Coolier - 新生・東方創想話

リフォームの匠

2019/11/15 20:08:52
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 お姉様の部屋が爆発した。

「ありゃー」

 不可抗力だ。私に罪は無い。
 形あるものはいつか壊れるのだ。



 ◆ ◇ ◆



 その日も私は図書館で魔導書を読み漁っていた。

 ここ、紅魔館地下にある大図書館は、夢溢れる本と埃のワンダーランドだ。
 内部には私の背丈の何倍にもなる書架がいくつも連なり、様々な本が大切に保管されている。
 そのジャンルは魔導書や外の世界の本、パチュリーの書いたお姉様の暴露本など多岐に渡り、読者を大いに満足させること請け合いだ。展示された押し花と大量の埃が薄暗い照明に照らされ、その落ち着いた雰囲気は訪れる者を静かに歓迎する。

 館からほとんど出ない私にとって、この図書館は知識と暇潰しの生命線だ。
 ここでありとあらゆる無駄知識を吸収し、時折新しい魔法を編み出してはお姉様で試すのが私のささやかな趣味である。
 先日は錬金術のお披露目と称してお姉様のおやつを鉄に変えた。鈍色に輝くメタルケーキにお姉様の唖然とした顔が映り込み、なんとも風情を感じたものだ。妹の成長に涙を飲んだに違いない。はは。

 そんな魔法吸血鬼たる私が今回興味を引かれ、図書館の棚から手に取った魔導書のタイトルはこれである。

「簡単! 対吸血鬼用粘着生物の作り方! ~すごいヌットヌト~」

 ポップな字体でデカデカと刻まれた題字にキラキラのラメが施され、所狭しとお花の絵がちりばめられた表紙が不安を煽る。
 恐る恐る最初のページを捲ってみると、挨拶代わりに「本書によって発生した事故には一切の責任を負いません」と免責事項が顔を出した。

「わぁ……素敵……」

 いよいよ以て怪しいが、ここまで露骨に怪しいと逆に気になってしまうというものだ。何故吸血鬼の館にこんな本が眠っているのか、著者の頭は大丈夫なのかといった疑問も、知識の探求の前には些細なことである。
 何より、これをお姉様に試したくて仕方が無いのだ。すごいヌットヌトが成功すれば、お姉様はまた可愛……もとい、面白い反応を見せてくれるに違いない。

 丁度今日のお姉様は咲夜を連れて神社へ遊びに行っている。絶好のイタズラ日和だ。可愛い妹をほったらかしにして出かけてしまうお姉様が悪いのよ!
 好奇心とイタズラ心に負けた私は、その場にぺたんと座り込み、早速怪しさ満天のキラキラブックを読み始めた。



 ――そしてそこに記されていた魔法をお姉様の部屋で試した結果がコレである。

 お姉様の就寝用棺桶をすごいヌットヌトにしようと企てたのだが、どうやら失敗してしまったようだ。
 棺桶はベッドごと吹き飛び、爆風で部屋は嵐でも直撃したかのような様相を呈している。

 やはり本に指定されていた魔法の触媒を火薬で代用したのがまずかっただろうか。チョウセンアサガオの粉末なんて私には手に入れようが無いのだから仕方あるまい。
 正直爆発するかな? という気はしていたが、過ぎたことを悔やんでも部屋は元に戻らないのだ。それに多少の爆発にも耐えられない部屋の方にも問題があるのではないか。部屋としてもっと自覚を持って欲しい。

 色々な物が木っ端微塵になり床中に散乱している部屋を眺めながらしばし物思いに耽っていると、不意に後ろから声をかけられた。

「何の騒ぎかしら」

 声の主は我らが大図書館、パチュリー・ノーレッジその人だ。図書館をよく利用する私とは必然的に面識があり、私の数少ない友人の一人である。
 共通の趣味について話をする機会も多く、一昨日もお姉様の服を時間差で消滅させる魔法について相談したばかりだ。この魔法はパチュリーが快く協力してくれたお陰で翌日には完成したので、さっきお姉様にかけた。丁度今頃神社で下着姿になっている頃合だろう。
 知識と日陰のトラブルクリエイターはろくでもない魔法を開発する事にかけては天才的である。

「最近めっきり寒くなってきたからねぇ」
「季節のせいにする前に何が起きたか教えて欲しいのだけれど」
「お姉様の部屋が自主的に爆発したわ」
「……そう、情熱的ね」

 パチュリーは悲惨な状態になっているお姉様の部屋を横目でチラリと確認すると、特に表情を変えることも無くそう答えた。
 しかしそれなりに付き合いの長い私には分かる……パチュリーは面白がっている。このパッチェッチェは意外とこういうのが好きだ。

「それで、どうするの? 自主的に爆発したとは言え、間違いなく疑われるのは妹様よ。たぶんしばらく抜きになると思うわ。おやつとか色々」
「むむ……それは良くないわ」

 お姉様の部屋は今の状態でもユニークで良いと思うが、おやつ抜きはまずい。この前もメタルケーキの件で色々抜きになったばかりだ。これ以上は食い止めねばならない。

「仕方ない。お姉様が帰ってくるまでに部屋を直すわ。手伝ってくれる?」
「むぎゅ」
「ありがと」

 物凄く嫌そうな顔で鳴かれた。
 しかしなんだかんだで手伝ってくれるだろう。パチュリーは聡明だ。断れば次に爆発するのがどこになるかくらい分かっている。

「手伝うのは良いけれど、部屋を完全に元に戻すのは無理ね。ベッドやらクローゼットやら、家具が軒並み吹き飛んでしまっているから」

 パチュリーの言う事は尤もだ。元のデザインもうろ覚えである以上、完璧に再現するのは不可能に近い。
 こうなれば、出来る限りお姉様好みの内装を作り上げて誤魔化すしか無いだろう。

「まぁ、丁度良いわ。どの道、お姉様のご機嫌は取らなくちゃいけないもの」

 そう、今日のお姉様は神社で赤っ恥をかいて帰ってくる予定だ。その上自室が爆散していたとなれば、いよいよ泣かれかねない。それはそれで興奮……いや、なんでもないわ。
 イタズラはバランスが大切なのだ。私のおやつもかかっている。

「レミィ好みの部屋に作り替えるのね? 造作も無いわ」

 パチュリーが自信満々に言ってのけた。
 頼もしいが、自信の源は謎だ。

「さて……」

 改めて部屋を見渡す。
 家具の破片が部屋中に散らばり、散々な有様だ。

「じゃあまずは散らかった部屋を片付けましょうか」
「となるとアレね」
「そう、アレ」
「ブラックホールね」
「うん、ブラックホール」

 やはり掃除と言えばブラックホールである。
 ブラックホールは凄い。宇宙の神秘だ。
 その重力の暴力によって、部屋の邪魔な瓦礫を一網打尽にしてくれるだろう。
 外の世界には「掃除機」というマジックアイテムがあり、ゴミを自動で吸い込むのだと言う。
 無論これも内部にブラックホールが搭載されていることは言うまでもない。
 幻想郷での実用化も時間の問題だ。

「私が部屋の中心にブラックホールを精製するから、妹様は魔力を分けてくれるかしら」
「食べ放題よ」

 ブラックホールは凄いので、簡単には生み出せない。ブラックホールさんにお越し頂くには膨大な魔力と高度な魔法知識が必要になる。
 しかし私達ならば可能だ。私達はかなり凄い。
 私はパチュリーの左手を両手でひしと握り、魔力を受け渡す体勢を整えた。

「それじゃあ行くわよ」
「いつでもいいよ」

 右手をかざし呪文の詠唱を始めたパチュリーに、両手から魔力を流し込む。高純度の魔力の影響か、繋いだ手が仄かな明かりを発した。そして程なくして、部屋の中央に空間の歪みが見て取れ――

「来たわ。ブラックホールさムキュァア!!!!!」
「わー!!!!!」

 キュウ、という音と共にブラックホールさんが降臨し、凄まじい勢いで周囲の物を飲み込み始めた。
 真っ先にブラックホールに飲み込まれようとしていたパチュリーをなんとか引っ張り救出する。
 一瞬のうちに周囲の瓦礫が全て消滅した。

「パチュリー! ストップ!! ストップ!!!」
「ウオオオオ!!!!!」

 尚も全てを無に還さんとするブラックホールに抵抗しつつ、パチュリーが普段絶対に口にしないであろう雄叫びを上げながらブラックホール精製魔法を中断した。
 私達が想像で作った疑似ブラックホールでさえこれである。本物のブラックホールはもっと凄いのだろう。流石ブラックホールさんだ。
 実は私達はブラックホールの事をよく知らない。

「ハァ……ハァ……片付いたかしら……」
「綺麗さっぱり何も無くなったわ。壁紙も全部剥がれてすっきりね」

 ブラックホールさんのお陰で部屋は片付いたが、壁紙も全て消滅してしまった。世の中ままならないものだ。まぁ目的は達成出来たので問題は無いだろう。
 すでに大分息が上がっているパチュリーの背中をさすりながら、随分すっきりした部屋を見渡す。見事なまでに何も無い。ここからが腕の見せ所だ。
 パチュリーの息が落ち着いたのを見計らって再び話を切り出した。

「うーん、すっきりしたのは良いけれど次はどうしよう……そういえばお花見がしたいわ」
「それも魅力的な提案だけど、まずは家具が必要だと思うわ」

 お姉様の部屋をお花で埋め尽くす提案は却下されてしまった。まだ季節的に早かったようだ。
 パチュリーの言う通り、まずは家具を揃えるのが良いかもしれない。お部屋の印象を決定付ける、非常に重要な要素だ。
 生憎元から置いてあった家具は影も形も無く、どんなものであったかすら思い出せないが、この上なく素敵な家具を置き直してやればお姉様も納得するだろう。少しワクワクしてきた。

「家具……家具かぁ……じゃあとびっきりお洒落な家具を召喚しましょう」
「そうね。それがいいわ」

 通常、吸血鬼と魔女は日曜大工が得意ではない。新たに家具を生み出すにはやはり魔界から召喚するのが良い。

「妹様、何か召喚の触媒に出来そうなものはあるかしら」
「火薬ならあるよ」

 パチュリーに問われ、先程お姉様の部屋を木っ端微塵にした元凶のにっくき粉末を差し出す。こうした形で責任を取って貰おうという寸法だ。パチュリーも納得したような表情で火薬を受け取る。

「丁度良いわ。私がこの火薬で床に召喚魔法陣を描いておくから、妹様は館内で触媒になりそうなものを集めてきてくれるかしら」
「分かったわ!」

 私は元気に返事をすると、パチュリーにこの場を任せ、きびすを返して触媒集めに出かけた。
 窓の少ない廊下をふよふよと飛び、妙に紅い階段を降りる。すでに触媒の目星はつけてあるのだ。すぐに目的のものが用意出来るだろう。紅魔館の台所は血と人肉のスプラッタ遊園地だ。


 ……そして10分後、遊園地から充分な触媒を頂いてきた私は、意気揚々とお姉様の部屋に戻ってきた。
 パチュリーの方も問題無く仕事を終えていたようで、部屋の床一面に怪しげな魔法陣が描かれている。
 私はパチュリーの描いた魔法陣の上に集めてきた触媒を手際良く並べた。
 にんじん、じゃがいも、たまねぎに牛肉、そしてカレールー……新鮮な食材が一堂に会し、何とも食欲をそそる。今夜はカレーで決まりだ。

「ほぼ完璧ね」

 パチュリーも満足げに頷いた。

「さぁ、家具をまとめて召喚するわよ。妹様はどんな家具を召喚したい?」
「そうだなぁ……テーブルにベッドと棺桶、クローゼットも必要ね……それになんかユラユラする椅子も召喚しましょう。それから、お姉様は漫画好きだから本棚もあった方が良いわ」

 四六時中お姉様を観察している私には、お姉様の好みだって手に取るように分かる。ユラユラする椅子を置いておけば、興味ないようなフリをしてすぐにユラユラしだすだろう。
 本棚もすぐに漫画で埋まるはずだ。お姉様は小説や魔導書なんかよりも、外の世界の漫画を好む。
 全く、私と違ってお子様なんだから……。

 漫画を貸し借りする仲の美鈴が羨ましいとかそういうのではない。断じて。

「では始めるわね」
「ユラユラね」
「オンパッキャラマドプルンプルン……」

 パチュリーが怪しげな呪文の詠唱を始めた。
 魔法に関してはやはりパチュリーの方が私より秀でており、その呪文にどんな意味が込められているのかはパチュリーにしか分からない。あるいは特に意味は無いのかもしれない。パチュリーは時々お姉様の前で無意味に適当な呪文を詠唱し、お姉様を困惑させる習性がある。パチュリーのライフワークのひとつである。

「プルンプルンプルン……アグニシャイン!!!!」

 詠唱を続けていたパチュリーが、突如自慢のスペルカードで火を放った。そういえば今日は火曜日だったなぁ、とぼんやり思う。パチュリーには曜日によって精霊魔法を使い分ける趣味がある。恐らく今のスペルカードは呪文の詠唱とは無関係だ。彼女はそんなものに縛られない。撃ちたかったから撃ったに違いない。
 幸い、火薬にも館にも引火する事は無かった。パチュリーは気遣いの出来る魔女である。

「ポインポインポイン……フン!!!!!」

 パチュリーの気合の入った声と同時にボンという軽い破裂音が響き、部屋に白い煙とカレーの香りが充満する。
 ああ、お腹がすいた。そういえば今日はまだ何も食べていない。カレー食べたい……。私はカレーが大好きだ。カレーが嫌いな吸血鬼など居ない。恐らく吸血鬼は血を摂取しなくてもカレーがあれば生きていける。いつか血のケーキに飽きたら吸カレー鬼に転職するのも悪くないと常日頃から考えている。

 カレーについて思いを馳せていると、程なくして少しずつ煙が晴れてきた。魔法陣の上に、いくつか角張ったシルエットが見える。いよいよだ……!
 期待に満ちた眼差しでそれを眺めるうち、ついに煙が完全に晴れ、家具達が姿を現した。
 そこにあったのは、まさしく私達が欲したクローゼット、テーブル、本棚にベッド、棺桶、そしてユラユラする椅子だ。どれも紅魔館に相応しく見事な装飾を施されており、皆一様に逞しい手足が生えている。カレーの香りも健在だ。

「フフ……大成功ね」
「やった」
「ォォォオオオオオ!!!!!!」

 私はパチュリーと成功の喜びを分かち合い、小さくハイタッチをした。家具達も筋骨隆々の両腕を天に突き出し、どこから発声しているのか分からない歓声を上げている。

「これだけ筋力のありそうな家具が揃っていれば、レミィも大喜び間違いなしよ」
「筋力は大事だよねぇ……饅頭も筋肉もこわくないわ」
「後はこの家具達の配置を決めましょう」

 家具の配置は重要だ。配置ひとつで部屋の印象は変わって見える。出来るだけ部屋を広く見せる為、ベストな位置に家具を置き、完璧なカレーハウスを作ってやろう。

「風水的には、あっちの方角にクローゼットを置くのが良いわ」

 パチュリーが部屋の隅を指差すと、クローゼットも「それが正しい」と言わんばかりに腕を組み頷いた。

「でもそこに置くなら本棚が丁度良いんじゃない?」

 クローゼットより一回り大きい本棚は、部屋の隅に配置すると見栄えが良い。この提案に、本棚は「素晴らしい考えだ」と賞賛するかのように右手でグッドサインを作った。

「ふむ、それじゃあ家具本人達の意見を聞きましょうか」

 パチュリーがそう言い終わるかどうかのうちに、クローゼットと本棚は同時に自らを指差し、「我こそは部屋の隅に配置されるに相応しい」と胸を張った。
 他の家具達は部屋の奥に並んで体育座りしている。なかなか出来た奴らである。

 そんな他の家具達が見守る中、本棚はクローゼットに対してヤレヤレ……といった感じの手振りをし、

「オイオイオイ……君が部屋の隅に配置されるだって? そんな収納スペースじゃ家主を満足させる事は出来ないよ? 僕に席を譲りたまえ」

 とジェスチャーで器用に言った(かのように見えた)。
 しかし煽られたクローゼットも黙ってはいない。肩を竦めるような動きをしつつ、

「何だって? 冗談はよしてくれ。大きいだけが取り柄の君には分からないだろうがね、収納に大切なのはベストなスペースと使いやすさなのさ。分かったら君こそ身を引くんだね」

 と煽り返すジェスチャーと共に、本棚の肩にあたる部分を左手で突き飛ばした。
 これに対して本棚も負けじとクローゼットの両肩部分を突き飛ばす。勿論クローゼットもこれに反撃し、あれよあれよと取っ組み合いの喧嘩になってしまった。
 つい先程までは平和な雰囲気だったのに、今やお姉様の部屋は土地の所有権を巡る家具抗争の中心地である。

「青春ね」
「青春だねぇ」

 きっとこれが青春というものだ。本で読んだ事がある。こうしてぶつかり合い、互いの理解を深めるのだ。そうしているうち距離が縮まり、いつしか二人の間には不思議な感情が芽生えたりする……そういうものなのだ。
 本はいつだって私に色々なことを教えてくれる。特にパチュリーが私にだけ貸してくれる妙にページ数の少ない本はドキドキする展開が多く、私のお気に入りである。

「ォォォオオオオオ!!!!!!」
「ァァァァアアアア!!!!!!」

 BL本について思いを馳せているうち、いつの間にか本棚とクローゼットの争いは更に激化していた。
 本棚の右拳が唸りを上げてクローゼットの下腹部に突き刺さる。ベキベキと木材が鳴き、血を吹き出す。クローゼットも一歩も引かず、本棚の顔面にハイキックをお見舞いした。

「バイオレンスね……」
「バイオレンスだねぇ……」

 両者唸りを上げながら殴り合いをしている。血飛沫が飛び、ガン、ガンと家具同士の角がぶつかり合う音が部屋中に響いた。家具って血とか出るんだ……。

「そろそろ止めないとまずいかしら」
「このままだと両方壊れちゃうね……」

 いくら青春とは言え、壊れてしまっては元も子もない。すでに両者血まみれのベコベコだ。そろそろ止めてやらねばなるまい。
 しかしパチュリーが「そこまでよ」と声をかけようとした瞬間、部屋の奥で体育座りしていた棺桶が飛び出し、

「もうやめて! 家具同士で争わないで!!!」

 と訴える様子で二人の間に割って入った。これ以上二人が傷つくのを見ていられなかったのだろう。
 だが、不幸にも二人の全力を込めた拳が止まる事は無かった。
 両者の拳に挟まれた棺桶から、バキリという音が鳴り響く。強力な打撃をまともに食らってしまった棺桶はその場で大破し、床に倒れ伏した。
 夥しい量の出血は、その一撃が致命傷であった事を物語っている。

「「棺桶ー!!!!!!!!!」」

 あまりの出来事に、私とパチュリーは声を上げ、それを見ていた家具達も皆悲鳴を上げた。
 本棚とクローゼットは共に闘うことを忘れ、その場に呆然と立ち尽くしている。なんということだ……。棺桶はその身を犠牲にして本棚とクローゼットの争いを止めたのだ。なんという献身か。彼女(彼?)こそは家具の中の家具だ。

「棺桶……。貴方の死は無駄にはしないわ」

 私は目尻に涙を浮かべながらそう呟いた。棺桶が喧嘩を仲裁してくれたお陰で本棚とクローゼットはベコベコになりつつも無事だ。
 それに、丁度家具の血液が壁に飛び散り、お姉様好みの壁紙になった気がする。

「ホラ、貴方達も家具としての使命を全うなさい。それが棺桶へのせめてもの弔いになるのよ」

 家具達が皆思い思いのジェスチャーで悲しみを表現している中、パチュリーが本棚とクローゼットに向けて言った。
 目と思われる部位に涙を浮かべ、膝をついて謝罪のモーションを繰り返していた本棚とクローゼットは、ゆっくりと立ち上がると互いに向き合い、

「私が悪かった。互いに尊重し合い、この部屋を素晴らしいものにしよう」

 と反省する感じの雰囲気を出し、握手した。

「感動的だわ」
「涙無しには見られないね」

 二人の和解シーンに思わず涙腺が緩む。この二人ならもう、道を間違えることは無いだろう。お姉様の部屋の家具として上手くやっていけるはずだ。しかし……。

「二人が仲直りしたのは良いけど、結局どっちを隅に配置するか決まってないねぇ」

 これは元々配置決めの話で、家具同士の和解が目的では無かった筈だ。騒ぎの発端である本棚とクローゼットがばつが悪そうにしゅんとしてしまった。
 困り果てていたその時、おもむろにパチュリーが口を開いた。

「大丈夫。こういう時古来より伝わる解決法があるわ」
「ほんと? 古来に感謝ね……それで、どうするの?」
「じゃんけんよ」
「じゃんけん」

 目から鱗である。まさかそんな解決法があったとは……。
 結局、本棚とクローゼットにじゃんけんをさせた結果、部屋の隅に配置される権利はクローゼットが獲得した。本棚もこの結果に納得し、クローゼットを祝福している様子である。

 やはりあの本は正しかった。殴り合いの青春によって二人の距離はぐんと縮まったようだ。本棚はクローゼットの隣に配置する事にしよう。二人はお姉様の部屋で添い遂げるのだ。良い話だなぁ……。

 本棚とクローゼットの配置が決まってしまえば、後の配置はすぐに決まった。反対側にベッドを配置し、テーブルとユラユラする椅子はセットにして部屋の中央少し右に置いた。これで家具の設置は無事完了だ。
 家具達は己の居場所を噛み締めるかの如く正座している。

「良い感じだわ。かなり住みやすい部屋になったわね」
「うん、後は仕上げね。私に任せて」

 私はそう言って、最後の仕上げを買って出た。
 家具の設置を終え、内装はほぼ完成したと言ってもいい。後は見た目の華やかさを追求すれば完璧だ。
 何も無い部屋は味気ないので、何か華となるような小物が欲しい。
 紅魔館当主の部屋に相応しい何かを置いて、部屋に彩りを加えてやろう。

「やっぱりこれが一番ね」

 私は懐から青い大弾をひとつ取り出し、そっとテーブルの上に添えた。
 大弾は弾幕の美しさを競うスペルカード戦において、その華やかさをワンランクアップさせてくれる必殺の弾だ。
 特に紅魔館の庭で採れる大弾は色が良く、当たり判定も大きい。いつかの異変で館に殴り込んできた人間も「当たり判定が分かりにくい」と絶賛した、私も愛用する強さと美しさの象徴である。

「やり遂げたわね。これでレミィも大喜びよ」
「うん、間違いなしね」

 改めて部屋を見渡す。床には火薬で描かれた魔法陣がまだ残っており、血飛沫で彩られた壁紙も相まってお洒落な空間を演出している。
 部屋の隅に鎮座するクローゼットと本棚はマブダチだ。ゆったりとしたベッドも最高の寝心地を提供するだろう。見事な装飾を施されたテーブルには美しい大弾が添えられていて、ユラユラする椅子も部屋の雰囲気とマッチしている。
 家具には皆筋肉質な手足が生えており、礼儀正しく正座する姿には家具である事への誇りを感じられる。
 部屋からはどこからともなくカレーの良い香りが漂い、食欲をそそられること間違いなしだ。

「わぁ」

 正直こんなことになるとは思っていなかった。
 瓦礫の山の方がまだマシだったかもしれない。誰がこんな部屋に住みたがるだろう……。
 だがここまでやってしまった以上もう後には引けない。お姉様の感性が狂っていることを願うばかりだ。

「さて、これで後はレミィの帰りを待つだけだけね」
「うん、じゃあ庭へ出ましょうか」

 私はそう言って棺桶の遺体を背負った。この家具を弔ってやらねばならない。庭で火葬してやるのが良いかな、と思った。
 お姉様の部屋を後にし、本日何度目かの廊下を抜け、階段を降りる。
 途中、血塗れの筋肉棺桶を背負った私を見た妖精メイド達は、皆悲鳴を上げて方々へ逃げ去った。逃げられるのはいつものことだが、今日は一層素早い。
 そんなに怖がらなくても良いのになぁ、などと考えているうち、紅魔館のエントランスまで辿り着いた。

 時刻はもう夕暮れ時で、日差しはあまり強くない。絶好の火葬日和だ。
 パチュリーに日傘を差して貰おうと思ったが、平然と「本より重い物は持てないの」と豪語された為、棺桶を背負いながら自分で傘を差す形になった。パチュリーは自分を曲げない。

「よっ……と。中々の筋肉密度だったわ。中は空だけど」
「棺桶だからね。ご苦労様」

 庭まで出てきた私達は、その一角に棺桶の遺体を下ろし一息ついた。
 紅魔館の庭は広く、美鈴の管理する花畑が一面に広がっている。
 この花畑は紅魔館の華やかさに一役買っており、今の季節にはコスモスにサルビア、マンドラゴラや大弾等の可愛い花々が咲き誇っている。
 花畑に引火させるわけにはいかないから、私達は庭の隅っこを火葬場に選んだ。
 ここで火葬をしながらお姉様を待とう。きっとそろそろ帰ってくる。

「ほい」

 私は魔法で棺桶に火を放った。火はすぐに広がり、大きな炎となって棺桶を包み込む。
 来世は更に素敵な家具に生まれ変われると良いね。
 もう秋も終わろうかという寒空の下、ゆらめく炎の前でしばし暖を取る。今日はなんというか……変な一日だったなぁ……。
 ぼんやり一日を振り返る中、一層冷たい秋風が体に吹きつけ、ぷるると身が震えた。隣のパチュリーはいつの間にか防寒具を着込み、ドングリのような生物に進化している。

「いつの間に着込んだの……?」
「精霊魔法の応用よ」

 精霊魔法凄い。世の中は不思議でいっぱいだ。
 きっと世の中には、パチュリーのような不思議な生物がたくさん居るんだろうなぁ、と思った。
 といっても、私は館の外に出して貰えないので、世の中を見て回ることは出来ないのだが……。
 私自身はそれに対して別に怒っていないし、お姉様がそう望むならそれで良いと思ってるけど……ちょっとくらい外を見てみたいなぁ、ともちょっと思う。ちょっとね。

 ……私は、目を閉じて思考を振り払った。
 いけないいけない。秋の夕暮れ時は否応なしにセンチメンタルな気分になってしまう。今日はまだそんな気分になるには早いのだ。

 そんなことを考えながら炎を眺めていると、遠くから聞き慣れた声が近づいてくるのが分かった。

「フランドール! あれは貴女の仕業ね!!!」
「あら、お姉様。いらしたの?」

 お姉様が帰ってきた。案の定お怒りのご様子だ。

「貴女のおかげでとんだ恥を……ん? 誰か死んだの?」
「棺桶が死んでしまったから埋葬しているの」
「そ、そう……」

 お姉様は私の答えを聞くなり、理解出来ない様子で複雑な表情を浮かべた。失礼な。私は何か変なことを言っただろうか。

「いや、棺桶の葬儀なんてどうでもいいわ! 貴女、私の服に変な魔法を……」
「そんなことより聞いてお姉様!!!」

 お姉様の訴えを強引に遮り、言葉を続ける。

「ねぇ、お姉様。私、パチュリーと一緒にお姉様の部屋をリフォームしたのよ。ねえ、パチュ……」

 パチュリーが居ない。逃げたな……!
 こうなってしまうともうパチュリーを見つけ出すことは不可能だ。私はいつも魔法で館内全域を見渡しているが、この状態のパチュリーはどうやっても見つけることが出来ず、私の探知魔法にも引っかからない。
 パチュリーはいつもこの技術を駆使して隠密しつつ、結界をすり抜け外の世界からBL本を仕入れているのだ。

「わ、私の部屋を……? 何故……?」

 お姉様は未だ状況が飲み込めていないようだ。やれやれ、世話の焼ける姉だなぁ……。

「ほら、良いからこっちへ来て」
「えっえっ」

 困惑するお姉様の手を引き、炭になった棺桶の前を後にする。
 紅魔館のエントランスを抜け、階段を昇ると、すぐにお姉様の部屋の前まで辿り着いた。

「ほら、扉を開けてみて。きっとお姉様はこの部屋を気に入るわ」
「わ……分かったわ……」

 あまりにも急な展開に、神社で服が消滅した件のことは忘れてくれたようである。狙い通りだ。
 お姉様が恐る恐る自室の扉に手をかけ、少しづつパンドラの箱を開けていく。少し扉が開いただけで、美味しそうなカレーの香りが鼻腔をくすぐり、お姉様の手が硬直した。感動のあまり声も出ない様子だ。

「ねぇ、なんかカレーの香りがするんだけど……」
「カレーはやっぱり中辛くらいが良いよねぇ……ほら、扉を開けて」
「う、うーん……」

 適当な言葉ではぐらかした。こういうのは勢いが大事なのだ。
 そして意を決したお姉様が扉を開け放つと、新しく生まれ変わったお姉様の部屋が、先程と寸分違わぬ様子で私達を迎え入れた。家具達も我らが主を歓迎すべく、しっかりと正座を続けている。

「あら……なかなか可愛いお部屋じゃない」
「っしゃ!!!!!」

 やった!お姉様の感性は狂っていた!!!
 思わず私らしからぬ声が出てしまった。
 いつか人形遣いに可愛いゴーレム人形を所望していたので、もしかしたらこの筋肉家具達も気に入ってくれるのではないかと賭けていたのだが、思いの外上手くいったようだ。やってみるもんだなぁ……。

「なかなか悪くないわね……カレーの臭いの消臭とか、床の掃除とか、手は入れなきゃいけないけど……」

 カレーはお気に召さなかったようだ。床に散乱する火薬も汚れと見なされてしまった。
 臭くて汚れてるだけだし当たり前だね!

「ふふん」

 誇らしげに胸を張る。

「それはそれとして、私の服に変な魔法をかけた罰として一週間色々抜きよ。おやつとか」
「やだぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!!」

 畜生!!!!!!!!!

「それに、この部屋には棺桶が無いわ。高貴な吸血鬼たるもの、寝室には棺桶が必要なのよ」
「ぐぬぬ」

 やはりか……。しかし結局おやつ抜きとなってしまった今、それは最早どうでもいいことだ。精々ふかふかのベッドで眠ると良いわ。ふははは。

「仕方ないわね……咲夜に新しい棺桶を用意させるまで、貴女の部屋の棺桶に入ることにするわ」
「えっ」

 えっ

「ちょ、ちょっと待ってよ! それじゃあ私はどこで眠ればいいの!」
「一緒に寝ればいいじゃない」
「っ!?」

 予想していなかった展開に思考が追い付かない。
 いや、決して嫌ではないがなんというか気恥ずかしいというか、心の準備も出来ていなくて、そういうのは、その……。

「あ、あの、えっと……」
「そういうわけだから後で貴女の部屋に行くわね」
「う、うう……!」

 しどろもどろしているうちにお姉様はすたすたと歩いて行ってしまった。
 な……何故こんなことに……。とにかく一度落ち着くべきだ。私はいつだって冷静沈着なクール吸血鬼だ……!
 足取りがふらついているのを自覚しつつも、私はひとまず自室に戻ることにした――。



 私の部屋も図書館と同じく地下にある。
 テーブルやベッドを始めとした可愛らしい家具に、お気に入りの本。遊び相手以外のものは大体揃っており、暮らしに不自由したことは無い。
 陽の光を嫌う吸血鬼的に、地下は過ごしやすく快適だ。
 私はここで何百年も過ごしてきた。
 そんな私の要塞で、今夜お姉様とお泊まり会が行われようとしている。

 味の分からない食事を済ませ、椅子の上で座禅を組み精神統一を始めてから早くも二時間が経過した。
 フフ……今の私は全ての感情を滅したパーフェクトフランドールだ。これならばお姉様と一緒に寝ても耐えられる。 
 い……一緒に……。

「入るわよ」
「ひゃい! ど、どうぞ!」

 コンコン、というノックの音がして、お姉様が声をかけてきた。思わず上ずった声が出てしまったが、これは不意打ちに当たる為ノーカンだ。

「お邪魔するわ……どうしたの、座禅なんか組んで」
「仏が語りかけてきたのよ」
「そんな見る目が無い仏の声なんて無視した方が良いわよ」

 部屋に入ってくるなり座禅に突っ込まれ、咄嗟に仏のせいにしてしまったが、随分失礼な言葉が帰ってきた。
 いや、しかし今はそんなことどうだっていいのだ。お姉様も大して気にとめず続ける。

「そんなことより、今日は妙に疲れたから早く横になりたいわ。ほら、棺桶の蓋を開けて頂戴」
「お姉様が疲れるなんて珍しいね」
「そりゃ疲れるわよ。誰かさんのお陰でお茶を飲んでる途中に服が消えたからね……しばらくからかわれたわ」
「かわいそうに」
「覚えてなさいよ……」

 私の監視魔法も、流石に館の外までは届かない。服が消滅した時の様子を詳しく訊きたいところだが、変に深く訊いて機嫌を損ねてしまえば、おやつ抜きが延長されかねない。今日は大人しく引き下がるとしよう。
 話をしながら、お姉様の要求通り棺桶の蓋を開け、先に中で横になった。心臓がドキドキしている。姉妹で一緒に寝るだけなのに私は何故こんなに緊張しているんだ……!

「よっ」

 私が中に入ったのを見計らって、お姉様も棺桶に入ってくる。

「うう!!」
「何を唸っているの?」
「何でも無いわ!!!」

 思わず声が漏れてしまった。
 そんな私の気も知らないで、お姉様が私の隣に腰を下ろす。外から見るよりも広々としている棺桶内も、二人並ぶとなると少し狭い。
 そうこうしているうち、ついにお姉様は私の隣に横になった。

「むぎゅ」

 お姉様と肌が触れ合い、様々な感情が巡り回ってパチュリーのような声が出てしまった。
 お姉様の体温を感じる距離……こんなに近づいたのは、いつ以来だろうか……。

「やっぱり一人用の棺桶だから若干狭いね……。でもまぁ、これはこれで、悪くないわ。ねぇ?」
「う、うん……」

 気恥ずかしくも、どこか懐かしい気持ちになる。昔にもこんなことがあっただろうか?
 もう覚えていないが、そんな頃もあったかもしれない。

「ほら、今晩は少し冷えるわ。あったかくしておきなさい」
「心配しなくても、一人用棺桶に二人詰まってるおかげでやたらあったかいよ」
「それもそうね」

 棺桶は確かに少し狭いが、嫌だとは感じなかった。それどころか、不思議な安心感がある。
 ……絶対にお姉様には言わないけれど。

「それにしても、どこからあんな家具を持ってきたの?なんか本棚とクローゼットだけやたらベコベコだったし……」
「うふふ、それはね――」


 しばし他愛もない雑談をする。
 普段あまりお姉様とは話さないから、こうしてゆっくりおしゃべりするのは珍しい。
 それでも、不思議と話題に困ることは無かった。
 今日あったことの話、私の読んだ本の話、お姉様の話、……館の外の話。
 いつの間にか話は広がって、色んな話を私からしたり、お姉様から聞いたりした。
 話すのも聞くのも面白くて、いつまでも話をしていたかったけれど……続けるうちにどんどん瞼が重くなってくるのが分かった。

「さぁ、お話はこれくらいにして、もう寝ましょう。ただでさえ昼夜逆転しているんだからね」

 その様子を見てか、お姉様はそう言って隣で柔らかく笑った。
 やっぱり、お姉様はずるいと思う。
 普段あんなに子供っぽく振る舞っているのに、やっぱりお姉様はお姉様なのだと、ふとした瞬間に思わせられたりする。不本意ながらね。その度やっぱり悔しいから、おやつ抜きが終わったらまた何かイタズラをしてやろうと思った。

「おやすみなさい、フランドール」
「おやすみなさい、レミリアお姉様」

 さっきまであれだけ緊張していたのに、いざ一緒に寝てしまえば、妙な安心感と温かさですぐに眠くなってしまった。なんだかしてやられているような気がして面白くないが……今はただ、この心地良さを受け入れて、身を任せようかな。
 名残惜しく思いながらも、私はすぐに眠りに落ちてしまった。



 ◆ ◇ ◆



「全く、手のかかる妹ね」

 寝静まった妹の隣で小さく呟き、ふふと笑った。
 今回のイタズラは随分派手だったな、と思う。まさか帰ったら自室が改造されているとは……。流石にあの部屋に住むのは無謀なので、早急に元の部屋に戻す必要がある。
 ……いや、あのユラユラする椅子だけはあっても良いか……。まぁ、大した問題ではない。

 この子がこういったイタズラをする時は、決まって寂しさを持て余し、構って欲しい時だ。
 もしかしたら本人は気付いていないのかもしれないが、この子は誰よりも寂しがりやで、不器用なのだ。だから加減を知らないイタズラでこちらの気を引こうとする。
 ……本当に加減を知らない。

 でも、それでいい。
 私だって、実の妹を館に閉じ込めておくことに負い目を感じている。
 この子のイタズラに付き合う形ででも一緒に遊べるのなら、こんなに嬉しい事は無い。
 結局不器用なのはお互い様なのかもしれないな。

「むにゃ」

 隣で愛らしい寝顔を見せるフランドールのほっぺたを指でつっついた。なかなか癖になりそうな弾力だ……。
 普段もこれくらい簡単に距離を詰められたら良いのにと思うけど、何しろ互いに不器用なのだから、片方が眠ってでもいないと素直になれない。

 ……まだ色々と加減を知らないから、簡単にこの子を館の外に出してやる事は出来ないが……今度玄武の沢で開催される花火大会に、この子を誘ってみようかな。

「むにゃにゃ……えへ」

 悩みの種のほっぺたを突っついていると、フランドールは少しくすぐったそうにふにゃと笑った。

 それがやっぱり可愛くて、この子はずるいな、と思った。
「簡単!対吸血鬼用粘着生物の作り方! ~すごいヌットヌト~」

 著. パチュリー・ノーレッジ
nim
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コメント



0.740簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
イイハナシダナー!
5.90てんな削除
フランとパチュリーのぶっ飛んだ掛け合いが見ていて楽しかったです。
ユラユラする椅子をフランの推察通りレミリアが気に入っていたり、フランのいたずらをする動機が明かされているなど、文章の勢いに反して丁寧に物語が作れていたように思えます。
この姉妹独特の距離感を感じられる良い作品でした。
6.100T削除
前半と後半別人が書いてませんか!?
……冗談は置いといて。テンポの良い展開でスラスラ読めて、ところどころに原作っぽいセリフ回しが紛れているのがさすがnimさんという感じ。忘れた頃にやってきたあとがきのオチも含めて、最後まで楽しめました。
7.100サク_ウマ削除
天才か。
キレッキレで素晴らしいと思います。最後でちゃっかり優しい話になっているのもなんだか微笑ましいというか。
お見事でした。とても良かったです。
8.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
9.90名前が無い程度の能力削除
よいコメディでした。饅頭こわくない饅頭こわくない
11.100もふもリスト削除
凄く面白かった。文体が好みな事も含めて、読んでいて最高に楽しかったです。
12.100モブ削除
おもしれえなあ!いや、本当に。最後がすごくきれいに終わっているから勘違いしてしまいそうですが、やっぱりお仕置き案件だと思います。まる
13.100ヘンプ削除
面白かったです。
テンション好きだなあ
14.100封筒おとした削除
かわいいし面白いし神
最高
何が飛び出すか分からないビックリ箱みたいな展開で一気に読めました
15.100小野秋隆削除
火薬の魔法陣さん
16.100南条削除
とても面白かったです
いい話……、なの……か……?
うん、いい話だ
きっといい話だ
「ウオオオオ!!!!!」って叫ぶパチュリーに笑いました
17.100名前が無い程度の能力削除
面白かった、次から次へと切り替わる展開に今度はなにをやらかすのか気になって、最後まで読まされてしまいました。
もうこのフランの人生はもう生きてるだけで幸せそうだなあ。
18.100名前が無い程度の能力削除
おぜうさまメッチャ落ち着いてますね…

>「ウオオオオ!!!!!」
>尚も全てを無に還さんとするブラックホールに抵抗しつつ、パチュリーが普段絶対に口にしないであろう雄叫びを上げながらブラックホール精製魔法を中断した。

パチェの鳴き方とこの文章でクソ笑ったので、適当採点ですが100点置いときます
20.100水中で猫をポメラニアンにする魔法削除
nimさんらしさ全開でちょー楽しかったす! ぶっとび具合最高。そういうのもっとちょうだい最後ほっこりであたたかまりました
23.100大豆まめ削除
このぱっちぇさんは無駄知識が豊富って言われるぱっちぇさんだ……

フランちゃんの論理が一足飛びに飛びまくってるのは、ギャグ作品だからというのもあるだろうけど、よくよく考えたらギャグ補正がなくてもそういうところがあるキャラなので、最高にフランちゃんでした。
26.100名前が無い程度の能力削除
ほんとうに面白い
つっこみ不在だとこんなことになってしまうのか……
最後にレミフラを用意しているのも巧妙な手口ですね
27.100名前が無い程度の能力削除
100点!
28.100終身削除
ぶっとんでて面白いのに可愛いらしいのがずるくて最初から最後までにやにやが止まらなくて最高でした 部屋が手を加えるごとにどんどん手がつけられなくなっていって、最後にその部屋を見て思い出したみたいに正気に戻るところで呼吸困難になりました 最後にレミリアがつっこまずになんだかんだで丸く?収まる感じがとても好きです
29.100めそふらん削除
カオス過ぎて笑いました
パチュリーの雄叫びだったり筋肉家具とか特にねぇ…
最後のレミフラでのフランちゃんの慌てようがめちゃくちゃ可愛いかったんで最高でした
30.100牛丼ねこ削除
愉快でとち狂っている地の文と、紅魔郷がほのかに香る会話文との組み合わせが素晴らしい良質なSSでした! 魔法は夢がなくっちゃ。

追伸
『私は懐から青い大弾をひとつ取り出し、そっとテーブルの上に添えた。大弾は弾幕の美しさを競うスペルカード戦において、その華やかさをワンランクアップさせてくれる必殺の弾だ。特に紅魔館の庭で採れる大弾は色が良く、当たり判定も大きい。いつかの異変で館に殴り込んできた人間も「当たり判定が分かりにくい」と絶賛した、私も愛用する強さと美しさの象徴である。』
みたいなノンストップギャグをぶちかました後にレミフラ姉妹百合展開を発生させるのだいぶずるいですね???(絶賛)