秘封倶楽部の2人は西日が差し込む酉京都大学の食堂でいつも通りのテラス席で倶楽部活動をしていた。倶楽部活動と言っても日常であった変わったことやマエリベリーの見た夢の話、バイト先での愚痴や不満などを話すだけで秘密を封するようなことはしていない。むしろその逆にあたる科学世紀では禁止されている境界破りを行っている。結界破り何かを隔てるために作られた結界に干渉する行為だ。
そこで目を覚ましてしまったのよとマエリベリーは夢の話を終えた。
「あんな中途半端なところで目を覚ましてしまったら続きが気になって仕方ないわ」
「そんなに気になるなら講義なんてさぼって二度寝すればよかったのよ。そうすればこんなにもやもやすることもないのに」
「それも良かったかもね。マンションの屋上で何が起こるはずだったのかしら?たしか蓮子も一緒だったわ」
マエリベリーはそう言って紅茶を口にした。
それを合図に選手が交代したかのように次に蓮子が話を始めた。
「今では当たり前になった監視カメラの追跡システムってあるじゃない」
紅茶を飲んでいた彼女は蓮子に視線を向け、興味を示した。
「複数の監視カメラ映像から移動ルートを特定して、現在その人がどこにいるのかを人工知能が推定するシステムのことね。これから話すのは監視カメラに関する話」
蓮子はそう言ってぬるくなったコーヒーを一気に飲みほし、テーブルに備え付けてあるパネルからお代わりを注文する。
「これはもう何十年も前の話なんだけど、とある企業でこのシステムをベースに新しいシステムはないかと模索するプロジェクトがあったらしいの。そのプロジェクトの一環で監視カメラに映った人の顔色から健康状態を人工知能に推定させるってものがあったんだけど、これの実態はそんなことではなかった。本当はカメラに映った人の顔から余命を推定させることだったの」
マエリベリーは手に持っていたティーカップをことりと置く。
「余命推定なんて今でも聞いたことがないわ。そんなことが何十年も昔にできたとは考えにわね」
彼女はご名答と言い、話を続ける。
「もちろんそんなことはできるはずがないのよ。続きを聞けばどうやって可能にしようとしたかわかるわ。人工知能が推定をするにはその材料となるサンプルが必要なの。サンプルが少ないと学習の精度が下がったり、そもそも学習自体ができなかったりするのよ。そしてそれは生年と没年がわかる人の顔写真と定めたわ。ここで問題が発生するわ」
「サンプルの数が足りなかったのね。偉人の写真とかがあるけどそれだけじゃ数が足りなかったのね」
「その通り。科学的に余命を推定するには事故や災害ではなくしっかりと生涯を全うした人物である必要があると考えられるわね。イレギュラーは推定のしようがないもの。でもこの機能の開発を提案した男はそのイレギュラーもサンプルに含めようと言い出したのよ」
彼女がマエリベリーにそう問いかけると淹れたてのコーヒーが運ばれてきた。彼女はそれを一口飲み、マエリベリーが短いシンキングタイムの末に出した答えを聞いた。
「その人は人工知能に卜占の真似事をさせようとしたのね。私好みの良い趣味だわ」
彼女はそうだと思ったわと話を続ける。
「他のプロジェクトメンバーはあきれていたけどそれよりも興味が勝ったのね。その日から業務が終わった後の空き時間に地道なデータの入力作業をすることにしたの。そしてサンプル数は2000を超え、まだ少ないけど動かしてみることにしたの」
マエリベリーはそれでと興味津々な様子で話を聞いている。科学技術系統の話でここまで興味を持つのは珍しい。
「最初に余命推定を受けた人をAさんとしましょう。Aさんは40年と表示されたわ。当時、Aさんが30歳くらいだったみたいだからおかしな数字ではないわね。次にBさんは20年、Cさんは53年、Dさんは67年と理にかなっている数値もあればそうでもない数値まで結果はかなりばらけたの。そして最後に言いだしっぺのEさんの余命推定を行ったわ。そしたら余命0年と表示されたのよ」
「今年中に死ぬという死亡宣告をされたのね。ゾッとする話ね」
「当の本人はサンプルが足りなかったかと気にはしていなかったわ。次はもっと多くの推定結果を出してその結果を解析するため様々な場所で録画された24時間分の映像に映った人の顔で推定させたの。結果が出るのに時間がかかるだろうからその日は帰ったわ」
「そして次の日、Eさんは前々から有給を取っていてその日は出勤してこなかったわ。分析結果が出たら報告書を作るよりも早く送ってほしいと言ってくるほど楽しみにしていたの。でも結果は驚くべきものだったのよ。監視カメラが設置してある施設ごとに結果をまとめて推定された余命平均値を出した結果は若い人が集まる施設の平均値は高く、老人が集まる施設は平均値が低い傾向にあったそうなのよ。1位は小学校の平均105歳で2位、3位も同じく教育機関だったわ。そしてワースト……」
マエリベリーは何かひらめいたかのように彼女の話をさえぎるように口を開く。
「ワースト1位は老人ホームだったのね。働いている若い人もいるけどそれよりも入居者のほうが多いから平均値がほかの施設より低くなったんだわ」
彼女はチッチと人差し指を左右に振る。
「非常に惜しいわね。老人ホームはワースト2位で平均14歳だったわ。この結果に関してはメリーの予想通りね。でもこれよりも低い結果をたたき出した施設があったのよ」
マエリベリーは生唾を飲み込み、食い入るように聞く。
「ワースト1位は平均6歳で病院だったのよ」
「それはおかしいわね。病院はケガやただの風邪の人だっているはずだわ。たしかに死にかけている人もいるかもしれないけどそれにしても低すぎるわ」
彼女は大きく頷き、話を続ける。
「そうなのよ。普通に考えたら病院の平均余命は教育機関よりは低いかもしれないけど極端に低いなんてことはないはずなのよ。だからプロジェクトメンバーは病院のデータを確認すると驚きの内容だったのよ。そこにはマイナスの余命を持ったデータがたくさん含まれていたのよ」
「マイナスっていうことはもうすでに死んでいるってこと?」
「数値通りに受け取るなら死後何年か経っているということになるわね。他の施設にも点々とマイナスの数値は見られたけどこれはサンプルの中に似た顔に人がいただけと説明できるから誤差の範囲だと言えるわ。でも病院の場合は誤差の範囲だと言い切れない数だったのよ」
「気味の悪い話ね。まさかもうすでに死んでいる人が私たちと同じようにその辺りを闊歩しているっていうの?」
マエリベリーは自らの体を抱き、腕をさする。
「話はこれで終わりじゃないわ。その日は別に原因があるのだろうということにして全員で早く上がることにした。気味が悪くてその場から離れたかったんでしょうね。帰り道の途中でとある連絡が入ったわ。それはプロジェクトメンバーのEさんが死んだという連絡だったのよ。死因は交通事故で正面から突っ込まれたことだったそうよ」
彼女は話し終わるとコーヒーを飲み、携帯端末を取り出す。彼女の携帯端末には誰が作ったかは知らないが、この話に出てくるシステムを再現したアプリがインストールされている。これを使って2人の余命を測定してみようというのがこの話の本題だった。
マエリベリーにその旨を説明し、カメラを向けると画面には余命0年と表示されていた。
そこで目を覚ましてしまったのよとマエリベリーは夢の話を終えた。
「あんな中途半端なところで目を覚ましてしまったら続きが気になって仕方ないわ」
「そんなに気になるなら講義なんてさぼって二度寝すればよかったのよ。そうすればこんなにもやもやすることもないのに」
「それも良かったかもね。マンションの屋上で何が起こるはずだったのかしら?たしか蓮子も一緒だったわ」
マエリベリーはそう言って紅茶を口にした。
それを合図に選手が交代したかのように次に蓮子が話を始めた。
「今では当たり前になった監視カメラの追跡システムってあるじゃない」
紅茶を飲んでいた彼女は蓮子に視線を向け、興味を示した。
「複数の監視カメラ映像から移動ルートを特定して、現在その人がどこにいるのかを人工知能が推定するシステムのことね。これから話すのは監視カメラに関する話」
蓮子はそう言ってぬるくなったコーヒーを一気に飲みほし、テーブルに備え付けてあるパネルからお代わりを注文する。
「これはもう何十年も前の話なんだけど、とある企業でこのシステムをベースに新しいシステムはないかと模索するプロジェクトがあったらしいの。そのプロジェクトの一環で監視カメラに映った人の顔色から健康状態を人工知能に推定させるってものがあったんだけど、これの実態はそんなことではなかった。本当はカメラに映った人の顔から余命を推定させることだったの」
マエリベリーは手に持っていたティーカップをことりと置く。
「余命推定なんて今でも聞いたことがないわ。そんなことが何十年も昔にできたとは考えにわね」
彼女はご名答と言い、話を続ける。
「もちろんそんなことはできるはずがないのよ。続きを聞けばどうやって可能にしようとしたかわかるわ。人工知能が推定をするにはその材料となるサンプルが必要なの。サンプルが少ないと学習の精度が下がったり、そもそも学習自体ができなかったりするのよ。そしてそれは生年と没年がわかる人の顔写真と定めたわ。ここで問題が発生するわ」
「サンプルの数が足りなかったのね。偉人の写真とかがあるけどそれだけじゃ数が足りなかったのね」
「その通り。科学的に余命を推定するには事故や災害ではなくしっかりと生涯を全うした人物である必要があると考えられるわね。イレギュラーは推定のしようがないもの。でもこの機能の開発を提案した男はそのイレギュラーもサンプルに含めようと言い出したのよ」
彼女がマエリベリーにそう問いかけると淹れたてのコーヒーが運ばれてきた。彼女はそれを一口飲み、マエリベリーが短いシンキングタイムの末に出した答えを聞いた。
「その人は人工知能に卜占の真似事をさせようとしたのね。私好みの良い趣味だわ」
彼女はそうだと思ったわと話を続ける。
「他のプロジェクトメンバーはあきれていたけどそれよりも興味が勝ったのね。その日から業務が終わった後の空き時間に地道なデータの入力作業をすることにしたの。そしてサンプル数は2000を超え、まだ少ないけど動かしてみることにしたの」
マエリベリーはそれでと興味津々な様子で話を聞いている。科学技術系統の話でここまで興味を持つのは珍しい。
「最初に余命推定を受けた人をAさんとしましょう。Aさんは40年と表示されたわ。当時、Aさんが30歳くらいだったみたいだからおかしな数字ではないわね。次にBさんは20年、Cさんは53年、Dさんは67年と理にかなっている数値もあればそうでもない数値まで結果はかなりばらけたの。そして最後に言いだしっぺのEさんの余命推定を行ったわ。そしたら余命0年と表示されたのよ」
「今年中に死ぬという死亡宣告をされたのね。ゾッとする話ね」
「当の本人はサンプルが足りなかったかと気にはしていなかったわ。次はもっと多くの推定結果を出してその結果を解析するため様々な場所で録画された24時間分の映像に映った人の顔で推定させたの。結果が出るのに時間がかかるだろうからその日は帰ったわ」
「そして次の日、Eさんは前々から有給を取っていてその日は出勤してこなかったわ。分析結果が出たら報告書を作るよりも早く送ってほしいと言ってくるほど楽しみにしていたの。でも結果は驚くべきものだったのよ。監視カメラが設置してある施設ごとに結果をまとめて推定された余命平均値を出した結果は若い人が集まる施設の平均値は高く、老人が集まる施設は平均値が低い傾向にあったそうなのよ。1位は小学校の平均105歳で2位、3位も同じく教育機関だったわ。そしてワースト……」
マエリベリーは何かひらめいたかのように彼女の話をさえぎるように口を開く。
「ワースト1位は老人ホームだったのね。働いている若い人もいるけどそれよりも入居者のほうが多いから平均値がほかの施設より低くなったんだわ」
彼女はチッチと人差し指を左右に振る。
「非常に惜しいわね。老人ホームはワースト2位で平均14歳だったわ。この結果に関してはメリーの予想通りね。でもこれよりも低い結果をたたき出した施設があったのよ」
マエリベリーは生唾を飲み込み、食い入るように聞く。
「ワースト1位は平均6歳で病院だったのよ」
「それはおかしいわね。病院はケガやただの風邪の人だっているはずだわ。たしかに死にかけている人もいるかもしれないけどそれにしても低すぎるわ」
彼女は大きく頷き、話を続ける。
「そうなのよ。普通に考えたら病院の平均余命は教育機関よりは低いかもしれないけど極端に低いなんてことはないはずなのよ。だからプロジェクトメンバーは病院のデータを確認すると驚きの内容だったのよ。そこにはマイナスの余命を持ったデータがたくさん含まれていたのよ」
「マイナスっていうことはもうすでに死んでいるってこと?」
「数値通りに受け取るなら死後何年か経っているということになるわね。他の施設にも点々とマイナスの数値は見られたけどこれはサンプルの中に似た顔に人がいただけと説明できるから誤差の範囲だと言えるわ。でも病院の場合は誤差の範囲だと言い切れない数だったのよ」
「気味の悪い話ね。まさかもうすでに死んでいる人が私たちと同じようにその辺りを闊歩しているっていうの?」
マエリベリーは自らの体を抱き、腕をさする。
「話はこれで終わりじゃないわ。その日は別に原因があるのだろうということにして全員で早く上がることにした。気味が悪くてその場から離れたかったんでしょうね。帰り道の途中でとある連絡が入ったわ。それはプロジェクトメンバーのEさんが死んだという連絡だったのよ。死因は交通事故で正面から突っ込まれたことだったそうよ」
彼女は話し終わるとコーヒーを飲み、携帯端末を取り出す。彼女の携帯端末には誰が作ったかは知らないが、この話に出てくるシステムを再現したアプリがインストールされている。これを使って2人の余命を測定してみようというのがこの話の本題だった。
マエリベリーにその旨を説明し、カメラを向けると画面には余命0年と表示されていた。
最後のオチはゾワっとしました
次回作も期待大ですね!
>酉京都大学の食堂でいつも通りのテラス席で
食堂の、ではないでしょうか。あまり繋げると長くなりますが
>何十年も昔にできたとは考えにわね
考えにくいだと思われます
いかにも秘封って秘封だあ