Coolier - 新生・東方創想話

半々

2019/12/16 03:43:00
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 秘封倶楽部の2人は西日が差し込む酉京都大学の食堂でいつも通りのテラス席で倶楽部活動をしていた。倶楽部活動と言っても日常であった変わったことやマエリベリーの見た夢の話、バイト先での愚痴や不満などを話すだけで秘密を封するようなことはしていない。むしろその逆にあたる科学世紀では禁止されている境界破りを行っている。結界破り何かを隔てるために作られた結界に干渉する行為だ。その先には未知の世界が広がっている。例を挙げるなら絶滅してしまった動植物などを見ることができる。
 そこで目を覚ましてしまったのよとマエリベリーは夢の話を終えた。
「あんな中途半端なところで目を覚ましてしまったら続きが気になって仕方ないわ」
「そんなに気になるなら講義なんてさぼって二度寝すればよかったのよ。そうすればこんなにもやもやすることもないのに」
「それも良かったかもね。あの後、私の部屋で何が起きるはずだったのかしら?たしか蓮子も一緒だったような気がするのだけど」
 マエリベリーはそう言って紅茶を口にした。
 それを合図に選手が交代したかのように蓮子が話を始めた。
「そういえば2,3日前に京都を観光する外国人を見かけたんだけど、その時に初めて白人を見かけたわ」
「たしかに外国人観光客なんて今どき珍しいかもしれないけど、日本にいないだけでそんなに珍しいものではないわ。それに私も白人だから初めてではないわね」
 それよと彼女はマエリベリーを指さす。
「その時に見かけた白人がメリーよりも白かったのよ。それで今、私の肌の色と比べてみたんだけどあまり変わらないような気がするのよね」
 マエリベリーがテーブルに目を落とすと両手にしている肌触りの良い白く薄い手袋の内の左手側が脱がされていた。
「ちょっと、肌が弱いんだからやめてよね。それと私と蓮子の肌の色があまり変わらないのはあなたの色素が薄いだけね」
 マエリベリーはあきれた様子で手袋を装着しつつ、水面が揺れる紅茶を飲む。
 彼女は軽く謝りながら話を続ける。
「たしかにそうかもしれないわね。でも気になりだしたら止まらないのよ。他にもメリーの日本語が流暢なのはなぜなのか?英語圏特有の発音の癖とかがなくて日本で育ったハーフですって言われても疑いようがないくらいなのよね」
「それは前に言ったでしょ。昔から興味があったからで、日本語の練習をしていたからこうやって話せてるんだって」
 誤魔化されたような気がした彼女はじっとマエリベリーのことを見つめる。あまりに見つめられたマエリベリーは気恥ずかしくなったのだろうか、彼女から目をそらす。
「メリー、私に何か隠してない?」
「人は誰もが秘密を持っているものよ。女の子なら尚更ね。そう思わない?」
 マエリベリーはそう開き直り、優雅に紅茶を飲み切る。
 それを聞いた彼女は不敵に笑う。
「女の子には秘密があったほうが魅力的だわ。あまりに魅力的だから暴きたくなってしまうわね。私は秘封倶楽部会長だもの」
「やれるものならやってみるといいわ。もし確信迫るものを見つけてきたら私の秘密を話してあげましょう」
 そうこなくっちゃ、彼女はそう言って勢いよくコーヒーを飲み切った。
 
 マエリベリーは大学近くにアパートの一室に帰ってきた。
 汗のしっとりとした感覚を振り払うために、シャワーを浴びるために浴室に入った。
 脱衣所で服を脱ぎ、浴室の全身が映る鏡に自らの裸体を見た時、蓮子に言われたことを思い出た。彼女の肌のほとんどは蓮子と同じような白い肌である。しかし右半身、主に聞き手である右手から方の辺りにかけてのみ本来の肌の色である白人系の肌で掌は左手と同じになっている。その様はまるで肉体が徐々に浸食されているかのようだ。
 彼女はあの事故を思い返す。瞼の裏に焼き付いて離れないあの凄惨な地獄のような光景。そしてこんな力と体を得てしまったきっかけ。
 彼女は自身の眼以外のもう1つの異常を隠してきたがついに話すときが来たのかもしれないと肩を落とす。蓮子なら大丈夫だと思いたいが、万が一、拒絶されてしまったら彼女は立ち直れないかもしれない。
 彼女の耳に幻聴が聞こえる。その声は彼女の成長と共に大人びていく落ち着いた女性の声。
「私に身をゆだねなさい。楽になれるわ」
 この幻聴は彼女の体がこうなってしまったときから、心に隙ができると聞こえてくる。どこか親近感が湧く、気味の悪い声。
 彼女は幻聴を振り払うために頭から熱いシャワーを浴びた。

 あの日からしばらく経つが、蓮子から彼女への秘密に関するアプローチは特になく、いつも通りの日常が続いていたある日、蓮子から明日提出のレポートがピンチだから泊めてほしいと頼まれた。レポートを手伝ってほしいって言われたら一蹴するところだったが泊めるだけなら、と一抹の不安を抱えながらも受け入れた。
 2人の講義が終わった後にいつもの食堂で待ち合わせをし、適当に夕食を済ませてマエリベリーの部屋に着いた。
 食休みとしていつものように他愛ない話をした後に蓮子がレポートを書き始めるというので彼女はシャワーを浴びに浴室へと向かった。
 
 彼女は蓮子がシャワーを浴び始めたことを音で確認すると今日までに集めた資料を鞄から取り出し机の上に広げだした。資料の内容は10年以上前にヨーロッパ地方の某国で起きた生存者数名の飛行機墜落事故をとりあげた電子新聞記事を印刷した紙、肌の色が変異した少女に関する研究レポート、左半身と右半身で肌の色が異なる少女Mの写真。
 彼女はこれらの資料に共通して登場する少女Mとはメリーのことであることを確信している。そしてメリーの真の秘密は肌の色のことではないと考えている。本当はその奥にあるなぜこうなってしまったか。今日はそれを解き明かしに来たのだ。
 彼女は資料をまとめ終えるとその目で真実を確かめるためにそろりそろりと足音を殺して浴室へと向かう。音を立てないように細心の注意を払いつつゆっくりと扉を開けて、脱衣所に侵入する。すりガラスがはめられた浴室の扉の向こうからシャワーの音は聞こえず、マエリベリーの鼻歌が聞こえる。彼女はすりガラスに人影が映って気づかれることを避けるために入口から一息に距離を詰め、扉を開けた。そこには湯船につかる一糸まとわぬマエリベリーの姿があった。マエリベリーの悲鳴と共に彼女の考えは確固たるものとなった。
 
 彼女が風呂から上がると蓮子が集めた秘密に関する資料を見せた。彼女はそれらを険しい表情で目を通すと1つため息をついた。
 蓮子がどこからか集めてきた資料は全て本物で真実が書かれていた。最初の2つだけなら事故で酷いけがを負って皮膚移植をしてその影響だと誤魔化すことができたかもしれない。しかし問題は3つ目の写真だ。まさか一度だけ受けたテレビ取材の時に撮影された写真がいまだに残っているとは思ってもいなかった。
 蓮子が淹れてくれたコーヒーの水面が揺れる。
 ティーカップを持つ手にもう片方の手を添え、小さく息を吸いそれをはく。
 彼女は蓮子との約束を守ることにした。蓮子を信じてみることにしたのだ。
「ここまで調べてくるとは思わなかったわ。私の負けよ。話してあげるわ、私の秘密」
 彼女の告白が始まる。
 10年以上前のある日、マエリベリーは親戚の家に家族で遊びに来ていた。その親戚の家は飛行機を使うほど遠くにあり、帰りの飛行機でとあるトラブルによってマエリベリーだけが本来乗るはずだった便に乗り損ねてしまい航空会社の配慮で次の便で帰ることになった。見知らぬ土地で1人きりになってしまうのは寂しくて不安だったが、気丈な彼女はそれらを我慢し次の便に搭乗した。そこで原因不明の墜落は起きた。機体は大きく揺れ、シートベルトをしていても座席から振り落とされそうなくらいだ。機体の高度はみるみるうちに下がっていき、近くなる地上に恐怖を感じながら彼女は意識を失った。
彼女はあまりの熱さに目を覚ました。彼女は意識を失う前と同じように飛行機の座席に座っていた。あの揺れの中で様々ところに体を打ち付けたせいで様々な個所が痛かったが体は動く。彼女は周囲から漂う異臭に気が付いた。鉄の匂いと肉が焼ける臭い、それ以外にも糞尿のような臭いが混ざり合ったような悪臭。恐る恐る周囲の様子を確認した。機体の中央にある燃料タンクに引火したようで客室のいたるところから火の手が上がり、彼女の元に迫りつつあった。さらにその炎に包まれ目の前で燃えている人間、炎のすぐそばで頭から血を流して倒れている人間、あまりの恐怖に失禁して動けなくなっている人間、その光景は地獄と呼ぶに相応しいものだった。幼い彼女は絶望も恐怖もしなかった。もしくは忘れてしまっていたのだろう。幼い彼女は機体後方から前方にあるはずの出口に向かって本能的に走り出した。まだ息があるここで彼女が声をかければ助かったかもしれない人間を見捨て、荷物や人間だったものにつまずいて転びそうになりながら、激しく燃える炎の中を突っ切り、全身の痛みに耐えながら走った。全ては生きるために。
なんとか機体前方にたどり着き、出口の扉を見つけた。それは閉ざされており、開け方がわからず途中で力尽きた死体があった。彼女は扉に触れるとあまりの熱さに手を放してしまった。金属製の扉は炎のよって熱され、火傷するほどに熱くなっていた。彼女は覚悟を決め、その熱に耐えながら扉を押したり引いたり、叩いたり、幼い頭で考えられることを全て試みたがどれもうまくいかなかった。両手の皮膚剥がれ、ボロボロになった。背中に感じる熱が強くなる。それにつれて今まで忘れていた絶望と恐怖が強くなっていく。それでも必死に扉をたたき続けた。彼女にはそれしかなかった。もうだめかと思った時、何の奇跡か唐突に扉の噛み合いが外れ、扉が外側に動きだしたのだ。彼女は涙とも汗ともわからない液体で体中をぐしゃぐしゃにしながら最後の力を振り絞り、扉を押した。すると扉はあっけなく開き扉の向こう側に倒れ込んだ彼女は5m下に落下した。落下の衝撃でどこかの骨が折れたのかそれとも気が抜けてまともに痛覚が機能し始めたのか激痛を感じ、再び意識を失った。
彼女は夢をみた。彼女は暗い場所に立っており、不思議と体中の痛みを感じず、ボロボロだったはずの体と衣服は元通りになっていた。遠くに眩い光が見える。彼女はなぜかわからないがあの光に行けば楽になれるような気がしてそこに向かって歩き出した。しばらく歩き、光の近くまでくると1人の女性が彼女の前に立ちふさがるようになっていた。逆光になっていて顔を見ることはできなかったが腰辺りまで伸びる異様に長い髪に同じくらいの身長であることから同じくらいの年の女の子だと彼女は思った。
「ここは生と死の境界。私が止めても楽になりたいと言ってみんな向こう側に行ってしまったわ。あなたも行ってしまうのかしら」
 少女はとても寂しそうに言う。
「向こう側に行くと何があるの?楽になれるの?」
「楽になれるわ。でも何もないの。行ってしまったらそれで終わりだから」
「それは嫌だな。どうしたらここから出られるの?出口なんてどこにもないよ」
「普通は出られないわ。出られないからみんな行ってしまったのよ。でもあなたと私ならここを出られる。あなたは出たい?」
 彼女は大きくうなずいた。
 少女は良かったと言った。なんとなく怪しく邪悪に笑っているように見えた。
 少女は彼女に向かって歩き出す。彼女の体の自由はなぜかなくなり、そして勝手に少女の元へと歩き出した。少女とぶつかってしまうのではないかという距離まで近づいたときようやく少女を視認することができた。少女は白がかかった肌色の皮膚を持ち、その顔は彼女と瓜二つだった。
 彼女の告白が終わる。
「私は救助隊に助けられて一命をとりとめたけど、なぜかこんな体になってしまったわけ。そしてその時にこの眼の力を得たのよ」
 彼女はそう言って左目を指す。
「私は救助隊に助けられて一命をとりとめたけど、なぜかこんな体になってしまったわけ。お医者様が言うには病院に搬送されたころから命に別状はなかったそうよ。そしてその時にこの目の力を得たのよ。日本語が話せるようになったのもこの時から」
 彼女はそう言って左目を指す。
「最初は左目でしか境界を視ることができなかったけど気が付いたら両目で見ることができるようになっていたわ」
 なるほどねと蓮子は薄い反応を返してきた。
 予想外の反応に彼女は不安になる。
「あんなに知りたがっていたのに随分に薄い反応ね。何か感想はないの?例えば……」
 消え入りそうな声で気持悪いとかと続けた。
「たしかにメリーの目も肌も気持ち悪いけど、それはどうでもいいわ。なかなか面白い話だったし、メリーのルーツを知れて嬉しかったしね」
 蓮子はそう言って満足気に笑って見せた。
 このことを誰にも話してこなかった彼女は蓮子の笑顔を見て肩の荷が降りたような気がした。
 彼女の中の者はその隙を見逃さなかった。
 蓮子はこの目がねと言って彼女の左目を覗き込む。そこには蓮子以外の女性が写っていた。シルエットしか見えないが左目の女性は蓮子に向けて左手を伸ばしているように見える。
 蓮子がそのことを彼女に伝えようとするといきなり首を掴まれた。そのまま片手で蓮子の首を絞めつける。
 その手の主は彼女だった。彼女は左手で蓮子の首を絞めながら困惑している。自らの意思で体を動かしたわけではないようだ。そして彼女の左目だけがきれいな碧眼ではなく赤く光っている。
 彼女の口から言葉が漏れ出る。
「宇佐見、宇佐見、宇佐見を殺せば……奪える。蓮子……逃げて早く」
 蓮子はとっさに机に置いてあったパソコンを掴み彼女の頭を殴る。そして力が弱まった隙をついて首から左手を振り払う。
 蓮子は喉元を抑えて咳をしていると床にうずくまっている彼女が言う。
「逃げて、人を呼んできて」
 蓮子はうなずくと携帯端末を持って部屋の外へ出て行った。

 マエリベリーは頭を殴られた痛みでうずくまっていたがしばらくすると勝手に体が動き出し、よろよろと立ち上がった。
 マエリベリーの中から聞こえてくる彼女の声、時間がない、早くしないと、体をよこせ。
「あなたは何者なの?何をしようとしているの?」
「あなたの体を奪う、今こそ与えた力と体を返せ。生かした恩を返せ」
「やっぱり私を助けてくれたのはあなただったのね。感謝してもしきれないわ。でもあなたからもらったものは返せないわ。これのお陰で大切な人ができたもの共存の道はないのかしら?」
「ない、何もかもが遅すぎる」
 それは残念だわとマエリベリーは言い、玄関に向かう足を無理やり台所へと向けた。台所に着くとわざと仰向けになるように倒れた。立ち上がろうとする体に抵抗しながら唯一自由に動かせる右手を使い足元収納を開き、ナイフを取り出す。
「あの時のあなたは寂しそうに見えたわ。私と1つになれて嬉しかったんじゃないの?」
 マエリベリーはそう言って自らの心臓に向けてナイフを向ける。
「私は助かって嬉しかったし、あなたの声は気味が悪いと思ってたけど親近感があって悪くなかったわ。1人じゃないんだって思えた」
 マエリベリーは右手にありったけの力を込める。
「だから共存できなくて残念だわ。何かが違えばこんな結末にはならなかったかもね」
 マエリベリーの耳には悲痛な静止する声を聞こえる。今までは気味の悪い声だったが今は感情が籠っていて、必死さを感じる声。彼女も生きているのだと実感している。
「あなたが私の大切な人を傷つけるなら放っておくわけにはいかないわ。さよならの時間ね。もう1人の私、親愛なる見知らぬ隣人よ」
 あの時から人としての枷が外れたマエリベリーは祈りを捧げると一切の躊躇をせずにナイフを振り下ろした。その結果は予想に難くないだろう。
一週間に一本投稿するはずなのに遅れてしまいすみませんでした。
筆者に代わりお詫び申し上げます。
by投稿代理人waz
筆者those
タイトルの読み方はハーン八雲(ハーンハウン)です。
元ネタマエリベリー・ハーン、八雲紫と何かしらの関係があると思われるラフカディオ・ハーン氏(小泉八雲)です。
気になったら調べてみてください。
リンクに企画小説の一本目があるのでお暇でしたら読んでみてください。
those
http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/227/1575594006
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コメント



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1.90ヘンプ削除
良かったです。
メリーの体を奪おうとしたのは誰なんだろう……
2.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
4.無評価名前が無い程度の能力削除
冒頭は前作のコピペですか?
5.100終身削除
探偵の蓮子が探っていた情報を張本人に教えるということは探偵という立場での蓮子とメリーの境界が壊れ始めて関係に変化が起き始めているのかなとも思いました メリーは今回は退けたけどこの後の選択が自分も蓮子も大きく巻き込んでいくような不穏さを感じました