今日は年に二回の賽日。滅多に無い休みで今日は四季様と一緒に鍋にしようと話していた。四季様に「あなたはいつも休んでいるようなものですが」と突っ込まれはしたけれど。
あたいは今、人間の里で鍋の材料を買いに来ている。ここに来る前に四季様の家に行ったけれども、やっぱり食材なんてものは無かったので、あたいが買いに行くことになった。四季様は家を掃除するって言ってたけどいいのかね。綺麗だと思ってたんだけど。
あたい達、地獄のものが休みだろうが関係無く、里はいつものように賑わっている。どこかしらから、「らっしゃい!」とか「これ一つ」とか、そんな声が沢山聞こえてくる。何も無いのが一番平和って言うもんだよ。いいものだね。とそんな古臭いことを思いながら、八百屋を見つけて親父さんに声をかけようとするといつも見ている後ろ姿があった。橙のスカートに白と赤の目立つ髪の毛にひよこが乗っている。大きな尻尾に羽。庭渡様だった。
「やあ、庭渡様も買い物かい?」
びっくりしたのか庭渡様はわかりやすい程に飛び上がった。
「ひゃっ! こ、小町さんですか!」
「そんなに驚かなくても」
飛び上がってそのまま空に飛びそうだったので苦笑いしてしまう。八百屋にいるということは野菜を買おうとしていたんだろうが……
「小町さんはどうしたんですか? サボり以外で人里にいるのも珍しいと思うんですが」
庭渡様は純粋なようでバッサリ言葉で切りかかってくる。容赦なくサボりって言ったよね……まあ、そこは否定できないけれど。
「せっかくの休みだから四季様と鍋をしようって言ってたんだ。里に食材を買いに来たってわけ」
「ほうほう、それは良いことですね」
里にいる理由を話すと庭渡様は腕を組んでうんうんと頷いている。楽しそうな笑顔が印象的だった。
「おおい、嬢ちゃん方。何を買うんだい? 言ってくれないと出せないよ」
「あ、ごめんなさい。大根と、白菜と……」
急かされて私たちは各々の買い物をした。
***
「たくさん買いましたね」
「そうだね。四季様待たせちゃ悪いから帰るよ」
持ってきていた買い物袋いっぱいの野菜やお肉。ああ、そういえば家にお酒ってあったかな。
「それがいいですね。小町さん、四季様と楽しんでくださいね」
「そうさせてもらうよ。庭渡様も休暇を楽しんで」
軽く手を振りあってあたい達は別れた。
四季様との久しぶりの食事が嬉しくて鼻歌を歌いながら歩いていく。能力を使って家の近くまで着いて、歩く。鼻歌混じりの声は軽く響いていた。四季様の家の前まで来ると何か話し声が聞こえた。
「おやすみのところ、ほんっとにすみません。さとり様がどうしてもって言って……」
「いえいえ、書類を受け取りに行きましょうか。お燐、あなたもお疲れ様です」
良く見知った声と四季様の声。あたいはそのまま玄関の前に歩いていった。
「小町。おかえりなさい」
「ただいまです四季様。で、お燐がなんでここにいるんだい?」
あはは、と軽く頭を掻くお燐。
「さとり様に言われたからさ……四季様、書類を受け取りに来てくれるんですか」
「小町に送ってもらいましょう。そちらの方が早いでしょうから」
この流れだと、地霊殿に行かないといけないのかな。せっかくの休みなのに割り込まないで欲しい。そんなわがままも通らないんだろうけれど。
「ちょっと待ってくださいな。荷物だけ置かせてください。それと四季様、あたいが行ってきますので休んでてくださいよ」
よいしょ、と荷物を持って玄関をくぐって買ってきた荷物を台所に置く。玄関からあたいの後ろをついてきた四季様は言う。
「小町、それだと悪いですよ。私が取りに行くものなのですから、一緒に連れて行ってください」
それを聞きながらあたいは紙を入れるための肩掛け鞄をかける。
「四季様、物を取りに行くのは雑用なのであたいが行ってきます。悪いと思うなら鍋の準備でもして待っててください。楽しみにしてます」
キュッと手を握る。暖かい四季様の手はとても柔らくて優しいように思う。じっと四季様の顔を見つめる。四季様は頷いて柔らかく笑いかけてくれた。
「待っててくださいね。それじゃあいってきます」
「ええ、お鍋の用意して待ってます。いってらっしゃい、小町」
手を降ってあたいはお燐と地霊殿に向かった。お燐には悪いけれど猫の姿になってもらい、抱えて能力で空を飛ぶ。地獄の空と、地底の空との距離を近づけてあっという間に着いた。
にゃあん〜
地霊殿の前に着いたと同時にお燐はあたいの腕の中から華麗に降りて、付いてこいと言わんばかりにこちらを向いて歩いていく。その後ろを歩いていく。地霊殿の大きな扉を開けて見えるのは玄関ホール。入って真っ直ぐの階段に人影が見えた。お燐は階段を駆け上がって、降りてきていた人影に抱えられた。
「無茶を言ってすみませんね。出しておかないといけないものを忘れていまして。小町さんが代わりに来てくれたんですか」
コツコツと階段を降りてくるさとりさん。
「受け取ったら帰るからさ」
どうしても苛つく感情を抑えられなかった。仕事のこととは言え、なぜ今日なのだろうか。そればかり思ってしまう。これすら筒抜けなのだから本当にあたいはどうしようもない。
「不快にさせてしまいましたね。お詫びにお酒を持って帰ってください。それとこれが本題の書類です。四季様にきちんと渡してくださいね。それと折り曲げ厳禁ですよ」
いつもの人を食ったような笑顔でさとりさんは言った。心の中は疲れてげっそりとしてしまい、さとりさんから書類を受け取って、鞄に入れたところでお燐が一升瓶を持ってきた。
「小町さん、ごめんね。四季様と楽しんで飲んできて」
すまなさそうな笑顔でそう言うのであたいは告げる。
「ありがとうお燐。大丈夫さ。まあお酒は有難くいただくけど。次は地獄が空いている時に頼むよ」
「はは……そうさせてもらうね」
書類が折れない程度の速さで空を駆けた。早く四季様のところに帰りたかった。せっかくの二人の休みなのだから大切にしたいのに。そんなことを思いながらあたいは急いだ。
***
「ただいまです……」
ガラガラと戸が開く音が大きく響く。疲れた、までは声には出さなかったけれどどっしりと疲れが溜まっていた。仕事中ならまだ良いけれど、オフの最中に仕事をするなんて思わなかった……全部がオフって言われたらなんとも言えないけどね。
「おかえりなさい、小町! 用意して待っていましたよ!」
パタパタと玄関まで来てくれる四季様はとても可愛いと思う。それだけでほっと一息つけたような気がした。
「ただいまです、四季様……」
「小町、二人の時は名前で呼んでくださいと言いませんでしたか」
コラっ、と言うかのように私の胸を指さしている。
「ええ、分かっています映姫さん。それとこの鞄は映姫さんのお部屋に置いておきますよ」
玄関に座って靴を脱いで上がっていく。映姫さんの顔を見るとやっぱり恥ずかしそうにしているのがとても良かった。
「ほ、ほら小町っ、用意は終わってるんです。食べましょう?」
「はい! それとさとりさんからお酒も貰ってきたんです。それも一緒にいただきましょうよ」
瓶を掲げながらあたい達は映姫さんが用意してくれた鍋のある部屋移動した。暖かいこたつもあって幸せだな。
「小町を待っていたんです、食べましょうか。味付けとか頑張って見たんです」
「それは楽しみです。映姫さんの料理美味しいんですから」
ふふ、と二人で笑いあって、向かい合わせに座って映姫さんが用意してくれた鍋を食べ始めた。
***
「ほら、暖かいうちに食べてください」
お椀に入れた具材はとても美味しそうだ。映姫さんが渡してくれるのを受け取る。バランスよく入れてあって、目に入るのは肉団子で、その周りににんじんや白菜など良く煮詰まった野菜たち。味付けは味噌でつけているらしく美味しそうな匂いが漂っている。
「ありがとう映姫さん」
嬉しくてニコニコと笑ってしまう。それにつられて映姫さんも笑っているのでさらに嬉しくなる。
「それじゃあ……いただきます」
手を合わせて、まずは一口。だしの効いた味噌の味が口の中に広がる。美味しい。
「わ……とても美味しいです! 暖かくてとてもいいですね」
「ふふ、そんなに笑顔になって喜んでもらえるのは嬉しいわ」
いただきますと言って映姫さんも食べ始めている。
「そう、小町。書類を受け取りに行ってくれてありがとう。本当は私が行かねばいけないのですけれど……」
「なぁーに言ってるんですか。今日は映姫さんの中々無い休みなんですから休んで欲しかったんですよ。それにあなたのお役にたてるのならあたいは嬉しいですもん」
ピンっと映姫さんのおでこにデコピンをする。あいた、とおでこを押さえている。
「いたた……それでもお礼は言わせてくださいよ。ですがそう言うのでしたら普段の仕事でも発揮してください……」
「ええ〜……それとこれとは違いません?」
「そういうものでも無いでしょう! 小町あなたは〜……」
ああ、二人きりだけど説教が始まっちゃった。想ってくれるのは嬉しいけれど、ね。
***
食べ終わってお腹いっぱいになったのであたいは片付けを始める。貰ったお酒は二人で飲みきったので少しだけ酔っているように思うけれどまだまだ飲めそうなので普通に動ける。
「私も手伝います」
「いえいえ、お鍋の用意は映姫さんがしてくれたんですから、片付けはあたいがしますよ。ゆっくりしてください」
「いいえ、私もやります。今回は引きませんからね」
そう言って映姫さんは引いてくれなかったので、あたいが洗い物をして一緒に片付けた。
こたつに二人で笑いあいながら入る。座ると映姫さんは私の隣に座った。少しだけこちらを見たりしている。
「……映姫さん、あたいの前に座りますか? 少し読書をしようと思うんですが」
ぱあぁと花開くような明るい笑顔で頷いて、あたいの前にすわった。映姫さんの身体を包み込むようにこたつに入る。
「暖かいですね。小町は何を読むんですか」
「アガサクリスQが新しいミステリーを出していたみたいなのでそれを読みたいなーって思ってまして。はじめの章を読んでみたのですけれど、これまた面白そうで」
いきなり何者かに殺されていたヒロインの謎を解決するために主人公の男が推理していく話だった。
「あら、いいですね……また貸してください。私も読みたいです」
「いいですよ〜映姫さんは何をするんですか」
そう言うと映姫さんは、あたいの前から出て、さっき取りに行った書類を持ってきた。
「少しだけこれに目を通して置こうと思いまして」
「それは明日でいいのでは?」
もぞもぞとまたあたいの前に入ってきている。
「少しでもやっておけば違うでしょう? 判子とかは押しませんし、目を通すだけなので」
「……四季様がいいならまあ」
「小町、名前が戻ってるわよ」
ああ、仕事の話になっていたからか名前が戻っていた。
「無理ない程度にしてくださいよ」
「読むだけなら無理してないわよ……」
映姫さんは書類に目を通し始めた。あたいも本の続きを読もうかな。そう思って本を開けた。
ゆっくりとしたペースで読んでいて、物語が謎解きを始めた半分あたりで身体に重さを感じた。映姫さんの方を見ると軽く寝息が聞こえて来た。あたいの方に身体を預けてくれていたんだろう。目を通し終わった書類は机の上に綺麗に纏めてあった。
「あら……映姫さん、寝ちゃいましたか」
普段から疲れているんだろうな。読んでいる本を栞を挟んで閉じる。机の上に置いて、映姫さんの身体を支えながら、起こさないように一緒に寝転ぶ。映姫さんのサラサラとした緑の髪の毛があたいの頬を通った。くすぐったかった。
映姫さんの頭を軽くゆっくりと撫でる。こうやって二人でいられることが幸せで、とても嬉しい。本当に愛おしいなあ。
「映姫……ゆっくりと休んでください」
すやすやと寝る映姫さんの顔を見ながらあたいは幸せ噛み締めていた。
そんなささやかな休日だった。
あたいは今、人間の里で鍋の材料を買いに来ている。ここに来る前に四季様の家に行ったけれども、やっぱり食材なんてものは無かったので、あたいが買いに行くことになった。四季様は家を掃除するって言ってたけどいいのかね。綺麗だと思ってたんだけど。
あたい達、地獄のものが休みだろうが関係無く、里はいつものように賑わっている。どこかしらから、「らっしゃい!」とか「これ一つ」とか、そんな声が沢山聞こえてくる。何も無いのが一番平和って言うもんだよ。いいものだね。とそんな古臭いことを思いながら、八百屋を見つけて親父さんに声をかけようとするといつも見ている後ろ姿があった。橙のスカートに白と赤の目立つ髪の毛にひよこが乗っている。大きな尻尾に羽。庭渡様だった。
「やあ、庭渡様も買い物かい?」
びっくりしたのか庭渡様はわかりやすい程に飛び上がった。
「ひゃっ! こ、小町さんですか!」
「そんなに驚かなくても」
飛び上がってそのまま空に飛びそうだったので苦笑いしてしまう。八百屋にいるということは野菜を買おうとしていたんだろうが……
「小町さんはどうしたんですか? サボり以外で人里にいるのも珍しいと思うんですが」
庭渡様は純粋なようでバッサリ言葉で切りかかってくる。容赦なくサボりって言ったよね……まあ、そこは否定できないけれど。
「せっかくの休みだから四季様と鍋をしようって言ってたんだ。里に食材を買いに来たってわけ」
「ほうほう、それは良いことですね」
里にいる理由を話すと庭渡様は腕を組んでうんうんと頷いている。楽しそうな笑顔が印象的だった。
「おおい、嬢ちゃん方。何を買うんだい? 言ってくれないと出せないよ」
「あ、ごめんなさい。大根と、白菜と……」
急かされて私たちは各々の買い物をした。
***
「たくさん買いましたね」
「そうだね。四季様待たせちゃ悪いから帰るよ」
持ってきていた買い物袋いっぱいの野菜やお肉。ああ、そういえば家にお酒ってあったかな。
「それがいいですね。小町さん、四季様と楽しんでくださいね」
「そうさせてもらうよ。庭渡様も休暇を楽しんで」
軽く手を振りあってあたい達は別れた。
四季様との久しぶりの食事が嬉しくて鼻歌を歌いながら歩いていく。能力を使って家の近くまで着いて、歩く。鼻歌混じりの声は軽く響いていた。四季様の家の前まで来ると何か話し声が聞こえた。
「おやすみのところ、ほんっとにすみません。さとり様がどうしてもって言って……」
「いえいえ、書類を受け取りに行きましょうか。お燐、あなたもお疲れ様です」
良く見知った声と四季様の声。あたいはそのまま玄関の前に歩いていった。
「小町。おかえりなさい」
「ただいまです四季様。で、お燐がなんでここにいるんだい?」
あはは、と軽く頭を掻くお燐。
「さとり様に言われたからさ……四季様、書類を受け取りに来てくれるんですか」
「小町に送ってもらいましょう。そちらの方が早いでしょうから」
この流れだと、地霊殿に行かないといけないのかな。せっかくの休みなのに割り込まないで欲しい。そんなわがままも通らないんだろうけれど。
「ちょっと待ってくださいな。荷物だけ置かせてください。それと四季様、あたいが行ってきますので休んでてくださいよ」
よいしょ、と荷物を持って玄関をくぐって買ってきた荷物を台所に置く。玄関からあたいの後ろをついてきた四季様は言う。
「小町、それだと悪いですよ。私が取りに行くものなのですから、一緒に連れて行ってください」
それを聞きながらあたいは紙を入れるための肩掛け鞄をかける。
「四季様、物を取りに行くのは雑用なのであたいが行ってきます。悪いと思うなら鍋の準備でもして待っててください。楽しみにしてます」
キュッと手を握る。暖かい四季様の手はとても柔らくて優しいように思う。じっと四季様の顔を見つめる。四季様は頷いて柔らかく笑いかけてくれた。
「待っててくださいね。それじゃあいってきます」
「ええ、お鍋の用意して待ってます。いってらっしゃい、小町」
手を降ってあたいはお燐と地霊殿に向かった。お燐には悪いけれど猫の姿になってもらい、抱えて能力で空を飛ぶ。地獄の空と、地底の空との距離を近づけてあっという間に着いた。
にゃあん〜
地霊殿の前に着いたと同時にお燐はあたいの腕の中から華麗に降りて、付いてこいと言わんばかりにこちらを向いて歩いていく。その後ろを歩いていく。地霊殿の大きな扉を開けて見えるのは玄関ホール。入って真っ直ぐの階段に人影が見えた。お燐は階段を駆け上がって、降りてきていた人影に抱えられた。
「無茶を言ってすみませんね。出しておかないといけないものを忘れていまして。小町さんが代わりに来てくれたんですか」
コツコツと階段を降りてくるさとりさん。
「受け取ったら帰るからさ」
どうしても苛つく感情を抑えられなかった。仕事のこととは言え、なぜ今日なのだろうか。そればかり思ってしまう。これすら筒抜けなのだから本当にあたいはどうしようもない。
「不快にさせてしまいましたね。お詫びにお酒を持って帰ってください。それとこれが本題の書類です。四季様にきちんと渡してくださいね。それと折り曲げ厳禁ですよ」
いつもの人を食ったような笑顔でさとりさんは言った。心の中は疲れてげっそりとしてしまい、さとりさんから書類を受け取って、鞄に入れたところでお燐が一升瓶を持ってきた。
「小町さん、ごめんね。四季様と楽しんで飲んできて」
すまなさそうな笑顔でそう言うのであたいは告げる。
「ありがとうお燐。大丈夫さ。まあお酒は有難くいただくけど。次は地獄が空いている時に頼むよ」
「はは……そうさせてもらうね」
書類が折れない程度の速さで空を駆けた。早く四季様のところに帰りたかった。せっかくの二人の休みなのだから大切にしたいのに。そんなことを思いながらあたいは急いだ。
***
「ただいまです……」
ガラガラと戸が開く音が大きく響く。疲れた、までは声には出さなかったけれどどっしりと疲れが溜まっていた。仕事中ならまだ良いけれど、オフの最中に仕事をするなんて思わなかった……全部がオフって言われたらなんとも言えないけどね。
「おかえりなさい、小町! 用意して待っていましたよ!」
パタパタと玄関まで来てくれる四季様はとても可愛いと思う。それだけでほっと一息つけたような気がした。
「ただいまです、四季様……」
「小町、二人の時は名前で呼んでくださいと言いませんでしたか」
コラっ、と言うかのように私の胸を指さしている。
「ええ、分かっています映姫さん。それとこの鞄は映姫さんのお部屋に置いておきますよ」
玄関に座って靴を脱いで上がっていく。映姫さんの顔を見るとやっぱり恥ずかしそうにしているのがとても良かった。
「ほ、ほら小町っ、用意は終わってるんです。食べましょう?」
「はい! それとさとりさんからお酒も貰ってきたんです。それも一緒にいただきましょうよ」
瓶を掲げながらあたい達は映姫さんが用意してくれた鍋のある部屋移動した。暖かいこたつもあって幸せだな。
「小町を待っていたんです、食べましょうか。味付けとか頑張って見たんです」
「それは楽しみです。映姫さんの料理美味しいんですから」
ふふ、と二人で笑いあって、向かい合わせに座って映姫さんが用意してくれた鍋を食べ始めた。
***
「ほら、暖かいうちに食べてください」
お椀に入れた具材はとても美味しそうだ。映姫さんが渡してくれるのを受け取る。バランスよく入れてあって、目に入るのは肉団子で、その周りににんじんや白菜など良く煮詰まった野菜たち。味付けは味噌でつけているらしく美味しそうな匂いが漂っている。
「ありがとう映姫さん」
嬉しくてニコニコと笑ってしまう。それにつられて映姫さんも笑っているのでさらに嬉しくなる。
「それじゃあ……いただきます」
手を合わせて、まずは一口。だしの効いた味噌の味が口の中に広がる。美味しい。
「わ……とても美味しいです! 暖かくてとてもいいですね」
「ふふ、そんなに笑顔になって喜んでもらえるのは嬉しいわ」
いただきますと言って映姫さんも食べ始めている。
「そう、小町。書類を受け取りに行ってくれてありがとう。本当は私が行かねばいけないのですけれど……」
「なぁーに言ってるんですか。今日は映姫さんの中々無い休みなんですから休んで欲しかったんですよ。それにあなたのお役にたてるのならあたいは嬉しいですもん」
ピンっと映姫さんのおでこにデコピンをする。あいた、とおでこを押さえている。
「いたた……それでもお礼は言わせてくださいよ。ですがそう言うのでしたら普段の仕事でも発揮してください……」
「ええ〜……それとこれとは違いません?」
「そういうものでも無いでしょう! 小町あなたは〜……」
ああ、二人きりだけど説教が始まっちゃった。想ってくれるのは嬉しいけれど、ね。
***
食べ終わってお腹いっぱいになったのであたいは片付けを始める。貰ったお酒は二人で飲みきったので少しだけ酔っているように思うけれどまだまだ飲めそうなので普通に動ける。
「私も手伝います」
「いえいえ、お鍋の用意は映姫さんがしてくれたんですから、片付けはあたいがしますよ。ゆっくりしてください」
「いいえ、私もやります。今回は引きませんからね」
そう言って映姫さんは引いてくれなかったので、あたいが洗い物をして一緒に片付けた。
こたつに二人で笑いあいながら入る。座ると映姫さんは私の隣に座った。少しだけこちらを見たりしている。
「……映姫さん、あたいの前に座りますか? 少し読書をしようと思うんですが」
ぱあぁと花開くような明るい笑顔で頷いて、あたいの前にすわった。映姫さんの身体を包み込むようにこたつに入る。
「暖かいですね。小町は何を読むんですか」
「アガサクリスQが新しいミステリーを出していたみたいなのでそれを読みたいなーって思ってまして。はじめの章を読んでみたのですけれど、これまた面白そうで」
いきなり何者かに殺されていたヒロインの謎を解決するために主人公の男が推理していく話だった。
「あら、いいですね……また貸してください。私も読みたいです」
「いいですよ〜映姫さんは何をするんですか」
そう言うと映姫さんは、あたいの前から出て、さっき取りに行った書類を持ってきた。
「少しだけこれに目を通して置こうと思いまして」
「それは明日でいいのでは?」
もぞもぞとまたあたいの前に入ってきている。
「少しでもやっておけば違うでしょう? 判子とかは押しませんし、目を通すだけなので」
「……四季様がいいならまあ」
「小町、名前が戻ってるわよ」
ああ、仕事の話になっていたからか名前が戻っていた。
「無理ない程度にしてくださいよ」
「読むだけなら無理してないわよ……」
映姫さんは書類に目を通し始めた。あたいも本の続きを読もうかな。そう思って本を開けた。
ゆっくりとしたペースで読んでいて、物語が謎解きを始めた半分あたりで身体に重さを感じた。映姫さんの方を見ると軽く寝息が聞こえて来た。あたいの方に身体を預けてくれていたんだろう。目を通し終わった書類は机の上に綺麗に纏めてあった。
「あら……映姫さん、寝ちゃいましたか」
普段から疲れているんだろうな。読んでいる本を栞を挟んで閉じる。机の上に置いて、映姫さんの身体を支えながら、起こさないように一緒に寝転ぶ。映姫さんのサラサラとした緑の髪の毛があたいの頬を通った。くすぐったかった。
映姫さんの頭を軽くゆっくりと撫でる。こうやって二人でいられることが幸せで、とても嬉しい。本当に愛おしいなあ。
「映姫……ゆっくりと休んでください」
すやすやと寝る映姫さんの顔を見ながらあたいは幸せ噛み締めていた。
そんなささやかな休日だった。
とても良かったです
この小町さん四季様のこと大好きすぎでしょ
オフの時の呼び方にこだわる映姫が可愛かったです。