空気が通り冷える、雪が降り白い絨毯が敷き詰められる
そんな寒い冬の中、一際目立つ紅い館に向かう若女将
今日は珍しく出張営業中
ドキドキと胸の鼓動が大きく早くなる、いつも何気無く
やっている仕事に一層緊張感が走る、何故だろうか
慣れているはずの手が震えている、それも無理もない
今若女将が仕事をしている目の前では紅魔館の主人である
レミリア・スカーレットが座っているのだから
今日のために一からお酒を選び、合うものを探した
「貴方が…噂のおかみさんね」
「いえいえ、噂だなんて恐縮です」
バラッ、若女将が持ってきていた二枚の風呂敷のうち一枚を
机の上に広げた、中には丁寧に包装された食材と調理道具
それと一回り小さい瓶が一つ出てきた
すると若女将はその小さな瓶のコルクを音をたて開いた
そしてとくとくと用意した小さなワイングラスに注いだ
「妖怪の山で採れたブランド物の白ぶどうを使った
10年ものの白ワインでございます」
しかし主人は見向きもしなかった、赤ワイン好きで有名な
紅魔館の主人に白ワインを差し出した若女将に
呆れたため息をつき、机に肘をついた
これにはメイドも頭を抱えそうになる、自分の好みの
ワインでなければ飲まないと教えたはずなのに…
やはりメイドとして一言かけるべきか悩んでいると
若女将はニコッと笑顔を見せ二つ目の風呂敷を開いた
そこには1本目と同じ大きさの瓶が二本入っていた
二本とも同じサイズのワイングラスに注ぎ差し出した
「こちら同じ妖怪の山ブランドの赤ワインと
スパークリングワインでございます」
「はぁ…ワインは赤でしょ、ほかのワインだなんて…」
「とても…とてももったいないことをしていますね」
「もったいない?好きなものを飲み好きなものを食べる
これがお酒の嗜みかたよ?」
「お酒の嗜み…ですか、今日はその考え方を変えて見せましょう」
すると若女将は調理道具の中から包丁を取り出した
手入れを丁寧にされているためか綺麗に光を反射している
まず手に取ったのは表面が茶色一色の塊をだった
そこにゆっくりと包丁を入れた、表面は硬くしかし内側
まで入るとすんなりと刃が通る、そのまま薄く均一に
切られていく、さらにはあらかじめ切られた玉ねぎが
引き詰められていて、そこの上に薄く切られた物が引かれた
そこにきつね色のソースとブラックペッパーがふりかけられた
「まずは一品目『ローストビーフ』でございます」
主人はそのローストビーフに少しばかり目を光らせた
これは赤ワインに合う、何だかんだ言って私の好きなものを
出してくれたのかと思いローストビーフにフォークを伸ばした
「お待ちください、まずは赤ワインから嗜みください」
ムッと思いながらも主人は赤ワインの香りから楽しんだ
この果実が発酵しアルコールと混ざり合う深い香りが好みに
合った、しかし香りだけではない、味と喉通りも大切
コクッと口に少量含み口の中で転がした、アルコールの
中にはしっかりぶどうの香りと風味が主張している
鼻通りも悪くない、喉を通った後にもしっかり口の中に
残っている、あの女将の味利きは本物のようだ
主人はローストビーフにフォークを刺し、一口食べた
なるほど、肉の脂身に主役の赤身、上にかけられたソースは
玉ねぎをおろしたものだろうか、肉が一層柔らかくして
くれている、肉の下に隠れていた玉ねぎは肉に足りない
風味を足してくれる仕立て役だ
今まで食べたローストビーフの中でもトップクラスだ
ふと思い赤ワインを口に含んだ、肉の持っている
いいところが口の中で膨らむ、やはりワインは赤だ
「お楽しみのところもう一品『カプレーゼ』でございます」
突然もう一品出てきた、確か居酒屋では一品に一杯では
なかったのか、しかし今口の中では肉の脂とワインの後味
そこにこのトマトの艶のある赤、濁りない白のチーズ
鮮やかさを引き立たせるバジル
言えばサラダのようなものだと思う、今これを食べれば
口の中で喧嘩し、美味しくなくなるのではないか
そう思っていると、若女将はワイングラスを一杯前に出した
出されたのは白ワインだった
「今、食べるか迷っているようですね、その新たな発見に
恐怖心を抱いているから同じものだけにこだわる固定観念
が酒飲みの一番の邪念だと私は思います」
「恐縮心?なにを言ってい…」
「同じ赤ワイン、同じ一品料理、これではいつかは崩れます
色々な冒険をすることがお酒の嗜みかたですよ」
主人は恐る恐るフォークをカプレーゼに伸ばす
今の今まで赤ワインに塩気の効いた肉料理だったが
ここに艶やかなサラダか…
口に一口入れる、ゆっくりと口を動かす
トマトのみずみずしさとひんやりした食感
チーズはモッツァレラか、少しの塩気にチーズの
独特な香り、このソースはオリーブオイルにこしょうか
さらに塩気とトマトとチーズの風味を引き立てる
最後に始めて主張するバジルのさわやかな鼻通り
何故だろうか、肉も塩気の強いものを食べていないのに
口が、体が酒を求めている、しかし肉料理にあう赤ワインでは
違う、せっかく残っている口の中で喧嘩してしまう
ここは若女将の言うことを信じてみるか、味利きには
信頼している、色々な冒険、試してみるのも悪くない
初めて白ワインを飲んだ、すっきりとした味わいに
カプレーゼはとても合っている、赤ワインでは一品料理を
土台に赤ワインを嗜むだったが、白ワインは違う
白ワインが一品料理を引き立てているかのようだ
後味がすっきりとしていて誰も邪魔をする者がいない
初めての体験に驚きを隠せない主人に若女将は口を開いた
「どうです?お酒の冒険のご感想は?」
「ふふっ、まさか一夜にして新たな発見が無限にあるとわね」
「お気に召していただけて光栄です」
「あなた、腕と舌は確かなものを持ってるのね」
こうして主人を満足させられた若女将はいつのまにか
緊張が無くなっていた、そして帰り際に
メイドと談笑を楽しんだ
「本日はお嬢様のためにありがとうございます」
「いえ、当然のことをしたまでです.お客様を満足させる
それが私の仕事の使命です」
「ぜひ、これからも参考にさせていただきますね」
「お酒の合う合わないは人それぞれです、そこの尊重を
忘れずに頑張ってくださいね」
そうして若女将は冬の空に飛んで消えていった
メイドは主人が満足に嗜んでいるところを間近でみて
なんだか満足感を感じていた
「お酒は冒険か…確かにそうかもね」
そんな寒い冬の中、一際目立つ紅い館に向かう若女将
今日は珍しく出張営業中
ドキドキと胸の鼓動が大きく早くなる、いつも何気無く
やっている仕事に一層緊張感が走る、何故だろうか
慣れているはずの手が震えている、それも無理もない
今若女将が仕事をしている目の前では紅魔館の主人である
レミリア・スカーレットが座っているのだから
今日のために一からお酒を選び、合うものを探した
「貴方が…噂のおかみさんね」
「いえいえ、噂だなんて恐縮です」
バラッ、若女将が持ってきていた二枚の風呂敷のうち一枚を
机の上に広げた、中には丁寧に包装された食材と調理道具
それと一回り小さい瓶が一つ出てきた
すると若女将はその小さな瓶のコルクを音をたて開いた
そしてとくとくと用意した小さなワイングラスに注いだ
「妖怪の山で採れたブランド物の白ぶどうを使った
10年ものの白ワインでございます」
しかし主人は見向きもしなかった、赤ワイン好きで有名な
紅魔館の主人に白ワインを差し出した若女将に
呆れたため息をつき、机に肘をついた
これにはメイドも頭を抱えそうになる、自分の好みの
ワインでなければ飲まないと教えたはずなのに…
やはりメイドとして一言かけるべきか悩んでいると
若女将はニコッと笑顔を見せ二つ目の風呂敷を開いた
そこには1本目と同じ大きさの瓶が二本入っていた
二本とも同じサイズのワイングラスに注ぎ差し出した
「こちら同じ妖怪の山ブランドの赤ワインと
スパークリングワインでございます」
「はぁ…ワインは赤でしょ、ほかのワインだなんて…」
「とても…とてももったいないことをしていますね」
「もったいない?好きなものを飲み好きなものを食べる
これがお酒の嗜みかたよ?」
「お酒の嗜み…ですか、今日はその考え方を変えて見せましょう」
すると若女将は調理道具の中から包丁を取り出した
手入れを丁寧にされているためか綺麗に光を反射している
まず手に取ったのは表面が茶色一色の塊をだった
そこにゆっくりと包丁を入れた、表面は硬くしかし内側
まで入るとすんなりと刃が通る、そのまま薄く均一に
切られていく、さらにはあらかじめ切られた玉ねぎが
引き詰められていて、そこの上に薄く切られた物が引かれた
そこにきつね色のソースとブラックペッパーがふりかけられた
「まずは一品目『ローストビーフ』でございます」
主人はそのローストビーフに少しばかり目を光らせた
これは赤ワインに合う、何だかんだ言って私の好きなものを
出してくれたのかと思いローストビーフにフォークを伸ばした
「お待ちください、まずは赤ワインから嗜みください」
ムッと思いながらも主人は赤ワインの香りから楽しんだ
この果実が発酵しアルコールと混ざり合う深い香りが好みに
合った、しかし香りだけではない、味と喉通りも大切
コクッと口に少量含み口の中で転がした、アルコールの
中にはしっかりぶどうの香りと風味が主張している
鼻通りも悪くない、喉を通った後にもしっかり口の中に
残っている、あの女将の味利きは本物のようだ
主人はローストビーフにフォークを刺し、一口食べた
なるほど、肉の脂身に主役の赤身、上にかけられたソースは
玉ねぎをおろしたものだろうか、肉が一層柔らかくして
くれている、肉の下に隠れていた玉ねぎは肉に足りない
風味を足してくれる仕立て役だ
今まで食べたローストビーフの中でもトップクラスだ
ふと思い赤ワインを口に含んだ、肉の持っている
いいところが口の中で膨らむ、やはりワインは赤だ
「お楽しみのところもう一品『カプレーゼ』でございます」
突然もう一品出てきた、確か居酒屋では一品に一杯では
なかったのか、しかし今口の中では肉の脂とワインの後味
そこにこのトマトの艶のある赤、濁りない白のチーズ
鮮やかさを引き立たせるバジル
言えばサラダのようなものだと思う、今これを食べれば
口の中で喧嘩し、美味しくなくなるのではないか
そう思っていると、若女将はワイングラスを一杯前に出した
出されたのは白ワインだった
「今、食べるか迷っているようですね、その新たな発見に
恐怖心を抱いているから同じものだけにこだわる固定観念
が酒飲みの一番の邪念だと私は思います」
「恐縮心?なにを言ってい…」
「同じ赤ワイン、同じ一品料理、これではいつかは崩れます
色々な冒険をすることがお酒の嗜みかたですよ」
主人は恐る恐るフォークをカプレーゼに伸ばす
今の今まで赤ワインに塩気の効いた肉料理だったが
ここに艶やかなサラダか…
口に一口入れる、ゆっくりと口を動かす
トマトのみずみずしさとひんやりした食感
チーズはモッツァレラか、少しの塩気にチーズの
独特な香り、このソースはオリーブオイルにこしょうか
さらに塩気とトマトとチーズの風味を引き立てる
最後に始めて主張するバジルのさわやかな鼻通り
何故だろうか、肉も塩気の強いものを食べていないのに
口が、体が酒を求めている、しかし肉料理にあう赤ワインでは
違う、せっかく残っている口の中で喧嘩してしまう
ここは若女将の言うことを信じてみるか、味利きには
信頼している、色々な冒険、試してみるのも悪くない
初めて白ワインを飲んだ、すっきりとした味わいに
カプレーゼはとても合っている、赤ワインでは一品料理を
土台に赤ワインを嗜むだったが、白ワインは違う
白ワインが一品料理を引き立てているかのようだ
後味がすっきりとしていて誰も邪魔をする者がいない
初めての体験に驚きを隠せない主人に若女将は口を開いた
「どうです?お酒の冒険のご感想は?」
「ふふっ、まさか一夜にして新たな発見が無限にあるとわね」
「お気に召していただけて光栄です」
「あなた、腕と舌は確かなものを持ってるのね」
こうして主人を満足させられた若女将はいつのまにか
緊張が無くなっていた、そして帰り際に
メイドと談笑を楽しんだ
「本日はお嬢様のためにありがとうございます」
「いえ、当然のことをしたまでです.お客様を満足させる
それが私の仕事の使命です」
「ぜひ、これからも参考にさせていただきますね」
「お酒の合う合わないは人それぞれです、そこの尊重を
忘れずに頑張ってくださいね」
そうして若女将は冬の空に飛んで消えていった
メイドは主人が満足に嗜んでいるところを間近でみて
なんだか満足感を感じていた
「お酒は冒険か…確かにそうかもね」
久しぶりに東方創造話に来て、目についた火油さんの作品を読ませて頂きました。
文字数が少ないので、朝の短い通勤時間でも読む事ができました。
そして、お昼に新作が投稿されていて嬉かったです。
次の作品も気長に待ってます。頑張ってください。
レミリアをもうならせるミスティアがお見事でした
お酒が飲みたくなりました
誤字の報告を
「恐縮心」→「恐怖心」?
新たな発見が無限にあるとわね→あるとはね