Coolier - 新生・東方創想話

誰も笑いはしない

2019/10/22 19:47:32
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 慧音が死んだ。よくある老衰だった。

 里で葬式を済ましたあと、わたしが竹林で慧音を燃やした。慧音の遺言だった。葬式で遺言を読まれたあとは少しどよめきがあったけれども里の人々は渋々、わたしにそれを託してくれた。
 慧音は冷たかった。背負って竹林に入るとぞろぞろとうさぎ達が着いてきていた。私は放っておいた。昔、てゐに教えてもらった永遠亭のさらに奥、竹林の最奥に行った。そこに着いたら永遠亭の人達が居た。わたしは何も言わないで慧音を横たわらせた。輝夜と永琳は何かを言ったような気がしたが聞こえなかった。鈴仙ちゃんは大泣きしていて、てゐは後ろを見ていた。

 慧音、ありがとう。

 そんなことを呟いて、わたしは火をつけた。パチパチと弾けるような音が鳴る。わたしは落ち着いた心のままそれを眺めていた。それからの記憶はない。真っ白な情景が残っている。

 慧音の骨は里に返した。骨壷に入れて里の長に渡して。わたしは何も言わずに里から去った。あれから数年、私は里には近寄っていない。里に寄る用事が無くなったからだ。相も変わらず、竹林に駆け込む病人の案内だけは続けている。

#

 何を思ったのか永遠亭を訪問した。
「あっ、お久しぶりです、妹紅さん」
「久しぶり、鈴仙ちゃん」
「姫さまは奥の部屋にいますよ」
 奥の部屋を指さした鈴仙ちゃん。
「ああ、用事は鈴仙ちゃんにあるんだ」
 きょとんとしたような顔が印象的だった。

 ***

 私の家で話す。
「それで何なんですか? 私になんかに用事って」
 こちらを伺うような顔色。そんな顔しなくていいのにな。
「慧音が死んでから数年経ったけど何も変わってないな」
わたしは笑ったような気がした。
「……それ、冗談で言っていますか。笑えませんよ?」
 キツく窘められるような声で言われる。
「あぁ。冗談じゃないんだ。慧音が死んでからわたしはなにもしてない。だから変わってないなって」
「何もしてなかったらそりゃあ、変わりませんよ。大切な人が死んだからってくよくよしててどうするんです」

「……何を言っているんだ鈴仙ちゃん。わたしはくよくよしてないぞ? そりゃ、哀しくないって言ったら嘘になるけれど。もうかなしいということがわからないんだ。慧音は自暴自棄になるな、死ぬなって言ってたけどさ。自暴自棄とか何もわかんないよ」

「なに、あっけらかんと言っているんですか? 妹紅さん、貴女泣いてないじゃないですか。大切な人が死んだのに泣かなかったのは怖いですよ」

「……月のうさぎでも死ぬのは怖いんだな。輝夜があんなんだからそんなこと思ってなかった」

「怖いに決まってるでしょう? 貴女、本当に生きるということを馬鹿にしてますね。それと姫さまと比べないでください。あの方はそういう方ですから。話はそれだけですか?」

「ああ、そうだった、泣き方を聞きに来たんだった」

「……そんなもの知りません。自分で勝手に思い出してください。私が言えることでもないですから」
 それだけ言うと鈴仙ちゃんはわたしの話を終わりとばかりに帰って行った。

 ごろんと寝転んだ。天井のシミは変わってない。わたしも変わってない。周りは変わった。
 わたしはどうすればいいのだろう。分からない。

 慧音が死んだ時に泣けなかったわたしには──もう何も。
副題:泣けなかった女
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コメント



0.110簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
タイトル良いですね。
鈴仙若いなァ
4.90奇声を発する程度の能力削除
しんみりした感じが良かったです
6.100電柱.削除
シンプルで真っすぐなお話だったと思います
ただ、妹紅みたいな不死の精神を描くのは本当に難しい……
7.100モブ削除
「ああ、そうだった、泣き方を聞きに来たんだった」
こう言ってしまう妹紅が哀しいのか。誰から泣き方を教わるのでしょうか。少し、悲しい話だと感じました。
8.無評価名前が無い程度の能力削除
うーん、序盤も序盤で終わってしまった感じ。
種を撒いた瞬間種を収穫して終わったような……
9.100終身削除
慧音とお別れで後ろ向いてるてゐが意地らしくて良いなと思いました 実感が追いつかないのか長生きして感覚が平坦になってしまったのか慧音の死と自分の感覚に距離を感じてるような妹紅の戸惑いが悲しかったです