この私、究極の絶対秘神、摩多羅隠岐奈は最近一人の妖精に名前を呼んでもらいたいのだ。私はいつもいつも空回りばかりしていると二童子に言われる。それはどういうことなのだ。
今日も希望を抱いてその妖精に会いにいく。
~*~*~
「それじゃあ私は少し出かけてくる。お前たちは留守番をよろしくな」
座っている椅子から立ち上がり、一つの後戸に手をかける。
「お師匠様、また例の妖精のところに行くんですか。いい加減見放されますよ」
そういうのは爾子田里乃。少し性格がひねくれている方だ。
「なあに、大丈夫だ」
「……まあ、お師匠様がそう思うなら。知りませんけどね……」
その言葉を聞きながら私はカタンとなる後戸を開け、出ていく。
「やあ、エタニティラルバ。元気にしているかい」
後戸から身体を出したところでグーで殴られた。ラルバの部屋に引きずり込まれる。後戸は閉まっていた。
「なんでまた私の後戸から出てるの! いい加減にして!」
ツーヒット、スリーヒット……うごっ、みぞおちに入った。そのまま倒れ込む。ラルバの部屋のものが散乱する。
「いいパンチだ……ところでラルバよ。私の名前は呼んでくれないのかい?」
「呼ばないよ! 後戸の神! というか私の部屋に来ないで!」
そう言い放つや否や、ラルバは家から飛び出して行った。
うむ……なんで私は嫌われているのだ。名前を呼んでもらえるまでは諦めたりはしないが。立ち上がってゆっくりと私は家の外に出た。一度後戸の国に帰れればまたすぐに行けるのだろうがあいにくここに妖怪一人もいない。とりあえず空を飛ぶことにした。
ラルバが逃げる時の鱗粉が撒き散らされているので追いかけるのは容易だった。ラルバの家は風見幽香の管理する太陽の畑の近くの木の中に住んでいてそこから辿ると妖怪の山の方まで繋がっていた。
はて、妖怪の山……何があったか。覚えてはいなかったがとりあえず向かうことにした。
~*~*~
「なんであの神は私のところに来るのよ!」
襲いかかる白狼天狗から逃げる。死んでも一回休みだけど、復活するまで時間がかかるから死ぬのは嫌だ。痛いもん。そんな野暮なことを思いながら全速力で飛ぶ。逃げきれたかと思ったら私は何かとぶつかった。私は地面に落ちる。
「いっつ……誰?」
転げたところから立ち上がったその人を見ると白の長い髪の毛に赤いズボン。白狼天狗ではなかった。
「大丈夫か……」
と、その人が手を差し伸べようとした時、後ろの方から待て!と大声が聞こえた。
「ちくしょ……おい、誰だかわからんがとりあえず抱えるぞ!振り落とされるなよ!」
頷く前にその人は私をが抱えて走り出した。自分で飛ぶよりも揺れて気持ち悪くて気を失った。
「……お、おい……おい! 大丈夫か!」
そんな大声で意識の暗闇から浮上する。パチパチと何かが燃える音が聞こえる。ゆっくりと身体を起こすと私に声をかけていたぶつかった人と、囲炉裏の前で火の調整をする、くせっ毛の白……灰?の女性がいた。後ろに向いていた。辺りを見渡すと少し古びた小屋のようだった。
「……ここは?」
「ああ、うちの家さね。お前さん妹紅とぶつかって気を失ってたんだ」
後ろのまま何かの用意をしている女性。
「おおいネムノ、自己紹介しないと分からないだろ」
私の近くにいる白の髪の毛の人が言った。女性はそれを聞いてこちらを向いた。
「忘れてたべ。うちは坂田ネムノ。よろしく」
「私は藤原妹紅」
ネムノさんと、妹紅……さんでいいのかな。二人はこちらを向いて自己紹介してくれた。
「ええと、ありがとう。私はエタニティラルバ。よろしくね」
ニッと妹紅さんが笑った。ネムノさんはまた何かを作っているらしく後ろに向いていた。
グゥ、とお腹が鳴ってしまった。恥ずかしくて私はお腹を隠してしまう。朝ごはんを食べようとしたところに摩多羅神が来たものだから食べられもしなかった。
「ラルバはお腹減ってたのか」
「待ってろ。今作ってるからな」
ネムノさんがそう言ってポチャンと何かを入れている。あたりにとても美味しそうな匂いが漂ってきた。
「お、私が作った味噌か。使ってくれてるのか、嬉しいな」
「せっかく妹紅がくれたんだべ、使わないと損だ。何回か使ってるけど美味いぞ」
テキパキと出来上がるのを私はじっと見る。
「へへ、ならよかった」
妹紅さんは笑顔で嬉しそうにしていた。
「ほれ、出来たべ」
お椀が私の前に置かれる。味噌の汁の中にたくさんの具だった。
「イノシシ汁なんだってさ。それじゃあいただきます」
さっそく妹紅さんは食べ始めている。
「ネムノさん、ありがとうございます」
「暖かいうちに食べろ。そっちの方が美味しいぞ」
お箸を渡されて、お椀を手に取る。私の手には大きなお椀だったので両手で持ってまずは一口。
……美味しい! 暖かくてとても優しいような味がした。
「美味しいです」
「そうかそうか。なら良いべ。それで聞きたいんだけれど、なんでお前さんは妹紅とぶつかったんだ」
ええと……助けてもらったからには言わないといけないかな。
「ある神に追われてて。来ないでって言ってるのに私のところに来るから逃げてたの。あの神はしつこいけど悪いわけじゃないとは思うんだけど……」
私は思う。なんで私が名前を呼ばないだけで追いかけてくるのか。分からない。
「そうなのか。少しだけなら守ってやるから、言っとくれ。お前さんを泣かすやつは許さんぞって」
ニカッとネムノさんは笑っている。私もつられて笑う。
「ふふ、笑っているのも可愛いな」
私の後ろから声が聞こえた。後ろを振り向こうとしたらネムノさんの鉈が飛んでいくのが見えた。
「誰だおめえ! うちのところにいきなり現れて何の用だ!」
「危ないね……避けなかったら大怪我じゃないか」
声で分かったけれど案の定、後戸の神だった。ネムノさんの鉈は家の壁に刺さっていた。あはは、当たれば良かったのに。
「まさかおめえ、ラルバに引っ付いてる奴か! ええい、切り倒して食ってやる!」
「は? なんで食べられないといけないんだ……ってうわ、襲いかかってくるな!」
後戸の神はひょいと家の外に出て逃げていった。ネムノさんは壁に刺さった鉈を抜いて追いかけて行った。
「あの神さん忙しないな……」
「……迷惑かけました。出ていきますね」
さすがにまずいよね。貰ったご飯をかきこんで出ていこうとする。
「ああ、ネムノに言っておくよ。また、来たらいいんじゃないか」
妹紅さんはそう言った。
「また来るかもしれないです」
追いかけ回される後戸の神を横目に見ながら私は空を飛んだ。天狗に追いかけられて急いで逃げた。
~*~*~
なんなのだ! あの山姥は! エタニティラルバの後戸から出てきた時に鉈を投げて、この私を追いかけるなど!
息を上げながらどうにか山姥の後戸に飛び込んで戻ってくる。
「お師匠様、また戻ってきたんですか?」
息を上げながら見ると里乃が呆れながらこちらを見ていた。
「あ、お師匠様、服破れてますよ」
そう指摘するのは丁礼田舞。里乃とトランプで遊んでいたらしく札を持ちながら言ってくる。ズルズルといつもの椅子に座る。
「着替えておくよ。しかし二童子よ。エタニティラルバに名前呼ばせるにはどうしたらいい……」
顔の前で手を組んで必死に考える。
「知りませんよ……自分でどうにかしてください」
「付きまとわなかったらいいんじゃないんですか」
二童子の言葉は厳しいものだった。何故だ! なぜ私の名前を呼んでくれない!
「実力行使……?」
名前さえ呼んでもらえればそれでいいのだ、それなら……
「何言ってるんですか、余計に呼んでもらえなくなりますよ。まあ、妖精に乱暴したいなら知りませんが」
「やだ、お師匠様そんなシュミあるんですか〜〜?」
里乃は淡々と言い、舞は無自覚に煽ってくる。
「ええい! うるさいうるさい! 出かけてくる!」
椅子から立ち上がってずんずんとエタニティラルバの後戸に向けて歩いていく。手をかけて開いたところで私は引っ張られて外に無理矢理出された。
「うわっ!? なんだ!」
~*~*~
空を漂っていたら魔法の森についた。妖怪の山から脱出して疲れて飛んでいたら気がつくとついていた。いつものように薄暗いこの森は蝶の私には少しだけ辛かった。どこかに行くあてもなく、飛んでいると誰かの話し声が聞こえてきた。
「だから、ゴレーム作りたいならこの術式よ……」
「ええ、なんだこれ、成美の自家製か?色々ごちゃごちゃしてないか?」
「魔理沙の魔法だって自家製じゃない、変わらないわよ」
草かげから覗くと少し開けた場所に白黒の魔法使いと、笠を被った灰色の服を着た人がいた。何してるんだろうか。
「まあそうだけど。しっかしこれ出来るかな。生体魔法なんて使ったことないな……」
「したいって言ったの魔理沙じゃない。私のを参考にしながらやってみればいいじゃない。自分のやりやすいように変えればいいんだから」
「なら見本見せてくれよ……」
「はいはい、書くから待ってよ」
笠を被っている人は地面に何を書いている。ここからではよく見えない。見たとしても分からないだろうけれども……
「ほら出来るわよ」
地面が少しだけ揺れて人型の何かが笠の人の近くに立っていた。その人型は周りを見ている。ふと私と目が合ったような気がした。不味い、と思って逃げようとしたところでその人型がこちらに向かって走ってきているのを見た。人型が動いた音と、私が逃げようとした音でバレてしまう。
「誰だ!」
「わわわ! ごめんなさい!」
白黒の魔法使いに武器を向けられたら逃げられないので飛び上がって私の存在を示す。
撃とうとしているところで魔法使いは止まった。ついでに人型も止まっていた。助かった。
「……なんだラルバか。驚かすなよ」
「その子は誰なの?」
ガサガサと私は二人がいるところに行く。
「私はエタニティラルバ。蝶の妖精だよ」
白黒の魔法使いが話そうとしたところを先に取る。自己紹介ぐらい自分で出来る。
「あら、珍しいわね。妖精なんてあまり見ないからわからなくて。私は矢田寺成美。一応魔法使いよ」
へえ……笠を被っている人、成美さんは魔法使いだったのか。
「そういえばなんでラルバはここにいるんだ? 来る用事もないだろ?」
「ああそれは──」
説明をしようとしたら人型のものはいきなり動いて、私の背中に回った。
「うわっ!? なんだ!」
いつもの後戸の神の声がした。また通ってきたの……そんなことを思いつつ、私はよろける身体の体制を整える。
「なんでゴーレムが動いてるの……って誰!?」
「あー……なるほどな」
成美さんは私の背中から人が出てきたことに驚いている。魔理沙は何故か納得したような顔だった。
「おい、なんだ、この私を引きずり出すなんて」
「そりゃ、お前がストーカーしてるからだろ。バチが当たったんだ」
後戸の神は怒っている。私は知らないけど……魔理沙は軽く呆れたような顔をしていた。
「私は神だぞ? バチなんて当たらん。そもそも人間に当てる方だ」
「そんなの知るか。というかお前……ロリコンの気があるのか?なんでラルバを追っかけてるんだ」
「ええい! 二童子と同じことを言うな!」
「あの、名前を教えてくれませんか……」
言葉のやり取りが続く。話が繋がっているようでそうでないような……
「すまなかったな。私の名前は摩多羅隠岐奈。秘神だ」
「神様ですか。そういえば魔理沙から聞いてましたね……」
あー、ここにいても魔法使い二人と後戸の神しか話していない。どっか行こう。後戸の神は別に嫌いじゃ無いけど、しつこいのが嫌だな……好きかって言われると……まあ。私は話している間にそろりそろりと逃げる。バレないように……
「ああっ、エタニティラルバ! 逃げないでくれ!」
げ、後戸の神が気がついた。全速力で逃げる。後ろを見るとなんとも言い難い必死の顔で追いかけてきていた……怖い。さすがに怖いってば!
「お前何やってんだよ! 嫌がる相手を追いかけるなよ!」
「ほう、魔理沙……喧嘩を売るつもりか」
「なんでそうなる!? というか私にいらつきをぶつけるんじゃねえ!」
裏夏「スコーチ・バイ・ホットサマー」
「な!? いきなりスペルカード使うな! しかもこれ……!」
魔理沙が叫ぶ。ああ、なんか悪いな。だけれども私から意識がそれたので必死に逃げさせてもらう。
「避けておけ。下手すれば気絶だろうな」
「お前ーー! ふざけるんじゃねえ……!」
ああ、南無三。魔理沙のこと忘れないよ……
~*~*~
必死に逃げるエタニティラルバを私は追いかけ続けると博麗神社に着いた。鳥居を潜らずに参道へと降りる。巫女は呑気にお茶を飲んでいた。
「今日は何かしら。忙しそうに妖精は来るし、普段来ない神も来るし。何かあったのかしら」
巫女は呑気にそんなことを言う。
「エタニティラルバを見なかったか?探しているんだが」
「知らないわよ。あうんと一緒にいるんじゃないかしら……神社の中を探せば分かるはずよ」
本当に興味が無さそうに話す。それで話が終わったこのようにお茶を飲んでいた。
探すために本殿の周りを歩く。サクサクと音のなる土を踏みしめて裏側を回ったあたりで声が聞こえた。
「そうすればいいんでしょう……」
「いや、だって私はそれから逃げてたのに……」
声を聞きながらザッザと裏手に出るとエタニティラルバと高麗野あうんがいた。
「あ、摩多羅様だ。ほらほらさっき言ったみたいにすればいいんだよ」
「ちょっと、無茶ぶり言わないで……」
「ほら、決心して!」
私を前に何かを言い合っている二人。見ておこうと思った。
「あうんさん、私知らないからね……」
「ほら言っちゃえー!」
エタニティラルバは私の前に歩いてくる。何もせず私はただ顔を見ている。深呼吸をして少し頬を染めながら私を見ていた。
「ええっと……お、隠岐奈さん……名前呼ぶのは……」
あああああ! なんだ! エタニティラルバが何を言った! 頭の中で悲鳴を上げながら私は膝から崩れ落ちた。この時ばかりは私の頭の回転の良さを恨んだ。とぼけてもう一回聞けたらよかったのに。喜びでどうにかなってしまいそうだった。
~*~*~
「いい……って、なんで倒れるの! ちょっとあうんさん!」
名前を言った途端、神は倒れていた。なんで? 確かに私、名前呼ぶの嫌だって逃げてたけど倒れるほど?
「あれ、名前呼ぶだけで倒れるの……予想外だったんだけど……」
あうんさんはとぼけたような顔でてへっと首を傾げていた。あなたに逃げてるなら攻めてみろって言われて名前呼んだんだけど! 付きまとわれるとは思ってなかったけど倒れるくらいならなんで名前を呼んで欲しかったの……?
「お、隠岐奈さん、起きて! なんかごめんなさい」
倒れた神の身体をゆする。
「ごフッ……エタニティラルバに名前を呼ばれる日が来ようとは……私幸せ……」
「倒れないでー!?」
意識あるのにどうして戻ってこないの!私はゆさゆさとゆするばかりだった。
今日も希望を抱いてその妖精に会いにいく。
~*~*~
「それじゃあ私は少し出かけてくる。お前たちは留守番をよろしくな」
座っている椅子から立ち上がり、一つの後戸に手をかける。
「お師匠様、また例の妖精のところに行くんですか。いい加減見放されますよ」
そういうのは爾子田里乃。少し性格がひねくれている方だ。
「なあに、大丈夫だ」
「……まあ、お師匠様がそう思うなら。知りませんけどね……」
その言葉を聞きながら私はカタンとなる後戸を開け、出ていく。
「やあ、エタニティラルバ。元気にしているかい」
後戸から身体を出したところでグーで殴られた。ラルバの部屋に引きずり込まれる。後戸は閉まっていた。
「なんでまた私の後戸から出てるの! いい加減にして!」
ツーヒット、スリーヒット……うごっ、みぞおちに入った。そのまま倒れ込む。ラルバの部屋のものが散乱する。
「いいパンチだ……ところでラルバよ。私の名前は呼んでくれないのかい?」
「呼ばないよ! 後戸の神! というか私の部屋に来ないで!」
そう言い放つや否や、ラルバは家から飛び出して行った。
うむ……なんで私は嫌われているのだ。名前を呼んでもらえるまでは諦めたりはしないが。立ち上がってゆっくりと私は家の外に出た。一度後戸の国に帰れればまたすぐに行けるのだろうがあいにくここに妖怪一人もいない。とりあえず空を飛ぶことにした。
ラルバが逃げる時の鱗粉が撒き散らされているので追いかけるのは容易だった。ラルバの家は風見幽香の管理する太陽の畑の近くの木の中に住んでいてそこから辿ると妖怪の山の方まで繋がっていた。
はて、妖怪の山……何があったか。覚えてはいなかったがとりあえず向かうことにした。
~*~*~
「なんであの神は私のところに来るのよ!」
襲いかかる白狼天狗から逃げる。死んでも一回休みだけど、復活するまで時間がかかるから死ぬのは嫌だ。痛いもん。そんな野暮なことを思いながら全速力で飛ぶ。逃げきれたかと思ったら私は何かとぶつかった。私は地面に落ちる。
「いっつ……誰?」
転げたところから立ち上がったその人を見ると白の長い髪の毛に赤いズボン。白狼天狗ではなかった。
「大丈夫か……」
と、その人が手を差し伸べようとした時、後ろの方から待て!と大声が聞こえた。
「ちくしょ……おい、誰だかわからんがとりあえず抱えるぞ!振り落とされるなよ!」
頷く前にその人は私をが抱えて走り出した。自分で飛ぶよりも揺れて気持ち悪くて気を失った。
「……お、おい……おい! 大丈夫か!」
そんな大声で意識の暗闇から浮上する。パチパチと何かが燃える音が聞こえる。ゆっくりと身体を起こすと私に声をかけていたぶつかった人と、囲炉裏の前で火の調整をする、くせっ毛の白……灰?の女性がいた。後ろに向いていた。辺りを見渡すと少し古びた小屋のようだった。
「……ここは?」
「ああ、うちの家さね。お前さん妹紅とぶつかって気を失ってたんだ」
後ろのまま何かの用意をしている女性。
「おおいネムノ、自己紹介しないと分からないだろ」
私の近くにいる白の髪の毛の人が言った。女性はそれを聞いてこちらを向いた。
「忘れてたべ。うちは坂田ネムノ。よろしく」
「私は藤原妹紅」
ネムノさんと、妹紅……さんでいいのかな。二人はこちらを向いて自己紹介してくれた。
「ええと、ありがとう。私はエタニティラルバ。よろしくね」
ニッと妹紅さんが笑った。ネムノさんはまた何かを作っているらしく後ろに向いていた。
グゥ、とお腹が鳴ってしまった。恥ずかしくて私はお腹を隠してしまう。朝ごはんを食べようとしたところに摩多羅神が来たものだから食べられもしなかった。
「ラルバはお腹減ってたのか」
「待ってろ。今作ってるからな」
ネムノさんがそう言ってポチャンと何かを入れている。あたりにとても美味しそうな匂いが漂ってきた。
「お、私が作った味噌か。使ってくれてるのか、嬉しいな」
「せっかく妹紅がくれたんだべ、使わないと損だ。何回か使ってるけど美味いぞ」
テキパキと出来上がるのを私はじっと見る。
「へへ、ならよかった」
妹紅さんは笑顔で嬉しそうにしていた。
「ほれ、出来たべ」
お椀が私の前に置かれる。味噌の汁の中にたくさんの具だった。
「イノシシ汁なんだってさ。それじゃあいただきます」
さっそく妹紅さんは食べ始めている。
「ネムノさん、ありがとうございます」
「暖かいうちに食べろ。そっちの方が美味しいぞ」
お箸を渡されて、お椀を手に取る。私の手には大きなお椀だったので両手で持ってまずは一口。
……美味しい! 暖かくてとても優しいような味がした。
「美味しいです」
「そうかそうか。なら良いべ。それで聞きたいんだけれど、なんでお前さんは妹紅とぶつかったんだ」
ええと……助けてもらったからには言わないといけないかな。
「ある神に追われてて。来ないでって言ってるのに私のところに来るから逃げてたの。あの神はしつこいけど悪いわけじゃないとは思うんだけど……」
私は思う。なんで私が名前を呼ばないだけで追いかけてくるのか。分からない。
「そうなのか。少しだけなら守ってやるから、言っとくれ。お前さんを泣かすやつは許さんぞって」
ニカッとネムノさんは笑っている。私もつられて笑う。
「ふふ、笑っているのも可愛いな」
私の後ろから声が聞こえた。後ろを振り向こうとしたらネムノさんの鉈が飛んでいくのが見えた。
「誰だおめえ! うちのところにいきなり現れて何の用だ!」
「危ないね……避けなかったら大怪我じゃないか」
声で分かったけれど案の定、後戸の神だった。ネムノさんの鉈は家の壁に刺さっていた。あはは、当たれば良かったのに。
「まさかおめえ、ラルバに引っ付いてる奴か! ええい、切り倒して食ってやる!」
「は? なんで食べられないといけないんだ……ってうわ、襲いかかってくるな!」
後戸の神はひょいと家の外に出て逃げていった。ネムノさんは壁に刺さった鉈を抜いて追いかけて行った。
「あの神さん忙しないな……」
「……迷惑かけました。出ていきますね」
さすがにまずいよね。貰ったご飯をかきこんで出ていこうとする。
「ああ、ネムノに言っておくよ。また、来たらいいんじゃないか」
妹紅さんはそう言った。
「また来るかもしれないです」
追いかけ回される後戸の神を横目に見ながら私は空を飛んだ。天狗に追いかけられて急いで逃げた。
~*~*~
なんなのだ! あの山姥は! エタニティラルバの後戸から出てきた時に鉈を投げて、この私を追いかけるなど!
息を上げながらどうにか山姥の後戸に飛び込んで戻ってくる。
「お師匠様、また戻ってきたんですか?」
息を上げながら見ると里乃が呆れながらこちらを見ていた。
「あ、お師匠様、服破れてますよ」
そう指摘するのは丁礼田舞。里乃とトランプで遊んでいたらしく札を持ちながら言ってくる。ズルズルといつもの椅子に座る。
「着替えておくよ。しかし二童子よ。エタニティラルバに名前呼ばせるにはどうしたらいい……」
顔の前で手を組んで必死に考える。
「知りませんよ……自分でどうにかしてください」
「付きまとわなかったらいいんじゃないんですか」
二童子の言葉は厳しいものだった。何故だ! なぜ私の名前を呼んでくれない!
「実力行使……?」
名前さえ呼んでもらえればそれでいいのだ、それなら……
「何言ってるんですか、余計に呼んでもらえなくなりますよ。まあ、妖精に乱暴したいなら知りませんが」
「やだ、お師匠様そんなシュミあるんですか〜〜?」
里乃は淡々と言い、舞は無自覚に煽ってくる。
「ええい! うるさいうるさい! 出かけてくる!」
椅子から立ち上がってずんずんとエタニティラルバの後戸に向けて歩いていく。手をかけて開いたところで私は引っ張られて外に無理矢理出された。
「うわっ!? なんだ!」
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空を漂っていたら魔法の森についた。妖怪の山から脱出して疲れて飛んでいたら気がつくとついていた。いつものように薄暗いこの森は蝶の私には少しだけ辛かった。どこかに行くあてもなく、飛んでいると誰かの話し声が聞こえてきた。
「だから、ゴレーム作りたいならこの術式よ……」
「ええ、なんだこれ、成美の自家製か?色々ごちゃごちゃしてないか?」
「魔理沙の魔法だって自家製じゃない、変わらないわよ」
草かげから覗くと少し開けた場所に白黒の魔法使いと、笠を被った灰色の服を着た人がいた。何してるんだろうか。
「まあそうだけど。しっかしこれ出来るかな。生体魔法なんて使ったことないな……」
「したいって言ったの魔理沙じゃない。私のを参考にしながらやってみればいいじゃない。自分のやりやすいように変えればいいんだから」
「なら見本見せてくれよ……」
「はいはい、書くから待ってよ」
笠を被っている人は地面に何を書いている。ここからではよく見えない。見たとしても分からないだろうけれども……
「ほら出来るわよ」
地面が少しだけ揺れて人型の何かが笠の人の近くに立っていた。その人型は周りを見ている。ふと私と目が合ったような気がした。不味い、と思って逃げようとしたところでその人型がこちらに向かって走ってきているのを見た。人型が動いた音と、私が逃げようとした音でバレてしまう。
「誰だ!」
「わわわ! ごめんなさい!」
白黒の魔法使いに武器を向けられたら逃げられないので飛び上がって私の存在を示す。
撃とうとしているところで魔法使いは止まった。ついでに人型も止まっていた。助かった。
「……なんだラルバか。驚かすなよ」
「その子は誰なの?」
ガサガサと私は二人がいるところに行く。
「私はエタニティラルバ。蝶の妖精だよ」
白黒の魔法使いが話そうとしたところを先に取る。自己紹介ぐらい自分で出来る。
「あら、珍しいわね。妖精なんてあまり見ないからわからなくて。私は矢田寺成美。一応魔法使いよ」
へえ……笠を被っている人、成美さんは魔法使いだったのか。
「そういえばなんでラルバはここにいるんだ? 来る用事もないだろ?」
「ああそれは──」
説明をしようとしたら人型のものはいきなり動いて、私の背中に回った。
「うわっ!? なんだ!」
いつもの後戸の神の声がした。また通ってきたの……そんなことを思いつつ、私はよろける身体の体制を整える。
「なんでゴーレムが動いてるの……って誰!?」
「あー……なるほどな」
成美さんは私の背中から人が出てきたことに驚いている。魔理沙は何故か納得したような顔だった。
「おい、なんだ、この私を引きずり出すなんて」
「そりゃ、お前がストーカーしてるからだろ。バチが当たったんだ」
後戸の神は怒っている。私は知らないけど……魔理沙は軽く呆れたような顔をしていた。
「私は神だぞ? バチなんて当たらん。そもそも人間に当てる方だ」
「そんなの知るか。というかお前……ロリコンの気があるのか?なんでラルバを追っかけてるんだ」
「ええい! 二童子と同じことを言うな!」
「あの、名前を教えてくれませんか……」
言葉のやり取りが続く。話が繋がっているようでそうでないような……
「すまなかったな。私の名前は摩多羅隠岐奈。秘神だ」
「神様ですか。そういえば魔理沙から聞いてましたね……」
あー、ここにいても魔法使い二人と後戸の神しか話していない。どっか行こう。後戸の神は別に嫌いじゃ無いけど、しつこいのが嫌だな……好きかって言われると……まあ。私は話している間にそろりそろりと逃げる。バレないように……
「ああっ、エタニティラルバ! 逃げないでくれ!」
げ、後戸の神が気がついた。全速力で逃げる。後ろを見るとなんとも言い難い必死の顔で追いかけてきていた……怖い。さすがに怖いってば!
「お前何やってんだよ! 嫌がる相手を追いかけるなよ!」
「ほう、魔理沙……喧嘩を売るつもりか」
「なんでそうなる!? というか私にいらつきをぶつけるんじゃねえ!」
裏夏「スコーチ・バイ・ホットサマー」
「な!? いきなりスペルカード使うな! しかもこれ……!」
魔理沙が叫ぶ。ああ、なんか悪いな。だけれども私から意識がそれたので必死に逃げさせてもらう。
「避けておけ。下手すれば気絶だろうな」
「お前ーー! ふざけるんじゃねえ……!」
ああ、南無三。魔理沙のこと忘れないよ……
~*~*~
必死に逃げるエタニティラルバを私は追いかけ続けると博麗神社に着いた。鳥居を潜らずに参道へと降りる。巫女は呑気にお茶を飲んでいた。
「今日は何かしら。忙しそうに妖精は来るし、普段来ない神も来るし。何かあったのかしら」
巫女は呑気にそんなことを言う。
「エタニティラルバを見なかったか?探しているんだが」
「知らないわよ。あうんと一緒にいるんじゃないかしら……神社の中を探せば分かるはずよ」
本当に興味が無さそうに話す。それで話が終わったこのようにお茶を飲んでいた。
探すために本殿の周りを歩く。サクサクと音のなる土を踏みしめて裏側を回ったあたりで声が聞こえた。
「そうすればいいんでしょう……」
「いや、だって私はそれから逃げてたのに……」
声を聞きながらザッザと裏手に出るとエタニティラルバと高麗野あうんがいた。
「あ、摩多羅様だ。ほらほらさっき言ったみたいにすればいいんだよ」
「ちょっと、無茶ぶり言わないで……」
「ほら、決心して!」
私を前に何かを言い合っている二人。見ておこうと思った。
「あうんさん、私知らないからね……」
「ほら言っちゃえー!」
エタニティラルバは私の前に歩いてくる。何もせず私はただ顔を見ている。深呼吸をして少し頬を染めながら私を見ていた。
「ええっと……お、隠岐奈さん……名前呼ぶのは……」
あああああ! なんだ! エタニティラルバが何を言った! 頭の中で悲鳴を上げながら私は膝から崩れ落ちた。この時ばかりは私の頭の回転の良さを恨んだ。とぼけてもう一回聞けたらよかったのに。喜びでどうにかなってしまいそうだった。
~*~*~
「いい……って、なんで倒れるの! ちょっとあうんさん!」
名前を言った途端、神は倒れていた。なんで? 確かに私、名前呼ぶの嫌だって逃げてたけど倒れるほど?
「あれ、名前呼ぶだけで倒れるの……予想外だったんだけど……」
あうんさんはとぼけたような顔でてへっと首を傾げていた。あなたに逃げてるなら攻めてみろって言われて名前呼んだんだけど! 付きまとわれるとは思ってなかったけど倒れるくらいならなんで名前を呼んで欲しかったの……?
「お、隠岐奈さん、起きて! なんかごめんなさい」
倒れた神の身体をゆする。
「ごフッ……エタニティラルバに名前を呼ばれる日が来ようとは……私幸せ……」
「倒れないでー!?」
意識あるのにどうして戻ってこないの!私はゆさゆさとゆするばかりだった。
追いかけられているラルバがかわいらしかったです
まさに天空璋オールスターズでした