「諏訪子様は一柱なのでノーカンですね」
「じゃあ新たに一柱を撃墜スコアに刻んでおくといいよ」
「やったぁ、これで通算三柱も撃墜しちゃったぞ」
「…早苗、早苗、神奈子はいいとして、もう一柱は一体誰だい?」
「地獄の女神ですよ、あの月の時に」
「あー…」
諏訪子は酷く濁った目で帽子を脱ぎ、台所より急須を持ってきて茶葉を入れ湯を注ぐ。
「あー…」
喉を濯ぎ、声を濯ぎ、軈て小さな小さな声で絞り出す様に声を紡いだ。
「子孫にこんな事言いたかないけどね、碌な死に方しないぞ」
「その時は閻魔様だって撃墜数に加えてやりますよ私は」
「やめときな本当に。…けど博麗も白黒魔女もその辺の妖ですら何かの異変の時に閻魔様を撃墜してるって言うんだから、ここじゃ笑い話にもなりゃしない」
「というか多分私、死んだらそっち行けない可能性が高いですけどね」
「あ、外ならわかりゃしないがここだと地獄に連れてかれるんじゃないかな、多分だけど」
「神道の巫女が仏教の地獄道行きとはこれ如何に」
「祖先崇拝をしない巫女がよく言うよ、神道の巫女として死にたいなら頑張って自分で黄泉比良坂を降りて行きなさい」
「だって諏訪子様、祖先崇拝するための霊璽、うちに無いじゃないですか」
そんな早苗の言葉に、やれやれと首を振る諏訪子。
「遷霊祭せずとも見え、形すら持つ霊魂がここに在るだろうに」
「荒御魂?」
「そりゃ早苗、お前だよ」
「なーんのことだか」
早苗が荒御魂で博麗が和御霊。
喩えとしては合っている様な気がする。
否、“違う”。
博麗は、“偏りが無い”と言うのが正しいだろうか。
そんな事を思っていれば、ふと早苗が自分の手を胸に当てる。
「諏訪子様、ふと気になったのですが、人は自分を信仰して神には成れないのですか?」
「そりゃ、自分を既に信仰していたらそこ止まりでしょうよ」
「…?」
早苗の隣に座った諏訪子は、童子の姿から更に幼く変化した。
「早苗は自分の事をなんだと思っている?」
「美少女巫女です☆」
「そうかい」
僅かな沈黙。
真顔の諏訪子に対し、早苗は滲む様に汗を垂らした。
「…現人神デス」
「そうだね。じゃあ早苗は自分は人では無いといつから思っていた?」
「え?私は人ですよ?」
「そう、早苗は人なんだよ」
キッパリと言い切った諏訪子に、早苗は首を傾げた。
「…あのー…傷付かない様に言葉を選んで申し上げるのですが、惚けました?」
「選んで無い選んで無い。選んでそれなら脳内辞書のページ数が児童書だ」
「そこまで言います!?」
嘘泣きをしながらチラチラ見てくる子孫を完全に無視して、諏訪子は続ける。
「信仰は、言ってしまえば信じる事だ。そこに居る、そこに在る、自然に働き、政に関わり、そして天運に関与している。そう信じる事が信仰だ」
「…信じるも何も、全部事実じゃないですか」
「けど、そう思わないのが外界だろう?」
「それは…そうですけど…」
暗い顔をした早苗の頭を撫で、微かに笑って諏訪子は茶を啜った。
「要するに、信仰とは個人が信じる事、そうで在ると一片の曇りすら無くそう思い通す事なんだよ」
「はい。で、それが自分が神になれないのとどう言う関係が?」
「人は、自分が人で在ると言う事に疑いを持つ事はない」
「…人は、“自分が人で在る”という信仰をしているという事ですか?」
「噛み砕いて言えばそういう事になるね。どれ程権力を持っていようが、どれ程驕ろうが、人で在る限り自分は人で在ると思ってしまう。そう信仰してしまっているのさ」
神は人に信仰されて無より神として顕現する。
美しい自然に人知及ばぬ何かが居ると疑い無く思われてこそ、神が産まれてくるのだ。
「けど、人から神になった人はいますよ?」
「そりゃあ元から神なのさ。自分の事を人間とはかけ離れた何かだと一片の曇りなく思ったってだけ」
「それも初めは人では?」
「いいや、違う。神は生まれた時より自分が人と違う何かである事を知っている。生まれた時点で神が自分を自分で信仰している最小単位での神が顕現している。人の胎で神が出来る事だって在るのだから」
「じゃあ人が”自分が人”だと信仰している限り、神には至れない…?」
「違うよ早苗、人で在る時点で何処まで行っても人なんだ」
人は生きている間、ずっと信仰している。
形而上信仰では無く、自分は人で在ると一片の曇り無く信じ、“信仰”している。
「面白いよね、自分が人だと信仰しているから人の形を保っているのであって、自分が人で在るかどうかの証拠だって一切無いのに」
諏訪子はカエルの鳴き声を喉で鳴らし、上機嫌に笑う。
「神は人拠り神成れど、人は人拠り人成らず。神と崇める人がどれほど集まっても、霊魂に最も近い自分自身が人で在ると信仰していりゃ人の儘」
パチパチと手を叩いて童女の姿へと戻り、諏訪子は立ち上がる。
「根底の人間信仰。人は人で在る限り人で在るかもしれないし、そもそも人が人で在ることすら確証は無い」
早苗はゆっくりと頷くと、畳へと寝転がり。
「成程。うんうん!話が長いですね!」
「話振っといてそういうところだぞ」
諏訪子は、大きなため息を吐き出した。
神が神であるために、人が人であるためのものなのかな。面白かったです。
素晴らしい話を聞けているんだから、早苗さんはもっと有難がりなさい。しかしそんなところも早苗さんの魅力だと思います。