「宇佐見戻りましたー」
仕事を終え事務所に戻った私。いつもより事務所が広く感じた。
メリーが居なかったからだ、という事にはすぐに気づいた。いつも通りの退社時間だとしたらまだ早いはずなのに珍しい事もあるものだね。
「メリーは?」
私はちゆりさんに声をかけてみる。
「あぁマエリベリーか?アイツなら合コンに行ったぞ」
「合コンねー成程成程」
……え?
「合コン?」
「そうだぞ?」
「あのメリーが?」
「……そんなに信じられないのか」
信じられないもなにも、あのメリーが合コンに行くだなんて天地がひっくり返ってもあり得ない事だと思っていた。大学時代からメリーは何度も男性から告白されていたのだが、その度に「私には秘封倶楽部があるから」と言って断っていたのだ。そんなメリーが合コンだって⁉どういう意図があるのだろうか。少しとは言わずかなり興味がある。
「興味深々って顔してるわね」
さっきまで机に突っ伏してやる気の無さそうな顔をしていた岡崎教授がいつの間にか目を輝かせている。大体こういうときはろくでもない事が始まるのだ。
「ここにメリーが行った合コンの入場証がある」
教授は引き出しから入場証を取り出した。気になったのは、少し豪華そうな紙であることと「男性用」と書いてあることだ。うちの事務所に男性職員はいない。どや顔の教授には申し訳ないが、これでは会場に入る事すら出来ないのでは?
「ちょっと待て教授、それ男性用って書いてないか?」
ちゆりさんも違和感に気づいた様でツッコミを入れた。
「え?男装して入れば問題ないでしょう」
私もちゆりさんも唖然としてしまった。本当にこの人の思考はどうなっているのだろうか。最も、私に火の粉が降りかからなければ問題ない。きっと教授が自ら出向くのだろう。私は家へ帰る準備をし始めた。
すると教授が私の肩を掴み、いつになく優しい声で言った。
「ということで、この仕事は宇佐見に一任する」
「はい?」
一瞬頭が真っ白になった。私が男装して合コンに潜入する?冗談も大概にしてほしいものだ。
「相方としてメリーがどんな男と付き合うか、知っておいて損は無いと思うぞ?」
「いや、そんなプライベートまで踏み入るつもりは……」
別にメリーがどんな男と付き合おうが私には特に関係ないのだが、興味がないという訳でもない。
メリーにバレた後が怖いが、まぁそれはその時考えればいいだろう。私は教授の提案を承諾し、合コン会場に男装して潜入する事になった。
§
「んで、着いたけど……」
ウィッグやメイクで誤魔化せば何とか男とも言い張れるレベルだった。問題は声だったのだが、そこはマスクに変声機が内蔵されている岡崎教授の秘密道具でクリアできた。あの人は頭いいのだが、色々と残念な人である。
「とりあえずメリーを探さないとね」
だが探そうにも人が多すぎて少し手間がかかりそうだ。さて、どうしたものか。
「あら、御一人ですか?」
背後から女性の声がする。今はメリーを探すので忙しいのだが、相手にしないわけにもいかない。
「えぇ、まだ一人で」
振り向いて私は言葉を止めてしまった。話しかけてきたのは現在進行形で探していたメリーだったのだから。まさかメリーから接触してくるとは思っていなかった。これは想定外だ。
「どうかしました?」
メリーは紫色のドレスにいつもの帽子、という少しこの場には似合わない恰好をしている。こういう時ぐらい帽子は置いて来ればよかったのに。だが今はそんな事後回しだ。
「い、いえ別に何も。私で良ければご一緒しますよ」
私は平静を装って言葉を返した。
「まぁ嬉しい!!ではあちらの席に座りましょう」
接触できたのはラッキーだが、これは想定外だ。さてどうしたものか……と考えていると遠くの方に見慣れた赤いドレスの女性と、水色のドレスの女性が居た。岡崎教授とちゆりさんである。どうやら女性用の入場証もあったようだ。多分今問い詰めても「私の趣味だ。いいだろう?」と返されてしまい、ここまでの努力が水の泡となる。それは私も避けたいので今は見て見ぬふりをしよう。
§
メリーはいろいろな事を話してくれていた。主に私や教授達と活動していた事だが、話しているときの彼女の顔はとても楽しそうだった。彼女の話が止まったので私は帽子の事を聞いてみた。
「失礼ながら、その帽子はこの場には似合わないのでは?」
私がそう聞くと、メリーは恥ずかしそうに笑って答えた。
「やっぱりそうですよね……お守りとして持ってきたのですが」
「お守り、ですか?」
「えぇ。これは私の相方が初めて私にくれたプレゼントなのです」
あぁ、そうだ。確かにメリーの帽子は私が渡したものだ。知り合って一年程だった頃にお互いの帽子をお互いで選ぶ、という事をした時に私がメリーに渡したものだ。私はメリーにバレるのを恐れて、メリーが渡してくれた帽子はバッグの中にしまっているのだが。
「普段は不器用で頼りないのですが、やるときはやるんですよあの子。本当に頼りにしてます。なので彼女の力を少しでも借りたいな、と思って……」
私は嬉しさで泣きそうになるのを必死でこらえる。メリーはそんなに私の事を考えていてくれていたのね。こうやってメリーの心情を聞いているのが、とても申し訳なくなってきた。今すぐに帰りたい。
「きっとその相方さんは嬉しいと思」
私がそこまで言いかけたところで突然会場が揺れた。地震にしては少し大きい。
揺れと共に地面から青い靄が噴き出してきた。間違いない、これは悪霊だ。
「こ、こんな時に!!」
会場は大パニックだ。メリーもいつもの感じではない、完全に怯えている。ここでメリーに正体を明かすのは本意ではないが、そんなことを言っている場合ではない。私はマスクを外し、帽子を被りメリーに声をかけた。
「何してんのよ、相棒?」
「蓮……子?」
岡崎教授とちゆりさんは上手く脱出したみたいだ。他の参加者達もいない。ならば後は私達がこの悪霊を退治するだけだ。
「話は後。こいつら何とかするわよ!!」
「うん、うん!!」
メリーは顔を拭ってからいつもの笑顔で答えた。
§
悪霊退治は案外簡単に終わった。八割方メリーの能力なのだが、少しは私も役に立てただろうか。
だが、問題はここからである。会場の後始末は教授達に任せて私とメリーは一足先に会場を後にした。メリーは怒りと恥ずかしさを混ぜて二倍したような複雑そうな顔をしている。
「メ、メリー?」
私は恐る恐る話しかけてみた。するとメリーは膨れっ面で私を見つめ言った。
「蓮子の男装、悪くなかったよ」
「えっ」
私は思っていなかった一言に動揺してしまった。そこはお説教が始まると思っていたのだが。
「隙あり」
メリーのその一言の後、メリーの唇が私の唇と重なった。
……今回は会場で食べた肉料理の味がした。
「じゃあね蓮子、また明日」
メリーは足早に去っていった。私は一人その場に立ち尽くしている。
「はぁ……」
明日から、どんな顔をしてメリーと付き合えばいいのだろうか。
仕事を終え事務所に戻った私。いつもより事務所が広く感じた。
メリーが居なかったからだ、という事にはすぐに気づいた。いつも通りの退社時間だとしたらまだ早いはずなのに珍しい事もあるものだね。
「メリーは?」
私はちゆりさんに声をかけてみる。
「あぁマエリベリーか?アイツなら合コンに行ったぞ」
「合コンねー成程成程」
……え?
「合コン?」
「そうだぞ?」
「あのメリーが?」
「……そんなに信じられないのか」
信じられないもなにも、あのメリーが合コンに行くだなんて天地がひっくり返ってもあり得ない事だと思っていた。大学時代からメリーは何度も男性から告白されていたのだが、その度に「私には秘封倶楽部があるから」と言って断っていたのだ。そんなメリーが合コンだって⁉どういう意図があるのだろうか。少しとは言わずかなり興味がある。
「興味深々って顔してるわね」
さっきまで机に突っ伏してやる気の無さそうな顔をしていた岡崎教授がいつの間にか目を輝かせている。大体こういうときはろくでもない事が始まるのだ。
「ここにメリーが行った合コンの入場証がある」
教授は引き出しから入場証を取り出した。気になったのは、少し豪華そうな紙であることと「男性用」と書いてあることだ。うちの事務所に男性職員はいない。どや顔の教授には申し訳ないが、これでは会場に入る事すら出来ないのでは?
「ちょっと待て教授、それ男性用って書いてないか?」
ちゆりさんも違和感に気づいた様でツッコミを入れた。
「え?男装して入れば問題ないでしょう」
私もちゆりさんも唖然としてしまった。本当にこの人の思考はどうなっているのだろうか。最も、私に火の粉が降りかからなければ問題ない。きっと教授が自ら出向くのだろう。私は家へ帰る準備をし始めた。
すると教授が私の肩を掴み、いつになく優しい声で言った。
「ということで、この仕事は宇佐見に一任する」
「はい?」
一瞬頭が真っ白になった。私が男装して合コンに潜入する?冗談も大概にしてほしいものだ。
「相方としてメリーがどんな男と付き合うか、知っておいて損は無いと思うぞ?」
「いや、そんなプライベートまで踏み入るつもりは……」
別にメリーがどんな男と付き合おうが私には特に関係ないのだが、興味がないという訳でもない。
メリーにバレた後が怖いが、まぁそれはその時考えればいいだろう。私は教授の提案を承諾し、合コン会場に男装して潜入する事になった。
§
「んで、着いたけど……」
ウィッグやメイクで誤魔化せば何とか男とも言い張れるレベルだった。問題は声だったのだが、そこはマスクに変声機が内蔵されている岡崎教授の秘密道具でクリアできた。あの人は頭いいのだが、色々と残念な人である。
「とりあえずメリーを探さないとね」
だが探そうにも人が多すぎて少し手間がかかりそうだ。さて、どうしたものか。
「あら、御一人ですか?」
背後から女性の声がする。今はメリーを探すので忙しいのだが、相手にしないわけにもいかない。
「えぇ、まだ一人で」
振り向いて私は言葉を止めてしまった。話しかけてきたのは現在進行形で探していたメリーだったのだから。まさかメリーから接触してくるとは思っていなかった。これは想定外だ。
「どうかしました?」
メリーは紫色のドレスにいつもの帽子、という少しこの場には似合わない恰好をしている。こういう時ぐらい帽子は置いて来ればよかったのに。だが今はそんな事後回しだ。
「い、いえ別に何も。私で良ければご一緒しますよ」
私は平静を装って言葉を返した。
「まぁ嬉しい!!ではあちらの席に座りましょう」
接触できたのはラッキーだが、これは想定外だ。さてどうしたものか……と考えていると遠くの方に見慣れた赤いドレスの女性と、水色のドレスの女性が居た。岡崎教授とちゆりさんである。どうやら女性用の入場証もあったようだ。多分今問い詰めても「私の趣味だ。いいだろう?」と返されてしまい、ここまでの努力が水の泡となる。それは私も避けたいので今は見て見ぬふりをしよう。
§
メリーはいろいろな事を話してくれていた。主に私や教授達と活動していた事だが、話しているときの彼女の顔はとても楽しそうだった。彼女の話が止まったので私は帽子の事を聞いてみた。
「失礼ながら、その帽子はこの場には似合わないのでは?」
私がそう聞くと、メリーは恥ずかしそうに笑って答えた。
「やっぱりそうですよね……お守りとして持ってきたのですが」
「お守り、ですか?」
「えぇ。これは私の相方が初めて私にくれたプレゼントなのです」
あぁ、そうだ。確かにメリーの帽子は私が渡したものだ。知り合って一年程だった頃にお互いの帽子をお互いで選ぶ、という事をした時に私がメリーに渡したものだ。私はメリーにバレるのを恐れて、メリーが渡してくれた帽子はバッグの中にしまっているのだが。
「普段は不器用で頼りないのですが、やるときはやるんですよあの子。本当に頼りにしてます。なので彼女の力を少しでも借りたいな、と思って……」
私は嬉しさで泣きそうになるのを必死でこらえる。メリーはそんなに私の事を考えていてくれていたのね。こうやってメリーの心情を聞いているのが、とても申し訳なくなってきた。今すぐに帰りたい。
「きっとその相方さんは嬉しいと思」
私がそこまで言いかけたところで突然会場が揺れた。地震にしては少し大きい。
揺れと共に地面から青い靄が噴き出してきた。間違いない、これは悪霊だ。
「こ、こんな時に!!」
会場は大パニックだ。メリーもいつもの感じではない、完全に怯えている。ここでメリーに正体を明かすのは本意ではないが、そんなことを言っている場合ではない。私はマスクを外し、帽子を被りメリーに声をかけた。
「何してんのよ、相棒?」
「蓮……子?」
岡崎教授とちゆりさんは上手く脱出したみたいだ。他の参加者達もいない。ならば後は私達がこの悪霊を退治するだけだ。
「話は後。こいつら何とかするわよ!!」
「うん、うん!!」
メリーは顔を拭ってからいつもの笑顔で答えた。
§
悪霊退治は案外簡単に終わった。八割方メリーの能力なのだが、少しは私も役に立てただろうか。
だが、問題はここからである。会場の後始末は教授達に任せて私とメリーは一足先に会場を後にした。メリーは怒りと恥ずかしさを混ぜて二倍したような複雑そうな顔をしている。
「メ、メリー?」
私は恐る恐る話しかけてみた。するとメリーは膨れっ面で私を見つめ言った。
「蓮子の男装、悪くなかったよ」
「えっ」
私は思っていなかった一言に動揺してしまった。そこはお説教が始まると思っていたのだが。
「隙あり」
メリーのその一言の後、メリーの唇が私の唇と重なった。
……今回は会場で食べた肉料理の味がした。
「じゃあね蓮子、また明日」
メリーは足早に去っていった。私は一人その場に立ち尽くしている。
「はぁ……」
明日から、どんな顔をしてメリーと付き合えばいいのだろうか。
メリーの合コンにいった理由を知りたかった
良かったです。