昔一度、人を死なせたことがあった。
子供の頃の話だ。
今でもナリはチビっこいが、真実私が子供だった頃の話だ。
魔が差したという言葉があるだろう。
ひとの後ろからわっ、と驚かせたり、自分のもんじゃない菓子をちょろまかしたりするときのあれだ。
私はあれを命でやった。
やり口はそんな大層なもんじゃない。
後ろから足で小突いたらその後は文字通り下まで転がってって見えなくなっただけだ。
見えてた間は人間の形をしてたが、五体満足では済まなかったんじゃないかな。
多分、他にもやりようはあったんだろう。
いや、殺しのことじゃない。
不死の薬の方だ、目的はこっちにあった。
あの男は誠実なひとのようだったし、貰えはしないにしてもちょっと打診したところですぐに打ち殺されたりはしなかっただろう。
言い訳をするなら、焦っていたとかそんなところか。
だって、そうだろう?
年端のいかない少女と兵を率いてた男が一人。
今思えばあの性悪女神の嫌がらせだったんだろうが、残りは同士討ちなのかなんなのか、あらかた焼けて死ぬか刺し合って死んでた。
こんなもん目の前にして正気でいられるはずがあるか?
いや、いられるんだろうな。あの人はきっちりこっちを気遣ってたし、遣わされた役目を続けようとしてた。
それとも最初から使命感とやらで狂ってたのか。
ともかく。
死にたくなかった。
いつ死ぬか、なぜ死ぬか分からん状態で隙を見せた正気の男を、狂った娘が蹴り殺した。
それだけの話だ。
これで私が獣に襲われるなり、足を滑らせておっ死ぬなりしてればこれで一切合切済んでた。
まあ、ここで私が煙草吹かして話してる時点でそうはならなかったんだけど。
死にたくないって縋ったもんで、正真正銘死ななくなっちゃった。
ああ、殺しはできるよ?頭砕かれたり胸貫かれたりしたらそりゃ殺される。
でも死なない。
殺されるのと死ぬのはまた違うんだ。
普通死ぬって受け身なもんだしな。分からなくていいよこんなの。
まあ、因果応報というか、罪人斯くあるべしというか、人間の道理から弾かれたのが私なんだ。
なんで死ぬ間際のお前にこんな話するんだ、って?
こっちの勝手な都合だよ。もうすぐ逝くんだろ?
何年も生きてるとさ、忘れるんだよ、色々と。
痴呆とかそんなんじゃなくてさ、そん時は大事だなぁって思ってても時間が経つともうどうしようもない。
忘れるっていうより薄れるっていった方がいいかもしれないな。
でもどうあっても忘れられないこともある。
さっき言ったろ?あれはなにやっても頭から消えてくれない。
あれ以来人殺しはやってないってのに……。
いや、自分と、あのバカとの殺し合いはチャラにしてな。
で、どうにも頭から消せないから有効活用することにしたんだ。
こうやって、忘れたくないひとやらものやらに語ったなぁって思い出すために。
そうそう、私は私の業を付箋代わりにしてるんだ。
言い得て妙だな。流石、教職には敵わないや。
これくらい置いていってもらってもいいだろ?
どっちにしろ私は多分お前のとこには行けないだろうし。
冥土の土産交換ってことでさ。
……相変わらずクスクス笑ったみたいな寝顔してさぁ。
滑ったかなぁって思ったけどどうやらツボに入ったか。
それじゃ火は消しとくよ。
ちゃんと葬儀屋呼んでくる。
教え子も多いんだろ?私の炎でってわけにもいかないだろうし。
暫くは薫るだろうけど、まあ煙は導にでも使ってやってくれ。
月までは届かないけどね。
子供の頃の話だ。
今でもナリはチビっこいが、真実私が子供だった頃の話だ。
魔が差したという言葉があるだろう。
ひとの後ろからわっ、と驚かせたり、自分のもんじゃない菓子をちょろまかしたりするときのあれだ。
私はあれを命でやった。
やり口はそんな大層なもんじゃない。
後ろから足で小突いたらその後は文字通り下まで転がってって見えなくなっただけだ。
見えてた間は人間の形をしてたが、五体満足では済まなかったんじゃないかな。
多分、他にもやりようはあったんだろう。
いや、殺しのことじゃない。
不死の薬の方だ、目的はこっちにあった。
あの男は誠実なひとのようだったし、貰えはしないにしてもちょっと打診したところですぐに打ち殺されたりはしなかっただろう。
言い訳をするなら、焦っていたとかそんなところか。
だって、そうだろう?
年端のいかない少女と兵を率いてた男が一人。
今思えばあの性悪女神の嫌がらせだったんだろうが、残りは同士討ちなのかなんなのか、あらかた焼けて死ぬか刺し合って死んでた。
こんなもん目の前にして正気でいられるはずがあるか?
いや、いられるんだろうな。あの人はきっちりこっちを気遣ってたし、遣わされた役目を続けようとしてた。
それとも最初から使命感とやらで狂ってたのか。
ともかく。
死にたくなかった。
いつ死ぬか、なぜ死ぬか分からん状態で隙を見せた正気の男を、狂った娘が蹴り殺した。
それだけの話だ。
これで私が獣に襲われるなり、足を滑らせておっ死ぬなりしてればこれで一切合切済んでた。
まあ、ここで私が煙草吹かして話してる時点でそうはならなかったんだけど。
死にたくないって縋ったもんで、正真正銘死ななくなっちゃった。
ああ、殺しはできるよ?頭砕かれたり胸貫かれたりしたらそりゃ殺される。
でも死なない。
殺されるのと死ぬのはまた違うんだ。
普通死ぬって受け身なもんだしな。分からなくていいよこんなの。
まあ、因果応報というか、罪人斯くあるべしというか、人間の道理から弾かれたのが私なんだ。
なんで死ぬ間際のお前にこんな話するんだ、って?
こっちの勝手な都合だよ。もうすぐ逝くんだろ?
何年も生きてるとさ、忘れるんだよ、色々と。
痴呆とかそんなんじゃなくてさ、そん時は大事だなぁって思ってても時間が経つともうどうしようもない。
忘れるっていうより薄れるっていった方がいいかもしれないな。
でもどうあっても忘れられないこともある。
さっき言ったろ?あれはなにやっても頭から消えてくれない。
あれ以来人殺しはやってないってのに……。
いや、自分と、あのバカとの殺し合いはチャラにしてな。
で、どうにも頭から消せないから有効活用することにしたんだ。
こうやって、忘れたくないひとやらものやらに語ったなぁって思い出すために。
そうそう、私は私の業を付箋代わりにしてるんだ。
言い得て妙だな。流石、教職には敵わないや。
これくらい置いていってもらってもいいだろ?
どっちにしろ私は多分お前のとこには行けないだろうし。
冥土の土産交換ってことでさ。
……相変わらずクスクス笑ったみたいな寝顔してさぁ。
滑ったかなぁって思ったけどどうやらツボに入ったか。
それじゃ火は消しとくよ。
ちゃんと葬儀屋呼んでくる。
教え子も多いんだろ?私の炎でってわけにもいかないだろうし。
暫くは薫るだろうけど、まあ煙は導にでも使ってやってくれ。
月までは届かないけどね。
良いですね。美しい関係性だと思います。
たんたんとしたもこたんが、ひじょうにそれっぽいっていうか、カチッとはまる感じする
この雰囲気がとても素敵です。
しごく淡々と進んでく妹紅の語りがとても妹紅らしく感じました
全体的にあっさりしているところもすごくよかったです
妹紅がぷかぷか煙草をふかしているようなイメージが浮かびました。