Coolier - 新生・東方創想話

全ては遅すぎた

2019/10/22 21:28:56
最終更新
サイズ
3.07KB
ページ数
1
閲覧数
1103
評価数
3/7
POINT
490
Rate
12.88

分類タグ

聞き覚えのある声が聞こえた気がした。
振り返ったがそこにはいつもの様に仕事や学校へ赴く人々しか居なかった。

「疲れてるのかな」

もう社会人になってから三年は経つ。それは同時に「夢を捨ててから」経った年月を意味するのだ。

「メリーは元気かな」

通勤電車に揺られながら私は古い友人に思いをはせる。マエリベリー・ハーン。私の大学時代で出来た唯一無二の親友だった女性の名前だ。暫く連絡を取っていないが、彼女は容姿もよかったし頭もよかったから、進路に困ることは無かったはずだ。親友だったのにそんな事も知らないのか、と言われそうだが大学生活最後の1年程はメリーとの交流は殆ど無かったのだ。

「宇佐見さん次こっちー」
「はいはーい」

大学三年の頃に若くして父が亡くなったのだ。元々そんなに裕福な家庭では無かったため、私は大学卒業後に就職して家の家計を手伝うという使命が出来てしまったのだ。父は私の将来を縛ることを最後まで後悔していた様なのだが、妹の進学のためにも私と母でお金を稼がなければならなくなったのだ。

「お昼ご飯どこで食べるー?」
「下のファストフード店行こうよー」

そして父が亡くなった数か月後に母も亡くなった。過労だったみたいだ。親族の死がこう立て続けに起こると私の心にも余裕が無くなり、勉強に打ち込む様になった。幸いにも私が卒業するまでの学費はどうにかなりそうだったのだが、やはり余裕はなく岡崎教授のラボに顔を出すことも無くなった。

「お先に失礼しますー」
「ん?あぁ、お疲れ様」

頭の出来は悪くないほうだったので、勉強をすればそれ相応の学力は身についたので一流企業に就くのも容易かった。妹の進学も何とか上手くいったので私も一安心である。

____でもこれでよかったのだろうか。

否。よかったのだろうかも何も私に選択肢など無かったのだ。

「久しぶりに大学に顔でも出してみようかな」

§

その日は休みだったので、私は母校に顔を出した。
母校で私はちょっとした有名人だったので、少し騒ぎになったがラボの情報が得られたので良しとしよう。

結論だけ言うと、岡崎教授は別の大学へ行ってしまったみたいだった。
あの人らしいと言えばあの人らしいのだが、せめて連絡の一つでもくれればよかったのに。

きっとあの人は最後までメリーの面倒を見ていてくれたのだろう。そして真面目な教授はメリーを捨てた私を許すはずがない。だから連絡もなかったのだろう。

「これが私の望んだ未来、なのかな」

メリーと一緒に過ごした時間は、楽しかった。現実から目を逸らせるとかそんな小さな理由じゃない。一緒にいる事自体に意義があったのだ。私はなんて取り返しのつかない事をしてしまったのだろうか。

もうメリーと連絡を取る方法は無いので、今から後悔しても遅いのだけどね。

「姉さんどうしたの?寂しそうだよ」
「……別に何でもないよ」
「そっか。いつもありがとうね」

妹と夕食を食べていたのだが、私はいつの間にか寂しそうに見えていた様だ。私は姉だから、そんな弱々しい所を妹の前で見せるわけにはいかない。

「あ、そうだ。姉さん宛てに手紙届いてたよ。部屋に置いておいたから」

そう言い残し妹は自室へ帰った。こんな私に手紙なんて誰だろう。

§

手紙の差出人はメリーだった。内容は、メリーはこれからも幻想を追い求めて旅をしていくという事と、もう日本にはいないというものだった。そして最後に、貴女と過ごした時間は私の宝物だと書かれていた。水滴の跡があるので、きっと泣きながら書いたのだろう。

「感謝したいのは、私の方だよ」

今更感謝したって、謝ったって、もうこの気持ちは届かないのだ。

「ホンット、不器用だよね」

濡れた睫毛がゆっくりと下を向いた。
【不定期】書いてて辛かったです
青生姜
[email protected]
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.200簡易評価
3.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
6.100モブ削除
このお話の面白いところ(失礼な物言いにみえたらごめんなさい)は、まだ蓮子が「あの頃」のままだというところなんですよね。蓮子が成長する、もしくはさらに堕ちていく過程を見たいなあ、などと思いました。
7.100終身削除
蓮子に姉妹がいるのは珍しい感じがしました どうして連絡を取らないようになってしまったのか不思議に思ったのですが多分メリーはこういうのをほっとけないのであまり心配をかけたりお金や進路の問題に巻き込んだりしたくない蓮子なりの優しさの形だったのかなと思いました