「遅刻しちゃった……」
珍しく寝坊してしまった私だった。というのも今日はメリーからのモーニングコールが無かったのだ。よって今日寝坊したのはメリーの所為だ。うん、私は悪くない。
「宇佐見、遅れて来ました」
入場証を入口でかざし、研究室に入るとそこは嵐でも通り過ぎた後かのように荒れ果てていた。
「なにこれ」
ただただ唖然とする私にちゆりさんが状況を説明してくれた。
「あー宇佐見か。丁度いい、教授が馬鹿やった分の片づけ手伝ってくれ」
「そういうことか」
一応この部屋は、大学の研究室という事になっているので偶にまともな研究もしているのだ。だがここのリーダーである岡崎教授は、科学と魔法を組み合わせるという常人なら怖くて出来もしないような事を平気でする人なのだ。大方この惨状はそれが失敗に終わったという事だろう。
「ところでメリーは?」
私がそう聞くと、ちゆりさんは一瞬で顔面蒼白になってしまった。
「マ、マエリベリーか?あ、あいつは……」
「今日は体調悪いらしいから、休むそうだぞ?」
教授が満面の笑みで話に割り込んできた。殴りたいこの笑顔。
「ニャー!!」
「ホブゥ⁉」
殴ろうとした5秒前ぐらいに猫の鳴き声と共に教授が膝から崩れ落ちた。猫に膝カックンされたのだろう。やったぜ。ん?猫?
「うわわわわわわ⁉猫だって⁉」
私は尻餅を付いてしまった。猫は私のトラウマなのだ。小さいころに猫に顔を引っ掻かれて怪我をしたことがあり、それ以来嫌いになっている。そして今研究室にいる猫は、私を引っ掻いた猫と同じ黒い毛だ。余計にトラウマが蘇るってものだ。
「ニャーン」
猫の方は私を見ると一目散に駆け寄ってきた。
「ひっ!!」
私は数歩後ろに下がった。すると猫も止まった。一瞬困惑したような素振りを見せたが、その後しょんぼりしたように部屋の隅っこへ移動していった。
「あの猫は?」
「え、えっとだな宇佐見。あの猫は」
「迷い猫ってやつだよ!!いやぁ困った困った!!」
教授が笑いながら言うが、ちゆりさんがそれをゴミを見るかのような目で見つめているのでまず嘘なのだろう。まぁ考えても仕方ない。私はちゆりさん達と一緒に部屋の後片付けを始めた。
こんな時にメリーはどこへ行ったのだろうか?
§
「ようやく終わった……」
片付けが終わったのはそれから一時間後ぐらいだった。ついでに大掃除の様な事もしたので研究室はかなり綺麗になった。
「さて、事務作業に入ろうかな」
私は自分のデスクに座り、この間の『合コン会場悪霊発生事件』に関しての報告書を作り始めた。あの時は色々あったが、メリーの肉料理味がしたキスだけは忘れられそうにない。少しメリーには申し訳ないことをしたと思うが、まぁメリー一人だったら悪霊退治は厳しかったかもしれないので結果オーライだろう。
「ニャーン……」
さっきの猫がまた私の近くに寄ってきた。
「やけに私に懐いてるわね、この猫」
「そ、そうだな」
昨日メリーは今日休むとかそういう事は言っていなかった。体調が悪そうでもなかったからね。そして教授達に内緒でここに入った人の履歴を見たのだ。そしたら朝メリーがここに来たことになっているのだ。そして実験の失敗。消えたメリー。
「まさか、貴女メリーなの?」
「ニャ、ニャーン?」
……考えすぎか。人を猫にするなんてどんな魔術を使えば出来るのだろうか。流石の岡崎教授でもそんな非人道的な事をするとは思えない、と思いたいところだ。
「まぁ、猫嫌いなのに変わりはないけどね」
私はすり寄ってくる猫を無視して、業務を再開した。
§
「疲れたぁ」
別に昨日の夜徹夜したとか、眠れてないとかそういうわけではない。今朝の大掃除が疲れたのだ。私がそう呟いて暫くすると奥の方からズルズルと何かを引きずる音がした。
音のする方を見ると、さっきの黒猫が私の方に毛布を引きずってきている。
「随分人間っぽいのねあなた」
私は勇気を出して黒猫を抱っこしてみた。案外大人しく、そして温かかった。
猫も目を細めていて、どこか嬉しそうである。
「メリー、どこ行ったのかな」
私がそうつぶやくと、猫が熱い視線を私に向けていた。
「あぁメリーの事ね?メリーは仕事では不愛想で、ザ・仕事人って感じなのよね。ホントおっかないったらありゃしない」
猫の視線に何か殺意の様なものを感じた。
「でもプライベートは案外可愛いのよ?この間の事件の時だって、私の帽子をお守りだって言っててさ」
猫が私を引っ掻こうとしてきたので、私は床に降ろした。
「嬉しかったなぁ。私が上げた物をそんなに大事にしてくれて」
私がそう呟いていると、猫がタンスの一つをガリガリ手で引っ掻いていた。お前に話してたのにな。人の話はちゃんと聞いて欲しいものだ。まぁ猫に話しても仕方ないのだが。
収納ボックスに傷がついても嫌なので、私は猫に近付いた。すると猫は引っ掻くのをやめた。
「ん?どうした?」
まるでタンスを指さしているような動きをする。中に何かあるのだろうか?
「あっ、宇佐見そのタンスは」
教授が喋り終える前に私は収納ボックスを開けた。中はパンパンだったみたいで、物がバタバタと雪崩のように落ちてきた。
____落ちてきたものはメリーの服や帽子などその他諸々の私物だった。
「……ちゆりさん?」
「わ、私の所為じゃないぞ⁉そんな満面の笑みで見つめないでくれ、ショック死してしまう」
まぁそうだろう。ちゆりさんのはずがない。となると犯人はもう一人しかいない。
「教授?」
「話を聞いてくれ!!これは不幸な事故なんだ!!」
「言い訳はあの世ですることね」
私の鉄拳が教授の腹に直撃した。
§
「酷い目にあったわ」
「お疲れ様、メリー」
やはりあの黒猫はメリーだったみたいだ。ちゆりさんの話では、科学と魔法の複合実験に失敗して『何故か』メリーが猫になったようだ。色々ツッコミたいところはあるのだが、考えるだけ時間の無駄だ。教授には鉄拳制裁と、隠していたいちご大福を全て没収するという罰で十分だ。
「私としては、あと十発ぐらい殴ってやりたいけどね」
「被害者だもんね」
メリーに猫だった間の記憶があるのか、と聞いたら曖昧で覚えていないとの事だった。安心した。メリーの褒め話を覚えてたとしたらメリーに何て言われるかわからないからね。
「さて、仕事終わったし帰ろうか」
「……」
顔を赤くして俯くメリー。どうしたのだろうか。
「メリー?」
「え、あぁうん。もう時間だもんね帰ろう!!」
なんかいつものメリーらしくないな。
……まぁいいか。
私達は研究室を後にした。床に突っ伏している岡崎教授を残して。
尚、メリーが全て覚えていたと知ったのはまた先のお話。
珍しく寝坊してしまった私だった。というのも今日はメリーからのモーニングコールが無かったのだ。よって今日寝坊したのはメリーの所為だ。うん、私は悪くない。
「宇佐見、遅れて来ました」
入場証を入口でかざし、研究室に入るとそこは嵐でも通り過ぎた後かのように荒れ果てていた。
「なにこれ」
ただただ唖然とする私にちゆりさんが状況を説明してくれた。
「あー宇佐見か。丁度いい、教授が馬鹿やった分の片づけ手伝ってくれ」
「そういうことか」
一応この部屋は、大学の研究室という事になっているので偶にまともな研究もしているのだ。だがここのリーダーである岡崎教授は、科学と魔法を組み合わせるという常人なら怖くて出来もしないような事を平気でする人なのだ。大方この惨状はそれが失敗に終わったという事だろう。
「ところでメリーは?」
私がそう聞くと、ちゆりさんは一瞬で顔面蒼白になってしまった。
「マ、マエリベリーか?あ、あいつは……」
「今日は体調悪いらしいから、休むそうだぞ?」
教授が満面の笑みで話に割り込んできた。殴りたいこの笑顔。
「ニャー!!」
「ホブゥ⁉」
殴ろうとした5秒前ぐらいに猫の鳴き声と共に教授が膝から崩れ落ちた。猫に膝カックンされたのだろう。やったぜ。ん?猫?
「うわわわわわわ⁉猫だって⁉」
私は尻餅を付いてしまった。猫は私のトラウマなのだ。小さいころに猫に顔を引っ掻かれて怪我をしたことがあり、それ以来嫌いになっている。そして今研究室にいる猫は、私を引っ掻いた猫と同じ黒い毛だ。余計にトラウマが蘇るってものだ。
「ニャーン」
猫の方は私を見ると一目散に駆け寄ってきた。
「ひっ!!」
私は数歩後ろに下がった。すると猫も止まった。一瞬困惑したような素振りを見せたが、その後しょんぼりしたように部屋の隅っこへ移動していった。
「あの猫は?」
「え、えっとだな宇佐見。あの猫は」
「迷い猫ってやつだよ!!いやぁ困った困った!!」
教授が笑いながら言うが、ちゆりさんがそれをゴミを見るかのような目で見つめているのでまず嘘なのだろう。まぁ考えても仕方ない。私はちゆりさん達と一緒に部屋の後片付けを始めた。
こんな時にメリーはどこへ行ったのだろうか?
§
「ようやく終わった……」
片付けが終わったのはそれから一時間後ぐらいだった。ついでに大掃除の様な事もしたので研究室はかなり綺麗になった。
「さて、事務作業に入ろうかな」
私は自分のデスクに座り、この間の『合コン会場悪霊発生事件』に関しての報告書を作り始めた。あの時は色々あったが、メリーの肉料理味がしたキスだけは忘れられそうにない。少しメリーには申し訳ないことをしたと思うが、まぁメリー一人だったら悪霊退治は厳しかったかもしれないので結果オーライだろう。
「ニャーン……」
さっきの猫がまた私の近くに寄ってきた。
「やけに私に懐いてるわね、この猫」
「そ、そうだな」
昨日メリーは今日休むとかそういう事は言っていなかった。体調が悪そうでもなかったからね。そして教授達に内緒でここに入った人の履歴を見たのだ。そしたら朝メリーがここに来たことになっているのだ。そして実験の失敗。消えたメリー。
「まさか、貴女メリーなの?」
「ニャ、ニャーン?」
……考えすぎか。人を猫にするなんてどんな魔術を使えば出来るのだろうか。流石の岡崎教授でもそんな非人道的な事をするとは思えない、と思いたいところだ。
「まぁ、猫嫌いなのに変わりはないけどね」
私はすり寄ってくる猫を無視して、業務を再開した。
§
「疲れたぁ」
別に昨日の夜徹夜したとか、眠れてないとかそういうわけではない。今朝の大掃除が疲れたのだ。私がそう呟いて暫くすると奥の方からズルズルと何かを引きずる音がした。
音のする方を見ると、さっきの黒猫が私の方に毛布を引きずってきている。
「随分人間っぽいのねあなた」
私は勇気を出して黒猫を抱っこしてみた。案外大人しく、そして温かかった。
猫も目を細めていて、どこか嬉しそうである。
「メリー、どこ行ったのかな」
私がそうつぶやくと、猫が熱い視線を私に向けていた。
「あぁメリーの事ね?メリーは仕事では不愛想で、ザ・仕事人って感じなのよね。ホントおっかないったらありゃしない」
猫の視線に何か殺意の様なものを感じた。
「でもプライベートは案外可愛いのよ?この間の事件の時だって、私の帽子をお守りだって言っててさ」
猫が私を引っ掻こうとしてきたので、私は床に降ろした。
「嬉しかったなぁ。私が上げた物をそんなに大事にしてくれて」
私がそう呟いていると、猫がタンスの一つをガリガリ手で引っ掻いていた。お前に話してたのにな。人の話はちゃんと聞いて欲しいものだ。まぁ猫に話しても仕方ないのだが。
収納ボックスに傷がついても嫌なので、私は猫に近付いた。すると猫は引っ掻くのをやめた。
「ん?どうした?」
まるでタンスを指さしているような動きをする。中に何かあるのだろうか?
「あっ、宇佐見そのタンスは」
教授が喋り終える前に私は収納ボックスを開けた。中はパンパンだったみたいで、物がバタバタと雪崩のように落ちてきた。
____落ちてきたものはメリーの服や帽子などその他諸々の私物だった。
「……ちゆりさん?」
「わ、私の所為じゃないぞ⁉そんな満面の笑みで見つめないでくれ、ショック死してしまう」
まぁそうだろう。ちゆりさんのはずがない。となると犯人はもう一人しかいない。
「教授?」
「話を聞いてくれ!!これは不幸な事故なんだ!!」
「言い訳はあの世ですることね」
私の鉄拳が教授の腹に直撃した。
§
「酷い目にあったわ」
「お疲れ様、メリー」
やはりあの黒猫はメリーだったみたいだ。ちゆりさんの話では、科学と魔法の複合実験に失敗して『何故か』メリーが猫になったようだ。色々ツッコミたいところはあるのだが、考えるだけ時間の無駄だ。教授には鉄拳制裁と、隠していたいちご大福を全て没収するという罰で十分だ。
「私としては、あと十発ぐらい殴ってやりたいけどね」
「被害者だもんね」
メリーに猫だった間の記憶があるのか、と聞いたら曖昧で覚えていないとの事だった。安心した。メリーの褒め話を覚えてたとしたらメリーに何て言われるかわからないからね。
「さて、仕事終わったし帰ろうか」
「……」
顔を赤くして俯くメリー。どうしたのだろうか。
「メリー?」
「え、あぁうん。もう時間だもんね帰ろう!!」
なんかいつものメリーらしくないな。
……まぁいいか。
私達は研究室を後にした。床に突っ伏している岡崎教授を残して。
尚、メリーが全て覚えていたと知ったのはまた先のお話。