朝食代わりにコンピニで買ったおにぎりを頬張りながら研究室へ走る私。
「宇佐見来ました~」
研究室に入ると浮かない顔をしたメリーとちゆりさんが居た。
浮かない顔をしている理由は大方予想がつく。岡崎教授が居ないのできっとその心配をしているのだろう。知らないふりをして私は彼女達に質問をした。
「あれ?岡崎教授は?」
「それがね、連絡がつかないのよ」
「そうなんだよ。家に電話しても出ないし」
岡崎教授と言えば一昔前研究の為に魔剤を大量に飲むことから「魔剤ソムリエ」と呼ばれていた事もあるほどのエナドリ通だった。そしてカップ麺にもすごく詳しい。何が言いたいかというと、超が付くほどの不健康生活をしている人なのだ。
「まさかとは思うけど、ね」
「いや。教授だからわかんないぞ」
岡崎教授と一番付き合いの長いちゆりさんが言うのだから、最悪の場合があってもおかしくはない。
「一応教授の家行ってみる?」
「そうだな。合鍵も持ってるし、行ってみるか」
§
「ここだね」
「意外だわ。もっと豪邸に住んでいるかと思ってた」
岡崎教授は学会でこそ異端児だが、その技術は凄い物なのでよく色々な企業に技術提供している。それで財を得ているはずなのでもっと豪華な家に住んでいても不思議では無いのだが、実際は小さいアパートに住んでいるのだ。メリーの意外だと思う気持ちもわかる。
「教授ー?いるのか?」
ちゆりさんがインターフォンを鳴らしながら声を出すが、反応はない。これ割とマジでヤバいのでは?
「……鍵開いてるわね」
「え?」
メリーがドアの鍵がかかっていない事に気づいた。連絡がない、ドアの鍵が開いている。これは岡崎教授本当にヤバいのでは?
____その予感は的中し、入ってすぐの所で倒れている岡崎教授が居た。
§
「疲れ、ですね」
パニックになった私とちゆりさんだったが、メリーが冷静に救急車を呼んでくれたお陰で一命は取り留めた。顔から倒れたので顔に痣が出来ているのと、まだ目を覚まさないのが不安なのだが。
「念のため入院しましょう。明日朝には目を覚ますと思いますよ」
医者はそう言い残し、病室を後にした。
私もメリーも当然不安なのだが、一番不安そうなのはちゆりさんだった。顔面蒼白で教授の手を握っている。心拍のパラメーターも異常なしなので医者の言う通り、心配は無いと思うのだが。
「蓮子、ちょっと」
「ん?」
メリーが私の事を病室から引っ張り出した。
§
「どうしたのよメリー」
「二人きりにしてあげましょう」
空気が読めるメリーらしいと言えばメリーらしいが、教授とちゆりさんの関係を知らない私は上手く情況を飲み込めなかった。私達が研究室に入る前からの付き合いである、という事しか知らない。
「大学に入った頃のちゆりさんは仲のいい人も居なかったし、考え方が少し変わっていたから孤立していたんだってね。それを助けたのが教授、って話らしいよ」
確かに岡崎教授の前では霞んでしまうが、ちゆりさんは少し変わっている。別に友達が出来ないような感じでは無いと思うのだが、昔はそうだったのだろう。
「そりゃあ、心配にもなるわよね」
「蓮子は私があんな風になったら心配?」
「……恥ずかしい事言わせないでよ、バカ」
私がそう返すとメリーも少し恥ずかしそうに笑った。
「さて、夜食でも買ってこようかな。今日はきっと付きっ切りで看病コースよ」
「そうね。ちゆりさん一人にもさせておけないし、私も付き合うわ」
そう言いながらクスッと笑うメリーはいつになく大人に見えた。
§
「……ここは?」
いつの間にか草原に立っている私。確か仕事を終えて、家に帰って……
「ははは、さては死後の世界ってやつだな?」
三途の川も無いし、思っていたより晴れやかな光景だ。これが死後の世界って言うなら案外悪くないな。そんなことを考えてしまった。
「馬鹿言ってんじゃないわよ」
後ろから軽めの力で頭を殴られてしまった。そこに居たのは懐かしの制服に黒いマントを付けたメガネの少女が居た。
「久しぶりね、夢美」
「お前……どうして」
「さぁ、どうしてだろうね?」
彼女は意地悪そうに笑う。そういえば昔からそんな奴だった。何でも知ったような顔をする癖に、何も教えてくれない。
「まぁ少し教えてあげるなら、ここは『生と死の狭間』ってやつね。貴女は過労、いやあまりの不健康さに倒れたのよ」
「まぁ、そんなところだとは思ってたよ」
「あれだけ言ったじゃない。魔剤とカップ麺は程々にねって」
嫌な奴ではあったが、お節介焼きでもあった彼女。高校時代はよく弁当を分けてもらったっけ。
「でも、これはこれでありなんじゃないか?お前と一緒に逝くのだって悪くない」
そう言うと彼女はとても寂しそうな顔をした。
「貴女はきっとそう言うと思ってた。だから私が来たのよ」
「どういう意味だ?」
「貴女は戻るべきよ。待っている人がいるのだから」
空中にはベッドに寝ている私が映る。蓮子とメリーは肩を寄せ合って寝ているが、ちゆりは私の手を掴んで震えている。
「……お前は私を置いて逝った癖によく言うよ」
「あはは、そう言われると言い返せないな」
彼女は敵わないな、と言うようなの笑顔で笑った。
「でも、貴女は戻るべきだよ。待っている人が居るのは素晴らしい事だよ」
「私も、お前の事を……」
私がそう言うと彼女は私の口を指で押さえて言った。
「ありがとう、その言葉だけで私は十分嬉しいよ」
段々目の前がぼんやりとしてきた。もうお別れなのだろうか。
「大丈夫よ、貴女ならきっと私に会える。またいつかの明日で会おうね」
§
「……」
目を覚ますとそこは病室だった。
「夢美!?」
青ざめた顔をしたちゆりがアップで見える。情けない顔をするんじゃないわよ。
「おっ、目覚ましたみたいだね教授」
「……心配したんですよ?」
蓮子とメリーの姿も見えた。蓮子はいつも通りのアホ面だが、メリーは少し心配そうな顔をしている。
あぁ、お前にはまだ届きそうにないな。
「……また、助けられちゃったな」
病室に差し込む朝日がいつもより輝いて見えた。
「宇佐見来ました~」
研究室に入ると浮かない顔をしたメリーとちゆりさんが居た。
浮かない顔をしている理由は大方予想がつく。岡崎教授が居ないのできっとその心配をしているのだろう。知らないふりをして私は彼女達に質問をした。
「あれ?岡崎教授は?」
「それがね、連絡がつかないのよ」
「そうなんだよ。家に電話しても出ないし」
岡崎教授と言えば一昔前研究の為に魔剤を大量に飲むことから「魔剤ソムリエ」と呼ばれていた事もあるほどのエナドリ通だった。そしてカップ麺にもすごく詳しい。何が言いたいかというと、超が付くほどの不健康生活をしている人なのだ。
「まさかとは思うけど、ね」
「いや。教授だからわかんないぞ」
岡崎教授と一番付き合いの長いちゆりさんが言うのだから、最悪の場合があってもおかしくはない。
「一応教授の家行ってみる?」
「そうだな。合鍵も持ってるし、行ってみるか」
§
「ここだね」
「意外だわ。もっと豪邸に住んでいるかと思ってた」
岡崎教授は学会でこそ異端児だが、その技術は凄い物なのでよく色々な企業に技術提供している。それで財を得ているはずなのでもっと豪華な家に住んでいても不思議では無いのだが、実際は小さいアパートに住んでいるのだ。メリーの意外だと思う気持ちもわかる。
「教授ー?いるのか?」
ちゆりさんがインターフォンを鳴らしながら声を出すが、反応はない。これ割とマジでヤバいのでは?
「……鍵開いてるわね」
「え?」
メリーがドアの鍵がかかっていない事に気づいた。連絡がない、ドアの鍵が開いている。これは岡崎教授本当にヤバいのでは?
____その予感は的中し、入ってすぐの所で倒れている岡崎教授が居た。
§
「疲れ、ですね」
パニックになった私とちゆりさんだったが、メリーが冷静に救急車を呼んでくれたお陰で一命は取り留めた。顔から倒れたので顔に痣が出来ているのと、まだ目を覚まさないのが不安なのだが。
「念のため入院しましょう。明日朝には目を覚ますと思いますよ」
医者はそう言い残し、病室を後にした。
私もメリーも当然不安なのだが、一番不安そうなのはちゆりさんだった。顔面蒼白で教授の手を握っている。心拍のパラメーターも異常なしなので医者の言う通り、心配は無いと思うのだが。
「蓮子、ちょっと」
「ん?」
メリーが私の事を病室から引っ張り出した。
§
「どうしたのよメリー」
「二人きりにしてあげましょう」
空気が読めるメリーらしいと言えばメリーらしいが、教授とちゆりさんの関係を知らない私は上手く情況を飲み込めなかった。私達が研究室に入る前からの付き合いである、という事しか知らない。
「大学に入った頃のちゆりさんは仲のいい人も居なかったし、考え方が少し変わっていたから孤立していたんだってね。それを助けたのが教授、って話らしいよ」
確かに岡崎教授の前では霞んでしまうが、ちゆりさんは少し変わっている。別に友達が出来ないような感じでは無いと思うのだが、昔はそうだったのだろう。
「そりゃあ、心配にもなるわよね」
「蓮子は私があんな風になったら心配?」
「……恥ずかしい事言わせないでよ、バカ」
私がそう返すとメリーも少し恥ずかしそうに笑った。
「さて、夜食でも買ってこようかな。今日はきっと付きっ切りで看病コースよ」
「そうね。ちゆりさん一人にもさせておけないし、私も付き合うわ」
そう言いながらクスッと笑うメリーはいつになく大人に見えた。
§
「……ここは?」
いつの間にか草原に立っている私。確か仕事を終えて、家に帰って……
「ははは、さては死後の世界ってやつだな?」
三途の川も無いし、思っていたより晴れやかな光景だ。これが死後の世界って言うなら案外悪くないな。そんなことを考えてしまった。
「馬鹿言ってんじゃないわよ」
後ろから軽めの力で頭を殴られてしまった。そこに居たのは懐かしの制服に黒いマントを付けたメガネの少女が居た。
「久しぶりね、夢美」
「お前……どうして」
「さぁ、どうしてだろうね?」
彼女は意地悪そうに笑う。そういえば昔からそんな奴だった。何でも知ったような顔をする癖に、何も教えてくれない。
「まぁ少し教えてあげるなら、ここは『生と死の狭間』ってやつね。貴女は過労、いやあまりの不健康さに倒れたのよ」
「まぁ、そんなところだとは思ってたよ」
「あれだけ言ったじゃない。魔剤とカップ麺は程々にねって」
嫌な奴ではあったが、お節介焼きでもあった彼女。高校時代はよく弁当を分けてもらったっけ。
「でも、これはこれでありなんじゃないか?お前と一緒に逝くのだって悪くない」
そう言うと彼女はとても寂しそうな顔をした。
「貴女はきっとそう言うと思ってた。だから私が来たのよ」
「どういう意味だ?」
「貴女は戻るべきよ。待っている人がいるのだから」
空中にはベッドに寝ている私が映る。蓮子とメリーは肩を寄せ合って寝ているが、ちゆりは私の手を掴んで震えている。
「……お前は私を置いて逝った癖によく言うよ」
「あはは、そう言われると言い返せないな」
彼女は敵わないな、と言うようなの笑顔で笑った。
「でも、貴女は戻るべきだよ。待っている人が居るのは素晴らしい事だよ」
「私も、お前の事を……」
私がそう言うと彼女は私の口を指で押さえて言った。
「ありがとう、その言葉だけで私は十分嬉しいよ」
段々目の前がぼんやりとしてきた。もうお別れなのだろうか。
「大丈夫よ、貴女ならきっと私に会える。またいつかの明日で会おうね」
§
「……」
目を覚ますとそこは病室だった。
「夢美!?」
青ざめた顔をしたちゆりがアップで見える。情けない顔をするんじゃないわよ。
「おっ、目覚ましたみたいだね教授」
「……心配したんですよ?」
蓮子とメリーの姿も見えた。蓮子はいつも通りのアホ面だが、メリーは少し心配そうな顔をしている。
あぁ、お前にはまだ届きそうにないな。
「……また、助けられちゃったな」
病室に差し込む朝日がいつもより輝いて見えた。