「姉が来たぞ妹よ」
「はい今晩は」
「今はいいか?」
「いいよ」
「なあオイ、また随分汚したじゃないか。楽しそうで何よりだよ」
「ええまあ。おかげさまでまた大分広くなりました」
「しかし・・・掃除する前が汚いほど、お前の羽が奇麗になるのが快感に思えるがね」
「やん。恥ずかしい」
「今度は何の部屋を?」
「魔法陣の効率化を考える部屋。最近、色々な魔法が一気に使えるようになってきたのは楽しいのだけれど、その分書き込みが煩雑化してきてるのが鬱陶しく感じられて」
「洗練化の時期か。いいじゃあないか」
「ごめんなさい。途中だった本の続きを読んでもいいかしら」
「ああいいぞ。しかし最近躍起になって勉強しているように思えるな。一体何が目的なんだ」
「認識関連の魔法を少々」
「それはお前の能力でどうにかできないのか?」
「多分出来るけど・・・大切に扱いたいから」
「ほう!それは実に素晴らしい。励みたまえよ」
「ありがとうございます」
「ほら、磨き終わった。やはりお前の羽は美しい。静止した雨の一粒の様に」
***
「私だよー」
「ああ。こんにちは」
「うんこんにちは」
「どうかされました?」
「こころちゃんが居ないからここまで来ちゃった」
「今日はあのミミズクの処だったような」
「なあんだ、そうなの。でもねー、別にこころちゃんに用事があったわけじゃないんだけどね。あなたでも私は良いなあ」
「あらあら、私でよければお相手します」
「でもあなた私のこと嫌いなのに大丈夫?」
「私が?こいしさんのことを?」
「自覚がないのね」
「自覚も何も、そんなことはないと思います」
「私と喋ってるとすぐに顔を引きつらせて冷や汗をかく。そんな風に」
「・・・ふふ。違いますよ。そんな意地悪を言われたら誰からでも私はこんな風になります。そちらの方が、いけすかない私に攻撃して嫌わせたいのではないですか?」
「こういうのは相手にしないのかと思ってたけど結構口が強いのね。今日はこのくらいで勘弁してあげる」
「まあそうおっしゃらず。あなたがそんな顔をしているのは初めて見ました。もう少し私と・・・いえ、そうですね。よろしければ叩きのめしてあげますよ」
「それはとっても素敵だわ」
***
「おっす」
「はい今晩は」
「頼まれてた奴」
「ああ、ありがとう」
「こんなの覚えたところであいつは捕まらないと私は思うけど」
「頭に捕まえておきたいの。あいつは誰に対しても能力全開で近づいて好き勝手に絡んでおいて、次に会った時には『覚えてないの?薄情ね』とか言うタイプのカス女よ。ムカつくじゃない」
「結構覚えてるじゃん今すでに」
「確かに。基準がよくわからない。魔理沙はどう思う?」
「別にどうとも。あーでも、お前が聞きたい答えとは違うかもしれないけど」
「いいよ。何?」
「私だって別に霊夢やアリスのことなんて何にも知らんけどな」
「・・・ふむ」
「だからお前のやってることが意味ないとかって話じゃなくてさ」
「まあ、そうね。良い友人関係を築きたいからやってる訳じゃない。ただの意地よこれは」
「ナメられるのは我慢できないって?姉に似てきたんじゃないか」
「ばかねティーンエイジャー。初めからそっくりよ」
***
「私だよー」
「うわ、はい、な、何ですか?」
「随分驚くのね」
「向かいの席に突然人が現れたら驚きますよ。団子食べます?」
「わーい。いただきます。いつもここで食べてるの?」
「ええまあ。休憩がてら」
「ご主人様にもお土産もっていかないとスネられちゃうんじゃない?」
「このことを喋ったことはありません。ばれた処で、別にそんなことで気を悪くする方ではないですし。それにご主人様でもないです。趣味で家事をやらさせて頂いているので私の立場を誤解している方は多いのですがね」
「あら、ごめんなさーい」
「興味もないと言った風ですか?」
「ええ。そんなことないってぇ。なんだかいつもより邪険に扱われているような気がするよう」
「いつもと雰囲気が違うのはそちらの方でしょう。無邪気さに薄っぺらさを感じる」
「やっぱりわかる?ちょっとイライラしてるの。ごめんねつっかかって」
「構いませんよ。私は人と話すは本来苦手でしてね。それでも人付き合いは良い方だと自負はあります。斬って欲しいと言うのならいつでもお相手致しますので」
「あ、じゃあ今から!」
「待ちなさい。会計を済ませてからです」
***
「完全で瀟洒でーす」
「はい今晩は。完全で瀟洒を名乗りながらノックの返事も待たずに部屋に入ってくるのははたして完全で瀟洒なのかしら?」
「完全に完全で瀟洒かと思われます。お嬢様がお作りになられたマドレーヌがありますが」
「いいわね。それでどうしたの?」
「あんなに仲睦まじい様子でしたのに、最近遊びにいらっしゃらない方が」
「ああ、心配してくれているの?余計なお世話よ、うん。私が暫く来るなと言ったの」
「それはまたどうして」
「あの在り方に対する対抗策を覚えるまでは研究に没頭したくてね。悪いのだけれど今は貴女にも出て行って欲しいわ」
「いやでーす。紅茶どうぞ」
「ありがとう。はあ。もう少し話せば満足するの?あいつはやっぱりさとり妖怪の血よね。人を見透かしたような事を言ってせせら笑うのに悦びを覚えるところがあるわ。しかし私はそれをされたことを殆ど覚えても居られない。わかる?」
「なんだかさとり様とはあまり似てないのですね。お嬢様とさとり様が話されている時はもっとこう・・・」
「言いたい事はわかるけど、あの姉も同類よ。というかあの姉と比べたらこいしなんて可愛い方。お姉様の事をすごーーーく気に入ってるから態度がとっても軟化していてそう見えるだけ」
「それにしても、来るなと言われたからといって本当に来なくなるタイプでもなさそうでしたのに」
「それは私も少し引っかかってるけど。あの娘、自分は好き勝手言う割に案外気にしいなのかもね」
「大体わかりました。ではお邪魔しました。私に何かできることは?」
「ないわ。とっととこの空き皿を片付けること以外はね」
***
「私だよー」
「こいし殿。こころ殿ならここにはおらぬが」
「あれ?私こころちゃんに会いに来たって?」
「確かに。言っておりませんな」
「不思議な人ねえ、あなたって。でもねー、別にこころちゃんに用事があったわけじゃないんだけどね。あなたでも私は良いなあ」
「ほう。我は構わんぞ。だがそもそも、我慢して目当ての場所以外の処をいくらフラフラと歩き回ろうが満足は得られまいよ」
「えっ?」
「無意識に溶け込むお主がそこら中で噂になるほど人の内面をつついて回っていると悪評が広まってな。しかしその悪評の届いてこない場所が一つだけある。お主が痛く気に入っているあの館」
「すごい、なんでそんなに詳しいの?」
「ふふん、我は大体なんでも詳しいわ。謀の一助となるし・・・世の須らくを二分すべしと動いておるのでな。その点こいし殿は太子様に寵愛を受けておるし、実に下らぬ痴話喧嘩の八つ当たりであっても我には引き受ける用意がある」
「何と何に二分するの?」
「知れたこと。太子様のお役に立つもの、立たぬものだ」
「極端!」
「それで、かかってくるのだろう?」
「私はちょっとお喋りできればそれで良かったんだけど、こっちの方が面白そうだからかかっていくわ!」
***
「ご注文の物をお持ちしました!」
「はい今晩は」
「この館の事だから心配はしてないけど、これすっごい高いよ?大丈夫?」
「平気よ。私が稼いだ分だけで足りる。それにしても、相変わらずいい仕事ね。正直ダメ元だったけど貴女に頼んで正解だった」
「アダマンで釘を作ってくれなんてとんでもない仕事、他では絶対振られないよ・・・本当に疲れた。にとりちゃんとかうつほちゃんとかにも手伝って貰っちゃった」
「引きこもってるだけの私が言うのもなんだけど、貴女って謎に人脈広いわよね」
「あ、今なんか少しお腹が膨れた」
「妖怪の驚きでもいいの?結構適当・・・」
「人間の驚きの方がおいしいけどね、やっぱり」
「おいしい驚きとかまずい驚きとかよくわからないわ。血の味で例えてくれない?」
「どう考えても無理でしょ。それで、これ何に使うのとか聞いてもいいの?」
「色々考えて結界式に落ち着いたのよね。その釘の役目は魔法陣の補強と呪術的格式の意味合いが強いかな。要は格の高い奴にも効くように魔法の強度を上げるため。結界内の存在に対して現行宇宙とアストラル宇宙とウィスプ宇宙との連続性を強化、更に稀薄性とゆらぎを排除して固定化するだけだから、普通にしてたら別に何も起こらないわ。強いて言えば魔法を使いやすくなるかしらね」
「おお、見事に何言ってるかわかんない。管轄外っぽいです。えっと、何のためにこれを?」
「簡単に言うとこの中では存在感の均一化が行われる訳よ。影の薄ーい奴とか、逆に存在感が強すぎる奴とか、そういう概念がなくなる」
「・・・ああ!なるほど!うまくいくといいですねえ」
「ありがとう。突然の微笑ましい物を見る目に思わず殺意が沸いたから、金を受け取ったら咲夜に土産でも貰って速やかに帰ることね」
「はーい」
***
「やっと見つけたぞ!」
「私だよー・・・って、私より先に私を見つけないでくれる?」
「理不尽な物言いはよせ」
「貴様、私を探し回ってはそのついでに暴れて目立ちまくってるそうだな。道すがら私が文句を言われたぞ」
「誤解すぎるでしょ。確かに貴方がいないかなーってフラフラはしてたけど、皆勝手に何かを察して私に暴れさせてくれただけだよ?話が早すぎてちょっと気持ち悪かった」
「理不尽な物言いはよせ」
「それで、私を探してくれてたの?」
「その通りだ。探しながら考えてて思ったんだけど」
「何?」
「無意識を操るって何?無意識って操ろうとしたらそれは無意識なの?」
「それを深く考えるといままで出来てたことが出来なくなりそうだからやめて」
「はい」
「よろしい」
「で、私に何の用だったの」
「べぇっつに何にも用事とかあるわけないでしょ?私を誰だと思ってるの古明地こいしだよ?」
「こいつはほんとに」
「ごめんね、あきれた?」
「あきれた時の仮面はこれ」
「うわあすごいあきれてるっぽい」
「お前にはいつもあきれてるよ」
「お詫びに私と良いことしよっか」
「良いことって?」
「ほらー、勝った方が最強になれるやつだよ」
「やっぱりいつもと同じじゃないか!また泣かしてやるぞ古明地こいし!」
「あははっ、また『ぬわー』とか言って悔しがらせてあげるよ、こころちゃん!」
***
「お邪魔します」
「はい今晩は」
「大したことではないのですが、好きそうなお香を見つけたのでプレゼントに来ましたよ」
「あら、素敵ね。点けてみてくれる?」
「はい」
「進捗はどんな感じですか?」
「大体終わったわね。今ちょうど片付けも済んで暇になるってところだったかな」
「ちょうどいいタイミングでしたね」
「そんなこと言って、いつも図ったみたいな時に来るじゃない」
「そうですかねえ。庭で採れたミニトマト食べます?」
「食べます。なんなのかしら。ここの住人は私に、とりあえず何か食べさせておけば機嫌は保てるとか思ってる節ない?」
「皆がどう思ってるかは判りませんが、私は妹様が何かを食べてるところが愛らしくて好きなのでつい色々持ってきてしまいますね」
「ああそう。嬉しいわ」
「恐縮です」
「これから暫く暇になるのかしらね」
「さあ、こいしさんはいらっしゃらないんですか?」
「暫く来るなって言ったって、暫くの尺度がわからないから。今すぐにでも来るかもしれないし、もう来ないかもしれないわね」
「妹様はそれで?」
「別にどっちでも。来るなら構うし、来ないならそれまでよ」
「ははあ」
「ねえ美鈴」
「なんでしょう」
「このお香いいね。気に入った」
***
「私だよー」
「おかえり」
「うんただいま」
「なんだかいつもより汚れが目立つわね」
「そうかも」
「どれくらい帰ってなかったの?」
「2か月くらいかな」
「もう。一緒にお風呂入る?」
「入る入る」
「ちょっと待ってね、これ読んでからでいいかしら」
「いいよ」
「最近どうしてたの?」
「別に、いつも通りだよ」
「いつも通りなら、私が聞かなくてもあったことを一から十まで喋るじゃない」
「それはお姉ちゃんが本を読んでるのを邪魔しないためだよ」
「ありえないわ」
「どうして?」
「こいしはいつも私が本を読んでるかどうかなんて気にしないもの」
「私は古明地こいしじゃないの?」
「いいえ貴女は古明地こいしよ」
「そうよ私は古明地こいし」
「まあねえ。ちょっと何かあったのかしらと、心配になったりするのよ私も」
「ええー。お姉ちゃんは最近私じゃなくてレミリアさんにばっかり構ってるじゃない」
「そういうこいしは最近フランさんに全然構わないわよね」
「だって暫く来るなって言われたんだもの」
「じゃあもう明日行けばいいんじゃない?暫くって多分五分くらいだと私は思うわ」
「えー?私は暫くって、ずっとだと思ってた」
「こいしはあの姉妹のこと、全然わかってないのね」
「どういう意味?」
「もう来るなと思うほど失望させたら、その場で吸いつくされてこの世から居なくなる。私たちはそういう人達と友達なんだと思わない?」
「はっ。レミリアさんを良く知ってるからって、フランちゃんの事も知ったような口を利くのはつまらないね」
「そうかしら」
「あの姉妹と言うなら・・・あの姉妹だって、この姉妹のことは全然わかってないと思わない?」
「それはまったくその通り」
「はあ。もうわかった。お風呂行こうよお姉ちゃん。本なんていいからさ。それ私より大事なの?」
「すごい大事よ」
「うわームカつく!」
***
***
***
「私だよー」
「はい今晩は」
「はい今晩は」
「今はいいか?」
「いいよ」
「なあオイ、また随分汚したじゃないか。楽しそうで何よりだよ」
「ええまあ。おかげさまでまた大分広くなりました」
「しかし・・・掃除する前が汚いほど、お前の羽が奇麗になるのが快感に思えるがね」
「やん。恥ずかしい」
「今度は何の部屋を?」
「魔法陣の効率化を考える部屋。最近、色々な魔法が一気に使えるようになってきたのは楽しいのだけれど、その分書き込みが煩雑化してきてるのが鬱陶しく感じられて」
「洗練化の時期か。いいじゃあないか」
「ごめんなさい。途中だった本の続きを読んでもいいかしら」
「ああいいぞ。しかし最近躍起になって勉強しているように思えるな。一体何が目的なんだ」
「認識関連の魔法を少々」
「それはお前の能力でどうにかできないのか?」
「多分出来るけど・・・大切に扱いたいから」
「ほう!それは実に素晴らしい。励みたまえよ」
「ありがとうございます」
「ほら、磨き終わった。やはりお前の羽は美しい。静止した雨の一粒の様に」
***
「私だよー」
「ああ。こんにちは」
「うんこんにちは」
「どうかされました?」
「こころちゃんが居ないからここまで来ちゃった」
「今日はあのミミズクの処だったような」
「なあんだ、そうなの。でもねー、別にこころちゃんに用事があったわけじゃないんだけどね。あなたでも私は良いなあ」
「あらあら、私でよければお相手します」
「でもあなた私のこと嫌いなのに大丈夫?」
「私が?こいしさんのことを?」
「自覚がないのね」
「自覚も何も、そんなことはないと思います」
「私と喋ってるとすぐに顔を引きつらせて冷や汗をかく。そんな風に」
「・・・ふふ。違いますよ。そんな意地悪を言われたら誰からでも私はこんな風になります。そちらの方が、いけすかない私に攻撃して嫌わせたいのではないですか?」
「こういうのは相手にしないのかと思ってたけど結構口が強いのね。今日はこのくらいで勘弁してあげる」
「まあそうおっしゃらず。あなたがそんな顔をしているのは初めて見ました。もう少し私と・・・いえ、そうですね。よろしければ叩きのめしてあげますよ」
「それはとっても素敵だわ」
***
「おっす」
「はい今晩は」
「頼まれてた奴」
「ああ、ありがとう」
「こんなの覚えたところであいつは捕まらないと私は思うけど」
「頭に捕まえておきたいの。あいつは誰に対しても能力全開で近づいて好き勝手に絡んでおいて、次に会った時には『覚えてないの?薄情ね』とか言うタイプのカス女よ。ムカつくじゃない」
「結構覚えてるじゃん今すでに」
「確かに。基準がよくわからない。魔理沙はどう思う?」
「別にどうとも。あーでも、お前が聞きたい答えとは違うかもしれないけど」
「いいよ。何?」
「私だって別に霊夢やアリスのことなんて何にも知らんけどな」
「・・・ふむ」
「だからお前のやってることが意味ないとかって話じゃなくてさ」
「まあ、そうね。良い友人関係を築きたいからやってる訳じゃない。ただの意地よこれは」
「ナメられるのは我慢できないって?姉に似てきたんじゃないか」
「ばかねティーンエイジャー。初めからそっくりよ」
***
「私だよー」
「うわ、はい、な、何ですか?」
「随分驚くのね」
「向かいの席に突然人が現れたら驚きますよ。団子食べます?」
「わーい。いただきます。いつもここで食べてるの?」
「ええまあ。休憩がてら」
「ご主人様にもお土産もっていかないとスネられちゃうんじゃない?」
「このことを喋ったことはありません。ばれた処で、別にそんなことで気を悪くする方ではないですし。それにご主人様でもないです。趣味で家事をやらさせて頂いているので私の立場を誤解している方は多いのですがね」
「あら、ごめんなさーい」
「興味もないと言った風ですか?」
「ええ。そんなことないってぇ。なんだかいつもより邪険に扱われているような気がするよう」
「いつもと雰囲気が違うのはそちらの方でしょう。無邪気さに薄っぺらさを感じる」
「やっぱりわかる?ちょっとイライラしてるの。ごめんねつっかかって」
「構いませんよ。私は人と話すは本来苦手でしてね。それでも人付き合いは良い方だと自負はあります。斬って欲しいと言うのならいつでもお相手致しますので」
「あ、じゃあ今から!」
「待ちなさい。会計を済ませてからです」
***
「完全で瀟洒でーす」
「はい今晩は。完全で瀟洒を名乗りながらノックの返事も待たずに部屋に入ってくるのははたして完全で瀟洒なのかしら?」
「完全に完全で瀟洒かと思われます。お嬢様がお作りになられたマドレーヌがありますが」
「いいわね。それでどうしたの?」
「あんなに仲睦まじい様子でしたのに、最近遊びにいらっしゃらない方が」
「ああ、心配してくれているの?余計なお世話よ、うん。私が暫く来るなと言ったの」
「それはまたどうして」
「あの在り方に対する対抗策を覚えるまでは研究に没頭したくてね。悪いのだけれど今は貴女にも出て行って欲しいわ」
「いやでーす。紅茶どうぞ」
「ありがとう。はあ。もう少し話せば満足するの?あいつはやっぱりさとり妖怪の血よね。人を見透かしたような事を言ってせせら笑うのに悦びを覚えるところがあるわ。しかし私はそれをされたことを殆ど覚えても居られない。わかる?」
「なんだかさとり様とはあまり似てないのですね。お嬢様とさとり様が話されている時はもっとこう・・・」
「言いたい事はわかるけど、あの姉も同類よ。というかあの姉と比べたらこいしなんて可愛い方。お姉様の事をすごーーーく気に入ってるから態度がとっても軟化していてそう見えるだけ」
「それにしても、来るなと言われたからといって本当に来なくなるタイプでもなさそうでしたのに」
「それは私も少し引っかかってるけど。あの娘、自分は好き勝手言う割に案外気にしいなのかもね」
「大体わかりました。ではお邪魔しました。私に何かできることは?」
「ないわ。とっととこの空き皿を片付けること以外はね」
***
「私だよー」
「こいし殿。こころ殿ならここにはおらぬが」
「あれ?私こころちゃんに会いに来たって?」
「確かに。言っておりませんな」
「不思議な人ねえ、あなたって。でもねー、別にこころちゃんに用事があったわけじゃないんだけどね。あなたでも私は良いなあ」
「ほう。我は構わんぞ。だがそもそも、我慢して目当ての場所以外の処をいくらフラフラと歩き回ろうが満足は得られまいよ」
「えっ?」
「無意識に溶け込むお主がそこら中で噂になるほど人の内面をつついて回っていると悪評が広まってな。しかしその悪評の届いてこない場所が一つだけある。お主が痛く気に入っているあの館」
「すごい、なんでそんなに詳しいの?」
「ふふん、我は大体なんでも詳しいわ。謀の一助となるし・・・世の須らくを二分すべしと動いておるのでな。その点こいし殿は太子様に寵愛を受けておるし、実に下らぬ痴話喧嘩の八つ当たりであっても我には引き受ける用意がある」
「何と何に二分するの?」
「知れたこと。太子様のお役に立つもの、立たぬものだ」
「極端!」
「それで、かかってくるのだろう?」
「私はちょっとお喋りできればそれで良かったんだけど、こっちの方が面白そうだからかかっていくわ!」
***
「ご注文の物をお持ちしました!」
「はい今晩は」
「この館の事だから心配はしてないけど、これすっごい高いよ?大丈夫?」
「平気よ。私が稼いだ分だけで足りる。それにしても、相変わらずいい仕事ね。正直ダメ元だったけど貴女に頼んで正解だった」
「アダマンで釘を作ってくれなんてとんでもない仕事、他では絶対振られないよ・・・本当に疲れた。にとりちゃんとかうつほちゃんとかにも手伝って貰っちゃった」
「引きこもってるだけの私が言うのもなんだけど、貴女って謎に人脈広いわよね」
「あ、今なんか少しお腹が膨れた」
「妖怪の驚きでもいいの?結構適当・・・」
「人間の驚きの方がおいしいけどね、やっぱり」
「おいしい驚きとかまずい驚きとかよくわからないわ。血の味で例えてくれない?」
「どう考えても無理でしょ。それで、これ何に使うのとか聞いてもいいの?」
「色々考えて結界式に落ち着いたのよね。その釘の役目は魔法陣の補強と呪術的格式の意味合いが強いかな。要は格の高い奴にも効くように魔法の強度を上げるため。結界内の存在に対して現行宇宙とアストラル宇宙とウィスプ宇宙との連続性を強化、更に稀薄性とゆらぎを排除して固定化するだけだから、普通にしてたら別に何も起こらないわ。強いて言えば魔法を使いやすくなるかしらね」
「おお、見事に何言ってるかわかんない。管轄外っぽいです。えっと、何のためにこれを?」
「簡単に言うとこの中では存在感の均一化が行われる訳よ。影の薄ーい奴とか、逆に存在感が強すぎる奴とか、そういう概念がなくなる」
「・・・ああ!なるほど!うまくいくといいですねえ」
「ありがとう。突然の微笑ましい物を見る目に思わず殺意が沸いたから、金を受け取ったら咲夜に土産でも貰って速やかに帰ることね」
「はーい」
***
「やっと見つけたぞ!」
「私だよー・・・って、私より先に私を見つけないでくれる?」
「理不尽な物言いはよせ」
「貴様、私を探し回ってはそのついでに暴れて目立ちまくってるそうだな。道すがら私が文句を言われたぞ」
「誤解すぎるでしょ。確かに貴方がいないかなーってフラフラはしてたけど、皆勝手に何かを察して私に暴れさせてくれただけだよ?話が早すぎてちょっと気持ち悪かった」
「理不尽な物言いはよせ」
「それで、私を探してくれてたの?」
「その通りだ。探しながら考えてて思ったんだけど」
「何?」
「無意識を操るって何?無意識って操ろうとしたらそれは無意識なの?」
「それを深く考えるといままで出来てたことが出来なくなりそうだからやめて」
「はい」
「よろしい」
「で、私に何の用だったの」
「べぇっつに何にも用事とかあるわけないでしょ?私を誰だと思ってるの古明地こいしだよ?」
「こいつはほんとに」
「ごめんね、あきれた?」
「あきれた時の仮面はこれ」
「うわあすごいあきれてるっぽい」
「お前にはいつもあきれてるよ」
「お詫びに私と良いことしよっか」
「良いことって?」
「ほらー、勝った方が最強になれるやつだよ」
「やっぱりいつもと同じじゃないか!また泣かしてやるぞ古明地こいし!」
「あははっ、また『ぬわー』とか言って悔しがらせてあげるよ、こころちゃん!」
***
「お邪魔します」
「はい今晩は」
「大したことではないのですが、好きそうなお香を見つけたのでプレゼントに来ましたよ」
「あら、素敵ね。点けてみてくれる?」
「はい」
「進捗はどんな感じですか?」
「大体終わったわね。今ちょうど片付けも済んで暇になるってところだったかな」
「ちょうどいいタイミングでしたね」
「そんなこと言って、いつも図ったみたいな時に来るじゃない」
「そうですかねえ。庭で採れたミニトマト食べます?」
「食べます。なんなのかしら。ここの住人は私に、とりあえず何か食べさせておけば機嫌は保てるとか思ってる節ない?」
「皆がどう思ってるかは判りませんが、私は妹様が何かを食べてるところが愛らしくて好きなのでつい色々持ってきてしまいますね」
「ああそう。嬉しいわ」
「恐縮です」
「これから暫く暇になるのかしらね」
「さあ、こいしさんはいらっしゃらないんですか?」
「暫く来るなって言ったって、暫くの尺度がわからないから。今すぐにでも来るかもしれないし、もう来ないかもしれないわね」
「妹様はそれで?」
「別にどっちでも。来るなら構うし、来ないならそれまでよ」
「ははあ」
「ねえ美鈴」
「なんでしょう」
「このお香いいね。気に入った」
***
「私だよー」
「おかえり」
「うんただいま」
「なんだかいつもより汚れが目立つわね」
「そうかも」
「どれくらい帰ってなかったの?」
「2か月くらいかな」
「もう。一緒にお風呂入る?」
「入る入る」
「ちょっと待ってね、これ読んでからでいいかしら」
「いいよ」
「最近どうしてたの?」
「別に、いつも通りだよ」
「いつも通りなら、私が聞かなくてもあったことを一から十まで喋るじゃない」
「それはお姉ちゃんが本を読んでるのを邪魔しないためだよ」
「ありえないわ」
「どうして?」
「こいしはいつも私が本を読んでるかどうかなんて気にしないもの」
「私は古明地こいしじゃないの?」
「いいえ貴女は古明地こいしよ」
「そうよ私は古明地こいし」
「まあねえ。ちょっと何かあったのかしらと、心配になったりするのよ私も」
「ええー。お姉ちゃんは最近私じゃなくてレミリアさんにばっかり構ってるじゃない」
「そういうこいしは最近フランさんに全然構わないわよね」
「だって暫く来るなって言われたんだもの」
「じゃあもう明日行けばいいんじゃない?暫くって多分五分くらいだと私は思うわ」
「えー?私は暫くって、ずっとだと思ってた」
「こいしはあの姉妹のこと、全然わかってないのね」
「どういう意味?」
「もう来るなと思うほど失望させたら、その場で吸いつくされてこの世から居なくなる。私たちはそういう人達と友達なんだと思わない?」
「はっ。レミリアさんを良く知ってるからって、フランちゃんの事も知ったような口を利くのはつまらないね」
「そうかしら」
「あの姉妹と言うなら・・・あの姉妹だって、この姉妹のことは全然わかってないと思わない?」
「それはまったくその通り」
「はあ。もうわかった。お風呂行こうよお姉ちゃん。本なんていいからさ。それ私より大事なの?」
「すごい大事よ」
「うわームカつく!」
***
***
***
「私だよー」
「はい今晩は」
会話文だけで書けるのはすごいなあと思いました。
わりと長期間にわたってフランが努力を積み重ねてて新鮮でした