小粋な韻をふめ。それが僕こと森近霖之助の凝り固まった脳内に到来した文字だった。
「その名をMPC、気分はディスクジョッキー、僕はすぐ直帰……」
無縁塚で拾った奇怪な機械に触れた瞬間、僕は腰砕け憑りつかれ落ち着かなくなった。なんだこの湧き上がる高揚感、有り余る衝動が、僕はもう、どうかしてしまったに違いない。そうでなくてはやりすぎだ、つまり勇み足。衝撃はまるで稲光。
「とりあえず、持ち帰るか」
込み上げる何かを胸の内に押し止めつつ、香霖堂へとGoing Going Goneした。
香霖堂に着いてからは、機械から手を離すと不思議と韻は浮かんでこなかった。どうやら、このMPCという道具には呪いがかけてあるようだ。よく見ると、これはMPCという固有名称ではなく、いくつかの機械が合わさっていることが分かった。レコードを乗せる所謂レコードプレイヤーが二つあり、その真ん中にミキサーという出力機がある。このミキサーの名前がMPCというらしい。その3つはコードで繋がっているものの、それぞれが独立しており、単に台に接着されているだけだった。(以下MPCと呼ぶ)
僕は菫子君から譲り受けた外の世界の雑誌に似たようなものが載っていたことを思い出した。
「ふむ、なるほど」
ヒップホップという音楽を奏でるものらしい。幻想郷にはあまりなじみがないため興味を持った。だから僕はこの機械と音楽について調べることにした。
いくつか調べて分かったことは、まずヒップホップというものは音楽そのものを指すわけではなく、異国で発生した文化であるということだ。文化としての歴史も浅く、道理でなじみがないわけである。
音楽としてはDJが曲を流し、ラップという歌唱法で歌い上げるのが基本のようだ。丁度その分野に該当するレコードがあったので試しに聴いてみたが、異国の英語という言語で歌詞が構成されているため僕の耳では聞き取れなかった。確かに首を振りたくなるような軽快さであるが、歌詞がわからなければ面白さは半減である。言葉をただ、音として捉えるならば楽しめるだろう。しかし、僕の脳みそは存外固いらしく、言葉があるなら意味もメッセージも込められているはずだと思い込んでしまい、そこが一度気になりだすと音楽に十分に集中できなくなる。調べる手段もあるが、そこまで情熱を注げない。僕は日本語に慣れ親しみすぎたのだ。
「せっかく新しい分野を開拓できると思ったのに。是非もなし、残念だ。英語じゃ如何せん諦めるしか、またか」
手で触れるだけで熱烈な、直感的にピンとくる韻を踏む現象が、故意ではなく知らず知らずのうちに起きてしまう。
韻そのものは魅力ある、古来よりある言葉遊びのひとつだ。リズムを作るために用いる道具だ。驚き桃の木山椒の木、口ずさむと心地よい。この場合「おおおい」という母音と「のき」という子音が韻である。
しかし、この呪いは、前の持ち主の心残りがひたすら徒に密な韻を踏もうとするものだから、滅茶苦茶歪な文章ができてしまう。だが、どんなに押韻しても本来の意味をなさない。音に乗らなければ心地よかない。
式神が弾き出した、硬くお高く留まった図式のような類義語では無意味なのだ。韻に執着し生涯徹するようではまるで首輪に繋がれた哨戒天狗だ。鍵のかかる籠に入れられたカラスバトだ。あまりに窮屈すぎるから行く行くは抜け穴を探すだろう。
「まあ、好奇心旺盛な妖精の言葉のおもちゃくらいにはなるだろう。まるで知育玩具、共に踊ろうチークダンス、妖精たちの軽快なワルツ、けったいな楽譜に胸が弾む――」
口ずさみながら、台ごと担ぎ上げ、五月晴れな外へと、誰かの遊び場になるよう願って春の陽気を纏いだした外へと運び出した。
三日ほどすると、MPCに興味を示した少女たちが勝手に弄り始めていた。
メンツは大妖精、チルノ、ミスティアの3人であった。さらにルーミアとリグルを含めた5人で一緒に遊んでいるところを見かけるから、きっと仲良しグループなのだろう。いの一番に機械に触れたのはチルノだった。
「おお、頭の中に何かがぁ!」
どうやら僕と同じ呪いにかかったらしい。暫く、頭を抱えて悶絶すると、ブツブツと独り言を言い始めた。
「アタイは、チルノ……行くぞ、死ぬぞ……」
事切れるのが速すぎる。もう少し頑張ってほしい、自分の名前なら韻のストックを10は用意しないと。霖之助、死んどくれ、僕も死に急いでいるようだ。
「うお、チルノはコールド、背筋凍るぞ、幻想郷、コーストゥコースト」
「凄い、凄いよチルノ……! 私も!」
韻に気づき反応したのはミスティアであった。彼女は歌が好きであり、比較的音楽の文化に明るいのだろう。「らーらーらー♪」とメロディーを乗りこなすようにアカペラで歌い始めた。
「ミスティアローレライ、リスキーな碌でなし、うう、無理だもう、出ない……」
8文字とはなかなかに素晴らしい成長速度だ。語彙が頭脳に直結するわけではないが、彼女は意外と頭が良いのかもしれない。
「音が、音があれば……!」
「チルノちゃん!」
チルノの叫びに応えたのは大妖精であった。ふわりとMPCをまたぎ、しどろもどろになりながらレコードをかけた。低い音が鳴り響くと、どこで知ったのか、出鱈目なスクラッチを始めた。
「いけるよ、アタイ!イエーアタイはチルノ、氷の妖精、いつも陽気に行こうよ yo yo say hoooo!」
「hoooo! いいねー! 調子あがってきたよー」
下手糞なスクラッチも、妙に楽しげに聞こえる。各自バラバラ、しかし華々しい。ミスティアのメロディーに乗れてなかったり、言葉に詰まってたりもするが、自由に楽しめているようだ。
妖精たちの戯れは日が暮れるまで続いた。ぎこちないBGMではあったが、十分読書に勤しめた。僕は嵐の中でも本を読んでいられる自信がある。
唯一問題なのは、騒音のせいで客が寄り付かないことだ。これは由々しき事態であるため、手を打つ必要がありそうだ。いっそのこと、プレゼントすればいいのではないだろうか。遊び倒してもらった方が道具明利につきるはずで、またあの呪いも解けるだろう。あわよくば、対価交換で何かいいものが手に入るかもしれない。
そして今更気づいたのだが、あの機械は電気が動力源のはずなのに、ずっと稼働したということは確実に呪われているか、付喪神化している。曰く付きの物を売りさばくわけにはいかないので、やはり、妖精たちに引き取ってもらうのが最善だと思った。
夕焼けが世界を紅に染める。放置された売れない日時計を見ると時刻は午後の5時であった。人間がいう逢魔が時への恐怖とは程遠い心持で、僕はそろそろ、聡明じゃないほのぼの妖精たちがぞろぞろと来るのではないかという光ある未来に期待した。
引き取り手募集中の張り紙をしたのだが、嬉々として道具は収集する好事家は現れず、あれから三日間MPCは瓦礫の山のにぎやかしになっていた。磁気嵐を起こしかねないそれを整備しているのだから我ながら義理堅い。
MPCの整備を終え、店内に戻ろうとすると丁度遠くの方から、何人かの影が迫ってきているのが見えた。
「へへー、3人で歌詞も考えたんだよ」
「ふうん、流石みすちー」
「3人でだってば!」
嘘を見破ったかのようなリグルの態度にチルノが憤慨しながら、例の道具の前までふよふよと飛んできた。よく見るとルーミアもいた。今日は5人で来たようだ。話を聞く限り、3人はこの三日で曲を書き上げて来たらしかった。ぜひ聞かせてもらおうではないか。
準備は整ったようで、前回と同じくMCはチルノ、DJは大妖精が担当するようだ。ミスティアは合いの手を入れる担当、今回は盛り上げに徹するらしかった。
「じゃあ行くよー、MCチルノスティーノ、DJダイ、ぶちかませ!」
デュクデュクとスクラッチ音が鳴り、重低音が響き出した。チルノは歌詞を書いた紙を手に持ち、幼さが残るキンキン声でラップし始めた。
「yo-yo-クールでブルーなクルー、スノウより冷えたフロウが突き刺さる。紅白〇ッチ、白黒ウィッチ、一気に凌駕する王者、これが主人公の座強奪したノウハウ――」
キュインとここで針が飛ぶが、歌詞を読むのに必死なチルノは音を無視して続けた。
「行くぞ! 高い密度のフィスト掲げるチルノ!」
「チルノ!」
ミスティアの合いの手が入り3人は拳を高く掲げた。ルーミアとリグルは今一つノリ切れていないようで、とりあえず身体だけ揺らしていた。
「キマリまくったアイスクリーム、山彦ばり五月蠅いスクリーム! 滅多にねえよな、絶対零度なこの現場、まさに正念場、アタイこそが氷点下からの挑戦者!」
そこまで歌いきってチルノは、はあはあと息を切らしていた。僕は自然と拍手をしていた。良いじゃないか、僕は嫌いじゃない。魔理沙と霊夢への挑戦の意思と、彼女の特徴である氷を生かした韻が面白い。
チルノたちはやり切ったという表情で反応を待っていたが、2人の聴衆は首をかしげて唸っていた。
「うーん、微妙じゃない? ねえ」
「うん、ほんと、そーなのねって感じ。だから何、ではないけど」
「何よー、ディスってんの?」
「マイメンでしょ、アタイ達」
反応に困っていた2人に対して心底心外だとばかりにチルノは詰め寄った。しかし、その幻想郷らしからぬ語彙はどこから手に入れたのだろうか。
「そう、それだ。ディスってるって何なの? 英語混じりでさ、日本語が雑だし、なんかダサいし」
「針とびし過ぎだし、音とずれてるし」
「うぅ」
刃物みたく痛烈で的を射た批判を受け、大妖精の眼に涙が浮かび、絵にかいたような泣きっ面になりかけていた。
「何よ! もう、バーカバーカ! 行こっ、みすちー、大ちゃん」
「あ、うん、覚えてなさい2人とも、度肝抜いてやるんだから!」
チルノはそう吐き捨て、3人でMPCを担いだ。どうやら心が折れたわけではないらしく、ぷりぷり怒りながら東の方角へと飛んでいった。残った2人は気まずそうに一度目を合わせてから、別々の方角へと飛んでいった。
いざこざはあったようだが、何はともあれMPCを手放せた。度肝を抜くと言っていたから、3人で練習するのだろう。悔しさをバネに曲を作る反骨精神、いかにもヒップホップらしい。廃棄処分せずに済んで本当に良かった。
どうやら喧嘩していたようだが、すぐに仲直りするに決まっていた。彼女らは怨恨を引きずるほどの頭脳を持ってないのだ。基本天真爛漫でおつむの容量が小さいから、いつまでも幼い姿で居られるのである。
チルノたちがヒップホップとの邂逅を果たして一月が過ぎた。練習の成果を見せると、ミスティアはルーミアとリグルを誘い、霧の湖に来ていた。度肝を抜くと宣言した以上、半端な状態では見せられないと3人は練習を秘密裏に行っていた。そのため、5人が揃うのも一月ぶりである。
湖につくと準備を終えた大妖精が待っていた。どこから入手したのか、巨大なアンプまである。
「あれ、チルノは?」
ルーミアが聞くとミスティアは不敵に笑ってみせた。
「ふっふっふ。まずはDJダイ、Bring The Beat!」
ゆったりとしたビートが流れだした。それにミスティアがアカペラを合わせる。透き通る声とビートがかみ合って、リグルとルーミアの耳が心地よくなった。スネアが力強くなるあたりでミスティアは叫んだ。
「MCチルノ、Come on!」
ミキサーの台に隠れていたチルノが姿を現した。彼女は日焼けしていた。
「「黒っ!?」」
「Yeah~mother ×××××× fairy represent. Mc Cirno a.k.a. strongest in da building.
Dig mo ill flow will kill you three times. My rhyme is tighter than 8 cloud pussy. I’m on cloud ⑨.
This black blood is a brand that can't be absorbed by Flandre.
I'm nigga enough to turn around on da Prism river.
A big fat fairy plays this beat is art.
Da ×××××× bird sings, ignoring obrigato.
My voice on it is as fierce as a rage of blizzard.
Da top flow in Gensokyo works as well as cold alcohol. Of course da appetizer is frozen British beef.
Like a bombs, eat beer and meal. I say R.I.P. to great recipes.
Aiight!」
「「めっちゃネイティブ!」」
「その名をMPC、気分はディスクジョッキー、僕はすぐ直帰……」
無縁塚で拾った奇怪な機械に触れた瞬間、僕は腰砕け憑りつかれ落ち着かなくなった。なんだこの湧き上がる高揚感、有り余る衝動が、僕はもう、どうかしてしまったに違いない。そうでなくてはやりすぎだ、つまり勇み足。衝撃はまるで稲光。
「とりあえず、持ち帰るか」
込み上げる何かを胸の内に押し止めつつ、香霖堂へとGoing Going Goneした。
香霖堂に着いてからは、機械から手を離すと不思議と韻は浮かんでこなかった。どうやら、このMPCという道具には呪いがかけてあるようだ。よく見ると、これはMPCという固有名称ではなく、いくつかの機械が合わさっていることが分かった。レコードを乗せる所謂レコードプレイヤーが二つあり、その真ん中にミキサーという出力機がある。このミキサーの名前がMPCというらしい。その3つはコードで繋がっているものの、それぞれが独立しており、単に台に接着されているだけだった。(以下MPCと呼ぶ)
僕は菫子君から譲り受けた外の世界の雑誌に似たようなものが載っていたことを思い出した。
「ふむ、なるほど」
ヒップホップという音楽を奏でるものらしい。幻想郷にはあまりなじみがないため興味を持った。だから僕はこの機械と音楽について調べることにした。
いくつか調べて分かったことは、まずヒップホップというものは音楽そのものを指すわけではなく、異国で発生した文化であるということだ。文化としての歴史も浅く、道理でなじみがないわけである。
音楽としてはDJが曲を流し、ラップという歌唱法で歌い上げるのが基本のようだ。丁度その分野に該当するレコードがあったので試しに聴いてみたが、異国の英語という言語で歌詞が構成されているため僕の耳では聞き取れなかった。確かに首を振りたくなるような軽快さであるが、歌詞がわからなければ面白さは半減である。言葉をただ、音として捉えるならば楽しめるだろう。しかし、僕の脳みそは存外固いらしく、言葉があるなら意味もメッセージも込められているはずだと思い込んでしまい、そこが一度気になりだすと音楽に十分に集中できなくなる。調べる手段もあるが、そこまで情熱を注げない。僕は日本語に慣れ親しみすぎたのだ。
「せっかく新しい分野を開拓できると思ったのに。是非もなし、残念だ。英語じゃ如何せん諦めるしか、またか」
手で触れるだけで熱烈な、直感的にピンとくる韻を踏む現象が、故意ではなく知らず知らずのうちに起きてしまう。
韻そのものは魅力ある、古来よりある言葉遊びのひとつだ。リズムを作るために用いる道具だ。驚き桃の木山椒の木、口ずさむと心地よい。この場合「おおおい」という母音と「のき」という子音が韻である。
しかし、この呪いは、前の持ち主の心残りがひたすら徒に密な韻を踏もうとするものだから、滅茶苦茶歪な文章ができてしまう。だが、どんなに押韻しても本来の意味をなさない。音に乗らなければ心地よかない。
式神が弾き出した、硬くお高く留まった図式のような類義語では無意味なのだ。韻に執着し生涯徹するようではまるで首輪に繋がれた哨戒天狗だ。鍵のかかる籠に入れられたカラスバトだ。あまりに窮屈すぎるから行く行くは抜け穴を探すだろう。
「まあ、好奇心旺盛な妖精の言葉のおもちゃくらいにはなるだろう。まるで知育玩具、共に踊ろうチークダンス、妖精たちの軽快なワルツ、けったいな楽譜に胸が弾む――」
口ずさみながら、台ごと担ぎ上げ、五月晴れな外へと、誰かの遊び場になるよう願って春の陽気を纏いだした外へと運び出した。
三日ほどすると、MPCに興味を示した少女たちが勝手に弄り始めていた。
メンツは大妖精、チルノ、ミスティアの3人であった。さらにルーミアとリグルを含めた5人で一緒に遊んでいるところを見かけるから、きっと仲良しグループなのだろう。いの一番に機械に触れたのはチルノだった。
「おお、頭の中に何かがぁ!」
どうやら僕と同じ呪いにかかったらしい。暫く、頭を抱えて悶絶すると、ブツブツと独り言を言い始めた。
「アタイは、チルノ……行くぞ、死ぬぞ……」
事切れるのが速すぎる。もう少し頑張ってほしい、自分の名前なら韻のストックを10は用意しないと。霖之助、死んどくれ、僕も死に急いでいるようだ。
「うお、チルノはコールド、背筋凍るぞ、幻想郷、コーストゥコースト」
「凄い、凄いよチルノ……! 私も!」
韻に気づき反応したのはミスティアであった。彼女は歌が好きであり、比較的音楽の文化に明るいのだろう。「らーらーらー♪」とメロディーを乗りこなすようにアカペラで歌い始めた。
「ミスティアローレライ、リスキーな碌でなし、うう、無理だもう、出ない……」
8文字とはなかなかに素晴らしい成長速度だ。語彙が頭脳に直結するわけではないが、彼女は意外と頭が良いのかもしれない。
「音が、音があれば……!」
「チルノちゃん!」
チルノの叫びに応えたのは大妖精であった。ふわりとMPCをまたぎ、しどろもどろになりながらレコードをかけた。低い音が鳴り響くと、どこで知ったのか、出鱈目なスクラッチを始めた。
「いけるよ、アタイ!イエーアタイはチルノ、氷の妖精、いつも陽気に行こうよ yo yo say hoooo!」
「hoooo! いいねー! 調子あがってきたよー」
下手糞なスクラッチも、妙に楽しげに聞こえる。各自バラバラ、しかし華々しい。ミスティアのメロディーに乗れてなかったり、言葉に詰まってたりもするが、自由に楽しめているようだ。
妖精たちの戯れは日が暮れるまで続いた。ぎこちないBGMではあったが、十分読書に勤しめた。僕は嵐の中でも本を読んでいられる自信がある。
唯一問題なのは、騒音のせいで客が寄り付かないことだ。これは由々しき事態であるため、手を打つ必要がありそうだ。いっそのこと、プレゼントすればいいのではないだろうか。遊び倒してもらった方が道具明利につきるはずで、またあの呪いも解けるだろう。あわよくば、対価交換で何かいいものが手に入るかもしれない。
そして今更気づいたのだが、あの機械は電気が動力源のはずなのに、ずっと稼働したということは確実に呪われているか、付喪神化している。曰く付きの物を売りさばくわけにはいかないので、やはり、妖精たちに引き取ってもらうのが最善だと思った。
夕焼けが世界を紅に染める。放置された売れない日時計を見ると時刻は午後の5時であった。人間がいう逢魔が時への恐怖とは程遠い心持で、僕はそろそろ、聡明じゃないほのぼの妖精たちがぞろぞろと来るのではないかという光ある未来に期待した。
引き取り手募集中の張り紙をしたのだが、嬉々として道具は収集する好事家は現れず、あれから三日間MPCは瓦礫の山のにぎやかしになっていた。磁気嵐を起こしかねないそれを整備しているのだから我ながら義理堅い。
MPCの整備を終え、店内に戻ろうとすると丁度遠くの方から、何人かの影が迫ってきているのが見えた。
「へへー、3人で歌詞も考えたんだよ」
「ふうん、流石みすちー」
「3人でだってば!」
嘘を見破ったかのようなリグルの態度にチルノが憤慨しながら、例の道具の前までふよふよと飛んできた。よく見るとルーミアもいた。今日は5人で来たようだ。話を聞く限り、3人はこの三日で曲を書き上げて来たらしかった。ぜひ聞かせてもらおうではないか。
準備は整ったようで、前回と同じくMCはチルノ、DJは大妖精が担当するようだ。ミスティアは合いの手を入れる担当、今回は盛り上げに徹するらしかった。
「じゃあ行くよー、MCチルノスティーノ、DJダイ、ぶちかませ!」
デュクデュクとスクラッチ音が鳴り、重低音が響き出した。チルノは歌詞を書いた紙を手に持ち、幼さが残るキンキン声でラップし始めた。
「yo-yo-クールでブルーなクルー、スノウより冷えたフロウが突き刺さる。紅白〇ッチ、白黒ウィッチ、一気に凌駕する王者、これが主人公の座強奪したノウハウ――」
キュインとここで針が飛ぶが、歌詞を読むのに必死なチルノは音を無視して続けた。
「行くぞ! 高い密度のフィスト掲げるチルノ!」
「チルノ!」
ミスティアの合いの手が入り3人は拳を高く掲げた。ルーミアとリグルは今一つノリ切れていないようで、とりあえず身体だけ揺らしていた。
「キマリまくったアイスクリーム、山彦ばり五月蠅いスクリーム! 滅多にねえよな、絶対零度なこの現場、まさに正念場、アタイこそが氷点下からの挑戦者!」
そこまで歌いきってチルノは、はあはあと息を切らしていた。僕は自然と拍手をしていた。良いじゃないか、僕は嫌いじゃない。魔理沙と霊夢への挑戦の意思と、彼女の特徴である氷を生かした韻が面白い。
チルノたちはやり切ったという表情で反応を待っていたが、2人の聴衆は首をかしげて唸っていた。
「うーん、微妙じゃない? ねえ」
「うん、ほんと、そーなのねって感じ。だから何、ではないけど」
「何よー、ディスってんの?」
「マイメンでしょ、アタイ達」
反応に困っていた2人に対して心底心外だとばかりにチルノは詰め寄った。しかし、その幻想郷らしからぬ語彙はどこから手に入れたのだろうか。
「そう、それだ。ディスってるって何なの? 英語混じりでさ、日本語が雑だし、なんかダサいし」
「針とびし過ぎだし、音とずれてるし」
「うぅ」
刃物みたく痛烈で的を射た批判を受け、大妖精の眼に涙が浮かび、絵にかいたような泣きっ面になりかけていた。
「何よ! もう、バーカバーカ! 行こっ、みすちー、大ちゃん」
「あ、うん、覚えてなさい2人とも、度肝抜いてやるんだから!」
チルノはそう吐き捨て、3人でMPCを担いだ。どうやら心が折れたわけではないらしく、ぷりぷり怒りながら東の方角へと飛んでいった。残った2人は気まずそうに一度目を合わせてから、別々の方角へと飛んでいった。
いざこざはあったようだが、何はともあれMPCを手放せた。度肝を抜くと言っていたから、3人で練習するのだろう。悔しさをバネに曲を作る反骨精神、いかにもヒップホップらしい。廃棄処分せずに済んで本当に良かった。
どうやら喧嘩していたようだが、すぐに仲直りするに決まっていた。彼女らは怨恨を引きずるほどの頭脳を持ってないのだ。基本天真爛漫でおつむの容量が小さいから、いつまでも幼い姿で居られるのである。
チルノたちがヒップホップとの邂逅を果たして一月が過ぎた。練習の成果を見せると、ミスティアはルーミアとリグルを誘い、霧の湖に来ていた。度肝を抜くと宣言した以上、半端な状態では見せられないと3人は練習を秘密裏に行っていた。そのため、5人が揃うのも一月ぶりである。
湖につくと準備を終えた大妖精が待っていた。どこから入手したのか、巨大なアンプまである。
「あれ、チルノは?」
ルーミアが聞くとミスティアは不敵に笑ってみせた。
「ふっふっふ。まずはDJダイ、Bring The Beat!」
ゆったりとしたビートが流れだした。それにミスティアがアカペラを合わせる。透き通る声とビートがかみ合って、リグルとルーミアの耳が心地よくなった。スネアが力強くなるあたりでミスティアは叫んだ。
「MCチルノ、Come on!」
ミキサーの台に隠れていたチルノが姿を現した。彼女は日焼けしていた。
「「黒っ!?」」
「Yeah~mother ×××××× fairy represent. Mc Cirno a.k.a. strongest in da building.
Dig mo ill flow will kill you three times. My rhyme is tighter than 8 cloud pussy. I’m on cloud ⑨.
This black blood is a brand that can't be absorbed by Flandre.
I'm nigga enough to turn around on da Prism river.
A big fat fairy plays this beat is art.
Da ×××××× bird sings, ignoring obrigato.
My voice on it is as fierce as a rage of blizzard.
Da top flow in Gensokyo works as well as cold alcohol. Of course da appetizer is frozen British beef.
Like a bombs, eat beer and meal. I say R.I.P. to great recipes.
Aiight!」
「「めっちゃネイティブ!」」
勢いのある曲を聞きたくなるような作品ですね。だいぶ好きです。良かったです。
ノリにのってる独自の作風
強みをイカした唯一無二の
展開の疾走感がすごい
Hip hopで駆けるこの物語最高 匹夫 hopeに書ける程度なら再考
灯眼しか出来ないこのStory 対岸の人間眺めるだけfooly
Hey call his name is Tohgan. Say cool his tale is so fan!
yeah.
こういうことですかね?わかりません
笑った俺の負けだけになんとなく浮かんだダレノガレ明美
YO