「姉さんのこと? 嫌いよ嫌い!」
人里の片隅、閑散とした団子屋でみたらし団子を一口頬張りながら、依神女苑は鼻を鳴らしながらそう毒づいた。
隣にはよもぎ団子を手に持って半目を向けている聖白蓮の姿がある。よく晴れた昼下がり、二人がこの団子屋で一服としゃれこんでいるのは、色々な事情が重なってのことである。
女苑は以前の異変のあと、しばらくの間命蓮寺で真面目に修行に努めていたが、そのうちに嫌気が差して寺を脱走し、また金品を巻き上げて生活する日々に戻っていた。
金品を巻き上げる相手を選ぶようにはなったものの、悪事は悪事である。それを看過できなかったのは少しの間とはいえ女苑を弟子にとっていた聖だ。
聖は度々人里で悪さをしている女苑を見つけ出しては寺に無理やり連れ戻した。
しかし女苑も懲りずに少し経っては寺から逃げ出していつもの暮らしに戻ろうとする。
二人のやり取りはそのうちに命蓮寺の恒例行事となっていき、いつの間にやらこうして連れ戻すまでの間に茶など嗜むくらいの気安い関係となっていたという訳である。
さて冒頭の会話であるが、会話のなかで姉妹について話題が移り、姉妹仲について問われたときの女苑の返答である。
女苑はそれだけではいい足りないようで食べ終わったみたらし団子の串を弄くり回しながらなおも毒づく。
「しみったれて貧乏臭いし、ものぐさだし、陰気だし、自分じゃ何もしないし出来ないし」
「私が面倒見ないととっくにのたれ死んでるわよ。……神だから死なないけど」
「ほんとにダメダメな人なんだから! あの天人が引き取ってくれてせいせいしたくらいだわ」
そう一息に言い切って少し息を切らせた女苑は、生ぬるいお茶を一気飲みして腕を組んだ。
聖は対照的にちびちびとお茶を飲みながらそれとなく尋ねる。
「それでも姉妹なんだし、離れていて心配じゃないのかしら?」
「はぁ!? そんなわけないでしょ。あんだけ図太い人なんだから、どうってことないわよ。しかも一緒にいるのは強さだけは本物の天人でしょ、私が気にすることなんかないない」
そうやけに大きな声でいい放った女苑は、懐から二人分の料金を払うとすっと立ち上がって歩き始めた。
店主にお礼を言ってから聖がそのあとを追うように歩く。女苑は小さな声で呟いた。
「向こうだって私のことなんて気にもしてないわよ」
「……そういうものかしらねぇ」
聖はよもぎ団子をもう一口頬張りながら、空を見上げた。
★
「女苑のこと? 嫌いですよ、嫌い!」
聖が見上げた空の向こう、雲の上では、依神紫苑と比那名居天子が二人で要石に乗って空を漂っていた。
語気荒くそう言い切った紫苑に、天子は意外そうに紫苑の方を振り返る。
二人は以前の異変のあとにウマがあったのかコンビを結成し、幻想郷を大いに荒らし回り、今や幻想郷一の嫌われものといっても過言ではないほどの悪名を得ていた。
天子の破天荒な素行に、紫苑の天然で垂れ流す貧乏神の力。つい先程も天界の倉の一つが「不慮の事故」によって崩壊し、二人はすたこらさっさとその現場から逃げ出してきたのであった。
さて、会話のなかで奇しくも同じく姉妹仲についての話題になり、冒頭の会話へと戻るわけだが、天子が紫苑の返答に驚いたのは、少なくとも天子の目から見れば二人はそこまで姉妹仲が悪いようには見えなかったからだった。
ふよふよと漂う要石の上で後ろに座っている紫苑の顔をちらりと見ると、頬を膨らませて拗ねたような顔をしている紫苑の顔が見えた。
紫苑はなおも言葉を続けた。
「いつも愚痴ばっかりで、穀潰しだ役立たずだなんだって悪口ばっかり言ってくるし、全然可愛くない妹!」
「金遣いも荒いし、すぐ無くすからってあんまりお小遣いくれないし、私の扱いが雑だし……」
「ほんと、なんであんな子に育っちゃったんだろう!」
お前が姉なのも一因じゃないか、と天子は思ったが火に油を注ぐつもりはないのでそっと肩をすくめるに留めた。
紫苑は膝を抱えるように座り直して、はあ、と大きなため息をついた。
「女苑のことなんて知らないですけど、なんかちょっと寺に修行に行ってると思ったらまた脱走していつもの生活に戻ったみたいなことを小耳に挟んだし、きっと特に変わりなんてないんでしょう」
「女苑は私と違って外面だけはいいですからね、中身も能力もそんなに大差ないのに。だから気にすることなんてないです」
「向こうだって私のこと気になんてしてないだろうし……」
「……そおか」
徐々にトーンダウンする紫苑の言葉を聞きながら、なんかやぶ蛇つついたな、と頬をかく天子は、ふっと異変に気がついた。
「……あれ、なんか高度下がってないか?」
「……え、あれ……ほんとだ」
★
聖と女苑が寺に戻る道中、突然前方に何かが着弾して大きな土煙が上がった。その余波でそのへんの雑木林で驚かせる相手を探していた唐傘妖怪が逆にびっくりして気絶したという。
二人もその例に漏れず、女苑は思わずファイトスタイルを取り、聖は手に持っていたよもぎ団子を落とした。
あーあもったいない、と砂利のついたよもぎ団子を切なそうに見てから、聖は前方に目を向けた。
「何かしら、空から突然降ってきたようだったけれど。ぬえの乗っている円盤かしらね?」
「いや、チラッと見えた感じそんな形はしてなかった気がするけど……」
二人が警戒しながら見守っていると、徐々に晴れてくる砂煙の中から、明朗快活な笑い声が聞こえてきた。
「はーっはっはっは! お前といると退屈しないね、本当! まさか要石が墜落とは!」
「ひー、すいませんすいません天人さま!」
「構わん構わん、落ちてるとき結構楽しかったし」
そういって姿を表した二つの影を見て、女苑は思わずうげっと声を漏らしたあとに、すました顔を取り繕って同じように自分達に気がついた二人組に声をかけた。
「あらどーもぉ、天人様。うちの不肖すぎる姉がお世話になっています」
「おー、ちんちくりんに生臭坊主じゃないの。元気そうね」
「ちんちくっ……あんただってたいして変わらないでしょ!」
「こら女苑! 天人様への暴言は許さないわよ!」
紫苑は天子の後ろから女苑にヤジを飛ばしたが、女苑のひとにらみをうけてまた天子の後ろへとそそくさと退散した。
なおも女苑は嫌味たらしく口元に手を添えながら言葉を続ける。
「姉の能力はあなたにとっても手に余るんじゃないですか? 素直にいい加減嫌になったと言えばいいのに」
「いやはや、私みたいな徳も実力も高い天人にとってはむしろ日常のいいスパイスなんでね、さっきのことも含めてずいぶんと楽しませてもらってるよ。私はお前と違って器が大きいんでね」
「ぐっ……傲岸不遜の極みみたいなやつ……!」
「そ、そっちの坊主も私の代わりの女苑の世話係はそろそろ面倒くさくなってきたんじゃないのー?」
「これはこれでそれなりに楽しいわよ? 寺の子たちは反抗してくること自体ほとんどないから新鮮でねぇ」
「そもそもなにが女苑の世話よ! 普段私が姉さんの世話をしてやってるんでしょうが!」
「ま、また女苑が怒ったー!」
再び天子の背に引っ込んだ紫苑を見て、天子が呆れたように呟く。
「……私の思い違いだったか? 紫苑がさっき愚痴ってた通りに仲悪いなお前ら」
「愚痴ってたぁ……? ちょっとお聞かせ願えますか?」
「なんか口悪いとか、金遣い洗いとか、自分の扱いが雑とか、全然可愛くないとか……」
「なんですってこの穀潰し姉!」
「ひい暴力反対!」
天子の言葉を聞いて発奮した女苑はとたんに紫苑を追い回し始めた。一方的に殴られてばかりの紫苑を見て聖が唇に手を当てて呟く。
「ああでも女苑も愚痴ってたわよ。姉さんはしみったれてて貧乏臭くて穀潰しでダメダメがどうとか」
「あんたも大概言ってるじゃないのこのヤクザ妹!」
聖の言葉を聞いて紫苑も負けじと弾幕を女苑に対して放ち始めた。
先程できたクレーターに加えてどんどんボロボロになっていく周囲の地面を眺めながら、寺に連れ戻したあとの初めの仕事はこの辺りの地面を綺麗にすることだな、と脳内にメモした聖であった。
天子は楽しそうに声を張り上げながら他人事のように二人のキャットファイトを観戦している。
しばらくして、普段からボロボロの見た目をさらにボロボロにした紫苑が空からへろへろと墜落してきた。
「ふん、力を解放もしてない姉さんに私が負けるわけないわ」
「うう~、所詮私はまともな方法で勝てはしない貧乏神……」
「結構面白い勝負だったな、次は私とやるか?」
「望むところよ不良天人!」
「望まないでください。そろそろ寺の方の用事が始まってしまうわ」
喜び勇んで飛び出そうとする女苑の首根っこを聖が掴むと、女苑がぐえっとカエルの潰れたような声を漏らした。
なんだやらないのか、とつまらなそうに鼻を鳴らしてから、天子も地面にめり込んでいる要石の方に足を向けた。
せめてもの口撃とばかりに女苑と紫苑がそれぞれ罵声を浴びせあう。
おたんこなすだのくるくるぱーだの、曲がりなりにも神とは思えないような低俗な罵声の数々に、さすがに辟易した聖と天子は、お互いに足は離れていきながら罵りあう二人を諌めようと後ろを向いた。
ふっ、と、聖は気づく。ぴたっと声の止まった紫苑の瞳が、一瞬だけ違う色を帯びて女苑を見つめてから、鋭く自分を射抜いたことを。
ほう、と、天子は腑に落ちる。相も変わらず罵声を浴びせる女苑の剣呑な声と裏腹に、表情から零れ出る隠しきれない感情に。
二人はその感情の機微を理解して、姉妹をそれぞれ引っ張っていきながら、大きく深くため息をついた。
あいつが嫌いと言うけれど。
(この子たち)
(こいつら)
((めんどくさ……))
烏がアホウと鳴いた、昼下がりのことだった。
人里の片隅、閑散とした団子屋でみたらし団子を一口頬張りながら、依神女苑は鼻を鳴らしながらそう毒づいた。
隣にはよもぎ団子を手に持って半目を向けている聖白蓮の姿がある。よく晴れた昼下がり、二人がこの団子屋で一服としゃれこんでいるのは、色々な事情が重なってのことである。
女苑は以前の異変のあと、しばらくの間命蓮寺で真面目に修行に努めていたが、そのうちに嫌気が差して寺を脱走し、また金品を巻き上げて生活する日々に戻っていた。
金品を巻き上げる相手を選ぶようにはなったものの、悪事は悪事である。それを看過できなかったのは少しの間とはいえ女苑を弟子にとっていた聖だ。
聖は度々人里で悪さをしている女苑を見つけ出しては寺に無理やり連れ戻した。
しかし女苑も懲りずに少し経っては寺から逃げ出していつもの暮らしに戻ろうとする。
二人のやり取りはそのうちに命蓮寺の恒例行事となっていき、いつの間にやらこうして連れ戻すまでの間に茶など嗜むくらいの気安い関係となっていたという訳である。
さて冒頭の会話であるが、会話のなかで姉妹について話題が移り、姉妹仲について問われたときの女苑の返答である。
女苑はそれだけではいい足りないようで食べ終わったみたらし団子の串を弄くり回しながらなおも毒づく。
「しみったれて貧乏臭いし、ものぐさだし、陰気だし、自分じゃ何もしないし出来ないし」
「私が面倒見ないととっくにのたれ死んでるわよ。……神だから死なないけど」
「ほんとにダメダメな人なんだから! あの天人が引き取ってくれてせいせいしたくらいだわ」
そう一息に言い切って少し息を切らせた女苑は、生ぬるいお茶を一気飲みして腕を組んだ。
聖は対照的にちびちびとお茶を飲みながらそれとなく尋ねる。
「それでも姉妹なんだし、離れていて心配じゃないのかしら?」
「はぁ!? そんなわけないでしょ。あんだけ図太い人なんだから、どうってことないわよ。しかも一緒にいるのは強さだけは本物の天人でしょ、私が気にすることなんかないない」
そうやけに大きな声でいい放った女苑は、懐から二人分の料金を払うとすっと立ち上がって歩き始めた。
店主にお礼を言ってから聖がそのあとを追うように歩く。女苑は小さな声で呟いた。
「向こうだって私のことなんて気にもしてないわよ」
「……そういうものかしらねぇ」
聖はよもぎ団子をもう一口頬張りながら、空を見上げた。
★
「女苑のこと? 嫌いですよ、嫌い!」
聖が見上げた空の向こう、雲の上では、依神紫苑と比那名居天子が二人で要石に乗って空を漂っていた。
語気荒くそう言い切った紫苑に、天子は意外そうに紫苑の方を振り返る。
二人は以前の異変のあとにウマがあったのかコンビを結成し、幻想郷を大いに荒らし回り、今や幻想郷一の嫌われものといっても過言ではないほどの悪名を得ていた。
天子の破天荒な素行に、紫苑の天然で垂れ流す貧乏神の力。つい先程も天界の倉の一つが「不慮の事故」によって崩壊し、二人はすたこらさっさとその現場から逃げ出してきたのであった。
さて、会話のなかで奇しくも同じく姉妹仲についての話題になり、冒頭の会話へと戻るわけだが、天子が紫苑の返答に驚いたのは、少なくとも天子の目から見れば二人はそこまで姉妹仲が悪いようには見えなかったからだった。
ふよふよと漂う要石の上で後ろに座っている紫苑の顔をちらりと見ると、頬を膨らませて拗ねたような顔をしている紫苑の顔が見えた。
紫苑はなおも言葉を続けた。
「いつも愚痴ばっかりで、穀潰しだ役立たずだなんだって悪口ばっかり言ってくるし、全然可愛くない妹!」
「金遣いも荒いし、すぐ無くすからってあんまりお小遣いくれないし、私の扱いが雑だし……」
「ほんと、なんであんな子に育っちゃったんだろう!」
お前が姉なのも一因じゃないか、と天子は思ったが火に油を注ぐつもりはないのでそっと肩をすくめるに留めた。
紫苑は膝を抱えるように座り直して、はあ、と大きなため息をついた。
「女苑のことなんて知らないですけど、なんかちょっと寺に修行に行ってると思ったらまた脱走していつもの生活に戻ったみたいなことを小耳に挟んだし、きっと特に変わりなんてないんでしょう」
「女苑は私と違って外面だけはいいですからね、中身も能力もそんなに大差ないのに。だから気にすることなんてないです」
「向こうだって私のこと気になんてしてないだろうし……」
「……そおか」
徐々にトーンダウンする紫苑の言葉を聞きながら、なんかやぶ蛇つついたな、と頬をかく天子は、ふっと異変に気がついた。
「……あれ、なんか高度下がってないか?」
「……え、あれ……ほんとだ」
★
聖と女苑が寺に戻る道中、突然前方に何かが着弾して大きな土煙が上がった。その余波でそのへんの雑木林で驚かせる相手を探していた唐傘妖怪が逆にびっくりして気絶したという。
二人もその例に漏れず、女苑は思わずファイトスタイルを取り、聖は手に持っていたよもぎ団子を落とした。
あーあもったいない、と砂利のついたよもぎ団子を切なそうに見てから、聖は前方に目を向けた。
「何かしら、空から突然降ってきたようだったけれど。ぬえの乗っている円盤かしらね?」
「いや、チラッと見えた感じそんな形はしてなかった気がするけど……」
二人が警戒しながら見守っていると、徐々に晴れてくる砂煙の中から、明朗快活な笑い声が聞こえてきた。
「はーっはっはっは! お前といると退屈しないね、本当! まさか要石が墜落とは!」
「ひー、すいませんすいません天人さま!」
「構わん構わん、落ちてるとき結構楽しかったし」
そういって姿を表した二つの影を見て、女苑は思わずうげっと声を漏らしたあとに、すました顔を取り繕って同じように自分達に気がついた二人組に声をかけた。
「あらどーもぉ、天人様。うちの不肖すぎる姉がお世話になっています」
「おー、ちんちくりんに生臭坊主じゃないの。元気そうね」
「ちんちくっ……あんただってたいして変わらないでしょ!」
「こら女苑! 天人様への暴言は許さないわよ!」
紫苑は天子の後ろから女苑にヤジを飛ばしたが、女苑のひとにらみをうけてまた天子の後ろへとそそくさと退散した。
なおも女苑は嫌味たらしく口元に手を添えながら言葉を続ける。
「姉の能力はあなたにとっても手に余るんじゃないですか? 素直にいい加減嫌になったと言えばいいのに」
「いやはや、私みたいな徳も実力も高い天人にとってはむしろ日常のいいスパイスなんでね、さっきのことも含めてずいぶんと楽しませてもらってるよ。私はお前と違って器が大きいんでね」
「ぐっ……傲岸不遜の極みみたいなやつ……!」
「そ、そっちの坊主も私の代わりの女苑の世話係はそろそろ面倒くさくなってきたんじゃないのー?」
「これはこれでそれなりに楽しいわよ? 寺の子たちは反抗してくること自体ほとんどないから新鮮でねぇ」
「そもそもなにが女苑の世話よ! 普段私が姉さんの世話をしてやってるんでしょうが!」
「ま、また女苑が怒ったー!」
再び天子の背に引っ込んだ紫苑を見て、天子が呆れたように呟く。
「……私の思い違いだったか? 紫苑がさっき愚痴ってた通りに仲悪いなお前ら」
「愚痴ってたぁ……? ちょっとお聞かせ願えますか?」
「なんか口悪いとか、金遣い洗いとか、自分の扱いが雑とか、全然可愛くないとか……」
「なんですってこの穀潰し姉!」
「ひい暴力反対!」
天子の言葉を聞いて発奮した女苑はとたんに紫苑を追い回し始めた。一方的に殴られてばかりの紫苑を見て聖が唇に手を当てて呟く。
「ああでも女苑も愚痴ってたわよ。姉さんはしみったれてて貧乏臭くて穀潰しでダメダメがどうとか」
「あんたも大概言ってるじゃないのこのヤクザ妹!」
聖の言葉を聞いて紫苑も負けじと弾幕を女苑に対して放ち始めた。
先程できたクレーターに加えてどんどんボロボロになっていく周囲の地面を眺めながら、寺に連れ戻したあとの初めの仕事はこの辺りの地面を綺麗にすることだな、と脳内にメモした聖であった。
天子は楽しそうに声を張り上げながら他人事のように二人のキャットファイトを観戦している。
しばらくして、普段からボロボロの見た目をさらにボロボロにした紫苑が空からへろへろと墜落してきた。
「ふん、力を解放もしてない姉さんに私が負けるわけないわ」
「うう~、所詮私はまともな方法で勝てはしない貧乏神……」
「結構面白い勝負だったな、次は私とやるか?」
「望むところよ不良天人!」
「望まないでください。そろそろ寺の方の用事が始まってしまうわ」
喜び勇んで飛び出そうとする女苑の首根っこを聖が掴むと、女苑がぐえっとカエルの潰れたような声を漏らした。
なんだやらないのか、とつまらなそうに鼻を鳴らしてから、天子も地面にめり込んでいる要石の方に足を向けた。
せめてもの口撃とばかりに女苑と紫苑がそれぞれ罵声を浴びせあう。
おたんこなすだのくるくるぱーだの、曲がりなりにも神とは思えないような低俗な罵声の数々に、さすがに辟易した聖と天子は、お互いに足は離れていきながら罵りあう二人を諌めようと後ろを向いた。
ふっ、と、聖は気づく。ぴたっと声の止まった紫苑の瞳が、一瞬だけ違う色を帯びて女苑を見つめてから、鋭く自分を射抜いたことを。
ほう、と、天子は腑に落ちる。相も変わらず罵声を浴びせる女苑の剣呑な声と裏腹に、表情から零れ出る隠しきれない感情に。
二人はその感情の機微を理解して、姉妹をそれぞれ引っ張っていきながら、大きく深くため息をついた。
あいつが嫌いと言うけれど。
(この子たち)
(こいつら)
((めんどくさ……))
烏がアホウと鳴いた、昼下がりのことだった。
雰囲気がよかったです。あとがきでのまとめ方もお上手でした。
この姉妹の回りはいろいろな関係が入り乱れていて複雑で面白いですね。
素敵だと思います。可愛い。
天子が大物っぽいのもよいですね
犬も食わないなんとやら
めんどくさかわいくてよかったです
二人のやりとりが楽しい