家の中で魔法の研究をしていたら開け放っている窓から蝉が入ってきた。私の肩にとまったのでそいつを握る。手の中でバタバタと暴れている。
──蝉か。そう言えばなんか言われたな。
気がつくと思い出していた。
そんな数日前の話だ。
魔法の森で私は魔法の材料をとりに行っていたんだ。
暑い夏の今は生き物が少ないこの森でも蝉の声が五月蝿いのだ。一週間だけの儚い生命はつがいを見つけて子供を残して死んでいく。なんともまあ難儀なことだ。
私の黒の服は木漏れ日の中でも熱を吸って暑い。額から汗が流れていく。日焼けを気にして長袖にしていたのが悪かったか。半袖にすればよかったかな……
ガサガサといつもの所に歩いて行くと途中で蜘蛛の巣に引っかかった蝉を見た。
まるで何者も捕らえることの出来なさそうな糸はそれでも蝉を捕らえている。蝉は羽を動かしてジジ、ジジジと蜘蛛の糸の中で暴れている。なんとも憐れなことか。
その憐れみから私は蜘蛛の巣から蝉を解放した。糸を外した途端にジジジと鳴きながら木々を超えて空に飛んでいった。
はは、どうにか生きていけよ。まあ一週間で死ぬけどな。
「あーあ、生命の営みに干渉するんだね? 白黒の魔法使いさん?」
「……なんだよ、エタニティラルバ。お前今の季節は太陽の畑にいるんだろう」
「散歩してたんだよ。なんでそんなに不満そうなのかな」
アゲハ蝶の妖精、エタニティラルバ。こいつが話しかけてくるとは思わなかった。異変の時以外に出会うことなんか無かったから。
「憐れみであの蝉を解放してやっただけだが」
「人間って傲慢だね。あの蝉を捕まえたことで生きることの出来た蜘蛛もいたのに。あの蝉はあそこで死んでいた。あの蜘蛛は生きながらえることが出来なくなった」
大きなアゲハの羽をはためかせながらそんなこと言う。その行動にイラりとした。
「……知るかそんなこと。私がしたいと思ったから解放しただけだ。営みなんぞ興味もない」
はじめからしていた薄ら笑いが消えたように見えた。
ボウッ、と鱗粉が私の周りを囲む。私は慌てることも無くミニ八卦炉を構える。攻撃しようというなら叩きのめすまでだ。
「本当に貴女はひどい人間だ。神だった時の人間の方がマシだったよ」
「生憎様。人間は元から酷いやつだぞ。それをお前は綺麗な所しか見てこなかったんじゃないのか」
エタニティラルバが神だったとかどうとかは興味無い。しかしその一括りで纏めてもらいたくないものだ。
「あーあ、興味無くなった。じゃあね、人里の霧雨店のお嬢さん」
「なっ……!? お前……!? 待ちやがれ!」
唐突な触れられたくないことを言われた後にエタニティラルバが空を飛んでいくのを見た。本当は追いかけてぶちのめしたかったがもうどうでもいい。家に帰るか。
気がついたら解けていた鱗粉は服にこびりついていた。
***
家に帰って服を洗う方が大変だった。
そんなふうに意識が飛んでいると手の中の蝉が暴れる感覚で現実に戻ってきた。
「……生憎様。人間はそもそも醜いものだ。それをお前は分かっているのか」
私は手の中の蝉を握り潰した。
──蝉か。そう言えばなんか言われたな。
気がつくと思い出していた。
そんな数日前の話だ。
魔法の森で私は魔法の材料をとりに行っていたんだ。
暑い夏の今は生き物が少ないこの森でも蝉の声が五月蝿いのだ。一週間だけの儚い生命はつがいを見つけて子供を残して死んでいく。なんともまあ難儀なことだ。
私の黒の服は木漏れ日の中でも熱を吸って暑い。額から汗が流れていく。日焼けを気にして長袖にしていたのが悪かったか。半袖にすればよかったかな……
ガサガサといつもの所に歩いて行くと途中で蜘蛛の巣に引っかかった蝉を見た。
まるで何者も捕らえることの出来なさそうな糸はそれでも蝉を捕らえている。蝉は羽を動かしてジジ、ジジジと蜘蛛の糸の中で暴れている。なんとも憐れなことか。
その憐れみから私は蜘蛛の巣から蝉を解放した。糸を外した途端にジジジと鳴きながら木々を超えて空に飛んでいった。
はは、どうにか生きていけよ。まあ一週間で死ぬけどな。
「あーあ、生命の営みに干渉するんだね? 白黒の魔法使いさん?」
「……なんだよ、エタニティラルバ。お前今の季節は太陽の畑にいるんだろう」
「散歩してたんだよ。なんでそんなに不満そうなのかな」
アゲハ蝶の妖精、エタニティラルバ。こいつが話しかけてくるとは思わなかった。異変の時以外に出会うことなんか無かったから。
「憐れみであの蝉を解放してやっただけだが」
「人間って傲慢だね。あの蝉を捕まえたことで生きることの出来た蜘蛛もいたのに。あの蝉はあそこで死んでいた。あの蜘蛛は生きながらえることが出来なくなった」
大きなアゲハの羽をはためかせながらそんなこと言う。その行動にイラりとした。
「……知るかそんなこと。私がしたいと思ったから解放しただけだ。営みなんぞ興味もない」
はじめからしていた薄ら笑いが消えたように見えた。
ボウッ、と鱗粉が私の周りを囲む。私は慌てることも無くミニ八卦炉を構える。攻撃しようというなら叩きのめすまでだ。
「本当に貴女はひどい人間だ。神だった時の人間の方がマシだったよ」
「生憎様。人間は元から酷いやつだぞ。それをお前は綺麗な所しか見てこなかったんじゃないのか」
エタニティラルバが神だったとかどうとかは興味無い。しかしその一括りで纏めてもらいたくないものだ。
「あーあ、興味無くなった。じゃあね、人里の霧雨店のお嬢さん」
「なっ……!? お前……!? 待ちやがれ!」
唐突な触れられたくないことを言われた後にエタニティラルバが空を飛んでいくのを見た。本当は追いかけてぶちのめしたかったがもうどうでもいい。家に帰るか。
気がついたら解けていた鱗粉は服にこびりついていた。
***
家に帰って服を洗う方が大変だった。
そんなふうに意識が飛んでいると手の中の蝉が暴れる感覚で現実に戻ってきた。
「……生憎様。人間はそもそも醜いものだ。それをお前は分かっているのか」
私は手の中の蝉を握り潰した。
もう本当になんとも思ってなさそうですごい魔理沙です