朝、窓のガタガタと揺れる音で目が覚める。カーテンを開いてみるとびゅうびゅうと風が吹き荒れ、妖怪の山の木が恐ろしい角度でしなっている。外は台風。庭渡久侘歌は毎朝空を飛びながらコケーとやるのが日課なのだがどうにも今日は無理そうだ。仕事で三途の川に向かうのも見るからに厳しい。今日は自宅でおとなしくしていよう。内心ウキウキしながら、暖かい布団を再びかぶろうとすると、セットしていた目覚まし時計のアラームがリンリンと部屋に響き渡る。いつもは忌々しい存在だがそのベルの音はいつもより弱々しいように感じた。ニコニコ顔でスイッチを押すとふかふかの布団へダイブする。さて夢の続きでも見ようじゃないか。今日ぐらい休んでも、きっと映姫様は許してくださる。
そんなことを考えていると部屋の隅に置いてある電話が急に鳴りだした。まさに悪魔の旋律である。久侘歌はビクッと体を硬直させる。心臓は恐ろしい速さで全身に血液を巡らせる。ああ、嫌だ、受話器を取りたくない、でも取らないとまずい。先ほどとは打って変わって体が重くなる。匍匐前進でのそのそ布団から這い出ると、ゆっくり立ち上がり震える手で受話器をつかむ。耳に当てると聞きなれた上司の声が。
「久侘歌、そちらは台風だそうですが大丈夫ですか?」
そうだった。地獄と地上じゃ天候は違うのだ。ああ台風よ、なぜ地獄を襲わない。中々の役立たずでございます。コケー。
「いえ、とんでもなく風が吹き荒れてます。おそらく外に出たら無事じゃすまないでしょう」
「そうですか、それなら無理しないでくださいね。他の皆には私が説明しておきますから 」
電話が切れる。窓がガタガタと揺れている。久侘歌は受話器をゆっくり置いた。口元が自然と綻んでしまう。よかった本当によかった。久侘歌は嬉しそうに小躍りしながら布団に戻ろうとする。さてさてさて、それではいざ夢の世界へレッツゴー。えー長らくお待たせしました。超特急「ドリームエクスプレス」間もなく発進でございます。久侘歌は布団に潜り込む。そして上から毛布をかぶる。昨日干したばかりのフカフカなやつだ。お日様の香りがして心地よい。意識が朦朧としてきた。久侘歌はゆっくりの目をつぶる。
ジリリリリリ
「畜生め!!!」
電話のベルが部屋に鳴り響く。死にかけの悪魔が今更なんだ。もう電話なんて怖くない。久侘歌は布団を足で蹴飛ばし、一気に起き上がるとガチャリと受話器を乱暴に手に取る。
「はいもしもし、庭渡でございます」
「庭渡様でございますか。私河童のにとりと申します」
「どうしました?」
「いえ、今日はいつもの挨拶が聞こえませんでしたのでどうしたのか心配になりまして」
「ああ、それなら気にしないでください。今日は台風でしょう。神様もさすがに今日はお休みです」
「なるほど、しかし心配しないでください」
「え?」
久侘歌の全身に鳥肌がたつ。まるで部屋の温度が下がったようだ。
「実は我々、ついに衛星を飛ばすことに成功いたしまして、そのおかげで気象を操れるようになったのです。まだ雨と晴しか試したことはないですが、台風の渦巻きと正反対の渦巻き状のエネルギー波をぶつければきっと台風は消滅して快晴になるはずです。それではスイッチオン!」
久侘歌は受話器を放り投げて窓に駆け寄る。ああ、頼むからやめてください。妖怪風情が天候を操る? 神への冒涜です。久侘歌は両手を合わせて祈りはじめる。今こそニワタリ神の神通力を使う時です! だがその努力空しく、しばらくして頭上でものすごい爆発音がしたと思うと青い空がすっと顔を出し、窓から日光が久侘歌の部屋に差し込んだ。
「あああああああああああああぁぁぁ……」
久侘歌はがっくりと項垂れる。外れていた受話器が目に入る。仕方がないので元に戻す。すると待ってましたとばかりに受話器が元気よくジリリリリリリリリ……
そんなことを考えていると部屋の隅に置いてある電話が急に鳴りだした。まさに悪魔の旋律である。久侘歌はビクッと体を硬直させる。心臓は恐ろしい速さで全身に血液を巡らせる。ああ、嫌だ、受話器を取りたくない、でも取らないとまずい。先ほどとは打って変わって体が重くなる。匍匐前進でのそのそ布団から這い出ると、ゆっくり立ち上がり震える手で受話器をつかむ。耳に当てると聞きなれた上司の声が。
「久侘歌、そちらは台風だそうですが大丈夫ですか?」
そうだった。地獄と地上じゃ天候は違うのだ。ああ台風よ、なぜ地獄を襲わない。中々の役立たずでございます。コケー。
「いえ、とんでもなく風が吹き荒れてます。おそらく外に出たら無事じゃすまないでしょう」
「そうですか、それなら無理しないでくださいね。他の皆には私が説明しておきますから 」
電話が切れる。窓がガタガタと揺れている。久侘歌は受話器をゆっくり置いた。口元が自然と綻んでしまう。よかった本当によかった。久侘歌は嬉しそうに小躍りしながら布団に戻ろうとする。さてさてさて、それではいざ夢の世界へレッツゴー。えー長らくお待たせしました。超特急「ドリームエクスプレス」間もなく発進でございます。久侘歌は布団に潜り込む。そして上から毛布をかぶる。昨日干したばかりのフカフカなやつだ。お日様の香りがして心地よい。意識が朦朧としてきた。久侘歌はゆっくりの目をつぶる。
ジリリリリリ
「畜生め!!!」
電話のベルが部屋に鳴り響く。死にかけの悪魔が今更なんだ。もう電話なんて怖くない。久侘歌は布団を足で蹴飛ばし、一気に起き上がるとガチャリと受話器を乱暴に手に取る。
「はいもしもし、庭渡でございます」
「庭渡様でございますか。私河童のにとりと申します」
「どうしました?」
「いえ、今日はいつもの挨拶が聞こえませんでしたのでどうしたのか心配になりまして」
「ああ、それなら気にしないでください。今日は台風でしょう。神様もさすがに今日はお休みです」
「なるほど、しかし心配しないでください」
「え?」
久侘歌の全身に鳥肌がたつ。まるで部屋の温度が下がったようだ。
「実は我々、ついに衛星を飛ばすことに成功いたしまして、そのおかげで気象を操れるようになったのです。まだ雨と晴しか試したことはないですが、台風の渦巻きと正反対の渦巻き状のエネルギー波をぶつければきっと台風は消滅して快晴になるはずです。それではスイッチオン!」
久侘歌は受話器を放り投げて窓に駆け寄る。ああ、頼むからやめてください。妖怪風情が天候を操る? 神への冒涜です。久侘歌は両手を合わせて祈りはじめる。今こそニワタリ神の神通力を使う時です! だがその努力空しく、しばらくして頭上でものすごい爆発音がしたと思うと青い空がすっと顔を出し、窓から日光が久侘歌の部屋に差し込んだ。
「あああああああああああああぁぁぁ……」
久侘歌はがっくりと項垂れる。外れていた受話器が目に入る。仕方がないので元に戻す。すると待ってましたとばかりに受話器が元気よくジリリリリリリリリ……
面白かったです
消さないでほしいです
久侘歌ちゃんの語りがキレッキレで楽しかったので、私も消さないでおいて欲しいなーなんて
「中々の役立たずでございます。」大好き。