Coolier - 新生・東方創想話

紫の「気まぐれ」で

2019/07/19 13:18:33
最終更新
サイズ
19.5KB
ページ数
1
閲覧数
2400
評価数
14/20
POINT
1590
Rate
15.38

分類タグ

 朝。総領娘様に呼ばれていたのを起きてから思い出したので、輝針城へと向かう最中。ふわふわと飛んでいる時にすれ違ったのは妖怪の賢者、八雲紫でした。
 そもそもあまり見かけないと言う時点で怪しいものですが、あの神出鬼没のスキマを使わずに飛ぶ姿はどうにもニヤニヤしているようでした。
 ひゅっと隣を通り過ぎたあとは八雲紫はいませんでした。スキマを使ってどこかに行ったのでしょう。しかし、輝針城の方向から飛んできたのは気になります。とても嫌な予感しかしないのは何故でしょうか。
 少し駆け足のように早めに飛んで着いた時には遅かった様です。

「きゃぁぁぁぁぁあ!?!?」

 総領娘様のいつもより高い悲鳴が輝針城に響き渡りました。

 ***

「……総領娘様、でいいんでしょうか?」
「そうよ……」
 少し乱れた布団にいるのは約三尺(約90cm)の子供。寝間着がぶかぶかで座った状態に、その身丈に合わぬ髪の長さ。服と一緒に四方八方に青い髪は散乱している。立てば床につきそうだ。恥ずかしさからか掛け布団を被っている。
「天子、大丈夫……?」
 その隣にいるのが少名針妙丸。小人族とは言えども身長は一寸(約3cm)ではなく一尺五寸(約45cm)である。

 総領娘様は掛け布団から顔を出して答えている。
「え、ええ……大丈夫だけれども……なんで私、小さくなっているのかしら!?」
 渾身の叫び声。子供の声になっているらしくいつもより少しだけ声が高い。
「私よりは高いじゃない。良いなー」
「針妙丸が言ったらみんな高くなるからね? 私の元々の身長の時で膝くらいじゃない……」
 とほほ、とため息をつく総領娘様。
「私がここに着いた時には悲鳴を上げていましたけれど、起きたら小さくなっていたのですか?」
「ええ、そうよ。気がついたらこうなっていたの。何もした覚えがないから流石に困るわ……」
 ううん、とこれからのことで悩む。けれども今悩んでいても仕方が無いので私は提案をする。
「とりあえず着替えましょう? それで朝ごはんを食べれば少しは考えられるでしょう」
「そうね……って言っても私、服ないんだけれど。針妙丸の服は小さいし、自分の服も着れないし」
 どうしよう、と頭を悩ませた所で、総領娘様の目の前にちょうど大きさが合いそうな洋服がポス、と落ちてきた。
「……これは針妙丸が?」
 総領娘様が困ったような顔をしながら聞いている。
「違うよ天子!? 服は作れるけれど今の天子ぐらいの大きさの服は作ったことないもの。それとその服……スキマから落ちてきたよ?」
「あー……」
 布団の中で頭を抱えた総領娘様。
「背に腹は変えられないか。着るか……着替えるから部屋から出ていってちょうだいな」
 私と針妙丸さんは部屋からポイと追い出された。

「今日は私が朝ごはんを作りましょうか」
「お、衣玖さんの朝ごはんは久しぶりだねー」
 呑気に答えていた針妙丸だった。

 ***

 トントンと針妙丸さんと朝ごはんを作る。本当は総領娘様が作る予定だったらしいが、子供のような身長の今は無理だろう。私は料理を最近出来ていなかったので作るのがとても楽しい。
「衣玖さん、大根切ったよー」
 綺麗に切られた大根はまな板の上に並んでいる。針妙丸さんは輝針剣で器用にスパスパと材料を切っていく。私はそれを煮込んだりすれば良いのです。
 ご飯も炊き終わり、お味噌も味噌を入れるだけになった時に総領娘様は髪を引きずって居間にやってきた。
「……紫のやつ……はっ倒す……」
 顔を見るととても恥ずかしそうに顔を赤らめている。その原因となっている服は青色のワンピースタイプの服。そして前にフリルの白のエプロンをかけていて、後ろは大きなリボンになっている。いわゆるメイド服だ。しかし、なぜそんなにぴったりなのでしょう。
 ……さっきすれ違った八雲紫の笑顔が何故か思い出されて私はぶるると震えた。これは考えなかったことにしよう。

「わあーっ、天子可愛いよ!」
 素直なのか、どうなのか分からない針妙丸さんの発言。総領娘様が怒らないことを祈ろう。
「……ありがと。恥ずかしいけれど紫のやつをはっ倒せば気は楽になるからそれでいいか」
 おや? 意外と怒らなかった。最後の方は独り言の様でしたが……
 そんなことを思いながら私は料理の最後の仕上げをしてしまい、ご飯とお味噌を机に配膳する。あれ。一つ多かったかな。
「ほら総領娘様、針妙丸さん座ってくださいな」
「ありがとう衣玖さん」
「ありがと」
 二人はそれぞれにお礼を言って席に座った。
「そう言えば紫苑さんはどうしました?」
 ここに来てから姿を見ていない。どこかにいるものだと思っていたのですが。
「あー、命蓮寺に行くって言ってた。女苑に会いに行くって言ってたよ」
 なるほど。紫苑さんはいつもご飯を作るとそわそわしながら食卓につくのでいない方が気になってしまった。後から一人分はお鍋に戻しておきましょうか。あ、総領娘様の髪の毛を結ばなければ。
「総領娘様、髪の毛は長すぎるので編み込みにしましょうか。怪我はしないとは言えどもまとめた方が良いでしょう?」
「あ……うん。お願いするわね」
 普段なら大丈夫と言いそうな所でも素直に頷いている。小さくなったせいなのだろうか。
 私は立ち上がり後ろに回る。さらさらとした髪の毛はとても綺麗です。
「ふふ、失礼しますよ」
 横の髪の毛を少し多めに残し、後ろはポニーテールにして。それを紐で結んだら、横の髪の毛を編み込む。髪の毛の先をポニーテールの結んだ紐に入れる。編み込んだ髪の毛を少し崩せば完成。
「ほら、完成しました。これなら良いでしょう」
「ありがと、衣玖」
 にこにこと笑う総領娘様がとても可愛い。
「ねー、二人とも朝ごはんを食べよー」
 おっと、針妙丸さんを待たせていましたね。私は席に戻り、三人でいただきます、と食べ始めた。

 ***

「ところで改めてなんで私の体が小さくなっているのか聞きたいんだけど」
 食べている最中に総領娘様が話す。確かに小さくなった原因は気になります。
「私はわかりませんよ? ここに来たら総領娘様が小さくなっているのを見たのですから」
 八雲紫とすれ違ったことは言うべきなのだろうか。
「まあそうよね。針妙丸は何か心当たりがあるかしら?」
 総領娘様は納得して針妙丸さんに話を降っている。
「んあー……そう言えば」
 少し考えるような素振りを見せている。
「そう言えば?」
「昨日の夜に紫さんに脅されて天子の料理に言われたとおりの粉かけた」
 ……百発百中その粉では無いのか。隣に座る総領娘様の顔を見ると表情筋が死んでいた。
「針妙丸?」
 呼びかけると同時に笑顔になって怒気を発する総領娘様。
「いや、だって! 天子の可愛いところ見れるってそう言っていたから!」
 手をバタバタと振って自分が悪くないかのように仕草をしている。
 ゴゴゴと総領娘様は箸を机に置いて、針妙丸さんに徐々に近づいていく。両手をグーにして針妙丸さんのこめかみをグリグリとしている。
「イテテテテテ!?!?」
 痛みに顔を歪める針妙丸さん。
「それとこれとは話が別でしょうに! まったく、紫をとっちめないと気が収まらないわ」
 グリグリグリ。さらに力を強くしているらしい。
「天子!? 痛い! 痛いってば!」
「あーあー聞こえなーい。謝ってくれたら止めるのになぁー」
 白々しい言い方で私も少し苦笑いをしてしまう。
「ごめんなさい、紫さんに言われて薬を盛りました!」
 謝罪を聞いてパッと手を離した総領娘様。ヒーヒーと痛そうに畳にて悶える針妙丸さん。
「分かったわよ。許すわよ……朝ごはん食べてから紫の所に行ってくるわね。二人はどうするの?」
「私は城にいるよ……イテテ」
 頭を擦りながら答えている。
「衣玖は?」
「呼ばれていましたけれども用事も出来そうになさそうなので、一度天界に帰りますね。また何かあるのでしたら呼んでください」
 今更ながら呼ばれていた用事を知らなかったけれども、今の小さいままだと無理そうだと思ったので天界に帰ることにする。
「分かったわ。あ、それと何か羽織るもの貸してくれないかしら……このままじゃ恥ずかしすぎて外に出られないわ」
 今の服装を思い出したかのようにぽっと赤くなる総領娘様。
「うぅ、まだ痛い……羽織るものなら私が縫う前の布とかあるからそれを羽織って、前を止めたらその場しのぎくらいにはなるんじゃないかな……」
 針妙丸さんはよく服を作っているのを見るのでその手のものは持っているのでしょう。
「どこにあるの?」
「朝ごはん食べたら取ってくるよ」
「ありがとう。それとこれからは誰に言われたとしても薬は盛らないでね? 次したら弾幕で問答無用でぶっ飛ばすから」
「ハイ……スミマセンデシタ……」
 ニコニコと針妙丸さんを脅している。仕掛けた方(唆された方)はカタカタと震えている。
「二人ともとりあえず食べてしまいましょう?」
 キリがなさそうだったので私はそう言った。

 ***

 食べ終わった後に私が洗い物をしている途中に、総領娘様は針妙丸さんから羽織りをもらってせかせかと出ていってしまった。何か独り言のように「戻してもらわないと……」と言っていたような気がする。

「衣玖さん、洗い物手伝おうか?」
「あら、お願いします。洗い終わったものを吹くので片付けて下さいな」
「色々ありがとうございます。それと朝ごはん美味しかったですよ」
「それなら良かったです」

 ~*~*~

 ああもう、紫のやつ!何かしたいなら私に言いなさいよ!
 そんなことを思いつつ羽織りがずり落ちないように持って輝針城を出る。タッ、と空を飛ぼうとすると私の体はゆっくりと重力によって落ちていく。
「うわっ!?」
 ガクンと体勢が崩れたと思ったら私はいつの間にか天から落ちていた。
 体が小さくなったから空を飛べなくなっている?
「ちょっと、待っ、きゃああああ!?」
 飛ぼうと思っても体が言うことを聞かない。髪の毛が、服がバサバサと暴れている。
「あっ!」
 バサッと一際大きな音がしたと思ったら針妙丸から借りた羽織りが飛んでいってしまった。
 私は怖くなって目を瞑った。暗い中で地面にぶつかってしまうのかと想像してしまった。

──紫に文句を言ってやらないと気がすまない!

「とーまーれー!!!」
 思い切って目を開けて叫ぶ。緑の地面か近い。ぶつかりそうになった時に何か黄色いものが見えた気がした。
 その黄色いものは落ちてきている私を捕まえた。それにぶつかった時にベチンと大きな音がしたが。

「うおっ! おい、大丈夫か天子?」

 その腕の中で声をかけられる。この声は……

「藍? 助かった……」

 助けてくれたのは八雲藍だった。紫の九尾の式である。
「紫様に言われて来てみれば、まさに落ちている真っ最中で驚いたよ。しかし怪我がなくて良かった」
「ありがとう。助けてくれなかったら今頃地面と激突してたわ。そんな無様な姿見せられないわね」
 もぞり、と私はゆっくりと藍の腕から出る。受け止めてくれたとはいえ、衝撃が大きすぎて少しフラフラする。
「はわ……」
「おいおい、本当に大丈夫か? 少し座って休んだ方がいい……ん?」
 私が草の上で寝転んだときに、藍は服から札を出して頭に当てていた。
「はい……はい……は? 何を言っているんですか紫様。そんなこと知りませんよ。そもそもスキマで見ているんでしょう。私に行けと仰ったのは紫様ではありませんか。それで嫉妬されても知りませんって。腹いせに天子を送れ、ですか。自分で迎えに行けばいいものを……分かりました、失礼します」
 何かを話していると思ったら札が燃えて無くなった。頭を抱えるようにため息をついている藍。
「今のは一体?」
「通信用の式だよ。簡単に言えば遠くでも話せるものだな。紫様が持たせてくれるんだが……今回は私欲で使ったか……嫉妬されても困るんだがな……」
 遠くでも話せるものらしい。そして藍はさらに頭を抱えている。
「そうそう、紫の所に行きたいんだけれど連れて行ってくれない?」
 私はガバッと起き上がる。
「紫様が連れてこいと仰っていたのでちょうどいい。それと小さくなって驚いたろう? まったくあの人はいつも唐突なんだから……」
「流石に一発殴ってやらないと気がすまないから、殴りに行く」
「ははは、殴ってやれ。紫様はそのぐらいしないと治まらないだろうしな。それじゃあ着いてきてくれよ」
 私は藍の後ろを着いて行った。

 ***

「はーっ……はーっ……やっとついた……」
 通された和室でぐったりと寝転ぶ。私の体が小さいせいで紫の所に着いたときはすでにお昼になっていた。飛べないのが致命的で通れない所が沢山あったので藍におんぶをしてもらって飛んだり、歩いている時にツタが足に引っかかって転んだり。天人なので怪我はしないけれども体力的にものすごくきつい。
 はあはあと板の天井を見ていると襖の開く音がした。
「天子、こんにちは。お水はいるかしら?」
 声につられて開いた襖の方に目線を向けると、湯のみを持った紫が立っていた。
「……いる」
 寝転んだまま答える。疲れて起き上がるのがきついのだ。紫は私とは反対の机の前に座った。
「飲むなら起きなさいな」
「紫のせいで疲れてるのに何言ってんの……というかなんでわざわざ針妙丸に薬を盛らせたのよ」
「言うだけ野暮ってものでしょう?」
 どんな返事だそれは。紫の顔を見るために起き上がる。
 クスリ、と意地悪そうな顔で笑っていた。そうやって笑うだけでも絵になるのは釈だけど。
「はい、お水」
「……ありがと」
 お礼を言って水を貰う。口をつけたら思った以上に喉が渇いていたらしく、一気に飲み干してしまう。
「ぷは」
 紫はこちらを見ているだけで何も言わない。殴りに来たはずなのに目的が達成していない。小さくした理由も何も言わないので近くに行ってみよう。
「紫? 隣に行っていい?」
「いいわよ」
 持っていた湯のみを机に置いて、私は移動する。
 紫の隣に行くと自分が小さくなったのがわかる。いつもなら頭一つ分くらいを見上げるのに今はそれ以上を見上げないといけない。私が子どもの大きさだからか、紫がいつもより大きく見える。
「ちっちゃいわね」
「誰が小さくしたと思ってるのよ。一体誰が!」
 紫が他人事のように言うものだから、少し怒ってしまう。
「ふふ、私だったわね」
 いつもよりニコニコしている紫。笑うことはとても良い事だとは思うけれども紫が笑っていると時々悪寒のようなものがする。その悪寒がしたあとは紫から何かをされるというのが私の中の定説だけれども。
「ねえ、ゆか──むぐっ!?」
 柔らかい。何をされているのか分からなくてパニックになってバタバタと暴れる。
「暴れないの。少しだけこうさせて欲しいわ」
 頭を撫でられた。とりあえず紫に抱き締められているのだけは分かったので暴れるのをやめた。
「何よ急に……」
「小さくなった天子を抱き締めたかったのよ」
「ふうん……」
 それっきり静かになった。
 抱き締められて、あたたかい。時々紫は私の事を抱き締める。慣れたような、小っ恥ずかしいような、安心する紫の腕の中で私の意識はゆっくりと闇に沈んでいった。

 ~*~*~

 腕の中からスースーと寝息が聞こえてきた。天子はいつの間にか寝てしまったよう。
「あらあら……」
 ふふ、こうして見ると寝顔は可愛いこと。全部が可愛いけれども。腕の中から私の膝に天子の頭を移動させる。
 スキマから薄めの布団を出してかける。まだまだ起きそうにない。
 天子は小さくした理由を知りたがるが、私の気まぐれと言ったら怒るだろうか。細かく説明しろ、と言いそうね。そんなことを頭を撫でながら考える。
 天子の髪は結われている。覗いている時に天子の髪を結ぶ衣玖に嫉妬したものだ。紐をスルリと外す。小さな独占欲が私をそうさせた。編み込みだったので跡がついているので櫛を出してゆっくりとすかす。サラサラとした天子の髪は美しい。また結ってあげようかしら。

「紫様ーお昼ご飯が出来ましたけれど……む」
 スッと襖が開けられてエプロンを着けた藍が入ってきた。天子が寝ていることに気がついて声が少し小さくなる。
「ありがとうね藍。でも天子は寝ちゃったのよ。だからもう少し後でもいいかしら?」
「ええ、大丈夫ですよ。二人でいるのでしたら私は少し橙の所に行ってきても良いですか?」
「良いわよ。いってらっしゃいな」
 藍は失礼しました、とペコりと礼をしてから和室から出ていった。

 さて、天子が起きるまで私は寝顔を堪能しましょう……

 ~*~*~

 ふぁ……目が覚める。いつの間にか寝てしまっていたようだ。
「おはよう、天子」
 目を開けたと同時に紫の顔が見えたものだから驚く。
「お、おはよう……」
 あれ。今、枕にしているものはなんだろうか。紫が反対に見えて、紫を寝転んで見上げている……
「どうしたの? そんなに固まって」
 これ、紫の膝枕か!それに気がついた途端に太ももの感覚が頭からダイレクトに伝わる。程よい柔らかさで、良い意味でなんとも言えない。上を向けば紫が笑っていて。大切な人が私を見て笑っているなんて、何も言えない。
「い、いや、何でもない……」
 破壊力がありすぎる。

「そう言えば藍がお昼ご飯を作ったって言っていたけれど食べるかしら?」
「あー、食べるけれども。言いたいこと言ってもいいかな……」
 紫の美しさに言い忘れそうになるが、小さくした理由はもう教えてくれないだろうから聞かない。しかし、仕返しをしなければ気がすまない。
「なにかしら?」
 名残惜しいと思いながらも私は起き上がる。

「なんで小さくしたかはこの際聞かない。だけど一発殴らせてくれない?」

「嫌よ」

 ヒュッと紫に向けて拳を繰り出したが拒否の言葉と共に避けられた。
「チッ! 避けないでよ!」
「痛いと分かっているのに避けない人はいないでしょうよ」
 それもそうか。次の一撃を入れようとしたら紫はスキマを使って私の前から消える。勢い余ってつんのめって咄嗟に前周り受け身。どこにいる!と周りを見るとここにはいない。

「庭にいるわよー」

 外から声が聞こえて私は縁側に出る。紫はスキマの上に座っていた。藍と妖夢が頑張って作った庭。白玉楼のような大きさは無いが枯山水の様式でとても立派で綺麗なのだ。
 要石を投げてやろうと思った。体が小さいからか、最大の大きさを出そうとすると子どもの拳大の大きさしか出せない。これでもぶつかれば痛いか。
「飛べないから要石ぶつけていい?」
 ニコニコとそう言いながら庭の上をふよふよ浮いている紫に向かって思いっきり要石をぶん投げた。案の定、要石はスキマに吸い込まれていった。
「危ない危ない」
 チィッ!当たれよ!
「ねえ、紫、当たって?」
 次の要石を用意しながら私は言う。
「痛いのは嫌だわ。天子はもう少し優しく出来ないのかしら?」

「紫が私を小さくしなかったらそもそも要石を投げてないわ!」

「……それもそうね。天子が要石を私に当てたら謝るわ」
 ニヤリと笑いながら紫は言う。
「本当? 嘘じゃないわよね?」
「嘘じゃないわよ。天子が嘘をつかれるのが嫌いって知っているでしょ? 嘘をついてしまったなら私のこと好きにしていいわよ」
 ……ごくり、と私は言葉を飲み込んだ。
「よし、私は庭の中を逃げ回るからね。当たったら言うわ」
「今は小さいけれど本気で投げるわよ?」
「大丈夫よ、逃げ切るから」
 パチッと自信満々にウィンクをして紫はスキマを使って逃げ始めた。

 一つ、二つ、三つ……全力で投げまくる。スキマに入ったり、庭に着弾したり。あーー!当たれ!!!
「当たれ! 当たれぇ!」
 キーッ!ちょこまかと!必死に投げる。紫はスキマを展開して要石を避けるのが面倒になったのか自分だけひょいひょいと避けている。
 ガシャン、ベキンなど庭から嫌な音が聞こえるが気にしないことにする。
「ほらほら、こんなものかしら?」
 扇をヒラヒラと私に向けてくる。ああキレそう。いや既にキレてたか。
「煽って! 来るんじゃ! ないわよ!」
 ゼーゼー……もう投げられない。また疲れた。縁側に座り込む。
「あら、もう終わり? それじゃあ私が好きにするば──」

 トントンと縁側を歩いてくる音がした。

「紫様、ただいま帰りま────………………はっ?」

 藍が私の隣に立って固まっている。その隣の橙も軽く固まった。私もそれにつられてもう一度庭を見ると悲惨のなんのその。川の模様は私が投げた要石により全てめちゃくちゃになり、小さな木は折れに折れている。大きな木は折れてはいないが、要石が刺さっていた。庭の全ての景観が崩れ去っていた。

「なっ…………紫様!!! これはどういうことですか!!! 妖夢と作った庭をめちゃくちゃにして!!!」

「あー、天子と遊んでいたら気が付かなかったわ」

「限度というものがあるでしょう!?!?」

 藍がキレた。妖夢と頑張って作っていたのを知っているので何も言えない。

「藍、ごめんなさ──」
「よし、天子逃げるわよ!」
「うわっ!?」
 私の足元にスキマを作って落とし、抱えて逃げようとする紫。
「ちょっと! 藍に謝りなさいよ! あの子半泣きだったじゃない!」
 キレながら藍は泣きかけていた。主人の式とはいえども感情はあるわけで。頑張って作ったものが壊されるのは誰しも嫌だもの。

「藍様! 妖夢呼んできます!」
「……任せた橙。紫様! 許しません!」

 紫は私を抱えてスキマに入ったが、藍は閉じたはずのスキマをこじ開けて入ってきた。
「あっ! 藍、あなた緊急用のスキマを使ったわね!?」
「逃げるからですよ! それに何より通信用の式も紫様、私欲で使ったでしょう! おあいこです!!!」
「ムガッ!?」
 道士服の首根っこを掴まれて苦しそうな紫。馬鹿力のように縁側に投げられた。
「痛っ!」「あたっ!」

「紫様……お覚悟……!」

 そこから私たち二人は藍の前で正座をしてガミガミ怒られた。

 ***

 私と紫は庭の要石を退けていた。
 あの後、妖夢が来るまで怒られていた。そもそもめちゃくちゃにしたのは私たちなので怒られるのも当たり前か。流石に紫も謝っていたが。

 そうしてこの庭を見た妖夢の一言。
「なんですこれは……」
 呆然と庭を見ていた。
「あらあら……これはひどいわねえ」
 そうしておまけに幽々子も来ていた。

「紫様、天子。庭の要石を退けてくださいね?」
 そう言われて私たちは退かす作業をし始めたのである。縁側にて橙、藍、妖夢、幽々子はお茶を飲みながらこちらを監視している。
「はぁ、なんでこうなったのかしら……」
 紫がボヤきながら山積みになった石をスキマに入れていく。
「……ほぼ紫の自業自得とも言えるんじゃないかしら。私も悪いけれどもね」
 小さくされなかったら要石を投げていないはずだから。そもそも元に戻ろうとしてここに来たのに結局何をしに来ているんだろう。今更ながらそんなことを思った。
 私は拾った石を置いていく。投げまくったことが分かる。元に戻ってから何か藍にしてあげようかな。お詫びも兼ねてそうしたい。
「天子」
「なに紫」
「小さいあなたも可愛いわよ」
「……いきなり何よ?」
 今日の紫はとことん分からない。恐らく私を小さくしたのは気まぐれだろうけれども、一体何をしたかったんだろうか。
 結局仕返し出来なかったな。そんなことをぼんやりと思った。

 ***

 掃除が終わった後。
「天子、泊まっていくかしら?」
 紫はそう聞いてくる。
「ん、泊まる。仕返し出来なかったから罰として紫の隣で寝たい」
「……違う意味の?」
 なんでそれを聞くの!
「普通に隣で寝るの!あとそれ以上言ったらロリコンって軽蔑するからね?」
「それは嫌ね。天子を抱きしめられないのは嫌よ」
「そう言う意味じゃないからね?」
 そうして私は紫と一緒に寝た。

 朝起きると……
「きゃあああああああ!?」
 元の大きさに戻っていた。しかも服が破れていた。
「なに……どうしたの天子……」
「こっちを見るなぁ!」
 枕をぶん投げた。紫にスコーンと当たる。
「おっふ!? あー戻ったのね……はい服」
 スキマから私の服が落ちてきた。
「なんでそんなに落ち着いているのよ!」
「一日で戻るのを知っていたからよ。やっぱり天子は元の方が良いわね」
「ほんと、なんなのよぉ!」
ゆかてん可愛い。

(7/23追記)
誤字の指摘ありがとうございます。それとお話を追加しました。
ヘンプ
[email protected]
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.260簡易評価
1.100すずかげ門削除
すごく面白かったです。このゆかてんいい。ゆかてんも良いけど、紫の言葉にコロッと騙される針妙丸もかわいいし、苦労人の藍様もいいキャラだし、皆魅力的に描かれていて楽しく読めました。
2.90奇声を発する程度の能力削除
面白く良いゆかてんでした
4.90名前が無い程度の能力削除
やはりゆかてんは素晴らしい…。
6.80大豆まめ削除
ゆかてん!
ちっさい天子可愛い!ほっぺたつつきたい!

> 総統娘様
(総"領"娘様ですよ…)コソッ

8.100モブ削除
これ多分一番の被害者は妖夢なのでは。いいゆかてんでした。面白かったです。
9.100上条怜祇削除
ちっちゃくなるのは最高。その薬が欲しくなりました
10.80名前が無い程度の能力削除
「藍と妖夢が頑張って作った庭。白玉楼のような大きさは無いが枯山水の様式でとても立派で綺麗なのだ」 あ^~ ここすき
11.90名前が無い程度の能力削除
小さくなるシリーズよろしくお願いしまーす
かわいい
12.100スベスベマンジュウガニ削除
これはいいゆかてん。ほんと好き。
13.100南条削除
とても面白かったです
これぞドタバタコメディといった趣で毎シーン楽しめました
紫はもっと反省すべき
15.100封筒おとした削除
ほんわか
17.100終身削除
トントン拍子で進んでいくゆるかわいい事件に癒されました 紫が究極的にめんどくさくてそれに振り回される天子も感情豊かでみんな個性が出てて良かったと思います 紫様は反省して…
18.100名前が無い程度の能力削除
よかったです
20.100名前が無い程度の能力削除
これは良いゆかてん。とても可愛らしく、ほのぼのとしてて〈若干殺伐とした瞬間もありましたが……〉とても良い作品でした。面白かったです。