Coolier - 新生・東方創想話

くたかちゃんと労働

2019/09/28 18:47:27
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 庭渡久侘歌はあきらかに働き過ぎである。仕事は全員が帰るまで絶対に帰らない。どんな無理な注文にも笑顔で答える。明らかに己の限界を超えているはずなのに常時、空元気を出していて見ていて甚だ痛々しい。四季映姫・ヤマザナドゥはそんな久侘歌がいつか破滅するんじゃないかと思い、大変心配して休んだらどうか顔を合わせるたびに提案するのだが久侘歌はこの言葉を真剣な提案とは受け取らず、閻魔様流の挨拶だと勘違いし尚一層努力するのであった。久侘歌は次第に過労とストレスで鶏の地位が低いのもニワタリ神である私が努力していないからじゃないかという言わば脅迫概念のようなものに囚われてしまい地獄のような悪循環に陥っていた。

 上司映姫はこのままじゃいけないと考え、人間が善行をきちんと積んでいるか確かめるという名目で久侘歌を人里へ慰安旅行に連れて行こうとしたのだが久侘歌は、では自分はそれまで閻魔様のお仕事もやっておきますのでといってその提案をやんわりと断る。ここで久侘歌を無理に誘えば良かったのだが映姫も無理強いするような性格でもなく、また前言撤回も大嫌いだったので結局彼女は一人で人里に赴くことにした。

 さて、知り合いに出くわすと厄介なので映姫は変装して人里に行き、自分が言い出したことなのでと仕方がなく、人々の様子を書類にまとめていた。一通り歩いて回り、ある程度人里の様子を書き終えると、肝心の久侘歌が来ていないのであれば長居は無用と考えた映姫はすぐに帰る支度をする。その途中寺小屋の前を通りすぎようとしたところで映姫は妙な歌を子供たちが歌っているのを耳にした。

「コケコッコー、コケコッコー」

変な歌だなと思い映姫は声の方へ視線をやる。子供たちは三人で手をつないで腕をブンブン振りながら大声で楽しそうに歌っている。

「コケコッコー、コケコッコー、庭渡久侘歌のケケコッコー。庭渡久侘歌は三度鳴く。一回鳴けば日は昇り、二回鳴けば日は落ちる、三回鳴けばさあ仕事。コケコッコー、コケコッコー、庭渡久侘歌のケケコッコー」

映姫は背中に氷を突っ込まれたような心持ちになる。

「ちょっとあなたたち!」
「おねえちゃんなに?」
「その歌はどこで?」
「え? おねえちゃんこの歌知らないの? 今、里で凄い流行ってるんだよ」

映姫は急に恐ろしくなった。さっきまで歩いていたところが地雷原だと知ったような、信頼していた人物に後ろから刃物で刺されるようなそんな気分になった。一応他の人間にも問いただしたところ、どうやら子供たちの言っていたことは本当のようだった。

「久侘歌! 久侘歌はどこですか!」

地獄に戻ると真っ先に映姫は早速久侘を探す。するとデスクにコーヒーを飲みながら書類を作成している久侘歌の姿が。よく見てみると久侘歌の手は小刻みに震えている。

「すみません、何かミスでしょうか?」
「違うわ、久侘歌。それよりも里の人間がおかしな歌を歌っていました。そこにあなたの名前が入っていたんです。何か心辺りはありますか?」

それを聞いて久侘は安心したようにマグカップを机の上に置いた。

「ああ、それはおそらく私がプロパガンダの為に作成した祭文ですよ。夜な夜な大声で歌って広めていたんです。鶏の地位をもっと高めようと思いまして」
「祭文?」
「はい。今から歌って見せましょうか?」




ニワトリ崇拝コケコケ祭文

作歌 にわたりくたか


コケコッコー、コケコッコー、庭渡久侘歌のケケコッコー。

庭渡久侘歌は三度鳴く。一回鳴けば日は昇り、二回鳴けば日は落ちる、三回鳴けばさあ仕事。

コケコッコー、コケコッコー、庭渡久侘歌のケケコッコー

鶏の力知ってるかい。誰も知らない秘密の能力。あなただけに教えます。

コケコッコー、コケコッコー、庭渡久侘歌のケケコッコー

ある日の夕暮れ、旦那さん。大勢引き連れ舟遊び。しかし天候忽ち崩れ、皆池の中へ真っ逆さま。げに恐ろしき大惨事。

コケコッコー、コケコッコー、庭渡久侘歌のケケコッコー

池に沈んだ旦那さん。町一番の大金持ち。実はこの時舟の中。皆に自慢するために、大判小判がざっくざく。

コケコッコー、コケコッコー、庭渡久侘歌のケケコッコー

噂を聞いた町の衆。池に飛び込み探ります。しかしこの池とても深い。何か魔物も潜んでる。そして幾人命を落とす。欲望渦巻く伏魔殿。

コケコッコー、コケコッコー、庭渡久侘歌のケケコッコー

あれは恐ろしい魔の池だ。町の人間恐怖する。そして暫く時間がたつよ。

コケコッコー、コケコッコー、庭渡久侘歌のケケコッコー

何時かどこから来たのやら。ふらっと現れた一人の人間、鶏つれて船を出します。頭がおかしくなったのか、町の人々これを見守る。

コケコッコー、コケコッコー、庭渡久侘歌のケケコッコー

船の上の鶏が、一声大きくコケコッコー。すると死体が浮かびだす。ついでに小判も浮かびだす。人間、それら引き上げて、漕いで陸に戻ります。摩訶不思議のこの現象。町の人々、鶏恐れる。

コケコッコー、コケコッコー、庭渡久侘歌のケケコッコー

さあて哀れな旦那さん。立派なお墓が建てられた。例の人間ふらっと消えたが、町一丸で鶏信仰。ニワタリ神が生まれたよ。

コケコッコー、コケコッコー、庭渡久侘歌のケケコッコー

ニワタリ信仰コケコッコー。鶏一日つかさどる。そして生死もつかだどる。さあさ皆さん押しちゃいけない、右から左へコケコッコー

コケコッコー、コケコッコー、庭渡久侘歌のケケコッコー

庭渡久侘歌は三度鳴く。一回鳴けば日は昇り、二回鳴けば日は落ちる、三回鳴けばさあ仕事。




映姫は泣き崩れた。ああ、私が久侘歌を壊してしまったのだ。久侘歌があまりにも真面目な性格でつい私も久侘歌に頼りすぎてしまったのだ。ごめんなさい久侘歌。本当にごめんなさい。

「久侘歌今日から二か月休暇を取りなさい」
「え、でも……」
「これは命令です!」

映姫は耐えきれなくなり、部屋を飛び出した。久侘歌は何が起こったか分からないといった面持ちでポカンと一人取り残された。部屋は静まり返り空調の音だけがうっすらと響いてる。その後映姫は小野塚小町を引っ張り居酒屋でやけ酒。小町は映姫の奢りというから大喜び。四季映姫は散々泣いた後落ち着きを取り戻す。

 一方その頃久侘歌はというと仕方がないので妖怪の山の自宅へと帰宅する。その途中例のコケコケ祭文を大声で歌う。喉が潰れそうになるまでとにかく歌いまくる。そして能力で喉を治す。それを繰り返して久侘歌は一流歌手並みの歌唱力を身につけていた。

 休暇を言い渡され数日が経った。久侘歌は退屈していた。あれだけ仕事をこなしていたので当然だった。二日でゴミだらけになっていた家を掃除し終わると急にやることが無くなってしまう。仕方がないので人里で買い物でもしようかと人里までひとっ飛び。例の祭文も漏れなく歌った。久侘歌は適当に散歩する。退屈、退屈、とにかくやることがない。鈴奈庵の前を歩いたところで本でも読もうかと思い中に入る。鈴奈庵の看板娘、本居小鈴はそれを見て声をかける。

「なにかお探しですか?」
「はい、ビジネス書かなにかありませんかね?」
「ビジネス書と言いますと……」
「ああ、それだったら大丈夫です。本が決まりましたらまたお呼びしますね」
「分かりました」

ビジネス書ってなんだろう。小鈴は首を捻りながら奥の机に戻った。しばらくして久侘歌は適当に題名が気になった本を手に取って小鈴に手渡す。小鈴は頷くと有難うございますと言いながら机の上にあった帳簿をひっくり返して久侘歌の方に向ける。

「すみませんがこちらにお名前をご記入お願いします」
「分かりました、ええと庭渡久侘歌と。全部でおいくらでしょうか?」

その名前を見て小鈴は驚く。あの歌の作曲者が小さな貸本屋にやって来たのだ! この機会を逃す手はない。

「もしかしてあの歌の……」
「ええ、そうですが」
「よければサインください!」

それを聞いて久侘歌も驚く。まさかサインを求められるとは。小鈴は大急ぎで部屋に戻るとお気に入りの本を持ってきてここにお願いしますと筆を手渡す。久侘歌もまんざらでもない様子で筆を動かす。

「その……庭渡さん、お代はいいです」
「え、ですが……」
「あと…… また来てください!」
「はあ……」

久侘歌は首を傾げながら店を後にする。小鈴は嬉しそうに本を両手に抱きかかえて仕事に戻った。

 それから久侘歌も度々、鈴奈庵を訪れるようになり小鈴とも仲良くなった。初めは軽い世間話をする程度であったが一か月たつ頃にはそれぞれの身の上話をするような仲になっていった。久侘歌が小鈴に相談を持ち掛けられたのはそれから間もなくのことであった。

「それでですね、久侘歌さん。実は相談が……」
「どうしました?」
「実はお客さんが最近あまり来なくて。結構ピンチなんです、ここ」
「ええ! こんなに品ぞろえが豊富なのに…… そうだったんですか」
「私色々考えたんです。どうすればもっと人が来てくれるかなって。そしで私気づいたんです。人が来ないのはそもそも知名度が低いからではないかと……」
「うーん、そうですかね」
「それでいきなりで申し訳ないんですけど、久侘歌さんにここのこと宣伝して欲しいんです!お願いします! お礼でも何でもします!」

小鈴は久侘歌に頭を下げる。久侘歌もそこまでお願いされたら断れない。

「分かりました。お力になれるか分かりませんが精いっぱい頑張ります! 」
「本当ですか! 有難うございます!」

 それから久侘歌は張り切った。前に作ったものが好評だったようなので同じ手法で宣伝しようと考える。




鈴奈庵礼讃

作歌 にわたりくたか

ああアー
鈴奈庵、鈴奈庵
里の名店知ってるか?
なんでもそろう鈴奈庵
ああアー
鈴奈庵、鈴奈庵
正に知識の百鬼夜行
一度はおいで鈴奈庵
ああアー




 しかしこの新曲は全く流行らなかった。さらにもっと悪いことに久侘歌は張り切ってそこらで歌いまくるものだから初めは面白がっていた人々も久侘歌に段々怒りを覚える。そして怒りの頂点を超えた里の人々はうるさいぞと久侘歌が歌い始める度に石を投げつけた。こうしてできた言葉が一石二鳥と言うもので、久侘歌を黙らせる過程で投げた石がたまたま飛んでた鳥に石が当たり夕食が豪華になることから、一つの行為から二つの利益を得るという意味で使われるそうだ。ついでに鈴奈庵は怒れる民衆によって打ちこわしにあった。
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コメント



0.130簡易評価
1.100サク_ウマ削除
捏造故事ずるいし雑に壊される鈴奈庵ずるい。純度の高い狂気が詰まっていて変な笑いが漏れる大変良い(?)作品でした。面白かったです。
2.90奇声を発する程度の能力削除
笑いが出る面白いお話でした
3.100名前が無い程度の能力削除
衝撃のラストとはまさにこのことですね
壊れたくたかちゃんが可愛かった
4.100名前が無い程度の能力削除
頭がおかしい感じでよいですね
5.90名前が無い程度の能力削除
なんでや鈴奈庵かんけいないやろ!
6.100ヘンプ削除
久侘歌さん……オーマイガー……
狂ってる感じが好きです
7.100やまじゅん削除
面白かったです。
サラリと流れてますが、喉が枯れるじゃなくて潰れるという表現に狂気が垣間見えました。
あとやっぱり鈴奈庵は燃やさないと駄目だなって思いました。
8.100南条削除
面白かったです
身も心も愛社精神に染まってしまったのですね
ついでに壊される鈴奈庵も扱いが雑で不憫でした
12.100終身削除
忙しい時に限って仕事が上手くいくの何だかリアルな世知辛さを感じました 特に調子に乗ってる訳でもないのにきちんと酷い目に遭う小鈴がすごく小鈴してて良かったと思います 瓦礫は一応まだ形保ってるからハッピーエンド