「たとえばね。私がバナナの皮で滑って転んだら、笑う? 笑わないわ。にとりちゃんは。絶対。そうでしょ?」
「ねえ、わたしたち特別だった。雛だって、わかってたくせに。私にとって雛は特別だったし、雛にとってわたしは特別だった。わかってたんだよ、わたしだって」
「私、ずっと待ってたのに」
「わたしだって」
「でも、あの人は私のこと、普通の女の子みたいにするの。かわいいとか、似合うとか、そんなことばっかり言うの」
「わたしだって、そうだよ。あいつは、わたしが特別だって、雛にとっての特別だったってこと、知らないんだ」
「ねえ、にとりちゃん。私ね、あれから、あの日から。なんだか気持ち悪いの。人肌が、気持ち悪く感じるの。スープだって、中途半端に冷めたんじゃ、飲めなくなっちゃった」
「ごめんね。悪かったよ。一回だけなんて、誘わなければよかったんだ。でも、わたしだっておんなじだよ。飲み物なんて、ちゃんと冷やさなきゃ飲めないし、あいつにだって、もう触られたくもない」
「私があげた帽子、まだ持ってる?」
「うん。似合うね、だってさ。わたしのあげたリボンはどう?」
「捨てちゃったの。ごめんなさい」
「ねえ、よく言ってたじゃん。一緒になったら不幸になるって」
「きっと、にとりちゃんがいちばん不幸よ」
「わたしが? 違うね。でも、雛じゃないよ。とにかく、わたしは不幸じゃないし、雛だって、幸せなんだよ」
「そうかしら」
「なんか、あれみたいだね。わたしたち」
「いやよ。私、織姫も彦星も、どっちだって、やりたくないもの」
「違うよ。そうじゃないよ」
「じゃあ、なに?」
「なんだろうね。わかんないや。じゃあさ、雛は、わたしがバナナの皮で滑って転んだなら、笑ってくれた?」
「ええ。きっと笑った。たぶん、それだけが私の幸せになってた」
「でもね、わたしはきっと、そんなこと出来なかったと思うんだ」
「そうでしょうね」
「じゃあ、終わりかな?」
「にとりちゃんは、どう思うの?」
「えへへ。終わりだと思う」
「ねえ、あの人にさわれなくなったなら、にとりちゃんはどうするの?」
「どうもしないよ。雛だってそうでしょ? 帰ってさ、普段通り。普通の女の子になるんだ。いつか、本当にそうなっちゃうときまでね」
「そう。でも、そうね。にとりちゃんの言う通り。いっつも、にとりちゃんの言うことは間違ってたらよかったのに。やっぱり、本当なのよね」
「そう言われちゃうと、自信なくなるけど」
「ごめんね。いいの。それじゃあね」
「うん。それじゃ」
「ねえ、わたしたち特別だった。雛だって、わかってたくせに。私にとって雛は特別だったし、雛にとってわたしは特別だった。わかってたんだよ、わたしだって」
「私、ずっと待ってたのに」
「わたしだって」
「でも、あの人は私のこと、普通の女の子みたいにするの。かわいいとか、似合うとか、そんなことばっかり言うの」
「わたしだって、そうだよ。あいつは、わたしが特別だって、雛にとっての特別だったってこと、知らないんだ」
「ねえ、にとりちゃん。私ね、あれから、あの日から。なんだか気持ち悪いの。人肌が、気持ち悪く感じるの。スープだって、中途半端に冷めたんじゃ、飲めなくなっちゃった」
「ごめんね。悪かったよ。一回だけなんて、誘わなければよかったんだ。でも、わたしだっておんなじだよ。飲み物なんて、ちゃんと冷やさなきゃ飲めないし、あいつにだって、もう触られたくもない」
「私があげた帽子、まだ持ってる?」
「うん。似合うね、だってさ。わたしのあげたリボンはどう?」
「捨てちゃったの。ごめんなさい」
「ねえ、よく言ってたじゃん。一緒になったら不幸になるって」
「きっと、にとりちゃんがいちばん不幸よ」
「わたしが? 違うね。でも、雛じゃないよ。とにかく、わたしは不幸じゃないし、雛だって、幸せなんだよ」
「そうかしら」
「なんか、あれみたいだね。わたしたち」
「いやよ。私、織姫も彦星も、どっちだって、やりたくないもの」
「違うよ。そうじゃないよ」
「じゃあ、なに?」
「なんだろうね。わかんないや。じゃあさ、雛は、わたしがバナナの皮で滑って転んだなら、笑ってくれた?」
「ええ。きっと笑った。たぶん、それだけが私の幸せになってた」
「でもね、わたしはきっと、そんなこと出来なかったと思うんだ」
「そうでしょうね」
「じゃあ、終わりかな?」
「にとりちゃんは、どう思うの?」
「えへへ。終わりだと思う」
「ねえ、あの人にさわれなくなったなら、にとりちゃんはどうするの?」
「どうもしないよ。雛だってそうでしょ? 帰ってさ、普段通り。普通の女の子になるんだ。いつか、本当にそうなっちゃうときまでね」
「そう。でも、そうね。にとりちゃんの言う通り。いっつも、にとりちゃんの言うことは間違ってたらよかったのに。やっぱり、本当なのよね」
「そう言われちゃうと、自信なくなるけど」
「ごめんね。いいの。それじゃあね」
「うん。それじゃ」
心になんとなく浮かんだことを書き連ねて、それを理解させる努力を読者に求められても。