虫たちが死んだ。いつも死んでいってしまうのだけれども、今回のは特に酷かった。みんなみんな餓死をして、私はその霊たちを引き連れて彼岸──三途の川まで送る。虫たちは私たち妖怪みたいに消える訳ではなくて、一度彼岸に行って、生まれ変わるのだ。閻魔の裁きを受ける訳では無い。人間と同じように輪廻転生、とまでは言わないけれど。彼岸を通りまた新たなものとして生まれ変わる。それがどれだけ大事は分かっている。
「三途の川に着いたよ。ほら、みんないってらっしゃい」
一斉に飛び立って行った。笑顔で見送る。
「お、リグルじゃないか」
後ろから声をかけられて振り返ると小町さんがいた。
「ああ、小町さん。いつもありがとうございます」
虫たちを運んでくれるのはいつも小町さんだ。それはとてもありがたいことだ。
「今回も酷いねぇ。最近、現世に行ってもあまり虫たちを見ないよ……元気でいて欲しいものだけれどね……」
飛んでいる虫の霊たちは小町さんの周りを飛び回る。
「はは、ありがとうな。ほら行こうか」
「よろしくお願いします」
軽く笑ったかと思うと虫たちを引き連れて船に乗って進んでいった。すこしだけ、心細かった。
「……帰ろうかな」
ぼんやりと虫たちが進んで行った三途の川をぼうっと長いこと眺めていた。ザッと立ち上がる。
「あなたは誰? 石積みのところにずっと座っていたみたいだけれど」
「わぁ!? ご、ごめんね!?」
いきなり声をかけられて驚いた。声のかかった方を見るとそこには女の子がいた。どこかふわりとしたような印象を受ける。赤色に近い斑点がついた白いワンピースみたいな服で、耳たぶが大きくて……
「聞いただけなのになんで謝るの? あなたは悪いことしてないよ?」
「えっと……うん」
沈黙。なにを話せばいいのかが分からない。
「あなたの名前は? 何?」
固まった私をそう言ったのはその子だった。
「えっと、私はリグル。リグル・ナイトバグ」
「私は戎瓔花。よろしくねリグルさん」
瓔花。はじめて聞いた名前。そもそも見たこともなかったのではじめて出会ったのは当たり前なのだけれども。
「そういえばなぜここにいたの? 生きているものは来ないのに」
「……虫たちが死んでね。三途の川に送るために来ていたの」
「へえ。虫……あなたは妖怪? なぜ虫の世話をしているの?」
ポカンとしたような顔で首を傾げている。その動作はどこか幼さを感じさせた。
「私が虫の妖怪だからだよ。理由なんてそれだけ。でも、みんなは慕ってくれるから、少しは力になれたらいいな、なんて」
「みんなと遊べるならそれでいいじゃない。リグルさん、そろそろ石積みしたいからそこ開けてもらっていい?」
ニコニコとそう言われる。私は特にこの場所にいる理由もないので退く。少し離れた所から見ているとコツン、カツンと瓔花は石を積み始めた。手頃な石を掴んだと思ったら積んで、倒れそうなのに石は倒れない。
ひとつ、ふたつ、みっつ……ここのつ、とお。がらら、と石は崩れた。
「だめかー。もう少しだったんだけどな」
ガックリと肩を落としている。
「……石を積んで何をしてるの?」
「私の好きなこと! リグルさんも積んでみる?」
石積み……何かあったような気がする。けれども私に地獄は関係ない。閻魔様に説教されようと行けるわけないのだから。
「……じゃあ、やってみようかな」
「やった! 先にどれだけ積めるか勝負ね!」
嬉しそうに話す瓔花はニコニコしながら石を持つ。しゃがんで石を拾う。
いきなり視界が揺れた。気を失いそうになった所で私が飛ばされていることに気がつく。体制も整える間もなく私は河原の石の上に転がった。
「危なかった。瓔花。生者をここで石積みさせるなと何回言った?」
痛みに悶えながら投げ出された方を見ると小町さんが瓔花を叱っている……いてて……
「……何回目だっけ? 覚えてない」
首を傾げている。小町さんは悶々と困ったような顔をしている。
「四季様に怒られるのはあたいなんだ。生者に賽の河原の罰を与えたとしてね。勘弁してくれ。それと霊にさせたいのかい……どうなんだ瓔花」
「なんでそんな事言うの? 私はただ石積みをしたかっただけ」
はあ、と小町さんは大きなため息を着いた。
「あ、あの……いっつ……なんで蹴飛ばしたんです……」
「すまなかったね……生きているものが賽の河原で石積みをすると罰を貰ったことになるんだ。それと死に誘われるんだよ。それをされると不味いからね。妖怪は特に。存在を消されたくないなら三途の川に入るのはやめておけ、と言いたいね……」
そう言う地獄のルールがあるんだろうか。消えてしまう。そんなの嫌だ。まだ消えたくないんだ。私はまだ──
「ええっと……ごめんね? リグルさん……」
しょんぼりと落ち込んだ様子で謝る瓔花。
「あっえっ、うん……石は積めないみたいだけれど誘ってくれてありがとう」
痛む身体を起こしながら答えた。
「大丈夫かリグル。蹴り飛ばしたあたいが悪いが、現世に帰って休んどくれ。もう来るな……と言いたいがお前さんは……」
言葉を濁すかのような言い方だけれど私にはわかった。
「良いんです。私はそれで。瓔花、ありがとう、帰るね……」
「また来てくれる?」
こちらを伺うような目線で。
「自ずと来ることになるから大丈夫だよ。またお話しよう」
「三途の川に着いたよ。ほら、みんないってらっしゃい」
一斉に飛び立って行った。笑顔で見送る。
「お、リグルじゃないか」
後ろから声をかけられて振り返ると小町さんがいた。
「ああ、小町さん。いつもありがとうございます」
虫たちを運んでくれるのはいつも小町さんだ。それはとてもありがたいことだ。
「今回も酷いねぇ。最近、現世に行ってもあまり虫たちを見ないよ……元気でいて欲しいものだけれどね……」
飛んでいる虫の霊たちは小町さんの周りを飛び回る。
「はは、ありがとうな。ほら行こうか」
「よろしくお願いします」
軽く笑ったかと思うと虫たちを引き連れて船に乗って進んでいった。すこしだけ、心細かった。
「……帰ろうかな」
ぼんやりと虫たちが進んで行った三途の川をぼうっと長いこと眺めていた。ザッと立ち上がる。
「あなたは誰? 石積みのところにずっと座っていたみたいだけれど」
「わぁ!? ご、ごめんね!?」
いきなり声をかけられて驚いた。声のかかった方を見るとそこには女の子がいた。どこかふわりとしたような印象を受ける。赤色に近い斑点がついた白いワンピースみたいな服で、耳たぶが大きくて……
「聞いただけなのになんで謝るの? あなたは悪いことしてないよ?」
「えっと……うん」
沈黙。なにを話せばいいのかが分からない。
「あなたの名前は? 何?」
固まった私をそう言ったのはその子だった。
「えっと、私はリグル。リグル・ナイトバグ」
「私は戎瓔花。よろしくねリグルさん」
瓔花。はじめて聞いた名前。そもそも見たこともなかったのではじめて出会ったのは当たり前なのだけれども。
「そういえばなぜここにいたの? 生きているものは来ないのに」
「……虫たちが死んでね。三途の川に送るために来ていたの」
「へえ。虫……あなたは妖怪? なぜ虫の世話をしているの?」
ポカンとしたような顔で首を傾げている。その動作はどこか幼さを感じさせた。
「私が虫の妖怪だからだよ。理由なんてそれだけ。でも、みんなは慕ってくれるから、少しは力になれたらいいな、なんて」
「みんなと遊べるならそれでいいじゃない。リグルさん、そろそろ石積みしたいからそこ開けてもらっていい?」
ニコニコとそう言われる。私は特にこの場所にいる理由もないので退く。少し離れた所から見ているとコツン、カツンと瓔花は石を積み始めた。手頃な石を掴んだと思ったら積んで、倒れそうなのに石は倒れない。
ひとつ、ふたつ、みっつ……ここのつ、とお。がらら、と石は崩れた。
「だめかー。もう少しだったんだけどな」
ガックリと肩を落としている。
「……石を積んで何をしてるの?」
「私の好きなこと! リグルさんも積んでみる?」
石積み……何かあったような気がする。けれども私に地獄は関係ない。閻魔様に説教されようと行けるわけないのだから。
「……じゃあ、やってみようかな」
「やった! 先にどれだけ積めるか勝負ね!」
嬉しそうに話す瓔花はニコニコしながら石を持つ。しゃがんで石を拾う。
いきなり視界が揺れた。気を失いそうになった所で私が飛ばされていることに気がつく。体制も整える間もなく私は河原の石の上に転がった。
「危なかった。瓔花。生者をここで石積みさせるなと何回言った?」
痛みに悶えながら投げ出された方を見ると小町さんが瓔花を叱っている……いてて……
「……何回目だっけ? 覚えてない」
首を傾げている。小町さんは悶々と困ったような顔をしている。
「四季様に怒られるのはあたいなんだ。生者に賽の河原の罰を与えたとしてね。勘弁してくれ。それと霊にさせたいのかい……どうなんだ瓔花」
「なんでそんな事言うの? 私はただ石積みをしたかっただけ」
はあ、と小町さんは大きなため息を着いた。
「あ、あの……いっつ……なんで蹴飛ばしたんです……」
「すまなかったね……生きているものが賽の河原で石積みをすると罰を貰ったことになるんだ。それと死に誘われるんだよ。それをされると不味いからね。妖怪は特に。存在を消されたくないなら三途の川に入るのはやめておけ、と言いたいね……」
そう言う地獄のルールがあるんだろうか。消えてしまう。そんなの嫌だ。まだ消えたくないんだ。私はまだ──
「ええっと……ごめんね? リグルさん……」
しょんぼりと落ち込んだ様子で謝る瓔花。
「あっえっ、うん……石は積めないみたいだけれど誘ってくれてありがとう」
痛む身体を起こしながら答えた。
「大丈夫かリグル。蹴り飛ばしたあたいが悪いが、現世に帰って休んどくれ。もう来るな……と言いたいがお前さんは……」
言葉を濁すかのような言い方だけれど私にはわかった。
「良いんです。私はそれで。瓔花、ありがとう、帰るね……」
「また来てくれる?」
こちらを伺うような目線で。
「自ずと来ることになるから大丈夫だよ。またお話しよう」
書き出しの所、小町に蹴られた所の場面が唐突に感じました。
内容は面白かったです。