私は母から言われた事がある。
「さとりは心を読むのが上手ね」と。
覚妖怪というものは心を読む妖怪らしい。
成る程、そうであれば私は覚妖怪なんだろう。
その中でも心を読む事に長けた存在なんだろう。
でも私はその言葉が嫌いだった。
私には妹が居る。
その子は心を読むのが私より上手くはなかった。
しかし、あの子は読んだ心を扱うのが上手かった。
よく読んだ心で人を弄んでいた。
私はあの子が羨ましかった。
本当に羨ましかった。
ずるいと思った。
あの子はあまり褒められる事はなかった。
でもあの子の周りにはいつも誰かが付いていた。
私が万物の心を読めるようになった時、沢山の人が称賛の言葉をくれた。
その言葉は確かに本心の様ではあった。
それなのに私はその言葉をプレゼント用のラッピング紙みたいだと思った。
見た目は綺麗だけれども、意味は無い。
破って、捨てて、おしまい。
あの子が心を読み間違えた時、沢山の人があげつらって笑った。
どれだけ時間が経っても人はその事であの子を笑った。
でも、その後には必ず激励の言葉が付いていた。
誰もがあの子の事を好いていた。
きっとみんなにとってあの子はオモチャだったのかも知れない。
間違えながらも前に進んでいくあの子の行く末を楽しんでいたのかも知れない。
みんなとはちょっと違っているあの子を気に掛けていたのかも知れない。
私とあの子が大きくなって、一人前と言われる様になった頃。
私は優等生だった。
あの子は多分、問題児。
心を読む事はまだいまいち。
でも、私は思う。
心を感じる事においてあの子には敵わない。
きっと、誰も敵わない。
そう、それが多分本当の覚妖怪なんだと思う。
私は理屈で心を読んでいた。
あの子は感覚で心を読んでいた。
私は間違える事はなかった。
あの子はよく間違えた。
私は完璧だったけれど、正解ではなかった。
あの子は欠陥だらけだけど、正解だった。
私は気が狂いそうだった。
心を読むという事が分からなくなった。
何が心を読むという事か分からなくなった。
あの子は何も考えていないけど、心を読むという事を何となく分かっていた。
周りの人もきっと、気付いてはいないだろうけど、それを知っていた。
だからあの子にはみんなが付いて行ったんだ。
私は思った。
自分で言うのも気恥ずかしいけど、私は精巧なガラス玉。
透き通って、綺麗で、キラキラした完璧なガラス玉。
でも、所詮はただのガラス玉。
価値なんてない。
対してあの子は宝石だ。
どんなに荒削りでも、濁っていようとも、本物の宝石。
今はまだ、価値が見出されていないかもしれない。
でも、磨かれていけばきっと、輝くんだろうな。
私達が故郷を出てから、二人で暮らすようになった。
私はあの子と一緒に居るのが嬉しかった。
宝石を独占した気がして嬉しくなった。
でもあの子は突然、心を読む事をやめた。
あの子は覚妖怪ではなくなった。
そうしてだんだんと私から離れていった。
私から離れていった先で、あの子はやっぱり人に囲まれていた。
私はふと、あの子を殺したいと思った。
でも本当は分かっていた。
結局は私はあの子が羨ましいだけなんだと。
きっと、心を読む事をやめたことで、あの子はもっと覚妖怪に近づいたんだと思う。
私はそれを間違っていると思いたかった。
今まで私がやってきた完璧が否定されるのが怖くて、あの子の事を否定したかった。
違う。
私はなぞる事しか出来ない自分を認めたくなかった。
自分は正しいと思いたかった。
自分の存在する価値を消し去りたくなかった。
自分で道を拓く恐怖から逃げたかった。
でもあの子はそんな私のちっぽけなプライドを嘲うかのように先に進んでいった。
私はそれが憎らしかった。
私の存在が無意味だと言われたようで悲しかった。
なんで自覚してないのに正解を選び取っていくんだろう。
私はあの子が本当に羨ましかった。殺したいと思った。
さも、知らん顔をして私よりもすごい事をしていくあの子が眩しかった。
私はあの子が嫌いだ。
私は私が嫌いだ。
なんで。
なんであの子はできて私はできないの。
ずるい。
私は、私が生まれたこの世界を呪う。
私は、あの子が存在する世界を呪う。
殺す。
「さとりは心を読むのが上手ね」と。
覚妖怪というものは心を読む妖怪らしい。
成る程、そうであれば私は覚妖怪なんだろう。
その中でも心を読む事に長けた存在なんだろう。
でも私はその言葉が嫌いだった。
私には妹が居る。
その子は心を読むのが私より上手くはなかった。
しかし、あの子は読んだ心を扱うのが上手かった。
よく読んだ心で人を弄んでいた。
私はあの子が羨ましかった。
本当に羨ましかった。
ずるいと思った。
あの子はあまり褒められる事はなかった。
でもあの子の周りにはいつも誰かが付いていた。
私が万物の心を読めるようになった時、沢山の人が称賛の言葉をくれた。
その言葉は確かに本心の様ではあった。
それなのに私はその言葉をプレゼント用のラッピング紙みたいだと思った。
見た目は綺麗だけれども、意味は無い。
破って、捨てて、おしまい。
あの子が心を読み間違えた時、沢山の人があげつらって笑った。
どれだけ時間が経っても人はその事であの子を笑った。
でも、その後には必ず激励の言葉が付いていた。
誰もがあの子の事を好いていた。
きっとみんなにとってあの子はオモチャだったのかも知れない。
間違えながらも前に進んでいくあの子の行く末を楽しんでいたのかも知れない。
みんなとはちょっと違っているあの子を気に掛けていたのかも知れない。
私とあの子が大きくなって、一人前と言われる様になった頃。
私は優等生だった。
あの子は多分、問題児。
心を読む事はまだいまいち。
でも、私は思う。
心を感じる事においてあの子には敵わない。
きっと、誰も敵わない。
そう、それが多分本当の覚妖怪なんだと思う。
私は理屈で心を読んでいた。
あの子は感覚で心を読んでいた。
私は間違える事はなかった。
あの子はよく間違えた。
私は完璧だったけれど、正解ではなかった。
あの子は欠陥だらけだけど、正解だった。
私は気が狂いそうだった。
心を読むという事が分からなくなった。
何が心を読むという事か分からなくなった。
あの子は何も考えていないけど、心を読むという事を何となく分かっていた。
周りの人もきっと、気付いてはいないだろうけど、それを知っていた。
だからあの子にはみんなが付いて行ったんだ。
私は思った。
自分で言うのも気恥ずかしいけど、私は精巧なガラス玉。
透き通って、綺麗で、キラキラした完璧なガラス玉。
でも、所詮はただのガラス玉。
価値なんてない。
対してあの子は宝石だ。
どんなに荒削りでも、濁っていようとも、本物の宝石。
今はまだ、価値が見出されていないかもしれない。
でも、磨かれていけばきっと、輝くんだろうな。
私達が故郷を出てから、二人で暮らすようになった。
私はあの子と一緒に居るのが嬉しかった。
宝石を独占した気がして嬉しくなった。
でもあの子は突然、心を読む事をやめた。
あの子は覚妖怪ではなくなった。
そうしてだんだんと私から離れていった。
私から離れていった先で、あの子はやっぱり人に囲まれていた。
私はふと、あの子を殺したいと思った。
でも本当は分かっていた。
結局は私はあの子が羨ましいだけなんだと。
きっと、心を読む事をやめたことで、あの子はもっと覚妖怪に近づいたんだと思う。
私はそれを間違っていると思いたかった。
今まで私がやってきた完璧が否定されるのが怖くて、あの子の事を否定したかった。
違う。
私はなぞる事しか出来ない自分を認めたくなかった。
自分は正しいと思いたかった。
自分の存在する価値を消し去りたくなかった。
自分で道を拓く恐怖から逃げたかった。
でもあの子はそんな私のちっぽけなプライドを嘲うかのように先に進んでいった。
私はそれが憎らしかった。
私の存在が無意味だと言われたようで悲しかった。
なんで自覚してないのに正解を選び取っていくんだろう。
私はあの子が本当に羨ましかった。殺したいと思った。
さも、知らん顔をして私よりもすごい事をしていくあの子が眩しかった。
私はあの子が嫌いだ。
私は私が嫌いだ。
なんで。
なんであの子はできて私はできないの。
ずるい。
私は、私が生まれたこの世界を呪う。
私は、あの子が存在する世界を呪う。
殺す。
“私”は“あの子”を殺したいと思うほど憎んでいるのが好きです。
その感情が素晴らしい。
さとりの憎しみに満ちた独白がよかったです
二人とも本当の意味で他と触れ合えてなさそうなのがまた悲しいところですね