「宇佐見先生!!」
休憩時間にキャンパスをふらふらしていると、背後から声がした。
振り返るとそこには橙色の髪でショートツインテールがよく似合う少し小さめの女性が居た。
「あら、鈴華さんじゃない」
彼女の名前は鈴華。私の大学時代からの知人で、そして卒業後大学に残った数少ない仲間でもある。
「同窓会のお知らせ、見ました?」
「あぁあれね。興味ないから開けてすらいないわ」
「辛辣ですね⁉」
数日程前、「2020年卒業生同窓会のお知らせ」と書かれた封筒が届いていたのを思い出した。
別に、大学時代に何か嫌な思い出があるとか友達が居なかったとかそういう訳ではない。強いて言えば助手の仕事が忙しいのだ。
「おっここにいたか宇佐見。それに社会学部の鈴華じゃないか。どうしたんだ?」
私達が廊下で話しているとそこに赤い髪がトレードマーク私の教授、岡崎夢美がやってきた。
「あっ丁度良かった岡崎教授、宇佐見さんを同窓会に連れて行きたいんですけど」
「ん?あぁ、いいぞ」
案外あっさり決まってしまった。
「い、いやしかし岡崎教授。今研究が佳境なのでは……」
「いいじゃないか、過去の繋がりも大事にしたまえ。ほら、アイツも来るかもしれないぞ?」
アイツ、と言われて通じるのは今ここにいる3人ぐらいなものだ。
§
「お、宇佐見じゃないか。岡崎ラボはどうだ?」
「ん、相変わらずよ」
同窓会ではそれなりに旧友達に話しかけられた。大学1、2年目の頃は倶楽部活動で必死だったので他の学生との交流が無かったのだが、ある時を境目に私は倶楽部活動を辞めごく普通の大学生として勉学に打ち込んだ。
自分で言うのもあれなのだが、勉強すればそれなりに出来た方だったので研究室に残るのも容易だった。
「そう言えばマエリベリーさんとは連絡取ってるの?」
マエリベリー・ハーン、私と共に二人で倶楽部活動をしていた唯一無二の親友。だが今はお互いにそれぞれの道へ進み、忙しさもありもう7、8年は連絡を取っていない。
「いやいや、メリーもメリーで忙しいだろうしさ。もう連絡取ってないよ」
彼女は卒業後、精神科専門医となった。元々頭の良かった彼女らしいといえば彼女らしい。
「人間の思考は、オカルトの次に面白いわ」と言っていたこともあったので、元々その分野に興味があったのだろう。
「あら、私抜きで面白そうな話してるわね」
私達が話をしているところに、金髪ロングで相変わらずセンスのない私服を着た女性が来た。
「久しぶりね。8年ぶりかしら?蓮子」
「……久しぶり、メリー」
§
私達は元々秘封倶楽部という倶楽部活動をしていた。内容は大っぴらに出来ないのだが、夜の墓所へ行ったり、寂れた神社へ行ったりと所謂不良サークルだった。大学内でも悪い意味で有名で、あの頃の私達はよく講義をサボっていたっけ。
「そんな私達が助教授と専門医か。人生はわからないわね」
「そうね。偶にあの頃が懐かしくなるわ」
今思えばあの頃はとても危うい事をしていた、と恥ずかしくなるレベルだ。だがそれはそれで一種の青春だと思っている。
「ねぇ蓮子。私達が能力を失った日の事、覚えてる?」
「当たり前よ」
私達は元々変わった能力、詳しく言うなら変わった目を持っていた。
私は「星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる目」を。メリーは「境界が視える目」を持っていて。活動には適していたのだ。
だがある時私達は唐突に能力を失った。何も心当たりがなく、どうしたらいいのかもわからなかった。
私はとても悲しんだのだが、メリーは「これからは普通の学生として生きましょう」と案外さっぱりしていた。
「貴女は案外簡単にあの状況を受け入れたわよね」
「自分たちではどうしようもないことを悩んでも、それは時間の無駄だからね」
能力を失ってからも私達は倶楽部活動を続けたのだが、それは数日と続かなかった。今まで見えていたものが見えなくなる、というのは実に不便だった。
その後メリーは心理学の道へ進み、私は岡崎教授の熱意に惹かれて研究室に残った。
「思えばあっという間の8年だったわね」
「人は変わるからね」
思い出話をしているうちに同窓会の終わる時間が近づいていた。
「じゃあ、私もう行くから」
「まだ時間あるのに?」
「フフフ、専門医は忙しいの。これでも無理言って来たのよ?」
メリーは少し意地悪そうな顔で微笑む。
「勿論、貴女に会うためにね」
そう言った後にメリーは私の頬にキスをし、足早に私から離れていった。
「……大胆さは相変わらずね」
休憩時間にキャンパスをふらふらしていると、背後から声がした。
振り返るとそこには橙色の髪でショートツインテールがよく似合う少し小さめの女性が居た。
「あら、鈴華さんじゃない」
彼女の名前は鈴華。私の大学時代からの知人で、そして卒業後大学に残った数少ない仲間でもある。
「同窓会のお知らせ、見ました?」
「あぁあれね。興味ないから開けてすらいないわ」
「辛辣ですね⁉」
数日程前、「2020年卒業生同窓会のお知らせ」と書かれた封筒が届いていたのを思い出した。
別に、大学時代に何か嫌な思い出があるとか友達が居なかったとかそういう訳ではない。強いて言えば助手の仕事が忙しいのだ。
「おっここにいたか宇佐見。それに社会学部の鈴華じゃないか。どうしたんだ?」
私達が廊下で話しているとそこに赤い髪がトレードマーク私の教授、岡崎夢美がやってきた。
「あっ丁度良かった岡崎教授、宇佐見さんを同窓会に連れて行きたいんですけど」
「ん?あぁ、いいぞ」
案外あっさり決まってしまった。
「い、いやしかし岡崎教授。今研究が佳境なのでは……」
「いいじゃないか、過去の繋がりも大事にしたまえ。ほら、アイツも来るかもしれないぞ?」
アイツ、と言われて通じるのは今ここにいる3人ぐらいなものだ。
§
「お、宇佐見じゃないか。岡崎ラボはどうだ?」
「ん、相変わらずよ」
同窓会ではそれなりに旧友達に話しかけられた。大学1、2年目の頃は倶楽部活動で必死だったので他の学生との交流が無かったのだが、ある時を境目に私は倶楽部活動を辞めごく普通の大学生として勉学に打ち込んだ。
自分で言うのもあれなのだが、勉強すればそれなりに出来た方だったので研究室に残るのも容易だった。
「そう言えばマエリベリーさんとは連絡取ってるの?」
マエリベリー・ハーン、私と共に二人で倶楽部活動をしていた唯一無二の親友。だが今はお互いにそれぞれの道へ進み、忙しさもありもう7、8年は連絡を取っていない。
「いやいや、メリーもメリーで忙しいだろうしさ。もう連絡取ってないよ」
彼女は卒業後、精神科専門医となった。元々頭の良かった彼女らしいといえば彼女らしい。
「人間の思考は、オカルトの次に面白いわ」と言っていたこともあったので、元々その分野に興味があったのだろう。
「あら、私抜きで面白そうな話してるわね」
私達が話をしているところに、金髪ロングで相変わらずセンスのない私服を着た女性が来た。
「久しぶりね。8年ぶりかしら?蓮子」
「……久しぶり、メリー」
§
私達は元々秘封倶楽部という倶楽部活動をしていた。内容は大っぴらに出来ないのだが、夜の墓所へ行ったり、寂れた神社へ行ったりと所謂不良サークルだった。大学内でも悪い意味で有名で、あの頃の私達はよく講義をサボっていたっけ。
「そんな私達が助教授と専門医か。人生はわからないわね」
「そうね。偶にあの頃が懐かしくなるわ」
今思えばあの頃はとても危うい事をしていた、と恥ずかしくなるレベルだ。だがそれはそれで一種の青春だと思っている。
「ねぇ蓮子。私達が能力を失った日の事、覚えてる?」
「当たり前よ」
私達は元々変わった能力、詳しく言うなら変わった目を持っていた。
私は「星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる目」を。メリーは「境界が視える目」を持っていて。活動には適していたのだ。
だがある時私達は唐突に能力を失った。何も心当たりがなく、どうしたらいいのかもわからなかった。
私はとても悲しんだのだが、メリーは「これからは普通の学生として生きましょう」と案外さっぱりしていた。
「貴女は案外簡単にあの状況を受け入れたわよね」
「自分たちではどうしようもないことを悩んでも、それは時間の無駄だからね」
能力を失ってからも私達は倶楽部活動を続けたのだが、それは数日と続かなかった。今まで見えていたものが見えなくなる、というのは実に不便だった。
その後メリーは心理学の道へ進み、私は岡崎教授の熱意に惹かれて研究室に残った。
「思えばあっという間の8年だったわね」
「人は変わるからね」
思い出話をしているうちに同窓会の終わる時間が近づいていた。
「じゃあ、私もう行くから」
「まだ時間あるのに?」
「フフフ、専門医は忙しいの。これでも無理言って来たのよ?」
メリーは少し意地悪そうな顔で微笑む。
「勿論、貴女に会うためにね」
そう言った後にメリーは私の頬にキスをし、足早に私から離れていった。
「……大胆さは相変わらずね」
こういう、一抹の寂しさを残しながらもそれぞれ前向きに進んでる二人もいいなあ、と思いました。