Coolier - 新生・東方創想話

生かす事。殺す事。

2019/08/09 19:08:04
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 家の中で魔法の研究をしていたら開け放っている窓から蝉が入ってきた。私の肩にとまったのでそいつを握る。手の中でバタバタと暴れている。
 ──蝉か。そう言えばなんか言われたな。
 気がつくと思い出していた。

 そんな数日前の話だ。

 魔法の森で私は魔法の材料をとりに行っていたんだ。
 暑い夏の今は生き物が少ないこの森でも蝉の声が五月蝿いのだ。一週間だけの儚い生命はつがいを見つけて子供を残して死んでいく。なんともまあ難儀なことだ。
 私の黒の服は木漏れ日の中でも熱を吸って暑い。額から汗が流れていく。日焼けを気にして長袖にしていたのが悪かったか。半袖にすればよかったかな……

 ガサガサといつもの所に歩いて行くと途中で蜘蛛の巣に引っかかった蝉を見た。
 まるで何者も捕らえることの出来なさそうな糸はそれでも蝉を捕らえている。蝉は羽を動かしてジジ、ジジジと蜘蛛の糸の中で暴れている。なんとも憐れなことか。
 その憐れみから私は蜘蛛の巣から蝉を解放した。糸を外した途端にジジジと鳴きながら木々を超えて空に飛んでいった。
 はは、どうにか生きていけよ。まあ一週間で死ぬけどな。

「あーあ、生命の営みに干渉するんだね? 白黒の魔法使いさん?」

「……なんだよ、エタニティラルバ。お前今の季節は太陽の畑にいるんだろう」

「散歩してたんだよ。なんでそんなに不満そうなのかな」

 アゲハ蝶の妖精、エタニティラルバ。こいつが話しかけてくるとは思わなかった。異変の時以外に出会うことなんか無かったから。

「憐れみであの蝉を解放してやっただけだが」

「人間って傲慢だね。あの蝉を捕まえたことで生きることの出来た蜘蛛もいたのに。あの蝉はあそこで死んでいた。あの蜘蛛は生きながらえることが出来なくなった」

 大きなアゲハの羽をはためかせながらそんなこと言う。その行動にイラりとした。

「……知るかそんなこと。私がしたいと思ったから解放しただけだ。営みなんぞ興味もない」

 はじめからしていた薄ら笑いが消えたように見えた。
 ボウッ、と鱗粉が私の周りを囲む。私は慌てることも無くミニ八卦炉を構える。攻撃しようというなら叩きのめすまでだ。

「本当に貴女はひどい人間だ。神だった時の人間の方がマシだったよ」

「生憎様。人間は元から酷いやつだぞ。それをお前は綺麗な所しか見てこなかったんじゃないのか」

 エタニティラルバが神だったとかどうとかは興味無い。しかしその一括りで纏めてもらいたくないものだ。

「あーあ、興味無くなった。じゃあね、人里の霧雨店のお嬢さん」

「なっ……!? お前……!? 待ちやがれ!」

 唐突な触れられたくないことを言われた後にエタニティラルバが空を飛んでいくのを見た。本当は追いかけてぶちのめしたかったがもうどうでもいい。家に帰るか。
 気がついたら解けていた鱗粉は服にこびりついていた。

 ***

 家に帰って服を洗う方が大変だった。
 そんなふうに意識が飛んでいると手の中の蝉が暴れる感覚で現実に戻ってきた。

「……生憎様。人間はそもそも醜いものだ。それをお前は分かっているのか」

 私は手の中の蝉を握り潰した。
エゴなぞ、そこらに転がっているものである。
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コメント



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2.90奇声を発する程度の能力削除
雰囲気が良かったです
5.100南条削除
魔理沙のエゴっぷりが面白かったです
もう本当になんとも思ってなさそうですごい魔理沙です
6.100モブ削除
いい意味で魔理沙の子どもらしさが出ている気がします。実は魔理沙が一番人間の醜さを分かっていなかったり。
7.90封筒おとした削除
人間と妖精の視点の違いが面白いですね
8.90仲村アペンド削除
情感の薄い、どこか空虚なやり取りがかえって人間味を感じさせるように思えました。風変わりで面白かったです
11.100終身削除
何の気なしに生かすのも咎められたせいで機嫌を損ねて殺すのもほとんど何も考えられずに選ぶことができる人間のエゴですね… 人間全体のことと扱って無意識に逃げようとしてるのも怖いところ
12.100名前が無い程度の能力削除
純粋ながら残酷さも兼ね備えている、まさに幼い残虐性を描いた作品だと思いました。幼少期の子供は命に興味津々でありながら、それを散らす事に魅入られる。色々と考えさせられるお話でした。